説明

防護材料及び防護衣服

【課題】本発明は、従来技術の課題を背景になされたもので、高熱・火炎を受けたとき、着用者を保護でき、さらに、着用者の生理的負担を抑制するために、軽量、柔軟で、かつ、染色性、耐久性(耐摩耗性、寸法安定性)に優れ、着用者に優しい防護材料及び防護衣服を提供することにある。
【解決手段】外層材料(a)、ガス状有毒化学物質吸着層(b)の少なくとも2層以上の積層構造物からなる防護材料であって、該外層材料(a)が、難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントとの割合が重量%比で、90:10〜97:3の範囲からなる複合紡績糸を用いて製織した織物を最表層部に配置し、JIS L−1091(1992) A−4法による炭化長が15cm以下であることを特徴とする防護材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化学物質の取り扱い作業者を保護するための防護材料及び防護衣服に関する。詳細には、有機リン系化合物等の如く皮膚から吸収されて人体に悪影響を及ぼすガス状および液状有機化学物質から作業者を有効に防護する防護材料及び防護衣服に関するものであり、特に、特殊紡績糸を用いることによって、着用時の衣服の磨耗によるすれ音を抑制出来る防護材料および防護衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機化学物質の取り扱い作業者を保護する為の防護材料及び防護衣服は、防炎加工を施された綿布または羊毛織物、あるいは、素材自体が難燃性を有するアラミド系繊維、難燃レーヨン繊維(例えば、特許文献1)、難燃ビニロン繊維(例えば、特許文献2)等からなる織物が用いられていた。ところが、綿布または羊毛織物を用いた場合、難燃性には優れているが、特に、難燃性を有するセルロース系繊維100%からなる織物は、繊維が硬化するため、引裂強さが小さく、磨耗性が非常に悪くなり、破れやすい。特に、表面がざらざらして、着用者に不快感を与える。
【0003】
アラミド系繊維(例えば、特許文献3)を代表とする難燃性を有する繊維は、非常に高価な染色加工(練り込みや電子線架橋等)は出来るが、液流染色加工、浸染染色加工及び捺染染色加工が出来ないため、生産性が非常に悪く、最表層部に、混紡、混繊した紡績糸を用いると、見栄えが悪く、着用者に不快感を与える。また、難燃ビニロン繊維等も同様に、湿熱脆化や酸・アルカリ分解を引き起こす可能性が大きいため、他の繊維との混紡、混繊が困難であり、生産性が非常に悪く、洗濯耐久性(寸法安定性)が悪い。
【0004】
綿(コットン)等の短繊維(ステープル)と長繊維(合成繊維マルチフィラメント)からなる複合紡績糸を製造する紡績方法は、電気開繊法などが知られている(例えば、特許文献4)。また、2層構造糸や繊維束と単糸との複合紡績糸等についても知られている(例えば、特許文献5、6)。さらに、アクリレート系繊維を使用した複合紡績糸等についても知られている(例えば、特許文献7、8)。しかし、本発明のように、難燃性を有するセルロース系繊維を使用した複合紡績糸、織物、編物等の布帛について記載がなく、綿(コットン)等の短繊維(ステープル)と長繊維(合成繊維マルチフィラメント)との重量割合に特化した電気開繊糸ではなく、外層材料(a)のざらつき感の風合いを解決していない。さらに、アクリレート系繊維は難燃性を有する繊維であるが、染色性することが出来ない。
【0005】
多孔膜を生地の表面あるいは裏面に形成して液体の化学物質を防御させ、かつ生理負担を抑制する技術が開示されている(特許文献9、10)。しかし、ガス状化学物質を完全に防御することが出来ず、生地の表面に多孔膜を配置しているため、着用時の衣服の摩擦によるすれ音の抑制が出来ない。
【0006】
液体不透過性層とガス通過阻止層から構成された材料が提示されている(特許文献11)。しかし、ガス通過阻止層には、有害ガスを吸収、吸着、無毒化する固体粒子が用いられており、液体及びガス状の化学物質を防御出来る。しかしながら、この構成では液体防御用に多孔質膜が使用されているので、上記の従来例と同様に透湿性あるいは通気性が不十分であり、着用感に問題がある。
【0007】
活性炭布とそれに接着した補強織物からなる防護服のための積層織物が例示されている(特許文献12)。補強織物による高い機械強度と活性炭布によるガス状化学物質の防御を図るものであるが、液状化学物質に対する防御が不十分であり、補強織物と活性炭布を接着しているので、硬くなり、着用時の衣服の摩擦によるすれ音の抑制が出来ない。
【0008】
【特許文献1】特開2003−27383号公報
【特許文献2】特開平2−154084号公報
【特許文献3】特開昭63−196741号公報
【特許文献4】特開昭54−17063号公報
【特許文献5】特開平6−228838号公報
【特許文献6】特開2000−17532号公報
【特許文献7】特開2004−308035号公報
【特許文献8】特開2004−308036号公報
【特許文献9】特開昭60−92777号公報
【特許文献10】特開昭54−96267号公報
【特許文献11】特開平04−255342号公報
【特許文献12】特開平02−190328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、高熱・火炎を受けたとき、着用者を保護でき、さらに、着用者の生理的負担を抑制するために、軽量、柔軟で、かつ、染色性、耐久性(耐摩耗性、寸法安定性)に優れ、着用時の衣服の摩擦によるすれ音の抑制が出来る、着用者に優しい防護材料及び防護衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決すべく鋭意検討の結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.外層材料(a)、ガス状有毒化学物質吸着層(b)の少なくとも2層以上の積層構造物からなる防護材料であって、該外層材料(a)が、難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントとの割合が重量%比で、90:10〜97:3の範囲からなる複合紡績糸を用いて製織した織物を最表層部に配置し、JIS L−1091(1992)A−4法による炭化長が、15cm以下であることを特徴とする防護材料。
2.前記合成繊維マルチフィラメントが、ポリアミド繊維であることを特徴とする上記1記載の防護材料。
3.前記複合紡績糸が電気開繊法により製造されたものであることを特徴とする上記1又は2記載の防護材料。
4.前記外層材料(a)のJIS L−1096(1999) 8.4による質量が、150g/m以上250g/m以下であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の防護材料。
5.前記複合紡績糸のJIS L−1096(1999) 8.8による見掛け番手が、20綿番手以上40綿番手以下であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の防護材料。
6.建染染料、硫化染料により染色されたことを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の防護材料。
7.前記外層材料(a)のATTCC Test Method 118による撥油性が5級以上、JIS L−1092(1998)による撥水性が3級以上であることを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載の防護材料。
8.上記1〜7のいずれかに記載の防護材料によりなることを特徴とする防護衣服。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の防護材料は、外層材料(a)、ガス状有毒化学物質吸着層(b)の少なくとも2層以上の積層構造物からなる防護材料であって、該外層材料(a)が、難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントとの割合が重量%比で、90:10〜97:3の範囲からなる複合紡績糸を用いて製織した織物を最表層部に配置し、JIS L−1091(1992) A−4法による炭化長が、15cm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明に用いられる難燃性を有するセルロース系繊維は、繊維重量に対して、リンが1.0%から3.0%が付与された綿繊維であり、JIS K−7201(1999)による酸素指数値(OI)は窒素と酸素の混合気体中で燃焼させる際に窒素と酸素の混合比を変化させて、燃焼を継続させるために必要な最小の酸素濃度を測定したものである。空気中の酸素濃度は約21%であるので、酸素指数値(OI)が25好ましくは27以上のセルロース系繊維であることが好ましい。また、リンは難燃性能があることが知られており、リン量が1.0%未満は難燃性能が劣り、3.0%を超える場合、風合いが硬化し、引張強さ等の力学物性が低下する恐れがある。
【0013】
セルロース系繊維は、木綿(コットン)、麻、亜麻、パルプ、ケナフ、カポック、バクテリアセルロース繊維等の天然セルロース繊維、ビスコース法レーヨン(ポリノジックを含む)、銅アンモニア法レーヨン、溶剤紡糸法レーヨン等の再生セルロース、及びそれらの改質したもの(例えばカルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース繊維等)等であることが好ましい。
【0014】
さらに、難燃性を有するセルロース系繊維は、リン系難燃性化合物で後加工されたセルロース系繊維や素材自体が難燃性を有するセルロース系繊維を意味する。後加工による防炎加工は、綿(わた)、糸もしくは織物の状態で実施されるが、綿(わた)の状態で防炎加工すると、開繊し難いため、一般的に、生産性、加工性を考慮すると、織物の状態で防炎加工することが好ましい。
【0015】
リン系難燃性化合物とは、無機系のリン酸塩、ポリリン酸塩、ポリリン酸アミド、ポリリン酸カーバメイト、Nリンニトリルクロライド、有機系のリン酸エステル、チオリン酸エステル、ホスファイト型、ホスファート型、ホスフィン型(ホスホニウム型)、ホスフィンオキサイド型、リン酸アミド型、有機化縮合物などがあるが代表的な加工剤として、THPC(Tetrakis Hydroxy Methyl Phosponium Choride)、THPS(Tetrakis Hydroxy Methyl Phosponium Sulfite)、THPOH(Tetrakis Hydroxy Methyl Phosponium Hydroxide)、Dialkyl Phoshon−Carbonic Acid Amid N−Methylol、N−Methylol Dimethyl Phosphonopropionamideがあり、反応時にメチロール基を形成し、セルロース系繊維の水酸基(−OH)と反応して高い洗濯耐久性等を有することが出来る。
【0016】
合成繊維マルチフィラメント(可燃性、易燃性)は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド繊維、ポリエステル繊維等であるが、染色性(ピグメントの発生)の観点からポリエステル繊維、ポリアミド繊維、さらに、難燃性の観点から燃焼時に溶融し難いポリアミド繊維、磨耗性の観点からポリアミド繊維、ポリエステル繊維が好ましい。
【0017】
難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントとの割合が重量比は、90〜97:10〜3であり、合成繊維マルチフィラメントの割合が10%を超えると、合成繊維フィラメントが繊維表面に多く出現するため、優れた染色性、難燃性が得られず、風合いがかたくなる。特に、ポリアミド繊維の割合が10%を超えると、洗濯耐久性(寸法安定性)が悪くなり、摩擦によるすれ音が大きく、着用者は不快である。合成繊維マルチフィラメントの割合が3%未満の場合、織物(糸)の表面に、リン系難燃性加工物が付与され、難燃性を有する硬化したセルロース系繊維が多く出現し、ざらざらして優れた風合いや、磨耗性が非常に悪くなり、引裂強さが小さくなる。
【0018】
セルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントを複合する複合紡績糸は、均一混合、群混合の複合構造からなる複合紡績糸を用いることが出来る。
【0019】
セルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントを複合する均一混合の製造技術は、電気開繊方式が用いられるが、電気開繊法とは、パーンに巻かれたマルチフィラメント糸が高電圧をかけられ、開繊装置により静電気力で開繊され、精紡機のフロントローラ前でドラフトされた短繊維束と重ね合わせて、撚掛けして製造される。本発明の電気開繊法による複合紡績糸は、短繊維束に難燃性を有するセルロース系繊維、マルチフィラメント糸に合成繊維を使用した糸である。難燃性を有するセルロース系繊維は、磨耗性が悪くなることが知られており、複合紡績糸の部分的に最表層部や内層部、開繊した合成繊維マルチフィラメントで難燃性を付与するセルロース系繊維を保護して、磨耗性や風合いを改善した。
【0020】
セルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントを複合する群混合の製造技術は、精紡績交撚法、ラップスピニング法等が用いられるが、例えば、精紡交撚法とは、精紡機に混合する2種の繊維束を合流させて通常のリング紡績と同様に加燃して複合糸を紡出する方法であり、複合紡績糸の最表層部に、合成繊維マルチフィラメントを多く配置しているため、で難燃性を付与するセルロース系繊維を保護して、磨耗性や風合いを改善した。
【0021】
複合紡績糸の太さは、20綿番手以上40綿番手以下で、40綿番手を超えると、引き裂き強さ等の力学物性が低下する恐れがあり、20綿番手未満の場合、優れた風合いが得ることが出来ない。
【0022】
複合紡績糸の撚数(撚係数)は、出来るだけ芯部に燃焼時の炎が伝わらないように、また、難燃剤を後加工処理されたセルロース系繊維は、繊維が硬くなり、風合いがざらざらするため、毛羽を抑制するために、出来るだけ、撚数(撚係数)が大きい強燃糸を用いることが好ましい。詳しくは、撚り係数が3.8以上、より好ましくは、4.0以上、さらに好ましくは、4.5以上である。
【0023】
外層材料(a)とは、上記複合紡績糸で製織した織物を最表層部に配置した一重織物もしくは多重織物であり、質量が150g/m以上250g/m以下、好ましくは170g/m以上200g/m以下である。250g/mを超えると風合いが硬くなり、屈曲磨耗性が低下して、重量負荷があるため、生理負担が増大し、150g/m未満の場合、平面磨耗性、屈曲磨耗性が低下して、優れた難燃性、洗濯耐久性(寸法安定性)を得ることが出来ない。
【0024】
外層材料(a)を多重織物にした場合、最表層部の経糸及び/又は緯糸以外に、JIS K−7201(1999)による酸素指数値(OI)が25以上の難燃性を有する繊維を用いれば、難燃性を損なわないので、配置しても構わないが、着用感が損なわれないように、出来るだけ、短繊維(ステープル)を用いることが好ましいが特に限定されない。
【0025】
外層材料(a)の織組織は、特に限定されるものではなく、平組織、綾組織、朱子組織などが用いられ、エアージェットルーム、レピアルーム、プロジェクタイルルームなど公知の織機を用いて製造することが出来る。
【0026】
外層材料(a)の織密度は、燃焼時、炎が伝わり難く、また、燃焼性を有するセルロース系繊維(特にコットン)は、摩耗性が低下するため、出来るだけ高密度が好ましいが、特に限定されるものではない。
【0027】
外層材料(a)の難燃性能は、JIS L−1091(1992) A−4法、通産省の繊維品安全対策会議(昭和48年)、及び難燃表示技術基準調査(昭和50年)のとおり、炭化長が25cm以上は易燃性、15cmを超え25cm未満は可燃性、15cm以下は難燃性であり、本発明は、炭化長15cm以下の優れた難燃性を有することが出来る。
【0028】
外層材料(a)を製造する工程は、毛焼、糊抜き、精錬、漂白、シルケット、染色、整理(仕上)の工程が好ましく、柔軟性、染色性、磨耗性等を考慮して、液体アンモニア加工が施される。
【0029】
近赤外線領域における迷彩効果を有する迷彩柄は、ライトグリーン、ダークグリーン、ブラウンとブラックであり、特に、近赤外線領域に用いられる染料は、建染染料、硫化染料であり、CI Vat Yellow 2、CI Vat Yellow 48、CI Vat Red 10、CI Vat Red 15、CI Sulphur Black 6、CI Suphur Black 11、CI Vat Black 8、CI Vat Black 19、CI Vat Black 25、CI Vat Green 1、CI Vat Green 9、CI Vat Green 13、CI Vat Blue 14、CI Vat Blue 20、CI Vat Blue 25、CI Vat Blue 66、CI Vat Brown 1、CI Vat Orange 2、CI Vat Orange 9等である。
【0030】
近赤外反射率の設定は、700〜1200nmの範囲で自然界の湿った土、草、乾燥土、日陰の樹葉、日射の樹葉の反射率に合わせて、これら反射率の混成によって迷彩服やテント、その他装備品の形状を崩したり、分断させて自然界に混和させるように調整されるものである。色別では、ブラックが最も低反射率に加工することができ、ブラウン、ダークグリーン、ライトグリーンの順で高い反射率のものに加工することができるものである。なお、近赤外反射率による迷彩柄は4段階に限定するものでなく、さらに多段階にすることにより、更に迷彩性能がよくなる。
【0031】
外層材料(a)を染色する染料は、建染染料、硫化染料、反応性染料、酸性染料等があるが、防炎加工を施すことによって、反応性染料、酸性染料は、変色や耐光堅牢度が悪くなるため、建染染料、硫化染料が用いられ、150g/m未満の場合、近赤外線領域における迷彩効果を有する難燃性織物を得るために、染料の繊維単位重量あたりの含有量を多くする必要があるため、染色堅牢度特性(特に湿潤摩擦染色堅牢度)が悪くなる恐れがある。
【0032】
また、外層材料(a)の用途に応じて、柔軟加工、防水加工、撥水・撥油加工、抗菌・防臭加工、吸水・吸汗加工、抗ピル加工、光反射加工、防汚加工等の機能加工が施すことが可能である。
【0033】
代表的な仕上加工剤は、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリエチレン系樹脂等を挙げることが出来るが、単独使用でも良く、配合して使用することも可能である。このなかでも、耐薬品性等に優れるポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0034】
撥油性、及び撥水性を有するための加工剤は、金属塩撥水剤(たとえば、アルミニウム塩型、クロム塩型、ジルコニウム塩型、チタン塩型等)、反応性撥水剤(たとえば、エステル結合型撥水剤、エーテル結合型撥水剤等)等が挙げられるが、特に限定されないが、撥油性、及び撥水性を向上すると、風合いが硬くなるので、注意が必要である。
【0035】
また、防護衣服の要求される性能として、撥油性及び撥水性は、ATTCC Test Method 118による撥油性が5級以上、JIS L−1092(1998)による撥水性が3級以上であれば、ガス状有機物質から防護が出来る。
【0036】
次に、ガス状有毒化学物質吸着層(b)について説明する。ここでいうガス状有機化学物質とは炭素元素を1つ以上持つ化合物のことである。50以上の比較的大きな分子量をもち、活性炭等のガス吸着性物質が吸着可能なガス状化学物質である。一例を挙げると、農薬、殺虫剤、除草剤に使用される有機リン系化合物や塗装作業などに使用されるトルエン、塩化メチレン、クロロホルムなどの一般的な有機溶剤があげられる。
【0037】
本発明に使用するガス吸着性物質としては、活性炭やカーボンブラックなどの炭素系吸着材、あるいは、シリカゲル、ゼオライト系吸着材、炭化ケイ素、活性アルミナなどの無機系吸着材から対象とする被吸着物質に応じ適宜選定することが出来る。その中でも広範囲なガスに対応が出来る活性炭は好ましく、特に吸着速度や吸着容量が大きく少量の使用で効果的な透過抑制能が得られることから繊維状活性炭はより好ましい。
【0038】
本発明に使用する活性炭のBET比表面積としては700m/g以上3000m/g以下が好ましく、少量の使用で十分な透過抑制能を得るためには、1000m/g以上2500m/g以下がさらに好ましい。BET比表面積が700m/g未満であると十分な防護性を得るために多くの活性炭が必要となり防護材料が重くなる。一方、3000m/gより大きくなると吸着したガス状有機化学物質を脱離する問題が起こる。
【0039】
活性炭の質量としては5g/m以上200g/m以下が好ましく、さらに好ましくは30g/m以上150g/m以下であることが好ましい。30g/m未満であると、吸着出来る容量が小さくなり使用時間が制限される。一方200g/mより大きくなると防護材料が重くなり生理負担の原因となる。
【0040】
少量の使用で効果的な透過抑制能を得るために繊維状の活性炭を使用する方法は有効な手段であるが、その際、使用する繊維状活性炭の原料としては、綿、麻といった天然セルロース系繊維の他、レーヨン、ポリノジック、溶剤紡糸法によるといった再生セルロース系繊維、さらにはポリビニルアルコール繊維、アクリル系繊維、芳香族ポリアミド繊維、リグニン繊維、フェノール繊維、石油ピッチ繊維等の合成繊維が挙げられるが、得られる繊維状活性炭の物性(強度等)や吸着性能から再生セルロース系繊維、フェノール系繊維、アクリル系繊維が好ましい。これらの原料繊維の短繊維あるいは長繊維を用いて製織、製編、不織布化した布帛を必要に応じて適当な耐炎化剤を含有させた後、450℃以下の温度で耐炎化処理を施し、次いで500℃以上1000℃以下の温度で炭化賦活する公知の方法によって繊維状活性炭を製造することが出来る。
【0041】
繊維状活性炭をシート化する方法としては、シート基材にガス吸着性物質をバインダーにより接着する方法、あるいは吸着剤を適当なパルプおよびバインダーを含めスラリー状とし、湿式抄紙機により抄造する方法、あるいは活性炭素繊維の原料繊維をあらかじめ製織、製編、不織布化し、必要に応じて耐炎化処理したのち炭化・賦活する公知の方法により吸着シートを得ることが出来る。
【0042】
したがって、繊維状活性炭シートの形態としては、織物状、編物状、不織布状、フェルト状、紙状、フィルム状などあげられるが、防護衣着用時の運動作業性、身体へのフィット性、柔軟性、積層の容易性から織物状、編物状であることが好ましい。
【0043】
また、ガス状有毒化学物質吸着層(b)の保護層として、疎水性繊維からなる薄く、粗い密度で製織あるいは製編された布帛が用いられるが、柔軟性の面から、トリコット編地が好ましい。保護層の目的は、ガス状有毒化学物質吸着層(b)を形成する粉末状あるいは粒状活性炭を接着するための基布でること、また繊維状活性炭布帛の機械的強度を補うことにある。また防護衣着用者の発汗が著しく、汗が吸着層を濡らして有毒化学物質に対する吸着性能が低下するのを抑制する効果もあり、必要に応じて、両面に、積層することも可能である。
【実施例】
【0044】
次に、実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。尚、実施例、比較例に記載する評価は以下に示す方法である。
【0045】
番手:JIS L−1096(1999) 8.8 による。
【0046】
質量:JIS L−1096(1999) 8.4 による。
【0047】
混率:JIS L−1030−1(1998)及びJIS L−1030−2(2005)による。
【0048】
密度:JIS L−1096(1999) 8.6による。
【0049】
燃焼性(炭化長):JIS L−1091(1992) A−4法 による。
【0050】
セルロース系繊維(綿)に付与されたリン量(重量%):モリブデン酸アンモニウム法による比色定量分析による。
【0051】
染色性:被験者10名によるイラツキ感の判定 ◎:優 ○:良 △:やや不良 ×:不良
【0052】
風合い:被験者10名によるざらざら感の判定 ◎:優 ○:良 △:やや不良 ×:不良
【0053】
音:被験者10名によるすれ音の判定 ◎:優 ○:良 △:やや不良 ×:不良
【0054】
比表面積:窒素の吸着等温線を求め、これを基にしてBET法により算出する。
【0055】
ガス透過性試験:試験に用いる容器図を図2に示す。内容積150ccの2つのガラスセルで試験品を挟み込み、周囲をパラフィンにより密閉する。この試験容器の上方セルから酢酸3メトキシブチルを20μl、試験品上に滴下する。これを25±2℃に設定した恒温ボックスに入れ、下方セル側のガス濃度を一定時間ごとにサンプリングし、ガスクロマトグラフィにより試験片を透過したガス濃度を測定する。
【0056】
(外層材料(a)の製造例)
ポリアミド繊維であるナイロン66(Type−880;東洋紡績株式会社製)、スーピマ綿(Type−DP;東洋紡績株式会社製)を用いて、表1、表2に示す番手、紡績方法を用いた紡績糸(撚係数=4.55)を得た。ただし、実施例7は、織物の2層目に表糸の1/4の割合で、40/1綿番手(スーピマ綿)を用いて、リング精紡法による紡績糸(撚係数=4.55)を使用して、2重織物を作成した。次いで、常法でエアジェット織機を用いて製織し、2/1綾織物を得た。次いで、常法で、毛焼、糊抜、精錬、漂白、シルケット加工した。次いで、CI Vat Blue 25 5%owf、エレガントールAS 2.0g/l、クレワットN−2 0.5g/l、苛性ソーダ(40° Be)1.6cc/l、グルコース2.0/lb、染色条件28℃で染浴を準備し、染料と助剤を分割投入し、10分後、苛性ソーダ及びハイドロサルファイトを分割投入して5分間攪拌した後、15分間で45℃まで昇温し、さらに5分間で60℃まで昇温させ、この状態で50分間染色した。染色完了後、除冷して水洗した。次いで、過酸化水素、酢酸を併用した常法の酸化処理、ソーピング、湯洗を行い、発色を行った。
【0057】
さらに、染色処理された織物をN−メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミドを有効成分とする(PyrovatexCP new、Ciba Specialty Chemicals K.K.)40%、塩化アンモニウム0.5%を含む水溶液に浸漬し、ウエットピックアップが65%になるように絞り、乾燥・熱処理し、外層材料を得た(比較例3及び比較例4は、本段に示す工程を2回実施した)。
【0058】
さらに、防炎処理された織物を、アサヒガードAG7105(明成化学株式会社製)50g/l、プロミネートB830W2X(ジャパンコンポジット株式会社製)10g/l、メイカテックスHP600(明成化学株式会社製)30g/lを含む水溶液に浸漬し、ウエットピックアップが55%になるように絞り、乾燥(140℃×25秒間)、キュアリング(140℃×60秒間)処理し、撥水・撥油性を有する外層材料を得た。
【0059】
(ガス状有毒化学物質吸着層(b)の製造例)
ガス吸着層として繊維状活性炭織物を以下の方法で作製した。単糸2.2デシテックス20綿番手のノボラック系フェノール樹脂繊維紡績糸からなる質量170g/mの平織物を410℃の不活性雰囲気中で30分間加熱し、次に870℃まで20分間、不活性雰囲気中で加熱し炭化を進行させ、次に水蒸気を12容量%含有する雰囲気中、870℃の温度で2時間賦活した。得られた織物状の繊維状活性炭の質量は、100g/m、比表面積1400m/g、厚さ0.50mm、通気性は水位計1.27cmの圧力差で300cm/cm・sであった(ガス状有機化学物質吸着層(b−1))。
【0060】
一方、28ゲージ2枚筬トリコット機により、フロント筬にポリエステルフィラメント糸(83デシテックス、36フィラメント)を、またバック筬にポリエステルフィラメント(22デシテックス、モノフィラメント)を各々フルセットして、フロント1−2/1−0、バック1−0/2−3の組織で経編地を編成後、定法により精練し、更に分散染料により染色した。このようにして得られた編地は、厚み0.28mm、目付60g/m、通気度40000cc/cm/minであった。
【0061】
さらに、ガス状有機化学物質吸着層(b−1)の両面に、前段編地を積層し、ポリエステル製ミシン糸を使用して、キルティング加工を施し、内層材料(c)を作成した。
【0062】
(防護衣服の作成)
外層材料、内層材料(c)を用いて、ワンピース型の防護衣服を作成した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
実施例は、難燃性、染色性、風合い等に優れている外層材料であるが、比較例は、難燃性、染色性、風合い等をすべて満足する外層材料を有することが出来なかった。さらに、実施例について、ガス透過性試験を実施したが、ガス漏れを有する防護材料はなく、良好な結果を得た。なお、実施例と比較例共に、JIS L−0841(1992)、JIS L−0842(1988)の堅牢度は、いずれも3級以上の良好な性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の防護材料は、外層材料(a)、ガス状有毒化学物質吸着層(b)の少なくとも2層以上の積層構造物からなる防護材料であって、該外層材料が、難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントとの割合が重量%比で、90から97:10から3の範囲であり、電気開繊法で製造されている複合紡績糸を用いて製織した織物を最表層部に配置し、JIS L−1091(1992) A−4法による炭化長が、15cm以下であることを特徴とし、優れた難燃性、染色性、風合い、着用感を得ることが出来る。有機リン系化合物等の如く皮膚から吸収されて人体に悪影響を及ぼすガス状および液状有機化学物質から作業者を有効に防護する防護材料及び防護衣服で利用することができ、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の積層体とした防護材料を示した断面図である。
【図2】ガス透過性試験法に用いる試験容器を示した概略図である。
【符号の説明】
【0068】
1:外層材料(a)
2:ガス状有毒化学物質吸着層(b)
3:上方セル(150cc)
4:サンプリング口
5:試験液
6:試験品
7:パラフィンシーリング
8:下方セル(150cc)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層材料(a)、ガス状有毒化学物質吸着層(b)の少なくとも2層以上の積層構造物からなる防護材料であって、該外層材料(a)が、難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントとの割合が重量%比で、90:10〜97:3の範囲からなる複合紡績糸を用いて製織した織物を最表層部に配置し、JIS L−1091(1992) A−4法による炭化長が、15cm以下であることを特徴とする防護材料。
【請求項2】
前記合成繊維マルチフィラメントが、ポリアミド繊維であることを特徴とする請求項1記載の防護材料。
【請求項3】
前記複合紡績糸が電気開繊法により製造されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の防護材料。
【請求項4】
前記外層材料(a)のJIS L−1096(1999) 8.4による質量が、150g/m以上250g/m以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防護材料。
【請求項5】
前記複合紡績糸のJIS L−1096(1999) 8.8による見掛け番手が、20綿番手以上40綿番手以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の防護材料。
【請求項6】
建染染料、硫化染料により染色されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の防護材料。
【請求項7】
前記外層材料(a)のATTCC Test Method 118による撥油性が5級以上、JIS L−1092(1998)による撥水性が3級以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の防護材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の防護材料によりなることを特徴とする防護衣服。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−30449(P2008−30449A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82272(P2007−82272)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】