説明

防錆フィルムおよび防錆方法

【課題】本発明は、銀や銅、これらの合金を含む材料や製品を密閉し、特に硫黄含有ガスによる腐食や変色から保護するために用いられる防錆フィルムであって、その防錆成分の安全性が高く、且つ防錆成分の効果が優れているので添加量を抑制できることから透明性の高いものを提供することを目的とする。また、本発明は、当該防錆フィルムを用いた防錆方法を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明の防錆フィルムは、活性酸化亜鉛粉末、塩基性炭酸亜鉛粉末、またはこれらの混合物が熱可塑性樹脂中に分散していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料を保護するために用いる防錆フィルム、および当該防錆フィルムを用いた防錆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀や銅およびそれらの合金は、独特の色調や電気特性から装飾品、楽器、電子回路の導電体等の材料自体やメッキ材料として広く使用されている。しかし、これらの金属の欠点は大気中で変色し易いことであり、特に硫黄を含有するガスの存在下で変色や腐食が激しくなる。変色すると装飾品や楽器等ではその商品価値が著しく損なわれ、また電子回路の導電体が腐食すると接触抵抗の増大などにより断線など致命的な欠陥に発展するおそれがある。
【0003】
そこで従来、上記の様な腐食や変色の問題を回避するための技術が種々検討されている。
【0004】
例えば特許文献1〜4には、銀等の防錆方法として、イミダゾール誘導体など特定化合物の溶液を金属表面に塗布した後に溶媒を留去して被膜を形成する技術が記載されている。また、特許文献5と6には、金属層の表面にポリウレタン樹脂や酸化亜鉛等を含むアクリル系樹脂などで塗装を施すことにより変色を抑制する技術が記載されている。
【0005】
しかし、金属表面に樹脂被膜等を形成する技術では、たしかに腐食性ガスに対する遮断効果は良好であるとしても、ハンダ付けなどが困難になり電子部品の搭載ができなくなるといった問題がある。かかる場合には被膜を剥離すればよいが、密着性の高い樹脂被膜は容易に剥がせるものではない。よって、当該技術の適用分野は限定される。
【0006】
一方、金属表面に樹脂被膜等を形成するのではなく、腐食性ガスの吸着成分をシートに添加して当該シートで金属を密封包装することにより腐食や変色を抑制する技術も開発されている。例えば特許文献7には合成ゴムラテックスをバインダーとして不織布に活性炭を付着させた吸着性シートが開示されており、特許文献8には活性炭粉末と硫酸銅等とバインダーを板紙に塗布または含浸させた防食用の板紙が記載されている。
【0007】
ところが特許文献7の吸着性シートは、硫化水素の様な還元性イオウ化合物の吸着性能が不十分であり、銀等の防錆手段として満足できるものではない。
【0008】
また、特許文献8に防錆成分として例示されている硫酸銅等は、含水状態で金属のイオン化が充分に進むため硫化水素ガス等に対して優れた吸収性能を発揮するものの、毒性が強く、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(以下、「化管法」という)により使用や排出が制限されている。また、これら硫酸銅等を含浸または塗布すると、防錆紙や防錆フィルムが酸性になって劣化するばかりでなく、酸性になった防錆紙や防錆フィルムに金属製品や金属部品が直接接触した際には却って腐食劣化が加速される。
【0009】
また、本願発明者らは、特許文献9の通り、キレート剤の複合塩(EDTA−Zn−2Na)を含むものであって硫黄含有ガスに対して捕捉能を有する金属防錆用組成物を開発して特許出願している。当該組成物は樹脂に練り込んでフィルム状に成形し、金属製品等を包装してもよい。
【0010】
しかし、水に溶解した場合に中性を示す当該複合塩を防錆紙に適用すれば良好な効果が得られるが、樹脂からなる防錆フィルムに適用する場合には約12wt%にも及ぶ当該複合塩の結晶水がフィルム成型時の温度で気化することによりフィルムに穴が開いたりして連続成型が不可能となるので、当該複合塩を120℃以上で事前に乾燥して無水物にする必要がある。その結果、製造コストが上ってしまう。また、エチレンジアミン四酢酸の亜鉛塩などは、水溶性亜鉛塩であることから化管法により使用や排出が制限される。
【特許文献1】特公昭60−1314号公報
【特許文献2】特公昭60−29707号公報
【特許文献3】特公昭60−21982号公報
【特許文献4】特公昭60−25504号公報
【特許文献5】特開2002−256454号公報
【特許文献6】特開2006−124819号公報
【特許文献7】特公昭46−210027号公報
【特許文献8】特開昭63−99399号公報
【特許文献9】特開2007−23372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した様に、銀や銅およびこれらの合金など、外観に優れる金属の腐食や変色を抑制するために、防錆成分を含むフィルムで密閉包装する技術は知られていた。しかし従来の防錆成分には、これら金属の腐食や変色の最大の原因である硫黄含有ガスに対する防錆効果が十分でないものがあった。その結果、効果を発揮せしめるには防錆成分をフィルムへ大量に添加せざるを得ないためにフィルムの透明性が低下し、開封しなければ内部の製品を確認することができないといった問題があった。また、硫黄含有ガスに対する吸着効果の高い成分は知られているが、安全性が十分でなく化管法による制限を受けるものであったり、或いは防錆成分としての用途は全く認識されていなかった。
【0012】
そこで本発明が解決すべき課題は、銀や銅、これらの合金を含む材料や製品を密閉し、特に硫黄含有ガスによる腐食や変色から保護するために用いられる防錆フィルムであって、その防錆成分の安全性が高く、且つ防錆成分の効果が優れているので添加量を抑制できることから透明性の高いものを提供することにある。また、本発明は、当該防錆フィルムを用いた防錆方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、特に防錆効果に優れる成分につき鋭意研究を重ねた。その結果、従来、酸化亜鉛が硫黄含有ガスの吸着能を有することが知られていたところ、特定の亜鉛化合物が防錆効果に極めて優れるので、それらを防錆成分とすれば添加量を低減でき、透明性の高い防錆フィルムが得られることを見出して本発明を完成した。
【0014】
本発明の防錆フィルムは、活性酸化亜鉛粉末、塩基性炭酸亜鉛粉末、またはこれらの混合物が熱可塑性樹脂中に分散していることを特徴とする。
【0015】
上記防錆フィルムとしては、フィルム中における活性酸化亜鉛粉末の含有量が0.1質量%以上、2.0質量%以下であるもの;および、塩基性炭酸亜鉛粉末の含有量が0.05質量%以上、5.0質量%以下であるものが好適である。
【0016】
また、本発明の防錆方法は、硫黄含有ガスにより腐食または変色する金属を上記防錆フィルムにより密閉包装することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
銀や銅およびこれらの合金など、硫黄含有ガスにより腐食や変色し易い金属を含む材料や製品であっても、本発明の防錆フィルムにより密閉包装すれば、かかる腐食等を顕著に抑制することができる。また、本発明の防錆フィルムは優れた防錆効果を有するものであるにもかかわらず透明性に優れるので、製品等を密封包装しても内部の確認が可能である。よって本発明は、変色等を抑制しつつ外観に優れた銀製品等の保管が可能であり、且つ開封せずとも内部を確認できるものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の防錆フィルムは、活性酸化亜鉛粉末、塩基性炭酸亜鉛粉末、またはこれらの混合物が熱可塑性樹脂中に分散していることを特徴とする。本発明の防錆フィルムにより銀等を含む材料や製品を密閉包装すれば、特に硫黄含有ガスから金属材料等を保護し、その腐食や変色を抑制することができる。また、本発明の防錆フィルムは透明性が高いことから、密閉包装しても内部の製品等を確認することができる。なお、銀等の腐食や変色の原因となる硫黄含有ガスとしては、硫化水素、硫化アンモニウム、メルカプタン類、SOx等を挙げることができる。これらは大気中にも僅かに存在し、銀等を腐食または変色させる。
【0019】
従来、酸化亜鉛が硫黄含有ガスの吸着能を有することは知られていたが、その作用効果は必ずしも十分ではなく、樹脂フィルム中に分散させて防錆フィルムとして用いる場合には多量に添加する必要があるためにフィルムの透明性を犠牲にせざるを得なかった。それに対して、本発明に係る活性酸化亜鉛粉末等は防錆効果に極めて優れることから、防錆効果を発揮させつつも防錆フィルムへの添加量を低減することができるのでフィルムの透明性を確保することができる。
【0020】
本発明で用いる活性酸化亜鉛は、活性亜鉛華や透明性亜鉛白ともいわれるものであり、特に比表面積が大きいことと、酸化亜鉛と塩基性炭酸亜鉛の混合物からなることから活性が高く、硫黄含有ガスと効率良く反応して吸着固定化することができる。
【0021】
一般的な酸化亜鉛は、主に亜鉛蒸気を高温で空気酸化するフランス法や、亜鉛鉱をコークスで還元して生じる亜鉛蒸気を空気酸化するアメリカ法により製造され、その比表面積は通常1〜5m2/g程度である。それに対して活性酸化亜鉛は、主に塩化亜鉛、硫酸亜鉛または硝酸亜鉛の溶液とアルカリ金属の水酸化物を原料として得られる水酸化亜鉛の沈殿物を乾燥する湿式法や、塩基性炭酸亜鉛を乾燥することにより製造されるものであり、その比表面積は30〜90m2/g程度である。
【0022】
なお、本発明における比表面積は、各粉末や粒子のカタログ値があればそれを参照すればよいが、カタログ値が無い場合には常法により測定すればよい。例えば、ベックマン・コールター社製の比表面積細孔分布測定装置を用い、BET法により測定すればよい。
【0023】
活性酸化亜鉛は市販されているが、その酸化亜鉛含量はおよそ90%であり、一般的な酸化亜鉛市販品の99.5%以上という酸化亜鉛含量に比べて10%近く低い。その理由としては、上述した製法により、酸化亜鉛以外に塩基性炭酸亜鉛、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛などが混入していることが考えられる。例えば、酸化亜鉛が60%であり塩基性炭酸亜鉛が40%とすると、酸化亜鉛含量の計算値は88.7%となる。
【0024】
本発明の活性酸化亜鉛粉末のフィルムにおける含有量としては、0.1質量%以上、2.0質量%以下が好ましい。活性酸化亜鉛粉末は、硫黄含有ガスの吸着能に極めて優れるため、0.1質量%以上の含量であれば銀等の腐食や変色をより確実に抑制することができる。また、当該含量が2.0質量%以下であれば、防錆フィルムの透明性をより確実に確保することができる。当該含量としては、0.2質量%以上、1.5質量%以下がより好ましい。
【0025】
本発明で用いる塩基性炭酸亜鉛は炭酸亜鉛と水酸化亜鉛との混合物であり、その代表的な化学組成式としては2ZnCO3・3Zn(OH)2・H2Oを例示することができる。
【0026】
塩基性炭酸亜鉛は、一般的には酸化亜鉛のスラリーに炭酸ガスを吹き込むか、或いは亜鉛金属にアンモニアと炭酸アンモニウムを反応させて溶解液とした後、水蒸気を吹き込んで生じた沈殿物を乾燥することにより製造される。なお、市販されている塩基性炭酸亜鉛の酸化亜鉛含量は72%で、2ZnCO3・3Zn(OH)2・H2Oの酸化亜鉛含量の理論値である71.8%に近い。
【0027】
一般的な酸化亜鉛は、その水に対する溶解度が0.0003〜0.0005%とほとんど溶解しない。一方、炭酸亜鉛の水溶解度は0.0206%であり、水酸化亜鉛の水溶解度は0.0012%であるので、塩基性炭酸亜鉛の水溶解度は一般的な酸化亜鉛よりも高い。水溶性が高ければフィルムを透過する水蒸気により溶解することから亜鉛イオンが多くなり、同じく透過してきた硫黄含有ガスと反応がし易くなると考えられる。一方、この程度の水溶解度であれば、化管法による制限は受けない。また、塩基性炭酸亜鉛の比表面積は、24m2/g程度と一般の酸化亜鉛の1〜5m2/gに比較して大きい。
【0028】
本発明の塩基性炭酸亜鉛粉末のフィルム中における含有量としては、0.05質量%以上、5.0質量%以下が好ましい。塩基性炭酸亜鉛粉末の硫黄含有ガスに対する吸着能は特に優れるため、0.05質量%以上の含量であれば銀等の腐食や変色をより確実に抑制することができる。また、塩基性炭酸亜鉛の透明性は高いので、当該含量が5.0質量%以下であれば防錆フィルムの透明性をより確実に確保することができる。当該含量としては、0.1質量%以上、4.0質量%以下がより好ましい。
【0029】
上記の活性酸化亜鉛粉末および塩基性炭酸亜鉛粉末の中では、塩基性炭酸亜鉛粉末が特に硫黄含有ガスに対する吸着能に優れる。その上、透明性も高い。よって、本発明に係る防錆フィルムとしては、塩基性炭酸亜鉛粉末が熱可塑性樹脂中に分散しているものが特に好適である。
【0030】
本発明の防錆フィルムは、活性酸化亜鉛粉末等が熱可塑性樹脂中に分散していることを特徴とする。その製造方法は、一般的な樹脂フィルムの製法に従えばよい。
【0031】
例えば、熱可塑性樹脂を適切な有機溶媒に溶解した上で活性酸化亜鉛粉末等を添加し、よく分散させた後にスピンコート法等によりフィルム化してもよい。しかし、活性酸化亜鉛粉末等は有機溶媒中で凝集するおそれがあるので、好適には熱可塑性樹脂と活性酸化亜鉛粉末等をバンバリーミキサー、ミキシングロールニーダー、二軸混練押し出し機等の装置を用いて混合した後、インフレーション法や押出法などによりフィルム成形する方法が好適である。
【0032】
原料となる熱可塑性樹脂の種類は特に制限されないが、例えば低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;ポリスチレン樹脂;アクリロニトリル樹脂;ブタジエン・スチレン樹脂;ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン12、非晶質ナイロンなどのポリアミド樹脂;エチレン・酢酸ビニルやアクリル酸エステルなどの共重合体樹脂;アイオノマー樹脂などを挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの中でもポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリエチレンが安価であることから好適である。
【0033】
本発明の防錆フィルムの厚さは特に制限されないが、厚過ぎると取扱性や透明性が低下するおそれがあり、また、薄過ぎると防錆効果が十分に発揮されなかったり破れ易くなる可能性がある。よって、防錆フィルムの厚さとしては、30μm程度以上、200μm程度以下とすることが好ましい。
【0034】
本発明の防錆フィルムは、袋状にした後に銀や銅およびこれらの合金を含む金属材料や製品を入れ、さらに密閉包装するために用いる。これら金属材料等の表面に積層する被膜として用いるものではないので、ハンダ付け等を阻害しない。また、内部の空気を除去して真空包装することも考えられるが、内部の空気に含まれる硫黄含有ガスならば十分に吸着できるので、その必要はなく、金属材料等を効率的に密閉包装することができる。
【0035】
防錆フィルムを袋状にしたり密閉する方法は、常法に従えばよい。例えば、インフレーション法によれば本発明の防錆フィルムは筒状で得られるので、包装すべき金属材料等の大きさに応じて当該筒状フィルムを切断した上で一方の端部を閉じ、さらに金属材料を挿入した後に他方の端部を閉じればよい。端部の閉じ方は主に熱可塑性樹脂の種類による。例えばヒートシールできるものであればヒートシールすればよく、或いは適切な接着剤を用いてもよい。
【0036】
本発明の防錆フィルムは特に硫黄含有ガスの吸着効果に優れるので、大気中に含まれる硫黄含有ガスから内部の金属材料等を保護することができ、その腐食や変色を抑制できる。保護の対象となる金属、即ち硫黄含有ガスによる腐食または変色する金属としては、銀、銅、銀合金および銅合金を挙げることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0038】
製造例
低密度ポリエチレン樹脂粉末(住友精化社製、商品名「フローセンG401−N」)と、活性酸化亜鉛粉末または塩基性炭酸亜鉛粉末とを表1に示す割合で配合し、よく攪拌した後、150〜160℃のインフレーション法により厚さ100μmのフィルムを作製した。なお、使用した各化合物の物性等は、以下の通りである。
活性酸化亜鉛:ハクスイテック社製、比表面積:39.5m2/g
塩基性炭酸亜鉛:関東化学社製、特級試薬、化学式:2ZnCO3・3Zn(OH)2・H2O、比表面積:23.7m2/g
【0039】
【表1】

【0040】
また、比較のために、ポリエチレン樹脂のみからなるフィルムと、通常の酸化亜鉛粉末を表2に示す配合量で用いたフィルムも同様に作製した。なお、使用した酸化亜鉛粉末の物性等は以下の通りである。
酸化亜鉛粉末:関東化学社製、特級試薬、比表面積:2.3m2/g
【0041】
【表2】

【0042】
試験例1 ヘーズ(曇価)の測定
色差濁度計(COH−300A、日本電色工業社製)を用いて、JIS K 7105(「プラスチックの光学的特性試験方法」)に従ってヘーズ(H%)を測定し、フィルムの透明性を比較した。より具体的には、上記色差濁度計において光を遮蔽した0合わせと透明セルでの標準合わせをした後、50mm×50mmに切り出したフィルムを3個ずつ作製し標準セルで固定して測定した。
【0043】
防錆フィルムNo.1〜7の結果を3例の平均値として表3に、防錆フィルムNo.8〜12の結果を同様に表4に示す。また、肉眼観察による外観も併せて示す。
【0044】
試験例2 防錆試験
幅40mm×長さ60mm×厚さ0.5mmの銀板を、日本磨料工業社製の「ピカール金属磨」を用いて鏡面状に研磨した。当該銀板をメタ珪酸ナトリウム水溶液で脱脂洗浄してから十分に水洗した後、キレスト社製の銀用変色除去剤「キレスクリーンAG」(pH1.0)に30秒間浸漬した。次いで充分に水洗して水はじきのない試験片とした後、メタノールとアセトンで洗浄してから乾燥した。得られた銀板試験片を、上記製造例で得た各防錆フィルムでヒートシール密閉包装した。
【0045】
図1に略示する様に、内容積4リットルのガラス製デシケーターの内部に試験片吊り下げ枠1を設置し、各防錆フィルムでヒートシール密閉包装した銀板試験片2を同時に吊り下げ、デシケーターを密封した。そして、上方に取り付けた硫化物装入用ガラス管3から、硫化物溶液5として硫化アンモニウム溶液(黄色溶液、硫黄分=6〜7.5%)20gと、次いでガラス管洗浄用の脱イオン水10mlをデシケーターの下部まで投入した後、当該ガラス管3とガス検知管装入用のガラス管4を閉じた。デシケーターを30分毎に静かに振り動かして内部空間層を撹拌しながら、1時間後および4時間後にガラス管4より硫化水素ガス検知管(ガステック社製、品番「No.4H」)を挿入して硫化アンモニウム濃度(ppm)を測定した。測定された硫化アンモニウム濃度は、1時間後で1200ppm、4時間後で700ppmであった。4時間に全ての試験片をデシケーターから取り出して銀板の変色状態を肉眼で確認し、下記の基準で防食性能の優劣を評価した。即ち、1:変色無し、2:薄く変色、3:淡褐色に変色、4:濃褐色に変色、5:濃褐色から青紫色に変色との基準で評価し、点数が小さい方が防錆効果の高いことを表す。防錆フィルムNo.1〜7の結果を表3に、防錆フィルムNo.8〜12の結果を表4に「評価:1」として示す。
【0046】
試験例3 防錆試験
上記試験例2と同様に各防錆フィルムでヒートシール密閉包装した銀板試験片を用意し、ガラス製デシケーターの内部の試験片吊り下げ枠1に吊り下げた上で密閉した。硫化物装入用ガラス管3から、硫化物溶液5として硫化アンモニウム溶液(無色溶液、硫黄分=0.6〜1.0%)0.5gと、ガラス管洗浄用の脱イオン水10mlをデシケーターの下部まで投入した後、当該ガラス管3とガス検知管装入用のガラス管4を閉じた。デシケーターを静かに振り動かして内部空間層を撹拌しながら、4時間後、および1、2、3、4日後にガス検知管装入用ガラス管4より硫化水素ガス検知管(ガステック社製、品番「No.4LL」)を挿入して硫化アンモニウム濃度(ppm)を測定した。測定された硫化アンモニウム濃度は、4時間後:7.5ppm、1日後:3.0ppm、2日後:2.0ppm、3日後:1.5ppm、4日後:1.0ppmであった。また、デシケーター外部より銀板を目視観察し、灰黒色の点変色が発生した時点の日数を確認して、防食性能の優劣を評価した。即ち、日数が大きいほど防錆効果が高いことを示す。防錆フィルムNo.1〜7の結果を表3に、防錆フィルムNo.8〜12の結果を表4に「評価:2」として示す。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
表4から明らかな様に、ポリエチレン樹脂のみからなり酸化亜鉛等を含まない防錆フィルムNo.8のヘーズ値は9.1%と低く、目視でも透明であった。しかし、硫化アンモニウムの存在下における防錆試験によれば、その防錆効果は全く不十分であった。具体的には、試験例2で内部の銀板が濃褐色に変色し、また、試験例3で試験開始から僅か1日目に点変色が確認された。
【0050】
また、一般的な酸化亜鉛を使用した防錆フィルムNo.9〜12では、特に酸化亜鉛濃度の高いNo.9のフィルムは防錆効果を示すものの、No.9〜11のフィルムのヘーズ値は25%以上であり、且つ外観が白色で透明性が低かった。一方、酸化亜鉛濃度の低いNo.12のフィルムは、満足のいく透明性を有するものの、防錆性能がNo.8のフィルムと同程度の低さであった。
【0051】
それに対して、表3の通り、防錆成分として少なくとも1種の活性酸化亜鉛または塩基性炭酸亜鉛を含有する防錆フィルムNo.1〜7は、透明性が高い上に防錆効果にも優れるものであった。より具体的には、これらフィルムのヘーズ値は何れも21%未満であり、透明性を有している。また、No.3と7のフィルムでは、本発明に係る防錆成分の含量が少ないため、その防錆効果は若干劣るものの、No.1、2、4〜6のフィルムの防錆効果は実用上でも十分なものである。さらに、かかる結果より、塩基性炭酸亜鉛を含有する防錆フィルムが最も透明性がよく、且つ防錆効果も高いことが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】防錆試験で使用した装置を示す概念図である。
【符号の説明】
【0053】
1:試験片吊り下げ枠、2:防錆フィルムでヒートシール密閉包装した銀板試験片、 3:硫化物装入用ガラス管、 4:ガス検知管装入用ガラス管、5:硫化物溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性酸化亜鉛粉末、塩基性炭酸亜鉛粉末、またはこれらの混合物が熱可塑性樹脂中に分散していることを特徴とする防錆フィルム。
【請求項2】
フィルム中における活性酸化亜鉛粉末の含有量が0.1質量%以上、2.0質量%以下である請求項1に記載の防錆フィルム。
【請求項3】
フィルム中における塩基性炭酸亜鉛粉末の含有量が0.05質量%以上、5.0質量%以下である請求項1に記載の防錆フィルム。
【請求項4】
硫黄含有ガスにより腐食または変色する金属を、請求項1〜3のいずれかに記載の防錆フィルムにより密閉包装することを特徴とする防錆方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−114509(P2009−114509A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289619(P2007−289619)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(596148629)中部キレスト株式会社 (31)
【出願人】(592211194)キレスト株式会社 (30)
【Fターム(参考)】