説明

防錆処理金属基材および金属基材表面の防錆法

【課題】ドーパントを含まない絶縁性ポリアニリン系の皮膜によって金属基材の腐食抑制効果が大きい防錆処理金属基材および金属基材表面の防錆法を提供する。
【解決手段】金属基材表面に高酸化状態(PE状態)の絶縁性ポリアニリンを含む塗膜が形成されている防錆処理金属基材、および金属基材表面に高酸化状態(PE状態)の絶縁性ポリアニリンを含む塗膜を形成する金属基材表面の防錆法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防錆処理金属基材および金属基材表面の防錆法に関し、さらに詳しくは鉄板などの金属基材表面で高い腐食抑制効果(以下、防錆効果ということもある)を有する防錆処理金属基材および金属基材表面の防錆法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属表面を防錆処理した防錆処理金属基材や各種金属基材表面の防錆方法は知られており、例えば金属表面にポリアニリンを含む高分子皮膜を形成する金属表面の防錆技術が知られており、さらに金属表面に形成するポリアニリン系高分子皮膜の改良の試みがなされている(特許文献1〜4)。
【特許文献1】特許第3129837号公報
【特許文献2】特許第3129838号公報
【特許文献3】特許第3233639号公報
【特許文献4】特開平10−251509号公報
【0003】
上記の特許第3129837号公報には、金属表面に可溶性ポリアニリンなどの導電性高分子及び場合によりさらに汎用高分子化合物を含む皮膜を形成させることによって、食塩などの腐食環境下でも金属材料が優れた防錆効果を示すことが記載されている。そして前記ポリアニリンはドーパントによって電気的に活性化され、防錆効果を示すことが開示されている。
【0004】
また、上記の特許第3129838号公報には、金属表面にドーパントを含まない可溶性ポリアニリン系化合物の皮膜を形成させることによって、ドーパントに起因する腐食を防止し、強い腐食環境下でも金属材料が優れた防錆効果を示すことが記載されている。そして、具体例として示されているものは鉄板上でポリアニリン溶液を130℃で1時間加熱乾燥して形成した濃青色のポリアニリンの皮膜であり、防錆効果の判断は鉄板表面に錆が発生するか否かの目視観察によることが記載されている。
【0005】
また、上記の特許第3233639号公報には、金属をポリアニリンなどの真性導電性ポリマーと非導電性マトリックスとの複合体でコーティングする積層体の製造方法によって、金属面に防蝕性が付与されることが記載されている。そして、ポリアニリンには還元された状態のロイコエメラルジン(leucomeraldine)、部分的に酸化された状態のエメラルジン(emeraldine)、および完全に酸化された状態のペルニグラニリン(pernigraniline)があること、さらに具体的な真性導電性ポリマーとしてp−トルエンスルホン酸などのドーパントでドープしたポリアニリンが示されている。
【0006】
また、上記の特開平10−251509号公報には、樹脂、ポリアニリンおよび/またはポリアニリン誘導体、無機化合物の混合物を主成分とする水溶性および/または水分散性の金属表面処理液、およびこの表面処理液を用いた皮膜を各種金属板上に有する表面処理金属板によって、耐食性、密着性が達成されることが示されている。そして、使用されるポリアニリンは、一般式において分子中のN原子がH原子に結合したものとH原子に結合していないものとの2種のN原子を有する化合物である部分的に酸化された状態(エメラルジン)のポリアニリンである。そして、具体例として示される塗膜はこのポリアニリンと主成分の樹脂との樹脂混合物を含む処理液を金属板に塗布して150℃で加熱乾燥した皮膜であり、耐食性の効果の判断は金属板表面に錆が発生するか否かの目視観察によることが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、腐食環境下にある金属基材のポリアニリン系皮膜による腐食抑制についての種々の改良によって、ドーパントをドープした導電性ポリアニリンおよびドーパントを含まない可溶性ポリアニリンのいずれかを用いた例が知られている。
このため、従来公知のポリアニリン系金属防錆法は、ドーパントに起因する腐食が避けられないとか、ドーパントを含まない可溶性ポリアニリン系皮膜ではポリアニリンの酸化状態と腐食抑制効果との関係についての認識がなく、また防錆効果が目視観察に依存しており、形成された塗膜の防錆効果の程度さらには塗膜の種類および塗膜形成条件を変えた場合に防錆効果が達成されるか不明である。
【0008】
従って、この発明の目的は、ドーパントを含まない絶縁性ポリアニリン系の皮膜によって金属基材の腐食抑制効果が大きい防錆処理金属基材および金属基材表面の防錆法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、金属基材表面に高酸化状態(PE状態)の絶縁性ポリアニリンを含む塗膜が形成されている防錆処理金属基材に関する。
また、この発明は、金属基材表面に高酸化状態(PE状態)の絶縁性ポリアニリンを含む塗膜を形成する金属基材表面の防錆法に関する。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ドーパントに起因する腐食が防止でき、良好な腐食抑制を有する防錆処理金属基材が得られる。
また、この発明によれば、簡単な方法によって良好な腐食抑制を有する防錆処理金属基材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明における好適な態様を次に示す。
1)金属基材が鉄板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、マグネシウムめっき鋼板、アルミニウム板又はマグネシウム板である前記の防錆処理金属基材。
2)金属基材表面がポリアニリンによって不動態化されている前記の防錆処理金属基材。
3)ポリアニリンが塗膜形成前に高酸化状態(PE状態)である前記の防錆法。
【0012】
この発明において、高酸化状態(すなわち、完全酸化状態を指す)の絶縁性ポリアニリン(以下単に、PE状態のポリアニリンと略記することもある。)とは、下記一般式(1)で示される完全酸化状態のポリアニリンであって、塗膜中にドーパントを共存させないで使用される状態であることを意味する。このPE状態のポリアニリンは濃紫色乃至は黒紫色である。
【0013】
【化1】

(但し、式中、nは整数を示す。)
【0014】
一方、部分酸化状態(EB状態)のポリアニリン(以下単に、EB状態のポリアニリンと略記することもある。)は、下記一般式(2)で示されるポリアニリンである。このEB状態のポリアニリンは濃青色である。
【0015】
【化2】

(但し、式中、nは整数を示す。)
【0016】
この発明におけるPE状態のポリアニリンは、前記EB状態のポリアニリンを酸化剤存在下に、例えば空気中で150℃以上で200℃未満、好適には170℃以上で200℃未満の温度で酸化が完了して完全酸化状態となるまで、好適には45分〜3時間程度加熱することによって得ることができる。前記の加熱温度が200℃以上ではポリアニリンの分解が始まるので好ましくない。また、空気中でEB状態のポリアニリンを150℃未満で加熱してもPE状態のポリアニリンを得ることは困難である。また、加熱時間は、加熱温度が低いほど長くなり、加熱温度が高いほど短くてよい傾向があり、前記の範囲内で選択することが好ましい。
【0017】
この発明におけるPE状態のポリアニリンは、好適には質量平均分子量(M)が10000以上、好適には20000〜120000、特に40000〜100000程度のEB状態のポリアニリンを酸化剤の存在下、例えば空気中で、前記の条件で加熱することによって得ることができる。
【0018】
前記のPE状態のポリアニリンを与えるEB状態のポリアニリンは、例えば原料のアニリンモノマー、例えばアニリン又は塩酸アニリンを0.5〜5モル/L程度の濃度で含む水溶液に重合開始剤、例えば過硫酸アンモニウムをアニリンモノマーに対して全部で1.1〜1.5倍モル程度の量を徐々に加えて、酸化重合させて得られる反応液に、アセトン、メタノールを加えてポリアニリンを沈澱させ、沈澱したポリアニリンを濾集(濾過、洗浄)し、乾燥することによって容易に得ることができる。
【0019】
この発明においては、塗膜中に前記のPE状態の絶縁性ポリアニリンが含まれることが必須であり、これによって塗膜形成条件に影響されずに再現性良く高い防錆効果を有する塗膜を得ることができるのである。
【0020】
以下、この発明におけるPE状態のポリアニリンとEB状態のポリアニリンとを、これら2種のポリアニリン被覆鋼板のサイクリックボーダメトリー(CV)を示す図1および図2で説明する。図1において、PE状態のポリアニリン被覆鋼板の1イクルを示す曲線はなめらかであるが、図2においてEB状態のポリアニリン被覆鋼板の1サイクルを示す曲線は約200〜250mVに顕著なピークが認められる。
【0021】
この発明において、金属基材としては、鉄又は鉄よりも卑なる金属を含む板又は薄板であって、例えば鉄板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、マグネシウムめっき鋼板、アルミニウム板又はマグネシウム板などが挙げられる。
前記の金属基材の形状としては特に制限はなく任意の形状であってよく、例えば平面状であってもよく又は局面を有するもの、例えば筒状であってもよい。
また、前記の金属基材は塗布液を被覆する前に、好適には塗布液を被覆する直前に塗膜との密着性を改善するためにそれ自体公知の任意の清浄化又は密着性改善の手段を施すことが好ましい。
【0022】
この発明の防錆処理金属基材は、前記のPE状態のポリアニリンを用いてかつ導電性を与えるドーパントを使用することなく、任意の方法によって塗膜を形成することによって得ることができる。
例えば、好適には第1の方法である予めPE状態にしたポリアニリン単独又はPE状態にしたポリアニリンと他の樹脂等との樹脂混合物の溶媒溶液である塗布液を金属基材表面に被覆した後、乾燥して、前記金属基材表面にE状態の絶縁性ポリアニリンを含む塗膜を形成することによって得ることができる。
【0023】
あるいは、この発明の防錆処理金属基材は、第2の方法である前記のEB状態のポリアニリンの溶媒溶液である塗布液を金属基材表面に塗布、浸漬等した後、酸化剤存在下、例えば空気中で150℃以上200℃未満の温度でEB状態のポリアニリンの酸化が完了して完全酸化状態(PE状態)のポリアニリンになるまで、好適には45分〜3時間程度加熱乾燥して、金属基材表面にPE状態の絶縁性ポリアニリンの塗膜を形成することによっても得ることができる。
【0024】
前記の第2の方法において、金属基材表面に他の樹脂を主成分としEB状態のポリアニリンを含む樹脂混合物の塗布液を塗布した後、前記の温度および時間で規定される加熱条件で加熱しても、酸化剤存在下の条件を満足せず高い防錆効果を有する塗膜を得ることが困難である。
また、前記の第2の方法において、金属基材表面にPE状態の絶縁性ポリアニリンの塗膜を形成した後、樹脂塗膜をその上に形成してもよい。
【0025】
前記の塗布液の溶媒としては、アセトニトリルのようなニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、m−クレゾール等の極性溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素水を挙げることができる。
【0026】
前記のいずれの方法においても、金属基材表面にPE状態のポリアニリンの塗膜が形成されている防錆処理金属基材においては、金属表面がPE状態のポリアニリンによって不動態化されているため、EB状態のポリアニリンによって不動態化されている場合と比較して、金属基材と塗膜との密着力がさらに大きくなりしかも腐食電位が高く、防錆効果が良好であり好ましい。
前記の動態化が妨げられない限り、PE状態のポリアニリンには他の樹脂が混合されてもよい。
【0027】
例えば、前記の第1の方法において、ポリアニリンと他の樹脂等との樹脂混合物として使用する場合には、ポリアニリンの割合は他の樹脂等に対して0.2質量%以上、特に1質量%以上であることが好ましい。
前記の他の樹脂等としては、特に制限はなく、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性又は常温硬化性の硬化性樹脂、合成ゴムのいずれであってもよい。
【0028】
前記の樹脂として、好適にはアクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ポリウレタン樹脂、ブロックウレタン樹脂、2成分ポリウレタン樹脂などのウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、エポキシアルキッド樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、アクリル樹脂などを挙げることができる。
これらの樹脂のなかでも特に2液常温硬化型(2液常温乾燥型ともいう)の硬化性樹脂が強固な密着力が得られるため好適である。
【0029】
また、前記の塗布液には、前記の各成分の他に防錆顔料を添加することが好ましい。
前記の防錆顔料としては、リン酸亜鉛系やリン酸アルミニウム系などのリン酸塩系防錆顔料、亜リン酸塩系防錆顔料、モリブデン酸塩系防錆顔料などを挙げることができる。
また、前記の防錆顔料の添加量は金属基材の種類および用途によって適宜選択することができる。
【0030】
さらに、前記の塗布液には、前記の各成分の他に金属表面と塗膜との結合を強固にして密着性を向上させる必要がある場合には、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などのカップリング剤を添加してもよい。前記のカップリング剤として、好適にはメトキシ系、エトキシ系、アセトキシ系、アミノ系などを挙げることができる。
【0031】
前記のいずれの方法においても塗布液を金属基材表面に被覆する方法としては、特に制限はなく、例えばロールコーター、リンガーロール、スプレー、バーコータ、浸漬やエアナイフ絞りによる塗布などを採用することができる。
【0032】
前記の第1の方法によって金属基材表面に塗布液を被覆した後、乾燥して、金属基材表面にPE状態の絶縁性ポリアニリンを含む塗膜を形成することによって得ることができる。
この発明におけるPE状態の絶縁性ポリアニリンを含む塗膜の厚みとしては、特に制限はなく乾燥皮膜厚みとして0.01μm以上100μm以下が好ましい。塗膜の厚みが小さ過ぎると防錆効果が少なく、塗膜の厚みが大き過ぎても防錆性はそれほど向上せず経済的に不利である。
【0033】
この発明の第1の方法による予めPE状態にしたポリアニリンを用いる防錆処理金属基材および防錆法によれば、金属基材を高温に加熱することなく50℃以下程度の温度での乾燥によって再現性良く高い防錆効果の塗膜を有する防錆処理金属基材を得ることが可能となるので、薄板鋼板など加熱によって変形する金属基材に適用する場合に有利である。
【0034】
この発明によって得られる防錆処理金属基材は、自動車、電車、建築用などに使用される防錆処理の必要な各種金属板に用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下、この発明をさらに説明するために実施例を示すが、この発明は実施例に限定されるものではない。
以下の各例において、ポリアニリンの特性評価および防錆処理鋼板の評価は以下によって行った。
【0036】
1)ポリアニリン被覆鋼板のサイクリックボーダメトリー(CV)の測定
ポリアニリン被覆鋼板について下記によりサイクリックボーダメトリー(CV)を測定した。
白金板をポリアニリン溶液(5質量%N−メチル−2−ピロリドン溶液)に浸漬し、引き上げて、室温にて乾燥する。作用極に、上述のポリアニリンが塗布された白金板、対極に白金板を用い、北斗電工製ポテンシオスタットにて、−200mVから+800mVまで電位を変化させ酸化ピークを測定し、その後、+800mVから−200mVまで電位を変化させ還元ピークを測定した。
このCV曲線における約200nVの大きなピ−クの存在が、完全に酸化されていないことを示し、このピークが全くないことが完全に酸化されたことを示す。
【0037】
2)防錆処理鋼板の防食効果測定
2−1)腐食電位測定
各例で得られた防錆処理鋼板について下記により、新しい鋼板と腐食後の鋼板の腐食電位を測定した。
評価方法:低電位分極測定法
1)各試料の自然電位を測定する。
2)自然電位より−側(卑側)に電位をかけ、カソード分極曲線を測定する。
3)その後、自然電位に戻し、今度は+側(貴側)に電位をかけ、アノード分極曲線 を測定する。
4)アノード・カソード分極曲線の接線の交点より、腐食電位・腐食電流を求める。
5)塩水浸漬後1日後にも同様の測定を実施し、浸漬直後からの腐食電位の差を求め た。
2−2)接着力の評価
測定法:
評価:接着力を優れている:◎、良好である:○、不良である:xで評価した。
【0038】
2−3)分極抵抗値の測定
各例で得られた防錆処理鋼板について、カレントインタラクタ法によって分極抵抗値を測定した。
装置:北斗電工社製、塗膜下金属腐食診断装置HL201
腐食条件:腐食液として3%のNaCl水溶液に防錆処理鋼板を浸漬した。
腐食時間:浸漬1時間後、240時間後
評価:分極抵抗値の比である[浸漬240時間後の分極抵抗値/浸漬1時間後の分極 抵抗値]を求めた。この値が大きいほど腐食が進行しにくいことを示す。
【0039】
参考例1
常法によって得られた質量平均分子量(M)54600のEB状態のポリアニリンを空気中、150℃、1.5時間加熱し、酸化して、濃紫色の粉末状ポリアニリンを得た。
この酸化ポリアニリンを使用して、被覆鋼板のサイクリックボーダメトリー(CV)を測定し、測定結果を図1のCV曲線に示す。
また、原料のEB状態のポリアニリンを使用して、同様に被覆鋼板のサイクリックボーダメトリー(CV)を測定し、測定結果を図2のCV曲線に示す。
そして、図1と図2との比較から、空気中で150℃、1.5時間の加熱により、EB状態のポリアニリンがPE状態のポリアニリンに変化したことが確認された。
【0040】
実施例1
参考例1で得られたPE状態のポリアニリンをN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、ポリアニリン濃度3.7質量%の塗布液を得た。
この塗布液をアプリケーターを用いて予め45℃で2時間真空乾燥機で乾燥した冷延鋼板に塗布し、空気中、150℃で1時間半ほど加熱、乾燥して、塗膜厚みが約12μmの防錆処理鋼板を得た。
この防錆処理鋼板について、防食効果を測定した。測定結果を次に示す。
【0041】
防錆処理鋼板の防食効果
腐食電位(Fresh) +1190mV
腐食電位(1日腐食液浸漬後) +1537mV
密着力 ◎
【0042】
比較例1
EB状態のポリアニリンを用いて、乾燥条件を真空下、45℃で2時間に変えた他は実施例1と同様にして、塗布液および防錆処理鋼板を得た。
このEB状態のポリアニリン被覆の防錆処理鋼板について防食効果を測定した。結果を次に示す。
【0043】
防錆処理鋼板の防食効果
腐食電位(Fresh) −710mV
腐食電位(5分間腐食液浸漬後)−710mV
密着力 ○
【0044】
比較例2
塗布液としてポリアニリンを用いなかった他は実施例1と同様にして、処理鋼板を得た。
この処理鋼板について腐食電位測定を測定した。得られた結果を次に示す。
処理鋼板の防食効果
腐食電位(Fresh) −460mV
【0045】
実施例2
酸化条件を常空気中、170℃、2時間加熱に変えた他は参考例1と同様にして、粉末状のPE状態のポリアニリンを得た。
このPE状態のポリアニリンを使用して、被覆鋼板のサイクリックボーダメトリー(CV)を測定したところ、参考例1の被覆鋼板と同様の曲線が得られた。
このPEポリアニリンを用いた他は比較例1と同様にして、防錆処理鋼板を得た。
この防錆処理鋼板について防食効果を測定した。得られた結果は実施例1と同等であった。
【0046】
実施例3
実施例2で得られたPE状態の粉末状ポリアニリンを2液型常温乾燥タイプのアクリル塗料(大日本インキ化学工業社製、主剤:アクリディックWFJ373、硬化剤:DN−980)に樹脂分に対して2質量%となる割合で添加し、ホモジナイザーで10分間攪拌して、塗布液を得た。
この塗布液を実施例2と同様にして鋼板に塗布し、常温乾燥して、塗膜厚みが約12μmの防錆処理鋼板を得た。
この防錆処理鋼板について分極抵抗値を測定して防食効果を評価した。得られた結果を次に示す。
分極抵抗値測定結果
分極抵抗値の比 1.23
【0047】
比較例3
実施例2で得られたPE状態の粉末状ポリアニリンに代えて出発原料のEB状態のポリアニリンを用いた他は実施例3と同様にして、塗膜厚みが約12μmの防錆処理鋼板を得た。
この防錆処理鋼板について分極抵抗値を測定して防食効果を評価した。得られた結果を次に示す。
分極抵抗値測定結果
分極抵抗値の比 1.18
【0048】
以上の結果に基き、実施例1〜2と比較例1との比較から、PE状態のポリアニリン被覆の防錆処理鋼板は従来のEB状態のポリアニリン被覆の防錆処理鋼板と比べて防錆抑制効果が大幅に改善され、塗膜と金属表面との密着力も改善されていることがわかる。
また、実施例3と比較例3との比較から、樹脂分に対してわずか2質量%のポリアニリン添加であっても、防錆抑制効果が改善されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、この発明におけるPE状態のポリアニリンを被覆した被覆鋼板のサイクリックボーダメトリー(CV)を示す。
【図2】図2は、EB状態のポリアニリンを被覆した被覆鋼板のサイクリックボーダメトリー(CV)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材表面に高酸化状態(PE状態)の絶縁性ポリアニリンを含む塗膜が形成されている防錆処理金属基材。
【請求項2】
金属基材が鉄板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、マグネシウムめっき鋼板、アルミニウム板又はマグネシウム板である請求項1に記載の防錆処理金属基材。
【請求項3】
金属基材表面がポリアニリンによって不動態化されている請求項1に記載の防錆処理金属基材。
【請求項4】
金属基材表面に高酸化状態(PE状態)の絶縁性ポリアニリンを含む塗膜を形成する金属基材表面の防錆法。
【請求項5】
ポリアニリンが塗膜形成前に高酸化状態(PE状態)である請求項4に記載の防錆法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−78362(P2009−78362A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247189(P2007−247189)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】