説明

防錆剤組成物および水性防錆潤滑剤、並びにこれを用いた金属の加工法

【課題】 金属の加工する際に使用される水性潤滑剤に配合することにより、優れた防錆効果を発揮する防錆剤組成物を開発し、更には、該防錆剤組成物を使用することにより、優れた防錆潤滑性能と安定性を兼ね備えた水性防錆潤滑剤を提供すること。
【解決手段】 防錆成分として水溶性アルカリ珪酸塩を含み、且つ、該珪酸塩のゲル化抑制成分として下記一般式(2)で示される有機珪素化合物を含有する、防錆潤滑性能と安定性に優れた水性防錆潤滑剤を提供し、更にはこれを用いた防錆潤滑法と金属加工法を開示する。
【化1】


(式中、nは任意の整数、mは1〜4の整数で、Rは水酸基または炭素数1〜4の炭化水素基を表わす)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆剤組成物とこれを用いた水性潤滑剤、並びに該水性防錆潤滑剤を用いた金属の加工法に関し、より詳細には、優れた防錆能を有する防錆剤組成物と、該防錆剤組成物を水性潤滑剤に配合することで、金属の切断、切削、穿孔、研磨などの加工を行う際に優れた潤滑作用を発揮すると共に、被加工金属材の腐食を効果的に防止することのできる水性防錆潤滑剤と防錆潤滑法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、鋼材などの鉄基金属材やアルミニウム、チタンなどの非鉄金属材、中でもアルミニウムやその合金用の防錆剤としては、リン酸塩やリン酸エステルなどのリン系防錆剤、あるいは有機酸アミン塩や複素環化合物の如き有機系防錆剤が汎用されている。
【0003】
ところが、これらの防錆剤を金属の切断、切削、穿孔、研磨などの加工用水性潤滑剤に配合して使用しても、満足のいく防錆効果が得られないことがある。その理由は次のように考えられる。即ち上記の様な水性潤滑剤は、通常、水で10〜30倍程度に希釈して使用されるため、防錆成分が濃度不足で満足のいく防錆効果が発揮され難く、また水希釈液は一般にアルカリ性(pH8以上)であり、更には水性潤滑剤中の油性剤成分等が腐食成分として作用するため、特にアルミニウムやその合金などの場合は、腐食され易い環境になるためと考えられている。また、リン系の防錆剤は、上述した様な水性潤滑剤の細菌やカビによる腐敗劣化を促進するという大きな問題点も秘めている。
【0004】
一方、珪酸ソーダに代表される水溶性アルカリ珪酸塩は、アルミニウム合金などの防錆剤として古くから知られており、非常に安価で入手も容易であり、水性潤滑剤に適量配合することで優れた防錆効果を発揮する。しかも、リン成分を含まないので水性潤滑剤の腐敗劣化を促進させることもない。ところが、アルカリ珪酸塩は水性潤滑剤中ですぐにゲル化を起こすという実用面で重大な欠点があり、経時的安定性の面から改善が求められている。
【0005】
他方、特許文献1には、特定のシラン系化合物を金属腐食防止剤として水性潤滑剤中に配合すると、アルミニウム合金などの金属材の腐食を防止できることが記載されている。また、特許文献2には、窒素原子含有有機基を含む加水分解性シランまたはその部分分解物と、加水分解性シランまたはその部分加水分解物とを加水分解することによって得られる有機珪素化合物を金属腐食防止剤として水性潤滑剤に配合すれば、アルミニウム合金などの腐食防止に有効であることが記載されている。
【0006】
ところが、上記特許文献1,2に記載された技術で満足のいく腐食防止効果を得るには、シラン系化合物や有機珪素化合物を高濃度で水性潤滑剤中に配合しなければならず、特に特許文献1ではシラン系化合物がモノマー成分であるため、切断や切削などの加工時に被加工面に防錆皮膜を形成し難く、防錆効果の持続性に問題がある。そこで、防錆効果を高めるべく水性潤滑剤中に多量のシラン系化合物を配合すると、系がアルカリ性であるため直ぐにゲル化を起こし、水性潤滑剤としての安定性に問題が生じてくる。
【特許文献1】特許第3267853号公報
【特許文献2】特開2003−268396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、金属の切断、切削、穿孔、研磨などの加工時に使用される水性潤滑剤に配合することで優れた防錆効果を発揮する防錆剤組成物を開発し、更には、該防錆剤組成物を水性潤滑剤に適量配合することで優れた防錆潤滑性能と安定性を兼ね備えた水性防錆潤滑剤を提供し、更には該水性防錆潤滑剤を用いた防錆潤滑法、並びに金属加工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできた本発明に係る防錆剤組成物とは、防錆成分として下記一般式(1)で示される水溶性アルカリ珪酸塩を含み、且つ、該アルカリ珪酸塩のゲル化抑制成分として下記一般式(2)で示される有機珪素化合物を含有するところに特徴を有している。
2O・nSiO2・・・・・・(1)
(式中、Mはアルカリ金属、nは0超10以下の正数を表わす)
【0009】
【化1】

(式中、nは任意の整数、mは1〜4の整数で、Rは水酸基または炭素数1〜4の炭化水素基を表わす)
【0010】
上記式(2)で示される有機珪素化合物の中でも特に好ましいのは、下記一般式(3)で示される有機珪素化合物である。
【0011】
【化2】

(式中、nは任意の整数を表す)
【0012】
また、本発明に係る水性防錆潤滑剤は、上記防錆剤組成物を水性潤滑剤に配合し、好ましく、該水性防錆潤滑剤全体を100質量部としたとき、前記アルカリ珪酸塩の含有量がSiO2として0.01〜10質量部、前記有機珪素化合物の含有量が0.01〜10質量部となる様に配合すると、優れた防錆性と潤滑性を兼ね備えた水性防錆潤滑剤となり、これも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0013】
そして、上記水性防錆潤滑剤を、防錆を兼ねた潤滑剤として使用する金属の防錆潤滑法、あるいは更に、該水性防錆潤滑剤の水希釈液を加工面に存在させた状態で金属材の切断、切削、穿孔または研磨加工を行う金属の防錆潤滑加工法も、本発明の好ましい実施態様となる。加工の対象となる金属材の種類は特に制限されず、鉄鋼材などの鉄基金属材やアルミニウム、銅、チタンなどの非鉄金属や合金などが含まれるが、中でも本発明の特徴が最も有効に発揮されるのはアルミニウムまたはアルミニウム合金である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、防錆成分として安価で防錆能に優れたアルカリ珪酸塩を使用し、且つその欠点であるゲル化による経時劣化を特定の有機珪素化合物を併用することによって阻止することができ、また腐敗要因となる成分も含まれていないことから保存安定性も良好であり、廉価で高性能の水性防錆潤滑剤を提供できる。またこの水性防錆潤滑剤を使用することで、優れた防錆と潤滑を兼ねた実用に即した防錆潤滑法と金属加工法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の防錆剤組成物は、水溶性アルカリ珪酸塩を防錆成分として含み、特定の有機珪素化合物を上記アルカリ珪酸塩のゲル化抑制成分として含有する。
【0016】
以下、本発明を構成する水溶性アルカリ珪酸塩および有機珪素化合物についてその作用と構成を説明していく。
【0017】
水溶性アルカリ珪酸塩は、防錆剤組成物として本来の防食作用を発揮する成分であって、前記一般式(1)で表わされ、具体的には、オルソ珪酸ソーダ、セスキ珪酸ソーダ、メタ珪酸ソーダ、1号珪酸ソーダ、2号珪酸ソーダ、3号珪酸ソーダ、4号珪酸ソーダ、珪酸カリウム、珪酸リチウム、等が挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、オルソ珪酸ソーダおよび珪酸カリウムである。
【0018】
これらの水溶性アルカリ珪酸塩は、水性媒体中で金属の表面に化学吸着して防錆皮膜を形成することにより金属の腐食抑制効果を発揮するもので、このアルカリ珪酸塩は、pH11を超える強アルカリ性の水性媒体中では安定な溶液として存在する。ところが、pHが11を下回ると、徐々にゲル化し不溶物となって分離すると共に、防錆効果も低下してくる。更にpHが8〜11程度である水性潤滑剤中では、脂肪酸の如き油性剤成分などの影響も受けて、アルカリ珪酸塩のゲル化はより一層促進される。そのため、固形のアルカリ珪酸塩を使用直前に水性液に溶かして溶液を調製し、できるだけフレッシュな状態で使用されるケースもある。
【0019】
しかし、取扱い作業性や工程管理などを考慮すると、水性液としての調製後もゲル化を起こすことなく、外観はもとより防錆能においても長期的に安定なものとすることが望ましい。そこで発明者らは、該アルカリ珪酸塩を長期的に安定に保つべく様々な添加剤について検討を重ねた。その結果、前記一般式(2)で示される有機珪素化合物を適量配合すれば、アルカリ珪酸塩の水性液、更にはアルカリ珪酸塩を含む水性潤滑剤としての安定性が著しく向上し、ゲル化による外観劣化が防止されるのみならず、防錆能においても極めて安定した性能を発揮し得るものになることを突き止め、上記本発明に想到したものである。
【0020】
こうした安定化効果を有する有機珪素化合物は、前記一般式(2)で示される化合物で、該有機珪素化合物中、Rで示される置換基は水酸基または炭素数1〜4の炭化水素基である。これらの有機珪素化合物は、1種を単独で使用してもよく、あるいは2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0021】
前記一般式(2)で示される有機珪素化合物は、以下の様な反応によって得ることができる。即ち、以下に示す様なエポキシ基を有するアルコキシシラン化合物を、アルカリの存在下に水性媒体中で60〜100℃程度の温度に加熱すると、下記化学式で示す如く、加水分解反応が起こると共に、エポキシ基の開環およびアルコキシ基の脱離によってポリシロキサン骨格が形成され、前記式(2)で示される有機珪素化合物が得られる。
【0022】
【化3】

(式中、nは任意の整数、mは1〜4の整数、Ra、Rbはメチル基またはエチル基、Rcはメトキシ基、エトキシ基または炭素数1〜4の炭化水素基、Rは水酸基または炭素数1〜4の炭化水素基を表わす)
【0023】
上記反応に使用するアルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の一般的なアルカリが例示され、また、前記一般式(1)として示した水溶性アルカリ珪酸塩のアルカリ成分(M2O)もアルカリとして使用できる。
【0024】
また、上記反応に使用するエポキシ基を有するアルコキシシラン化合物の具体例としては、γ−グリシドキシメチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシメチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシメチルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシメチルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシメチルプロピルジメトキシシラン、γ−グリシドキシメチルプロピルジエトキシシラン、γ−グリシドキシメチルブチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシメチルブチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシエチルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシエチルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシエチルプロピルジメトキシシラン、γ−グリシドキシエチルプロピルジエトキシシラン、γ−グリシドキシエチルブチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシエチルブチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルプロピルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルプロピルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルブチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルブチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルプロピルジメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルプロピルジエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルブチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルブチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
これらの中でも特に好ましいのは、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランであり、この化合物をアルカリの存在下で加熱反応させると、前記一般式(3)で示される有機珪素化合物が得られる。
【0026】
本発明の防錆剤組成物は、上記アルカリ珪酸塩を防錆成分とし、上記有機珪素化合物をアルカリ珪酸塩のゲル化抑制成分として含有するもので、溶媒としては水が使用されるが、必要によりアルコール類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルエーテル等のエーテル類、酢酸エステル等のエステル類などの水溶性溶剤を添加した混合溶媒とすることもできる。
【0027】
本発明に係る防錆剤組成物における上記各成分の含有量は、防錆能や安定性などを考慮した上で液状として製剤可能である限り特に制限されないが、好ましいのは、防錆剤組成物全体としての量を100質量部としたとき、前記珪酸塩の含有量がSiO2成分として1〜20質量部、より好ましくは2〜10質量部で、前記有機珪素化合物の含有量が1〜50質量部、より好ましくは5〜20質量部である。
【0028】
本発明の水性防錆潤滑剤は、油性剤、アルカノールアミン、水(更には必要により極圧添加剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、消泡剤など)を含有する水性潤滑剤に、上記防錆剤組成物を配合することで防錆能を付与したものである。
【0029】
該水性防錆潤滑剤における上記各成分の好ましい含有量は、水性防錆潤滑剤全体としての量を100質量部としたとき、前記アルカリ珪酸塩の含有量がSiO2成分として0.01質量部以上、10質量部以下、より好ましくは0.02質量部以上、1質量部以下;前記有機珪素化合物の含有量が0.01質量部以上、10質量部以下、より好ましくは0.02質量部以上、1質量部以下;前記油性剤の含有量が10質量部以上、90質量部以下、より好ましくは20質量部以上、70質量部以下;アルカノールアミンの含有量が3質量部以上、30質量部以下、より好ましくは5質量部以上、20質量部以下である。
【0030】
ちなみに、アルカリ珪酸塩の含有量が不足すると防錆能が不足気味となり、逆にアルカリ珪酸塩の含有量が多過ぎると、有機珪素化合物の併用にも拘らず水性防錆潤滑剤の安定性が低下傾向となる。また、有機珪素化合物の含有量が不足する場合は、アルカリ珪酸塩に対するゲル化抑制効果が不十分となり、逆に有機珪素化合物の含有量が多過ぎると、アルカリ珪酸塩に対するゲル化抑制効果が飽和し、それ以上添加することはコストアップを招くだけであるので経済的に無駄である。
【0031】
本発明の水性防錆潤滑剤を実用化するに当たっては、10〜30倍の水希釈液として金属の加工(切断、切削、穿孔、研磨など)に使用される。この時点で水希釈液のpHは8〜11程度になるが、本発明ではアルカリ珪酸塩と共に前掲の有機珪素化合物が共存することで優れたゲル化抑制性が維持され、加工作業中にゲル状物が生成して防錆効果が低下したり、ゲル状物の付着により加工製品の外観が損なわれたりする恐れはない。
【0032】
上記の様に、本発明の水性防錆潤滑剤を水で希釈することによって得られる水希釈液は、潤滑剤成分に加えて上記防錆成分としてアルカリ珪酸塩が含まれ、金属の加工面に防錆皮膜を形成して防錆効果を発揮すると共に、共存する有機珪素化合物によって該アルカリ珪酸塩の使用時におけるゲル化も阻止されるので、金属の種類や加工の種類の如何を問わず全ての金属の加工、具体的には鉄鋼材を始めとする鉄基金属材やアルミニウム、チタンなどの非鉄金属やその合金などを、切断、切削、穿孔、研磨加工する際の潤滑防錆剤として幅広く有効に利用できる。しかし、中でもアルカリ性環境下で潤滑用の油性剤成分などによる腐食を受け易いアルミニウムやその合金に本発明の水性防錆潤滑剤を使用すると、その特徴がより効果的に発揮され、卓越した潤滑防錆能を発揮するので好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0034】
実験例
下記表1に示す配合比率で防錆剤組成物の試料液を調製する。そして夫々について、下記の方法で安定性試験および防錆試験を行い、表2,3に示す結果を得た。
【0035】
[実施例1〜7]
下記表1に示す配合比率でアルカリ珪酸塩とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを水に溶解し、90℃で2時間加熱攪拌して澄明な水性液を調製する。これを防錆剤組成物の試料液とする。この際、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランはアルカリ珪酸塩のアルカリ分によって反応し、前記一般式(3)で示される有機珪素化合物が生成する。
【0036】
[比較例1〜3]
下記表1に示す配合比率でアルカリ珪酸塩を室温で水に溶解し、澄明な水性液を調製する。これを防錆剤組成物の試料液とする。
【0037】
[比較例4]
下記表1に示す配合比率でγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを室温で水に溶解し、澄明な水性液を調製する。これを防錆剤組成物の試料液とする。
【0038】
「安定性試験」
油性剤を10質量部、アルカノールアミンを20質量部および水を70質量部含み、pHが9.2である水性潤滑剤99gに、表1に示す配合で調製した防錆剤組成物の試料液を各1g配合した水性防錆潤滑剤100gを、容量200ccのガラス瓶に入れて密封し、40℃の恒温槽に入れて同温度に維持しつつ時々加振し、ガラス瓶内壁へのゲル状物の付着状況を目視確認する。
【0039】
「防錆試験」
油性剤を10質量部、アルカノールアミンを20質量部および水を70質量部含み、pHが9.2である水性潤滑剤99gに、表1に示す配合で調製した防錆剤組成物の試料液を各1g配合し、水性防錆潤滑剤を100g調製する。そして、該水性防錆潤滑剤の調製直後のもの、および40℃の恒温槽内で1ヶ月間保存したものについて、夫々を水で20倍量に希釈して水希釈液とする。得られる水希釈液のpHは何れも約9.2であった。この水希釈液を使用し、JIS K 2241、7.9(切削油剤:金属腐食試験方法)に準拠してアルミニウム合金板(JIS H 4000 A1050P)の半浸漬試験(25℃、2日間)を行ない、下記の基準で防錆能を評価した。
◎:変色なし、○:少し変色あり、△:茶色に変色、×:黒色に変色。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
表1〜3より、次の様に解析できる。
【0044】
実施例No.1〜7は、本発明の規定要件を満たす実施例で、アルカリ珪酸塩と、該珪酸塩のゲル化抑制成分となる有機珪素化合物が適量含まれているため、製造直後はもとより40℃で1〜6ヶ月保存した後でもゲル化を起こすことなく安定であり、且つ優れた防錆能を有している。
【0045】
しかし、アルカリ珪酸塩を単独で使用した比較例1〜3では、製造直後の防錆能は良好であるものの、40℃で保存すると僅か1日でゲル状物が生成し、それに伴って防錆能も大幅に劣化している。また、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランをアルカリ珪酸塩と併用せず単独で使用したのでは、防錆効果が劣悪で実用に耐えない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防錆成分として下記一般式(1)で示される水溶性アルカリ珪酸塩を含み、且つ、該珪酸塩のゲル化抑制成分として下記一般式(2)で示される有機珪素化合物を含有することを特徴とする防錆剤組成物。
2O・nSiO2・・・・・・(1)
(式中、Mはアルカリ金属、nは0超10以下の正数を表わす)
【化1】

(式中、nは任意の整数、mは1〜4の整数で、Rは水酸基または炭素数1〜4の炭化水素基を表わす)
【請求項2】
前記有機珪素化合物が、下記一般式(3)で示される有機珪素化合物である請求項1に記載の防錆剤組成物。
【化2】

(式中、nは任意の整数を表わす)
【請求項3】
請求項1または2に記載の防錆剤組成物を含有することを特徴とする水性防錆潤滑剤。
【請求項4】
前記水性防錆潤滑剤全体を100質量部としたとき、前記珪酸塩の含有量がSiO2として0.01〜10質量部、前記有機珪素化合物の含有量が0.01〜10質量部である請求項3に記載の水性防錆潤滑剤。
【請求項5】
前記請求項3または4に記載の水性防錆潤滑剤を、防錆を兼ねた潤滑剤として使用することを特徴とする金属の防錆潤滑法。
【請求項6】
金属材を加工するに当たり、前記請求項3または4に記載された水性防錆潤滑剤の水希釈液を加工面に存在させた状態で加工することを特徴とする金属材の加工法。
【請求項7】
金属材の加工が、切断、切削、穿孔または研磨加工である請求項6に記載の加工法。
【請求項8】
金属材としてアルミニウムまたはアルミニウム合金を使用する請求項6または7に記載の加工法。

【公開番号】特開2006−299357(P2006−299357A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123928(P2005−123928)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(596148629)中部キレスト株式会社 (31)
【出願人】(592211194)キレスト株式会社 (30)
【Fターム(参考)】