説明

防錆性に優れる熱延鋼板及びその製造方法

【課題】 鋼成分や製造工程を厳密に規制することなしに、優れた防錆性を確保した熱延鋼板を提供する。
【解決手段】 鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板を製造するに当り、該熱間圧延により鋼板表面に生成したスケールの厚みを、酸洗して0.1〜3μmに調整したのち、該スケールの表面に防錆油を塗布することを特徴とする防錆性に優れた熱延鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期にわたり錆の発生を抑制できる防錆性に優れた熱延鋼板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延を経た熱延鋼板の表面には、5〜20μmの厚い酸化皮膜(スケール)が生成する。スケールが生成した熱延鋼板は、スケール自体に錆を防止する効果があるため、その密着性を改善し、熱延ままの表面で使用される場合もあるが、通常、酸洗やショットブラストなどの脱スケール処理を施してから、曲げ加工や絞り加工等の成形に供されるのが普通である。それは、スケールが付着していると、成形加工を行う際に剥離を生じ、得られる製品の外観品質を著しく損ねるのは勿論、その後に行われる塗装やめっき等の表面処理を著しく困難とするからである。また、剥離したスケールは、加工ラインやその作業環境の汚染を招き、作業性を悪化させることにもなるからである。
【0003】
しかし、JIS G 4051やJIS G 4401、G 4404、G 4053等に規程されるような特殊鋼の分野では、通常、プレス等の加工の後で、焼き入れ、焼き戻し等の熱処理が行われることが多い。この場合には、その熱処理によって製品表面にスケールが生成されるため、後工程において脱スケール処理することが必須となる。したがって、このような用途に用いられる熱延鋼板に、過度の脱スケールを要求することは、酸洗コストの上昇を招くだけである。そこで、このような熱延鋼板には、ある程度のスケールの残存は許容され、スケール密着性に優れることのみが要求されることになる。
【0004】
さらに、特殊鋼は、合金成分の添加量が多いため、本質的に錆が発生し易いことに加えて、使用量が少ない割に、製造から使用されるまでの期間が長いことが多い。そのため、錆の発生を回避することが重要である。というのは、錆は、通常、鋼板の表面から内部に向かって進行するため、いったん錆が発生した場合には、重研削をしない限り、容易に除去することができないからである。
【0005】
上記課題に対して、特許文献1には、Alに加え,P,CuおよびNiを添加し、スケール層の厚さを5μm以下とすることにより、スケール密着性と耐食性に優れた熱延鋼板を得る技術が開示されている。さらに、特許文献1には、スケール密着性に優れた熱延鋼板の製造方法について、仕上げ圧延を1100℃以下で開始して900℃以下で終了し、仕上圧延終了後2秒以内に強制冷却を開始し、少なくとも700℃までは冷却速度20℃/秒で急冷したのち、550℃以下で巻取ることが記載されている。
【0006】
しかし、この特許文献1に記載された技術では、耐食性は、鋼板に対するスケールの密着性に依存しているため、例えば、接触等によりスケールに疵が発生した場合には、その疵を起点とした錆の発生を防ぐことが難しい。また、添加元素が特定されていること、および、Al下限が0.1%と高いために、熱処理中にAl23を起点としたHの侵入による膨れが発生し易く、膨れ欠陥の多発が予想されることから、上記した特殊鋼への適用は難しいものであった。
【0007】
また、特許文献2には、Crを5〜18%含む鋳片を1100〜1300℃に再加熱し、熱間圧延した後、550℃以上の温度でコイルに巻取り、その後、550℃以上に30分以上保持してから冷却して、錆止め油を含浸しやすい鋼板を得ることにより、表面疵を起点とした錆の発生を防止する技術が開示されている。
【0008】
しかし、製造工程としてコイルを550℃以上に30分以上保持するために、この熱処理に専用の特殊な装置が必要であり、経済性を損なうものであった。また、Crを大量に添加するために、上記した特殊鋼へ適用することはできない。
【特許文献1】特開平10−212560号公報
【特許文献2】特開平11−229112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特に鋼成分や製造工程を厳密に規制することなしに、優れた防錆性を確保した熱延鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、熱延鋼板の防錆性を、さび止め油などの鋼板一般に使用される防錆油を用いることを前提として、この防錆油を鋼板表面に確実に保持する手段について鋭意究明した。その結果、軽酸洗を施したスケールは、防錆油の保持機能に優れること、さらにそのスケール自体も防錆に寄与することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明は、酸洗後の鋼板表面に、0.1〜3μmの厚さのスケール層を設けてなり、かつそのスケール層は防錆油を含浸させたものであることを特徴とする防錆性に優れる熱延鋼板である。
【0012】
また、本発明は、鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板を製造するに当り、該熱間圧延により鋼板表面に生成したスケールの厚みを、酸洗によって0.1〜3μmに調整し、その後、該スケールの表面に防錆油を含浸させることを特徴とする防錆性に優れる熱延鋼板の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱延鋼板表面のスケールを介して防錆油が安定して保持されるため、鋼成分や製造工程を厳密に規制することなしに、しかも特殊な防錆油を用いることなしに、優れた防錆性を長期にわたり確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る熱延鋼板およびその製造方法について説明する。
本発明は、鋼板全般を適用対象とすることができ、特に鋼板の成分組成を限定する必要はない。従って、JIS G 3131に規定されているような一般熱延鋼板から、上述したような特殊鋼の分野まで、幅広い範囲に適用が可能である。すなわち、本発明は、熱間圧延を経て表面にスケールが生成したものが対象であり、このスケールを、酸洗によって0.1〜3μmの厚さに調整することが肝要である。ここで、酸洗を行う理由は、スケール層を調整するのに加え、防錆油の保持効果を高めるためである。図1に軽酸洗後のスケール層の構造を模式的に示した。軽酸洗を施したスケール層1は、多数の細孔2のある多孔質となり、さらにスケール層1の表面には微細な凹凸が形成される。その結果、酸洗後、スケールを残存した鋼板には、上記細孔2および凹部3に防錆油4を含浸、保持する機能が備わる。
【0015】
また、酸洗によってスケール層の厚さを0.1〜3μmに調整する理由は、まずスケール層の厚みが0.1μm未満では、錆の発生を防止し得るだけの十分な防錆油の保持ができないからである。一方、スケール層の厚みが3μmを超えると、スケールの密着性が低下して剥離し易くなる結果、却って、加工品の表面疵の原因となったり、加工ラインを汚染して作業性の低下を招いたり等するからである。
【0016】
なお、酸洗の条件については、特に限定する必要はなく、酸洗後のスケール層の厚みが上記の範囲となる酸洗を行えばよい。したがって、塩酸酸洗、硫酸酸洗あるいはフッ酸を用いた酸洗等いずれでもよく、また、酸洗浴の酸濃度、温度等についても特に限定されるものではない。
【0017】
酸洗後にスケールの表面に防錆油を含浸させる方法としては、塗油、静電塗油等いずれの方法でもよく、特に限定されるものではない。また、酸洗後に塗布される防錆油としては、鋼板用の防錆油として使用されているものであれば、特に限定する必要はなく、例えばJIS K 2246−1994の規格に示されるさび止め油を用いることができる。防錆油の塗布量についても特に限定しないが、通常の防錆油の範囲内(1.0〜3.0g/m2)であれば十分である。
【実施例】
【0018】
C:0.81mass%、Si:0.21mass%、Mn:0.35mass%、P:0.012mass%、S:0.003mass%、Cr:0.30mass%、Ni:1.45mass%、Cu:0.01mass%、Al:0.030massの成分組成を有する特殊鋼素材(SKS51)を、仕上圧延終了温度FDT:880℃、巻取温度CT:600〜700℃とする熱間圧延を行い、表面に厚さが1.2μmと5.9μmの2水準のスケールが生成した板厚3.0mmの熱延鋼板を製造した。次いで、この熱延鋼板を塩酸酸洗ラインで種々の条件で酸洗し、スケールの残存厚さを変化させ、その後、鋼板表面にJIS K 2246−1994に適合するさび止め油(プレトンR−850;スギムラ化学工業(株)製)を3.0g/m2塗布した後、コイルに巻き取った。
【0019】
かくして得られた熱延鋼板のコイルを、未梱包のまま、空調設備のないコイル倉庫内に1年間保管したのち、コイルを精整ラインで巻き戻して、1年経過後の鋼板表面の錆面積率を調査すると共に、コイルからサンプルを採取して、鋼板表面の防錆油保持量およびスケール密着性を測定した。ここで、錆面積率は、先後端の10mを除く任意の10箇所の位置で撮影した鋼板表面の写真を画像解析処理して算出した。また、防錆油の保持量は、上記サンプルを脱脂した時の、脱脂前後の重量差から求めた。また、スケール密着性は、上記サンプルを脱脂後、鋼板表面にセロハンテープを貼り付けてから引き剥がし、セロハンテープに付着したスケールを目視観察し、スケール剥離が生じた面積率を評価した。
【0020】
上記調査結果を表1に示す。なお、表のうち、No.3はスケール厚を1.2μmで製造したものであり、他は、スケール厚5.9μmとして製造したものである。この結果から、本発明に適合する熱延鋼板は、耐錆性に優れると共に、スケール密着性にも優れていることがわかる。
【0021】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に従うスケールの構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0023】
1:スケール
2:細孔
3:凹部
4:防錆油
5:熱延鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸洗後の鋼板表面に、0.1〜3μmの厚さのスケール層を設けてなり、かつそのスケール層は防錆油を含浸させたものであることを特徴とする防錆性に優れる熱延鋼板。
【請求項2】
鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板を製造するに当り、該熱間圧延により鋼板表面に生成したスケールの厚みを、酸洗によって0.1〜3μmに調整し、その後、該スケールの表面に防錆油を含浸させることを特徴とする防錆性に優れる熱延鋼板の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2006−328480(P2006−328480A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153650(P2005−153650)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】