説明

防音送話器

【課題】遮音カバーに格別な工夫を施すことなく、大きな騒音下においても集音する音声の明瞭度を確保することができ、音声の品質を維持することが可能な防音送話器を提供すること。
【解決手段】使用者1の少なくとも口を覆うようにして装着される遮音カバー2内に送話用マイクロホン7が配置される。遮音カバーの外側には外部の騒音を検出する騒音検出用マイクロホン9が配置され、当該騒音検出用マイクロホンからの出力信号に基づいて騒音成分キャンセル信号を生成する騒音成分キャンセル回路11が具備される。前記騒音成分キャンセル回路11からの出力信号によって騒音成分キャンセル音を再生する電気音響変換器8が前記遮音カバー内に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高い騒音下の環境において、集音する音声の明瞭度を確保し、音声の品質を維持することができる防音送話器に関する。
【背景技術】
【0002】
比較的高い騒音下において音声を集音するには、接話マイクロホンが用いられる。この接話マイクロホンは、一次音圧傾度型(単一指向性)もしくは一次音圧傾度型のマイクロホンユニットを2つ用いて二次音圧傾度型とする形態のものも提案されているが、より高い騒音下においては実用上において限界がある。
【0003】
そこで、より高い騒音下においては咽喉部の振動を圧電素子などでピックアップする咽喉マイクロホンが提案されている。この咽喉マイクロホンによると、咽喉部の振動のみを検出するために口元で発生する摩擦音や破裂音などを集音することができない。このために音声の明瞭度を確保することが困難である。
【0004】
一方、高い騒音下において口から発生する音波を集音させる機能を持たせた「マイク覆い付きたい頭送受話器」が非特許文献1において提案されている。
また、この「マイク覆い付きたい頭送受話器」とは用途は異なるものの、音声を周囲に漏らさずにマイクロホンに加えるために、マイクロホンに遮音カバーを取り付けてなる送話装置が特許文献1,2および非特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−207116号公報
【特許文献2】特開平9−307614号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「マイク覆い付きたい頭送受話器GJH−103」の製品カタログ、神田通信工業株式会社
【非特許文献2】「防音マイクミュートVMM−150」の製品カタログ、有限会社メディアコム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、音声は口から吐き出される呼気と同時に発生するものであり、したがって前記特許文献1,2および非特許文献1,2に開示されているように、遮音カバー内にマイクロホンを配置する構成においては、呼気を遮音カバーから排出するするための開口(ベント)が必要になる。
一方、遮音カバーに呼気を排出する開口を設けた場合には、騒音が前記開口より遮音カバー内に入り込み、マイクロホンにより集音される音声信号は前記騒音の影響を受けることになる。
【0008】
そこで、遮音カバーに設けられた呼気を排出するための前記開口に、例えば長い音響管を取り付けたり、また大きな騒音が入り込まない空気室を設けるなどの工夫を施すことで、遮音カバー内への騒音の侵入を低減させることができるものの、前記音響管や空気室などの付帯物を含めた遮音カバーの全体が大型化し、実用的ではない。
【0009】
この発明は、前記した技術的な背景に基づいてなされたものであり、前記遮音カバーに格別な工夫を施すことなく、大きな騒音下においても集音する音声の明瞭度を確保することができ、音声の品質を維持することが可能な防音送話器を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかる防音送話器は、使用者の少なくとも口を覆うようにして装着される遮音カバーと、前記遮音カバー内に配置された送話用マイクロホンと、前記遮音カバーの外側に配置されて外部の騒音を検出する騒音検出用マイクロホンと、当該騒音検出用マイクロホンからの出力信号に基づいて騒音成分キャンセル信号を生成する騒音成分キャンセル回路と、前記遮音カバー内に配置されて前記騒音成分キャンセル回路からの出力信号によって騒音成分キャンセル音を再生する電気音響変換器とが具備され、前記送話用マイクロホンには、使用者が発する音声に加えて、前記電気音響変換器からの騒音成分キャンセル音が供給され、前記遮音カバーを介して送話用マイクロホンに到達する外部からの騒音成分を、前記騒音成分キャンセル音によって打ち消すように構成されている点に特徴を有する。
【0011】
この場合、一つの好まして形態においては、前記遮音カバーの一部に、呼吸用のベントが開口された構成が採用される。
【0012】
また、前記騒音成分キャンセル回路には、好ましくは前記騒音検出用マイクロホンからの出力信号のうち、低域波成分を選択するローパスフィルタが備えられ、当該ローパスフィルタにより選択された低域波成分を利用して騒音成分キャンセル信号を生成するように構成される。
【0013】
加えて、好ましい形態においては、前記騒音成分キャンセル回路と前記電気音響変換器との間には、騒音成分キャンセル回路からの出力信号を電力増幅するパワーアンプが介在される。
【発明の効果】
【0014】
前記した構成の防音送話器によると、遮音カバー内に配置された送話用マイクロホンによって使用者が発する音声が集音され、送話用マイクロホンに届く外部の騒音は前記遮音カバーによってある程度遮音することができる。
加えて、外部の騒音を検出する騒音検出用マイクロホンからの出力信号に基づいて、騒音成分キャンセル回路により騒音成分キャンセル信号が生成され、このキャンセル信号により遮音カバー内に配置された電気音響変換器が駆動される。
これにより、前記遮音カバーを介して送話用マイクロホンに到達する外部からの騒音成分を、前記電気音響変換器からの騒音成分キャンセル音によって効果的に打ち消すことができ、前記送話用マイクロホンによって、外部騒音による影響を大幅に低減した音声出力を得ることができる。
【0015】
したがって、一部に呼吸用のベントを開口した遮音カバーを用いた場合においては、前記ベントを介して送話用マイクロホンに届く外部からの騒音に対して、前記騒音成分キャンセル音によって、効果的な騒音打ち消し効果を発揮させることができる。
また、遮音カバーに呼吸用のベントを開口せずに、遮音カバーの周縁部と使用者の顔との間に隙間を形成した構成であっても、前記隙間を介して送話用マイクロホンに届く外部からの騒音に対して、同様に打ち消し効果を発揮させることができる。
【0016】
そして、ベントを開口した前者の遮音カバーを用いた場合であっても、ベントを開口せずに、遮音カバーの周縁部と使用者の顔との間に隙間が形成される遮音カバーを用いた場合であっても、使用者の口元で発生する摩擦音や破裂音を前記送話用マイクロホンによって音声信号として検出することができるので、音声の明瞭度を確保することができ、音声の品質を維持することが可能な防音送話器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明にかかる防音送話器を使用者の顔に装着した状態を示す模式図である。
【図2】図1に示す防音送話器に用いられる騒音成分キャンセル回路を含む駆動回路の構成例を示したブロック図である。
【図3】図2に示す騒音成分キャンセル回路に用いられる騒音信号成分のローパス特性の一例を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明にかかる防音送話器について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。図1における符号1は、使用者の顔を模式的に描いたものであり、この発明にかかる防音送話器を構成する遮音カバー2は少なくとも使用者1の口を覆うようにして装着される。すなわち、図1に示す例においては、遮音カバー2は装着状態において使用者1の口および鼻を覆うように構成されている。
【0019】
前記遮音カバー2は、軟質な素材により形成され、使用者1の口および鼻まわりの顔の一部に密着する周縁部2aと、この周縁部2aに一体に形成されて、顔の前面側に位置する例えばゴム素材等により成形されたカバー本体部2bより構成されている。
【0020】
前記カバー本体部2bは、使用者1の口元において比較的大きな空間部2cを形成するように外側に湾曲した形態になされており、図に示す例においては、前記カバー本体部2bの中央部よりも若干上側の位置において、ベント3が開口されている。
このベント3は、使用者1の口または鼻からの呼吸気を通すものであり、この呼吸用のベント3を覆うようにして、多孔質体によるシート状の音響抵抗体4が取り付けられている。
【0021】
また、前記遮音カバー2内には、送話用マイクロホン7および電気音響変換器(スピーカ)8が配置されている。すなわち、送話用マイクロホン7は、使用者1の口元に対峙するように配置され、電気音響変換器8は前記送話用マイクロホン7に対峙するように配置されている。
【0022】
なお、図1に示す模式図においては、送話用マイクロホン7および電気音響変換器8は、前記遮音カバー2内で浮いたように描かれているが、これらは例えば前記したカバー本体部2bの内側面に、図示せぬ取り付け部材等を用いて取り付けられている。
したがって、前記送話用マイクロホン7には、使用者が発する音声に加えて、前記電気音響変換器8からの再生音が供給されることになる。
【0023】
一方、符号9は前記遮音カバー2の外側に配置されて外部の騒音を検出する騒音検出用マイクロホンを示しており、この騒音検出用マイクロホン9による出力信号は、騒音成分キャンセル回路11に供給されるように構成されている。
この騒音成分キャンセル回路11により生成される騒音成分キャンセル信号は、これを電力増幅するパワーアンプ12に供給され、このパワーアンプ12による出力は、前記遮音カバー2内に配置された電気音響変換器8を駆動するように構成されている。
【0024】
なお、図1に示す模式図においては、騒音検出用マイクロホン9、騒音成分キャンセル回路11およびパワーアンプ12は、前記遮音カバー2の外側に浮いたように描かれているが、これらは例えば前記したカバー本体部2bの外側面に、図示せぬ取り付け部材等を用いて取り付けられている。
【0025】
図2および図3は、前記した騒音検出用マイクロホン9から電気音響変換器8に至る騒音成分キャンセル音の再生系統の一例について示したものであり、以下、この図2および図3を含めて、この発明にかかる防音送話器のより詳細な構成について説明する。
【0026】
図2に示す騒音検出用マイクロホン9は、前記したとおり外部の騒音を検出するものであり、その出力信号は前記したとおり騒音成分キャンセル回路11に供給される。
図2に示す騒音成分キャンセル回路11には、その初段にプリアンプ(電圧増幅器)11aが備えられている。なお、騒音検出用マイクロホン9の出力感度が大きい場合には、前記プリアンプ11aは、必ずしも必要ではない。
【0027】
前記プリアンプ11aの出力は、低域波成分を選択するローパスフィルタ11bに加えられ、前記ローパスフィルタ11bにより選択された低域波成分が、騒音成分キャンセル信号として利用される。
前記ローパスフィルタ11bは、図3に示すように例えば200Hz前後の低域波を通過させる特性を有しており、このローパスフィルタ11bにより得られる低域波成分は、この実施の形態においては、位相反転回路11cによって位相反転するようになされる。
【0028】
すなわち、前記位相反転回路11cは、低域波成分を位相反転させることによる逆相信号により騒音成分キャンセル信号を生成するものとなる。
この位相反転回路11cによって得られる騒音成分キャンセル信号は、ポテンションメータ11dを介してレベル調整され、騒音成分キャンセル回路11の出力となる。
【0029】
そして、前記騒音成分キャンセル回路11からの騒音成分キャンセル信号は、パワーアンプ12によって電力増幅され、前記遮音カバー2内に配置された電気音響変換器8を駆動して、騒音成分キャンセル音を再生することになる。
なお、前記騒音成分キャンセル回路11におけるポテンションメータ11dは、前記電気音響変換器8から再生される騒音成分キャンセル音のレベルを制御するものであり、これにより後述する騒音成分の打ち消し効果を調整することができる。
【0030】
前記した騒音成分キャンセル回路11およびパワーアンプ12は、機能上においては動作が異なるので、図においては二つに分けて説明しているが、これらは1つの基板上において形成することができる。
そして、パワーアンプ12の出力端子に対する電気音響変換器8の正負の接続関係を正規とは逆に接続することで、実質的に電気音響変換器8の出力位相を反転させることができるので、この接続構成を採用することで、前記した騒音成分キャンセル回路11における位相反転回路11cを省略することができる。
【0031】
ところで、図1に示す遮音カバー2内に配置された送話用マイクロホン7には、前記したとおり、使用者が発する音声が加えられると共に、遮音カバー2に形成された前記ベント3等を介して侵入する外部の騒音も加わることになる。
この場合、送話用マイクロホン7に達する外部騒音は、遮音カバー2の前記ベント3等を介した音響抵抗を受けるため、外部騒音のうちの低域成分が主に加わるものとなる。
【0032】
そこで、送話用マイクロホン7に対峙する前記電気音響変換器8からは、騒音成分キャンセル回路11による騒音成分キャンセル音が再生され、これが送話用マイクロホン7に供給される。
前記電気音響変換器8より送話用マイクロホン7に供給される騒音成分キャンセル音は、前記したとおり騒音成分のうちの低域成分を位相反転したものであり、したがって遮音カバー2を介して送話用マイクロホン7に到達する外部からの騒音成分は、電気音響変換器8からの騒音成分キャンセル音によって効果的に打ち消され、送話用マイクロホン7においては騒音の影響を大幅に低減させることができる。
【0033】
一方、使用者が発する音声は送話用マイクロホン7によって集音され、その音声出力を端子Outにもたらすことができる。
この場合、使用者の口元で発生する摩擦音や破裂音も前記送話用マイクロホンによって音声信号として検出することができるので、音声の明瞭度を確保することができ、音声の品質を維持することが可能な防音送話器を提供することが可能となる。
【0034】
なお、前記した実施の形態においては、遮音カバー2に呼吸用のベント3を開口した例を示しているが、遮音カバーに呼吸用のベントを開口せずに、遮音カバーの周縁部と使用者の顔との間に隙間が形成される遮音カバーを利用しても、同様の作用効果を発揮することができる。
【0035】
また、前記した実施の形態においては、騒音成分キャンセル回路11において位相反転回路11cが用いられている。
これは、前記した騒音検出用マイクロホン9と送話用マイクロホン7との間の距離が小さく、しかも例えば200Hz前後の低域波は位相回りが小さいので、騒音の十分なキャンセル効果を期待することができるためである。
しかし、必要に応じて位相回りの程度を変更調節することができる位相変換回路(フェーズシフタ回路)を位相反転回路に代えて用いることもできる。
【符号の説明】
【0036】
1 使用者
2 遮音カバー
2a 周縁部
2b カバー本体部
2c 空間部
3 ベント
4 音響抵抗体
7 送話用マイクロホン
8 電気音響変換器(スピーカ)
9 騒音検出用マイクロホン
11 騒音成分キャンセル回路
11a プリアンプ
11b ローパスフィルタ
11c 位相反転回路
11d ポテンションメータ
12 パワーアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の少なくとも口を覆うようにして装着される遮音カバーと、前記遮音カバー内に配置された送話用マイクロホンと、前記遮音カバーの外側に配置されて外部の騒音を検出する騒音検出用マイクロホンと、当該騒音検出用マイクロホンからの出力信号に基づいて騒音成分キャンセル信号を生成する騒音成分キャンセル回路と、前記遮音カバー内に配置されて前記騒音成分キャンセル回路からの出力信号によって騒音成分キャンセル音を再生する電気音響変換器とが具備され、
前記送話用マイクロホンには、使用者が発する音声に加えて、前記電気音響変換器からの騒音成分キャンセル音が供給され、前記遮音カバーを介して送話用マイクロホンに到達する外部からの騒音成分を、前記騒音成分キャンセル音によって打ち消すように構成されていることを特徴とする防音送話器。
【請求項2】
前記遮音カバーの一部には、呼吸用のベントが開口されていることを特徴とする請求項1に記載された防音送話器。
【請求項3】
前記騒音成分キャンセル回路には、前記騒音検出用マイクロホンからの出力信号のうち、低域波成分を選択するローパスフィルタが備えられ、当該ローパスフィルタにより選択された低域波成分を利用して騒音成分キャンセル信号を生成することを特徴とする請求項1に記載された防音送話器。
【請求項4】
前記騒音成分キャンセル回路と前記電気音響変換器との間には、騒音成分キャンセル回路からの出力信号を電力増幅するパワーアンプが介在されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載された防音送話器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−220770(P2012−220770A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87387(P2011−87387)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】