説明

防風雪柵

【課題】防風雪柵に用いられる遮蔽幕にかかる負荷を低減させつつ、防風雪柵から風下側において風が減速する範囲で風及び風によって運ばれる雪が速やかに吹き抜けるようになされた防風雪柵を提供する。
【解決手段】支柱1間に、多数の通風口21が形成された遮蔽幕2が設けられ、遮蔽幕2の通風口21から風が吹き抜けることにより、風が減速されるようになされた防風雪柵Pであって、各通風口21は、その1個の面積を144mm以下とし、かつ遮蔽幕2全体に対する通風口21の開口率を40%以上とすることにより、遮蔽幕2の通風口21を吹き抜ける風に対して、遮蔽幕2の位置から遮蔽幕2の縦幅の4倍の位置に至るまでの風が減速される範囲において、逆流及び乱流を生じさせないように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般道路や高速道路等の路側に沿って設置され、強風や雪害を防止するための防風雪柵に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速道路や一般道路などにおいて横風防止や雪害防止を目的とした防風雪柵が設置されている。防風雪柵としては、網状体、ネット、シートに透孔を形成したもの等の遮蔽幕を用いるものや、金属板等を上下に間隔をおいて設置したもの等がある。例えば、特許文献1には、直径が2〜10mmの透孔がシート全体に均一に分布し、且つ開口率が20〜50%である防雪用透孔シートが提案されている。
【0003】
この防雪用透孔シートは、該シートが取付けられる防雪装置の風上側で小さな乱流を発生させ、風下直下で瞬間的に大きな乱流を発生させ、更により風下側でこの乱流を消失させて風下側の道路上で風速を上げることにより、道路上への堆積を防止しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−21761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記の防雪用透孔シートにおいては、風下直下で大きな乱流を意図的に発生させるようになされているため、該シートが取付けられる防雪装置の風下直下で大きな乱流が発生すると、シートには風上側からの風圧と風下側からの不規則な圧力によって大きな負荷がかかることになり、シートの破断や変形等の耐久性が低下する虞れがあった。
【0006】
本発明は、防風雪柵に用いられる遮蔽幕にかかる負荷を低減させ、かつ防風雪柵から風下側において風が減速する範囲で風及び風によって運ばれる雪が速やかに吹き抜けるようになされた防風雪柵を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は次のような構成としている。
【0008】
すなわちこの発明に係る防風雪柵は、立設された複数の支柱間に、多数の通風口が形成された可とう性を有する遮蔽幕が設けられ、該遮蔽幕の一方の面から他方の面に前記通風口から風が吹き抜けることにより、風が減速されるようになされた防風雪柵であって、前記各通風口は、その1個の面積を144mm以下とし、かつ遮蔽幕全体に対する前記通風口の開口率を40%以上とすることにより、遮蔽幕の前記通風口を吹き抜ける風に対して、遮蔽幕の位置から遮蔽幕の縦幅の4倍の位置に至るまでの風が減速される範囲において、逆流及び乱流を生じさせないようにしたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る防風雪柵において、前記通風口の1個の面積が144mm〜9mmであり、かつ遮蔽幕全体に対する前記通風口の開口率が40%〜60%であるように構成してもよい。
【0010】
又本発明に係る防風雪柵において、前記遮蔽幕を、繊維で格子状に編成し、縦方向に延びる帯状部と横方向に延びる帯状部とが形成された網状体からなると共に、縦方向に延びる帯状部と横方向に延びる帯状部とで囲まれる各空間を通風口となるように構成してもよい。
【0011】
更に本発明に係る防風雪柵において、前記通風口を、一辺が3mm〜12mmのほぼ正方形とし、かつ遮蔽幕全体に対する前記通風口の開口率を40%〜60%となるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、遮蔽幕の各通風口は、その1個の面積を144mm以下とし、かつ遮蔽幕全体に対する前記通風口の開口率を40%以上とすることにより、遮蔽幕の前記通風口を吹き抜ける風に対して、遮蔽幕の位置から遮蔽幕の縦幅の4倍の位置に至るまでの風が減速される範囲において、逆流及び乱流を生じさせないようにしたので、遮蔽幕から風下直近では乱流等が生じず、風は減速された整流状態で遮蔽幕を吹き抜けて風圧による遮蔽幕への負荷を低減させることができ、且つ風が減速される範囲においては整流状態のまま滞留せずに吹き抜け、防風雪柵の風下側に位置する道路上の積雪を防ぎ、運転手に対する視程障害を低減させることができる。
【0013】
本発明に係る防風雪柵において、前記通風口の1個の面積が144mm〜9mmであり、かつ遮蔽幕全体に対する前記通風口の開口率が40%〜60%であるように構成すれば、遮蔽幕の剛性を保持し、遮蔽幕に付着した雪が遮蔽幕自身の振動で落下しやすくなるので、より好ましい。
【0014】
又本発明に係る防風雪柵において、前記遮蔽幕を、繊維で格子状に編成し、縦方向に延びる帯状部と横方向に延びる帯状部とが形成された網状体からなると共に、縦方向に延びる帯状部と横方向に延びる帯状部とで囲まれる各空間を通風口になるように構成すれば、遮蔽幕自身の振動が比較的減衰しやすいので、遮蔽幕自身への負荷が小さくなり、又バタツキ音が生じにくくなるので、より好ましい。
【0015】
更に本発明に係る防風雪柵において、前記通風口を、一辺が3mm〜12mmのほぼ正方形とし、かつ遮蔽幕全体に対する前記通風口の開口率を40%〜60%となるように構成すれば、遮蔽幕の作成が容易であり、縦横の区別なく遮蔽幕を利用することができるので、より好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る防風雪柵の実施の一形態を示す正面図である。
【図2】遮蔽幕の通風口の一片と開口率と関係を示す表である。
【図3】遮蔽幕の実施例を示す部分拡大概略図である。
【図4】遮蔽幕の比較例を示す部分拡大概略図である。
【図5】遮蔽幕の他の比較例を示す部分拡大概略図である。
【図6】遮蔽幕の試験方法を示す説明図である。
【図7】遮蔽幕の試験結果を示すグラフである。
【図8】遮蔽幕の試験結果を示すグラフである。
【図9】遮蔽幕を吹き抜ける風の挙動の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照し、具体的に説明する。
【0018】
図1において、1は立設された支柱、2は支柱1の間に設けられた遮蔽幕であり、本発明に係る防風雪柵Pは、支柱1及び遮蔽幕2から主に構成され、遮蔽幕2に形成された通風口21から風が吹き抜けることにより、風が減速されるものである。支柱1は、遮蔽幕2の横幅に応じて適宜間隔で立設されたものであり、一般には、強度的に安定しておりコストの安い丸パイプ、角パイプ等の鋼管や、断面H字状やT字状の鋼材が好適に用いられる。
【0019】
遮蔽幕2は、多数の通風口21が形成された可とう性を有するものであり、本実施形態では、繊維を格子状に編成し、縦方向に延びる帯状部22と横方向に延びる帯状部23とが形成された網状体からなる。そして、縦方向に延びる帯状部22と横方向に延びる帯状部23とで囲まれる各空間が通風口21となされている。
【0020】
遮蔽幕2は、特に網状体に限定されるものではなく、布状のもの、合成樹脂製のシート状のもの、可とう性のシートにパンチング加工を施したもの等、適宜用いてよい。
【0021】
遮蔽幕2は、本実施形態では、1個の遮蔽幕2を支柱1の間に設けたものであるが、上下に複数設けたものでもよく、或いは左右に複数連設したものでもよい。
【0022】
遮蔽幕2には、遮蔽幕2を端縁に沿って支持材3が取付けられている。そして、この支持材3により、大きな風圧が加わる遮蔽幕2が支持されると共に、該支持材3を介して、遮蔽幕2が支柱1の間に設けられている。
【0023】
支持材3は、大きな風圧が加わる遮蔽幕1を支持することを考慮すると金属製のものを用いるのが好ましく、アルミニウム、ステンレス、鉄鋼等のパイプ、形材や、それらにめっき、塗装を施したもの等を好適に用いることができる。
【0024】
かかる支持材3は、遮蔽幕2の上下端縁及び左右端縁に沿って設けられた矩形状の枠体とすれば遮蔽幕2をより強固に支持することができるので好ましいが、遮蔽幕2にかかる大きな風圧を支持できるものであれば、遮蔽幕2の上端端縁或いは左右端縁の一部のみに設けたものでもよい。
【0025】
以下、実施例により防風雪柵Pの遮蔽幕2の具体例及びその効果を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
ポリエステル製合成繊維をカラミ織により編成し、縦方向に延びる帯状体と横方向に延びる帯状体とが形成された網状体にして格子状の遮蔽幕を得た。
【0027】
図3の(a)は遮蔽幕の実施例1の部分拡大図を示すものであり、通風口はほぼ正方形となされ、一辺dが3mmで面積が9mm、遮蔽幕全体に対する通風口の開口率εは40%である。尚、図において、繊維の編成状態は省略して記載している。
【実施例2】
【0028】
図3の(b)は遮蔽幕の実施例2の部分拡大図を示すものであり、実施例1と同様な方法で得た遮蔽幕である。通風口はほぼ正方形となされ、一辺dが12mmで面積が144mm、遮蔽幕全体に対する通風口の開口率εは40%である。
【0029】
[比較例1]
図4の(a)は遮蔽幕の比較例1の部分拡大図を示すものであり、通風口21はほぼ正方形となされ、一辺dが2mmで面積が4mm、遮蔽幕2全体に対する通風口21の開口率εは30%であること以外は、実施例1と同様である。
【0030】
[比較例2]
図4の(b)は遮蔽幕の比較例2の部分拡大図を示すものであり、通風口はほぼ正方形となされ、一辺dが4mmで面積が16mm、遮蔽幕全体に対する通風口の開口率εは30%であること以外は、実施例1と同様である。
【0031】
[比較例3]
図4の(c)は遮蔽幕の比較例3の部分拡大図を示すものであり、通風口はほぼ正方形となされ、一辺dが8mmで面積が64mm、遮蔽幕全体に対する通風口の開口率εは35%であること以外は、実施例1と同様である。
【0032】
[比較例4]
図5の(a)は遮蔽幕の比較例4の部分拡大図を示すものであり、通風口はほぼ正方形となされ、一辺dが24mmで面積が576mm、遮蔽幕全体に対する通風口の開口率εは40%であること以外は、実施例1と同様である。
【0033】
[比較例5]
図5の(b)は遮蔽幕の比較例5の部分拡大図を示すものであり、通風口はほぼ正方形となされ、一辺dが24mmで面積が576mm、遮蔽幕全体に対する通風口の開口率εは33%であること以外は、実施例1と同様である。
【0034】
これら実施例、比較例の通風口の一辺dと開口率εとの関係を図2に示し、表1に示された遮蔽幕の実施例の部分拡大概略図を図3、比較例の部分拡大概略図を図4,5に示す。又図1中の符号A〜F,Hは実施例1,2、及び比較例1〜5に対応している。
【0035】
上記のようにして得られた本発明に係る防風雪柵Pの遮蔽幕及び比較例に示した遮蔽幕について、図6に示された測定装置を用いて、遮蔽幕の一方の面から他方の面に、通風口から吹き抜けた風の挙動を観測した。尚、遮蔽幕の実際の設置環境を考慮して、遮蔽幕の上方及び下方を通過する風の挙動も併せて観測した。
【0036】
図6の測定装置の概要は以下の通りである。
使用装置:レーザードップラー流速計
測定方法:試験機本体において遮蔽幕を空中で保持し、遮蔽幕の風上の粒子発生機から一定速度で粒子を流し、測定器から照射される2本のレーザービームを交差させて交差領域に干渉縞を形成し、該交差領域を移動させながら交差領域を通過する粒子の速度を散乱光の周波数に基づいて検出することにより、主に遮蔽幕の風下側での速度変化を測定する。
【0037】
図7,8は、上記試験に基づき、遮蔽幕の一方の面から他方の面に通風口から風が吹き抜けた際、遮蔽幕からの位置xを遮蔽幕の縦幅Lで除したx/Lを横軸に、その位置での風の速度Uを初速度Uで除したU/Uを縦軸に表したものを示したグラフである。
【0038】
図9は、風の挙動の模式図を示すものであり、図7,8の縦軸のU/Uにおいて、正の値は風が風下側へ吹き抜けている順流Jであることを示し、逆に負の値は風が反対方向に流れる逆流Gを示し、又不規則に乱れ流れているものは乱流Rを示す。
【0039】
図7に見られるように、遮蔽幕全体に対する通風口の面積が40%未満の比較例1〜3(C,D,E)は、遮蔽幕の通風口1個の面積に寄らず、遮蔽幕の位置が遮蔽幕の縦幅の1〜3倍の位置において風の速度が負の値となり、逆流Gが生じていることが分かる。これにより、一般道路や高速道路等において道路の路側から比較的近接して防風雪柵が設置される場合は、遮蔽幕を通過した風雪が道路上を速やかに吹き抜けず滞留が生じ、道路上に積雪したり、通行する車の運転手に対して視程障害等の悪影響が発生したりする虞れがある。
【0040】
従って、遮蔽幕全体に対する通風口の面積が40%以上であれば、遮蔽幕の位置から遮蔽幕の縦幅の4倍の位置に至るまでの風が減速される範囲において、風の逆流Gは発生しないため、遮蔽幕を通過した風雪が道路上を速やかに吹き抜け、道路を通行する車の運転手に対する視程を確保しやすくなる。
【0041】
又図8に見られるように、遮蔽幕の通風口の一辺dが12mmで面積が144mm以上の比較例4,5(F,H)では、通風口の開口率に寄らず遮蔽幕の風下直下で風の速度の変化が大きく、又不規則となり、乱流Rが生じていることが分かる。これにより、遮蔽幕の風上側からの風圧と風下側の乱流Rに起因する不規則な圧力により、遮蔽幕に大きな負荷がかかることになり、遮蔽幕の破断や変形等が生じて耐久性が低下する虞れがある。
【0042】
従って、遮蔽幕全体に対する通風口の開口率が40%以上であり、且つ遮蔽幕の通風口の一辺が3〜12mm、通風口の面積が144mm〜9mmであれば、遮蔽幕の位置から遮蔽幕の縦幅の4倍の位置に至るまでの風が減速される範囲において、逆流Gや乱流Rは発生しないため、遮蔽幕を通過した風雪が道路上を速やかに吹き抜け、道路を通行する車の運転手に対する視程を確保しやすくなる。
【0043】
尚、遮蔽幕の位置から遮蔽幕の縦幅の4倍の位置に至るまでの風が減速される範囲に限定して、逆流・乱流の存在を測定した理由は、それ以上の距離になると遮蔽幕の通風口、開口率の影響が小さくなるため、比較が不明確になることによる。
【0044】
遮蔽幕2の通風口21の開口率は60%を超えると、遮蔽幕2から風下側において風が減速される範囲が狭くなり、又、遮蔽幕2を構成する縦方向及び横方向の帯状体22、23の幅が相対的に狭くなって遮蔽幕2の強度が低下する虞れがある。
【0045】
従って、遮蔽幕全体に対する通風口の開口率が40%〜60%であり、且つ遮蔽幕の通風口の一辺が3〜12mm、通風口の面積が144mm〜9mmであれば、上記の風が減速される範囲をより確実に確保しながら、遮蔽幕を通過した風雪が道路上を速やかに吹き抜け、道路を通行する車の運転手に対する視程を確保しやすくなると共に、遮蔽幕の耐久性をより確実に保持できるので、より好ましい。
【符号の説明】
【0046】
1 支柱
2 遮蔽幕
21 通風口
22 帯状体
23 帯状体
3 支持材
G 逆流
R 乱流
P 防風雪柵

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立設された複数の支柱間に、多数の通風口が形成された可とう性を有する遮蔽幕が設けられ、該遮蔽幕の一方の面から他方の面に前記通風口から風が吹き抜けることにより、風が減速されるようになされた防風雪柵であって、前記各通風口は、その1個の面積を144mm以下とし、かつ遮蔽幕全体に対する前記通風口の開口率を40%以上とすることにより、遮蔽幕の前記通風口を吹き抜ける風に対して、遮蔽幕の位置から遮蔽幕の縦幅の4倍の位置に至るまでの風が減速される範囲において、逆流及び乱流を生じさせないようにしたことを特徴とする防風雪柵。
【請求項2】
前記通風口の1個の面積は144mm〜9mmであり、かつ遮蔽幕全体に対する前記通風口の開口率は40%〜60%であることを特徴とする請求項1に記載の防風雪柵。
【請求項3】
前記遮蔽幕は、繊維が格子状に編成されて、縦方向に延びる帯状部と横方向に延びる帯状部とが形成された網状体からなると共に、縦方向に延びる帯状部と横方向に延びる帯状部とで囲まれる各空間が通風口となされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の防風雪柵。
【請求項4】
前記通風口は、一辺が3mm〜12mmのほぼ正方形であり、かつ遮蔽幕全体に対する前記通風口の開口率は40%〜60%であることを特徴とする請求項3に記載の防風雪柵。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−216095(P2010−216095A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61018(P2009−61018)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【出願人】(000201490)前田工繊株式会社 (118)
【Fターム(参考)】