説明

防食剤の安定化方法およびそれにより得られる安定化防食剤

【課題】リン化合物系防食剤の有効成分の結晶析出や固化を防止し、防食剤に長期貯蔵安定性を付与することを課題とする。
【解決手段】ホスホノカルボン酸ナトリウムとリン酸または水溶性有機ホスホン酸とを有効成分として含有する防食剤に強酸を加えて前記防食剤のpHを1.5以下に調整して、前記防食剤の貯蔵時における前記有効成分の結晶析出を防止することを特徴とする防食剤の安定化方法により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食剤の安定化方法およびそれにより得られる安定化防食剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、工業用冷却水系などで使用されるリン化合物系防食剤の有効成分の結晶析出や固化を防止して、防食剤に長期貯蔵安定性を付与し得る防食剤の安定化方法およびそれにより得られる安定化防食剤に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用冷却水系などでは、水系を構成する金属材料(鉄、軟鋼、鋳鉄など)と水とが常時接触しており、金属材料表面の腐食が発生し易い。このような腐食を防止するために、従来から種々の金属防食剤が提案され、使用されている。
【0003】
例えば、金属防食剤として、水溶性ホスホン酸またはその塩、ホスホノカルボン酸およびトリアゾールからなる腐食防止剤組成物が知られている(例えば、特開昭62−1892号公報:特許文献1参照。)。
また、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸および/またはその水溶性塩、特定のホスホノカルボン酸および/またはその水溶性塩、および水溶性亜鉛化合物とを有効成分として含有する、水系における金属類のスケール抑制を兼ねた腐食防止剤が知られている(例えば、特開昭62−96683号公報:特許文献2参照。)。
【0004】
しかしながら、上記のような有効成分としてリン化合物を含有する防食剤を長期間保管すると、結晶析出や製剤として固化する場合があるという問題があった。
これまでにこのようなリン化合物系防食剤の有効成分の結晶析出や固化を防止し、製剤を長期間安定化させる技術は開示されていない。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−1892号公報
【特許文献2】特開昭62−96683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リン化合物系防食剤の有効成分の結晶析出や固化を防止し、防食剤に長期貯蔵安定性を付与することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、リン化合物系防食剤における有効成分の結晶析出について鋭意研究を行った結果、予め強酸を用いてリン化合物系防食剤のpHを1.5以下に調整することにより、結晶析出を長期間防止し、製剤を安定化できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
かくして、本発明によれば、ホスホノカルボン酸ナトリウムとリン酸または水溶性有機ホスホン酸とを有効成分として含有する防食剤に強酸を加えて前記防食剤のpHを1.5以下に調整して、前記防食剤の貯蔵時における前記有効成分の結晶析出を防止することを特徴とする防食剤の安定化方法が提供される。
また、本発明によれば、上記の防食剤の安定化方法により安定化されてなることを特徴とする安定化防食剤が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リン化合物系防食剤の有効成分の結晶析出や固化を防止し、防食剤に長期貯蔵安定性を付与することができる。
すなわち、本発明によれば、工業用冷却水系などで使用されるリン化合物系防食剤の有効成分の結晶析出を1ヶ月以上防止することができ、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の防食剤の安定化方法は、ホスホノカルボン酸ナトリウムとリン酸または水溶性有機ホスホン酸とを有効成分として含有する防食剤に強酸を加えて前記防食剤のpHを1.5以下に調整して、前記防食剤の貯蔵時における前記有効成分の結晶析出を防止することを特徴とする。
【0011】
本発明において、安定化の対象となる防食剤は、上記の有効成分を含有し、温度−5℃の条件下で2週間以内に結晶析出する防食剤である。
【0012】
ホスホノカルボン酸ナトリウムとしては、通常、工業用として市販されているものが挙げられる。例えば、ローディアジャパン株式会社製の40%ホスホノカルボン酸ナトリウム(微リン防錆剤、商品名:BRICORR 288)が挙げられる。
【0013】
リン酸としては、オルトリン酸、メタリン酸、縮合リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサメタリン酸などが挙げられる。
水溶性有機ホスホン酸としては、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ヒドロキシホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)などが挙げられる。
【0014】
通常、濃度20〜32%程度のホスホノカルボン酸ナトリウム、濃度5〜25%程度のリン酸または水溶性有機ホスホン酸を含む防食剤において、結晶析出が起こり易く、このような防食剤に対して本発明の方法は有効である。
【0015】
本発明では、防食剤に強酸を加えてそのpHを1.5以下に調整する。
具体的には、有効成分を用いて調製した防食剤に、そのpHを公知の方法で測定しながら強酸を添加すればよい。
【0016】
本発明で用いられる強酸としては、防食剤のpHを1.5以下に調整し得る酸であれば特に制限されず、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。
【0017】
本発明の方法によれば、リン化合物系防食剤の有効成分の結晶析出や固化を防止して、防食剤に長期貯蔵安定性を付与することができる。
すなわち、本発明の方法により処理された安定化防食剤は、温度−5℃の条件下で貯蔵(保存)されても2週間以内に結晶析出することがない。
【実施例】
【0018】
本発明を製剤例および試験例により具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例および試験例により限定されるものではない。
【0019】
(製剤例1〜10)
表1に示す配合比(重量部)で40%ホスホノカルボン酸ナトリウムと75%リン酸またはPBTC(2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸)とを水に加えて溶解させて各製剤を得た。
【0020】
【表1】

【0021】
試験例1(製剤の貯蔵安定性確認試験)
製剤例1〜10の各薬剤について、pH未調整時の貯蔵(保存)安定性試験を行った。
容量100mlのガラス容器に各薬剤を約100mlずつ入れ、温度−5℃の条件下で1週間静置し、経日的に薬剤の状態を目視観察した。
目視観察において、製剤例1〜4の薬剤については1〜2週間以内に結晶析出が観察され、製剤例5および6については1日経過後に結晶析出が観察された。
【0022】
試験例2(結晶析出製剤の貯蔵安定性確認試験)
製剤例1〜6の各薬剤について、pH調整時の貯蔵(保存)安定性試験を行った。
容量100mlのガラス容器に各薬剤を約100mlずつ入れ、さらに塩酸を加えて表2に示すpHになるように調整した。得られた各薬剤を温度−5℃の条件下で1ヶ月間静置し、経日的に薬剤の状態を目視観察した。
【0023】
得られた結果を表2に示す。
表2において、「○」は試験期間中(1ヶ月間)に結晶析出が観察されなかったもの、「×」は試験期間中に結晶析出が観察されたものものを示し、括弧内の数字は結晶析出が観察された経過日数を示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2の結果から、薬剤のpHを1.5以下に調整することにより、薬剤の結晶析出が観察されず、1ヶ月間安定に貯蔵できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホノカルボン酸ナトリウムとリン酸または水溶性有機ホスホン酸とを有効成分として含有する防食剤に強酸を加えて前記防食剤のpHを1.5以下に調整して、前記防食剤の貯蔵時における前記有効成分の結晶析出を防止することを特徴とする防食剤の安定化方法。
【請求項2】
前記強酸を加える前の防食剤が、温度−5℃の条件下で2週間以内に結晶析出する防食剤である請求項1記載の防食剤の安定化方法。
【請求項3】
前記強酸を加える前の防食剤が、濃度20〜32%のホスホノカルボン酸ナトリウム、濃度5〜25%のリン酸または水溶性有機ホスホン酸を含む請求項1または2に記載の防食剤の安定化方法。
【請求項4】
前記水溶性有機ホスホン酸が、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸である請求項1〜3のいずれか1つに記載の防食剤の安定化方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の防食剤の安定化方法により安定化されてなることを特徴とする安定化防食剤。