説明

院内感染罹患の患者の易罹患性を判定し、敗血症症候群の進行の予後を確立する方法

本発明は、a.生物学的試料を患者から得、該生物学的試料から生物学的物質を抽出し、b.S100A9及びS100A8標的遺伝子から選択される少なくとも一の標的遺伝子の発現産物の少なくとも一の特異的試薬を調製し、c.標的遺伝子S100A9及びS100A8の少なくとも一の発現を判定し、特定の閾値に対する過剰発現が院内感染罹患の易罹患性の指標であり、敗血症症候群の進行の予後不良の指標である、院内感染罹患の患者の易罹患性を判定する方法及び敗血症症候群の進行の予後を確立する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、院内感染罹患の患者の易罹患性を判定する方法に関する。本発明はまた患者における敗血症ショックの進行の予後を確立する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
院内感染は現実の公衆衛生問題を構成する。フランスでは、毎年、院内感染に罹患する患者の数は500000から800000の間と推定される。院内感染の発生は、使用される医療技術のような様々な要因に関連しているが、院内感染に罹患する患者の易罹患性にもまた関連する。よって、不十分な免疫系、栄養不良の人、新生児、高齢者、敗血症症候群の人、広範囲熱傷の人、及び外傷性状態の人は、院内感染への罹患に対してその他の人よりも素因になる場合がある。
【0003】
感染に対する全身性応答の敗血症症候群は、集中治療室における死亡の主原因の一つである。これは、細菌、ウイルス、真菌又は寄生虫感染から生じうる。敗血症症候群はその重篤度によって分類されうる。次のものが、重篤度の順位が高くなる順で、区別される:SIRS(全身性炎症反応症候群)、敗血症、重篤な敗血症及び敗血症ショック。よって、2001年に、専門家のあるグループが、これらの4つの臨床的症候群を定義するための基準を提案した[1]:
・SIRSは様々な感染性又は非感染性原因によって惹起される炎症全身性反応である。非感染性原因によって惹起されるSIRS状態のなかで、我々は外傷状態、火傷、膵炎、及び急性呼吸器症候群を挙げることができる。全身性炎症反応は次の徴候の少なくとも二つを現す:a)38℃を越えるか又は36℃より低い体温;b)毎分90拍を越える心拍数;c)毎分20呼吸を越える呼吸速度;d)12000/mmを越えるか又は4000/mmより少ない白血球数。
・敗血症は、感染に関係する炎症性全身性反応である、
・重篤な敗血症は、動脈性低血圧及び/又は低灌流及び/又は少なくとも一つの臓器の機能不全を伴う敗血症である、
・敗血症ショックは、持続する低血圧症を伴い、
・特定される感染部位の存在、
・十分な充填及び血管収縮薬での処置にもかかわらず、持続する低血圧症
によって認定されうる。
【0004】
一般に、敗血症、重篤な敗血症及び敗血症ショックの徴候は非常に類似しており、これらの3種類の症状の間の差は、主として、全生体機能の乱れの程度にある。敗血症ショック中は、血圧の低下、頻脈、多呼吸、皮膚の大理石様化、低体温又は高体温、体の震えが、主に観察される。これらの徴候にはまた「標的」臓器の機能不全も伴い、感染病巣から離れた臓器の機能の機能障害が伴って(腎臓、肺、中枢神経系、消化器系及び血液凝固系)乏尿症(<0.5ml/kg/h)、腎不全、低酸素血症、血小板減少症、興奮、及び混乱状態として現れる。
敗血症症候群の患者はまた多かれ少なかれ院内感染、つまりに医療施設に留まることに伴う感染に対して感受性である。この感受性はこれらの患者の生存及び良好な回復にかなりの影響を有している。
敗血症の段階から重篤な敗血症の段階、そしてついで敗血症ショックの段階へという敗血症症候群の進行は、敗血症患者の約64%しか重篤な敗血症を発症せず、また重篤な敗血症の患者の23%しか敗血症ショックへと進行しないので、体系的ではない。敗血症ショックというこの最終段階の前に、生理病理学的プロセスを停止させ逆転させるために、患者に処置を処方しなければならない。よって、満足できる血行動態状態が回復されなければならず、また効果的な呼吸が提供されなければならない。また可能な限り細菌学的データに基づいてショックの対症療法及び抗生物質による処置を行わなければならない。
敗血症症候群、特に敗血症ショックを発症する患者の一部は、標準的な対応、例えば、感染源を示す細菌学的分析の結果を得る前に導入される広域の抗生物質での治療によって蘇生されうるが、更により重篤な敗血症症候群を発症する他の患者には、集中的な治療法、例えば、活性化プロテインCの処置が必要であるようである。非常に高価である点とは別に、この種の治療法は患者を重篤な望ましくない作用のリスク(血液凝固疾患等)にさらす。従って、このような治療から恩恵を受ける可能性のある患者を効果的に標的とすることが非常に重要である。
従って、全身性炎症反応の病因の知識及び院内感染の罹患に対して全身性炎症反応を有する患者の易罹患性の判定は、患者に合った治療法を提案するために必須である。患者に重要な他の要因は、できるだけ早く敗血症ショックの進行の予後を確立できることである。
【発明の概要】
【0005】
今日まで、感染に関連しているかしていないにかかわらず、院内感染発症の患者、特に全身性炎症反応を持つ患者の易罹患性を判定するための試験法はない。本発明者は、予期しないことに、遺伝子S100A9及び/又はS100A8の発現の分析が上記易罹患性の判定に特に適しており、更に敗血症ショックの進行の予後を確立するのに適していることを実証した。
【発明を実施するための形態】
【0006】
更に進む前に、本発明の理解を容易にするために次の定義を与える。
【0007】
敗血症症候群は、感染に対する全身性反応を意味する。この敗血症症候群は、SIRS、敗血症、重篤な敗血症又は敗血症ショックのある段階でありうる。好ましくは、敗血症症候群は敗血症ショックである。
院内感染は、入院から48時間後に医療施設において罹患され、該施設への患者の入院時には存在していなかった任意の感染を意味する。
標的遺伝子なる用語は、S100A9遺伝子及びS100A8遺伝子、特に受託番号NM_002965.3下でGenBankで照会されるS100A9遺伝子及び受託番号NM_002964.3下でGenBankで照会されるS100A8遺伝子を意味する。
S100A9遺伝子及びS100A8遺伝子の発現産物は、メッセンジャーRNA又はmRNAの断片、cDNA又はcDNAの断片、タンパク質又はタンパク質断片を意味する。
【0008】
生物学的試料は、患者から得られる任意の材料を意味し、これは、遺伝子の発現を検出することを可能にする生物学的物質を含みうる。これは、特に、患者の血液、血清、唾液又は組織又は循環細胞の試料でありうる。この生物学的試料は、当業者に知られている使用、例えば特に血液試料を採取する任意の方法によって得られる。
生物学的物質は、遺伝子の発現を検出することを可能にする任意の材料、例えば特に核酸又はタンパク質、又はそのコード配列を意味する。核酸は、特にRNA(リボ核酸)、例えばmRNA(メッセンジャーRNA)でありうる。本発明の好ましい実施態様によれば、生物学的物質は核酸であり、更により好ましくはmRNAである。
【0009】
生物学的試料からの生物学的物質の抽出は、当業者によく知られている核酸又はタンパク質の抽出のための全てのプロトコルによって実施することができる。
参考として、核酸は、次の工程によって特に抽出することができる:
・(次の反応を乱す細胞細片として)タンパク質及び/又は微生物の脂質エンベロープに含まれる核酸を放出させるために、生物試料中に存在している細胞を溶解させる工程。例として、特許出願:
・磁気的及び機械的溶解の併用に関する国際公開第00/05338号、
・電気的溶解に関する国際公開第99/53304号、及び
・機械的溶解に関する国際公開第99/15321号。
に記載されている溶解方法を使用することができる。
当業者は、熱又は浸透圧ショック又はグアニジウム塩等のカオトロピック剤による化学溶解(米国特許第5234809号)等のよく知られた他の溶解方法を使用することもできる。
・溶解工程で塩として放出された他の細胞構成分からの核酸の分離を可能にする精製工程。この工程は一般に核酸を濃縮することを可能にする。例として、吸着又は共有原子価により、場合によってはオリゴヌクレオチドで被覆された磁気粒子(米国特許第4672040号及び米国特許第5750338号を参照)を使用することができ、よって、これらの磁気粒子に付着した核酸を、洗浄工程によって、精製することができる。上記核酸の引き続いての増幅が必要とされる場合、この核酸精製工程は特に有利である。これら磁気粒子の特に興味深い実施態様は、特許出願国際公開第97/45202号及び国際公開第99/35500号に記載されている。核酸の精製方法の別の興味深い例は、カラムの形態での、又は不活性粒子[2]又は磁気粒子(Merck:MagPrep(登録商標)Silica,Promega:MagneSil(商標)常磁性粒子)の形態でのシリカの使用である。広く使用される他の方法は、カラムでの、又は常磁性粒子型(Whatman:DEAE−Magarose)(Levison PR等, J. Chromatography, 1998, p. 337-344)でのイオン交換樹脂に基づく。本発明に非常に関連している別の方法は、金属酸化物担体(Xtrana社製:Xtra−Bind(商標)マトリックス)への吸着の方法である。この抽出工程は自動装置で実施することができる。easyMAG(登録商標)自動装置が特に適している。
【0010】
特異的試薬は、標的遺伝子の発現を直接的又は間接的に証明するために生物学的物質と反応する試薬を意味し、その発現は、この遺伝子から生じるmRNAの分析によって、又はこの遺伝子によってコードされるタンパク質の分析によって判定することができる。
参考として、標的遺伝子の発現を該遺伝子によってコードされるタンパク質の分析によって定量することを希望する場合、この特異的試薬はこの標的遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的な少なくとも一の抗体を含む。
参考として、この遺伝子から出発して転写されるmRNAの分析によって標的遺伝子の発現を定量することを希望する場合、この特異的試薬はこのmRNAの相補DNAに特異的な少なくとも一の増幅プライマーを含む(これはそのとき標的遺伝子に特異的な増幅プライマーと呼ばれる)。mRNAに相補のDNAは、当業者によってよく知られているプロトコルに従って得ることができる。参考として、(リボソームRNA、転移RNA、mRNAを含む)全RNAを生物学的試料から抽出する。ついで、逆転写の反応を、RNA断片からDNAの相補断片(cDNA)を得ることを可能にする逆転写酵素によって実施する。そのような工程の遂行は当業者によってよく知られている。より詳細にはメッセンジャーRNAに相補的なDNAのみを得ることを望む場合、この酵素工程は、チミン塩基のみを含むヌクレオチド断片(ポリT)の存在下で実施し、これが様々なmRNAのポリA配列に対する相補性によってハイブリダイズし、ついで逆転写酵素で実施される逆転写反応に対する出発点となる。ついで、生物学的試料中に最初に存在する様々なメッセンジャーRNAに相補的である様々なDNAが得られる。以下、cDNAはメッセンジャーRNAに相補的なDNAを指す。
増幅プライマーは、酵素的重合、例えば酵素的増幅反応の開始の決まった条件下でハイブリダイゼーションの特異性を有する、5から100のヌクレオチド単位、好ましくは15から25のヌクレオチド単位を持つ断片を意味する。
酵素的増幅反応は、少なくとも一の酵素の作用によって特異的増幅プライマーによって標的ヌクレオチド断片の複数コピーを生じるプロセスを意味する。これらの増幅反応は当業者によく知られており、次の技術を特に挙げることができる:PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)、LCR(リガーゼ連鎖反応)、RCR(修復連鎖反応);特許出願国際公開第90/06995号による3SR(自立配列複製(Self Sustained Sequence Replication))、NASBA法(核酸配列ベース増幅法)、及び米国特許第5399491号によるTMA法(転写介在増幅法)。
ついで、アンプリコンなる用語は酵素による増幅技術によって生成されるポリヌクレオチドを示す。好ましくは、酵素による増幅がPCRである場合、特異的試薬は、標的遺伝子から生じるmRNAに相補的なDNAの特定の領域を増幅させるために、少なくとも2つの特異的な増幅プライマーを含む。酵素による増幅が、逆転写反応後に実施されるPCRである場合、これはRT−PCRと呼ばれる。
ハイブリダイゼーションプローブは、標的ヌクレオチド断片とハイブリダイゼーション複合体を形成する特定の条件下でハイブリダイゼーションの特異性を有する、5から100のヌクレオチド単位、特に6から35のヌクレオチド単位を含むヌクレオチド単位を含むヌクレオチド断片を意味する。本発明において、標的ヌクレオチド断片は、メッセンジャーRNAに含まれるヌクレオチド配列又は上記メッセンジャーRNAの逆転写によって得られる相補DNAに含まれるヌクレオチド配列でありうる。
ハイブリダイゼーションは、適切な条件下で、二つのヌクレオチド断片、例えば十分に相補性の配列を有するハイブリダイゼーションプローブ及び標的ヌクレオチド断片が安定で特異的な水素結合を有する二本鎖を形成することができるプロセスを意味する。ポリヌクレオチドに「ハイブリダイズ可能な」ヌクレオチド断片は、既知の方法で各々の場合に決定することができるハイブリダイゼーション条件下で上記ポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができる断片である。ハイブリダイゼーションの条件は、ストリンジェンシー、つまり操作条件の厳密さによって決まる。ハイブリダイゼーションは増加したストリンジェンシーで実施されると特異性が増加する。ストリンジェンシーは、特にプローブ/標的二本鎖の塩基組成に応じて、また2つの核酸間のミスマッチの程度によって定まる。また、ストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーション溶液中に存在するイオン種の濃度及び種類、変性剤の性質及び濃度、及び/又はハイブリダイゼーション温度等の反応パラメータにも依存しうる。ハイブリダイゼーション反応が実施されなければならない条件のストリンジェンシーは、使用されるハイブリダイゼーションプローブに主に依存するであろう。これらのデータは全てよく知られており、適切な条件は当業者が決定することができる。一般に、使用されるハイブリダイゼーションプローブの長さに応じて、ハイブリダイゼーション反応の温度は、約0.5から1Mの濃度の生理食塩水溶液中において約20から70℃、特に35から65℃である。ついで、ハイブリダイゼーション反応の検出工程が実施される。
検出は、物理的方法による直接の検出か、又はマーカーによる検出方法を意味する。核酸を検出するための数多くの方法がある[4,5]
マーカーは、シグナルを生成可能なトレーサーを意味する。これらのトレーサーの非限定的なリストは、例えば比色法、蛍光又は発光により検出可能なシグナルを生じる酵素、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ;蛍光、ルミネセンス又は染料化合物等の発色団;電子顕微鏡法によって又は導電率等のそれらの電気的性質から、電流測定法又はボルタメトリー法によって、又はインピーダンス測定によって検出可能な電子密度の基;回折、表面プラズモン共鳴、接触角の変動のような光学的方法により、又は原子力分光法、トンネル効果などの物理的方法により検出され得る基;32P、35S又は125I等の放射性分子を含む。よって、ポリヌクレオチドを酵素による増幅工程中に、例えば増幅反応に対して標識した三リン酸ヌクレオチドを使用して標識することができる。標識されたヌクレオチドは、PCRのようなDNAを生成する増幅系ではデオキシリボヌクレオチド、又はTMA又はNASBA技術のようなRNAを生成する増幅技術ではリボヌクレオチドであろう。ポリヌクレオチドはまた国際公開第91/19812号の文献に記載されているサンドイッチハイブリダイゼーション法に従って標識されたプローブをハイブリダイズさせることによって、増幅工程後に標識することもできる。
本発明の意味において、ハイブリダイゼーションプローブは、いわゆる捕捉プローブでありうる。この場合、標的ヌクレオチド断片はマーカーによって前もって標識することができる。いわゆる捕捉プローブは、固定されているか、又は任意の適切な手段で、すなわち、直接的又は間接的に、例えば共有結合又は吸着により、固相担体上に固定可能である。ついで、ハイブリダイゼーション反応が上記検出プローブ及び標識された標的ヌクレオチド断片の間で実施される。
ハイブリダイゼーションプローブはまたいわゆる検出プローブでありうる。この場合、ハイブリダイゼーションプローブは、マーカーによって標識されうる。ついで、ハイブリダイゼーション反応は上記捕捉プローブ及び標識された標的ヌクレオチド断片の間で実施される。
いわゆる捕捉プローブが使用されようといわゆる検出プローブが使用されようと、ハイブリダイゼーション反応は、核酸が固定されうる全ての材料を含む固体担体上で実施されうる。化学的に修飾されていてもよい合成材料又は天然材料を、固体担体として使用することができ、特にセルロース系材料などの多糖類、例えば、紙、酢酸セルロース及びニトロセルロース又はデキストランなどのセルロース誘導体、特にスチレン系モノマーに基づくポリマー、コポリマー、綿などの天然繊維、及びナイロンなどの合成繊維;シリカ、石英、ガラス又はセラミックスなどの無機材料;ラテックス;磁気粒子;金属誘導体、ゲル等である。固体担体は、マイクロタイタープレート、国際公開94/12670号の出願に記載の膜、粒子又はバイオチップの形態でありうる。
【0011】
本発明において、S100A9遺伝子及びS100A8遺伝子の発現の決定は、所定の時間に転写されるmRNAの発現によって分析することができる。この場合、生物学的物質は核酸であり、特異的試薬は無差別に既に定義された増幅プライマー又はハイブリダイゼーションプローブでありうる。
標的遺伝子の発現は次のようにして決定することができる:
1)生物学的試料からの全RNAの抽出後に、生物学的試料中に最初に存在している様々なメッセンジャーRNA(又はcDNA)に相補的な様々なDNAを得るために、既に記載したようにして、逆転写工程を実施する。
2)cDNAが特に増幅される。この場合、使用される特異的試薬は、既に定義されたように、標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマーを含む。この工程は、特に、PCR型の増幅反応によって、又は任意の他の増幅技術によって行うことができる。
3)標的遺伝子の発現は、cDNAを定量することによって判定される。cDNAは、飽和まで実施される増幅反応によって得られる定量範囲を使用して特に定量することができる。様々な工程(逆転写、PCRなど)中に観察されうる酵素効率の変動性を考慮するために、様々な患者群の標的遺伝子の発現を、様々な患者群間で発現が類似しているいわゆるハウスキーピング遺伝子の発現を同時に判定することによって標準化することができる。このように、ハウスキーピング遺伝子の発現に対する標的遺伝子の発現の比を見出すことによって、種々の実験間でのあらゆる変動が補正される。当業者は、特に次の刊行物を参照できる[6,7]
【0012】
標的遺伝子の発現はまた次のようにして決定することができる:
1)生物学的試料からの全RNAの抽出後、逆転写工程を上記のように実施して、生物学的試料中に最初に存在している様々なメッセンジャーRNA(又はcDNA)に相補的な様々なDNAを得る。
2)cDNAを膜に固定化する。
3)標的遺伝子に特異的な既に標識されたハイブリダイゼーションプローブにcDNAをハイブリザイズさせることによって標的遺伝子の発現を判定する。これらのハイブリダイゼーション技術は当業者によってよく知られており、特にノーザンブロット法を挙げることができる。このハイブリダイゼーション反応は、特に遺伝子が弱く発現される場合、標的遺伝子のメッセンジャーRNAに相補的なDNAの特異的増幅工程後に実施することができる。
標的遺伝子の発現はまた標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現によってまた分析することができる。この場合、生物学的物質はタンパク質であり、リガンドを伴うか又は伴わない検出の幾つかの技術を使用することができる。質量分析はリガンドを伴わない検出のための技術として使用することができる。特異的試薬は、リガンドを伴う検出系に対して標的遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的な抗体でありうる。
標的遺伝子によって翻訳されるタンパク質に特異的な組換え抗体は、当業者によって知られている一般的な方法に従って、細菌のような原核生物から、又は酵母、哺乳動物、植物、昆虫又は動物の細胞のような真核生物から、又は細胞外生産の系によって、得ることができる。
モノクローナル抗体は、その一般原理が以下に想起されるハイブリドーマ技術のような当業者によって知られている一般的な技術に従って調製することができる。
最初に、動物、一般にはマウス(又はインビトロでの免疫化の範囲内の培養細胞)を興味ある標的抗原で免疫化され、そのBリンパ球はついで上記抗原に対する抗体を産生することができる。これらの抗体産生リンパ球を、ついで、「不死」骨髄腫細胞(実施例ではマウス)と融合させてハイブリドーマを産生させる。このようにして得られた細胞の不均一な混合物から、特定の抗体を生産し、不確定に増殖させることができる細胞をついで選択する。各ハイブリドーマは、対照の抗原に対するその認識の特性が例えばELISA、一又は二次元での免疫移動法(immunotransfer)、免疫蛍光法によって、又はバイオセンサーによって試験されうるモノクローナル抗体の産生にそれぞれ至るクローンの形態で増幅される。このようにして選択されたモノクローナル抗体は、ついで、特にアフィニティクロマトグラフィーによって精製される。
【0013】
抗体断片は例えばタンパク質分解によって得ることができる。よって、抗体断片は、Fab型(パパインでの処理[8])又はF(ab)’2型(ペプシンでの処理[9])の断片を生じる、酵素消化によって得ることができる。それらはまた組換え法によっても調製できる[10]。本発明の目的に適した他の抗体断片は、Fab断片の可変軽鎖ドメイン(VL)及び可変重鎖ドメイン(VH)の一価の結合体、従って二つのポリペプチド鎖の結合体から構成された二量体であるFv断片を含む。二つのポリペプチド鎖の解離によるFv断片の安定性を改善するために、このFv断片は、ドメインVL及びドメインVHの間に適切なペプチド結合を挿入することによって遺伝子工学によって修飾することができる[11]。ついで、これは、単一のポリペプチド鎖から構成されているので、scFv(「単鎖可変断片」)と呼ばれる。15から25のアミノ酸から好ましくはなるペプチド結合の使用により、ドメインのC末端を他のドメインのN末端に連結させることができ、その完全な形態の抗体のものと同様な結合特性を付与されたモノマー分子を構成する。VL及びVHドメインの二つの配向が、同一の機能的性質を有しているので、適している(VL−リンク−VH及びVH−リンク−VL)。もちろん、当業者によって知られ、上述の免疫学的特性を有している任意の断片が本発明の目的に適している。
【0014】
生物学的物質が遺伝子の発現から生じるタンパク質である場合、後者の発現は、ウェスタンブロット又はELISAにより、あるいは当業者に知られている任意の他の方法、例えば生物学的物質に基づく化学発光の方法によって、上記タンパク質を検出するか又は定量することにより、決定することができる。
【0015】
ELISA技術(「酵素結合免疫吸着検定法」)は固体担体上の免疫酵素アッセイである。この検定は、アッセイが酵素触媒反応に連関させられるEIA(「酵素免疫測定法」)のより一般的な範囲に入る。該技術は一又は二の抗体を使用する。免疫複合体(抗原/抗体)の形成を検出するための抗体が酵素に結合され、発色又は蛍光発生基質によりシグナルの放出を生じうる。
【0016】
ウェスタンブロットは、以下に記載される次の段階を含む、このタンパク質に特異的な抗体によって試料中の特定のタンパク質を検出する試験である。
第一段階は、ゲル電気泳動であり、これは試料のタンパク質をそのサイズによって分離することを可能にする。
ゲル中のタンパク質を、ついで、加圧によって又は電流の印加によって膜(ニトロセルロース、PVDF等)に移すと、タンパク質は疎水性及びイオン性相互作用によって膜に固定される。
非特異的相互作用の部位の飽和後、調査されるべきタンパク質に特異的な第一の抗体(一次抗体)を膜と共にインキュベートする。
ついで、膜をすすいで未結合の一次抗体を除去した後、一次抗体に結合するいわゆる二次抗体と共にインキュベートする。この二次抗体は、通常は、膜上の研究下にあるタンパク質の可視での同定を可能にする酵素に結合させられる。酵素で標識した基質の添加により、膜上に可視できる呈色反応が生じる。
【0017】
S100A9遺伝子及び/又はS100A8遺伝子の発現を分析することによって、院内感染罹患の患者、特に炎症性全身性応答の患者の易罹患性を判定し、また敗血症症候群の進行の予後を確立することができる。例えば、院内感染罹患の易罹患性が未知の患者における少なくとも一の標的遺伝子の発現を分析し、感受性である患者の標的遺伝子の平均的発現の既知の値と感受性ではない患者の標的遺伝子の平均的発現の既知の値を比較し、患者が院内感染に罹患する可能性があるかどうかを判定することが可能である。同じようにして、例えば、少なくとも一の標的遺伝子の発現を分析し、標的遺伝子の既知の発現の平均と比較することによって、生存又は死亡の予後を含む敗血症症候群の進行を確立することができる。
【0018】
よって、本発明は、院内感染罹患の患者の易罹患性を判定する方法において、
a)生物学的試料を患者から得、該生物学的試料から生物学的物質を抽出し、
b)S100A9及びS100A8標的遺伝子から選択される少なくとも一の標的遺伝子の発現産物の少なくとも一の特異的試薬を調製し、
c)標的遺伝子S100A9及びS100A8の少なくとも一の発現を判定し、特定の閾値に対する過剰発現が院内感染罹患の易罹患性の指標である方法に関する。
【0019】
段階c)において、S100A9標的遺伝子及びS100A8標的遺伝子の発現を測定することができ、特定の閾値に対するS100A9標的遺伝子の過剰発現及び特定の閾値に対するS100A8標的遺伝子の過剰発現が、院内感染罹患の易罹患性の指標である。
【0020】
当業者は閾値を決定する様々な可能な方法を有している。一例として、ヨーデンの指標の決定を挙げることができる。
ヨーデンの指標は、ノンエラーの全体の度合いの尺度に対応する。それは、二つの集団の判別を許容しない検定に対しての0と、二つの集団の完全な判別を許容する検定に対しての1の間で変動する。ヨーデンの指標の最大は、間違った結果(擬陰性又は擬陽性)の数が最も低い閾値に対応する。ヨーデンの指標が1に近くなればなるほど、診断成績は良くなる[12]
【0021】
特に、生物学的試料は、感染に伴うか伴わないかにかかわらず、炎症性全身性応答の患者から採取される。生物学的試料は、血液試料であり得、抽出される生物学的物質は、とりわけ、核酸でありうる。好ましくは、全RNAが生物学的試料から抽出され、標的遺伝子の発現がmRNAの発現の分析によって判定される。
【0022】
本発明の方法の好ましい実施態様では、特異的試薬は、S100A9標的遺伝子及び/又はS100A8標的遺伝子の発現産物に特異的な少なくとも一の増幅プライマー又は少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブ;あるいはS100A9標的遺伝子及び/又はS100A8標的遺伝子の発現産物に特異的な少なくとも一の抗体を含む。
【0023】
該方法は、敗血症症候群の患者、つまりSIRS、敗血症、重篤な敗血症及び敗血症ショックのような感染に対して炎症性全身性応答を有する患者に対して院内感染罹患の易罹患性を判定するために特に適している。
【0024】
従って、S100A9遺伝子及び/又はS100A8遺伝子の発現産物に特異的な試薬は、院内感染罹患の患者、特に感染に伴うか伴わないかにかかわらず炎症性全身性応答の患者の、易罹患性を判定するために使用される。該試薬は、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブ、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブ、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマー、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマー、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一の抗体又はS100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一の抗体を含みうる。
【0025】
S100A9及び/又はS100A8遺伝子の発現の分析はまた敗血症症候群の進行の予後(生存及び死亡を含む予後)を確立することを可能にする。
【0026】
よって、本発明は、患者における敗血症症候群の進行の予後を確立する方法において、
a)生物学的試料を患者から得、該生物学的試料から生物学的物質を抽出し、
b)S100A9及びS100A8標的遺伝子から選択される少なくとも一の標的遺伝子の発現産物の少なくとも一の特異的試薬を調製し、
c)標的遺伝子S100A9及びS100A8の少なくとも一の発現を判定し、特定の閾値に対する過小発現が敗血症症候群の進行の良好な予後の指標であり、特定の閾値に対する過剰発現が敗血症症候群の進行の予後不良の指標である方法を提案する。
【0027】
段階c)において、S100A9標的遺伝子及びS100A8標的遺伝子の発現を測定することができ、特定の閾値に対するS100A9標的遺伝子の過小発現及び特定の閾値に対するS100A8標的遺伝子の過小発現が敗血症症候群の進行の良好な予後の指標であり、
特定の閾値に対するS100A9標的遺伝子の過剰発現及び特定の閾値に対するS100A8標的遺伝子の過剰発現が敗血症症候群の進行の予後不良の指標である。
【0028】
閾値を決定することは当業者の技量の範囲内である。一例として、ヨーデンの指標の決定を挙げることができる。ヨーデンの指標は、ノンエラーの全体の度合いの尺度に対応する。それは、二つの集団の判別を許容しない検定に対しての0と、二つの集団の完全な判別を許容する検定に対しての1の間で変動する。ヨーデンの指標の最大は、間違った結果(擬陰性又は擬陽性)の数が最も低い閾値に対応する。ヨーデンの指標が1に近くなればなるほど、診断成績は良くなる[12]
【0029】
生物学的試料は、血液試料であり得、抽出される生物学的物質は、とりわけ、核酸でありうる。好ましくは、全RNAが生物学的試料から抽出され、標的遺伝子の発現がmRNAの発現の分析によって判定される。
【0030】
本発明の方法の好ましい実施態様では、特異的試薬は、S100A9標的遺伝子及び/又はS100A8標的遺伝子の発現産物に特異的な少なくとも一の増幅プライマー又は少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブ;あるいはS100A9標的遺伝子及び/又はS100A8標的遺伝子の発現産物に特異的な少なくとも一の抗体を含む。
【0031】
従って、S100A9遺伝子及び/又はS100A8遺伝子の発現産物に特異的な試薬は、患者における敗血症症候群の進行の予後(生存又は死亡の予後を含む)を確立するために使用される。該試薬は、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブ、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブ、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマー、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマー、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一の抗体又はS100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一の抗体を含みうる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1はS100A8及びS100A9の遺伝子発現の相関を表す(n=86)。それは、スピアマン係数>0.90(r=0.9134)の、分子S100A9及びS100A8の遺伝子発現間に存在する強い相関を示す。分子S100A9及びS100A8の遺伝子発現は、院内感染に罹患する可能性のある患者を判別し、敗血症症候群の進行の予後を確立するための類似した能力を有している。
【図2】図2は敗血症ショックの発症後D7及びD10間に採取した試料について生存及び非生存患者間におけるS100A8遺伝子発現の有意差を示す(p=0.0461)。説明文:HV=健常な志願者;S=生存した患者;NS=生存していない患者。
【実施例】
【0033】
実施例1−S100A9遺伝子の発現の研究
試験試料
44名の健常な志願者の群(S)及び敗血症ショック(H0は血管収縮剤処置の注射)後D1、D2又はD3に試料採取した148名の敗血症症候群の群(SEP)を使用し、末梢血中のS100A9遺伝子の発現を比較した。44名の健常な患者の群(S)及び148名の敗血症ショックを発症した患者の群(SEP)を同定した。
【0034】
RNAの抽出とcDNAの合成
各患者に対して、生物学的試料は、患者SEPによって発症された敗血症症候群の発症後、最初の10日中に規則的に得た血液試料とした。採取はまた健常な患者(S)において同一のプロトコルによって実施した。これらの試料は、PAXGene(TM)Blood RNAチューブ(PreAnalytiX,Frankin Lakes,USA)中に直接回収した。
血液採取工程後、細胞の全溶解物を得るために、チューブを室温で4時間置き、その後、生物学的物質の抽出まで−20℃で保存した。より具体的には、このプロトコルでは、製造業者の推奨に従ってPAXgene Blood RNA(登録商標)キット(PreAnalytiX)を使用して、全RNAを抽出した。簡単に述べると、チューブを遠心分離して(10分、3000g)、核酸のペレットを得た。このペレットを洗浄し、タンパク質の消化に必要とされるプロテイナーゼKを含むバッファーに取り上げた(10分間、55℃)。繰り返しの遠心分離(5分間、19000g)を実施して細胞の細片を除去し、エタノールを添加して核酸固定条件を最適化した。全RNAを、PAXgene RNAスピンカラムに特異的に固定し、その後の後者の溶出前に、汚染しているDNAの消化を、RNAseを含まないDNAseセット(商標)(Qiagen社,Crawley,UK)を使用して実施した。
各抽出に対して、全RNAの質を、RNA6000ナノチップTMキット(Agilentテクノロジーズ)を使用するキャピラリー電気泳動によって確認した。使用した機器はバイオアナライザー2100である。逆転写(RT)反応を20μlの最終体積で実施した。全RNA(0.5μg)を50μMの1μlのポリT及び1μLのアニーリングバッファーと混合し、ついで65℃で5分間インキュベートした。氷で冷却した後、溶液を10μlの2×第一ストランド反応ミックス及び2μLのSuperScript III/RNaseTMアウト酵素ミックスRT(15U/μl)と混合したが、これらの生成物は全てSuperScript第一ストランド合成スーパーミックスTM RT−PCRシステム(Invitrogen)から得た。逆転写は50℃で50分間実施し、ついで85℃で5分間インキュベーションして停止させた。最後に、cDNAの各溶液をDEPC水で1/10まで希釈した。
【0035】
定量のための標準範囲の調製
健常な被験者から得たcDNAのプールから出発して、S100A9標的遺伝子(GenBank番号NM_002965.3)の153−179領域の増幅を、次のプライマー対を使用して、飽和まで実施するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって実施した:
センスプライマー:5’−TCAAAGAGCTGGTGCGAAAA−3’(配列番号:1)
アンチセンスプライマー:5’−AACTCCTCGAAGCTCAGCTG−3’(配列番号:2)
【0036】
リアルタイムPCRによるmRNAの発現の分析
上述のようにして、cDNAに再転写されたS100A9標的遺伝子のmRNAを、LightCycler(商標)(Roche)を使用するリアルタイム定量PCRにより定量した。PCR反応を、Fast−Start(商標)DNA Master SYBR Green I リアルタイムPCRキット(Roche Molecular Biochemicals)を使用して実施した。各PCRを、3.6μlの水、2.4μlのMgCl、2μlのSYBRグリーンミックス(Fast スタートDNAマスターSYBRグリーン+TaqDNAポリメラーゼ)及び1μlの各プライマー(10μM)及び10μlのcDNA溶液を含む20μlの最終体積で実施した。使用したプライマーは先に記載したものである。
95℃で10分の変性工程後、増幅を40サイクルの「タッチダウン」PCRプロトコル(95℃で10秒、68−58℃で10秒のハイブリダイゼーションと、続く72℃で16秒の伸展)によって実施する。各サイクルの終わりに、SYBR Greenによって放射された蛍光を測定した。
増幅の特異性を確認するために、PCR産物を融解曲線の分析(LightCycler(商標)−Roche社)に体系的に供した。このために、PCR産物を、0.1℃/秒の増分割合で、58から98℃まで温度を上昇させて処理した。各PCR産物について、曲線の分析において、特異的な融解温度を特徴とする一つのピークが得られた。
ハウスキーピング遺伝子CPBの定量に必要なプライマーの組み合わせは、Search−LC(Heidelberg,Germany;照会488116)によって供給された。
ハウスキーピング遺伝子シクロフィリンBのmRNAの量に対する標的mRNAの量を、LightCycler Relative定量ソフトウェア(商標)(Roche Molecular Biochemicals)を用いた相対的定量技術によって分析した。LightCyclerTMソフトウェア(Roche)の「第二誘導体最大法」を各試料に対する「クロッシングポイント」(Cp)を自動的に決定するために使用した。Cpの値は、蛍光がバックグラウンドノイズとは有意に異なったサイクルの数として定義された。
コピー数の対数の関数としてCpを表す較正曲線を作成するために各標準を用いて四通り、1/10の5回の連続希釈を実施した。標準希釈を、較正曲線が標的遺伝子及びハウスキーピング遺伝子に対して予想された発現レベルをカバーするように最適化した。標的遺伝子及びハウスキーピング遺伝子に対してPCRの効果を記述する相対的標準曲線を作成し、LightCycler Relative定量ソフトウェア(Roche Molecular Biochemicals)を用いて定量を実施するために使用した。
【0037】
得られた結果
得られた結果を以下の表1にまとめる。

健常な被験者と敗血症ショックの患者間のマンホイットニー検定のp値は<0.0001である。
敗血症ショックの最初の3日にわたるマーカーS100A9の発現は、健常なドナーに対して有意に過剰発現していた。
【0038】
実施例2−S100A8遺伝子の発現の研究
試験試料
32名の健常な志願者の群(S)及び敗血症ショック(H0は血管収縮剤処置の注射)後D7及びD10に試料採取した86名の敗血症症候群の群(SEP)を使用し、末梢血中のS100A8遺伝子の発現を比較した。32名の健常な患者の群(S)及び86名の敗血症ショックを発症した患者の群(SEP)を同定した。
【0039】
RNAの抽出とcDNAの合成
各患者に対して、生物学的試料は、SEP患者によって発症された敗血症症候群の発症後、最初の10日中に規則的に得た血液試料である。採取はまた健常な患者(S)において同一のプロトコルによって実施した。これらの試料は、PAXGene(TM)Blood RNAチューブ(PreAnalytiX,Frankin Lakes,USA)中に直接回収した。
血液試料採取工程後、細胞の全溶解物を得るために、チューブを室温で4時間置き、その後、生物学的物質の抽出まで−20℃で保存した。より具体的には、このプロトコルでは、製造業者の推奨に従ってPAXgene Blood RNA(登録商標)キット(PreAnalytiX)によって全RNAを抽出した。簡単に述べると、チューブを遠心分離して(10分、3000g)、核酸のペレットを得た。このペレットを洗浄し、タンパク質の消化に必要とされるプロテイナーゼKを含むバッファーに取り上げた(10分間、55℃)。繰り返しの遠心分離(5分間、19000g)を実施して細胞の細片を除去し、エタノールを添加して核酸固定条件を最適化した。全RNAを、PAXgene RNAスピンカラムに特異的に固定し、後者の溶出前に、汚染しているDNAの消化を、RNAseを含まないDNAseセット(商標)(Qiagen社,Crawley,UK)を使用して実施した。
各抽出に対して、全RNAの質を、RNA6000ナノチップTMキット(Agilentテクノロジーズ)を使用するキャピラリー電気泳動によって確認した。使用した機器はバイオアナライザー2100である。逆転写(RT)反応を20μlの最終体積で実施した。全RNA(0.5μg)を50μMの1μlのポリT及び1μLのアニーリングバッファーと混合し、ついで65℃で5分間インキュベートした。氷で冷却した後、溶液を10μlの2×第一ストランド反応ミックス及び2μLのSuperScript III/RNaseTMアウト酵素ミックスRT(15U/μl)と混合したが、これらの生成物は全てSuperScript第一ストランド合成スーパーミックスTM RT−PCRシステム(Invitrogen)から得た。逆転写は50℃で50分間実施し、ついで85℃で5分間インキュベーションして停止させた。最後に、cDNAの各溶液をDEPC水で1/10まで希釈した。
【0040】
定量のための標準範囲の調製
健常な被験者から得たcDNAのプールから出発して、S100A8標的遺伝子(GenBank番号NM_002964.3)の領域129−280の増幅を、次のプライマー対を使用して、飽和まで実施するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって実施した:
センスプライマー:5’−ATTTCCATGCCGTCTACAGG−3’(配列番号:3)
アンチセンスプライマー:5’−CACCAGAATGAGGAACTCCT−3’(配列番号:4)
【0041】
リアルタイムPCRによるmRNAの発現の分析
上述のようにして、cDNAに再転写されたS100A8標的遺伝子のmRNAを、LightCycler(商標)(Roche)を使用するリアルタイム定量PCRにより定量した。PCR反応を、Fast−Start(商標)DNA Master SYBR Green I リアルタイムPCRキット(Roche Molecular Biochemicals)を使用して実施した。各PCRを、3.6μlの水、2.4μlのMgCl、2μlのSYBRグリーンミックス(Fast スタートDNAマスターSYBRグリーン+TaqDNAポリメラーゼ)及び1μlの各プライマー(10μM)及び10μlのcDNA溶液を含む20μlの最終体積で実施した。使用したプライマーは先に記載したものである。
95℃で10分の変性工程後、増幅を40サイクルの「タッチダウン」PCRプロトコル(95℃で10秒、68−58℃で10秒のハイブリダイゼーションと、続く72℃で16秒の伸展)によって実施する。各サイクルの終わりに、SYBR Greenによって放射された蛍光を測定した。
増幅の特異性を確認するために、PCR産物を融解曲線の分析(LightCycler(商標)−Roche社)に体系的に供した。このために、PCR産物を、0.1℃/秒の増分割合で、58から98℃まで温度を上昇させて処理した。各PCR産物について、曲線の分析において、特異的な融解温度を特徴とする一つのピークが得られた。
ハウスキーピング遺伝子CPBの定量に必要なプライマーの組み合わせは、Search−LC(Heidelberg,Germany;照会488116)によって供給された。
ハウスキーピング遺伝子シクロフィリンBのmRNAの量に対する標的mRNAの量を、LightCycler Relative定量ソフトウェア(商標)(Roche Molecular Biochemicals)を用いた相対的定量技術によって分析した。LightCyclerTMソフトウェア(Roche)の「第二誘導体最大法」を各試料に対する「クロッシングポイント」(Cp)を自動的に決定するために使用した。Cpの値は、蛍光がバックグラウンドノイズとは有意に異なったサイクルの数として定義された。
コピー数の対数の関数としてCpを表す較正曲線を作成するために各標準を用いて四通り、1/10の5回の連続希釈を実施した。標準希釈を、較正曲線が標的遺伝子及びハウスキーピング遺伝子に対して予想された発現レベルをカバーするように最適化した。標的遺伝子及びハウスキーピング遺伝子に対してPCRの効果を記述する相対的標準曲線を作成し、LightCycler Relative定量ソフトウェア(Roche Molecular Biochemicals)を用いて定量を実施するために使用した。
【0042】
得られた結果
得られた結果を以下の表2にまとめる。

健常な被験者と敗血症ショックの患者間のマンホイットニー検定のp値は<0.0001である。
敗血症ショック後の日D7からD10にわたるマーカーS100A8の発現は、健常なドナーに対して有意に過剰発現していた。
【0043】
実施例3−敗血症ショックの患者におけるS100A8の生存予後の値の研究
試験試料
敗血症ショックを発症し、Lyon−Sud病院センターの外科又は医療集中治療室に入院させられた86名の患者のコホートについて研究を実施した。敗血症ショック(H0は血管収縮剤処置の注射)後D7、D8、D9又はD10にこれらの患者から試料を採取した。
【0044】
RNAの抽出とcDNAの合成
各患者に対して、生物学的試料は、敗血症症候群の発症後、最初の10日中に毎日得た血液試料である(患者SEP)。これらの試料は、PAXGene(商標)Blood RNAチューブ(PreAnalytiX,Frankin Lakes,USA)中に直接回収した。
血液試料採取工程後、細胞の全溶解物を得るために、チューブを室温で4時間置き、その後、生物学的物質の抽出まで−20℃で保存した。より具体的には、このプロトコルでは、製造業者の推奨に従ってPAXgene Blood RNA(登録商標)キット(PreAnalytiX)によって全RNAを抽出した。簡単に述べると、チューブを遠心分離して(10分、3000g)、核酸のペレットを得た。このペレットを洗浄し、タンパク質の消化に必要とされるプロテイナーゼKを含むバッファーに取り上げた(10分間、55℃)。繰り返しの遠心分離(5分間、19000g)を実施して細胞の細片を除去し、エタノールを添加して核酸固定条件を最適化した。全RNAを、PAXgene RNAスピンカラム(商標)に特異的に固定し、後者の溶出前に、汚染しているDNAの消化を、RNAseを含まないDNAseセット(商標)(Qiagen社,Crawley,UK)を使用して実施した。
各抽出に対して、全RNAの質を、RNA6000ナノチップTMキット(Agilentテクノロジーズ)を使用するキャピラリー電気泳動によって確認した。使用した機器はバイオアナライザー2100(商標)である。逆転写(RT)反応を20μlの最終体積で実施した。全RNA(0.5μg)を50μMの1μlのオリゴ(dT)及び1μLのアニーリングバッファーと混合し、ついで65℃で5分間インキュベートした。氷で冷却した後、溶液を10μlの2×第一ストランド反応ミックス及び2μLのSuperScript III/RNaseアウト酵素ミックスRT(15U/μl)と混合したが、これらの生成物は全てSuperScript第一ストランド合成スーパーミックスTM RT−PCRシステム(Invitrogen)から得た。逆転写は50℃で50分間実施し、ついで85℃で5分間インキュベーションして停止させた。最後に、cDNAの各溶液をDEPC水で1/10まで希釈した。
【0045】
定量のための標準範囲の調製
健常な被験者から得たcDNAのプールから出発して、S100A8標的遺伝子(GenBank番号NM_002964.3)の領域129−280の増幅を、次のプライマー対を使用して、飽和まで実施するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって実施した:
センスプライマー:5’−ATTTCCATGCCGTCTACAGG−3’(配列番号:3)
アンチセンスプライマー:5’−CACCAGAATGAGGAACTCCT−3’(配列番号:4)
【0046】
リアルタイム定量PCRによるmRNAの発現の分析
上述のようにして、cDNAに再転写されたS100A8標的遺伝子のmRNAを、LightCycler(商標)(Roche)を使用するリアルタイム定量PCRにより定量した。PCR反応を、Fast−Start(商標)DNA Master SYBR Green I リアルタイムPCRキット(Roche Molecular Biochemicals)を使用して実施した。各PCRを、3.6μlの水、2.4μlのMgCl、2μlのSYBRグリーンミックス(Fast スタートDNAマスターSYBRグリーン+TaqDNAポリメラーゼ)及び1μlの各プライマー(10μM)及び10μlのcDNA溶液を含む20μlの最終体積で実施した。使用したプライマーは先に記載したものである。
95℃で10分の変性工程後、増幅を40サイクルの「タッチダウン」PCRプロトコル(95℃で10秒、68−58℃で10秒のハイブリダイゼーションと、続く72℃で16秒の伸展)によって実施する。各サイクルの終わりに、SYBR Greenによって放射された蛍光を測定した。
増幅の特異性を確認するために、PCR産物を融解曲線の分析(LightCycler(商標)−Roche社)に体系的に供した。このために、PCR産物を、0.1℃/秒の増分割合で、58から98℃まで温度を上昇させて処理した。各PCR産物について、曲線の分析において、特異的な融解温度を特徴とする一つのピークが得られた。
ハウスキーピング遺伝子CPBの定量に必要なプライマーの組み合わせは、Search−LC(Heidelberg,Germany;照会488116)によって供給された。
ハウスキーピング遺伝子シクロフィリンBのmRNAの量に対する標的mRNAの量を、LightCycler Relative定量ソフトウェア(商標)(Roche Molecular Biochemicals)を用いた相対的定量技術によって分析した。LightCyclerTMソフトウェア(Roche)の「第二誘導体最大法」を各試料に対する「クロッシングポイント」(Cp)を自動的に決定するために使用した。Cpの値は、蛍光がバックグラウンドノイズとは有意に異なったサイクルの数として定義された。
コピー数の対数の関数としてCpを表す較正曲線を作成するために各標準を用いて四通り、1/10の5回の連続希釈を実施した。標準希釈を、較正曲線が標的遺伝子及びハウスキーピング遺伝子に対して予想された発現レベルをカバーするように最適化した。標的遺伝子及びハウスキーピング遺伝子に対してPCRの効果を記述する相対的標準曲線を作成し、LightCycler Relative定量ソフトウェア(Roche Molecular Biochemicals)を用いて定量を実施するために使用した。
【0047】
結果の分析
S100A8遺伝子の発現が患者の生存と相関しているかどうかを判定するためにマンホイットニー検定を実施した。図2は、敗血症ショックの発症後のD7とD10の間に採取された試料に対して生存及び非生存患者間のS100A8遺伝子の発現の有意差(p=0.0461)を示す。
【0048】
実施例4−院内感染罹患の患者の易罹患性を判定するためのS100A9遺伝子の発現の研究
試験試料
敗血症ショックを発症し、Lyon−Sud病院センターの外科又は医療集中治療室に入院させられた93名の患者のコホートについて研究を実施した。敗血症ショック(H0は血管収縮剤処置の注射)後D7、D8、D9又はD10にこれらの患者から試料を採取した。
このコホートの53日の観察において、敗血症ショックを発症したこれらの患者のうち、27名の患者がショックに二次的な院内感染に罹患し、66名が院内感染に罹患しなかった。
【0049】
RNAの抽出とcDNAの合成
各患者に対して、生物学的試料は、敗血症症候群の発症後、最初の10日中に規則的に得た血液試料である(患者SEP)。試料はまた同一のプロトコルに従って健常な患者(S)から採取した。これらの試料は、PAXGene(商標)Blood RNAチューブ(PreAnalytiX,Frankin Lakes,USA)中に直接回収した。
血液試料採取工程後、細胞の全溶解物を得るために、チューブを室温で4時間置き、その後、生物学的物質の抽出まで−20℃で保存した。より具体的には、このプロトコルでは、製造業者の推奨に従ってPAXgene Blood RNA(登録商標)キット(PreAnalytiX)によって全RNAを抽出した。簡単に述べると、チューブを遠心分離して(10分、3000g)、核酸のペレットを得た。このペレットを洗浄し、タンパク質の消化に必要とされるプロテイナーゼKを含むバッファーに取り上げた(10分間、55℃)。繰り返しの遠心分離(5分間、19000g)を実施して細胞の細片を除去し、エタノールを添加して核酸固定条件を最適化した。全RNAを、PAXgene RNAスピンカラム(商標)に特異的に固定し、後者の溶出前に、汚染しているDNAの消化を、RNAseを含まないDNAseセット(商標)(Qiagen社,Crawley,UK)を使用して実施した。
各抽出に対して、全RNAの質を、RNA6000ナノチップTMキット(Agilentテクノロジーズ)を使用するキャピラリー電気泳動によって確認した。使用した機器はバイオアナライザー2100(商標)である。逆転写(RT)反応を20μlの最終体積で実施した。全RNA(0.5μg)を50μMの1μlのポリT及び1μLのアニーリングバッファーと混合し、ついで65℃で5分間インキュベートした。氷で冷却した後、溶液を10μlの2×第一ストランド反応ミックス及び2μLのSuperScript III/RNaseアウト酵素ミックスRT(15U/μl)と混合したが、これらの生成物は全てSuperScript第一ストランド合成スーパーミックスTM RT−PCRシステム(Invitrogen)から得た。逆転写は50℃で50分間実施し、ついで85℃で5分間インキュベーションして停止させた。最後に、cDNAの各溶液をDEPC水で1/10まで希釈した。
【0050】
定量のための標準範囲の調製
健常な被験者から得たcDNAのプールから出発して、S100A9標的遺伝子(GenBank番号NM_002965.3)の153−179領域の増幅を、次のプライマー対を使用して、飽和まで実施するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって実施した:
センスプライマー:5’−TCAAAGAGCTGGTGCGAAAA−3’(配列番号:1)
アンチセンスプライマー:5’−AACTCCTCGAAGCTCAGCTG−3’(配列番号:2)
【0051】
リアルタイムPCRによるmRNAの発現の分析
上述のようにして、cDNAに再転写されたS100A9標的遺伝子のmRNAを、LightCycler(商標)(Roche)を使用するリアルタイム定量PCRにより定量した。PCR反応を、Fast−Start(商標)DNA Master SYBR Green I リアルタイムPCRキット(Roche Molecular Biochemicals)を使用して実施した。各PCRを、3.6μlの水、2.4μlのMgCl、2μlのSYBRグリーンミックス(Fast スタートDNAマスターSYBRグリーン+TaqDNAポリメラーゼ)及び1μlの各プライマー(10μM)及び10μlのcDNA溶液を含む20μlの最終体積で実施した。使用したプライマーは先に記載したものである。
95℃で10分の変性工程後、増幅を40サイクルの「タッチダウン」PCRプロトコル(95℃で10秒、68−58℃で10秒のハイブリダイゼーションと、続く72℃で16秒の伸展)によって実施する。各サイクルの終わりに、SYBR Greenによって放射された蛍光を測定した。
増幅の特異性を確認するために、PCR産物を融解曲線の分析(LightCycler(商標)−Roche社)に体系的に供した。このために、PCR産物を、0.1℃/秒の増分割合で、58から98℃まで温度を上昇させて処理した。各PCR産物について、曲線の分析において、特異的な融解温度を特徴とする一つのピークが得られた。
ハウスキーピング遺伝子CPBの定量に必要なプライマーの組み合わせは、Search−LC(Heidelberg,Germany;照会488116)によって供給された。
ハウスキーピング遺伝子シクロフィリンBのmRNAの量に対する標的mRNAの量を、LightCycler Relative定量ソフトウェア(商標)(Roche Molecular Biochemicals)を用いた相対的定量技術によって分析した。LightCyclerTMソフトウェア(Roche)の「第二誘導体最大法」を各試料に対する「クロッシングポイント」(Cp)を自動的に決定するために使用した。Cpの値は、蛍光がバックグラウンドノイズとは有意に異なったサイクルの数として定義された。
コピー数の対数の関数としてCpを表す較正曲線を作成するために各標準を用いて四通り、1/10の5回の連続希釈を実施した。標準希釈を、較正曲線が標的遺伝子及びハウスキーピング遺伝子に対して予想された発現レベルをカバーするように最適化した。標的遺伝子及びハウスキーピング遺伝子に対してPCRの効果を記述する相対的標準曲線を作成し、LightCycler Relative定量ソフトウェア(Roche Molecular Biochemicals)を用いて定量を実施するために使用した。
【0052】
単変量及び多変量解析の結果
院内感染の発生に影響を有する変数を決定するために、単変量解析と次に多変量解析を実施する。単変量解析は、様々な変数の関数として院内感染によって達成され又は達成されない状態のロジスティック回帰分析を、敗血症ショックの発症後のD7からD10の日にmRNA中のS100A9マーカーに対して行うことによって実施される。ついで、多変量ロジスティック回帰分析を、単変量解析で<0.15の有意レベル(p)を示す変数について実施する。「後方」選択法(開始時に、全ての変量をモデルで考慮し、ついでそれらを一つずつ取り除く)を0.05の有意な閾値で使用する。結果を以下の表3にまとめる。オッズ比(O.R.)とその95%信頼区間を各結果について示す。
【0053】

表3から分かるように、多変量解析は、敗血症ショックの発症後、7から10日目の≧6.1のS100A9マーカーの発現が院内感染の確率を有意に増加させる(6.2のオッズ比)ことを明らかにしている。
【0054】
実施例5−S100A9遺伝子の発現及びS100A8遺伝子の発現の相関関係の研究
試験試料
敗血症ショックを発症し、Lyon−Sud病院センターの外科又は医療集中治療室に入院させられた86名の患者のコホートについて研究を実施した。敗血症ショック(H0は血管収縮剤処置の開始)後D7、D8、D9又はD10にこれらの患者から試料を採取した。
【0055】
RNAの抽出とcDNAの合成
各患者に対して、生物学的試料は、敗血症症候群の発症後、最初の10日中に毎日採取した血液試料である(患者SEP)。これらの試料は、PAXGene(商標)Blood RNAチューブ(PreAnalytiX,Frankin Lakes,USA)中に直接回収した。
血液試料採取工程後、細胞の全溶解物を得るために、チューブを室温で4時間置き、その後、生物学的物質の抽出まで−20℃で保存した。より具体的には、このプロトコルでは、製造業者の推奨に従ってPAXgene Blood RNA(登録商標)キット(PreAnalytiX)によって全RNAを抽出した。簡単に述べると、チューブを遠心分離して(10分、3000g)、核酸のペレットを得た。このペレットを洗浄し、タンパク質の消化に必要とされるプロテイナーゼKを含むバッファーに取り上げた(10分間、55℃)。繰り返しの遠心分離(5分間、19000g)を実施して細胞の細片を除去し、エタノールを添加して核酸固定条件を最適化した。全RNAを、PAXgene RNAスピンカラム(商標)に特異的に固定し、後者の溶出前に、汚染しているDNAの消化を、RNAseを含まないDNAseセット(商標)(Qiagen社,Crawley,UK)を使用して実施した。
各抽出に対して、全RNAの質を、RNA6000ナノチップTMキット(Agilentテクノロジーズ)を使用するキャピラリー電気泳動によって確認した。使用した機器はバイオアナライザー2100(商標)である。逆転写(RT)反応を20μlの最終体積で実施した。全RNA(0.5μg)を50μMの1μlのオリゴ(dT)及び1μLのアニーリングバッファーと混合し、ついで65℃で5分間インキュベートした。氷で冷却した後、溶液を10μlの2×第一ストランド反応ミックス及び2μLのSuperScript III/RNaseアウト酵素ミックスRT(15U/μl)と混合したが、これらの生成物は全てSuperScript第一ストランド合成スーパーミックスTM RT−PCRシステム(Invitrogen)から得た。逆転写は50℃で50分間実施し、ついで85℃で5分間インキュベーションして停止させた。最後に、cDNAの各溶液をDEPC水で1/10まで希釈した。
【0056】
定量のための標準範囲の調製
健常な被験者から得たcDNAのプールから出発して、S100A9標的遺伝子(GenBank番号NM_002965.3)の153−179領域の増幅を、次のプライマー対を使用して、飽和まで実施するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって実施した:
センスプライマー:5’−TCAAAGAGCTGGTGCGAAAA−3’(配列番号:1)
アンチセンスプライマー:5’−AACTCCTCGAAGCTCAGCTG−3’(配列番号:2)
健常な被験者から得たcDNAのプールから出発して、S100A8標的遺伝子(GenBank番号NM_002964.3)の領域129−280の増幅を、次のプライマー対を使用して、飽和まで実施するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって実施した:
センスプライマー:5’−ATTTCCATGCCGTCTACAGG−3’(配列番号:3)
アンチセンスプライマー:5’−CACCAGAATGAGGAACTCCT−3’(配列番号:4)
【0057】
リアルタイム定量PCRによるmRNAの発現の分析
上述のようにして、cDNAに再転写されたS100A9及びS100A8標的遺伝子のmRNAを、LightCycler(商標)(Roche)を使用するリアルタイム定量PCRにより定量した。PCR反応を、Fast−Start(商標)DNA Master SYBR Green I リアルタイムPCRキット(Roche Molecular Biochemicals)を使用して実施した。各PCRを、3.6μlの水、2.4μlのMgCl、2μlのSYBRグリーンミックス(Fast スタートDNAマスターSYBRグリーン+TaqDNAポリメラーゼ)及び1μlの各プライマー(10μM)及び10μlのcDNA溶液を含む20μlの最終体積で実施した。使用したプライマーは先に記載したものである。
95℃で10分の変性工程後、増幅を40サイクルの「タッチダウン」PCRプロトコル(95℃で10秒、68−58℃で10秒(0.5℃/サイクル)のハイブリダイゼーションと、続く72℃で16秒の伸展)によって実施する。各サイクルの終わりに、SYBR Greenによって放射された蛍光を測定した。
増幅の特異性を確認するために、PCR産物を融解曲線の分析(LightCycler(商標)−Roche社)に体系的に供した。このために、PCR産物を、0.1℃/秒の増分割合で、58から98℃まで温度を上昇させて処理した。各PCR産物について、曲線の分析において、特異的な融解温度を特徴とする一つのピークが得られた。
ハウスキーピング遺伝子CPBの定量に必要なプライマーの組み合わせは、Search−LC(Heidelberg,Germany;照会488116)によって供給された。
ハウスキーピング遺伝子シクロフィリンBのmRNAの量に対する標的mRNAの量を、LightCycler Relative定量ソフトウェア(商標)(Roche Molecular Biochemicals)を用いた相対的定量技術によって分析した。LightCyclerTMソフトウェア(Roche)の「第二誘導体最大法」を各試料に対する「クロッシングポイント」(Cp)を自動的に決定するために使用した。Cpの値は、蛍光がバックグラウンドノイズとは有意に異なったサイクルの数として定義された。
コピー数の対数の関数としてCpを表す較正曲線を作成するために各標準を用いて四通り、1/10の5回の連続希釈を実施した。標準希釈を、較正曲線が標的遺伝子及びハウスキーピング遺伝子に対して予想された発現レベルをカバーするように最適化した。標的遺伝子及びハウスキーピング遺伝子に対してPCRの効果を記述する相対的標準曲線を作成し、LightCycler Relative定量ソフトウェア(Roche Molecular Biochemicals)を用いて定量を実施するために使用した。
【0058】
結果の分析
S100A9遺伝子の発現がS100A8遺伝子の発現と相関しているかどうかを判定するために、相関解析を実施した。図1に与えられた結果は、>0.90のスピアマン係数のこれらの二つの分子の遺伝子発現間に強い相関関係があることを示している。従って、分子S100A9及びS100A8の遺伝子発現は、院内感染罹患の可能性が高い患者を区別しまた敗血症症候群の進行の予後を確立するために同様の能力を有している。
【0059】
文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
院内感染罹患の患者の易罹患性を判定する方法において、
a)生物学的試料を患者から得、該生物学的試料から生物学的物質を抽出し、
b)S100A9及びS100A8標的遺伝子から選択される少なくとも一の標的遺伝子の発現産物の少なくとも一の特異的試薬を調製し、
c)標的遺伝子S100A9及びS100A8の少なくとも一の発現を判定し、特定の閾値に対する過剰発現が院内感染罹患の易罹患性の指標である方法。
【請求項2】
S100A9標的遺伝子及びS100A8標的遺伝子の発現が段階c)で測定され、特定の閾値に対するS100A9標的遺伝子の過剰発現及び特定の閾値に対するS100A8標的遺伝子の過剰発現が院内感染罹患の易罹患性の指標である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生物学的試料が、感染に伴うか伴わないかにかかわらず、炎症性全身性応答の患者から採取されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
生物学的試料が血液試料であることを特徴とする請求項1又2に記載の方法。
【請求項5】
生物学的物質が核酸又はタンパク質であることを特徴とする請求項1又2に記載の方法。
【請求項6】
S100A9遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマーを含んでなることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
S100A8遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマーを含んでなることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
S100A9遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブを含んでなることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
S100A8遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブを含んでなることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
S100A9遺伝子の発現産物の特異的試薬が、分子S100A9に特異的な少なくとも一の抗体を含んでなることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
S100A8遺伝子の発現産物の特異的試薬が、分子S100A8に特異的な少なくとも一の抗体を含んでなることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
院内感染罹患の患者、特に感染に伴うか伴わないかにかかわらず炎症性全身性応答の患者の、易罹患性を判定するためのS100A9遺伝子及び/又はS100A8遺伝子の発現産物の少なくとも一の特定的試薬の使用。
【請求項13】
S100A9遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブを含んでなることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
S100A8遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブを含んでなることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
S100A9遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマーを含んでなることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項16】
S100A8遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマーを含んでなることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項17】
S100A9遺伝子の発現産物の特異的試薬が、分子S100A9に特異的な少なくとも一の抗体を含んでなることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項18】
S100A8遺伝子の発現産物の特異的試薬が、分子S100A8に特異的な少なくとも一の抗体を含んでなることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項19】
患者における敗血症症候群の進行の予後を確立する方法において、
a)生物学的試料を患者から得、該生物学的試料から生物学的物質を抽出し、
d)S100A9及びS100A8標的遺伝子から選択される少なくとも一の標的遺伝子の発現産物の少なくとも一の特異的試薬を調製し、
e)標的遺伝子S100A9及びS100A8の少なくとも一の発現を判定し、特定の閾値に対する過小発現が敗血症症候群の進行の良好な予後の指標であり、特定の閾値に対する過剰発現が敗血症症候群の進行の予後不良の指標である方法。
【請求項20】
S100A9標的遺伝子及びS100A8標的遺伝子の発現が段階c)で測定され、特定の閾値に対するS100A9標的遺伝子の過小発現及び特定の閾値に対するS100A8標的遺伝子の過小発現が敗血症症候群の進行の良好な予後の指標であり、
特定の閾値に対するS100A9標的遺伝子の過剰発現及び特定の閾値に対するS100A8標的遺伝子の過剰発現が敗血症症候群の進行の予後不良の指標であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
生物学的試料が血液試料であることを特徴とする請求項19又20に記載の方法。
【請求項22】
生物学的物質が核酸又はタンパク質であることを特徴とする請求項19又20に記載の方法。
【請求項23】
S100A9遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマーを含んでなることを特徴とする請求項19から22の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
S100A8遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマーを含んでなることを特徴とする請求項19から22の何れか一項に記載の方法。
【請求項25】
S100A9遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブを含んでなることを特徴とする請求項19から22の何れか一項に記載の方法。
【請求項26】
S100A8遺伝子の発現産物の特異的試薬が、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブを含んでなることを特徴とする請求項19から22の何れか一項に記載の方法。
【請求項27】
S100A9遺伝子の発現産物の特異的試薬が、分子S100A9に特異的な少なくとも一の抗体を含んでなることを特徴とする請求項19から22の何れか一項に記載の方法。
【請求項28】
S100A8遺伝子の発現産物の特異的試薬が、分子S100A8に特異的な少なくとも一の抗体を含んでなることを特徴とする請求項19から22の何れか一項に記載の方法。
【請求項29】
患者における敗血症症候群の進行の予後を確立するためのS100A9遺伝子及び/又はS100A8遺伝子の発現産物の少なくとも一の特定的試薬の使用。
【請求項30】
S100A9遺伝子の発現産物の特異的試薬及びS100A8遺伝子の特異的試薬が、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブを含んでなり、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一のハイブリダイゼーションプローブを含んでなることを特徴とする請求項29に記載の使用。
【請求項31】
S100A9遺伝子の特異的試薬が、S100A9標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマーを含んでなり、S100A8遺伝子の特異的試薬が、S100A8標的遺伝子に特異的な少なくとも一の増幅プライマーを含んでなることを特徴とする請求項29に記載の使用。
【請求項32】
S100A9遺伝子の発現産物の特異的試薬が、分子S100A9に特異的な少なくとも一の抗体を含んでなり、S100A8遺伝子の発現産物の特異的試薬が、分子S100A8に特異的な少なくとも一の抗体を含んでなることを特徴とする請求項29に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−514993(P2012−514993A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545785(P2011−545785)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050070
【国際公開番号】WO2010/082004
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(304043936)ビオメリュー (26)
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
【出願人】(511171866)
【Fターム(参考)】