説明

除振装置

【課題】 本発明は、簡単な構成により、荷重が変化しても、振動に対する減衰特性及びバネ特性の変化が抑制され、除振性能の劣化が低減されるようにした除振装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 水平に固定配置された固定板と、前記固定板の上方に配置され、前記固定板との間に介装された少なくとも三本の弾性部材を介して前記固定板に対して相対的に移動可能に支持された可動板と、これらの固定板及び可動板の間で各弾性部材に隣接して配置されたダンパー部と、から構成されていて、前記各ダンパー部が、それぞれ前記固定板または可動板に固定された受け部材と、前記受け部材内で同軸に且つ摺動可能に配置された粘弾性体から成る円板状のダンパー材と、前記ダンパー材の中心付近に一端が連結された支軸と、から構成されており、前記支軸の他端が、前記可動板または固定板に対して揺動手段を介して揺動可能に支持されるように、除振装置10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば顕微鏡や天秤等の振動の影響を受けやすい種々の精密機器を作業台等に対して弾性的に支持し、作業台等の振動が精密機器に伝播することを抑制するための除振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような除振装置としては、例えば特許文献1には、弾性体と粘弾性体を組み合わせた除振装置(防振支持装置)が開示されており、図13に示すように構成されている。
即ち、図13において、除振装置1は、弾性体としてのコイルバネ2と、粘弾性体としてのダンパー材3と、これらのコイルバネ2及びダンパー材3の両端が取り付けられる一対のフランジ4と、から構成されている。
【0003】
ダンパー材3は、例えばエポキシ樹脂により円柱状に形成されている。
そして、このダンパー材3がコイルバネ2の中空部内に挿入された状態で、ダンパー材3の両端とコイルバネ2の両端がそれぞれ各フランジ4に取り付けられている。
その際、コイルバネ2とダンパー材3の複合体に作用する荷重方向の弾性中心が粘弾性体即ちダンパー材3側に包蔵された状態で、コイルバネ2及びダンパー材3の両端がそれぞれ対応するフランジ4に対してネジ5により固定されている。
【0004】
このような構成の除振装置1によれば、一方例えば下方のフランジ5を固定板に取り付けると共に、他方例えば上方のフランジ5を可動板に取り付けて、固定板を作業台等の上面に載置すると共に、可動板上に除振すべき精密機器を搭載する。これにより、固定板に対して水平方向(横方向)と垂直方向(縦方向)に作用する振動に関して、可動板上では大きな減衰を得ることができる。
ここで、除振しようとする精密機器の重量と重心に基づいて、コイルバネ2に作用する荷重を算出して、コイルバネ2の撓み量が基準値となるようにバネ定数を選定している。即ち、当該精密機器専用として、コイルバネ2のバネ定数とダンパー材3の減衰特性を設定している。
これにより、当該精密機器に最適な除振性能を備えた除振装置を製造することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開昭63−30628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した除振装置1は、当該精密機器専用としてコイルバネ2のバネ定数及びダンパー材3の減衰特性が設定されているので、種々の精密機器に対して汎用に使用することはできない。
従って、除振装置1を使用して、種々の重量の精密機器の除振を行なう場合には、当該精密機器の重量によって、コイルバネ2の撓み量が一定とならない。
【0007】
一般に、除振装置の固有振動数fは、コイルバネ2のバネ定数をks,ダンパー材3のバネ定数をkd,精密機器の質量をM,除振装置の可動部質量をmとすると、
【数1】

なる式1で表される。
この式から、除振装置の固有振動数fは、精密機器の質量Mに依存し、精密機器が重くなると、固有振動数fが低くなり、また精密機器が軽くなると、固有振動数fが高くなることが分かる。
同様に、ダンパー材3のバネ定数kdが大きくなると、固有振動数fは高くなり、バネ定数kdが小さくなると、固有振動数fは低くなる。
【0008】
ここで、種々の重量の精密機器を可動板上に搭載する場合、上述した円柱状のダンパー材3においては、ダンパー材3の潰れ量が一定でなくなる。このため、所望の減衰特性が得られなくなってしまうだけでなく、ダンパー材3のバネ特性が大きく変動してしまう。従って、搭載する精密機器の重量が変化するにつれて、除振装置1の固有振動数fも大きく変化してしまうので、除振性能が劣化してしまう。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、簡単な構成により、荷重が変化しても、振動に対する減衰特性及びバネ特性の変化が抑制され、除振性能の劣化が低減されるようにした除振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、本発明によれば、水平に固定配置された固定板と、前記固定板の上方に配置され、前記固定板との間に介装された少なくとも三本の弾性部材を介して前記固定板に対して相対的に移動可能に支持された可動板と、これらの固定板及び可動板の間で各弾性部材に隣接して配置されたダンパー部と、から構成されていて、前記各ダンパー部が、それぞれ前記固定板または可動板に固定された受け部材と、前記受け部材内で同軸に且つ摺動可能に配置された粘弾性体から成る円板状のダンパー材と、前記ダンパー材の中心付近に一端が連結された支軸と、から構成されており、前記支軸の他端が、前記可動板または固定板に対して揺動手段を介して揺動可能に支持されていることを特徴とする除振装置により、達成される。
【0011】
本発明による除振装置は、好ましくは、前記各ダンパー部における受け部材及び支軸が、無負荷状態で、前記固定板及び可動板に対して垂直に配置されている。
【0012】
本発明による除振装置は、好ましくは、前記各ダンパー部における受け部材,ダンパー材及び支軸が、無負荷状態で前記固定板及び可動板の一方から他方に向かって中心側に傾斜して配置されている。
【0013】
本発明による除振装置は、好ましくは、前記受け部材が円筒状の内壁面を有している。
【0014】
本発明による除振装置は、好ましくは、前記受け部材が開口側から固定側に向かって先細の円錐台状の内壁面を有している。
【0015】
本発明による除振装置は、好ましくは、前記揺動手段が前記支軸の他端における周面に装着されたコイルバネから構成されている。
【0016】
本発明による除振装置は、好ましくは、前記揺動手段が前記支軸の他端における周面に装着された円筒状ゴム材から構成されている。
【0017】
本発明による除振装置は、好ましくは、前記揺動手段が前記支軸に連結された線状バネにより構成されている。
【0018】
本発明による除振装置は、好ましくは、前記揺動手段が、前記可動板または固定板の支持領域の表面にて無負荷状態で当該支軸に対して垂直に設けられたゴム板から構成されている。
【発明の効果】
【0019】
上記構成によれば、可動板上に種々の質量の精密機器が搭載されると、弾性部材は、可動板に対して下向きに作用する荷重に応じた撓み量を鉛直方向に生ずる。
ここで、ダンパー部のダンパー材が受け部材内で摺動可能であることから、上述した撓み量の分だけ、ダンパー材が受け部材内でその軸方向に沿って移動する。
従って、弾性部材の撓み量にかかわらず、ダンパー部におけるダンパー材と受け部材の接触状態は一定である。これにより、可動板上に搭載される精密機器の重さによるダンパー材のバネ特性及び減衰特性の変化は極めて小さく、搭載される精密機器の質量が除振装置の除振特性に影響を及ぼすようなことがない。
【0020】
また、本除振装置の可動板に搭載された精密機器を操作者が操作した場合等において、可動板が固定板に対して相対的に水平方向に変位すると、ダンパー部の支軸が固定板に対して揺動して、ダンパー材が受け部材に対して傾斜する。この際、ダンパー材には大きな変形が生ずることになるので、減衰特性が増大する。これにより、除振装置の可動板そして精密機器の自由振動が迅速に抑制される。
さらに、ダンパー部における水平方向のバネ定数を小さくすることができるため、除振装置の水平方向の固有振動数を低く設定することが可能であり、除振装置の除振性能が向上する。
【0021】
前記受け部材が開口側から固定側に向かって先細の円錐台状の内壁面を有している場合には、可動板に搭載された精密機器の質量が重く、弾性部材の撓み量が大きいと、ダンパー材が受け部材の中空部内により深く押し込まれることにより、ダンパー材の変形量が大きくなり、ダンパー材のバネ特性が強くなる。従って、弾性部材とダンパー材の合成バネ定数が増大することになり、精密機器の質量による影響が相殺され、除振装置の固有振動数の低下が抑制される。
【0022】
また、精密機器の質量が軽く、弾性部材の撓み量が小さいと、ダンパー材が受け部材の中空部内でより開口部に近い位置に位置することにより、ダンパー材の変形量が小さく、あるいはダンパー材が受け部材の内壁面に接触しなくなるので、ダンパー材のバネ定数が弱くなる。従って、弾性部材とダンパー材の合成バネ定数が小さくなり、除振装置の固有振動数の上昇が抑制される。
このようにして、可動板に搭載される精密機器等の質量による除振装置の固有振動数の変化が小さくなるので、除振しようとする精密機器等の重量にかかわらず、十分な除振特性が得られる。
【0023】
このようにして、本発明による除振装置によれば、荷重が変化しても、振動に対する減衰特性及びバネ特性の変化が抑制され、除振性能の劣化が低減され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】 本発明による除振装置の第一の実施形態の使用状態における構成を示す概略側面図である。
【図2】 図1の除振装置の分解斜視図である。
【図3】 図1の除振装置におけるダンパー部の構成を示す拡大断面図である。
【図4】 図1の除振装置におけるダンパー部の支軸のための揺動手段を拡大して示す一部破断側面図である。
【図5】 図1の除振装置において精密機器に水平方向の変位が生じた状態を示す概略側面図である。
【図6】 図1の除振装置における精密機器より軽い精密機器を搭載した状態を示す概略側面図である。
【図7】 図1の除振装置における精密機器より重い精密機器を搭載した状態を示す概略側面図である。
【図8】 本発明による除振装置の第二の実施形態におけるダンパー部の構成を示す拡大断面図である。
【図9】 図8のダンパー部における(A)重い精密機器を搭載した状態及び(B)軽い精密機器を搭載した状態をそれぞれ示す拡大断面図である。
【図10】 本発明による除振装置の第三の実施形態におけるダンパー部の構成を示す拡大断面図である。
【図11】 本発明による除振装置の第四の実施形態におけるダンパー部の構成を示す拡大断面図である。
【図12】 本発明による除振装置の第五の実施形態におけるダンパー部の構成を示す拡大断面図である。
【図13】 従来の除振装置の一例の構成を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の好適な実施形態を図1乃至図12を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0026】
図1及び図2は、本発明による除振装置の第一の実施形態の構成を示している。
図1及び図2において、除振装置10は、固定板11と、可動板12と、これらの固定板11と可動板12との間に配置される弾性部材としての複数個のコイルバネ13及びダンパー部20と、から構成されている。
【0027】
固定板11は、例えば作業台14上に水平に固定配置された例えぱ金属等の板状部材から構成されている。
より詳細には、固定板11は、図示の場合、四隅の底面に設けられたゴム足11aを介して作業台14上に載置されている。
【0028】
可動板12は、同様に例えば金属等の板状部材から構成されており、固定板11の上方に所定間隔で水平に配置されている。
さらに、可動板12は、その上面に載置された顕微鏡や天秤等の精密機器15を支持する。
ここで、精密機器15は、その重心が可動板12の水平方向(図2においてX方向及びY方向)の中心を通る垂直軸V上に位置するように、可動板12上に配置される。
【0029】
各コイルバネ13は、図2に示すように、それぞれ固定板11及び可動板12の四隅付近において、固定板11及び可動板12に対して垂直に、即ちZ方向に延びるように配置されている。
各コイルバネ13は、それぞれ下端13aが固定板11に対して固定されると共に、上端13bが可動板12に対して固定されている。
ここで、各コイルバネ13は、可動板12上に載置された精密機器15及び可動板12の重量による荷重を受けて、そのバネ定数で決まる撓み量だけ弾性変形している。
【0030】
各ダンパー部20は、それぞれ対応するコイルバネ13に隣接して配置されており、図示の場合、対応するコイルバネ13に対して、X方向に関して中心寄り、即ち垂直軸V寄りに配置されている。
【0031】
各ダンパー部20は、図3に詳細に示すように、受け部材21と、ダンパー材22と、支軸23と、から構成されている。
【0032】
受け部材21は、この場合、例えばアルミ材により中空円筒状に形成されており、上端がネジ21aにより可動板12の下面に固定されている。
【0033】
ダンパー材22は、二枚の薄い円板状に形成された粘弾性体、例えば低反発ゴムから構成されており、スペーサ22aにより互いに所定間隔で支軸23に対して取り付けられている。
ここで、ダンパー材22の外径は、受け部材21の円筒状の中空部の内径より僅かに大きく選定されており、受け部材21の中空部内で、その内壁に対して常に圧縮された状態で当接していると共に、受け部材21の長手方向に沿って摺動可能である。
【0034】
支軸23は、例えば金属等の棒状部材から構成されており、下端が、固定板11の上面に対して揺動手段24を介して揺動可能に支持されている。
この場合、揺動手段24は、固定板11上に設けられたネジ24aにより固定された固定部材24bと、ネジ部24cと、バネ部材24dと、から構成されている。
ネジ部24cは、スタッドボルトであって、固定部材24bの上面に溶接等により固定保持されており、固定部材24bそして固定板11の上面から垂直に上方に向かって延びている。
【0035】
バネ部材24dは、図4に示すように、菱形断面のステンレス角線材をコイル状に巻線成形することにより構成されており、そのピッチがネジ部24cのネジピッチ及び後述する支軸23の下端に形成されたネジ部23aのネジピッチと同じに設定されていると共に、その内径がネジ部24c及びネジ部23aの内径とほぼ同じに設定されている。
これにより、バネ部材24dは、その下端がネジ部24cに外挿される。
【0036】
これに対して、バネ部材24dの上端は、上述した支軸23の下端に設けられたネジ部23aに外挿される。その際、バネ部材24dの内側で、支軸23の下端面とネジ部24cの上端面との間隔が1mm程度となるように、支軸23とネジ部24cが垂直方向に突き合わされた状態で、バネ部材24dにより保持される。
これにより、上述した間隔の領域において、バネ部材24dが伸縮可能であるので、支軸23は、その下端において、バネ部材24dを介して、ネジ部24cに対して、即ち固定板11の上面に対して、揺動可能に支持される。
【0037】
本発明実施形態による除振装置10は、以上のように構成されており、例えば精密機器15が搭載されると、図1に示すように、精密機器15及び可動板12の重量による荷重が、各コイルバネ13に印可され、この荷重によって、各コイルバネ13が弾性変形により撓んた状態で、可動板12を浮遊状態に支持する。
従って、各ダンパー部20においては、各コイルバネ13の弾性変形による縮小に対応して、受け部材21の中空部内でダンパー部22が垂直方向に摺動して、図示した高さ位置H1に静止する。
【0038】
このような状態において、図5に示すように、例えば精密機器15の操作時等において、操作者が精密機器15に対して水平方向に力を加える等によって、精密機器15または可動板12に対して矢印A方向に振動等により変位が生ずると、この変位によって、各コイルバネ13の中心軸が図示のように角度θだけ傾斜する。
このとき、ダンパー部20の受け部材21も可動板12と同じ量だけ矢印A方向に変位するが、支軸23が固定板11に対して揺動手段24により揺動可能に支持されているので、支軸23が揺動により傾斜することによって、ダンパー材22が大きく曲げ変形を生ずる。この曲げ変形により、ダンパー材22によるエネルギー吸収量が増大するので、除振装置10における水平方向の自由振動の収束が促進される。
尚、支軸23が揺動する際の揺動手段24即ちバネ部材24bの揺動方向へのバネ定数が小さいので、除振装置10における水平方向の固有振動数は、コイルバネ13の水平方向のバネ定数によって決まる。
【0039】
次に、上述した精密機器15よりも軽量の精密機器15Lが可動板12上に搭載される場合について説明する。
図6において、精密機器15L及び可動板12の重量による荷重が、各コイルバネ13に印可され、この荷重によって、各コイルバネ13が弾性変形により撓んた状態で、可動板12を浮遊状態に支持する。
この場合、各コイルバネ13の撓み量は、精密機器15Lの重量が精密機器15の重量より軽いので、その重量差だけ、各コイルバネ13に印可される荷重が低減する。従って、図6に示すように、各コイルバネ13の撓み量が減少することになる。
【0040】
従って、各ダンパー部20においては、各コイルバネ13の弾性変形による縮小に対応して、受け部材21の中空部内でダンパー部22が垂直方向に摺動して、受け部材21は、図1に示した高さ位置H1より高い高さ位置H2に静止する。
即ち、各ダンパー部20において、ダンパー材22は、受け部材21の下端寄りに位置する。
このとき、ダンパー材22は、円筒状の受け部材21内を軸方向に移動するだけであるので、ダンパー材22の外周縁の受け部材21の内面に対する接触状態はほぼ同じである。従って、精密機器15がより軽い精密機器15Lに変更されても、ダンパー材22の減衰特性やバネ特性は殆ど変化しない。
【0041】
また、上述した精密機器15よりも重い精密機器15Hが可動板12上に搭載される場合について説明する。
図7において、精密機器15H及び可動板12の重量による荷重が、各コイルバネ13に印可され、この荷重によって、各コイルバネ13が弾性変形により撓んた状態で、可動板12を浮遊状態に支持する。
この場合、各コイルバネ13の撓み量は、精密機器15Hの重量が精密機器15の重量より重いので、その重量差だけ、各コイルバネ13に印可される荷重が増大する。従って、図7に示すように、各コイルバネ13の撓み量が増大することになる。
【0042】
従って、各ダンパー部20においては、各コイルバネ13の弾性変形による圧縮に対応して、受け部材21の中空部内でダンパー材22が垂直方向に摺動して、受け部材21は、図1に示した高さ位置H1より低い高さ位置H3に静止する。
即ち、各ダンパー部20において、ダンパー材22は、受け部材21の上端寄りに位置する。
【0043】
このようにして、異なる重量の精密機器15,15Lまたは15Hが可動板12上に搭載されたとしても、ダンパー材22は、円筒状の受け部材21内を軸方向に移動するだけであるので、ダンパー材22の外周縁の受け部材21の内面に対する接触状態はほぼ同じである。従って、精密機器15がより軽い精密機器15Lあるいは、より重い精密機器15Hに変更されても、ダンパー材22の減衰特性やバネ特性は殆ど変化しない。
【0044】
このようにして、本発明実施形態による除振装置10によれば、可動板12上に搭載する精密機器15の重量が変化したとしても、ダンパー材22の接触状態を殆ど変化させることなく、即ちダンパー材22の減衰特性やバネ特性を殆ど変化させず、また除振特性の劣化を抑制することができる。
【0045】
図8は、本発明による除振装置の第二の実施形態におけるダンパー部の構成を示している。
図8において、この除振装置は、図1及び図2に示した除振装置10とほぼ同様の構成であるので、同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
この除振装置は、図1及び図2に示した除振装置10とは、ダンパー部20の構成のみが異なっている。
【0046】
即ち、図8において、この除振装置では、ダンパー部30は、受け部材31と、ダンパー材22と、支軸23と、から構成されている。
【0047】
受け部材31は、内壁面が上方に向かって先細の円錐台状に形成されており、上端がネジ31aにより可動板12の下面に固定されている。
ここで、受け部材31の円錐台状の中空部は、その下端の内径がダンパー材22の外径より大きく、また上端の内径がダンパー材22の外径より小さく、さらに中空部の軸方向(垂直方向)の下方から四分の一の高さ位置における内径が、ダンパー材22の外径と同じ大きさとなるように形成されている。
【0048】
このような構成の除振装置によれば、図1に示した除振装置10と同様に作用すると共に、重い精密機器15Hが可動板12上に搭載される場合には、図9(A)に示すように、各コイルバネ13の撓み量が増大し、各ダンパー部30においては、各コイルバネ13の弾性変形による圧縮に対応して、受け部材31の中空部内でダンパー材22が垂直方向に摺動して、受け部材31は、図8に示した高さ位置より下方に移動する。
【0049】
このとき、ダンパー材22は、受け部材31の内壁面の内径が徐々に小さくなるので、外周が内側に圧縮され、図9(A)に示すように、傘状に変形する。これにより、ダンパー材22の減衰特性が増大すると共に、バネ特性も変化し、バネ定数が増大する。
従って、重い精密機器15Hが自由振動する際のダンパー材22によるエネルギー吸収量が増大して、その減衰が大きくなる。これにより、重い精密機器15Hの自由振動の収束が促進される。
【0050】
さらに、コイルバネ13とダンパー材22による合成バネ定数も増大する。前述した式1に基づいて、除振装置10の固有振動数はバネ定数と質量の比で決まるので、重い精密機器15Hの搭載時には、バネ定数が大きくなると、その比の変化が小さくなるので、除振装置の固有振動数の変化も減少することになる。
【0051】
これに対して、軽い精密機器15Lが可動板12上に搭載される場合には、図9(B)に示すように、各コイルバネ13の撓み量が減少し、各ダンパー部30においては、各コイルバネ13の弾性変形による伸長に対応して、受け部材31の中空部内でダンパー材22が垂直方向に摺動して、受け部材31は、図8に示した高さ位置より上方に移動する。
【0052】
このとき、ダンパー材22は、受け部材31の内壁面の内径が徐々に大きくなるので、外周に対する押圧力が減少すると共に、下方のダンパー材22は、その外周が受け部材31の内壁面から離反する。これにより、ダンパー材22の減衰特性が減少すると共に、バネ特性も変化し、バネ定数が小さくなる。
従って、軽い精密機器15Lが自由振動する際のダンパー材22によるエネルギー吸収量が減少して、その減衰が小さくなる。これにより、軽い精密機器15Lの自由振動の収束が過減衰になることを防ぐ。
さらに、コイルバネ13とダンパー材22による合成バネ定数も減少するので、除振装置の固有振動数の変化も減少することになる。
【0053】
図10は、本発明による除振装置の第三の実施形態におけるダンパー部の構成を示している。
図10において、この除振装置は、図1及び図2に示した除振装置10とほぼ同様の構成であるので、同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
この除振装置は、図1及び図2に示した除振装置10とは、ダンパー部20の構成のみが異なっている。
【0054】
即ち、図10において、この除振装置では、ダンパー部20における揺動手段24は、コイルバネ状のバネ部材24dの代わりに、例えばゴム製のチューブ部材から成る中空円筒状の連結部材24eを備えている。
また、固定部材24a上には、ネジ部24cの代わりに、円柱状部24fが備えられている。
そして、円柱状部24fの上端の外周面及び支軸23の下端の外周面には、円周溝24g,23bが形成されている。
【0055】
ここで、連結部材24eの内径は、円柱状部24f及び支軸23の外径より小さく選定されている。
これにより、連結部材24eの上端及び下端が、支軸23の下端及び円柱状部24fの上端に被嵌されたとき、連結部材24eが、円周溝24g,23b内に食い込むことにより、連結部材24eの支軸23及び円柱状部24fからの脱落が防止される。
その際、連結部材24e内において、支軸23の下端面と円柱状部24fの上端面との間隔が1mm程度であることにより、連結部材24eがこの間隔の領域において伸縮可能であるので、支軸23は、その下端において、連結部材24eを介して、即ち固定板11に対して揺動可能に支持される。
【0056】
このような構成の除振装置によれば、図1及び図2に示した除振装置10と同様に作用する。
【0057】
図11は、本発明による除振装置の第四の実施形態におけるダンパー部の構成を示している。
図11において、この除振装置は、図10に示した除振装置におけるダンパー部とほぼ同様の構成であるので、同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
この除振装置は、図10に示した除振装置とは、ダンパー部20の構成のみが異なっている。
【0058】
即ち、図11において、この除振装置では、ダンパー部20における揺動手段24は、ゴム製のチューブ部材から成る連結部材24eの代わりに、線バネ24hを備えている。
固定部材24a上の円柱状部24fの上端面及び支軸23の下端面には、それぞれ中心に穴24i,23cが備えられている。
【0059】
これにより、線バネ24hの上端及び下端が、支軸23の下端面の穴23c及び円柱状部24fの上端面の穴24iに圧入されて、線バネ24hが、支軸23及び円柱状部24fに対して同心に固定される。
その際、支軸23の下端面と円柱状部24fの上端面との間隔が1mm程度であることにより、線バネ24hがこの間隔の領域において弾性変形可能であるので、支軸23は、その下端において、線バネ24hを介して、固定板11に対して揺動可能に支持される。
【0060】
このような構成の除振装置によれば、図1及び図2に示した除振装置10と同様に作用する。
【0061】
図12は、本発明による除振装置の第五の実施形態におけるダンパー部の構成を示している。
図12において、この除振装置は、図1及び図2に示した除振装置とほぼ同様の構成であるので、同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
この除振装置は、図1及び図2に示した除振装置10とは、ダンパー部20の構成のみが異なっている。
【0062】
即ち、図12において、この除振装置では、ダンパー部40は、揺動手段24の代わりに、揺動手段41を備えている。
揺動手段41は、偏平な中空円筒状の固定部材42と、固定部材42の上端に取り付けられた円板状の弾性部材43と、弾性部材43の中心の上面に取り付けられたフランジ44と、から構成されている。
【0063】
固定部材42は、例えば金属パイプ等から構成されており、固定板11上に固定されている。
弾性部材43は、例えばゴム板から構成されており、その外周縁が固定部材42の上端外周に固定されている。
フランジ44は、支軸23の下端に一体的に取り付けられていると共に、弾性部材43の中心において、その上面に同軸に固着されている。
【0064】
これにより、支軸23は、その下端がフランジ44,弾性部材43及び固定部材42を介して、固定板11に取り付けられる。
このとき、支軸23は、弾性部材43の表面に対して垂直に取り付けられると共に、弾性部材43の弾性変形によって、固定板11に対して揺動可能に支持されることになる。
【0065】
このような構成の除振装置によれば、図1及び図2に示した除振装置10と同様に作用する。
【0066】
なお、前記ダンパー部における受け部材、ダンパー材及び支軸が、無負荷状態で、前記固定板及び可動板の一方から他方に向かって中心軸に傾斜して配置されていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0067】
上述した本発明実施形態による除振装置10においては、可動板12は、固定板11に対して、四隅付近に配置された四個のコイルバネ13により支持され、各コイルバネ13に隣接しては位置された四個のダンパー部20により除振されるように構成されているが、これに限らず、精密機器15,15Lまたは15Hが搭載される可動板12が固定板11に対してバランスよく支持されれば、少なくとも三個以上のコイルバネ13及びダンパー部20により支持されるようにしてもよいことは明らかである。
その際、各コイルバネ13及びダンパー部20の配置場所は、これらの加重平均位置が精密機器15の重心と垂直方向に整列するように選定されればよい。
【0068】
上述した実施形態においては、各ダンパー部20,30,40は、それぞれ対応するコイルバネ13に対してX方向内側に隣接して配置されているが、これに限らず、各ダンパー部20,30,40は、それぞれ対応するコイルバネ13に対して、Y方向内側、あるいは固定板11及び可動板12の中心寄りに配置されていてもよい。
【0069】
上述した実施形態においては、固定板11に対して可動板12を支持するために、コイルバネ13が使用されているが、これに限らず、他の種類の弾性部材が使用されてもよいことは明らかである。
【0070】
さらに、上述した実施形態においては、精密機器15,15L,15Hの除振を行なう場合について説明したが、他の各種機器装置、特に精密機器類等の除振のために使用してもよいことは明らかである。
【0071】
以上述べたように、本発明によれば、荷重が変化しても、振動に対する減衰特性及びバネ特性の変化が抑制され、除振性能の劣化が低減される、極めて優れた除振装置が提供され得る。
【符号の説明】
【0072】
10 除振装置
11 固定板
12 可動板
13 コイルバネ(弾性部材)
14 作業台
15 精密機器
15H 重い精密機器
15L 軽い精密機器
20,30,40 ダンパー部
21,31 受け部材
22 ダンパー材
23 支軸
24,41 揺動手段
42 固定部材
43 弾性部材
44 フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平に固定配置された固定板と、前記固定板の上方に配置され、前記固定板との間に介装された少なくとも三本の弾性部材を介して前記固定板に対して相対的に移動可能に支持された可動板と、これらの固定板及び可動板の間で各弾性部材に隣接して配置されたダンパー部と、から構成されていて、
前記各ダンパー部が、それぞれ前記固定板または可動板に固定された受け部材と、前記受け部材内で同軸に且つ摺動可能に配置された粘弾性体から成る円板状のダンパー材と、前記ダンパー材の中心付近に一端が連結された支軸と、から構成されており、
前記支軸の他端が、前記可動板または固定板に対して揺動手段を介して揺動可能に支持されている、
ことを特徴とする除振装置。
【請求項2】
前記各ダンパー部における受け部材及び支軸が、無負荷状態で、前記固定板及び可動板に対して垂直に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の除振装置。
【請求項3】
前記各ダンパー部における受け部材,ダンパー材及び支軸が、無負荷状態で、前記固定板及び可動板の一方から他方に向かって中心側に傾斜して配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の除振装置。
【請求項4】
前記受け部材が、円筒状の内壁面を有していることを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載の除振装置。
【請求項5】
前記受け部材が、開口側から固定側に向かって先細の円錐台状の内壁面を有していることを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載の除振装置。
【請求項6】
前記揺動手段が、前記支軸の他端における周面に装着されたコイルバネから構成されていることを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載の除振装置。
【請求項7】
前記揺動手段が、前記支軸の他端における周面に装着された円筒状ゴム材から構成されていることを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載の除振装置。
【請求項8】
前記揺動手段が、前記支軸に連結された線状バネにより構成されていることを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載の除振装置。
【請求項9】
前記揺動手段が、前記可動板または固定板の支持領域の表面にて無負荷状態で当該支軸に対して垂直に設けられたゴム板から構成されていることを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載の除振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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