説明

除細動情報処理装置、及び除細動情報処理プログラム

【課題】救急救命医療等に使用される標準的治療プログラムに同期し、一連の治療行為における除細動治療の時系列的な情報を取得し、処理することが可能な除細動情報処理装置、及び除細動情報処理プログラムを提供する。
【解決手段】除細動情報処理装置1は、治療行為の手順が標準化された標準的治療プログラムに基づいて、治療行為に対応する治療行為提示情報20を提示する情報提示手段23と、提示される治療行為提示情報20に同期して治療行為を時系列的にイベントインデックス30に構造化して記録する治療行為記録手段24と、心臓の細動を除去する除細動器9の起動タイミングを検出する検出手段32と、検出手段32によって検出された起動タイミングに係る除細動情報8を、イベントインデックス30に構造化して記録する除細動情報記録手段33とを主に具備して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除細動情報処理装置、及び除細動情報処理プログラムに関するものであり、特に、除細動器の起動タイミングを標準的治療プログラムに同期して記録及び処理することが可能な除細動情報処理装置及び除細動情報処理プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、患者の心臓の細動を除去する有効な方法として、除細動器による電気刺激療法が用いられてきた。ここで、除細動器とは、蓄積エネルギーを高電圧パルスとして除細動電極部から患者の心臓へと放電し、心臓の細動を除去する(以下、単に「除細動」と称す)ものであり、患者の体内に埋め込む植え込み型除細動器と、患者の体の外側から電極パッドを押し当てて使用する体外式除細動器とが知られている。このうち、体外式除細動器(以下、単に「除細動器」と称す)は、緊急時に医師等の治療者が素早く除細動を行えることから、救急救命医療現場において広く活用されている。
【0003】
一方、同じく救急救命医療現場において治療行為を支援する方法の一つとして、標準的治療プログラム(例えば、ACLS及びJATEC等)を活用することが広く行われている。ここで、標準的治療プログラムとは、搬送された患者の状態を、救命医が的確に判断し、適切かつ迅速な治療を行うために、一連の治療行為の手順が予めフローチャート化され、それぞれの治療行為の具体的な内容や次の治療行為に遷移又は分岐する際の明確な規定が確立されているプログラムを指し示す。このような標準的治療プログラムにおいては、それぞれの治療行為が途切れることなく、流れに従って分岐または遷移の条件を確認可能なものが示されているため、医師は各治療行為において、患者の様態や治療に対する反応及び結果を確認し、事後に実施する治療行為を、主に分岐して提示される治療行為の中から決定し、その治療行為を実施することができる。このとき、ある治療行為から次の治療行為に遷移させることにより、複雑な治療の手技も速やかに行えるようになる、というものである。
【0004】
ところで、除細動治療を施す際に、除細動器を使用した起動タイミングを記録しておくこと、及び当該使用をした結果、患者にどのような変化が現れたのかを記録しておくことは、後の治療解析上極めて有用な事項である。そこで、例えば特許文献1に示すように、デジタル記憶手段を備えた除細動器を用いて、除細動時の患者の心電図を記録しておくことや、特許文献2に示すように、患者の心電図を記憶するとともに、コンピュータ等の外部端末へ記憶したデータを送信する通信手段を有する除細動器を適用することなどが行われている。
【0005】
【特許文献1】特表2004−525698号公報
【特許文献2】特開平10−028679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような治療手順においては、下記に掲げるような問題があった。すなわち、上述した標準的治療プログラムは、単に治療行為の一連の流れを規定したものであり、これと治療行為に係る医療情報とを関連付けて記録するものは皆無であった。特に、除細動器の起動タイミング及び当該行為に起因する患者の容態を示すデータ等と、一連の治療行為の記録とを時系列的にリンクさせて、つまりリアルタイムに関連付けて記録することができず、いつ、どのような処置の後に除細動が行われたのか、また、除細動を行った結果どのような処置を行ったか、などといった、治療行為と除細動情報との関連付けは、事後に治療者の記憶に頼って記録する必要があり、極めて面倒であった。さらに、治療者の事後の記録のみを頼りに関連付けていく方法では、ある治療行為から除細動を行うまでにどのくらい時間がかかったのか、または除細動を行ってから次の治療行為に移行するまでにどのくらいの時間を要したか、などといったリアルタイムの解析は極めて難しく、正確性に欠ける恐れもあった。
【0007】
また、治療室内にビデオカメラ等の映像入力機器を設置し、患者が搬送されてから全ての治療行為の処置が完了するまでの流れを映像情報として記録することが行われることがあった。このようにして記録された一連の治療行為と、前述までに述べられたような患者の心電図情報とを組み合わせて編集し、一連の治療行為と除細動情報との関連性を分析するという方法も考えられるが、係る編集作業は多大な労力を必要とし、通常の医療現場で実行されることはほとんどなかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、救急救命医療等に使用される標準的治療プログラムに同期し、一連の治療行為における除細動治療の時系列的な情報を取得し、処理することが可能な除細動情報処理装置、及び除細動情報処理プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる除細動情報処理装置は、「治療行為の手順が標準化された標準的治療プログラムに基づいて、前記治療行為に対応する治療行為提示情報を提示する治療行為提示手段と、提示される前記治療行為提示情報に同期して前記治療行為を時系列的にイベントインデックスに構造化して記録する治療行為記録手段と、心臓の細動を除去する除細動器の起動タイミングを検出する検出手段と、前記検出手段によって検出された前記起動タイミングに係る除細動情報を、前記イベントインデックスに構造化して記録する除細動情報記録手段と」を主に具備して構成されている。
【0010】
ここで、「標準的治療プログラム」とは、救急医療の現場で使用されるACLS(Advanced cardiac life support:二次救命処置)に代表的に示されるように、治療行為が一連の流れに沿って標準化され、各治療行為の間で分岐または遷移の条件等の判断基準が規定されているものである。なお、ACLSは、救急救命センター等の医療機関で採用され、医師または十分な訓練を受けた者が、医師の指導の下に医療器具や医薬品を用いて実施する心肺蘇生のための手法であり、現在では心肺蘇生法の世界的な基準として認知されている。
【0011】
そして、標準的治療プログラムに基づいて、各々の治療行為を実施する際の具体的な実施の内容及びその手法、使用する医療器具、使用する薬品の種類及びその投与条件、及び治療に対する患者の反応または治療の影響等に関する情報等が記憶され、実行される。このとき、標準的治療プログラムを実行するために、例えば、その治療内容を示す治療内容データ、及び患者の様態を確認し、次に実施する治療行為を決定するための判断基準を示す条件データのような治療行為提示情報が含まれている。そして、各治療行為毎にこれらの治療行為提示情報が連結した治療行為群情報のように形成されているものであってもよい。なお、この標準的治療プログラムは、心肺蘇生のようなケースに限られず、例えば、意識障害、重症熱傷、ガス・薬物中毒、外傷等のケースに対応するように、それぞれの症例に対して構築されつつある。
【0012】
さらに、治療行為提示手段は、医師等によって選定された標準的治療プログラムの内容を、実際に治療行為を実施する治療者にその内容を具体的に提示するものであり、例えば、治療室内に設置された大型のディスプレイに治療内容データや条件データを表示し、治療者が当該治療行為を確認しながら行うことができるようにするものである。さらに、治療室に搬送されてからの経過時間、当該治療行為に遷移してからの時間等の情報も提示することも可能である。さらに、治療行為の内容を、スピーカ等を介して治療者の聴覚を通じて伝達するものであってもよい。
【0013】
また、「イベントインデックス」とは、時系列に従って映像情報、音声情報、テキスト情報、またはセンサ情報等のような様々な情報から検出された多様なイベントを統合し、情報の種類やイベントの内容などを構造化して記録したものである。さらに、医学的な専門知識を活用することによって、各イベント間の関連性を含めて記録することができる。そして、イベントインデックスを参照することによって、イベントの分類や再生時の各種情報の選択を行うことが可能となり、多様な情報の活用が容易となる。
【0014】
さらに、「除細動器の起動タイミング」とは、除細動器の起動状態を示すものであれば如何なるものであってもよく、除細動器における電圧、電流、抵抗、電力などの電気的特性の変化から検出するものであっても良いし、位置センサや圧力センサ、接触センサ等のセンシング手段を用いて起動を検出するものであっても良い。また、患者の治療行為に関連する各種の医療機器、例えば血圧、心電図波形、脈拍等の所謂バイタルサインを得るセンサ機器から得られる情報より除細動器の起動を判断して検出するものであっても良い。要するに、除細動器の起動を確認できるものであれば、如何なるものであっても良い。
【0015】
したがって、本発明の除細動情報処理装置によれば、標準的治療プログラムの実行によって提示される治療行為提示情報が医師等の治療者に逐次提示され、提示された治療行為の内容や次に遷移する際の条件等を確認しながら当該治療行為を実施することが可能となる。これにより、治療者は治療のポイントとなる点(イベント)を確認しながら、標準的治療プログラムにしたがった治療行為を実施することが可能となり、治療手順のミス等を犯す可能性が低くなり、迅速かつ適切な治療行為が行える。
【0016】
また、治療行為記録手段を備えていることにより、標準的治療プログラムを参照して行われた一連の治療行為が、時系列に従って構造化して記録される。これにより、事後にその記録の内容を確認及び検討する際に、全体の治療の進行の様子、各治療行為の様子、それぞれの治療行為に要した時間、及び次の治療行為に分岐または遷移する際の判断・決定の適正等を確認することが可能となる。さらに、検出された除細動器の起動タイミングを、当該治療行為記録手段に構造化して記録する除細動情報記録手段を具備しているため、従来までのように治療者の曖昧な記憶に頼ることなく、常に客観的な事実及び情報に基づいて、除細動の起動タイミングを記録することができる。従って、診療記録やカルテ等の事後の作成作業が容易とばかりではなく、事後の検証によって除細動にかかる治療行為の課題点や改善点が明らかとなり、治療者がこれらを認識することにより、以後の治療行為のために役立つ有益なアドバイスとなり、さらに適切な治療行為を実施することが可能となる。
【0017】
また、当該除細動情報をイベントインデックスに構造化して記録することで、一連の治療行為のうち、イベントの抽出、検索、及び編集作業も容易であり、治療内容の解析を効率的に行うことができる。さらに、検出手段と除細動情報記録手段とを備えていることから、除細動治療を実行するだけで、効率的に除細動情報をイベントインデックスとして記録することができる。従って、治療中に除細動装置から当該記録を別途取り出すための手間及び手順が減り、治療者等の作業負担が減るため、緊急性の高い救急救命治療の邪魔とならず、効果的である。
【0018】
ところで、除細動器の起動タイミングを、患者のバイタルサイン等から検出した場合には、治療前後の患者の状態(例えば心室性頻脈や心静止であった場合に、心電図波形が微弱である等)によって、除細動器の起動タイミングを特定することが困難である場合も考えられる。また、救急救命治療時は、治療室内が騒然としがちであり、人や物品の移動が頻繁であるため、上述した位置センサ等のセンシング手段による除細動器の起動タイミングの検出が困難である可能性も考えられる。
【0019】
そこで、本発明の除細動情報処理装置において、上記構成に加え、さらに「前記検出手段は、前記除細動器の起動スイッチの操作に連動して前記起動タイミングを検出することを特徴とする」ものであっても構わない。
【0020】
本発明の除細動情報処理装置によれば、除細動器の起動タイミングを、起動スイッチに連動して検出する構成である。したがって、患者の状態や治療室内の様子に左右されること無く、比較的確実に起動タイミングを検出することができる。また、バイタルサイン等を解析して起動タイミングを推定するような場合に比べて、容易に、且つ瞬時に起動タイミングを特定しやすいため、好適である。
【0021】
さらに、本発明にかかる除細動情報処理装置は、上記の構成に加え、「前記除細動器の作動条件を示す作動情報、または前記起動タイミングの前後の心電図波形を示す波形情報の少なくともいずれか一方を取得する付随情報取得手段と、取得された前記付随情報を前記イベントインデックスに構造化して記録する付随情報記録手段と」を具備するものであっても構わない。
【0022】
ここで、「作動条件」とは、除細動器作動時の電圧、電流、実効電力、インピーダンス、周波数等、圧力、または接続されている補助デバイスの状況など、除細動器を作動させる際の各種の設定条件が例示できる。また、「前後」とは、任意の設定時間で区切られる範囲(例えば起動タイミングの前後10秒等)であっても良いし、イベントインデックスで区切られる範囲(例えば、除細動治療にかかるイベントインデックスの前後のイベントインデックス間等)であっても良い。要するに、除細動治療時を境界とする時間的前後の心電図波形を取得できるものであれば、如何なるものであっても良い。
【0023】
したがって、本発明の除細動情報処理装置によれば、構造化して記録されたイベントインデックスに、除細動器の起動タイミングだけではなく、除細動器の作動情報または患者の心電図波形のうち少なくともいずれか一方が記録される。従って、いつ、どのような処置の後に除細動が行われたのか、また、除細動を行った結果どのような処置を行ったのかなどといった解析に加えて、除細動を行った結果、患者にどのような変化が現れたか(または現れなかったか)、また、当該治療の後にどのような治療を行ったのかなどのような、より具体的な解析をすることができ、さらなる医療の発展に資するため好適である。さらに、解析の結果を医療教育の現場にフィードバックし、時系列に沿ったリアルタイムな情報が盛り込まれた治療行為記録に基づいて訓練を行うことが可能となるため、効果的である。
【0024】
さらに、本発明にかかる除細動情報処理装置は、上記の構成に加え、「前記起動タイミングを周囲に報知する音情報または光情報を出力する報知情報出力手段をさらに具備し、前記検出手段は、出力された前記音情報または前記光情報を検出し、前記起動タイミングを認識することを特徴とする」ものであっても構わない。
【0025】
したがって、本発明の除細動情報処理装置によれば、特定の周波数を持つ音情報または光情報によって、除細動器の起動タイミングを特定し、イベントインデックスに記録することができる。これにより、比較的確実且つ容易に除細動治療の起動タイミングを特定することができるため、効果的である。
【0026】
一方、本発明にかかる除細動情報処理プログラムは、「治療行為の手順が標準化された標準的治療プログラムに基づいて、前記治療行為に対応する治療行為提示情報を提示する治療行為提示手段、提示される前記治療行為提示情報に同期して前記治療行為を時系列的にイベントインデックスに構造化して記録する治療行為記録手段、心臓の細動を除去する除細動器の起動タイミングを検出する検出手段、及び、前記検出手段によって検出された前記起動タイミングに係る除細動情報を、前記イベントインデックスに構造化して記録する除細動情報記録手段として、除細動情報処理装置を機能させる」ものである。
【0027】
さらに、本発明にかかる除細動情報処理プログラムは、上記構成に加え、「前記除細動器の起動スイッチの操作に連動して前記起動タイミングを検出可能な前記検出手段」として、除細動情報処理装置をさらに機能させるプログラムを構成するものであっても構わない。また、上記構成に加え、「前記除細動器の作動条件を示す作動情報、または前記起動タイミングの前後の心電図波形を示す波形情報の少なくともいずれか一方を取得する付随情報取得手段、及び、取得された前記付随情報を前記イベントインデックスに構造化して記録する付随情報記録手段」として、除細動情報処理装置をさらに機能させるプログラムを構成するものであっても構わない。
【0028】
したがって、本発明の除細動情報処理プログラムによれば、プログラムを実行することにより、除細動情報処理装置に上述した作用を奏させることが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の効果として、除細動治療の時系列的な情報を取得し、記録することで、一連の治療行為における除細動治療の課題点や改善点が明らかとなり、以後の治療行為に関するより有益な情報を抽出することが可能となる。また、除細動装置から除細動に係る記録を取り出すための手順及び手間が不要となり、治療者が集中して救急救命治療に取り組むことができる。さらに、除細動情報がイベントインデックスとして構造化して記録されることで、治療にかかる記録の検索・確認作業が容易であり、編集作業の労力を大幅に軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態の除細動情報処理装置1について、図1乃至図5に基づき説明する。図1は本実施形態の除細動情報処理装置1の概略構成を示す説明図であり、図2は除細動情報処理装置1の装置本体3の機能的構成を主に示すブロック図であり、図3は標準的治療プログラム2の治療行為の流れの一例を示す説明図であり、図4は除細動情報処理装置1の処理の流れを示すフローチャートであり、図5は標準的治療プログラム2にしたがった治療行為から検出されたイベントインデックス30の一例を示す説明図である。ここで、本実施形態の除細動情報処理装置1は、救急救命医療が実施される医療機関の治療室4に設置され、救急車等によって当該治療室4に搬送されてきた患者5を医師及び看護師からなる複数の治療者6が標準的治療プログラム2(例えば、図3参照)の各手順に則って治療を行い、その治療行為に係る記録を映像及び音声等の情報として治療の進行に併せてリアルタイムで取得し、記録することが可能なものについて例示している。
【0031】
本実施形態の除細動情報処理装置1は、図1に示すように、医療機関の治療室4に設置され、治療室4で行われる治療行為に関する情報を取得し、除細動治療にかかる記録を処理するための装置本体3と、患者5の除細動治療にかかる起動タイミング等を除細動情報8として取得する除細動器9とを主に具備して構成されている。
【0032】
装置本体3は、種々のデータを記録及び管理し、また情報の取得に用いられる各種記録機器(カメラ12、マイク17、及びコンソール26等)を選択的に制御するための機能を有するものであり、ここでは汎用のパーソナルコンピュータを応用して構築されている。したがって、これらの装置本体3は、図略のCPU等の演算回路、各種信号の送受を行うためのインターフェイス回路及びインターフェイス機器、及び取得した情報を記録し、保存するためのハードディスク及び半導体メモリ等の記憶媒体を含むハードウェア構成によって構築されている。また、装置本体3には、治療者6に標準的治療プログラム2(図3参照。以下同じ)に沿った治療行為の手順の流れ、具体的な治療内容、次の治療行為に遷移する際の条件や判断基準等を視覚若しくは聴覚を通じて提示するためのディスプレイ10及びスピーカ11がさらに備えられている。なお、ディスプレイ10及びスピーカー11の構成としては、装置本体3と一体的に構成されたものを例示しているが、これに限定されるものではなく、前述のCPU等の機能部品とは別体にて構成され、赤外線や無線等の通信手段を用いて相互に情報を交換するものであっても良いし、後述する除細動器9と一体にて構成されるものであっても良い。要するに、治療者6が標準的治療プログラム2に沿った治療行為の手順の流れを確認できるものであれば、如何なるものであっても良い。なお、図3において、「VT」とあるのは脈の触れない心室性頻脈を示し、「VF」とは心室細動を示し、「PEA」とは脈の触れない心臓の電気的活動を示し、「Asystole」とは心静止を示す記号である。
【0033】
除細動器9は、電気刺激を与えることで患者5の心臓の細動を除去するものであり、当該電気刺激に必要となる電気エネルギーを蓄積して放電するための除細動機構を備える除細動器本体40と、患者5に接触させて電気刺激を伝達させる一対の電気パッド13とを具備している。また、本実施形態における除細動器9は、起動タイミングにかかる除細動情報8と、当該起動タイミング時の除細動器9の使用履歴、使用時間、及び使用条件(除細動器9のチャージ電力等)を示す作動情報25(図2参照)とを有するものである。さらに、電気パッド13には、治療者6が電気刺激を起動させる起動スイッチSが備えられている。一方、治療室4内には、患者の容態を把握する医療機器の一つとして、心電計14がさらに設置されている。心電計14は、患者5の身体の一部に装着されて、心拍数・脈拍数・心電図波形・血圧等の所謂バイタルサインを波形情報15(図2参照)として取得するセンサ部7と、取得された波形情報15を装置本体3に送信し、且つモニタに表示させる心電計本体とを具備している。ここで、波形情報15及び作動情報25が、本発明の付随情報34に相当する。なお、図1においては、簡略化のため除細動器9と心電計14とが一体的に構成されているものを例示しているが、これに限定されるものではなく、除細動器9と心電計14とを別体にて構成しても良い。また、モニタを具備しない心電計本体を適用しても良い。要するに、起動タイミングを除細動情報8として取得し、且つ装置本体3に対して通信する手段を有しているものであれば、如何なるものであっても良い。また、除細動情報8、波形情報15、及び作動情報25を通信する手段としては、特に限定されるものではない。公知の標準規格、例えばRS232C規格や独自の通信規格など、適宜の通信手段を適用可能であるし、有線接続または無線接続を適用することも当然可能である。
【0034】
また、装置本体3には、治療室4の全体及び細部の様子を撮影し、映像情報19を取得するためのカメラ12と、治療室4内で交わされる治療者6の間の会話または指示・患者5の発する声等を録音し、音声情報18を取得するための複数のマイク17と、治療行為の間に治療者6が治療に関する所見等のコメントを入力し、テキスト情報29(図2参照)として受付けるためのコンソール26とが夫々接続されている。図1では、簡略化のためカメラ12を一つだけ配置しているものを図示しているが、治療室4内に複数台配置することも可能である。また、装置本体3とマイク17との接続は無線で行うものを図示しているが、有線で接続することも当然可能である。
【0035】
本実施形態に使用される装置本体3について、詳細に説明する。図2に主に示すように、装置本体3は、その機能的構成として、プログラム記憶手段22と、情報提示手段23と、治療行為記録手段24とを具備している。プログラム記憶手段22は、治療行為群情報21を記憶するものであり、治療行為群情報21とは、本実施形態においては、実施する治療行為の具体的内容や使用する医療器具等を治療者6に提示するための治療内容データ20a、ある治療行為から次の治療行為に分岐または遷移するための判断基準等の条件を示すための条件データ20bからなる複数の治療行為提示情報20を、時系列に沿ってグループ化して構築した情報を示す。情報提示手段23は、治療行為の進行状況に応じて当該治療行為の治療内容データ20a及び条件データ20bをディスプレイ10及びスピーカ11に出力可能に制御するものである。治療行為記録手段24は、情報提示手段23によって提示される治療行為提示情報20に同期して治療行為の結果を時系列的にイベントインデックス30(図6参照)に構造化して記録するものである。
【0036】
また、装置本体3は、上記構成に加え、起動スイッチSに連動して除細動器9の起動タイミングを除細動情報8として検出する検出手段32と、除細動情報8を取得して記録する除細動情報記録手段33と、付随情報34を取得する付随情報取得手段35と、取得された付随情報34を記録する付随情報記録手段36とを具備している。さらに、上記構成に加え、カメラ12によって撮影された治療室4内のそれぞれ様子を映像情報18として取得し、記録する治療映像記録手段42と、複数のマイク17によって収録された治療室4内の音声を音声情報19として取得し、記録する治療音声記録手段43と、コンソール26を利用して治療行為に関する所見等のコメントの入力を受付け、テキスト情報29として記録する治療テキスト記録手段44とを具備している。なお、各種記録手段33,36,42,43,44によって記録された情報は、装置本体3に設けられた情報記憶手段28に一括して記録されている。さらに、この記録処理に際して、情報提示手段23に提示されている治療行為提示情報20とそれぞれの情報8,18,19,29,34とが関連付けられて、換言すれば、治療行為の進行状況と記録のタイミングを同期させた状態で記録される。これにより、除細動情報8等の情報は、いずれも標準的治療プログラム2に則った治療行為に合わせた時間関数のデータ(図示しない)を含んでいる。ここで、映像情報18,音声情報19,テキスト情報29等から抽出された治療行為の要部(イベント)、除細動情報8、及び付随情報34を時系列にしたがって構造化して記録したものが、本発明のイベントインデックス30に相当する。また、検出手段32が、起動スイッチSの起動(ON)を検出する方法としては、接触スイッチの接点状態、電圧の変化、電流の変化等が例示できる。
【0037】
次に、本実施形態の除細動情報処理装置1を利用した情報の取得及びその記録等の処理の一例について、図4に基づいて説明する。なお、図5は、図4に示す処理の結果記録されたイベントインデックス30の一例を示している。まず、治療室4内に設置された本実施形態の除細動情報処理装置1を構成する装置本体3、除細動器9、カメラ9、マイク17、及びコンソール26の複数のハードウェア機器に電源を投入し、稼働を開始する(ステップS1)。そして、患者5が搬送されるまで待機する。治療室4に患者5が救急車等によって搬送されると、除細動器9のセンサ部7を患者5の身体の一部に装着し、脈拍、血圧、及び呼吸数等の基礎的なバイタルサインを含む波形情報15を心電計14を介して取得し(ステップS2)、情報記憶手段28に記録する。なお、係る段階で得られる波形情報15は、標準的治療プログラム2に従って行う治療行為の前段階として取得され、患者5の状態を確認し、プログラム記憶手段22に記憶された複数の治療行為群情報21からいずれを選定するかを決定するための参考にされるものである。そのため、後述する治療行為提示情報20と同期して記録されるものではない。
【0038】
その後、治療者6によって患者5の状態が診断され、適切な標準的治療プログラム2(ここでは、図3に示す心肺蘇生のための標準的治療プログラム)が選定される。そして、選定された標準的治療プログラム2に対応する治療行為群情報21をプログラム記憶手段22から選択し、実行する旨の指示が治療者6によって行われる。このとき、除細動情報処理装置1は、標準的治療プログラム2の選定を示す信号が入力されたか否かを検出し(ステップS3)、その信号の受付けが有る場合(ステップS3においてYES)、指示された治療行為群情報21を抽出し、治療者6に対する提示を開始する(ステップS4)。一方、その旨の入力の受付けがない場合(ステップS3においてNO)、治療行為群情報3の選定がなされ、指示する旨の入力があるまでステップS3の処理を継続し、待機する。
【0039】
続いて、医療情報処理装置1は、治療映像記録手段42,治療音声記録手段43,または/及び治療テキスト記録手段44によって各種情報18,19,29を取得し、標準的治療プログラム2に従った次の治療行為提示情報20を抽出する(ステップS5)。そして、抽出された治療行為提示情報20を、治療室5内に設置されたディスプレイ18及びスピーカ19を利用して治療者6に伝達する(ステップ6)とともに、取得された各種情報18,19,29等を、提示されている治療行為提示情報20に同期するように情報記録手段28に記録する(ステップS7)。なお、治療行為提示情報20の提示とともに、治療行為の結果が治療行為記録手段24によってイベントインデックス30にデータとして記録されている(図示しない)。このとき、除細動情報処理装置1は、検出手段32によって除細動器9のスイッチSが起動されたか否かを判断し(ステップS8)、スイッチSの起動(ON)による除細動情報8の検出が有る場合(ステップS8においてYES)、除細動情報8を情報記憶手段28に記録する(ステップS9)。
【0040】
その後、再度検出手段32による除細動情報8の有無を判断し(ステップS10)、除細動情報8が検出されない場合(ステップS10においてYES)は、本実施形態の除細動情報処理装置1による情報の取得及びその処理を停止するか否かについての指示の入力の有無を検出する(ステップS11)。ここで、除細動情報処理装置1により情報の取得を停止する旨の指示の入力が有る場合(ステップS11においてYES)、装置本体3、除細動器9、カメラ12、マイク17、及びコンソール13の複数のハードウェア機器の稼働を停止し、本発明に係る除細動情報処理装置1による情報の取得を停止する(ステップS12)。
【0041】
一方、取得を停止する旨の指示がない場合(ステップS11においてNO)、治療者6による治療行為の実施を継続し、ステップS5の処理に移行する。これにより、標準的治療プログラム2に基づいた治療行為提示情報20の抽出が継続される。
【0042】
一方、ステップS8において、除細動情報8が検出されない場合(ステップS8においてNO)は、ステップS9及びステップS10の処理をスキップして、ステップS11の処理に移行する。
【0043】
以上示したように、標準的治療プログラム2に則って実施されるそれぞれの治療行為の細部を治療者6に進行状況に応じて提示するとともに、その治療行為に関連づけて除細動器9の起動タイミングにかかる除細動情報8を検出し、情報として記録することができる。特に、除細動器9の起動スイッチSをONにするだけで、除細動治療にかかる情報を確実に記録に残すことができる。そのため、事後にカルテや診療記録を作成する際に、除細動治療にかかる治療経過についての時系列的な解析及び検討を行うことが容易となる。
【0044】
加えて、除細動情報8だけではなく、除細動治療前後の患者5の波形情報15や作動情報25等の付随情報34を取得し、イベントインデックス30に構造化して記録することができるため、ある治療行為から除細動治療を行うまでにどのくらい時間がかかったのか、除細動治療を行ってから次の治療行為に移行するまでにどのくらいの時間を要したか、また、治療の結果患者5の容態がどのように変化したのか、などといったより具体的且つリアルタイムの解析を行うことが可能となる。したがって、事後の検証や解析作業、及びカルテ等の作成が容易に行え、以後の治療行為の効率化を促進させることができる。
【0045】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0046】
すなわち、本実施形態の除細動情報処理装置1において、救急救命医療の医療現場について例示するものを示したが、これに限定されるものではなく、標準的治療プログラム2に基づいた治療行為群情報21を構築可能なものであれば構わない。さらに、治療行為提示情報20を提示する手段としてディスプレイ10及びスピーカ11を使用するものを示したが、これに限定されるものではなく、治療者6に明確にその旨が伝達可能なものであれば構わない。
【0047】
また、上記の実施形態において、装置本体3に接続される各種記録機器としては、除細動器9、カメラ12、心電計14、マイク17、及びコンソール26等を例示したが、この構成に限定されるものではなく、さらに位置センサ、接触センサ、圧力センサ、温度センサ等の各種センサ類を接続し、治療室4内における治療者や患者の位置等の様々な履歴を記録する構成としても良い。また、上記の実施形態において、検出手段32によって除細動情報8を取得する方法として、除細動器9の起動スイッチSにおける接点状態、電圧の変化、電流の変化等を例示したが、これに限定されるものではない。すなわち、一対の電気パッド13間のインピーダンスを検出するものであっても良いし、除細動器9の起動時に特定の音や光を発生させ、これを装置本体3、カメラ12、または/及びマイク17によって検出する方法としても良い。さらに、除細動器9の起動タイミングを検出する検出手段32は、装置本体3に具備されているものを例示したが、除細動器9に備えられている構成としても良い。要するに、起動タイミングを特定し、検出できるものであれば、如何なるものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】除細動情報処理装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】除細動情報処理装置の装置本体の機能的構成を主に示すブロック図である。
【図3】標準的治療プログラムの治療行為の流れの一例を示す説明図である。
【図4】除細動情報処理装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】標準的治療プログラムにしたがった治療行為から検出されたイベントインデックスの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 除細動情報処理装置
2 標準的治療プログラム
8 除細動情報
9 除細動器
15 波形情報
20 治療行為提示情報
23 情報提示手段(治療行為提示手段)
24 治療行為記録手段
25 作動情報
30 イベントインデックス
32 検出手段
33 除細動情報記録手段
34 付随情報
35 付随情報取得手段
36 付随情報記録手段
S 起動スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療行為の手順が標準化された標準的治療プログラムに基づいて、前記治療行為に対応する治療行為提示情報を提示する治療行為提示手段と、
提示される前記治療行為提示情報に同期して前記治療行為を時系列的にイベントインデックスに構造化して記録する治療行為記録手段と、
心臓の細動を除去する除細動器の起動タイミングを検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出された前記起動タイミングに係る除細動情報を、前記イベントインデックスに構造化して記録する除細動情報記録手段と
を具備することを特徴とする除細動情報処理装置。
【請求項2】
前記検出手段は、
前記除細動器の起動スイッチの操作に連動して前記起動タイミングを検出することを特徴とする請求項1に記載の除細動情報処理装置。
【請求項3】
前記除細動器の作動条件を示す作動情報、または前記起動タイミングの前後の心電図波形を示す波形情報の少なくともいずれか一方を取得する付随情報取得手段と、
取得された前記付随情報を前記イベントインデックスに構造化して記録する付随情報記録手段と
をさらに具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の除細動情報処理装置。
【請求項4】
治療行為の手順が標準化された標準的治療プログラムに基づいて、前記治療行為に対応する治療行為提示情報を提示する治療行為提示手段、
提示される前記治療行為提示情報に同期して前記治療行為を時系列的にイベントインデックスに構造化して記録する治療行為記録手段、
心臓の細動を除去する除細動器の起動タイミングを検出する検出手段、
及び、前記検出手段によって検出された前記起動タイミングに係る除細動情報を、前記イベントインデックスに構造化して記録する除細動情報記録手段として、除細動情報処理装置を機能させることを特徴とする除細動情報処理プログラム。
【請求項5】
前記除細動器の起動スイッチの操作に連動して前記起動タイミングを検出可能な前記検出手段として、前記除細動情報処理装置をさらに機能させることを特徴とする請求項4に記載の除細動情報処理プログラム。
【請求項6】
前記除細動器の作動条件を示す作動情報、または前記起動タイミングの前後の心電図波形を示す波形情報の少なくともいずれか一方を取得する付随情報取得手段、
及び、取得された前記付随情報を前記イベントインデックスに構造化して記録する付随情報記録手段として、前記除細動情報処理装置をさらに機能させることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の除細動情報処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−263329(P2006−263329A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88904(P2005−88904)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】