説明

除電装置

【課題】 除電装置をワークに近距離設置した場合に、ワークの極端な表面電位の上昇を防ぎながら除電を行うことができる近距離設置可能な除電装置を提供する。
【解決手段】 複数の放電針5a,5bを設置すると共にこれらの放電針の周囲にエアを噴出するエア吹出し口6を設けた保持部材4に、上記放電針5a,5bを覆う導電性多孔材で形成されたカバー8が取付けられ、該カバー8が、イオン化したエアを該カバー8の表面から均一に放出すると共に、グランドと導通して発生したイオンの一部を吸収する機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの静電気を除去する除電装置に関し、更に具体的には、ワークに対し近距離設置可能な除電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電気を除去する装置として、コロナ放電方式を用いた除電装置はよく知られており、中でもパルスDC方式の除電装置は、他方式と比較してイオン放出量も多く、単一の高電圧発生制御回路において多数の放電針でイオン生成が可能な方式であり、バータイプの除電装置等に多く用いられている。
【0003】
しかし、パルスDC方式を用いた除電装置は、イオン発生量が多いことから、除電対象ワークに対して近距離(100mm以下)に設置した場合に、除電対象ワークに対して過大なイオンを放出するため、瞬間的な表面電位が目標の0Vに対して逆に500V近くまで上昇してしまうこともある。そのため、除電装置をワークの近距離に設置しなければならない場合には、上記表面電位の上昇に対する配慮が必要になる、という問題があった。
また、放電針には高電圧がパルス的に印加されるため、除電対象ワークに対して近距離に除電装置を設置した場合には、放電針の誘電作用によってワークの表面電位が昇圧してしまうという問題もあった。
更に、従来の除電装置では、ノズルからイオン化したエアを噴出しているため、ワークに対して部分的に流速ムラ及びイオン密度分布ムラが生じるという問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の技術的課題は、除電装置をワークに近距離設置した場合でもワークの極端な表面電位の上昇を防いで除電を行うことができる近距離設置可能な除電装置を提供することにある。
本発明の他の技術的課題は、誘電によるワークの極端な表面電位の上昇を防いで除電を行うことができ、ワークに対するイオン化エアの流速ムラやイオン密度分布ムラをも解消できるようにした除電装置を提供することにある。
本発明の他の技術的課題は、放電針の設置の自由度が改善され、安全性に優れた除電装置を提供することにある。
本発明の更に他の技術的課題は、連続するフィルム状の除電対象ワーク等を非接触で方向転換させることができる機能を兼備させ、また、経年変化等により発生するイオンバランスのズレを検出して自動調整することができる除電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の除電装置は、複数の放電針を設置すると共にこれらの放電針の周囲にエアを噴出するエア吹出し口と該エア吹出し口に連通するエア流路とを有する保持部材と、上記複数の放電針に高電圧を印加する高電圧発生制御回路と、上記エア流路にエアを供給するエア供給手段とを有し、上記保持部材に、上記複数の放電針を覆う導電性多孔材で形成されたカバーが取付けられ、該カバーが、イオン化したエアを該カバーの表面から均一に放出すると共にグランドと導通して発生したイオンの一部を吸収する機能を有することを特徴とするものである。
【0006】
上記除電装置の好ましい実施形態においては、上記高電圧発生制御回路がパルスDC方式の高電圧を発生する回路を備えるものとして構成され、また、上記保持部材における長手方向に延びる面に沿って、上記複数の放電針が突出するように列設され、該放電針が設置された面を覆うように上記カバーが取付けられ、上記保持部材の両端部に、上記カバーの両端部を閉じる端板がそれぞれ設けられ、上記保持部材の一端部側に、上記端板を介して上記エア供給手段及び上記高電圧発生制御回路を収納した収納ボックスが取付けられる。
【0007】
上記除電装置の他の好ましい実施形態においては、上記カバーが、長手方向に延びる断面U字状の部材であって、その表面に沿って連続するフィルム状の除電対象ワークを方向転換させる方向転換ガイドとしての機能を兼備させ、且つ、多孔材である該カバーから噴出するエアにより上記除電対象ワークを非接触または低摩擦接触でガイド可能にしたものとして構成され、また、上記除電装置が、上記カバーにおける導電性多孔材の電位変化を検出してイオンバランスのズレを自動調整する制御回路を有するものとして構成される。
【0008】
上記構成を有する除電装置においては、上記保持部材に複数の放電針を覆う導電性多孔材で形成したカバーを取付け、該カバーの多孔を通してその表面からイオン化したエアを均一に放出させると共に、発生したイオンの一部を該カバーで吸収させるようにしているので、除電対象ワークに対して放出されるイオン化したエア中のイオンの一部が、上記カバーにおける導電性多孔材を通過する間に適度に吸収され、そのため、除電装置をワークに近距離設置した場合でも、ワークの極端な表面電位の上昇を防いで除電を行うことができる。
【0009】
また、上記カバーの存在により、放電針にパルス的に印加する高電圧による誘電作用でワークの表面電位が極端に上昇するのを防ぐことができ、さらに、上記除電装置においては、上記カバーの導電性多孔材における表面の多孔からイオン化したエアが均一に放出されるため、放電針の周囲のノズルからのエア噴出に比べて、ワークに対する流速ムラ及びイオン密度分布ムラが改善される。
しかも、上記除電装置では、複数の放電針が長手方向に延びる保持部材に設置され、これらの複数の放電針が導電性多孔材で形成されたカバーで覆われているため、安全性に優れるばかりでなく、放電針の設置の自由度が改善される。
【0010】
また、上記除電装置は、上記保持部材が、その長手方向に延びる一方の面に上記複数の放電針が長手方向に沿って突出するように設置され、該放電針が設置された面を覆うように上記カバーが取付けられ、上記保持部材の一端部側に端板を介してエア供給手段及び高電圧発生制御回路を収納した収納ボックスが取付けられたものとして構成すると、簡単な構造で、平面状ワークの除電を近距離で行うのに適したものとすることができる。特に、上記除電装置を、上記カバーが、長手方向に延びる断面U字状の部材であって、その表面に沿って連続するフィルム状の除電対象ワークを方向転換させる方向転換ガイドとしての機能を兼備させ、且つ、多孔材である該カバーから噴出するエアにより上記除電対象ワークを非接触または低摩擦接触でガイド可能にすると、連続するフィルム状の除電対象ワーク等を非接触で除電しながら方向転換させることができる。
更に、上記除電装置に、上記カバーにおける導電性多孔材の電位変化を検出してイオンバランスのズレを自動調整する制御回路を設けると、経年変化等により発生するイオンバランスのズレを検出して、自動調整することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上に詳述した本発明によれば、除電装置をワークに近距離設置する場合に対象ワークの極端な表面電位の上昇を防ぎながら除電を行うことができる近距離設置可能な除電装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1〜図3は、本発明に係る除電装置の一実施例を示すものである。
この除電装置1は、図1に示すように、長手方向に延びるエア放出バー2の両端部に端板11,12を固定し、該エア放出バー2の一端側に上記端板12を介して収納ボックス3が取付けられている。
【0013】
上記エア放出バー2は、図2、図3に示すように、絶縁材で構成された長手方向に延びる略直方体状の保持部材4と、該保持部材4の長手方向に延びる一方の面4aから突出するように列設された複数の放電針5と、これらの放電針5が設置された面4aを覆うように上記保持部材4に取付けられ、断面U字状で長手方向に延びる導電性多孔材で形成された第1のカバー8と、上記放電針5が設置されている側と反対側の面を覆うように上記保持部材4に取付けられた、断面U字状で長手方向に延びる第2のカバー9と、該第1及び第2のカバー8,9の両端部に設けられて、該両端部を閉じる上記端板11,12とを備え、上記保持部材4には放電針5の周囲にエアを噴出するエア吹出し口6と、該エア吹出し口6と分岐エア流路を介して連通する長手方向のメインのエア流路7,7とを有している。
【0014】
上記導電性多孔材で形成された第1のカバー8は、放電針5の周囲のエア吹出し口6から噴出したエアを、その全表面に均一に設けられた多孔から放出するように形成したものである。
なお、上記除電装置1では、放電針5と上記導電性多孔材で形成された第1のカバー8との間の空間がエア吹出し口6からのエアでエアパージされるため、例えば、エアフィルタ等でクリーンにしたエアを該空間に供給するなど、エア流路7を通して供給するエアの質を管理することにより、放電針5の汚れを防止することができる。しかも、上記放電針5が長手方向に延びる保持部材4に設置され、これらの放電針5が上記カバー8で覆われているため、安全性に優れ、放電針5の設置の自由度が改善される。
【0015】
また、上記収納ボックス3は、上記複数の放電針5に高電圧を印加する高電圧発生制御回路(図示せず)と、上記エア流路にエアを供給するエア供給手段(図示せず)と、除電装置1の全体的な動作制御(エア供給手段の制御も含む)をする制御回路(図示せず)とを収納した収納ボックスであり、該エア供給手段は上記端板12に形成したエア供給ポート(図示せず)を介して上記エア流路7,7と接続している。
【0016】
上記複数の放電針5は、長手方向に沿って複数対設けられた第1及び第2の放電針5a,5bによって構成され、これらの放電針5a,5bに高電圧を印加する高電圧発生制御回路は、上記除電装置1の全体的な動作制御をすると同時に、パルスDC方式により放電針5a,5bへの印加電圧を制御する高電圧発生制御回路であり、具体的に、該制御回路は、電極針への電圧印加を、上記第1の電極針5aに正の高電圧を印加すると同時に、第2の電極針5bをグランド(アース)に接続する通電状態と、上記第1の電極針5aをグランドに接続すると同時に、上記第2の電極針5bに負の高電圧を印加する通電状態とに交互に切換える制御を行うものとして構成している。
【0017】
なお、放電針5a,5bによりイオンを発生させる高電圧発生制御回路は、上記制御回路によって制御される高電圧発生制御回路に必ずしも限定されるものではない。
また、上記第1のカバー8の導電性多孔材としては焼結エレメントや合成樹脂からなる導電性多孔材等を用いてもよく、必要に応じてシール手段を介して上記保持部材4に取付けられ、更に、上記収納ボックス3や上記端板11,12、上記第2のカバー9は、合成樹脂で構成することができる。
【0018】
上記第1のカバー8の導電性多孔材は、上記除電装置1の全体的な動作制御をする制御回路を介してグランドと導通し、また、上記除電装置1の全体的な動作制御をする制御回路は、上記カバー8の吸収されたイオンにより発生する導電性多孔材の電位変化を検出してイオンバランスのズレを自動調整する制御回路を有している。
また、上記第1及び第2のカバー8,9は、その長手方向に沿う両側壁端8a,9aが上記保持部材4の側壁4bに固定ネジ等の適宜固定手段で着脱自在に固定されている。
したがって、上記除電装置の第1のカバー8を取外して使用すれば、近距離設置しないバータイプの除電装置として使用することもできるが、上記第1及び第2のカバー8,9を接着剤等により着脱不能に固着し、ワークに近距離設置する専用の除電装置とすることもできる。
【0019】
上記構成を有する除電装置1は、複数の放電針5を設置すると共にこれらの放電針5の周囲にエアを噴出するエア吹出し口6を有する保持部材4に、上記複数の放電針5を覆う導電性多孔材で形成されたカバー8を取付け、該カバー8を、イオン化したエアをその表面から均一に放出すると共に、グランドと導通して発生したイオンの一部を吸収するようにしているため、対象とするワークに放出されるイオン化したエアが上記カバー8の導電性多孔材を通過する際に、発生したイオンの一部が該導電性多孔材で適度に吸収され、そのため、除電装置1をワークに近距離設置した場合でも、ワークの極端な表面電位の上昇を防ぎながら除電を行うことができる。
【0020】
また、上記除電装置1は、ワークと放電針5a,5bとの間にグランドと導通した上記導電性多孔材で形成されたカバー8が存在するため、誘電によるワークの極端な表面電位の上昇を防ぐことができる。
更に、上記除電装置1は、上記カバー8における導電性多孔材の全面から均一なイオン化エアが放出されるため、放電針の周囲のノズルからワークに直接噴出される場合に比べてイオン化エアの流速ムラ及びイオン密度分布ムラが改善され、そのため、流速のばらつきやイオン密度分布ムラによる除電ムラが少なくなる。
【0021】
また、上記除電装置1は、上記保持部材4が、その長手方向に延びる一方の面に上記複数の放電針5a,5bが長手方向に沿って突出するように設置され、該放電針5a,5bが設置された面を覆うように上記カバー8が取付けられ、上記保持部材の両端部に、上記カバーの両端部を閉じる端板がそれぞれ設けられ、上記保持部材の一端部側に、上記端板を介して上記エア供給手段及び上記高電圧発生制御回路を収納した収納ボックスが取付けられているため、図4に示すように、平面状のワーク15の除電を近距離で行うのに適している。
【0022】
図5は、本発明に係る除電装置に、連続するフィルム状のワーク16の非接触方向転換ガイドとしての機能を兼備させた構成例を示している。
すなわち、上記除電装置1における上記カバー8は、長手方向に延びる断面U字状の部材で、その表面に沿って連続するフィルム状の除電対象ワーク16を方向転換させる方向転換ガイドとしての機能を兼備させ、且つ、多孔材である該カバーの全表面から噴出するようにしているので、噴出するエアにより上記除電対象ワーク16を非接触または低摩擦接触で方向転換させるガイドとして機能させることができる。
【0023】
以上においては、本発明に係る除電装置について詳述したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載の発明の精神を逸脱しない範囲で、設計において種々の変更ができるものである。
例えば、上記保持部材4は、長手方向に延びる部材であれば、必ずしも略直方体状である必要はない。また、上記放電針5が設置される必要な箇所だけを絶縁材で構成してもよい。上記第2のカバー9は、必ずしも断面U字状である必要はなく、あるいは省くこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る除電装置の一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1のカバーを外した状態を示す斜視図である。
【図3】図1のA−A位置での断面図である。
【図4】本発明に係る除電装置により、平面状のワークを近距離で除電する態様を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る除電装置に、連続するフィルム等の非接触方向転換ガイドとしての機能を兼備させた場合の斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
1 除電装置
2 エア放出バー
3 収納ボックス
4 保持部材
5 放電針
6 エア吹出し口
7 エア流路
8 第1のカバー(導電性多孔材で形成されたカバー)
9 第2のカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の放電針を設置すると共にこれらの放電針の周囲にエアを噴出するエア吹出し口と該エア吹出し口に連通するエア流路とを有する保持部材と、上記複数の放電針に高電圧を印加する高電圧発生制御回路と、上記エア流路にエアを供給するエア供給手段とを有し、
上記保持部材に、上記複数の放電針を覆う導電性多孔材で形成されたカバーが取付けられ、該カバーが、イオン化したエアを該カバーの表面から均一に放出すると共にグランドと導通して発生したイオンの一部を吸収する機能を有する、
ことを特徴とする除電装置。
【請求項2】
上記高電圧発生制御回路がパルスDC方式の高電圧を発生する回路を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の除電装置。
【請求項3】
上記保持部材における長手方向に延びる面に沿って、上記複数の放電針が突出するように列設され、該放電針が設置された面を覆うように上記カバーが取付けられ、上記保持部材の両端部に、上記カバーの両端部を閉じる端板がそれぞれ設けられ、上記保持部材の一端部側に、上記端板を介して上記エア供給手段及び上記高電圧発生制御回路を収納した収納ボックスが取付けられている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の除電装置。
【請求項4】
上記カバーが、長手方向に延びる断面U字状の部材であって、その表面に沿って連続するフィルム状の除電対象ワークを方向転換させる方向転換ガイドとしての機能を兼備させ、且つ、多孔材である該カバーから噴出するエアにより上記除電対象ワークを非接触または低摩擦接触でガイド可能にした、
ことを特徴とする請求項3に記載の除電装置。
【請求項5】
上記除電装置が、上記カバーにおける導電性多孔材の電位変化を検出してイオンバランスのズレを自動調整する制御回路を有している、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の除電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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