説明

陰圧換気装置つき頭頚部シールド

【課題】飛沫および微粒子の侵入を阻止する個人防御用のフェイスシールドと頭頚部カバーから構成され、独力での着脱が容易であるのみならず、軽量簡易で長時間装着可能な個人防御装置を提供する。
【解決手段】陰圧換気装置3のついたフェイスシールド2と頭頚部シールド1であり、乾電池あるいはボタン電池駆動のインハブタイプ電動ファンによって排気される。排気形式は回転翼と交差あるいは並行するもので、吸気は頭頚部シールドおよび個人防御服の素材そのものを濾過材(フィルター)とする装置であり、吸気側に別のフィルターを装着しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感染性飛沫の存在する屋内外で、広く使用できる陰圧換気装置つき頭頚部の個人保護具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
感染性飛沫の防止は、インフルエンザなど生物学的危険性(感染リスク)の増大とともに、社会的急務となっている。感染性飛沫の発生源を完全に隔離してしまうことが、最良の感染予防策に違いない。しかし人為的な介入を必要とする場面では、どうしても空間的な隔離が不可能となる。このため介入を行う操作者が何らかの個人防御具を装着して、感染リスクを低下させなければならない。たとえば医療機関における重症者の看護あるいは介護では、医療スタッフが直接に患者と接する。このような場面では室内空間を完全に仕切る方策に頼ることができない。また屋外における感染性廃棄物処理(たとえば感染した鳥類の焼却ないし埋設処分)では、遠隔操作などの手段を用いることが出来ず、作業者は感染性飛沫ないし微粒子に暴露される。このような環境下では個人防御具のみが実用的な保護手段とされてきた。
【0003】
ところが個人が装着できる防御具には幾つかの制約が存在する。第一は装着者が発する炭酸ガス、熱および水蒸気を外部に排出しなければならない点である。個人防御具に用いられる素材は日進月歩であるが、それでも感染性飛沫および微細な粒子を透過させない遮蔽層は、ガスあるいは熱ならびに水蒸気の外部への拡散を強く制約する。このため防御具を装着した個人の行動能力が著しく低下してしまう。この欠点を補完するために、個人防御具の一部に換気装置を付属させる試みが行われてきた。
【0004】
換気装置を駆動するためには何らかのエネルギー供給を必要とするが、外部から個人防御具にエネルギーを供給することは、逆に装着者の行動を強く制約することになる。これが第二の欠点と言えよう。さらに外部から呼吸用大気を供給するシステムでは、エネルギー源のみならず酸素をも供給しなければならない。このため個人防御具によって完全に近い隔離環境を達成しようとすれば、予め整備された閉鎖空間たとえば手術室などでの使用に限定されてしまう(特許文献1、2、3)。もちろん生物化学兵器などに対抗する手段としての個人防御具も存在するが、換気装置のエネルギー源あるいは呼吸用酸素の供給を必要とするのは言うまでもない(特許文献4、5)。換気装置を駆動するエネルギー源および酸素供給装置が装着者の行動を著しく制約することは、宇宙空間で着用される宇宙服をみれば明らかで、こうした個人防御具の実用範囲は限られてしまう。すなわち広い範囲で実用となる個人防御具の具備すべき条件を考えると、エネルギーおよび酸素を自給するシステムでなければならないが、こうした用具は重量および体積の増加をもたらして可搬性の低下に直面する(たとえば特許文献5)。
【0005】
可搬性を優先しようとする場合、最も問題となるのは飛沫あるいは微粒子を除去するフィルターの表面積が不足する点であり、これに付随して電動ファンの送風能力を高める必要に直面する。たとえば特許文献6では、頭頚部シールドに簡易な換気装置を設置し、外部の大気をフィルターで清浄化して供給するが、シールド内部を陽圧に保つために送気量を確保しなければならない。表面積の限られたフィルターを通して装着者の必要とする換気量を維持することは、自給電源(電池)の放電速度を高めて長時間の装着を困難にしてしまう。また送気ユニットとは別に排気弁を設けると、換気効率は高まるものの外気の逆流という副次的な現象を招きかねない。要するに可搬性を優先する実用的な個人防御具では、外気を濾過するフィルターを別に設ける必要があり、限られた面積のフィルターを通して十分な換気量を確保するために、電動ファンと電源の大型化という技術的困難に直面してきた。簡易にして実用的な個人防御具を提供するという課題を解決するには、フィルターを含めた換気方式そのものを見直す必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平11ー511359
【特許文献2】特開2009ー501848
【特許文献3】特表2003ー524083
【特許文献4】特公2003ー527941
【特許文献5】特開2004ー267310
【特許文献6】特開2007ー275190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
感染性飛沫あるいは汚染微粒子の存在下で装着者を防御するため、軽量簡易で実用的な個人防御具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、フェイスシールドと一体化した陰圧換気装置つきの頭頚部シールドを提供する。
【発明の効果】
【0009】
図1および図2に示すように、本発明の中心部は透明なフェイスシールドの一部に陰圧換気装置を付加した構造であり、フェイスシールド(硬性)と取り外し可能な形で連結した頭頚部の軟性被覆部より成る。
【0010】
軟性被覆部は汚染物質あるいは感染性飛沫を透過させない素材で構成され、装着者の上半身(頭頚部および肩部)を広くカバーする。このような素材は既に多く実用化されており、いわゆる個人防護服に利用されてきた。微細な飛沫あるいは微粒子を通過させない素材の特徴は、そのまま選択透過性を持つフィルターと考えられる。たとえば雨水を通過させないが水蒸気を含むガスを自由に通す素材は、広く雨具として利用されてきた。
【0011】
選択透過性を持つ素材を通して外気を個人防御具の内部に導入すれば、飛沫を含む任意の物質を排除することができる。このためには被覆内部の気体を外部に排気する換気システムのみが必要であり、本発明ではフェイスシールドと一体化した陰圧換気装置(インハブタイプの電動ファン)によって達成される。
【0012】
頭頚部および防御服の選択透過性を有する被覆素材を通過した外気は、感染性飛沫あるいは微粒子を含まないため装着者が呼吸しても問題とはならない。したがって別に吸気用フィルターを設けることなく、装着者は内部の空気を吸入して呼気を陰圧換気装置によって排気すれば済む。
【0013】
陰圧換気装置は回転軸が回転翼の前縁と後縁の間に限定されるインハブタイプであり、およそ回転翼の直径は6センチを超えない(図1)。また装着者の視野を遮らないよう、フェイスシールドの外縁部に複数個の設置が可能であるが、必ずしも単一のファンによる換気を否定するものではない(図1および図2)。
【0014】
装着者の呼気および体表面から放出される水蒸気と熱は、フェイスシールドと一体化した換気装置から外部に放出されるが、外部からの逆流を防止するためのカバーが取り付けられている(図3)。換気装置カバーによって偏向した排気流は、およそ装着者の後方に向かう構造であり、仮に前方から突発的な気流が発生した場合でも、換気装置カバーの外表面に沿って流れるため、内部に侵入することはない(図3および図4)。図4には後下方に向う排気ダクトを図示してあるが、代表的な換気装置カバーの形態を示したものに過ぎず、後上方への排気やダクト部分の方向や長さなどに、特段の制限はない。また換気装置カバーの最終端には軟性素材による排気弁を設け、屋外における外部大気の逆流を防止する構造である(図5)。一般的な室内の使用に限れば、こうした軟性排気弁を省略することもできる。結果的に選択透過性を持つ軟性素材(頭頚部シールドおよび防御服)を通過した大気は、装着者の身体から発生する熱と二酸化炭素を付加されるが、感染性飛沫を含む外気と混合することなく、フェイスシールドの一部をなす陰圧換気装置から外部に放出される。
【0015】
陰圧換気装置の薄型ファン(回転軸が回転翼の前縁と後縁の間に限定されるインハブタイプ)は装着者の視野を妨げることなく、低騒音かつ省エネルギーの電動機によって駆動可能である。たとえばノートパソコン用の小口径冷却ファンを用いれば、ボタン電池によって駆動が可能であり、その静粛性は周知の通りである。
【0016】
陰圧換気装置はフェイスシールドと一体化しているため、自由な頭部の運動が可能で着脱も容易である。小直径(およそ6センチ以下)の薄型ファン(インハブタイプで回転軸が回転翼の前縁と後縁の間に限定されるもの)は、複数個を取り付けることで必要な換気量が確保されるが、換気装置全体の重量が極めて少ないことに注目すべきである。
【0017】
およそ直径が6センチ以下の薄型ファン(回転軸が回転翼の前縁と後縁の間に限定されるインハブタイプ)は軽量で、一般的な乾電池など携帯可能な軽量内部電源によって長時間の駆動が可能である。仮にボタン電池による駆動を選択すれば、電源部分全体が頭頚部シールドの内部に搭載できる。電動機とファンは一体化しており、その重量は軽い。
【0018】
本発明では、頭頚部カバーの内部に十分な空間的余裕が保てるという利点がある。これは装着者にとって大きな利点であり、心理的な圧迫を感じないで済む。たとえばヘルメットを装着して自転車やバイクを運転する場合と比較して、大きく異なることがない。またマスク等の個人防御具に較べて呼吸抵抗が小さく、音声伝達に必要な開口の制限がない。さらに陰圧換気のため音声の外部への伝達に問題が生じない。また頭頚部を覆う軟性シールド(たとえば防水性の不織布)は音声伝達を遮断しないため、聴力の低下も無視できる範囲に留まる。
【0019】
フェイスガードと頭頚部カバーは粘着材などによって取り外し可能な形で連結されているため、一定期間後に頭頚部カバーのみを交換することができる。これにより選択透過性を持つフィルターが交換され、常に一定の清浄度を保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】陰圧換気装置つき頭頚部シールドの正面図
【図2】陰圧換気装置つき頭頚部シールドの側面図
【図3】陰圧換気装置とフェイスシールドの関係を示す水平断面図
【図4】陰圧換気装置カバーと排気流の関係を示す概念図
【図5】軟性排気弁のついた陽圧換気装置と気流の関係を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は陰圧換気装置を取り付けたフェイスガードと頭頚部シールドから構成され、粘着材などによって相互に連結(取り外し可能な形態)されて用いるものである。したがって二つのコンポーネントを分離することはできないが、頭頚部シールドの素材については、排除すべき対象物(飛沫あるいは粒子)の性状によって異なる。
【実施例1】
【0022】
個人は図1および2に示した陰圧換気装置のついた頭頚部シールドを装着し、その上から(または下に)個人防御服を着用する。これによって防御服および頭頚部シールドの素材がフィルターとしての機能を発揮する。一般的に電源となる電池は頭頚部シールドの内部とくにフェイスシールド内に装備可能であるが、より長時間の駆動を必要とする場合には防御服内部に電池パックをセットすることもできる。
【実施例2】
【0023】
屋外作業用に本発明を用いる場合、外気流によって排気が阻害される可能性があり、そうした場合に備えて屈曲した排気ダクトを組み込む場合がある(図4)。ダクト終端には軟性素材による排気弁が付属し、屋外での使用時に逆流を防止する機能がある。
【実施例3】
【0024】
外部大気が清浄で人体から発する汚染物質の低減が求められる場合、たとえば半導体製造工程などでは陽圧の換気装置に変更し、外部からフェイスシールド内部の顔面へ直接送気し、頭頚部シールドおよび防御服の素材を通して排気を行なう。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は医療機関におけるインフルエンザなどの飛沫感染症の予防に用いられるが、一般的な屋外作業にも利用可能である。たとえばアスベスト除去や粉塵の多い作業現場において、微粒子を透過させない素材で構成された防御服の下に、同一素材で作られた頭頚部シールドを装着する。これによって粉塵等の微粒子が吸気に含まれなくなる。
【0026】
また人体から発散する汚染物質を除去するシステムとして用いられるが、実施例3を参照されたい。
【符号の説明】
【0027】
1 頭頚部シールド
2 フェイスシールド
3 陰圧換気装置
4 インハブタイプ電動ファン
5 換気装置カバー
6 軟性素材による排気弁
7 気流方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェイスシールドと一体化した陰圧換気装置を備えた頭頚部シールド
【請求項2】
フェイスシールドの外縁部は選択透過性のある頭頚部シールドと粘着材などによって取り外し可能な形で連結されており、両者の間には気密性が保たれていることを特徴とする。
【請求項3】
陰圧換気装置は乾電池あるいはボタン電池によって駆動されるインハブタイプの電動ファンであり、排気方向は回転軸と平行あるいは交差するが、回転翼の直径が6センチを超えないことを特徴とする。
【請求項4】
陰圧換気装置に付属するカバーは、主として前方からの気流を阻止して後下方へ排気を導く形態であり、屋外用の場合はカバーの終末端に軟性素材からなる排気弁を装備することを特徴とする。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−87690(P2011−87690A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242306(P2009−242306)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(309027805)
【Fターム(参考)】