説明

陰圧治療装置

【課題】過陰圧状態にある被覆シートの内側の圧力値の調整を行うことを可能とし、被覆シートの内側を所望の圧力値に保つことができる陰圧治療装置を提供すること。
【解決手段】被覆シートSの内側の圧力を測定する圧力測定手段1と、被覆シートSの内側に通じる第1流路11を通じて流体を収容する収容容器2と、収容容器2内に通じる第2流路12を通じて収容容器2内の空気を吸引し、第1流路11を通じて被覆シートSの内側から流体を吸引する吸引手段3と、収容容器2内に連通する第3流路13を通じて収容容器2内に空気を供給する供給手段4と、により、創傷部Wを覆う被覆シートSの内側を陰圧状態に保ちながら、被覆シートSの内側から流体を排出する陰圧治療装置10を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰圧治療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、陰圧治療装置として、皮膚潰瘍や組織欠損等の創傷部を覆う被覆シートの内側を陰圧状態に保ちながら、創傷部から滲出する体液を吸引し、被覆シートの内側から排出する治療装置が知られている(例えば、下記特許文献1、2参照)。
【0003】
かかる陰圧治療装置によれば、壊死細胞や細菌等を創傷部から吸引除去するとともに、陰圧によって創傷部の血流を促進し、治療効果を高めることができる。また、リリーフバルブ(開閉弁)を用いて吸引ポンプを間欠的に駆動させることにより、創傷部に対して間欠的な陰圧が与えられる。これにより、創傷部に適度な刺激が与えられ、創傷部の治癒を促す肉芽組織の形成が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4068807号公報
【特許文献2】特許第3859085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、陰圧治療装置による治療中に創傷部の高さが相対的に変位すれば、創傷部を覆う被覆シートの内側の圧力値も変化する。このため、従来の陰圧治療装置は、被覆シートの内側の圧力値を一定に保つのが困難であった。
【0006】
また、従来の陰圧治療装置では、吸引ポンプ及びリリーフバルブの動作を制御することにより、被覆シートの内側の圧力値の調整が行われる。しかしながら、従来の陰圧治療装置は、過陰圧状態になった被覆シートの内側の圧力を大気圧にまで戻すのみであり、過陰圧状態になった被覆シートの内側の圧力値の調整を行うことまではできなかった。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みて為されたものであり、過陰圧状態にある被覆シートの内側の圧力値の調整を行うことを可能とし、被覆シートの内側を所望の圧力値に保つことができる陰圧治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、創傷部を覆う被覆シートの内側を陰圧状態に保ちながら、該被覆シートの内側から流体を排出する陰圧治療装置であって、前記被覆シートの内側の圧力を測定する圧力測定手段と、前記被覆シートの内側に通じる第1流路を通じて前記流体を収容する収容容器と、前記収容容器内に通じる第2流路を通じて該収容容器内の空気を吸引し、前記第1流路を通じて前記被覆シートの内側から流体を吸引する吸引手段と、前記収容容器内に連通する第3流路を通じて該収容容器内に空気を供給する供給手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の陰圧治療装置は、前記第2流路と前記第3流路とを切り替える流路切替え手段を備えていてもよい。
【0010】
本発明の陰圧治療装置は、前記吸引手段と前記供給手段とを含み、かつ前記第2流路と前記第3流路とが接続された吸引供給手段と、前記第2流路に設けられ、前記第3流路を通じて前記収容容器内に空気を供給するときに該第2流路の前記収容容器内に連通する流路を遮断し、該第2流路の前記吸引供給手段内に連通する流路を大気に開放する第1開閉弁と、前記第3流路に設けられ、前記第2流路を通じて前記収容容器内から空気を吸引するときに該第3流路の前記収容容器内に連通する流路を遮断し、該第3流路の前記吸引供給手段内に連通する流路を大気に開放する第2開閉弁と、を備えた形態であってもよい。
【0011】
また、本発明の陰圧治療装置は、前記供給手段が、前記被覆シートの内側に通じる第4流路を通じて該被覆シートの内側に空気を供給することを特徴とする。
【0012】
本発明の陰圧治療装置は、前記吸引手段と前記供給手段とを含み、かつ前記第2流路と前記第3流路とが接続された吸引供給手段と、前記第2流路に設けられ、前記第4流路を通じて前記被覆シートの内側に空気を供給するときに該第2流路の前記収容容器内に連通する流路を遮断し、該第2流路の前記吸引供給手段内に連通する流路を大気に開放する第1開閉弁と、前記第4流路に設けられ、前記第2流路を通じて前記収容容器内から空気を吸引するときに該第4流路の前記被覆シートの内側に連通する流路を遮断し、該第4流路の前記吸引供給手段内に連通する流路を大気に開放する第3開閉弁と、を備えた形態であってもよい。
【0013】
本発明の陰圧治療装置は、前記第4流路と前記被覆シートの内側に連通する流路とを切り替える第2の流路切替え手段を備えていてもよい。
【0014】
さらに、本発明の陰圧治療装置は、前記流体が、前記創傷部を洗浄する洗浄液を含み、前記洗浄液を前記被覆シートの内側へ供給する供給流路を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る陰圧治療装置によれば、供給手段を駆動させることにより、第3流路、収容容器、及び第1流路を通じて被覆シートの内側に所望の圧力を与えることができる。このため、たとえ被覆シートの内側が過陰圧状態になった場合であっても、供給手段の駆動を制御して、被覆シートの内側の圧力値を調整することができる。これにより、圧力状態が変化する被覆シートの内側を所望の圧力値に保つことができる。
【0016】
本発明に係る陰圧治療装置によれば、流路切替え手段を備えることにより、収容容器内から吸引される空気の流路となる第2流路と、収容容器内に供給される空気の流路となる第3流路とを確実に切り替えることができる。各流路を確実に切り替えることで、吸引手段及び供給手段の駆動効率が向上し、被覆シートの内側の圧力値をより高精度に制御することができる。
【0017】
本発明に係る陰圧治療装置によれば、吸引手段と供給手段とを含む吸引供給手段を用いることにより、陰圧治療装置を小型化することができる。その際に、第2流路に設けられた第1開閉弁及び第3流路に設けられた第2開閉弁の開閉動作を制御することで、各流路における空気の流れが正しい方向に保たれる。陰圧治療装置が小型化されることによって取扱いが容易になり、装着時や移動時における患者の負担が軽減される。
【0018】
また、本発明に係る陰圧治療装置によれば、供給手段が、被覆シートの内側に通じる第4流路を通じて被覆シートの内側に空気を供給するように構成することにより、収容容器に通じる第1流路を通じて被覆シートの内側に所望の圧力を与えなくてもよくなる。これにより、既に被覆シートの内側から吸引され、第1流路内に残留している流体(創傷部から滲出した体液を含む排液)が、被覆シートの内側に与えるための圧力によって被覆シートの内側へ逆流するのを防止することができる。また、供給手段によって、被覆シートの内側に直接空気が供給されるため、圧力値の調整を迅速に行うことができる。
【0019】
本発明に係る陰圧治療装置によれば、前記第4流路を通じて被覆シートの内側に空気を供給するように構成された前記陰圧治療装置に前記吸引供給手段を採用することにより、上述したすべての効果を得ることができる。
【0020】
本発明に係る陰圧治療装置によれば、上述した効果に加えて、被覆シートの内側へ引き入れるチューブ等の数を低減することができる。このため、被覆シートのシール不良やはがれ、及び空気の異常リーク等の発生を抑えることができる。
【0021】
さらに、本発明に係る陰圧治療装置によれば、洗浄液を被覆シートの内側へ供給する供給流路を備えることにより、洗浄液で創傷部の洗浄を行い、感染症等を予防することができる。また、洗浄液で治療中の創傷部を常に湿潤状態に保つことにより、体液の滲出を促進し、創傷部の治療効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る陰圧治療装置を示す概略全体図である。
【図2】創傷部を覆う被覆シートの内側を示す概略断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る陰圧治療装置の変形例を示す概略全体図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る陰圧治療装置の他の変形例を示す概略全体図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る陰圧治療装置を示す概略全体図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る陰圧治療装置の変形例を示す概略全体図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る陰圧治療装置の他の変形例を示す概略全体図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る陰圧治療装置を示す概略全体図である。
【図9】創傷部を覆う被覆シートの内側を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る陰圧治療装置の実施形態について図面を用いて説明する。本明細書において、各図面は概略的に示されており、同一の符号で示されている場合は、同一の構成を示すものとする。本明細書において「陰圧」とは、被覆シートの外側の気圧よりも低い圧力のことを意味し、「陰圧状態」とは、被覆シートの内側の圧力が被覆シートの外側の圧力(気圧)よりも低い状態をいう。なお、各図に示されている実線矢印は、吸引手段を駆動させるときの流体の流れを示すものとする。また、各図に示されている点線矢印は、供給手段を駆動させるときの流体の流れを示すものとする。
【0024】
図1に示すように、第1実施形態に係る陰圧治療装置10は、被覆シートSの内側の圧力を測定する圧力測定手段1と、被覆シートSの内側から排出された流体を収容する収容容器2と、収容容器2内の空気を吸引し、被覆シートSの内側から流体を吸引する吸引手段3と、収容容器2内に空気を供給する供給手段4と、を備えている。陰圧治療装置10は、創傷部Wを覆う被覆シートSの内側を陰圧状態に保ちながら、この被覆シートSの内側から流体(空気及び創傷部Wから滲出した体液)を排出する。
【0025】
図2に示すように、創傷部Wには、空気や創傷部Wから滲出した体液などの流体を透過可能な多孔質のパッドPが配置され、創傷部W及びパッドPを被覆するように被覆シートSが貼着されている。創傷部Wを覆う被覆シートSの内側には、複数の柔軟なチューブの開口端部が引き入れられており、一方のチューブが第1流路11の一部を構成し、他方のチューブが圧力測定チューブ8を構成する。
【0026】
圧力測定手段1は、被覆シートSの内側に通じる圧力測定チューブ8に接続された圧力センサ9から成り、被覆シートSの内側の圧力を測定する。本実施形態では、圧力センサ9として、ステンレスダイヤフラム式圧力センサを採用しており、圧力測定チューブ8を通じて、被覆シートSの内側の圧力値を測定する。圧力測定手段1により測定された圧力値は、不図示の制御手段に送信される。なお、圧力測定チューブ8は、開口端部が被覆シートSの内側に直接引き入れられているが、第1流路11から分岐して形成されていてもよい。なお、圧力測定手段1として、例えば、シリコンダイヤフラム式圧力センサ等の他の圧力センサを採用することもできる。
【0027】
収容容器2は、被覆シートSの内側に通じる第1流路11に着脱自在に接続されており、この第1流路11を通じて流体(空気及び創傷部Wから滲出した体液)を内部に収容する。また、収容容器2は、後述する第2流路12及び第3流路13にも着脱自在に接続されている。既に収容容器2の内部に収容された流体(創傷部Wから滲出した体液)が各流路11〜13に侵入するのを防止するため、各流路11〜13との接続部は、収容容器2の上方部に設けられる。
【0028】
収容容器2の内部が流体(創傷部Wから滲出した体液)で満杯になると、別の収容容器2に交換するか、あるいは、この流体を収容容器2の内部から排出する必要がある。このため、収容容器2は、例えば、ガラスや透明樹脂などの透明材料を用いて、内部が視認可能なように形成されるのが望ましい。収容容器2内における流体(創傷部Wから滲出した体液)の液面レベルを検知する液面検知センサを設けてもよい。あるいは、これらを同時に採用することもできる。
【0029】
吸引手段3は、収容容器2内に通じる第2流路12に接続されており、この第2流路12を通じて収容容器2内の空気を吸引する。本実施形態では、吸引手段3として、ダイヤフラム式真空ポンプを採用しており、収容容器2内を減圧することで、被覆シートSの内側を陰圧状態に保ちながら、第1流路11を通じて被覆シートSの内側から流体(空気及び創傷部Wから滲出した体液)を吸引する。また、吸引手段3は、圧力測定手段1で測定された圧力値に応じて、不図示の制御手段によりその駆動が電子的に制御される。なお、吸引手段3として、例えば、チューブポンプ、ベーンポンプ等の他のポンプを採用することもできる。第2流路12としては、例えば、エアリークのない柔軟なチューブなどが用いられる。
【0030】
供給手段4は、収容容器2内に連通する第3流路13に接続されており、この第3流路13を通じて収容容器2内に空気を供給する。本実施形態では、供給手段4として、ダイヤフラム式エアポンプを採用しており、収容容器2内を加圧することで、第1流路11を通じて被覆シートSの内側に圧力を与える。また、供給手段4は、圧力測定手段1で測定された圧力値に応じて、不図示の制御手段によりその駆動が電子的に制御される。なお、供給手段4として、例えば、チューブポンプ、ベーンポンプ、ピストンポンプ等の他のポンプを採用することもできる。第3流路13としては、例えば、エアリークのない柔軟なチューブなどが用いられる。
【0031】
本実施形態に係る陰圧治療装置10を用いて創傷部Wの治療を行う場合、例えば、創傷部Wの位置、創傷部Wの状態、あるいは過去の治療による創傷部Wの回復具合など、個々の患者によって陰圧治療装置10の動作設定(例えば、動作時間、被覆シートSの内側の圧力値の設定など)が異なる。この動作設定の判断を誤れば、所望の治療効果を得ることができないだけでなく、逆に創傷部Wの治癒が遅れたり、あるいは、創傷部Wの症状が悪化したりする可能性もある。
【0032】
このため、陰圧治療装置10を用いて創傷部Wの治療を行う前には、必ず医師による診察が行われ、陰圧治療装置10は、医師により処方される動作設定に基づいて動作する。以下、陰圧治療装置10の動作及びその制御について詳細に説明する。
【0033】
初めに、陰圧治療装置10を動作させる前の事前準備として、被覆シートSで創傷部Wを被覆するとともに、医師の処方に基づく動作設定が行われる。事前準備が完了後、陰圧治療装置10が所定の動作を開始する。
【0034】
まず、圧力測定手段1が示す圧力値(即ち、被覆シートSの内側の圧力値)が設定された圧力値になるまで、吸引手段3を駆動させる。吸引手段3が駆動することにより収容容器2内が減圧され、被覆シートSの内側に陰圧が発生する。圧力測定手段1が示す圧力値が所定の圧力値に到達すると、信号が制御手段に送信され、吸引手段3の駆動は停止される。吸引手段3を停止しても、被覆シートSの内側はしばらくの間、所望の陰圧状態に保たれる。被覆シートSの内側の圧力値が一定の値を上回ると、制御手段からの信号により再び吸引手段3を駆動させる。このようにして、被覆シートSの内側が所望の陰圧状態に保たれるように、吸引手段3の駆動が電子的に制御される。
【0035】
ここで、治療を行っている創傷部Wの高さが所定の基準位置(例えば、収容容器2等)に対して相対的に変位すれば、第1流路11内の圧力に変化が生じる。この圧力の変化は、第1流路11の傾きによる流体の位置エネルギーの変化などに起因するものと考えられる。第1流路11内の圧力が変化すれば、創傷部Wを覆う被覆シートSの内側の圧力状態にも変化が生じる。
【0036】
例えば、創傷部Wの高さが基準位置よりも低い位置に変位すると、被覆シートSの内側が常圧又は陽圧状態になるおそれがある。被覆シートSの内側が常圧又は陽圧状態になると、創傷部Wから滲出する体液等をうまく吸引することができず、所望の治療効果を得ることができなくなる。このような場合は、制御手段により吸引手段3の駆動速度を高めて、被覆シートSの内側に陰圧を発生させる。これにより、被覆シートSの内側が常圧又は陽圧状態になるのを防止するとともに、被覆シートSの内側が設定された圧力値になるように調整される。
【0037】
一方、創傷部Wの高さが基準位置よりも高い位置に変位すると、被覆シートSの内側が過陰圧状態になるおそれがある。被覆シートSの内側が過陰圧状態になると、創傷部Wからの出血量を増加させたり、あるいは、創傷部Wを損傷させ、逆に症状を悪化させたりするおそれがある。このような場合は、制御手段により供給手段4を駆動させて収容容器2内に空気を供給し、被覆シートSの内側に圧力を与える。これにより、被覆シートSの内側が過陰圧状態になるのを防止するとともに、被覆シートSの内側が設定された圧力値になるように調整される。
【0038】
吸引手段3及び供給手段4の駆動は、圧力測定手段1が示す圧力値に基づいて制御手段により電子的に制御される。被覆シートSの内側の圧力値の変化が、創傷部Wの高さの変位によるものなのか、それとも、被覆シートSのシール不良やはがれによる空気の異常リーク等によるものなのかは、制御手段により以下のようにして判別される。例えば、設定された圧力値との差圧に閾値を設定し、この閾値を超える場合に、被覆シートSの内側の圧力値の変化が創傷部Wの高さの変位によるものであると判別する。圧力値に変化が生じた後の経過時間に対して閾値を設定してもよい。
【0039】
こうして、本実施形態に係る陰圧治療装置10は、創傷部Wを覆う被覆シートSの内側を所望の陰圧状態に保ちながら、この被覆シートSの内側から流体(空気及び創傷部Wから滲出した体液)を排出するのである。被覆シートSの内側から排出された流体は、第1流路11を通じて吸引され、収容容器2内に収容される。
【0040】
本実施形態に係る陰圧治療装置10によれば、供給手段4を駆動させることにより、第3流路13、収容容器2、及び第1流路11を通じて被覆シートSの内側に所望の圧力を与えることができる。このため、たとえ被覆シートSの内側が過陰圧状態になった場合であっても、供給手段4の駆動を制御して、被覆シートSの内側の圧力値を調整することができる。また、圧力測定手段1が示す圧力値に基づいて吸引手段3及び供給手段4の駆動を電子的に制御することにより、被覆シートSの内側の圧力値の調整を行うことができる。これにより、気圧の影響を受けて圧力状態が変化する被覆シートSの内側を所望の圧力値に保つことができる。
【0041】
また、本実施形態に係る陰圧治療装置10によれば、被覆シートSの内側が過陰圧状態になった場合であっても、被覆シートSの内側の圧力値の調整を行うことができるため、医師や看護師などの医療関係者が、過陰圧による事故防止のために治療中の患者を常に看視しておく負担が軽減される。これと同時に、治療中であっても患者を拘束することなく、自由に移動可能な陰圧治療装置を提供することができる。これにより、患者が医療関係者に看視されていないときの安全を確保するとともに、治療中の患者のストレスを軽減することができる。
【0042】
以上、本発明の第1実施形態に係る陰圧治療装置10について説明したが、本発明に係る陰圧治療装置は、その他の形態で実施することができる。
【0043】
例えば、第1実施形態の変形例として図3に示す陰圧治療装置20のような実施形態であってもよい。陰圧治療装置20は、第2流路12と第3流路13とを切り替える流路切替え手段5を備えている。本実施形態では、流路切替え手段5が第2流路と第3流路との接続部に設けられている。
【0044】
流路切替え手段5は、第2流路12を通じて収容容器2内の空気を吸引するときに第2流路12に通じる第3流路13を遮断し、第3流路13を通じて収容容器2内に空気を供給するときに第3流路13を第2流路12に開放し、第3流路13を収容容器2内に連通させる。このような流路切替え手段5の動作は、吸引手段3及び供給手段4それぞれの駆動に応じて、不図示の制御手段により電子的に制御される。
【0045】
陰圧治療装置20によれば、流路切替え手段5を備えることにより、収容容器2内から吸引される空気の流路となる第2流路12と、収容容器2内に供給される空気の流路となる第3流路13とを確実に切り替えることができる。各流路を確実に切り替えることで、吸引手段3及び供給手段4の駆動効率が向上し、被覆シートSの内側の圧力値をより高精度に制御することができる。
【0046】
また、第1実施形態の他の変形例として図4に示す陰圧治療装置30のような実施形態であってもよい。陰圧治療装置30は、吸引手段3と供給手段4とを含む吸引供給手段7と、第2流路12に設けられた第1開閉弁31と、第3流路に設けられた第2開閉弁32とを備えている。
【0047】
吸引供給手段7は、収容容器2内の空気の吸引および収容容器2内への空気の供給を行う。本実施形態では、吸引供給手段7として、ダイヤフラム式給排両用ポンプを採用しており、吸引用ポンプ(吸引手段3)及び供給用ポンプ(供給手段4)が一体形成されている。また、吸引供給手段7は、吸引手段3に接続された第2流路12と、供給手段4に接続された第3流路13とが接続部71で接続されており、各流路12、13が互いに連通している。
【0048】
第1開閉弁31は、第2流路12の遮断及び大気への開放を行う。本実施形態では、第1開閉弁31として、リリーフバルブを採用しており、第3流路13を通じて収容容器2内に空気を供給するときに第2流路12の収容容器2内に連通する流路を遮断し、第2流路12の吸引供給手段7内に連通する流路を大気に開放する。供給手段4によって供給される空気は、大気中から第2流路内に取り込まれ、接続部71を通じて供給手段4に送られる。このとき、大気中から第2流路12内に細菌が侵入するのを防止するために、第1開閉弁31の大気開放部には、防水透湿性のフィルタ(図示省略)を設けるのが好ましい。なお、第1開閉弁31として、チェックバルブなどの他のバルブを採用することもできる。
【0049】
第2開閉弁32は、第3流路13の遮断及び大気への開放を行う。本実施形態では、第2開閉弁32として、リリーフバルブを採用しており、第2流路12を通じて収容容器2内から空気を吸引するときに第3流路13の収容容器2内に連通する流路を遮断し、第3流路13の吸引供給手段7内に連通する流路を大気に開放する。吸引手段3によって吸引された空気は、接続部71を通じて供給手段4に送られ、第2開閉弁32の大気開放部から第3流路13の外部に排気される。このとき、大気中から第3流路13内に細菌が侵入するのを防止するために、第2開閉弁32の大気開放部には、防水透湿性のフィルタ(図示省略)を設けるのが好ましい。なお、第2開閉弁32として、チェックバルブなどの他のバルブを採用することもできる。
【0050】
第1開閉弁31及び第2開閉弁32の開閉動作は、不図示の制御手段により電子的に制御される。これらの開閉動作は、吸引供給手段7に設けられた吸引手段3及び供給手段4の駆動に応じて互いに逆の動作を行うように制御される。即ち、吸引手段3を駆動させる場合は、第1開閉弁31が閉じられており、第2開閉弁32が開いている。これとは逆に、供給手段4を駆動させる場合は、第1開閉弁31が開いており、第2開閉弁32が閉じられている。
【0051】
陰圧治療装置30によれば、吸引手段3と供給手段4とを含む吸引供給手段7を用いることにより、陰圧治療装置30の本体を小型化することができる。その際に、第2流路12に設けられた第1開閉弁31及び第3流路13に設けられた第2開閉弁32の開閉動作を制御することで、各流路における空気の流れが正しい方向に保たれる。陰圧治療装置30の本体が小型化されることによって取扱いが容易になり、装着時や移動時における患者の負担を軽減することができる。
【0052】
さらに、陰圧治療装置30において、第2流路12と第3流路13とを切り替える流路切替え手段5を必要に応じて設けてもよい。これにより、被覆シートSの内側の圧力値をより高精度に制御することができる。
【0053】
また、第2実施形態として図5に示す陰圧治療装置40のような実施形態であってもよい。陰圧治療装置40は、供給手段4が、上述の第3流路13に替えて、被覆シートSの内側に通じる第4流路14を通じて被覆シートSの内側に空気を供給することを特徴としている。第4流路14としては、例えば、エアリークのない柔軟なチューブが用いられる。
【0054】
陰圧治療装置40によれば、供給手段4が、第4流路14を通じて被覆シートSの内側に空気を供給するように構成されているため、収容容器2に通じる第1流路11を通じて被覆シートSの内側に所望の圧力を与えなくてもよくなる。これにより、既に被覆シートSの内側から吸引され、第1流路11内に残留している流体(創傷部Wから滲出した体液を含む排液)が、被覆シートSの内側に与えるための圧力によって被覆シートSの内側へ逆流するのを防止することができる。また、供給手段4によって、被覆シートSの内側に直接空気が供給されるため、圧力値の調整をより迅速に行うことができる。
【0055】
また、第2実施形態の変形例として図6に示す陰圧治療装置50のような実施形態であってもよい。陰圧治療装置50は、吸引手段3と供給手段4とを含む吸引供給手段7aと、第2流路12に設けられた第1開閉弁31と、第4流路に設けられた第3開閉弁33とを備えている。なお、第1開閉弁31は上述の構成と同一であるため、本実施形態では説明を省略する。
【0056】
吸引供給手段7aは、収容容器2内の空気の吸引および被覆シートSの内側への空気の供給を行う。本実施形態では、吸引供給手段7aとして、ダイヤフラム式給排両用ポンプを採用しており、吸引用ポンプ(吸引手段3)及び供給用ポンプ(供給手段4)が一体形成されている。また、吸引供給手段7aは、吸引手段3に接続された第2流路12と、供給手段4に接続された第4流路14とが接続部71で接続されており、各流路12、14が互いに連通している。
【0057】
第3開閉弁33は、第4流路14の遮断及び大気への開放を行う。本実施形態では、第3開閉弁33として、リリーフバルブを採用しており、第2流路12を通じて収容容器2内から空気を吸引するときに第4流路14の被覆シートSの内側に連通する流路を遮断し、第4流路14の吸引供給手段7a内に連通する流路を大気に開放する。吸引手段3によって吸引された空気は、接続部71を通じて供給手段4に送られ、第3開閉弁33の大気開放部から第4流路14の外部に排気される。このとき、大気中から第4流路14内に細菌が侵入するのを防止するために、第3開閉弁33の大気開放部には、防水透湿性のフィルタ(図示省略)を設けるのが好ましい。なお、第3開閉弁33として、チェックバルブなどの他のバルブを採用することもできる。
【0058】
第1開閉弁31及び第3開閉弁33の開閉動作は、不図示の制御手段により電子的に制御される。これらの開閉動作は、吸引供給手段7aに設けられた吸引手段3及び供給手段4の駆動に応じて互いに逆の動作を行うように制御される。即ち、吸引手段3を駆動させる場合は、第1開閉弁31が閉じられており、第3開閉弁33が開いている。これとは逆に、供給手段4を駆動させる場合は、第1開閉弁31が開いており、第3開閉弁33が閉じられている。
【0059】
陰圧治療装置50によれば、第4流路14を通じて被覆シートSの内側に空気を供給するように構成された陰圧治療装置40に吸引供給手段7aを採用することにより、上述したすべての効果を得ることができる。
【0060】
また、第2実施形態の他の変形例として図7に示す陰圧治療装置60のような実施形態であってもよい。陰圧治療装置60は、第4流路14と被覆シートSの内側に連通する流路とを切り替える第2の流路切替え手段6を備えている。本実施形態では、第2の流路切替え手段6が第4流路14と圧力測定チューブ8との接続部に設けられている。
【0061】
第2の流路切替え手段6は、第4流路14を通じて被覆シートSの内側に空気を供給するときにのみ第4流路14を圧力測定チューブ8内の流路に開放し、第4流路14を被覆シートSの内側へ連通させる。それ以外のときは、第4流路14の圧力測定チューブ8内に通じる流路を遮断し、圧力センサ9が圧力測定チューブ8を通じて被覆シートSの内側の圧力の測定を行う。このような第2流路切替え手段6の動作は、吸引手段3及び供給手段4それぞれの駆動に応じて、不図示の制御手段により電子的に制御される。
【0062】
陰圧治療装置60によれば、上述の陰圧治療装置40、50と同様に、被覆シートSの内側に直接空気が供給されるため、被覆シートSの内側への流体の逆流を防止するとともに、圧力値の調整をより迅速に行うことができる。これに加えて、被覆シートSの内側へ引き入れるチューブ等の数を低減することができるため、被覆シートSのシール不良やはがれ、及び空気の異常リーク等の発生を抑えることができる。
【0063】
また、第3実施形態として図8に示す陰圧治療装置70のような実施形態であってもよい。陰圧治療装置70は、被覆シートSの内側から排出される流体が、創傷部Wを洗浄する洗浄液を含み、洗浄液を被覆シートSの内側へ供給する供給流路15を備えることを特徴としている。
【0064】
図9に示すように、創傷部Wには、空気や創傷部Wから滲出した体液などの流体を透過可能な多孔質のパッドPが配置され、創傷部W及びパッドPを被覆するように被覆シートSが貼着されている。創傷部Wを覆う被覆シートSの内側には、複数(3本)の柔軟なチューブの開口端部が引き入れられている。この複数(3本)のチューブのうち、一のチューブが第1流路11の一部を構成し、他のチューブが供給流路15の一部を構成し、さらに他のチューブが圧力測定チューブ8を構成する。
【0065】
供給流路15は、一端が洗浄液バッグBに、他端が収容容器2にそれぞれ接続されており、洗浄液を被覆シートSの内側に供給するための流路を構成する。供給流路15として、例えば、エアリークのない柔軟なチューブが用いられる。また、洗浄液として、例えば、生理食塩水や、生理食塩水に所要の薬剤等を添加したものを使用することができる。
【0066】
供給流路15を通じて被覆シートSの内側に供給された洗浄液は、創傷部Wから滲出する体液とともに流体として被覆シートSの内側から排出される。排出された流体(洗浄液及び創傷部Wから滲出する体液など)は、第1流路11を通じて収容容器2に収容される。
【0067】
陰圧治療装置70によれば、洗浄液を被覆シートSの内側へ供給する供給流路15を備えることにより、洗浄液で創傷部Wの洗浄を行い、感染症等を予防することができる。また、洗浄液で治療中の創傷部Wを常に湿潤状態に保つことにより、体液の滲出を促進し、創傷部Wの治療効果を向上させることができる。
【0068】
なお、この供給流路15を備えた実施形態は、上述したすべての実施形態に係る陰圧治療装置10〜60に対しても採用することができ、上述の陰圧治療装置70と同様の効果を得ることができる。
【0069】
本発明の陰圧治療装置は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、一定の基準位置に対する創傷部Wの高さの相対的な変位を検知する高さ検知センサを設けてもよい。高さ検知センサが検知した信号に基づいて制御手段が所定の演算を行うことで、創傷部Wの高さの変位に伴って変化する被覆シートSの内側の圧力値を予測することができる。これにより、被覆シートSの内側の圧力値の調整速度を高めることが可能となり、創傷部Wの高さの変位による被覆シートSの内側の圧力値の変化を低減することができる。
【0070】
あるいは、第1流路11、第2流路12、及び第3流路13又は第4流路14として、内部空間が複数の流路に分割されたルーメンチューブを用いてもよい。各流路を一本のルーメンチューブにまとめることにより、収容容器2、吸引手段3、及び供給手段4等の各流路に対する接続が容易になる。また、患者が移動中に各流路のいずれかを誤って何らかの障害物に引っ掛けてしまうような事故を防止することができる。
【0071】
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
【符号の説明】
【0072】
10、20、30、40、50、60、70 陰圧治療装置
1 圧力測定手段
2 収容容器
3 吸引手段
4 供給手段
5 流路切替え手段
6 第2の流路切替え手段
7、7a 吸引供給手段
11 第1流路
12 第2流路
13 第3流路
14 第4流路
15 供給流路
31 第1開閉弁
32 第2開閉弁
33 第3開閉弁
W 創傷部
S 被覆シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷部を覆う被覆シートの内側を陰圧状態に保ちながら、該被覆シートの内側から流体を排出する陰圧治療装置であって、
前記被覆シートの内側の圧力を測定する圧力測定手段と、
前記被覆シートの内側に通じる第1流路を通じて前記流体を収容する収容容器と、
前記収容容器内に通じる第2流路を通じて該収容容器内の空気を吸引し、前記第1流路を通じて前記被覆シートの内側から流体を吸引する吸引手段と、
前記収容容器内に連通する第3流路を通じて該収容容器内に空気を供給する供給手段と、
を備えることを特徴とする陰圧治療装置。
【請求項2】
前記第2流路と前記第3流路とを切り替える流路切替え手段を備えることを特徴とする、請求項1に記載の陰圧治療装置。
【請求項3】
前記吸引手段と前記供給手段とを含み、かつ前記第2流路と前記第3流路とが接続された吸引供給手段と、
前記第2流路に設けられ、前記第3流路を通じて前記収容容器内に空気を供給するときに該第2流路の前記収容容器内に連通する流路を遮断し、該第2流路の前記吸引供給手段内に連通する流路を大気に開放する第1開閉弁と、
前記第3流路に設けられ、前記第2流路を通じて前記収容容器内から空気を吸引するときに該第3流路の前記収容容器内に連通する流路を遮断し、該第3流路の前記吸引供給手段内に連通する流路を大気に開放する第2開閉弁と、
を備えることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の陰圧治療装置。
【請求項4】
前記供給手段が、前記被覆シートの内側に通じる第4流路を通じて該被覆シートの内側に空気を供給することを特徴とする、請求項1に記載の陰圧治療装置。
【請求項5】
前記吸引手段と前記供給手段とを含み、かつ前記第2流路と前記第3流路とが接続された吸引供給手段と、
前記第2流路に設けられ、前記第4流路を通じて前記被覆シートの内側に空気を供給するときに該第2流路の前記収容容器内に連通する流路を遮断し、該第2流路の前記吸引供給手段内に連通する流路を大気に開放する第1開閉弁と、
前記第4流路に設けられ、前記第2流路を通じて前記収容容器内から空気を吸引するときに該第4流路の前記被覆シートの内側に連通する流路を遮断し、該第4流路の前記吸引供給手段内に連通する流路を大気に開放する第3開閉弁と、
を備えることを特徴とする、請求項4に記載の陰圧治療装置。
【請求項6】
前記第4流路と前記被覆シートの内側に連通する流路とを切り替える第2の流路切替え手段を備えることを特徴とする、請求項4又は請求項5に記載の陰圧治療装置。
【請求項7】
前記流体が、前記創傷部を洗浄する洗浄液を含み、
前記洗浄液を前記被覆シートの内側へ供給する供給流路を備えることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか一つに記載の陰圧治療装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−29908(P2012−29908A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172629(P2010−172629)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】