説明

陽極表面酸化物の排出装置及びその排出方法

【課題】良好な品質の製品を経済的に、しかも作業性よく効率的に製造可能な陽極表面酸化物の排出装置及びその排出方法を提供する。
【解決手段】竪型めっき用タンク12内のめっき浴13中に連続的に浸漬される鋼帯15の両面に、それぞれ間隔を有して対向配置した鉛製の不溶性陽極16、17に設けられ、電解めっきの際に不溶性陽極16、17から生成し脱落した鉛系酸化物を竪型めっき用タンク12内から排出する陽極表面酸化物の排出装置10及びその排出方法であり、保護カバー24を、不溶性陽極16、17の鋼帯15との対向面側に、下端部を開放させた状態で取付け固定し、保護カバー24と不溶性陽極16、17の間から下方へ落下する鉛系酸化物を、不溶性陽極16、17の下方に設けられた回収箱25により受ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっきプロセスに使用される不溶性電極の表面に発生する陽極表面酸化物の排出装置及びその排出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼帯へのクロムめっきは、図4に示すように、電解クロムめっき浴(単に、めっき浴ともいう)80中で、鋼帯81を陰極とし、不溶性電極82を陽極(不溶性陽極ともいう)として、通電することで行っている。
この不溶性電極82には、3価のクロムイオンを6価のクロムイオンに酸化させる能力に優れる鉛及びその合金が用いられている。
【0003】
しかし、上記した不溶性電極82を用いて鋼帯81表面を電解処理すると、不溶性電極82中の鉛の溶解量が多くなり、不溶性電極82の耐久性を低下させる恐れがあった。
また、不溶性電極82の表面にPbOやPbCrO(鉛クロム酸化物)を主体とする鉛系酸化物が多量に生成し、これが塊状又は鱗片状になって剥離する。このため、剥離した皮膜がめっき浴80中に混入すると、これがシンクロール83と鋼帯81の間に巻き込まれて鋼帯81表面に押疵が発生し、鋼帯81の品質を著しく悪化させる恐れがあった。なお、図4中の番号84、85は、トップロールであり、番号86は、竪型めっき用タンクである。
【0004】
上記した課題に対し、耐久性の向上と鉛系酸化物の剥離の抑制が図れる不溶性電極として、例えば、特許文献1には、Sn量とAg量を調整した不溶性電極が開示されている。しかし、上記した不溶性電極であっても、例えば、損傷速度が比較的速いフッ素イオンやケイフッ化物を含むめっき浴を使用した場合には、生成した鉛系酸化物の剥離を完全に防止することができず、鋼帯の品質を更に向上させるには限界があった。
そこで、不溶性電極から剥離した皮膜が、めっき浴中へ混入することを防止するため、図5(A)〜(C)、図6(A)に示すように、不溶性電極82を袋状のカバー87に入れて使用している。なお、袋状のカバー87は、複数の押え部材88により、不溶性電極82に取付け固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−209395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、袋状のカバー87に入れた不溶性電極82を使用して電解めっきを行った場合、図6(B)に示すように、鉛クロム酸化物(絶縁性)を含む皮膜89が、袋状のカバー87内に堆積して、鋼帯81と不溶性電極82表面との間に残存するため、以下の問題があった。
めっき電圧が上昇し、電力原単位の悪化を招いていた。
また、堆積した皮膜が鋼帯側へ突出して鋼帯と接触し、製品品質の悪化を招いていた。
更に、上記した問題を無くすため、袋状のカバー内に堆積した皮膜を定期的に除去すればよいが、皮膜を除去するたびに電解めっきの操業を中止し、竪型めっき用タンク内から不溶性電極を取出して、皮膜の除去作業を実施する必要があり、製品の生産効率の低下と作業性の悪化を招いていた。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、良好な品質の製品を経済的に、しかも作業性よく効率的に製造可能な陽極表面酸化物の排出装置及びその排出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う第1の発明に係る陽極表面酸化物の排出装置は、竪型めっき用タンクの上方に配置された入側トップロール、前記竪型めっき用タンク内のめっき浴中のシンクロール、及び前記竪型めっき用タンクの上方に配置された出側トップロールに順次掛け渡され、めっき浴中に連続的に浸漬される鋼帯の両面に、それぞれ間隔を有して対向配置した鉛製の不溶性陽極に設けられ、電解めっきの際に前記不溶性陽極から生成し脱落した鉛系酸化物を前記竪型めっき用タンク内から排出する陽極表面酸化物の排出装置であって、
前記不溶性陽極の前記鋼帯との対向面側に、その下端部を開放させた状態で取付け固定される保護カバーと、前記不溶性陽極の下方に設けられ、前記保護カバーと前記不溶性陽極の間から下方へ落下する前記鉛系酸化物を受ける回収箱とを有する。
【0009】
第1の発明に係る陽極表面酸化物の排出装置において、前記保護カバーは、複数の細長状の押え部材により前記不溶性陽極に取付け固定され、しかも前記各押え部材は、前記鋼帯の搬送方向と交差する方向に傾斜配置されていることが好ましい。
第1の発明に係る陽極表面酸化物の排出装置において、前記各押え部材は、その上端から下端へかけ、前記不溶性陽極の幅方向中央に向けて傾斜させていることが好ましい。
【0010】
第1の発明に係る陽極表面酸化物の排出装置において、前記竪型めっき用タンク内には、その幅方向に渡って前記回収箱を下から支持する支持部材が設けられ、前記回収箱の側方の前記竪型めっき用タンクには、閉塞可能な開口部が設けられ、前記鉛系酸化物を前記竪型めっき用タンク内から排出するに際しては、前記開口部を開けた後、前記回収箱を前記支持部材に沿って前記竪型めっき用タンク内から引出せることが好ましい。
第1の発明に係る陽極表面酸化物の排出装置において、前記開口部には覗き窓が設けられていることが好ましい。
【0011】
前記目的に沿う第2の発明に係る陽極表面酸化物の排出方法は、竪型めっき用タンクの上方に配置された入側トップロール、前記竪型めっき用タンク内のめっき浴中のシンクロール、及び前記竪型めっき用タンクの上方に配置された出側トップロールに順次掛け渡され、めっき浴中に、鋼帯を連続的に浸漬させながら鉛製の不溶性陽極で電解めっきを行う際に該不溶性陽極から生成し脱落した鉛系酸化物を、前記竪型めっき用タンク内から排出する陽極表面酸化物の排出方法であって、
保護カバーを、前記不溶性陽極の前記鋼帯との対向面側に、下端部を開放させた状態で取付け固定し、前記保護カバーと前記不溶性陽極の間から下方へ落下する前記鉛系酸化物を、前記不溶性陽極の下方に設けられた回収箱により受ける。
【0012】
第2の発明に係る陽極表面酸化物の排出方法において、前記回収箱を、前記竪型めっき用タンクに設けられた閉塞可能な開口部を介して、前記竪型めっき用タンク内から引出すことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る陽極表面酸化物の排出装置及びその排出方法は、不溶性陽極の鋼帯との対向面側に、保護カバーを、その下端部を開放させた状態で取付け固定しているため、不溶性陽極から生成し脱落した鉛系酸化物を、保護カバーと不溶性陽極の間から下方へ落下させることができる。
また、不溶性陽極の下方に、鉛系酸化物を受ける回収箱を設けているので、落下した鉛系酸化物を回収箱に落ち込ませることができる。
これにより、不溶性陽極の鋼帯との対向面側から、鉛系酸化物を除去できるので、めっき電圧の上昇に伴う電力原単位の悪化や、鋼帯との接触による製品品質の悪化、更には鉛系酸化物の除去に伴う製品の生産効率の低下と作業性の悪化を抑制、更には防止できる。
従って、良好な品質の製品を経済的に、しかも作業性よく効率的に製造できる。
【0014】
また、保護カバーを、複数の細長状の押え部材により不溶性陽極に取付け固定する場合、不溶性陽極の表面からの保護カバーの部分的な浮き上がりを防止できる。ここで、各押え部材を、鋼帯の搬送方向と交差する方向に傾斜配置することにより、脱落する鉛系酸化物を、押え部材に沿って不溶性陽極の下方へ落下させることができると共に、鋼帯の幅方向で部分的に電解めっきされない部分が発生する恐れがなくなる。
【0015】
そして、回収箱で回収された鉛系酸化物を、竪型めっき用タンク内から排出するに際し、竪型めっき用タンクに設けられた閉塞可能な開口部を開けて、回収箱を竪型めっき用タンク内から引出す場合、竪型めっき用タンク内から不溶性電極を取出すことなく、鉛系酸化物を竪型めっき用タンク内から排出できるので、めっきされた製品の生産効率と作業性の向上が図れる。
更に、開口部に覗き窓を設ける場合、回収箱内の鉛系酸化物の回収量を確認して、回収箱を竪型めっき用タンク内から取出すか否かの判断ができる。従って、電解めっきの停止期間を必要最小限にできるため、めっきされた製品の生産効率と作業性の更なる向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る陽極表面酸化物の排出装置が設けられた不溶性陽極を有する電解めっき設備の側断面図、正断面図である。
【図2】(A)は同排出装置の保護カバーが取付けられた不溶性陽極の正面図、(B)は電解めっき後の不溶性陽極の説明図である。
【図3】(A)、(B)はそれぞれ同排出装置の保護カバーの取付け方法を示す不溶性陽極の正面図、側断面図である。
【図4】従来例に係る電解めっき設備の側断面図である。
【図5】(A)〜(C)はそれぞれ袋状のカバーの取付け方法を示す不溶性陽極の正面図、側断面図、袋状のカバーに入れた不溶性陽極の側断面図である。
【図6】(A)は袋状のカバーに入れた不溶性陽極の正面図、(B)は電解めっき後の不溶性陽極の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1(A)、(B)、図2(A)、(B)に示すように、本発明の一実施の形態に係る陽極表面酸化物の排出装置(以下、単に排出装置ともいう)10、11は、電解めっき設備11aにおいて、竪型めっき用タンク12内のめっき浴13中に連続的に浸漬される鋼帯(ストリップともいう)15の両面に、それぞれ間隔を有して対向配置した鉛製の不溶性陽極16、17に設けられ、電解めっきの際に不溶性陽極16、17から生成し脱落した鉛系酸化物18を竪型めっき用タンク12内から排出する装置である。以下、詳しく説明する。
【0018】
図1(A)、(B)に示すように、竪型めっき用タンク12は竪型のタンクである。
この竪型めっき用タンク12内の底部には、シンクロール14が、また竪型めっき用タンク12の上方には、入側トップロール20と出側トップロール19が、それぞれ回転可能に配置されている。
これにより、鋼帯15を、入側トップロール20、シンクロール14、及び出側トップロール19に順次掛け渡し、上流側から入側トップロール20へ搬送されてきた鋼帯15を、シンクロール14により竪型めっき用タンク12内のめっき浴13中に浸漬させた後、出側トップロール19でめっき浴13中から引上げ、下流側へ搬送している。
【0019】
竪型めっき用タンク12内のめっき浴13中であって、入側トップロール20とシンクロール14との間、及びシンクロール14と出側トップロール19との間には、それぞれ不溶性陽極16、17が設けられている。
不溶性陽極16は、図1(A)、図2(B)、図3(A)、(B)に示すように、鉄心(図示しない)の片面に鉛21(又は鉛合金)が設けられ、この鉛21の表面が露出するように、鉄心の周囲を繊維強化プラスチック(FRP)22で覆ったものであり、鉄心の上端部には、銅製のターミナル23が取付けられている。また、不溶性陽極17も、不溶性陽極16と同様の構成となっている。
【0020】
図1(A)に示すように、各不溶性陽極16、17は、露出する鉛21の表面が、鋼帯15の両面にそれぞれ対向するように、しかも、鋼帯15の表面とは、例えば、10〜50mm程度(ここでは30mm)の間隔を有して、竪型めっき用タンク12内に配置されている。
この各不溶性陽極16、17に設けられる陽極表面酸化物の排出装置10、11は、図1(A)、(B)、図2(B)に示すように、不溶性陽極16、17の鋼帯15との対向面側に取付け固定される保護カバー24と、不溶性陽極16、17の下方に設けられる回収箱25とを有している。
【0021】
保護カバー24は、各不溶性陽極16、17から生成し脱落する鉛系酸化物18を、保護カバー24と各不溶性陽極16、17との間から、その下方へ落下させるものである。
この保護カバー24は、サラン樹脂(PVDC:ポリ塩化ビニリデン又は塩化ビニリデン樹脂ともいう)で構成され、鉛21の表面に位置する領域が網目状(網目の大きさは、例えば、0.5mm以下程度)になっている。なお、保護カバーは、めっき浴13に対して耐性のあるものであれば、他の樹脂で構成してもよい。
保護カバー24の下端位置は、各不溶性陽極16、17の下端位置よりも、例えば、5〜20mm程度下方であるが、脱落する鉛系酸化物18を各不溶性陽極16、17の下方へ落下させることができれば、同じでもよく、また上方でもよい。
【0022】
保護カバー24は、保護カバー24の網目状の領域に配置された複数(ここでは6個)の細長状の押え部材26〜33により、各不溶性陽極16、17に取付け固定されている。
この各押え部材26〜33は、繊維強化プラスチックで構成されているが、めっき浴13に対して耐性のあるものであれば、他の素材で構成してもよい。
複数の押え部材26〜33のうち、各不溶性陽極16、17の幅方向両側に位置する押え部材26、33は、各不溶性陽極16、17の鉛21の領域の両外側に、鋼帯15の搬送方向に沿って配置されている。
これにより、脱落する鉛系酸化物18が、保護カバー24の両側から流出する恐れがなくなる。
【0023】
また、複数の押え部材26〜33のうち、上記した押え部材26、33を除く他の押え部材27〜32は、各不溶性陽極16、17の鉛21の領域内に配置されている。
この各押え部材27〜32は、鋼帯15の搬送方向と交差する方向で、しかもその上端から下端へかけ、各不溶性陽極16、17の幅方向中央に向けて傾斜(例えば、鋼帯15の搬送方向に対して、30〜60度の範囲内)させて配置されている。
ここでは、各不溶性陽極16、17の幅方向中央を中心として、各押え部材27〜32を対称に配置しているが、この配置方法に限定されるものではなく、例えば、非対称に配置してもよい。
【0024】
これにより、図2(B)に示すように、保護カバー24の下端部を各不溶性陽極16、17に対して開放させた状態にできると共に、鋼帯15の電解めっき時に、鋼帯15の幅方向全体に渡って、鋼帯15に各不溶性陽極16、17を対向させることができる。また、傾斜配置した各押え部材27〜32を、各不溶性陽極16、17の幅方向中央に向けて傾斜させることで、脱落する鉛系酸化物18を、各不溶性陽極16、17の幅方向中央に向けて落下させることができる。
なお、各押え部材の取付けは、めっきに及ぼす影響が問題無い程度であれば、その長さ方向を、鋼帯の搬送方向に一致させてもよい。
【0025】
各押え部材26〜33には、各不溶性陽極16、17に形成された貫通孔の形成位置に対応させて、複数(ここでは、2〜4個)の貫通孔34が形成されている。
これにより、各不溶性陽極16、17へ保護カバー24を取付けるに際しては、図3(A)、(B)に示すように、各不溶性陽極16、17の表面に保護カバー24を配置した後、図2(A)に示すように、各押え部材26〜33の貫通孔34が各不溶性陽極16、17の貫通孔の位置に合うように、各押え部材26〜33を配置する。そして、各押え部材26〜33の各貫通孔34と各不溶性陽極16、17の各貫通孔に、縫うように紐を挿通し、この両端部を結んで、各不溶性陽極16、17への保護カバー24の取付け固定を行う。なお、保護カバー24の網目状の領域の上部にも、例えば、ゴムや紐(図示しない)等で取付けても構わない。
【0026】
図1(A)、(B)、図2(B)に示す回収箱25は、保護カバー24と各不溶性陽極16、17の間から下方へ落下する鉛系酸化物18を受けるものである。なお、回収箱25は、竪型めっき用タンク12内に幅方向に渡って設けられた受け台(支持部材の一例)35によって、下から支持されている。
回収箱25は、底板部36と、これに立設され、対向配置される前側側壁37と後側側壁38、及び対向配置される左側(一側)側壁39と右側(他側)側壁40を有するものである。なお、前側側壁37は各不溶性陽極16、17の鉛21の露出面側に配置され、後側側壁36は鉛21の露出面とは反対側に配置される。
【0027】
回収箱25の前側側壁37と後側側壁38の間隔は、各不溶性陽極16、17の厚みよりも広く、また左側側壁39と右側側壁40の間隔は、各不溶性陽極16、17の幅よりも広くなっている。
前側側壁37の上端位置は、各不溶性陽極16、17の下端位置よりも上方であって、これに取付けられた保護カバー24の下端位置よりも上方(例えば、保護カバー24の下端位置より上方へ20〜100mm程度)にある。また、後側側壁38の上端位置は、各不溶性陽極16、17の下端位置よりも上方(例えば、下端位置より上方へ10〜50mm程度)にある。
これにより、保護カバー24と各不溶性陽極16、17との間から落下してくる鉛系酸化物18を、めっき浴13中に浮遊させることなく、回収箱25内に回収できる。
【0028】
回収箱25の引出す側の側壁(図1(B)では右側側壁40)に相対する側の側壁(図1(B)では左側側壁39)の上端位置は、各不溶性陽極16、17の下端位置よりも下方(例えば、下端位置より下方へ5〜10mm程度)にある。
そして、回収箱25の側方の竪型めっき用タンク12には、蓋41によって閉塞可能な開口部42が設けられており、この蓋41には覗き窓が設けられている。なお、蓋には、覗き窓を設けなくてもよい。
このように構成することで、鉛系酸化物18を竪型めっき用タンク12内から排出するに際しては、蓋41を開けた後、回収箱25を受け台35に沿って、開口部42を介して竪型めっき用タンク12内から引出すことができる。なお、回収箱25を引出すかわりに、回収箱25内の鉛系酸化物18のみを、掻き出したり、また吸引してもよい。
【0029】
続いて、本発明の一実施の形態に係る陽極表面酸化物の排出方法について、図1〜図3を参照しながら説明する。
まず、図1(A)、(B)に示すように、竪型めっき用タンク12内に、保護カバー24が取付けられた鉛製の各不溶性陽極16、17を配置する。このとき、保護カバー24の下端部を、図2(B)に示すように、回収箱25内に入れる。
そして、鋼帯15を陰極とし、各不溶性陽極16、17を陽極として、通電することで、電解めっきを行う。なお、めっき浴13は、フッ素イオンやケイフッ化物を含むクロムめっき浴である。
【0030】
このように、鉛製の各不溶性電極16、17を用いて鋼帯15表面を電解処理すると、各不溶性電極16、17中の鉛の溶解量が多くなり、各不溶性電極16、17の表面にPbOやPbCrOを主体とする鉛系酸化物18が多量に生成し、これが塊状又は鱗片状になって剥離する。
しかし、この鉛系酸化物18は、保護カバー24と各不溶性陽極16、17の間から下方へ落下し、図2(B)に示すように、回収箱25内に回収されるので、鋼帯15と不溶性電極16、17表面との間に残存することを防止できる。
【0031】
そして、回収箱25内の鉛系酸化物18量を、竪型めっき用タンク12の蓋41に設けられた覗き窓で確認し、鉛系酸化物18を竪型めっき用タンク12内から排出する必要があれば、まず、電解めっきの操業を停止する。
次に、竪型めっき用タンク12内のめっき液を排出した後、蓋41を開け、開口部42を介して回収箱25を竪型めっき用タンク12内から引出し、回収箱25から鉛系酸化物18を取出す。
そして、空になった回収箱25を、再度、開口部42を介して竪型めっき用タンク12内に装入し、蓋41を閉めた後、竪型めっき用タンク12内にめっき液を供給して、電解めっきを行う。
【0032】
これにより、めっき電圧の上昇に伴う電力原単位の悪化や、鋼帯15との接触による製品品質の悪化、更には鉛系酸化物18の除去に伴う製品の生産効率の低下と作業性の悪化を抑制、更には防止できる。
従って、良好な品質の製品を経済的に、しかも作業性よく効率的に製造できる。
【0033】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の陽極表面酸化物の排出装置及びその排出方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、鋼帯にクロムめっきを施した場合について説明したが、鉛製の不溶性陽極を使用して電解めっきを行うものであれば、他の金属めっき、例えば、すずめっきや亜鉛めっきでも、本発明は適用できる。
また、前記実施の形態においては、保護カバーを、対向配置される対となる不溶性陽極の双方に取付け固定した場合について説明した。しかし、脱落する鉛系酸化物がシンクロールと鋼帯の間に巻き込まれることを考慮して、少なくともシンクロールの上方に位置する不溶性陽極のみに、保護カバーを設けてもよい。
【符号の説明】
【0034】
10、11:陽極表面酸化物の排出装置、11a:電解めっき設備、12:竪型めっき用タンク、13:めっき浴、14:シンクロール、15:鋼帯、16、17:不溶性陽極、18:鉛系酸化物、19:出側トップロール、20:入側トップロール、21:鉛、22:繊維強化プラスチック、23:ターミナル、24:保護カバー、25:回収箱、26〜33:押え部材、34:貫通孔、35:受け台(支持部材)、36:底板部、37:前側側壁、38:後側側壁、39:左側側壁、40:右側側壁、41:蓋、42:開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竪型めっき用タンク内のめっき浴中に連続的に浸漬される鋼帯の両面に、それぞれ間隔を有して対向配置した鉛製の不溶性陽極に設けられ、電解めっきの際に前記不溶性陽極から生成し脱落した鉛系酸化物を前記竪型めっき用タンク内から排出する陽極表面酸化物の排出装置であって、
前記不溶性陽極の前記鋼帯との対向面側に、その下端部を開放させた状態で取付け固定される保護カバーと、前記不溶性陽極の下方に設けられ、前記保護カバーと前記不溶性陽極の間から下方へ落下する前記鉛系酸化物を受ける回収箱とを有することを特徴とする陽極表面酸化物の排出装置。
【請求項2】
請求項1記載の陽極表面酸化物の排出装置において、前記保護カバーは、複数の細長状の押え部材により前記不溶性陽極に取付け固定され、しかも前記各押え部材は、前記鋼帯の搬送方向と交差する方向に傾斜配置されていることを特徴とする陽極表面酸化物の排出装置。
【請求項3】
請求項2記載の陽極表面酸化物の排出装置において、前記各押え部材は、その上端から下端へかけ、前記不溶性陽極の幅方向中央に向けて傾斜させていることを特徴とする陽極表面酸化物の排出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の陽極表面酸化物の排出装置において、前記竪型めっき用タンク内には、その幅方向に渡って前記回収箱を下から支持する支持部材が設けられ、前記回収箱の側方の前記竪型めっき用タンクには、閉塞可能な開口部が設けられ、前記鉛系酸化物を前記竪型めっき用タンク内から排出するに際しては、前記開口部を開けた後、前記回収箱を前記支持部材に沿って前記竪型めっき用タンク内から引出せることを特徴とする陽極表面酸化物の排出装置。
【請求項5】
請求項4記載の陽極表面酸化物の排出装置において、前記開口部には覗き窓が設けられていることを特徴とする陽極表面酸化物の排出装置。
【請求項6】
竪型めっき用タンク内のめっき浴中に、鋼帯を連続的に浸漬させながら鉛製の不溶性陽極で電解めっきを行う際に該不溶性陽極から生成し脱落した鉛系酸化物を、前記竪型めっき用タンク内から排出する陽極表面酸化物の排出方法であって、
保護カバーを、前記不溶性陽極の前記鋼帯との対向面側に、下端部を開放させた状態で取付け固定し、前記保護カバーと前記不溶性陽極の間から下方へ落下する前記鉛系酸化物を、前記不溶性陽極の下方に設けられた回収箱により受けることを特徴とする陽極表面酸化物の排出方法。
【請求項7】
請求項6記載の陽極表面酸化物の排出方法において、前記回収箱を、前記竪型めっき用タンクに設けられた閉塞可能な開口部を介して、前記竪型めっき用タンク内から引出すことを特徴とする陽極表面酸化物の排出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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