説明

階段及び建築構造物

【課題】階段のササラ桁プレートをダンパーとして構成したことにより、階段のデッドスペースを有効利用するとともに、建築構造物の構成要素の有効利用をはかることが可能な階段、及び建築構造物を提供する。
【解決手段】階段1は、所定軸力を受けた際に軸方向に降伏する帯板状の芯材からなるダンパー本体101と、ダンパー本体101の周囲に装着されることによりダンパー本体101の面外座屈を防止する拘束部材102とを有するとともに上階及び下階を連結する一対のササラ桁プレート11と、一対のササラ桁プレート11に架設された踏み板21と、一対のササラ桁プレート21に架設された蹴込み板31とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階段及び建築構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、住宅、ビル等の建築物を長寿命化させることにより、価値ある社会資産を蓄積させて豊かな社会を築くというストック型社会へと転換されつつある。
そのためには、電気、水道等のライフラインとともに、建築物の躯体の耐震性、耐久性等の性能の向上が必至の課題である。
一般的に、耐震性能を向上させるために、建築物の躯体のブレース(筋交いとも言い、柱間に斜めに取り付けられた構造補強材)部分に制震ダンパーを設ける方法が採用されることがある(下記特許文献1参照)。
【0003】
一方、建築物に設置された鉄骨階段において、各踏み板及び各蹴込み板を両端で支持する斜材として、ササラ桁プレートを上下階に渡して取り付けた構成がとられ場合がある(下記特許文献2参照)。
【0004】
また、階段の制振構造として、段板の下側に設けられた梁に制振装置を取り付けることにより、階段の昇降時の振動を低減する手法が採用されている(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−256976号公報
【特許文献2】特開平9−67916号公報
【特許文献3】特開2007−303146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、建築物に、上述の制震ダンパーが設けられたブレースを取り付ける場合、柱間にはブレースがあるために人の出入りが出来ないので、ブレースが取り付けられた箇所にはブレースの両面に面材を施して壁として利用するしかない。この場合、プラン計画上、ブレースを設置するスペースを確保するのが困難であるという問題点があった。小規模な建築物においては、大規模な建築物以上に上記問題点が顕著に表れ、ブレースの設置スペースを確保するのが非常に困難であった。
【0007】
一方、上述のササラ桁プレートは、一般的な階段の構成部材であって、何ら耐震性能を有するものではない。
【0008】
また、上述の制振装置を取り付けた階段では、階段の昇降時における階段自体の振動を低減することは可能だが、地震時の建物の振動を低減させるまでの効果はない。よって、建物に制震性能を求める場合には、別途ダンパー等の制震装置を取り付ける必要があった。
【0009】
本発明は、前述の従来技術における問題を解決するために、階段のササラ桁プレートをダンパーとして構成したことにより耐震性を有し、階段のデッドスペースを有効利用するとともに、建築構造物の構成要素の有効利用をはかることが可能な階段、及び建築構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る階段は、所定軸力を受けた際に軸方向に降伏する帯板状の芯材からなるダンパー本体と、該ダンパー本体の周囲に装着されることにより前記ダンパー本体の面外座屈を防止する拘束部材とを有するとともに上階及び下階を連結する一対のササラ桁プレートと、前記一対のササラ桁プレートに架設された踏み板と、前記一対のササラ桁プレートに架設された蹴込み板とを備えることを特徴とする。
【0011】
この構成では、ササラ桁プレートと、ササラ桁プレートに架設された踏み板及び蹴込み板とを備えるとともに、サララ桁プレートにはダンパー本体及び拘束部材が設けられている階段を得ることができる。また、ササラ桁プレートをダンパーとして構成したことにより耐震性を有し、階段のデッドスペースを有効利用することができる。また、建築構造物の構成要素であるササラ桁プレートの有効利用をはかることが可能である。
【0012】
また、本発明に係る階段は、前記階段は、同一構成の階段が側面視してX状に配置されていることを特徴とするX型階段である。
【0013】
この構成では、X型階段におけるササラ桁プレートをダンパーとして構成したことにより耐震性を有し、階段のデッドスペースを有効利用することができるとともに、建築構造物の構成要素であるササラ桁プレートの有効利用をはかることが可能である。
【0014】
また、本発明に係る階段は、前記踏み板及び前記蹴込み板は、前記ダンパー本体の前記面外座屈防止部材を構成していることを特徴とする。
【0015】
この構成では、踏み板及び蹴込み板はともに、ササラ桁プレートに架設されている。よって、踏み板はダンパー本体の面外座屈のうち踏み板と同一方向の座屈を、蹴込み板はダンパー本体の面外座屈のうち蹴込み板と同一方向の座屈を、それぞれ防止する効果を発揮することができる。これにより、ダンパー本体は確実に耐震性を発揮することができる。
【0016】
また、本発明に係る階段は、前記芯材は、鋼材からなること特徴とする。
【0017】
この構成では、ダンパー本体の芯材が鋼材であるので、鋼材が地震力を吸収することによりササラ桁プレートが制震ダンパーとして確実に機能することができる。
【0018】
また、本発明に係る階段は、前記芯材は、粘弾性材からなってもよい。
【0019】
この構成では、ダンパー本体の芯材が粘弾性材であるので、粘弾性材が地震力を吸収することによりササラ桁プレートが制震ダンパーとして確実に機能することができる。
【0020】
また、本発明に係る建築構造物は、前記階段を備えていることを特徴とする。
【0021】
この構成では、建築構造物は、本発明の階段を備えているので、階段のデッドスペースを有効利用するとともに、建築構造物の構成要素の有効利用をはかることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る階段、及び建築構造物によれば、階段のササラ桁プレートをダンパーとして構成したことにより耐震性を有し、階段のデッドスペースを有効利用するとともに、建築構造物の構成要素の有効利用をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る階段を備えた建築構造物の平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る階段の概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る階段の一部を示す斜視図である。
【図4】図1のP―P断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る階段の組立を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る階段の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、建築構造物Aは、X型階段1をセンターコア4として備えている。
また、X型階段1は、同一の構成からなる折り返し階段である第一の階段81と、第二の階段91から構成され、第一の階段81と第二の階段91は、互いに隣接して設けられている。
【0025】
図2及び図3に示すように、第一の階段81は、上階Uに設けられた第一の降り口部82と、第一の降り口部82より下方に向けて設けられた第一の直階段83と、第一の直階段83の下側であり且つ上階Uと下階Dの間に設けられた第一の踊り場部84と、第一の踊り場部84から下方であり且つ第一の直階段83と反対方向に向けて設けられた第二の直階段85と、第二の直階段85の下側であり且つ下階Dに設けられた第一の昇り口部86とを備える。
なお、第一の階段81と第二の階段91は同一の構成であるので、第二の階段91の説明は省略する(以下同じ)。
この構成において、第一の階段81と第二の階段91とは、それぞれ第一の直階段83、83(第二の直階段85、85)が側面視してX状に配置されている。
【0026】
第一の直階段83は、図3に示すように、第一の降り口部82と第一の踊り場部84の間を連結する左右一対のササラ桁プレート11と、左右一対のササラ桁プレート11の間に架設された複数の踏み板21と、左右一対のササラ桁プレート11の間に架設された複数の蹴込み板31とを備える。
【0027】
ササラ桁プレート11は、図4に示すように、軸方向に延設されたダンパー本体101と、該ダンパー本体101の周囲に装着された拘束部材102とを備える。
また、図3に示すように、ササラ桁プレート11の上端部11A及び下端部11Cは水平方向に延在し、上端部11Aと下端部11Cとを結ぶ中間部11Bは第一の直階段83の勾配に沿った方向に延在している。そして、上端部11Aは第一の降り口部82を支持し、中間部11Bは各踏み板21及び各蹴込み板31を横方向から支持し、下端部11Cは第一の踊り場部84を支持している。
ここで、ササラ桁プレート11の端部は、建築構造物Aの柱梁架構の柱梁接合部近傍に取り付くことが望ましい。
【0028】
ダンパー本体101は、所定の軸力を受けた際に軸方向に降伏する帯板状の鋼材111から構成されている。したがって、ダンパー本体101は、中小地震時には降伏するまでは至らずに弾性変形することにより地震力を吸収し、大地震時に初めて降伏して地震力を吸収する構成となっている。よって、大地震時に十分な制震効果が得られるように、所定の軸力は十分に大きく設定されている。
ダンパー本体101の形状としては、例えば、図4に示すダンパー本体101の高さHを、図3に示す上端部11A及び下端部11Cに比較して中間部11Bにおいて小さくする(不図示)ことにより、中間部11Bに降伏点を設けるようになっている。
また、鋼材111としては、例えば、低降伏点鋼又は軟鋼からなる帯鋼板が採用されている。
【0029】
拘束部材102は、図4及び図5に示すように、ダンパー本体101に面して設けられた一対のチャンネル鋼材121と、ダンパー本体101及びチャンネル鋼材121の上部及び下部に面して設けられた一対のカバープレート122と、チャンネル鋼材121とカバープレート122を固定する固定部123と、チャンネル鋼材121の面外座屈を防止する補鋼材127とを備える。また、チャンネル鋼材121及びカバープレート122が一体としてダンパー本体101に装着されることにより、ダンパー本体101の水平方向である面外方向への変形を拘束し、座屈を防止する機能を有する構成となっている。
【0030】
チャンネル鋼材121は、図4に示すように、C型断面を有しており、一対のチャンネル鋼材121のウェブ部121Aでダンパー本体101を挟み込み、チャンネル鋼材121の上下に設けられたフランジ部121Bはカバープレート122に当接する構成になっている。
【0031】
カバープレート122は、一対のチャンネル鋼材121及び一対のチャンネル鋼材121の間に挟まれたダンパー本体101を一体として、上方及び下方より挟み込むように設けられている。
【0032】
固定部123は、チャンネル鋼材121のフランジ部121Bとカバープレート122を、ボルト123Aとナット123B等による固定方法により固定している。なお、固定方法は上記に限られず、固定可能であれば適宜設定可能である。
【0033】
補鋼材127は、図5に示すように、チャンネル鋼材121の内部に取り付けられ蹴込み板31と同一方向に間隔をおいて配された第一リブ128と、隣接する第一リブ128の端部同士を連結する第二リブ129とを備える。チャンネル鋼材121と第一リブ128及び第二リブ129は溶接等によって固定されている。ここで、第一リブ128は、ダンパー本体101及びチャンネル鋼材121の蹴込み板31と同一方向への変形を拘束し、座屈を防止する機能を有する。第二リブ129は、ダンパー本体101及びチャンネル鋼材121の踏み板21と同一方向への変形を拘束し、座屈を防止する機能を有する。
なお、図5においては、ササラ桁プレート11の一方のチャンネル鋼材121に設けられた補鋼材127を示しているが、ダンパー本体101を挟んで反対側のチャンネル鋼材121にも同様に補鋼材127が設けられている。
また、第一リブ128及び第二リブ129の一部は、それぞれ第一ガセットプレート138、第二ガセットプレート139として外方に延設されている。本実施形態では、第一ガセットプレート138、第二ガセットプレート139は、それぞれ2つおきに設けられている。
【0034】
踏み板21は、図5及び6に示すように、水平方向に配置された部材であり、ササラ桁プレート11の長さ方向に段状に複数並べて設けられている。また、一部の踏み板21の左右両端は、第二ガセットプレート139として外方に延設された第二リブ129とボルト140により固定されている。
また、踏み板21は、第二リブ129に固定されることにより、ダンパー本体101及びチャンネル鋼材121の踏み板21と同一方向への変形を拘束し、座屈を防止する機能を有する。
なお、固定方法は上記のボルト接合に限られず、溶接であってもよい。
【0035】
蹴込み板31は、上下で相対する踏み板21のうち、上方に位置する踏み板21の後端部21Aと下方に位置する踏み板21の前端部21Bを連結するように設けられている。また、一部の蹴込み板31の左右両端は、第一ガセットプレート138として外方に延設された第一リブ128とボルト140により固定されている。
また、蹴込み板31は、第一リブ128に固定されることにより、ダンパー本体101及びチャンネル鋼材121の蹴込み板31と同一方向への変形を拘束し、座屈を防止する機能を有する。
なお、固定方法は上記のボルト接合に限られず、溶接であってもよい。
【0036】
なお、ここまで第一の直階段83について説明したが、第二の直階段85についても同一の構成であるので、説明を省略する。
【0037】
このように構成されたX型階段1を備える建築構造物Aでは、ササラ桁プレート11と、ササラ桁プレート11のウェブ部121Aに固定された踏み板21及び蹴込み板31とを備える。また、ササラ桁プレート11はダンパー本体101と、チャンネル鋼材121とカバープレート122を有する拘束部材102とを備える。そして、ササラ桁プレート11の端部が、建築構造物Aの柱梁架構の柱梁接合部近傍に取り付くことで、ササラ桁プレート11はX型階段1を支持するとともに、地震時に耐震性を有するダンパーとして機能する。
また、ササラ桁プレート11をダンパーとして構成したことにより、X型階段1のデッドスペースを有効利用することができる。また、デッドスペースを有効利用することにより省スペース化をはかることができ、特に、小規模な建築構造物Aにおいては、省スペース化を図ることにより、プラン対応力を強化することができる等有利性が顕著に表れる。
また、ダンパーを含むX型階段1をセンターコアとして建物の中心部に配置することにより、建築構造物Aの外周部の躯体に耐震装置を設ける必要がなくなり、軽快なファサードデザインを実現することができる。
さらに、ササラ桁プレート11はX型階段1を支持するので建築構造物Aの構成要素であるので、建築構造物Aの構成要素の有効利用をはかることもできる。
【0038】
また、踏み板21は、フランジ部121B及び第二リブ129と同様に、ダンパー本体101及びチャンネル鋼材121の踏み板21と同一方向への面外座屈を防止することができる。よって、踏み板21が面外座屈を防止する効果を発揮する分だけ、フランジ部121B又は第二リブ129の大きさを小さくすることが可能である。
また、蹴込み板31は、第一リブ128と同様に、ダンパー本体101及びチャンネル鋼材121の蹴込み板31と同一方向への面外座屈を防止することができる。よって、蹴込み板31が面外座屈を防止する効果を発揮する分だけ、第一リブ128の大きさを小さくし、又は配置間隔を大きくすることが可能である。
【0039】
また、本実施形態では、芯材として鋼材111を採用しているので、鋼材111が地震力を吸収することによりササラ桁プレート11が制震ダンパーとして確実に機能することができる。
また、芯材として、粘弾性材を採用してもよい。粘弾性材としては、減衰性能の高いゴムアスフェルト系のものやスチレン型高減衰ゴム等が好適に採用可能である。この場合、振動エネルギーを粘弾性材が吸収するので、地震時のみならず、X型階段1の昇降時の振動を低減することが可能となる。
【0040】
また、階段として、同一の構成の階段が側面視してX状に配置されたX型階段1は、同一空間に2つの階段を設置することができるので、2つの折曲がり階段を離して設置する場合と比較すると、建築構造物Aにおける設置面積を省スペースとすることができる。
【0041】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0042】
また、上記までは一実施形態としてX型階段1を例に挙げて説明したが、X型階段1に限られず、その他昇り口と降り口を結ぶ階段に適していることは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
1…X型階段
11…ササラ桁プレート
21…踏み板
31…蹴込み板
101…ダンパー本体
102…拘束部材
111…鋼材
A…建築構造物
U…上階
D…下階

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定軸力を受けた際に軸方向に降伏する帯板状の芯材からなるダンパー本体と、該ダンパー本体の周囲に装着されることにより前記ダンパー本体の面外座屈を防止する拘束部材とを有するとともに上階及び下階を連結する一対のササラ桁プレートと、
前記一対のササラ桁プレートに架設された踏み板と、
前記一対のササラ桁プレートに架設された蹴込み板とを備えることを特徴とする階段。
【請求項2】
請求項1に記載の階段において、
前記階段は、同一構成の階段が側面視してX状に配置されていることを特徴とするX型階段。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の階段においてに、
前記踏み板及び前記蹴込み板は、前記ダンパー本体の前記面外座屈防止部材を構成していることを特徴とする階段。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の階段において、
前記芯材は、鋼材からなることを特徴とする階段。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項記載の階段において、
前記芯材は、粘弾性材からなることを特徴とする階段。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項記載の階段を備えていることを特徴とする建築構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−2240(P2013−2240A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137385(P2011−137385)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】