説明

階段安全装置及び建物

【課題】階段における踏み板の踏み外しに起因した転倒の初期段階において人体を保護することのできる階段安全装置を提供する。
【解決手段】階段20における各踏み板21に人体から付与される荷重を検出する荷重センサ31(荷重検出手段)と、踏み板21を踏み外して転倒する人間を保護するエアバッグ装置32(保護手段)とを備える。そして、エアバッグ装置32の作動を制御する制御装置(制御手段、判断手段)は、荷重センサ31からの荷重検出結果に基づいて、踏み板21からの踏み外しによって転倒過程にあるか否かの判断を行い、転倒過程にあると判断された時にエアバッグ装置32を作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階段を昇降する人間を保護対象とした階段安全装置、及びその装置を備えた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
2階建て建物のように上階及び下階を有する建物では、建物内における事故の発生頻度の高い場所として、上下階を行き来するための階段が挙げられる。すなわち、階段を昇降する際に踏み板を踏み外すことがあり、これにより転倒し、場合によっては階下へ向けて転落することもある。
【0003】
このような階段における転倒や転落への対策としては、踏み板の表面に滑り止めの加工を施したり、手すりを設けたりするものがある。しかしながら、このような対策によってもなお転倒や転落による事故が発生しているのが実情である。そこで、特許文献1では、階段を転落していく人を衝撃センサなどで検知した場合に、階段に設置しておいたエアバッグを滑り台のように展開させる技術が提案されている。
【特許文献1】特開2000−248704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記提案された技術では、各踏み板に設置された衝撃センサが同時にアクティブになった場合などのように、実際に人間が転倒した後にエアバッグが作動するに過ぎない。このような状況では、転倒過程において1度又は数度は踏み板などに人体を打ち付けているのであるから、人体を保護するには不十分である。
【0005】
すなわち、上記提案された技術では、転倒後の転落の際には一定の効果を発揮するが、踏み板を踏み外した時点から人体を最初又は数度打ち付けるまでの初期段階(転倒過程)においては、人体の保護という観点では全く機能しておらず、さらなる改良の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、階段における踏み板の踏み外しに起因した転倒の初期段階において人体を保護することのできる階段安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0008】
すなわち、第1の発明は、階段における各踏み板に人体から付与される荷重を検出する荷重検出手段と、前記荷重検出手段からの荷重検出結果に基づいて、前記踏み板からの踏み外しによって転倒過程にあるか否かの判断を行う判断手段と、前記踏み板を踏み外して転倒する人間を保護する保護手段と、前記判断手段により転倒過程にあると判断された時に、前記保護手段を作動させるよう制御する制御手段と、を備えることを特徴とする階段安全装置である。
【0009】
これによれば、各踏み板に付与される荷重の検出結果に基づき転倒過程にあるか否かが判断され、転倒過程にあると判断された時に保護手段を作動させるので、転倒してしまう初期段階である転倒過程において、保護手段により人体を保護することができる。
【0010】
本発明者は、階段で転倒する場合の転倒過程における荷重検出結果の挙動について、以下の知見1〜3を得た。
【0011】
<知見1>
踏み板を踏み外すことなく階段を昇降している場合には、両足のいずれかから常に踏み板に荷重が付与されることとなる。これに対し、足を踏み板から滑らせて踏み外してしまった場合には、両足とも踏み板から外れた状態又は付与される荷重が極端に低い状態となる。つまり、所定の複数の踏み板に付与される荷重がいずれも予め定めた値以下の状態となる。
【0012】
この知見1を鑑みた第2の発明では、前記判断手段は、前記各踏み板のうち所定の複数の踏み板に付与される荷重がいずれも予め定めた値以下になった場合に、前記転倒過程にあると判断することを特徴とする。よって、転倒過程にあることを好適に判断できる。
【0013】
<知見2>
踏み板を踏み外すことなく階段を昇降している場合には、踏み板に一方の足を掛けた瞬間からその踏み板に付与される荷重は徐々に上昇し、全体重がその踏み板に付与された時点で荷重検出値はピークとなり、その後、次の段の踏み板に他方の足を掛けた瞬間から徐々に下降することとなる。これに対し、踏み板に一方の足を掛けた直後にその足を踏み板から滑らせて踏み外してしまった場合には、荷重検出値が上昇を開始した後、予め定めた想定荷重に達することなく下降することとなる。
【0014】
この知見2を鑑みた第3の発明では、前記判断手段は、前記各踏み板のうち所定の踏み板についての前記荷重検出結果が上昇を開始した後、予め定めた想定荷重に達することなく下降した場合に、前記転倒過程にあると判断することを特徴とする。よって、転倒過程にあることを好適に判断できる。
【0015】
<知見3>
踏み板を踏み外すことなく階段を昇降している場合には、足が掛けられた踏み板に付与される荷重は徐々に上昇してピークに達し、ピーク値が所定時間保持された後徐々に下降することとなる。これに対し、踏み板に一方の足を掛けた直後にその足を踏み板から滑らせて踏み外してしまった場合には、ピーク値が保持される時間が極端に短い、或いはほじされないこととなる。
【0016】
この知見3を鑑みた第4の発明では、前記判断手段は、前記各踏み板のうち所定の踏み板についての前記荷重検出結果が上昇を開始した後、予め定めた時間よりも短い時間で下降を開始した場合に、前記転倒過程にあると判断することを特徴とする。よって、転倒過程にあることを好適に判断できる。
【0017】
第5の発明では、前記複数の踏み板に対して荷重の付与される順序に基づいて、前記階段を昇降する人の昇降方向を判定する方向判定手段を備えることを特徴とする。これによれば、前記判断手段は、方向判定手段の判定結果を加味した上で転倒過程を判断することができる。例えば、第2〜第4の発明の判断手段に用いられる「予め定めた値」「予め定めた想定荷重」「予め定めた時間」を、前記判定結果に応じて変更することが具体例として挙げられる。また、方向判定手段の判定結果に応じて保護手段の作動態様を変更させることが可能となる。
【0018】
第6の発明では、複数の人間の個人情報が登録された個人情報登録手段と、前記階段を昇降する人間が前記登録手段に登録された人間のいずれであるかを識別する識別手段と、備え、前記識別手段により識別された人間が前記階段を昇降する場合、前記判断手段は、前記識別手段により識別された人間の前記個人情報に応じて前記転倒過程にあるか否かを判断することを特徴とする。
【0019】
したがって、例えば、老人や子供等、年齢に関する情報や体重に関する情報を個人情報として予め登録させておけば、年齢や体重等を加味した上で転倒過程を判断できる。具体例としては、先述した「予め定めた値」「予め定めた想定荷重」「予め定めた時間」を個人情報に応じて変更することが挙げられる。
【0020】
第7の発明では、前記保護手段は、1又は複数の踏み板の範囲で作動する保護部材を昇降方向に複数備えて構成されており、前記制御手段は、前記判断手段が踏み外したと判断した踏み板を含む所定範囲の前記保護部材を作動させることを特徴とする。踏み板を踏み外して最初又は数度目に打ち付ける可能性が高い踏み板は、踏み外したその踏み板である。よって、当該踏み板を含む所定範囲の保護部材を作動させる上記発明によれば、転倒過程で人体を踏み板に打ち付けてしまう可能性を低減できる。
【0021】
さらに、人体の上半身(特に頭部)が踏み板を踏み外して最初又は数度目に打ち付ける可能性の高い箇所は、踏み外した踏み板よりも昇降方向上側の1又は複数の踏み板であるとの知見を発明者は得た。そこで、第8の発明では、前記所定範囲は、前記判断手段が踏み外したと判断した踏み板よりも、昇降方向上側の1又は複数の踏み板を含む範囲であることを特徴とする。よって、転倒過程で上半身(特に頭部)を踏み板に打ち付けてしまう可能性を低減できる。
【0022】
第9の発明では、前記保護手段は、作動時に膨張展開する袋体を有したエアバッグ装置であり、前記袋体の表面には、保護対象となる人間が滑り落ちないよう機能する滑り止め機能が備えられていることを特徴とする。これによれば、転倒過程において人体を保護した後、転倒した体が袋体表面で滑ってしまうことを抑制できるので、転倒した後に袋体表面を滑って階段の下方へ人体が滑落してしまう等の状況が回避されやすくなる。
【0023】
第10の発明では、前記判断手段により転倒過程にあると判断された場合、又は前記制御手段により前記保護手段が作動された場合に、転倒の発生を通報する通報手段をさらに備えていることを特徴とする。そのため、転倒後の初期治療等を迅速に行うことの助けとなる。
【0024】
第11の発明は、上階及び下階と、これら上階及び下階を行き来するための階段と、上記発明に係る階段安全装置と、を備えることを特徴とする建物である。そして、このような建物においても上記各効果を享受することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態に係る階段安全装置が備えられた建物10を示す概略図である。この建物10は、1階フロア11(下階)及び2階フロア12(上階)を備えた2階建てであり、両フロア11,12を行き来するための階段20を昇降する人間を、階段安全装置による安全保護対象としている。
【0027】
図2は、階段20の縦断面図であり、階段20は、昇降者の足が載せられる部分である複数の踏み板21と、その複数の踏み板21の両端部を支持する側板22と、各踏み板21間に設けられる蹴込み板23と、を備えている。なお、側板22は建物10の壁13に固定されている。
【0028】
複数の踏み板21の各々には、昇降者から踏み板21付与される荷重を検出する荷重センサ31(荷重検出手段)が設置されている。荷重センサ31には歪みゲージ又は圧電素子が採用されており、荷重検出信号は図1に示す制御装置30に出力される。また、荷重センサ31は、踏み板21の内部に組み付けてもよいし、踏み板21の裏面に取り付けてもよい。
【0029】
また、複数の踏み板21の各々には、踏み板21を踏み外して転倒する人間を保護するエアバッグ装置32(保護手段)が設置されている。図3は、エアバッグ装置32の袋体32aが膨張展開した作動状態を示し、図2は、袋体32aが膨張展開しておらず収容された収容状態を示している。収容状態のエアバッグ装置32は、踏み板21の裏側に設置されている。踏み板21の開放端21b近傍部分には貫通穴21aが形成されており、膨張展開した袋体32aは、踏み板21の裏側から貫通穴21aを通じて表側に飛び出るよう構成されている。
【0030】
袋体32aの展開形状は、踏み板21の表側の面と蹴込み板23の表側の面とで挟まれた空間を埋めるよう、図3に示す如く縦断面が略三角形となる形状、かつ、踏み板21の長手方向(図3の紙面垂直方向)全体に亘って延びる形状(つまり三角柱形状)である。隣合う袋体32aの上面32b同士は、同一平面上にて連なるよう配置されており、このように上面32bが連なった状態(図3に示す状態)となることで、踏み板21及び蹴込み板23の全体が複数の袋体32aにより覆われることとなる。換言すれば、踏み板21の開放端21bは袋体32aで覆われている。
【0031】
転倒した人が複数連なる袋体32aの上を滑り落ちないようにするために、袋体32aの少なくとも上面32bには滑り止め機能が備えられている。具体的には、人が滑り落ちない程度の摩擦係数の材質で袋体32aを形成する、或いは、前記摩擦係数の材質のシートを上面32bに貼り付けることで、滑り止め機能を構成する。
【0032】
エアバッグ装置32は、制御装置30(制御手段)からの指令信号に基づき、袋体32aを膨張展開させるよう作動する。したがって、制御装置30は、複数のエアバッグ装置32のうち任意に選択したエアバッグ装置のみを作動するよう制御することも可能である。制御装置30は、複数の荷重センサ31からの荷重検出結果に基づいて、昇降者が踏み板21からの踏み外しによって転倒過程にあると判断(判断手法は後述する)した時に、複数の踏み板21のうち所定範囲の踏み板21に対応するエアバッグ装置32を作動させる。
【0033】
前記所定範囲とは、踏み外したと判断した踏み板21を少なくとも含む範囲である。また、図1の符号Pに示す踏み板21を踏み外したと判断した踏み板とすると、その踏み板Pよりも、昇降方向上側に位置する符号Qに示す踏み板21又は符号Q,Rに示す踏み板21を所定範囲に含ませるようにしてもよい。また、踏み板Pに対して昇降方向下側に位置する全ての踏み板21を所定範囲に含ませるようにしてもよいし、踏み板P以外の全ての踏み板21をも所定範囲に含ませるようにしてもよい。
【0034】
図1中の符号Kは、建物10の住人が携帯している電子キー(スマートキー)を示している。玄関近傍に設置された施解錠制御装置40と電子キーKとは通信可能に構成されており、電子キーKには、その電子キーKを携帯している住人の識別番号が記憶されている。そして、電子キーKから送信された識別番号情報が施解錠制御装置40にて認証されると、玄関ドアの施錠及び解錠が自動で行われる。なお、電子キーKの形態は任意であり、カード型としたり、リストバンド式として人体に装着できるものとしたりすることも可能である。
【0035】
制御装置30には、電子キーKと送受信する通信機器30aが備えられている。電子キーKには、識別番号情報の他に個人情報が記憶されている。制御装置30は識別番号情報及び個人情報を、通信機器30aを介して電子キーKから取得する。個人情報の具体例としては、年齢に関する情報、体重に関する情報、足を怪我している等の健康状態に関する情報等が挙げられる。なお、個人情報は、上述の如くは電子キーKに記憶させてもよいし、識別番号と関連付けて制御装置30に記憶させておいてもよい。
【0036】
制御装置30は、複数の荷重センサ31からの荷重検出結果、及び電子キーKから取得した識別番号情報又は個人情報に基づいて、昇降者が上記転倒過程にあるか否かを判断する。以下、その判断手法について図4を用いて説明する。
【0037】
図4は、荷重センサ31による荷重検出値の時間変化を示すグラフである。実線Lαは、昇降者が階段20を昇る時の標準的な検出値変化を示しており、一方の足を踏み板21に掛けたt0の時点から荷重検出値は上昇を開始する。その後、他方の足が前の段の踏み板21から離れると、一方の足に全体重がかかることに伴い荷重検出値はピーク値Pとなる。ピーク値Pが所定時間T10保持された後、他方の足を次の段の踏み板21に掛けた時点t2で荷重検出値は下降を開始する。その後、一方の足を踏み板21から離して他方の足に全体重をかけた状態になった時点t3で荷重検出値はゼロとなる。
【0038】
当該標準変化Lαは、階段20を昇る場合と降りる場合とでほぼ同じ変化となる。ちなみに、標準変化Lαの場合に比べて昇降者が速く階段20を昇降した場合には、点線L1に示す検出値変化となり、遅く昇降した場合には点線L2に示す検出値変化となる。また、標準変化Lαの場合に比べて昇降者の体重が軽い場合には、点線L3に示す検出値変化となり、重い場合には点線L4に示す検出値変化となる。
【0039】
ここで、階段20を昇る際に踏み板21を踏み外して転倒する場合の典型的なパターンとして、一方の足を踏み板21に掛けた後、その一方の足に全体重を掛けようとしたその瞬間、一方の足を踏み板21から滑らせることにより、踏み外して転倒することが挙げられる。つまり、標準変化Lαにおいて荷重検出値が上昇するt0からt1の期間中に踏み板21を踏み外すこととなる。そして、例えば符号Kに示す時点で踏み外した場合、ピーク値P’が所定時間T10’保持された後、或いは踏み外した時点Kから直ぐに、一点鎖線Lβに示すように荷重検出値は急激に下降することとなる。
【0040】
以上に説明したように、荷重の検出値変化は、踏み板21を踏み外すことなく昇降した場合の変化Lα,L1,L2,L3,L4と踏み外した場合の変化Lβとで大きく相違する。このような相違に基づき制御装置30は踏み外した否か(転倒過程にあるか否か)を判断する。具体的には、荷重センサ31の検出値が、以下の条件1〜条件3のうち少なくとも1つの条件を満たすよう変化している場合に、その荷重センサ31に対応する踏み板21で踏み外したと判断する。
【0041】
<条件1>
条件1は、先述した知見2を鑑みて設定されたものであり、荷重検出値がt0時点にて上昇を開始した後、一点鎖線Lβに示すように予め定めた想定荷重(閾値Pth1)に達することなく下降したことを、転倒過程であるとの条件とする。なお、当該閾値Pth1は、電子キーKから取得した識別番号情報又は個人情報に応じて可変設定する。例えば、図4中のL3に示すように昇降者の体重が標準変化Lαよりも軽い場合には閾値Pth1を小さくするよう設定変更し、L4に示すように体重が重い昇降者である場合には閾値Pth1を大きくするよう設定変更する。
【0042】
<条件2>
条件2は、先述した知見2を鑑みて設定されたものであり、荷重検出値の上昇開始時点t0から下降開始時点t1までの時間T20,T20’が、予め定めた時間(以下、閾値T20thと呼ぶ)よりも短い時間であることを、転倒過程であるとの条件とする。なお、当該閾値T20thは、電子キーKから取得した識別番号情報又は個人情報に応じて可変設定する。例えば、図4中のL1に示すように標準変化Lαよりも日常的に速く階段20を昇降する昇降者である場合には、閾値T20thを小さくするよう設定変更し、L2に示すように日常的に遅く昇降する昇降者である場合には、閾値T20thを大きくするよう設定変更する。
【0043】
<条件3>
条件3は、先述した知見1を鑑みて設定されたものであり、各荷重センサ31のいずれの検出値も予め定めた値(閾値Pth2)以下になった場合に、転倒過程にあると判断する。なお、当該閾値Pth2は先の条件1に係る閾値Pth1よりも小さい値に設定されている。なお、当該閾値Pth2は、電子キーKから取得した識別番号情報又は個人情報に応じて可変設定する。例えば、体重が標準値よりも軽い昇降者である場合には閾値Pth2を小さくするよう設定変更し、標準値よりも重い昇降者である場合には閾値Pth2を大きくするよう設定変更する。
【0044】
以上により、本実施形態によれば、各踏み板21に設置された荷重センサ31からの荷重検出結果、及び昇降者の識別番号情報又は個人情報に基づいて、昇降者が転倒過程にあるか否かを判断することができる。そして、転倒過程にあると判断されると直ぐにエアバッグ装置32が作動して踏み板21を袋体32aで覆う。そのため、踏み板21を踏み外した時点Kから、人体を最初又は数度打ち付けるまでの初期段階(転倒過程)において、人体を踏み板21から保護することができる。
【0045】
また、転倒過程にあるか否かを判断するにあたり、昇降者の識別番号情報又は個人情報に応じて各種閾値Pth1,Pth2,T20thを設定変更するので、昇降者の特性(例えば日常的に昇降する時の速さ、体重、年齢等)に応じて転倒過程判断を精度良くできる。
【0046】
また、エアバッグ装置32の袋体32aには滑り止め機能が備えられているので、転倒過程において人体を保護した後、転倒した体が袋体32a表面で滑ってしまうことを抑制できる。そのため、複数連なって配置された袋体32aの表面を1階フロア11まで滑り落ちてしまう等の状況が回避されやすくなる。
【0047】
また、転倒過程にあると判断された場合に、踏み外した踏み板Pに対応するエアバッグ装置32に加え、その踏み板Pよりも上側に位置する踏み板Q又は踏み板Q,Rに対応するエアバッグ装置32をも作動させるので、踏み板Pを踏み外して最初又は数度目に打ち付ける可能性が高い踏み板P,Q又はP,Q,Rに対して人体を保護できるので、転倒の初期段階(転倒過程)における人体保護の効果を向上できる。また、符号Q又はRよりも上側の踏み板に対応するエアバッグ装置32は作動させないので、必要最小限の範囲についてエアバッグ装置32を作動させることとなる。よって、エアバッグ装置32を再度作動可能な状態にするための作業を軽減できる。
【0048】
[第2の実施形態]
図5は、本実施形態に係る袋体320aの展開形状を示す図である。上記第1の実施形態では、図3に示すように踏み板21の全体を袋体32aで覆うよう袋体32aの展開形状を設定しているのに対し、本実施形態では、図5に示すように踏み板21の開放端21bのみを覆うよう袋体320aの展開形状を設定している。
【0049】
より具体的に説明すると、本実施形態に係る袋体320aの展開形状は、縦断面が略円形となる形状、かつ、踏み板21の長手方向(図3の紙面垂直方向)全体に亘って延びる形状(つまり円柱形状)である。これにより、転倒過程の人体を踏み板21の開放端21bから好適に保護することができ、特に人体の腰を保護するのに好適である。
【0050】
[第3の実施形態]
本実施形態では、図1に示す通報装置30b(通報手段)が備えられている。この通報装置30bは、制御装置30により転倒過程にあると判断された場合、又はエアバッグ装置32が作動された場合に、住人が階段20で転倒した旨を建物10の外部に自動で通報するものである。
【0051】
これによれば、例えば、要介助の老人が建物10に独りでいる場合において、その老人が階段20で転倒して骨折等の怪我をした場合であっても、介助者にその旨を自動で通報することができるので、転倒後の初期治療等を迅速に行うことの助けとなる。
【0052】
[他の実施形態]
本発明は以上説明した実施の形態に限らず、例えば以下に別例として示した形態で実施することもできる。そして、以下に説明する各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0053】
・制御装置30(方向判定手段)は、複数の荷重センサ31からの荷重検出結果に基づいて、複数の踏み板21に対して荷重が付与された順序を検出し、その検出結果に基づいて、階段20を昇降する人の昇降方向を判定する。そして、進行方向がいずれであるかの判定結果に応じて、転倒過程判断に用いる各種閾値Pth1,Pth2,T20thを設定変更する。また、前記判定結果に応じて、いずれの範囲のエアバッグ装置32を作動させるかを変更させるようにしてもよい。
【0054】
・上記実施形態では、各種条件1〜3のうち少なくとも1つの条件を満たす場合に転倒過程にあると判断しているが、全ての条件を満たした場合に転倒過程にあると判断してもよいし、任意に組み合わせた条件を満たした場合に転倒過程にあると判断してもよい。
【0055】
・一点鎖線Lβに示すように、踏み外した場合には荷重のピーク値Pが保持される時間T10が極めて短くなる。又は保持時間がなくなる。そこで、ピーク値Pの保持時間が予め設定された時間より短いことを、転倒過程であるとの条件として上記条件1〜3に加えるようにしてもよい。
【0056】
・個人情報に応じて、エアバッグ装置32の作動を禁止するようにしてもよい。例えば、昇降者が子供である場合には、転倒していない場合であっても荷重検出値の時間変化が不規則になりやすいので、転倒過程を誤判断する可能性の高い昇降者の識別番号を予め設定しておき、当該昇降者の場合にはエアバッグ装置32の作動を禁止するようにして好適である。また、老人等、人体保護の必要性の高い昇降者を予め設定しておき、当該昇降者の場合にのみエアバッグ装置32の作動を許可するようにしてもよい。
【0057】
・個人情報に、その住人の健康状態(例えば片足負傷等の状態)を含ませ、その健康状態に応じて各種閾値Pth1,Pth2,T20thを設定変更するようにしてもよい。
【0058】
・エアバッグ装置32の取り付け場所は踏み板21に限らず、例えば蹴込み板23や側板22であってもよい。また、図3に示す実施形態では、貫通穴21aを踏み板21に形成することで、踏み板21から袋体32aが展開するよう構成しているが、例えば蹴込み板23や側板22から袋体32aが展開するよう構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る階段安全装置が適用される建物の概略を示す図。
【図2】図1に示す階段の縦断面図。
【図3】エアバッグ装置が作動した状態を示す階段の縦断面図。
【図4】図1に示す荷重センサの検出値の時間変化を示すグラフ。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るエアバッグ装置が作動した状態を示す階段の縦断面図。
【符号の説明】
【0060】
10…建物、11…1階フロア(下階)、12…2階フロア(上階)、20…階段、21…踏み板、30…制御装置(判断手段、制御手段、方向判定手段)、30b…通報装置(通報手段)、31…荷重センサ(荷重検出手段)、32…エアバッグ装置(保護手段)、32a,320a…袋体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
階段における各踏み板に人体から付与される荷重を検出する荷重検出手段と、
前記荷重検出手段からの荷重検出結果に基づいて、前記踏み板からの踏み外しによって転倒過程にあるか否かの判断を行う判断手段と、
前記踏み板を踏み外して転倒する人間を保護する保護手段と、
前記判断手段により転倒過程にあると判断された時に、前記保護手段を作動させるよう制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする階段安全装置。
【請求項2】
前記判断手段は、前記各踏み板のうち所定の複数の踏み板に付与される荷重がいずれも予め定めた値以下になった場合に、前記転倒過程にあると判断することを特徴とする請求項1に記載の階段安全装置。
【請求項3】
前記判断手段は、前記各踏み板のうち所定の踏み板についての前記荷重検出結果が上昇を開始した後、予め定めた想定荷重に達することなく下降した場合に、前記転倒過程にあると判断することを特徴とする請求項1に記載の階段安全装置。
【請求項4】
前記判断手段は、前記各踏み板のうち所定の踏み板についての前記荷重検出結果が上昇を開始した後、予め定めた時間よりも短い時間で下降を開始した場合に、前記転倒過程にあると判断することを特徴とする請求項1に記載の階段安全装置。
【請求項5】
前記複数の踏み板に対して荷重の付与される順序に基づいて、前記階段を昇降する人の昇降方向を判定する方向判定手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の階段安全装置。
【請求項6】
複数の人間の個人情報が登録された個人情報登録手段と、
前記階段を昇降する人間が前記登録手段に登録された人間のいずれであるかを識別する識別手段と、
を備え、
前記識別手段により識別された人間が前記階段を昇降する場合、前記判断手段は、前記識別手段により識別された人間の前記個人情報に応じて前記転倒過程にあるか否かを判断することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の階段安全装置。
【請求項7】
前記保護手段は、1又は複数の踏み板の範囲で作動する保護部材を昇降方向に複数備えて構成されており、
前記制御手段は、前記判断手段が踏み外したと判断した踏み板を含む所定範囲の前記保護部材を作動させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の階段安全装置。
【請求項8】
前記所定範囲は、前記判断手段が踏み外したと判断した踏み板よりも、昇降方向上側の1又は複数の踏み板を含む範囲であることを特徴とする請求項7に記載の階段安全装置。
【請求項9】
前記保護手段は、作動時に膨張展開する袋体を有したエアバッグ装置であり、
前記袋体の表面には、保護対象となる人間が滑り落ちないよう機能する滑り止め機能が備えられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の階段安全装置。
【請求項10】
前記判断手段により転倒過程にあると判断された場合、又は前記制御手段により前記保護手段が作動された場合に、転倒の発生を通報する通報手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の階段安全装置。
【請求項11】
上階及び下階と、
これら上階及び下階を行き来するための階段と、
請求項1〜10のいずれか1つに記載の階段安全装置と、
を備えることを特徴とする建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−102815(P2009−102815A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273373(P2007−273373)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】