階段状表面を有する部材の製造方法及びその部材
【課題】 階段状側面に対向する面を平坦にすることが可能な階段状側面を有する部材の製造方法を提供する。
【解決手段】 基板の表層部を、該基板の主表面からエッチングすることにより、少なくとも一方の側面が階段状になった溝または尾根状部分を形成する。この溝または尾根状部分の側面を覆うように、基板の主表面上に被覆膜を形成する。溝の階段状の側面が露出するように被覆膜をパターニングする。この被覆膜の残された部分が、階段状の側面とは反対側の側面を覆い、かつ主表面に対して交差する表面を有する。
【解決手段】 基板の表層部を、該基板の主表面からエッチングすることにより、少なくとも一方の側面が階段状になった溝または尾根状部分を形成する。この溝または尾根状部分の側面を覆うように、基板の主表面上に被覆膜を形成する。溝の階段状の側面が露出するように被覆膜をパターニングする。この被覆膜の残された部分が、階段状の側面とは反対側の側面を覆い、かつ主表面に対して交差する表面を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階段状表面を有する部材の製造方法及びその部材であって、特に階段状の回折格子等の微細構造を有する部材の製造に適した方法及び回折格子に適用可能な部材に関する。
【背景技術】
【0002】
回折格子は、対象とする光の波長オーダの微細構造を有する。光学部材に階段状の側面を有する複数の溝を形成した回折格子が知られている。この回折格子においては、波長分解能を高めるために、階段状の側面の段差に、高い精度が要求される。各種プラズマを用いたドライエッチングにより、ガラス等の光学部材の微細加工を行うことにより、階段状の側面を有する溝を形成することができる。ところが、エッチング時間を制御することにより所望の高さの段差を形成する方法では、十分な精度が得られない。
【0003】
下記の特許文献1に、段差を高精度に制御することができる回折格子の製造方法が開示されている。以下、特許文献1に開示された方法について、簡単に説明する。
【0004】
エッチングガスに対して反応性の異なる2種類の材料を、膜厚を十分に制御して基板上に交互に積層する。この積層構造に対し、フォトリソグラフィ技術を用いてエッチングを行うことにより、階段状の回折格子が作製される。段差の精度が成膜時の膜厚に依存し、エッチング時間には依存しないため、段差精度を高めることができる。
【0005】
ところが、パターニングを3回程度重ねて行うと、アライメントずれに起因して、階段状の側面に向かい合う側の側面が裾を引く形状になる。このため、側面が溝の底面に対して垂直に切り立った形状にならない。
【0006】
特許文献2及び3に、垂直に切り立った側面を形成することができる回折格子の製造方法が開示されている。
【0007】
図20(A)〜図20(D)を参照して、特許文献2に開示された回折格子の製造方法について説明する。
【0008】
図20(A)に示すように、シリコン基板100の上に、Cr2O3からなるエッチングストッパ層101を形成する。その上に、アルミナ層103と酸化シリコン層104とを、交互に3組積層する。最上の酸化シリコン層104の上に、レジストパターン110を形成する。レジストパターン110には、形成すべき溝の最も深い領域に対応する開口が形成されている。レジストパターン110をマスクとして、エッチングストッパ層101に達するまで、酸化シリコン層104とアルミナ層103とをエッチングする。これにより、溝112が形成される。エッチング後、レジストパターン110を除去する。溝112の一方の側面112aが、階段状側面に向き合う垂直な側面を構成する。
【0009】
図20(B)に示すように、基板上にレジストパターン115を形成する。レジストパターン115は、積層構造の最も上の一組の層をエッチングするための開口を有する。また、レジストパターン115は、階段状側面に向き合う垂直な側面を覆う。レジストパターン115をマスクとして、最も上の一組の層をエッチングする。エッチング後、レジストパターン115を除去する。
【0010】
図20(C)に示すように、レジストパターン116を形成する。レジストパターン116は、積層構造の上から2番目の一組の層をエッチングするための開口を有する。また、レジストパターン116は、階段状側面に向き合う垂直な側面を覆う。レジストパターン116をマスクとして、上から2番目の一組の層をエッチングする。エッチング後、レジストパターン116を除去する。
【0011】
このようにして、3段構成の階段状側面を有する溝が形成される。階段状側面に向き合う側面は、図20(A)のエッチング工程で形成され、その後のエッチング工程では、レジストパターンで覆われる。このため、アライメントずれに起因する不都合は生じない。
【0012】
図21(A)〜図21(D)を参照して、特許文献3に開示された回折格子の製造方法について説明する。
【0013】
図21(A)に示すように、シリコン基板120の上に、アルミナ層121と酸化シリコン層122とを交互に3組積層する。最上の酸化シリコン層122の上に、クロム膜123を形成する。
【0014】
図21(B)に示すように、クロム膜123の上に、レジストパターン124を形成する。レジストパターン124に、形成すべき溝に対応する開口が形成されている。レジストパターン124をマスクとして、クロム膜123及び最も上の酸化シリコン層122をエッチングする。酸化シリコン層122の露出した端面の一方が階段状側面の蹴上げ面になる。エッチング後、レジストパターン124を除去する。
【0015】
図21(C)に示すように、レジストパターン125を形成する。レジストパターン125は、溝の階段状側面の蹴上げ面、その蹴上げ面に連続するテラス領域、及びクロム膜123のうち蹴上げ面に接する一部の領域を覆う。レジストパターン125及びクロム膜123をマスクとして、最上のアルミナ層121及び上から2番目の酸化シリコン層122をエッチングする。エッチング後、レジストパターン125を除去する。
【0016】
同様の方法で、上から2番目のアルミナ層121及び最も下の酸化シリコン層122をエッチングすることにより、図21(D)に示す3段の階段構造を形成する。
【0017】
この方法では、階段状側面に対向する側面は、クロム膜123の縁により画定される。このため、図21(C)の工程及びそれ以降の工程でレジストパターンのアライメントずれが生じたとしても、垂直に切り立った側面への影響が回避される。
【0018】
【特許文献1】特開平6−258510号公報
【特許文献2】特開2000−155207号公報
【特許文献3】特開2000−303193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献2及び3に記載された方法では、階段状側面に対向する垂直な面は、レジストパターンのアライメントずれの影響を受けない。ところが、垂直な面には、材料の異なる2種類の層が露出している。この2種類の層のエッチング特性の相違によって、凹凸が形成される場合がある。
【0020】
本発明の目的は、階段状側面に対向する面を平坦にすることが可能な階段状側面を有する部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一観点によると、(a)基板の表層部を、該基板の主表面からエッチングすることにより、少なくとも一方の側面が階段状になった溝または尾根状部分を形成する工程と、(b)前記溝または尾根状部分の両側の側面が被覆されるように、前記基板の主表面上に被覆膜を形成する工程と、(c)前記溝または尾根状部分の階段状の側面が露出するように前記被覆膜をパターニングする工程であって、該被覆膜の残された部分が、前記階段状の側面とは反対側の側面を覆い、かつ主表面に対して交差する表面を有するようにパターニングする工程とを有する階段状表面を有する部材の製造方法が提供される。
【0022】
上記方法により、下記の部材を作製することができる。
【0023】
本発明の他の観点によると、基板と、前記基板の表層部に形成され、第1の側面と第2の側面とで画定される溝状または尾根状の形状を有し、該第1の側面が階段状になり、該第2の側面が凹部を有する構造体と、前記構造体の前記第2の側面を覆い、該第2の側面よりも平坦な側面を画定する被覆膜とを有する部材が提供される。
【発明の効果】
【0024】
階段状側面に対向する側面が、被覆膜をパターニングすることにより形成される表面で構成される。このため、階段状側面を形成する時の種々の工程の影響を受けることなく、平坦な側面を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1に、実施例による方法で製造される回折格子の部分斜視図を示す。樹脂製の光学部材1の主表面に、相互に平行な複数の溝2が形成されている。溝2の一方の側面は階段状にされ、階段状の側面に対向する側面は、主表面に対してほぼ垂直に切り立った面とされている。複数の溝2の階段状の側面は、すべて同一方向を向く。
【0026】
図2〜図17を参照して、図1に示した回折格子の製造方法について説明する。図2〜図17は、1本の溝が形成される部分の断面に相当する。
【0027】
図2に示すように、シリコンからなる支持基板10の表面上に、酸化シリコンからなる第1の層11、13、15及びシリコンからなる第2の層12、14、16を、交互に積層する。各層11〜16の厚さは、例えば1.5μm±10nmである。これらの層は、スパッタリングにより形成することができる。合計6層の交互積層構造が形成された積層基板20が得られる。最も上の第2の層16の表面を、積層基板20の「主表面」と呼ぶこととする。
【0028】
図3に示すように、積層基板20の主表面上に、レジストパターン21を形成する。レジストパターン21には、図1に示した溝の開口部に対応する開口21aが形成されている。すなわち、レジストパターン21は、溝2の開口部以外の領域を覆う。レジストパターン21は、周知のフォトリソグラフィ技術により形成される。
【0029】
図4に示すように、レジストパターン21をマスクとして、最も上の第2の層16をエッチングする。第2の層のエッチングは、例えばエッチングガスとしてSF6を用いたドライエッチングにより行うことができる。この条件で、シリコンのエッチングレートと酸化シリコンのエッチングレートとの比は、100:1以上である。このため、最も上の第2の層16がエッチングされ、その下に第1の層15が露出した時点で、再現性よくエッチングを停止させることができる。第2の層16をエッチングした後、レジストパターン21を除去する。
【0030】
第2の層16の露出した端面のうち一方の端面16a(図4において左側の端面)が、溝の階段状側面の最も上の段の蹴上げ面になる。
【0031】
図5に示すように、積層基板20の上に、新たにレジストパターン25を形成する。レジストパターン25は、既に形成された蹴上げ面16aに連続するテラスとなる領域を覆う。蹴上げ面16aに対向する側の端面においては、レジストパターン25の縁が、既にパターニングされている第2の層16の縁にほぼ一致する。
【0032】
図6に示すように、レジストパターン25をマスクとして、上から2層面の第1の層15をエッチングする。酸化シリコンからなる第1の層15のエッチングは、弗酸を用いたウェットエッチングにより行う。このエッチング条件では、酸化シリコンのエッチングレートとシリコンのエッチングレートとの比が100:1以上になる。このため、上から3層目の第2の層14が露出した時点で、再現性よくエッチングを停止させることができる。
【0033】
ウェットエッチングでは、ドライエッチングに比べて等方的にエッチングが進む。このため、サイドエッチングが生じ、エッチングされた第1の層15の端面が、レジストパターン25の縁よりも後退する。このため、レジストパターン25は、このサイドエッチングの量を考慮した平面形状にされている。図6の左側に形成された端面15aが、上から2番目の段の蹴上げ面になる。第1の層15のエッチング後、レジストパターン25を除去する。
【0034】
図7に示すように、レジストパターン26を形成する。レジストパターン26は、溝の開口部以外の領域、及び既に形成されている階段状の側面を覆うとともに、蹴上げ面15aに連続するテラスとなるべき領域を覆う。レジストパターン26をマスクとして、上から3層面の第2の層14をエッチングし、上から3段目の蹴上げ面14aを形成する。エッチングされた開口部の底面に、第1の層13の表面の一部が露出する。第2の層14のエッチング後、レジストパターン26を除去する。最も下の第1の層11がエッチングされるまで、同様の工程を繰り返す。
【0035】
図8に、最も下の第1の層11までエッチングが進んだ状態の断面図を示す。階段状の側面30に対向する側面31において、第1の層11、13、15は、酸化シリコンのエッチング雰囲気に晒される度にサイドエッチングが進む。このため、第1の層11、13、15の端面が、第2の層12、14、16の端面よりも後退する。シリコンからなる第2の層12、14、16は、異方性の強いドライエッチングによりエッチングされるため、その端面はほとんどサイドエッチングされない。
【0036】
図9に示すように積層基板20上にX線露光用レジスト膜35を、例えばスピンコート法により形成する。X線露光用レジスト膜35は、階段状の側面30及びそれに対向する側面31で挟まれた溝内に充填される。さらに、第1の層11、13、15がサイドエッチングされることによって形成された凹部内にも充填される。側面31が、スピンコート時に生ずるレジスト材料の流れの上流側を向くようにしてレジスト材料を塗布することにより、側面31に形成されている凹部内に再現性よくレジスト膜35を充填することができる。
【0037】
図10に示すように、レジスト膜35をX線で露光し、現像することにより、レジストパターン35Aを得る。レジストパターン35Aは、階段状の側面30を露出させると共に、それに対向する側面31を覆う。側面31を覆う部分は、主表面と交差する側面36を有する。X線による露光条件を好適化すると、主表面に対してほぼ垂直に切り立った側面36を得ることができる。側面36は、レジストパターン35Aで覆う前に露出していた側面31よりも平坦になる。
【0038】
図11に示すように、レジストパターン35Aのうち、第2の層16の上面(主表面)よりも上に堆積している部分を研磨して除去する。側面31を覆う部分にのみレジストパターン35Aが残る。この研磨には、例えば化学機械研磨(CMP)が用いられる。レジストパターン35Aが、側面31に形成されている凹部内に充填されているため、研磨時にレジストパターン35Aが基板から脱落することを防止できる。
【0039】
図12に示すように、加工された積層基板20の表面上に、電鋳によりニッケル等の金属膜40を形成する。金属膜40を積層基板20から引き剥がし、図13に示す金属膜40を得る。金属膜40の表面には、積層基板20に形成されていた溝に対応する尾根状部分45が形成される。尾根状部分45は、積層基板20の表面に形成されていた階段状斜面30及び垂直に切り立った側面36に対応する階段状斜面41及び垂直面42を有する。
【0040】
図14に示すように、金属膜40を金型として用い、樹脂部材1の表面に、尾根状部分45の微細構造を転写する。
【0041】
図15に示すように、樹脂製の光学部材1が得られる。光学部材1の表面には、尾根状部分45に対応する溝2が形成されている。溝2の一方の側面2aは階段状の形状を有し、他方の側面2bは、光学部材1の表面に対してほぼ垂直に切り立った平坦な面になる。ほぼ垂直な側面2bは、図10に示したX線露光及び現像により形成される側面36の垂直度及び平坦度を引き継ぐ。X線露光を採用することにより、垂直度及び平坦度に優れた側面36を形成することができるため、最終製品である回折格子の溝の側面2bも、垂直度及び平坦度の優れた面になる。なお、X線露光の代わりに、電子ビーム露光を用いてもよい。
【0042】
上記実施例では、図5及び図7に示したように、階段状側面に対向する側面の位置において、レジストパターン25や26のアライメントずれがほとんど生じない理想的な場合を想定した。ところが、実際のフォトリソグラフィ工程においては、アライメントずれを完全になくすことはできない。上記実施例では、最終製品である回折格子に転写される面は、図8に示した積層構造の側面31ではなく、図11に示したレジストパターン35Aの側面36である。このため、アライメントずれは、回折格子の微細構造に影響を与えない。
【0043】
ところが、アライメントずれが生じると、製造途中に不都合が生じやすくなる。次に、図16及び図17を参照して、アライメントずれが生じた場合の不都合な点について説明する。図16及び図17は、上記実施例の図5及び図6に示した工程に対応する。
【0044】
図16に示すように、右側のレジストパターン25が図の左側にずれて、第2の層16の端面を被覆してしまった場合を考える。レジストパターン25をマスクとして第1の層15をエッチングする。
【0045】
図17に示すように、サイドエッチングが生じることにより、第1の層15の縁が、レジストパターン25の縁よりも後退する。しかし、レジストパターン25の縁が第2の層16の縁よりも突出しているため、第1の層15の縁が、第2の層16の縁よりも後退するとは限らない。
【0046】
その後のエッチング工程でも、レジストパターンが、階段状側面に対向する側面を被覆してしまうようなアライメントずれが生じると、第1の層11、13、15のサイドエッチングが進まない。このため、図8に示したような側面31の凹部が形成されない。凹部が形成されない場合には、図11に示した研磨工程で、レジストパターン35Aが基板から脱離しやすくなる。
【0047】
次に、図18及び図19を参照して、アライメントずれが生じても、レジストパターン35Aの脱離が生じにくい実施例について説明する。図18及び図19は、それぞれ上記実施例の図5及び図6に示した工程に対応する。
【0048】
図18に示すように、図中の右側のレジストパターン25の縁が、既にパターニングされている第2の層16の縁よりもやや後退するように、マスクパターンを設計しておく。このように設計しておくと、アライメントずれが生じたとしても、レジストパターン25が第2の層16の端面を覆ってしまうことを防止できる。
【0049】
図19に示すように、レジストパターン25をマスクとして第1の層15をエッチングする。サイドエッチングが生じることにより、第1の層15の縁が第2の層16の縁よりも後退する。
【0050】
その後の第1の層13及び11をエッチングするときのレジストパターンについても、その縁が第2の層16の縁よりも後退するようにマスクパターンを設計しておく。このように、サイドエッチングしやすい条件でエッチングするときに用いるレジストパターンの縁を、最も上の第2の層16の縁よりも後退させることにより、アライメントずれが生じても、図8に示したように、側面31にサイドエッチングによる凹部を形成することができる。
【0051】
上記実施例では、第1の層11、13、15を酸化シリコンで形成し、第2の層12、14、16をシリコンで形成したが、相互にエッチング特性の異なる材料であれば、その他の材料の組合せとしてもよい。例えば、アルミナと酸化シリコン、酸化シリコンと窒化シリコン等の組み合わせとしてもよい。図8に示した側面31に積極的に凹部を形成するために、第1の層及び第2の層の一方の層のエッチング条件が、他方の層のエッチング条件よりもサイドエッチングしやすい条件でエッチングすることが好ましい。
【0052】
上記実施例では、図11に示した微細加工後の積層基板から、成形用の金型を作製したが、図11に示した微細加工後の積層基板20の加工された表面に、薄く金属層を蒸着し、積層基板20自体を回折格子として使用することも可能である。
【0053】
また、上記実施例では、図1に示すように、各溝2の一方の側面が階段状にされ、他方の側面がほぼ垂直に切り立った形状にされていた。両側の側面が階段状にされた溝と、両側の側面が切り立った形状の溝とを交互に配置する場合にも、上記実施例の方法を適用することにより、切り立った形状の側面を容易に形成することができる。この構造では、一方の側面が階段状にされ、他方の側面が切り立った形状にされた尾根状の複数の構造体が、平行に配置されていると考えることができる。この構造では、相互に隣り合う尾根状構造体の階段状側面同士が向き合い、切り立った側面同士が向き合うことになる。
【0054】
また、上記実施例では、図1に示すように、溝2を直線状に配置することによって回折格子を作製したが、溝2を円周に沿って配置することにより、フレネルレンズを作製することも可能である。
【0055】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例による方法で作製される回折格子の部分斜視図である。
【図2】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その1)である。
【図3】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その2)である。
【図4】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その3)である。
【図5】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その4)である。
【図6】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その5)である。
【図7】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その6)である。
【図8】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その7)である。
【図9】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その8)である。
【図10】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その9)である。
【図11】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その10)である。
【図12】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その11)である。
【図13】実施例による回折格子を製造する金型の断面図である。
【図14】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための金型及び光学部材の断面図である。
【図15】実施例による方法で製造した回折格子の断面図である。
【図16】アライメントずれが生じた時の不都合を説明するための工程途中の基板の断面図(その1)である。
【図17】アライメントずれが生じた時の不都合を説明するための工程途中の基板の断面図(その2)である。
【図18】アライメントずれが生じても不都合の生じない実施例を説明するための工程途中の基板の断面図(その1)である。
【図19】アライメントずれが生じても不都合の生じない実施例を説明するための工程途中の基板の断面図(その2)である。
【図20】従来の回折格子の製造方法を説明するための製造途中の基板の断面図である。
【図21】従来の回折格子の他の製造方法を説明するための製造途中の基板の断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 回折格子
2 溝
2a 階段状の側面
2b 階段状側面に対向する側面
10 支持基板
11、13、15 酸化シリコンの第1の層
12、14、16 シリコンの第2の層
20 積層基板
21、25、26 レジストパターン
30 階段状の側面
31 階段状側面に対向する側面
35 レジスト膜
36 側面
40 金属膜(金型)
【技術分野】
【0001】
本発明は、階段状表面を有する部材の製造方法及びその部材であって、特に階段状の回折格子等の微細構造を有する部材の製造に適した方法及び回折格子に適用可能な部材に関する。
【背景技術】
【0002】
回折格子は、対象とする光の波長オーダの微細構造を有する。光学部材に階段状の側面を有する複数の溝を形成した回折格子が知られている。この回折格子においては、波長分解能を高めるために、階段状の側面の段差に、高い精度が要求される。各種プラズマを用いたドライエッチングにより、ガラス等の光学部材の微細加工を行うことにより、階段状の側面を有する溝を形成することができる。ところが、エッチング時間を制御することにより所望の高さの段差を形成する方法では、十分な精度が得られない。
【0003】
下記の特許文献1に、段差を高精度に制御することができる回折格子の製造方法が開示されている。以下、特許文献1に開示された方法について、簡単に説明する。
【0004】
エッチングガスに対して反応性の異なる2種類の材料を、膜厚を十分に制御して基板上に交互に積層する。この積層構造に対し、フォトリソグラフィ技術を用いてエッチングを行うことにより、階段状の回折格子が作製される。段差の精度が成膜時の膜厚に依存し、エッチング時間には依存しないため、段差精度を高めることができる。
【0005】
ところが、パターニングを3回程度重ねて行うと、アライメントずれに起因して、階段状の側面に向かい合う側の側面が裾を引く形状になる。このため、側面が溝の底面に対して垂直に切り立った形状にならない。
【0006】
特許文献2及び3に、垂直に切り立った側面を形成することができる回折格子の製造方法が開示されている。
【0007】
図20(A)〜図20(D)を参照して、特許文献2に開示された回折格子の製造方法について説明する。
【0008】
図20(A)に示すように、シリコン基板100の上に、Cr2O3からなるエッチングストッパ層101を形成する。その上に、アルミナ層103と酸化シリコン層104とを、交互に3組積層する。最上の酸化シリコン層104の上に、レジストパターン110を形成する。レジストパターン110には、形成すべき溝の最も深い領域に対応する開口が形成されている。レジストパターン110をマスクとして、エッチングストッパ層101に達するまで、酸化シリコン層104とアルミナ層103とをエッチングする。これにより、溝112が形成される。エッチング後、レジストパターン110を除去する。溝112の一方の側面112aが、階段状側面に向き合う垂直な側面を構成する。
【0009】
図20(B)に示すように、基板上にレジストパターン115を形成する。レジストパターン115は、積層構造の最も上の一組の層をエッチングするための開口を有する。また、レジストパターン115は、階段状側面に向き合う垂直な側面を覆う。レジストパターン115をマスクとして、最も上の一組の層をエッチングする。エッチング後、レジストパターン115を除去する。
【0010】
図20(C)に示すように、レジストパターン116を形成する。レジストパターン116は、積層構造の上から2番目の一組の層をエッチングするための開口を有する。また、レジストパターン116は、階段状側面に向き合う垂直な側面を覆う。レジストパターン116をマスクとして、上から2番目の一組の層をエッチングする。エッチング後、レジストパターン116を除去する。
【0011】
このようにして、3段構成の階段状側面を有する溝が形成される。階段状側面に向き合う側面は、図20(A)のエッチング工程で形成され、その後のエッチング工程では、レジストパターンで覆われる。このため、アライメントずれに起因する不都合は生じない。
【0012】
図21(A)〜図21(D)を参照して、特許文献3に開示された回折格子の製造方法について説明する。
【0013】
図21(A)に示すように、シリコン基板120の上に、アルミナ層121と酸化シリコン層122とを交互に3組積層する。最上の酸化シリコン層122の上に、クロム膜123を形成する。
【0014】
図21(B)に示すように、クロム膜123の上に、レジストパターン124を形成する。レジストパターン124に、形成すべき溝に対応する開口が形成されている。レジストパターン124をマスクとして、クロム膜123及び最も上の酸化シリコン層122をエッチングする。酸化シリコン層122の露出した端面の一方が階段状側面の蹴上げ面になる。エッチング後、レジストパターン124を除去する。
【0015】
図21(C)に示すように、レジストパターン125を形成する。レジストパターン125は、溝の階段状側面の蹴上げ面、その蹴上げ面に連続するテラス領域、及びクロム膜123のうち蹴上げ面に接する一部の領域を覆う。レジストパターン125及びクロム膜123をマスクとして、最上のアルミナ層121及び上から2番目の酸化シリコン層122をエッチングする。エッチング後、レジストパターン125を除去する。
【0016】
同様の方法で、上から2番目のアルミナ層121及び最も下の酸化シリコン層122をエッチングすることにより、図21(D)に示す3段の階段構造を形成する。
【0017】
この方法では、階段状側面に対向する側面は、クロム膜123の縁により画定される。このため、図21(C)の工程及びそれ以降の工程でレジストパターンのアライメントずれが生じたとしても、垂直に切り立った側面への影響が回避される。
【0018】
【特許文献1】特開平6−258510号公報
【特許文献2】特開2000−155207号公報
【特許文献3】特開2000−303193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献2及び3に記載された方法では、階段状側面に対向する垂直な面は、レジストパターンのアライメントずれの影響を受けない。ところが、垂直な面には、材料の異なる2種類の層が露出している。この2種類の層のエッチング特性の相違によって、凹凸が形成される場合がある。
【0020】
本発明の目的は、階段状側面に対向する面を平坦にすることが可能な階段状側面を有する部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一観点によると、(a)基板の表層部を、該基板の主表面からエッチングすることにより、少なくとも一方の側面が階段状になった溝または尾根状部分を形成する工程と、(b)前記溝または尾根状部分の両側の側面が被覆されるように、前記基板の主表面上に被覆膜を形成する工程と、(c)前記溝または尾根状部分の階段状の側面が露出するように前記被覆膜をパターニングする工程であって、該被覆膜の残された部分が、前記階段状の側面とは反対側の側面を覆い、かつ主表面に対して交差する表面を有するようにパターニングする工程とを有する階段状表面を有する部材の製造方法が提供される。
【0022】
上記方法により、下記の部材を作製することができる。
【0023】
本発明の他の観点によると、基板と、前記基板の表層部に形成され、第1の側面と第2の側面とで画定される溝状または尾根状の形状を有し、該第1の側面が階段状になり、該第2の側面が凹部を有する構造体と、前記構造体の前記第2の側面を覆い、該第2の側面よりも平坦な側面を画定する被覆膜とを有する部材が提供される。
【発明の効果】
【0024】
階段状側面に対向する側面が、被覆膜をパターニングすることにより形成される表面で構成される。このため、階段状側面を形成する時の種々の工程の影響を受けることなく、平坦な側面を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1に、実施例による方法で製造される回折格子の部分斜視図を示す。樹脂製の光学部材1の主表面に、相互に平行な複数の溝2が形成されている。溝2の一方の側面は階段状にされ、階段状の側面に対向する側面は、主表面に対してほぼ垂直に切り立った面とされている。複数の溝2の階段状の側面は、すべて同一方向を向く。
【0026】
図2〜図17を参照して、図1に示した回折格子の製造方法について説明する。図2〜図17は、1本の溝が形成される部分の断面に相当する。
【0027】
図2に示すように、シリコンからなる支持基板10の表面上に、酸化シリコンからなる第1の層11、13、15及びシリコンからなる第2の層12、14、16を、交互に積層する。各層11〜16の厚さは、例えば1.5μm±10nmである。これらの層は、スパッタリングにより形成することができる。合計6層の交互積層構造が形成された積層基板20が得られる。最も上の第2の層16の表面を、積層基板20の「主表面」と呼ぶこととする。
【0028】
図3に示すように、積層基板20の主表面上に、レジストパターン21を形成する。レジストパターン21には、図1に示した溝の開口部に対応する開口21aが形成されている。すなわち、レジストパターン21は、溝2の開口部以外の領域を覆う。レジストパターン21は、周知のフォトリソグラフィ技術により形成される。
【0029】
図4に示すように、レジストパターン21をマスクとして、最も上の第2の層16をエッチングする。第2の層のエッチングは、例えばエッチングガスとしてSF6を用いたドライエッチングにより行うことができる。この条件で、シリコンのエッチングレートと酸化シリコンのエッチングレートとの比は、100:1以上である。このため、最も上の第2の層16がエッチングされ、その下に第1の層15が露出した時点で、再現性よくエッチングを停止させることができる。第2の層16をエッチングした後、レジストパターン21を除去する。
【0030】
第2の層16の露出した端面のうち一方の端面16a(図4において左側の端面)が、溝の階段状側面の最も上の段の蹴上げ面になる。
【0031】
図5に示すように、積層基板20の上に、新たにレジストパターン25を形成する。レジストパターン25は、既に形成された蹴上げ面16aに連続するテラスとなる領域を覆う。蹴上げ面16aに対向する側の端面においては、レジストパターン25の縁が、既にパターニングされている第2の層16の縁にほぼ一致する。
【0032】
図6に示すように、レジストパターン25をマスクとして、上から2層面の第1の層15をエッチングする。酸化シリコンからなる第1の層15のエッチングは、弗酸を用いたウェットエッチングにより行う。このエッチング条件では、酸化シリコンのエッチングレートとシリコンのエッチングレートとの比が100:1以上になる。このため、上から3層目の第2の層14が露出した時点で、再現性よくエッチングを停止させることができる。
【0033】
ウェットエッチングでは、ドライエッチングに比べて等方的にエッチングが進む。このため、サイドエッチングが生じ、エッチングされた第1の層15の端面が、レジストパターン25の縁よりも後退する。このため、レジストパターン25は、このサイドエッチングの量を考慮した平面形状にされている。図6の左側に形成された端面15aが、上から2番目の段の蹴上げ面になる。第1の層15のエッチング後、レジストパターン25を除去する。
【0034】
図7に示すように、レジストパターン26を形成する。レジストパターン26は、溝の開口部以外の領域、及び既に形成されている階段状の側面を覆うとともに、蹴上げ面15aに連続するテラスとなるべき領域を覆う。レジストパターン26をマスクとして、上から3層面の第2の層14をエッチングし、上から3段目の蹴上げ面14aを形成する。エッチングされた開口部の底面に、第1の層13の表面の一部が露出する。第2の層14のエッチング後、レジストパターン26を除去する。最も下の第1の層11がエッチングされるまで、同様の工程を繰り返す。
【0035】
図8に、最も下の第1の層11までエッチングが進んだ状態の断面図を示す。階段状の側面30に対向する側面31において、第1の層11、13、15は、酸化シリコンのエッチング雰囲気に晒される度にサイドエッチングが進む。このため、第1の層11、13、15の端面が、第2の層12、14、16の端面よりも後退する。シリコンからなる第2の層12、14、16は、異方性の強いドライエッチングによりエッチングされるため、その端面はほとんどサイドエッチングされない。
【0036】
図9に示すように積層基板20上にX線露光用レジスト膜35を、例えばスピンコート法により形成する。X線露光用レジスト膜35は、階段状の側面30及びそれに対向する側面31で挟まれた溝内に充填される。さらに、第1の層11、13、15がサイドエッチングされることによって形成された凹部内にも充填される。側面31が、スピンコート時に生ずるレジスト材料の流れの上流側を向くようにしてレジスト材料を塗布することにより、側面31に形成されている凹部内に再現性よくレジスト膜35を充填することができる。
【0037】
図10に示すように、レジスト膜35をX線で露光し、現像することにより、レジストパターン35Aを得る。レジストパターン35Aは、階段状の側面30を露出させると共に、それに対向する側面31を覆う。側面31を覆う部分は、主表面と交差する側面36を有する。X線による露光条件を好適化すると、主表面に対してほぼ垂直に切り立った側面36を得ることができる。側面36は、レジストパターン35Aで覆う前に露出していた側面31よりも平坦になる。
【0038】
図11に示すように、レジストパターン35Aのうち、第2の層16の上面(主表面)よりも上に堆積している部分を研磨して除去する。側面31を覆う部分にのみレジストパターン35Aが残る。この研磨には、例えば化学機械研磨(CMP)が用いられる。レジストパターン35Aが、側面31に形成されている凹部内に充填されているため、研磨時にレジストパターン35Aが基板から脱落することを防止できる。
【0039】
図12に示すように、加工された積層基板20の表面上に、電鋳によりニッケル等の金属膜40を形成する。金属膜40を積層基板20から引き剥がし、図13に示す金属膜40を得る。金属膜40の表面には、積層基板20に形成されていた溝に対応する尾根状部分45が形成される。尾根状部分45は、積層基板20の表面に形成されていた階段状斜面30及び垂直に切り立った側面36に対応する階段状斜面41及び垂直面42を有する。
【0040】
図14に示すように、金属膜40を金型として用い、樹脂部材1の表面に、尾根状部分45の微細構造を転写する。
【0041】
図15に示すように、樹脂製の光学部材1が得られる。光学部材1の表面には、尾根状部分45に対応する溝2が形成されている。溝2の一方の側面2aは階段状の形状を有し、他方の側面2bは、光学部材1の表面に対してほぼ垂直に切り立った平坦な面になる。ほぼ垂直な側面2bは、図10に示したX線露光及び現像により形成される側面36の垂直度及び平坦度を引き継ぐ。X線露光を採用することにより、垂直度及び平坦度に優れた側面36を形成することができるため、最終製品である回折格子の溝の側面2bも、垂直度及び平坦度の優れた面になる。なお、X線露光の代わりに、電子ビーム露光を用いてもよい。
【0042】
上記実施例では、図5及び図7に示したように、階段状側面に対向する側面の位置において、レジストパターン25や26のアライメントずれがほとんど生じない理想的な場合を想定した。ところが、実際のフォトリソグラフィ工程においては、アライメントずれを完全になくすことはできない。上記実施例では、最終製品である回折格子に転写される面は、図8に示した積層構造の側面31ではなく、図11に示したレジストパターン35Aの側面36である。このため、アライメントずれは、回折格子の微細構造に影響を与えない。
【0043】
ところが、アライメントずれが生じると、製造途中に不都合が生じやすくなる。次に、図16及び図17を参照して、アライメントずれが生じた場合の不都合な点について説明する。図16及び図17は、上記実施例の図5及び図6に示した工程に対応する。
【0044】
図16に示すように、右側のレジストパターン25が図の左側にずれて、第2の層16の端面を被覆してしまった場合を考える。レジストパターン25をマスクとして第1の層15をエッチングする。
【0045】
図17に示すように、サイドエッチングが生じることにより、第1の層15の縁が、レジストパターン25の縁よりも後退する。しかし、レジストパターン25の縁が第2の層16の縁よりも突出しているため、第1の層15の縁が、第2の層16の縁よりも後退するとは限らない。
【0046】
その後のエッチング工程でも、レジストパターンが、階段状側面に対向する側面を被覆してしまうようなアライメントずれが生じると、第1の層11、13、15のサイドエッチングが進まない。このため、図8に示したような側面31の凹部が形成されない。凹部が形成されない場合には、図11に示した研磨工程で、レジストパターン35Aが基板から脱離しやすくなる。
【0047】
次に、図18及び図19を参照して、アライメントずれが生じても、レジストパターン35Aの脱離が生じにくい実施例について説明する。図18及び図19は、それぞれ上記実施例の図5及び図6に示した工程に対応する。
【0048】
図18に示すように、図中の右側のレジストパターン25の縁が、既にパターニングされている第2の層16の縁よりもやや後退するように、マスクパターンを設計しておく。このように設計しておくと、アライメントずれが生じたとしても、レジストパターン25が第2の層16の端面を覆ってしまうことを防止できる。
【0049】
図19に示すように、レジストパターン25をマスクとして第1の層15をエッチングする。サイドエッチングが生じることにより、第1の層15の縁が第2の層16の縁よりも後退する。
【0050】
その後の第1の層13及び11をエッチングするときのレジストパターンについても、その縁が第2の層16の縁よりも後退するようにマスクパターンを設計しておく。このように、サイドエッチングしやすい条件でエッチングするときに用いるレジストパターンの縁を、最も上の第2の層16の縁よりも後退させることにより、アライメントずれが生じても、図8に示したように、側面31にサイドエッチングによる凹部を形成することができる。
【0051】
上記実施例では、第1の層11、13、15を酸化シリコンで形成し、第2の層12、14、16をシリコンで形成したが、相互にエッチング特性の異なる材料であれば、その他の材料の組合せとしてもよい。例えば、アルミナと酸化シリコン、酸化シリコンと窒化シリコン等の組み合わせとしてもよい。図8に示した側面31に積極的に凹部を形成するために、第1の層及び第2の層の一方の層のエッチング条件が、他方の層のエッチング条件よりもサイドエッチングしやすい条件でエッチングすることが好ましい。
【0052】
上記実施例では、図11に示した微細加工後の積層基板から、成形用の金型を作製したが、図11に示した微細加工後の積層基板20の加工された表面に、薄く金属層を蒸着し、積層基板20自体を回折格子として使用することも可能である。
【0053】
また、上記実施例では、図1に示すように、各溝2の一方の側面が階段状にされ、他方の側面がほぼ垂直に切り立った形状にされていた。両側の側面が階段状にされた溝と、両側の側面が切り立った形状の溝とを交互に配置する場合にも、上記実施例の方法を適用することにより、切り立った形状の側面を容易に形成することができる。この構造では、一方の側面が階段状にされ、他方の側面が切り立った形状にされた尾根状の複数の構造体が、平行に配置されていると考えることができる。この構造では、相互に隣り合う尾根状構造体の階段状側面同士が向き合い、切り立った側面同士が向き合うことになる。
【0054】
また、上記実施例では、図1に示すように、溝2を直線状に配置することによって回折格子を作製したが、溝2を円周に沿って配置することにより、フレネルレンズを作製することも可能である。
【0055】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例による方法で作製される回折格子の部分斜視図である。
【図2】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その1)である。
【図3】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その2)である。
【図4】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その3)である。
【図5】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その4)である。
【図6】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その5)である。
【図7】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その6)である。
【図8】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その7)である。
【図9】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その8)である。
【図10】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その9)である。
【図11】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その10)である。
【図12】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための工程途中の基板の断面図(その11)である。
【図13】実施例による回折格子を製造する金型の断面図である。
【図14】実施例による回折格子を製造する方法を説明するための金型及び光学部材の断面図である。
【図15】実施例による方法で製造した回折格子の断面図である。
【図16】アライメントずれが生じた時の不都合を説明するための工程途中の基板の断面図(その1)である。
【図17】アライメントずれが生じた時の不都合を説明するための工程途中の基板の断面図(その2)である。
【図18】アライメントずれが生じても不都合の生じない実施例を説明するための工程途中の基板の断面図(その1)である。
【図19】アライメントずれが生じても不都合の生じない実施例を説明するための工程途中の基板の断面図(その2)である。
【図20】従来の回折格子の製造方法を説明するための製造途中の基板の断面図である。
【図21】従来の回折格子の他の製造方法を説明するための製造途中の基板の断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 回折格子
2 溝
2a 階段状の側面
2b 階段状側面に対向する側面
10 支持基板
11、13、15 酸化シリコンの第1の層
12、14、16 シリコンの第2の層
20 積層基板
21、25、26 レジストパターン
30 階段状の側面
31 階段状側面に対向する側面
35 レジスト膜
36 側面
40 金属膜(金型)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基板の表層部を、該基板の主表面からエッチングすることにより、少なくとも一方の側面が階段状になった溝または尾根状部分を形成する工程と、
(b)前記溝または尾根状部分の両側の側面が被覆されるように、前記基板の主表面上に被覆膜を形成する工程と、
(c)前記溝または尾根状部分の階段状の側面が露出するように前記被覆膜をパターニングする工程であって、該被覆膜の残された部分が、前記階段状の側面とは反対側の側面を覆い、かつ主表面に対して交差する表面を有するようにパターニングする工程と
を有する階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項2】
前記工程bで形成される前記被覆膜がX線露光用レジストで形成されており、
前記工程cが、X線用マスクを介して、X線で前記被覆膜を露光する工程と、露光された前記被覆膜を現像する工程とを含む請求項1に記載の階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項3】
前記工程cが、前記被覆膜をパターニングする前、またはパターニングした後に、前記被覆膜を研磨して、前記基板の主表面よりも上に堆積している部分を除去する工程を含む請求項1または2に記載の階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項4】
前記工程aが、
(a1)支持基板の表面上に、相互にエッチング特性の異なる材料で形成された第1の層と第2の層とを交互に積層した積層構造を形成する工程と、
(a2)前記主表面の一部の領域をエッチングマスクで覆い、前記積層構造の最も上の層を、その直下の層に対して選択的にエッチングする条件で、最も上の層をエッチングすることにより、最も上の層の端面が露出した蹴上げ面を形成すると共に、最も上の層の直下の層の表面の一部を露出させた後、使用したエッチングマスクを除去する工程と、
(a3)既に形成されている階段状の側面、及び既に形成されている階段状の側面の最も下の蹴上げ面に連続するテラス面となるべき領域をエッチングマスクで覆い、露出している層の直下の層に対して露出している層を選択的にエッチングする条件で露出している層をエッチングすることにより、エッチングされた層の端面が露出した蹴上げ面を形成すると共に、エッチングされた層の直下の層の表面の一部を露出させた後、使用したエッチングマスクを除去する工程と
(a4)階段状の側面の全段が形成されるまで、前記工程a3を繰り返す工程と
を含む請求項1〜3のいずれかに記載の階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項5】
前記工程a3において、前記第1の層及び第2の層の一方の層のエッチング条件が、他方の層のエッチング条件よりもサイドエッチングしやすい条件で、前記積層構造をエッチングし、サイドエッチングしやすい条件でエッチングする時には、前記階段状の側面とは反対側の側面に連続する主表面を覆うエッチングマスクの縁を、サイドエッチングしにくい条件でエッチングされた層のうち最も上の層の縁よりも後退させる請求項4に記載の階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項6】
前記工程cの後、さらに、
(d)前記基板のエッチングされた表面上に型部材の材料を堆積させ、型部材を形成する工程と、
(e)前記基板及び被覆膜から、前記型部材を取り外す工程と
を有する請求項1〜5のいずれかに記載の階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項7】
基板と、
前記基板の表層部に形成され、第1の側面と第2の側面とで画定される溝状または尾根状の形状を有し、該第1の側面が階段状になり、該第2の側面が凹部を有する構造体と、
前記構造体の前記第2の側面を覆い、該第2の側面よりも平坦な側面を画定する被覆膜と
を有する部材。
【請求項8】
前記基板が、支持基板と、該支持基板の上に形成された積層構造とを含み、該積層構造は、相互にエッチング特性の異なる第1の層と第2の層とが交互に積層されて構成されており、前記第1の側面の1段の高さが、前記第1の層または第2の層の厚さに対応し、前記第2の側面において、該第1の層及び第2の層の一方の層の側面が、当該層に接する他方の層の側面よりも後退している請求項7に記載の部材。
【請求項1】
(a)基板の表層部を、該基板の主表面からエッチングすることにより、少なくとも一方の側面が階段状になった溝または尾根状部分を形成する工程と、
(b)前記溝または尾根状部分の両側の側面が被覆されるように、前記基板の主表面上に被覆膜を形成する工程と、
(c)前記溝または尾根状部分の階段状の側面が露出するように前記被覆膜をパターニングする工程であって、該被覆膜の残された部分が、前記階段状の側面とは反対側の側面を覆い、かつ主表面に対して交差する表面を有するようにパターニングする工程と
を有する階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項2】
前記工程bで形成される前記被覆膜がX線露光用レジストで形成されており、
前記工程cが、X線用マスクを介して、X線で前記被覆膜を露光する工程と、露光された前記被覆膜を現像する工程とを含む請求項1に記載の階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項3】
前記工程cが、前記被覆膜をパターニングする前、またはパターニングした後に、前記被覆膜を研磨して、前記基板の主表面よりも上に堆積している部分を除去する工程を含む請求項1または2に記載の階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項4】
前記工程aが、
(a1)支持基板の表面上に、相互にエッチング特性の異なる材料で形成された第1の層と第2の層とを交互に積層した積層構造を形成する工程と、
(a2)前記主表面の一部の領域をエッチングマスクで覆い、前記積層構造の最も上の層を、その直下の層に対して選択的にエッチングする条件で、最も上の層をエッチングすることにより、最も上の層の端面が露出した蹴上げ面を形成すると共に、最も上の層の直下の層の表面の一部を露出させた後、使用したエッチングマスクを除去する工程と、
(a3)既に形成されている階段状の側面、及び既に形成されている階段状の側面の最も下の蹴上げ面に連続するテラス面となるべき領域をエッチングマスクで覆い、露出している層の直下の層に対して露出している層を選択的にエッチングする条件で露出している層をエッチングすることにより、エッチングされた層の端面が露出した蹴上げ面を形成すると共に、エッチングされた層の直下の層の表面の一部を露出させた後、使用したエッチングマスクを除去する工程と
(a4)階段状の側面の全段が形成されるまで、前記工程a3を繰り返す工程と
を含む請求項1〜3のいずれかに記載の階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項5】
前記工程a3において、前記第1の層及び第2の層の一方の層のエッチング条件が、他方の層のエッチング条件よりもサイドエッチングしやすい条件で、前記積層構造をエッチングし、サイドエッチングしやすい条件でエッチングする時には、前記階段状の側面とは反対側の側面に連続する主表面を覆うエッチングマスクの縁を、サイドエッチングしにくい条件でエッチングされた層のうち最も上の層の縁よりも後退させる請求項4に記載の階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項6】
前記工程cの後、さらに、
(d)前記基板のエッチングされた表面上に型部材の材料を堆積させ、型部材を形成する工程と、
(e)前記基板及び被覆膜から、前記型部材を取り外す工程と
を有する請求項1〜5のいずれかに記載の階段状表面を有する部材の製造方法。
【請求項7】
基板と、
前記基板の表層部に形成され、第1の側面と第2の側面とで画定される溝状または尾根状の形状を有し、該第1の側面が階段状になり、該第2の側面が凹部を有する構造体と、
前記構造体の前記第2の側面を覆い、該第2の側面よりも平坦な側面を画定する被覆膜と
を有する部材。
【請求項8】
前記基板が、支持基板と、該支持基板の上に形成された積層構造とを含み、該積層構造は、相互にエッチング特性の異なる第1の層と第2の層とが交互に積層されて構成されており、前記第1の側面の1段の高さが、前記第1の層または第2の層の厚さに対応し、前記第2の側面において、該第1の層及び第2の層の一方の層の側面が、当該層に接する他方の層の側面よりも後退している請求項7に記載の部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2006−17788(P2006−17788A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192761(P2004−192761)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
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