説明

隔膜およびその製法、並びに該隔膜を備えた熱交換器

【課題】 透湿性樹脂の種類を問わず優れた耐結露性を示し、しかも多孔質膜と補強材の接着性が良好であり、さらには簡便に製造可能な隔膜12を提供する。
【解決手段】 隔膜12は、多孔質膜20と補強材40との積層体23であって、前記補強材40は、前記多孔質膜20との界面50側に透湿性樹脂層30を内在している。前記透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30を確実に形成するには、前記多孔質膜20の平均細孔径が0.01〜10μm、前記補強材40の空孔率が30〜95%であることが好ましい。本発明の隔膜12によれば、前記透湿性樹脂として水溶性のもの(例えば、ポリビニルアルコール)を使用しても、耐結露性が良好である。前記補強材40の臨界表面張力γc2と前記多孔質膜20の臨界表面張力γc1の差(γc2−γc1)を、−5mN/m以上としておけば、前記所定の箇所に透湿性樹脂層30を内在させやすくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透気性は低いが透湿性は良好である隔膜に関するものである。この隔膜は、熱交換膜、加湿膜、除湿膜、パーベーパレーション膜[例えば水と他の液体(エタノールなど)を分離するための膜]などの種々の用途に使用される。
【背景技術】
【0002】
隔膜の代表的な用途として熱交換膜が挙げられる。熱交換膜は、例えば、空調システムに利用されており、室内と室外の空気を、混合することなく熱交換できる。近年では、熱のみならず、湿気も交換できる全熱交換膜が提案されている。こうした熱交換膜には、透気性は低いが、透湿性は良好であることが望まれる。そこで本件出願人らは先に特許文献1の技術を提案している。図1及び図2は、この特許文献1で紹介されている隔膜の断面を示す概念図である。
【0003】
すなわち図1に示すように、特許文献1では、高分子樹脂多孔質体シート20上に、硬化した透湿性樹脂層30を設けた2層構造の熱交換膜10を提案している。そしてこの文献では、前記熱交換膜10を補強することも提案しており、例えば図2に示すように、前記硬化した透湿性樹脂層30の上に補強材40を設けた3層構造の熱交換膜11も提案している。これらの熱交換膜10,11は、透気性は低いが透湿性は良好であり、加えて結露や形くずれ、カビ発生等が少なく、使用寿命が長いとされている。なお、この特許文献1では、透湿性樹脂として少なくとも一部が架橋されたポリビニルアルコールも例示されているが、この文献の実施例で透湿性樹脂として実際に使用されているのはポリウレタン樹脂やシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などである。
【0004】
しかし本発明者らが更に検討を重ねた結果、特許文献1で提案した熱交換膜には幾つかの改良すべき点が見つかった。
【特許文献1】特開平7−133994号公報([特許請求の範囲],[0007],[0010],[0026],[0032],[実施例]参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記特許文献1で提案した熱交換膜について更に検討を重ねた。その結果、上記特許文献1の熱交換膜では、確かに優れた耐結露性を示すものの、一部の透湿性樹脂(例えば、ポリビニルアルコールなど)を使用すると耐結露性が低下することが判明した。特に2層構造の熱交換膜10では、透湿性樹脂層30が熱交換膜の表面に露出しているため、該透湿性樹脂層30自体の耐水性が低いと、結露によって生じた水滴によって透湿性樹脂が洗い流されやすいことが判明した。また3層構造にして透湿性樹脂層30を補強材40でカバーした場合であっても(図2の熱交換膜11参照)、一部の透湿性樹脂(例えば、ポリビニルアルコールなど)を使用した場合には、透湿性樹脂が溶解するため、透湿性樹脂層30にピンホールが生じたり、透湿性樹脂層30と補強材40との接着性が低下するなど、耐結露性が不十分であった。加えて3層構造にした場合には、上記高分子樹脂多孔体シート20と補強材40とが硬化した透湿性樹脂層30を介して積層されているため、高分子樹脂多孔体シート20−補強材40間の接着性は良好とはいえず、外力が加わると剥離することがあった。
【0006】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、透湿性樹脂の種類を問わず、優れた耐結露性を示し、しかも補強材を使用した場合であっても多孔質膜と補強材の接着性が良好な隔膜及びその製造方法、並びにこのような隔膜を備えている熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、隔膜に結露を生じても透湿性樹脂の流出を抑えると共に、多孔質膜と補強材の接着性を高めるべく鋭意検討を重ねた。その結果、図3に示すように、前記補強材40のうち多孔質膜20との界面50側に透湿性樹脂層を内在させてやれば、多孔質膜20と補強材40とを直接接着(熱融着を含む意味)させることができるだけでなく、隔膜12に結露が生じても透湿性樹脂の流出をも著しく抑制でき、接着性(耐剥離性)と耐結露性を同時に向上させることができること、そしてこのような隔膜12は、多孔質膜20と補強材40とを直接積層した後、前記補強材40側から、透湿性樹脂と溶剤の混合液を塗布し、次いで溶剤を蒸発させることによって極めて容易に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明に係る隔膜12とは、多孔質膜20と補強材40との積層体23であって、前記補強材40は、前記多孔質膜20との界面50側に透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30を内在している点に要旨を有する。前記透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30を確実に形成するには、前記多孔質膜20の平均細孔径が0.07〜10μm、前記補強材40の空孔率が30〜95%であることが好ましい。本発明の隔膜12によれば、前記透湿性樹脂として水溶性のもの(例えば、ポリビニルアルコールなど)を使用しても耐結露性が良好である。前記補強材40の臨界表面張力γc2と前記多孔質膜20の臨界表面張力γc1の差(γc2−γc1)を、−5mN/m以上としておけば、前記所定の箇所に透湿性樹脂層30を内在させやすくなる。
【0009】
本発明の隔膜12では、難燃性を向上させる観点から前記透湿性樹脂層30は難燃剤を含むものが推奨される。また隔膜12の透湿性を高めるために前記透湿性樹脂層30には吸湿剤を含むものが好ましい。
【0010】
前記補強材40としては繊維状の樹脂(例えば、不織布)が例示できる。こうした繊維状の樹脂としては芯鞘構造の繊維で構成されており、鞘部を構成する樹脂の融点は芯部を構成する樹脂の融点よりも低いものが望ましい。
【0011】
前記多孔質膜20は、ポリテトラフルオロエチレンで構成されているものが好ましい。
【0012】
本発明の隔膜12の通気度は、例えば、3000sec以上程度であり、透湿度は、例えば、3000g/m2/24hr以上程度である。
【0013】
本発明に係る隔膜12は、多孔質膜20と補強材40とを積層した後、前記補強材40側から、透湿性樹脂と溶剤の混合液を塗布し、次いで前記溶剤を蒸発させることによって簡便に製造できる。
【0014】
上記隔膜12を構成要素として備えた熱交換器も本発明の範囲に含まれる。
【0015】
なお、本明細書でいう「フィルム」、「シート」及び「膜」は、いずれも、それらの厚みを区別するものではない。
【発明の効果】
【0016】
本発明の隔膜12によれば、補強材40のうち多孔質膜20との界面50側に透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30が内在している。即ち透湿性樹脂は、多孔質膜との界面50側に隠れており、かつ補強材40内の空隙部を充たした状態で存在することによって透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30を形成している。そのため、隔膜12に付着した結露水に透湿性樹脂が溶解しても該透湿性樹脂は補強材40に囲まれているため流動し難く、また透湿性樹脂が溶解して多孔質膜20表面で弾かれても、液滴を形成し難く、透湿性樹脂膜にピンホールが生じ難い。しかも補強材40のうち多孔質膜20との界面50側に透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30を内在させるようにすれば、補強材40と多孔質膜20は互いに直接接着させることができるため多孔質膜20と補強材40との間の接着性を高めることができる。こうした隔膜12は、多孔質膜20と補強材40とを積層した後に、前記補強材40側から、透湿性樹脂と溶剤との混合液を塗布するという簡便な方法によって製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で使用する補強材は空隙を有するものであり、以下、この空隙部が繊維によって形成される補強材(繊維状補強材)を例にとって説明するが、該空隙部が繊維以外によって形成される補強材も空隙部の形成の仕方が異なるだけであって繊維状補強材と同様に使用できる。
【0018】
図3に本発明に係る隔膜12を示す。本発明の隔膜12では、透湿性樹脂層30が膜状となって多孔質膜20と接するような構造を維持しながらも、該透湿性樹脂層30が多孔質膜20と補強材40との間に単純に挟まれた3層構造になっているのではなく、透湿性樹脂層30は補強材40のうち多孔質膜との界面50側に内在されている。即ち透湿性樹脂30は、多孔質膜20との界面50側に隠れており、かつ補強材40を構成する繊維間の空隙部分を充たした状態で存在している。そのため透湿性樹脂が結露水によって流出しにくくなっている。
【0019】
例えば、上記特許文献1のように多孔質膜20の表面に透湿性樹脂層30を積層した2層構造の隔膜10(図1参照)では、透湿性樹脂層30が表面に露出しているため、結露水が透湿性樹脂層30表面を流れてしまい、特にポリビニルアルコールのような水溶性の樹脂を透湿性樹脂として用いた場合には、透湿性樹脂が簡単に溶出してしまう。また3層構造にした場合であっても、補強材40/透湿性樹脂層30/多孔質膜20の単純な3層構造の隔膜11(図2参照)では、結露水による透湿性樹脂層30の流出防止効果が不充分であった。これに対して、透湿性樹脂が補強材40を構成する繊維間の空隙部分を充たした状態で透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30を形成した本発明の隔膜12(図3参照)では、この繊維によって透湿性樹脂の流動が阻害されるためか結露に対する耐久性が著しく向上する。
【0020】
しかも本発明に係る隔膜12の補強材40は、その界面50側に透湿性樹脂層30を内在しているため、多孔質膜20と直接積層可能となっている。そのため透湿性樹脂層30に邪魔されることなく補強材40と多孔質膜20とを直接接着(熱融着を含む意味)でき、多孔質膜20と補強材40との接着性(耐剥離性)を高めることができる。
【0021】
なお、前記隔膜12は、多孔質膜20と補強材40とを積層した後に、前記補強材40側から、透湿性樹脂と溶剤の混合液を塗布し、次いで溶剤を蒸発させることによって簡便に製造できる。即ち、補強材40側から塗布した混合液は、補強材を浸透した後、多孔質膜20表面で塞き止められる。この状態で、混合液の溶剤を蒸発させることによって、所定の箇所に透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30が形成される。
【0022】
以下、本発明の隔膜の構成上の特徴について更に詳細に説明する。
【0023】
[多孔質膜]
前記多孔質膜は隔膜の基材となる膜であり、通気性を有する限り該多孔質膜を構成する樹脂の種類は特に限定されない。具体的には、耐熱性や耐腐食性を有するものが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフイン類;ポリカーボネート;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリエステル;ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂等が使用出来る。なかでも耐熱性および耐腐食性に優れ、臨界表面張力が極めて低いフッ素樹脂が推奨される。
【0024】
多孔質膜20と補強材40を積層加工する際は、後述するように熱融着により積層加工するのが望ましいが、多孔質膜20の耐熱性が補強材40の耐熱性を下回ると、融着加工が困難になる。そのため耐熱性に優れた素材を多孔質膜20に使用すれば、補強材40との融着加工が容易となり、また補強材40の材質選択の自由度が大きくなる。
【0025】
本発明では透湿性樹脂と溶剤との混合液を補強材40側から浸透させ、多孔質膜20と補強材40との界面50に透湿性樹脂層を形成させるため、多孔質膜20の臨界表面張力は、前記混合液の表面張力よりも小さいことが望ましい。多孔質膜20の臨界表面張力よりも前記混合液の表面張力が大きいと、多孔質膜が混合液で濡れてしまい、多孔質膜20の内部21に浸透する透湿性樹脂量が大きくなるため、透湿性樹脂層30の形成が難しくなる。多孔質膜20としてはフッ素樹脂を用いることが好ましく、フッ素樹脂の多孔質膜の臨界表面張力は極めて低いため、透湿性樹脂を溶かす際に用いる溶剤選択の自由度が大きくなる。
【0026】
フッ素樹脂のなかでも延伸されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の多孔質膜(以下、「ePTFEフィルム」と称することがある)が好ましい。ePTFEフィルムは、空孔率を高くすることが可能であり、得られる隔膜12の透湿性を高くできる。また極めて微細な孔を形成でき、透湿性樹脂の多孔質膜内部21への侵入を阻止できる。
【0027】
ePTFEフィルムは、PTFEのファインパウダーを成形助剤と混合して得られるペーストを成形し、該成形体から成形助剤を除去した後、高温高速度で延伸し、さらに必要に応じて焼成することにより得られる。その詳細は、例えば特公昭51−18991号公報に記載されている。なお、延伸は、1軸延伸であってもよいし、2軸延伸であってもよい。1軸延伸多孔質PTFEフィルムは、ミクロ的には延伸方向と略直交する細い島状のノード(折り畳み結晶)が存在し、このノード間を繋ぐようなすだれ状のフィブリル(前記折り畳み結晶が延伸により溶けて引き出された直鎖状の分子束)が延伸方向に配向している点に特徴がある。一方、2軸延伸多孔質PTFEフィルムは、フィブリルが放射状に拡がり、フィブリルを繋ぐノードが島状に点在してフィブリルとノードとで分画された空間が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となっている点にミクロ的な特徴がある。2軸延伸多孔質PTFEフィルムは、1軸延伸多孔質PTFEフィルムよりも広幅化が容易であり、縦方向・横方向の物性バランスに優れ、単位面積あたりの生産コストが安くなるため、特に好適に用いられる。
【0028】
多孔質膜20の平均細孔径は、例えば、0.07〜10μm程度である。平均細孔径が小さすぎると多孔質膜20の透湿性が低下するため、隔膜12の透湿能力が低下する。また平均細孔径が小さすぎると多孔質膜20の通気性も低下するため、隔膜12を熱交換膜として使用したときの熱交換能力が低下し、パーベーパレーション膜として使用したときの分離効率も低下する。より好ましい平均細孔径は0.09μm以上である。逆に平均細孔径が大きすぎると、隔膜12の製造時に上記透湿性樹脂を含む混合液を塗布したときに、この透湿性樹脂が多孔質膜20の細孔21内に入り込み易くなるため、透湿性樹脂よりなる膜30の形成が困難となる。より好ましくは5μm以下である。なお、多孔質膜20の平均細孔径は、コールターエレクトロニクス社のコールターポロメーターを用いて測定した孔径の平均値を意味する。ePTFEフィルムの平均細孔径は延伸倍率等によって適宜制御できる。
【0029】
多孔質膜20の空孔率は前記平均細孔径に応じて適宜設定できるが、例えば、30%以上(好ましくは50%以上)、98%以下(好ましくは90%以下)程度であることが推奨される。なお、ePTFEフィルムの空孔率は、上記平均細孔径と同様、延伸倍率等によって適宜調整できる。
【0030】
多孔質膜20の空孔率は、多孔質膜20の質量Wと、空孔部21を含む見かけの体積Vとを測定することによって求まる嵩密度D(D=W/V:単位はg/cm3)と、全く空孔21が形成されていないときの密度Dstandard(PTFE樹脂の場合は2.2g/cm3)を用い、下記式に基づいて算出できる。なお、体積Vを算出する際の厚みは、ダイヤルシックネスゲージで測定した(テクロック社製「SM−1201」を用い、本体バネ荷重以外の荷重をかけない状態で測定した)平均厚みによる。
空孔率(%)=[1−(D/Dstandard)]×100
多孔質膜20の通気度は、例えば、500sec以下、好ましくは10sec以下である。通気度の値が大きすぎると、膜の透湿性が低くなり、得られる隔膜12の透湿性が不充分となる。また隔膜12を熱交換膜やパーベーパレーション膜として使用したときに、熱交換能力の低下や分離効率の低下が生じる。通気度の測定法については後述する。
【0031】
多孔質膜の厚みは特に限定されないが、好ましくは50μm以下程度である。厚くなりすぎると隔膜12の透湿能力が低下する。また隔膜12を熱交換膜やパーベーパレーション膜として使用したときに、熱交換能力の低下や分離効率の低下が生じる。より好ましくは20μm以下である。但し、薄くなりすぎると加工性を損なうため1μm以上とすることが好ましい。より好ましくは2μm以上である。
【0032】
[補強材40]
上記補強材40は、上記多孔質膜20を補強でき、かつ被処理流体(例えば熱交換および湿度交換すべき外気など)と透湿性樹脂層30とを遮断しない程度の空隙(通気性)を有する限り特に限定されないが、上記補強材40の空孔率は、例えば、30〜95%程度である。空孔率が小さすぎると、隔膜12を製造するに際して、透湿性樹脂を含む混合液を補強材40側から塗布したときに混合液が補強材40内を浸透し難くなり、多孔質膜20との界面50側に透湿性樹脂層30を形成するのが難しくなる。より好ましくは40%以上である。しかし空孔率が大きすぎると強度が不足しやすくなる。より好ましくは90%以下である。なお、補強材40の空孔率は、上記多孔質膜20の場合と同様にして求めることができる。
【0033】
補強材40は、通常、繊維状の樹脂で形成されている。繊維状の樹脂を使用することによって、所定の空孔率を有する補強材40を簡便に製造できる。繊維状樹脂によって形成される補強材40は、織布、編布、不織布(例えば、サーマルボンド方式、スパンボンド方式などの製法によって形成された不織布など)、ネットのいずれであってもよい。特に好ましい繊維状補強材40は、不織布である。不織布は、多数の繊維からなる微細な空隙部分(繊維間の隙間)を有しているため、透湿性樹脂を保持する効果に優れている。
【0034】
また、繊維材料として熱可塑性樹脂を使用すれば、熱融着により多孔質膜20と接着できるため接着剤を用いる必要はない。多孔質膜20と補強材40を接着する際に接着剤を用いると、接着剤には揮発成分が含まれているため、隔膜12を使用しているときにこの成分が揮発し、人体に悪影響を及ぼす可能性がある。これに対し、熱融着によって補強材40と多孔質膜20とを接着すれば、こうした問題を回避できる。特に本発明の隔膜12では、補強材(樹脂)40と接着される多孔質膜20に多数の細孔21が形成されているため、該補強材(樹脂)40を熱融着させると、溶融樹脂の一部が多孔質膜の細孔21へと浸入することによって多孔質膜20と補強材40の接着性を著しく高めることができる。
【0035】
前記樹脂としては、多孔質膜20の融点または軟化点よりも低い融点または軟化点を有するものが推奨される。多孔質膜の融点または軟化点よりも低融点(または低軟化点)の樹脂を用いることにより、補強材40を多孔質膜20に熱融着させることができる。
【0036】
前記補強材40を形成する繊維は、低融点の樹脂と高融点の樹脂とを組み合わせて使用するのが推奨される。低融点樹脂を単独で使用すると、樹脂が溶融し過ぎて緻密な膜を形成する結果、透湿性が低下したり、シワが発生したりすることがある。高融点の樹脂と組み合わせることにより樹脂膜の形成を防止でき、前述したトラブルの発生を回避できる。更に表面積を大きくするためにコルゲート加工などの変形加工を隔膜12に施す場合、低融点樹脂と高融点樹脂とで補強材40を形成すれば、低融点樹脂の作用により変形加工時に型が付き易くなり、高融点樹脂の作用によりその形態を維持し易くなる。
【0037】
なお、高融点樹脂とは前記低融点樹脂よりも融点が高い樹脂を意味し、その融点差は、例えば、10℃以上、好ましくは20℃以上である。樹脂の融点は、示差熱走査熱量計(DSC;セイコー電子工業社製「SSC/5200」)で測定した値である。なお、樹脂によっては明確な融点を示さないものもあるが、明確な融点を示さないものは軟化点で代用する。軟化点としては、JIS K7206で規定されるヴィカット法で測定した値を用いる。
【0038】
低融点樹脂と高融点樹脂とを組み合わせる場合、低融点樹脂繊維と高融点樹脂繊維とを混合した混合繊維を使用してもよく、例えば、低融点樹脂で構成されている繊維が高融点樹脂で構成されている繊維の周りを覆っている割繊可能な構造の混合繊維を使用してもよいし、低融点樹脂と高融点樹脂の両方で一体成形された繊維を使用してもよい。このような一体型の繊維としては、例えば、高融点樹脂の周りを低融点樹脂で覆った芯鞘構造の繊維が挙げられる。
【0039】
前記樹脂としては吸湿性の低い樹脂が推奨される。吸湿性が高い程、結露した際に強度が低下し、隔膜12が変形したり破損したりし易くなる。吸湿性の低い樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂やナイロン系樹脂、ビニロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。なお、後述する難燃剤を使用する場合、ポリオレフィン系樹脂の表面エネルギーは高いため、難燃剤の固定が困難となる。従って難燃剤を使用する場合には、ポリオレフィン系以外の樹脂(例えば、アクリル系樹脂やナイロン系樹脂、ビニロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂など)が好適に使用できる。
【0040】
本発明の隔膜12を製造する場合、補強材40の臨界表面張力γc2と前記多孔質膜20の臨界表面張力γc1とを適切に設定しておくことが重要である。その理由については後述するが、γc2とγc1の差(γc2−γc1)は、例えば、−5mN/m以上、好ましくは0mN/m以上、更に好ましくは5mN/m以上、特に好ましくは10mN/m以上である。
【0041】
補強材40の厚みは特に限定されないが、例えば、5μm以上(好ましくは10μm以上)、1000μm以下(好ましくは500μm以下)程度である。補強材40の厚みが大きくなりすぎると隔膜12の透湿能力が低下し、さらにはこの隔膜12を使用する装置(熱交換器、加湿器、除湿器など)が大型化する。また隔膜12を熱交換膜として使用したときには、熱交換能力が低下する。一方、補強材40の厚みが小さすぎると隔膜12の加工性を損なう。
【0042】
[透湿性樹脂層30]
透湿性樹脂層30は、透湿性樹脂よりなる無孔質の膜状の層であり、熱および湿気(水蒸気)は通過させるが空気は通さず、隔膜としての機能を発揮する部分である。透湿性樹脂としては非水溶性のものを使用してもよいが、本発明の隔膜12は耐結露性が高められているため、水溶性のものであっても使用できる。
【0043】
非水溶性の透湿性樹脂としては、例えば、ポリウレタンなどが挙げられる。水溶性の透湿性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコールやポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸などが挙げられる。特にポリビニルアルコールは安価であり、その実用化が切望されていたが、従来の隔膜では上述したように耐結露性などの点から実用化が困難となっていた。これに対し、本発明によれば、ポリビニルアルコールのような水溶性樹脂を用いた場合ですら耐結露性を向上でき、その有用性は極めて高い。なお、前記透湿性樹脂は、架橋されていてもよい。透湿性樹脂を架橋すると透湿性樹脂層が緻密になり、透湿性樹脂層の耐水性(耐結露性)をさらに高めることができる。
【0044】
透湿性樹脂層30の厚みは上記機能を発揮できる限り特に限定されないが、例えば、0.2〜5μm程度である。薄すぎるとピンホールを生じやすくなる。より好ましくは0.5μm以上である。一方、厚すぎると透湿性が低下しやすくなる。より好ましくは3μm以下である。
【0045】
なお、透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30は、上述したように、補強材40のうち多孔質膜との界面50側に形成されているが、後述の本発明の製法によって隔膜12を製造した場合には、補強材40のうち前記透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30が形成されていない部分にも、層状にはなっていないものの透湿性樹脂が分散している。
【0046】
上記透湿性樹脂層30は難燃剤を含むものが望ましい。難燃剤を含むことにより透湿性樹脂層30の難燃性を高めることができ、その結果、隔膜12全体の難燃性を高めることができるからである。なお、後述の本発明の製法によって隔膜12を製造した場合、難燃剤は、補強材40のうち上記透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30が形成されていない部分にも分散しているため、補強材40自体の難燃性を高めることができ、その結果、隔膜12全体の難燃性を一段と高めることができる。
【0047】
難燃剤の種類や量は特に限定されず、必要とされる難燃性のグレードに応じて適宜決定できる。環境への影響を考慮すると、非ハロゲン系の難燃剤を用いることが望ましい。より具体的には、芳香族リン酸エステル系の難燃剤、リン酸グアニジン系の難燃剤、脂環式リン酸エステル系の難燃剤などを使用できる。芳香族リン酸エステル系の難燃剤は非水溶性であり、補強材40を構成する繊維状樹脂のガラス転移温度以上に加熱されると繊維に吸収されるため、結露水などと接触しても溶出せず、安定した難燃効果が期待できる。リン酸グアニジン系の難燃剤や脂環式リン酸エステル系の難燃剤は、吸水性があるため、吸湿剤としての効果も期待できる。隔膜12全体としては、JIS規格のZ2150で規定される防炎3級程度やUL94で規定されるVTM−2程度の難燃性が求められることが多い。
【0048】
透湿性樹脂層30は、さらに吸湿剤を含んでいてもよい。吸湿剤を含むと透湿性樹脂層30の保水量を多くすることができ、透湿性を更に高めることができる。吸湿剤としては、水溶性の塩を使用できる。具体的には、リチウム塩やリン酸塩などを用いることができる。
【0049】
本発明の隔膜(積層体)12の通気度は、例えば、3000sec以上程度である。通気度が小さすぎると、隔膜で隔てられている流体が混合する虞がある。なお、通気度の上限は特に限定されず、全く通気しなくてもよい。なお、通気度はガーレー数を意味する。ガーレー数とは、100cm3の空気が1平方インチ(6.45cm2)当たりの面積を1.23kPaの圧力で流れるのに要する時間である。
【0050】
また本発明の隔膜(積層体)12の透湿度は、例えば、3000g/m2/24hr以上である。透湿度が低すぎると水蒸気の透過が不充分となり、隔膜12表面で水分が凝集して結露が発生し、膜劣化の原因となる。より好ましくは10000g/m2/24hr以上である。透湿度は高いほどよく、上限は限定されない。なお、透湿度はJIS規格のL1099(B−1法)に準拠して測定した値である。
【0051】
[製造方法]
次に、本発明に係る隔膜12を製造する方法について説明する。本発明の製造方法では、多孔質膜20と補強材40とを積層して積層体23を形成した後、この積層体23の補強材40側から、透湿性樹脂と溶剤の混合液を塗布し、次いで溶剤を蒸発させる。このようにすれば、多孔質膜20表面で塗布液が塞き止められ、界面に容易に透湿性樹脂膜30を形成でき、上記隔膜12を極めて簡便に製造できる。
【0052】
透湿性樹脂と溶剤の混合液は、溶液またはエマルジョンであり、溶剤としては、通常、水系溶剤が使用される。水系溶剤とは、水単独、または水と他の溶剤との混合溶剤を意味し、該他の溶剤としては、アルコール類(メタノールやエタノールなど)、ケトン類(アセトンなど)、エーテル類(テトラヒドロフランなど)、ニトリル類(アセトニトリルなど)などの水と良好に混ざる溶剤が挙げられる。なお、透湿性樹脂が非水溶性の場合、膜形成を容易にするため、エマルジョン化させてから塗布する。
【0053】
前記透湿性樹脂と溶剤の混合液を塗布する工程では、この混合液の濡れ性が重要となる。即ち、この混合液(塗布液)の多孔質膜20に対する濡れ性が高すぎると、多孔質膜20に塗布液が浸透してしまい、多孔質膜20表面で塗布液を塞き止めることができず、ひいては透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30を形成できない。また混合液(塗布液)の補強材40に対する濡れ性が低すぎると、混合液は液滴となって補強材40に付着するため、溶剤を蒸発させても、透湿性樹脂は層(膜)状にならない。従って混合液(塗布液)は、多孔質膜20に対して濡れ性が低く、補強材40に対しては逆に濡れ性が高いことが求められる。
【0054】
濡れ性は、多孔質膜20や補強材40を構成する樹脂の臨界表面張力γcを指標にして設定できる。臨界表面張力γcとは、表面自由エネルギー(単位面積を広げるのに必要なエネルギー)の目安としてZismanによって提唱された指標である(北原著、界面・コロイド化学の基礎、第8章「ぬれ」、講談社、1994年)。液体(塗布液)が固体(補強材など)の表面を完全に濡らす(接触角0度の状態)ためには、液体(塗布液)の表面張力γが、固体(補強材など)の臨界表面張力γc2よりも小さいことが必要とされ(γc2>γ;式A1)、逆に液体(塗布液)が固体(多孔質膜など)の表面を完全に濡らさないためには、液体(塗布液)の表面張力γが、固体(多孔質膜など)の臨界表面張力γc1よりも大きいことが必要とされる(γ>γc1;式B1)。
【0055】
ただし、実際には補強材40に対して塗布液が完全に濡れなくても、補強材40の空隙部(繊維間の隙間)は比較的大きいため、塗布液が補強材40中に浸透することができ、透湿性樹脂膜30の形成は可能である。但し、補強材40に対して塗布液の濡れ性が悪いと、塗布液が均一に浸透せず、透湿性樹脂膜30にピンホールなどの欠点が生じ易い。これらのことから、塗布液の表面張力γが補強材40の臨界表面張力γc2に比べて所定値a(aは、例えば、10mN/m程度、好ましくは5mN/m程度)程度まで大きくても透湿性樹脂膜30の形成は可能である。すなわちγc2+a≧γ(式A2)の関係を満足する範囲で、透湿性樹脂膜30の形成が可能である。一方、多孔質膜20との関係においても現実の現象を考慮すると前記式B1は修正される。すなわち多孔質膜20に対して塗布液が完全に濡れない場合であっても、毛細管現象によって塗布液が多孔質膜20内に浸透していくことがある。従って毛細管現象を考慮すると、塗布液の表面張力γは多孔質膜20の臨界表面張力γc1よりも所定値b以上、大きいことが求められる(γ≧γc1+b;式B2)。なお、前記bは、多孔質膜20の平均細孔径などに応じて変化する多孔質膜に固有の値であり、例えば5mN/m程度、好ましくは10mN/m程度である。
【0056】
そして前記式A2と式B2を統合するとγc2+a≧γc1+bとなり、整理するとγc2−γc1≧b−a(式C)となる。この式Cは、補強材40の臨界表面張力γc2と多孔質膜20の臨界表面張力γc1との関係を示しており、本発明の製造方法のように混合液を塗布して隔膜12を製造する場合には、その前提として、補強材40の臨界表面張力γc2と多孔質膜20の臨界表面張力γc1が前記式Cの関係を満足していることが必要となる。そして塗布液を調合する場合には、前記式A2及び式B2の関係を満足するように、塗布液の表面張力γを調整することが必要となる。
【0057】
式C,式A2、及び式B2の好ましい範囲を下記に示す。
【0058】
式C:
例えば、γc2−γc1≧−5mN/m(a=10mN/m、b=5mN/mのときなど)
好ましくは、γc2−γc1≧0mN/m(a=5mN/m、b=5mN/mのとき;a=10mN/m、b=10mN/mのときなど)
さらに好ましくは、γc2−γc1≧5mN/m(a=5mN/m、b=10mN/mのときなど)
特にγc2−γc1≧10mN/m
式A2:
例えば、γ≦γc2+10mN/m
好ましくは、γ≦γc2+5mN/m
さらに好ましくは、γ≦γc2
式B2:
例えば、γ≧γc1+5mN/m
好ましくは、γ≧γc1+10mN/m
さらに好ましくは、γ≧γc1+15mN/m
なお、一般的な材料の臨界表面張力γc(単位:mN/m)は、E.G.Shafrin, Polymer Handbook 2nd Ed. (J.Brandrup, E.H.Immergut ed.), John Wiley, New York, 1975, p−III/221に紹介されている。従ってこの値を参考にして、補強材40や多孔質膜20の素材を選択すれば、容易に上記式Cの関係を満足させることができる。主な材料の臨界表面張力を下記表1に示す。また臨界表面張力γcが知られていない素材で補強材40や多孔質膜20を形成する場合には、該素材によって形成された平滑シート(測定への影響が充分に小さい平滑なシート)を用い、ジスマンプロットによって使用素材の臨界表面張力γcを求めることができる。
【0059】
【表1】

【0060】
透湿性樹脂と溶剤の混合液(塗布液)の表面張力γ(単位:mN/m)は、垂直板法によって測定でき、この測定には協和界面科学株式会社製の自動表面張力計[CBVP−Z型(商品名)]を用いればよい。混合液(塗布液)の表面張力γは、透湿性樹脂の濃度や使用溶剤を適宜設定することによって調整できる。また必要に応じて界面活性剤などを使用してもよい。
【0061】
上記のようにして混合液(塗布液)−補強材40間の濡れ性、混合液(塗布液)−多孔質膜20間の濡れ性などは適切に制御できる。補強材40に対する混合液の接触角は、例えば、90°以下程度(好ましくは45°以下程度)となっており、補強材40側から混合液を塗布したとき、混合液は補強材40中を容易に浸透していき、しかも液滴化せずに透湿性樹脂膜30の形成が容易となる。一方、多孔質膜20に対する混合液の接触角は、例えば、10°以上(好ましくは30°以上)程度であれば、混合液が多孔質膜20に浸透していくのを防止でき、補強材40と多孔質膜20の界面50に透湿性樹脂膜30を形成できる。なお、多孔質膜20に対する混合液の接触角は、例えば、90°以下程度である。接触角が大き過ぎると、混合液が多孔質膜20表面で弾かれて透湿性樹脂膜30にピンホールが生じ易くなる。
【0062】
上記混合液には、必要に応じて難燃剤を添加してもよい。難燃剤を混合した塗布液を補強材40側から塗布することで、一度の操作で透湿性樹脂層30を形成できると共に、該透湿性樹脂層30に難燃性を付与できる。そのため隔膜12の難燃性を簡便に高めることができる。
【0063】
また、透湿性樹脂を架橋する場合には、上記塗布液に架橋剤を混合しておくのが簡便である。架橋剤としては、例えば、グルタルアルデヒドとHClとの混合液や、ホルムアルデヒド、ブロックドイソシアネートなどを用いることができる。
【0064】
塗布後の溶剤の蒸発は、大気圧下で行ってもよく減圧下で行ってもよいが、激しく蒸発させると透湿性樹脂膜30に穴が空くため、透湿性樹脂膜30に欠陥が生じない程度の条件で蒸発させることが必要となる。なお、本発明の製造方法では、多孔質膜20と補強材40とを接着するために接着剤を用いてもよいが、接着剤を使用すると多孔質膜20の通気性が低下する虞があり、また上述したように人体への悪影響が懸念される。そのため接着剤を使用することなく、多孔質膜20と補強材40とを熱融着することが推奨される。多孔質膜20と補強材40の熱融着は、混合液を塗布する前の多孔質膜20と補強材40とを積層した段階で行うのが望ましい。
【0065】
熱融着させる場合、補強材40の加熱温度は、該補強材40を構成する樹脂(低融点樹脂と高融点樹脂を組み合わせて使用する場合には低融点樹脂)の融点(融点を示さない場合は軟化点を意味する。以下同じ)以上であり、好ましくは融点(または軟化点)+10℃以上、である。なお、該加熱温度は、補強材40を構成する樹脂(低融点樹脂と高融点樹脂を組み合わせて使用する場合には低融点樹脂)の融点よりも50℃を超えない温度、好ましくは融点+40℃以下とすることが推奨される。加熱温度が高すぎると、樹脂が溶融し過ぎて補強材40が緻密な膜状となり、隔膜12の透湿性が低下するとともに、透湿性樹脂を含有する塗布液が補強材40中へ浸透しにくくなる。
【0066】
上述した製法によって本発明の隔膜12を、極めて簡便に製造することができる。そして本発明の隔膜12は、耐結露性および耐剥離性に優れているため、熱交換膜(例えば、エアコンディショナー用の熱交換膜)、加湿膜、除湿膜、パーベーパレーション膜(例えば、水とエタノールとを分離する際に用いる分離膜)などに好適に使用できる。
【0067】
[熱交換器]
上記隔膜12の用途の一例として、熱交換器について説明する。熱交換器の構造は特に限定されないが、一構成例を図面を用いて説明する。
【0068】
図4中、1はセパレータ、12は熱交換膜として使用される隔膜、3は排出空気の流れ、4は吸入空気の流れを夫々示している。セパレータ1は波状を呈しており、隔膜12と交合に積層されている。このときセパレータ1の波形方向は、隣り合う他のセパレータ1の波形方向と互いに直交するように配置されている。直交するように配置することで、排出空気と吸入空気の流路を形成できる。
【0069】
例えば、排出空気3が、暖房室内の暖かく加湿された空気であり、吸入空気4が戸外の冷たい乾燥した空気の場合、両者3,4はセパレータ1と隔膜12で形成される各流路を通過する際に、隔膜12を介して熱と湿気の交換が行なわれる。その結果、吸入空気4は暖められると共に、加湿された状態で暖房室内へ吸入される。従って、暖房室内の暖房効率が上昇すると共に、室内の空気の調湿も可能となる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0071】
実施例1
以下のようにして、図3に示す構造の隔膜12を製造した。
【0072】
[多孔質膜20]
多孔質膜20として延伸多孔質PTFEフィルム(ジャパンゴアテックス株式会社製「ゴアテックス(商品名)」、平均細孔径:0.1μm、空孔率:87%、厚み:5μm、通気度:3sec)を用いた。
【0073】
[補強材40]
補強材40として不織布(三重テック株式会社製「P08040」、目付け:40g/m2、空孔率65%、厚み120μm)を用いた。この不織布は、芯鞘構造の短繊維(株式会社ユニチカファイバー社製「メルティ(商品名)」;鞘部は融点110℃のポリエチレンテレフタレート、芯部は融点261℃のポリエチレンテレフタレート;平均繊維太さ3デニール)を用い、サーマルボンド方式によりシート状に加工されたものである。補強材1を形成する樹脂(鞘部=ポリエチレンテレフタレート)の臨界表面張力γc2と多孔質膜1を形成する樹脂(PTFE)の臨界表面張力γc1の差(γc2−γc1)は、43−18=25mN/mである。
【0074】
[透湿性樹脂と溶剤の混合液]
透湿性樹脂としてのポリビニルアルコール(クラレ社製ポバール「PVA217(商品名)」;けん化度=87〜89%、重合度=1700)を濃度3質量%となるように水に溶解させることによって、混合液Aを調製した。またこの混合液Aには、リン酸系難燃剤としての芳香族リン酸エステル系難燃剤(日華化学製「HF−77(商品名)」)およびリン酸グアニジン系難燃剤(日華化学製「P207−S(商品名)」)を、それぞれ濃度3質量%および10質量%となるように添加し、架橋剤としてのブロックドイソシアネート(明成化学製「メイカネートMF(商品名)」)を濃度3.5質量%となるように添加した。混合液Aの表面張力を垂直板法で測定した結果、39.4mN/mであった。表面張力の測定には、協和界面科学株式会社製の自動表面張力計「CBVP−Z型(商品名)」を用いた。
【0075】
[隔膜12]
前記多孔質膜20と前記補強材40とを140℃で熱融着させて積層し、得られた積層体23の補強材40側から前記混合液Aをワイヤーバーで塗布した(塗布量=95g/m2)。次いで温度150℃で1分間、さらに温度180℃で2分間熱処理し、上記溶剤(水)を蒸発させることによって隔膜12を得た(固形分の塗布量=10g/m2)。なお、前記加熱によって透湿性樹脂層1は架橋された。
【0076】
この隔膜12では、補強材40のうちの多孔質膜20側の界面に、透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30が形成されていた。
【0077】
比較例1
以下のようにして、図5に示す構造の隔膜13を製造した。すなわち多孔質膜20と補強材40からなる積層体23の多孔質膜20側から上記混合液Aをワイヤーバーで塗布する以外は、上記実施例1と同様にして隔膜13を得た。図5に示されるように、この隔膜13は、透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30/多孔質膜20/補強材40の3層構造を有する。
【0078】
比較例2
以下に示すようにして、図2に示す構造の隔膜11を製造した。
【0079】
[複合膜25]
実施例1と同じ多孔質膜20の表面に、ポリウレタン樹脂(ダウケミカル株式会社製「ハイポール2000」)およびエチレングリコールを、NCO/OHの当量比が1.2となる割合で混合して得られた混合液Bを塗布し、その後100℃で5分乾燥した。次いで、100℃、80%RH(相対湿度)の条件で60分湿熱処理して、多孔質膜20の片面に、ポリウレタン樹脂層(透湿性樹脂層)30が形成された複合膜25を得た。
【0080】
[補強材40]
ユニチカ株式会社製のスパンボンド不織布(「エルベス(商品名)」、目付量30g/m2)を補強材40として用いた。このエルベス(商品名)は、芯鞘構造(鞘部:融点120℃のポリエチレン、芯部:融点261℃のポリエチレンテレフタレート)の短繊維で形成された不織布であり、厚みは150μm、空孔率は80%である。
【0081】
[隔膜11]
前記複合膜25のポリウレタン樹脂層30側と補強材40とを150℃で熱融着させて積層し、隔膜11を得た。
【0082】
この隔膜11では、補強材40/透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30/多孔質膜20の3層構造となっていた。補強材40の内部に透湿性樹脂の浸透は認められなかった。
【0083】
比較例3
以下に示すようにして、図2に示す構造の隔膜11を製造した。
【0084】
[複合膜25]
実施例1と同じ多孔質膜20の表面に上記混合液Aを塗布し、温度150℃で1分間、さらに温度180℃で2分間熱処し、溶剤(水)を蒸発させて多孔質膜20の片面に透湿性樹脂層30を有する複合膜25を得た。なお、前記加熱によって透湿性樹脂層30は架橋された。
【0085】
[補強材40]
上記実施例1と同じ補強材40を使用した。
【0086】
[隔膜11]
前記複合膜25の透湿性樹脂層30側と補強材40とを150℃で熱融着させて積層し、隔膜11を得た。図2に示すように、この隔膜11は、補強材40/透湿性樹脂層(透湿性樹脂膜)30/多孔質膜20の3層構造となっていた。なお、補強材40の内部に透湿性樹脂の浸透は認められなかった。
【0087】
上記実施例及び比較例で得られた隔膜11〜13について、下記のようにして多孔質膜20−補強材40間の接着性、並びに隔膜11〜13の通気度、透湿度、および難燃性を測定した。
【0088】
[多孔質膜20−補強材40間の接着性]
多孔質膜20と補強材40を引き剥がし、180度法により接着性を測定した。すなわち実施例及び比較例で得られた隔膜11〜13を幅30mm、長さ100mmにカットして試験片を得た。この試験片について、多孔質膜20と補強材40との間を長さ方向に端から約15mm引き剥がし、引き剥がした部分の多孔質膜側と補強材側の端部をそれぞれチャックし、引張速度200mm/minで180度方向に引き剥がして応力の平均値を測定した。測定には島津製作所社製オートグラフ「AGS−100A(商品名)」を用いた。
【0089】
[隔膜11〜13の通気度]
隔膜11〜13の通気度は旭精工社製王研式透気度測定器「KG1(商品名)」を用いて測定した。
【0090】
[隔膜11〜13の透湿度]
隔膜11〜13の透湿度はJIS L1099(B−2法)に基づいて測定した。
【0091】
[隔膜11〜13の難燃性]
隔膜11〜13の難燃性はUL94で規定される燃焼性試験(VTM)に基づいて評価した。
【0092】
なお、隔膜11〜13に形成された各透湿性樹脂層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の倍率で測定した。
【0093】
結果を下記表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
表2から明らかな様に、実施例1で得られた隔膜12(図3参照)は、多孔質膜1と補強材1が直接積層されているため、剥離強度が大きく、接着性に優れていることが分かる。これに対し、比較例2または3で得られた隔膜11(図2参照)は、多孔質膜と補強材を透湿性樹脂層を介して積層しているため、剥離強度が小さく、接着性が悪い。
【0096】
通気度については、いずれの隔膜11〜13も通気度が3000sec以上で、低通気性を維持できている。透湿性については、ポリウレタン層30を設けた比較例2以外は、良好な透湿性を示した。
【0097】
実施例1で得られた隔膜12(図3参照)は、補強材40に内在する透湿性樹脂層30に難燃剤が含まれているため難燃性が向上した。これに対し、比較例1で得られた隔膜13(図5参照)は、多孔質膜20を挟んで補強材40とは反対側の面に透湿性樹脂層30を設けたため、不織布の難燃性は向上しておらず、不織布側から燃焼した。
【0098】
次に、上記隔膜11〜13の耐結露性を評価した。耐結露性は、透湿性樹脂層の表面に水を流し、この前後における質量変化に基づいて評価した。
【0099】
[隔膜11〜13の耐結露性]
実施例1で得られた隔膜12については補強材40が上になるように(図3参照)、比較例1で得られた隔膜13については透湿性樹脂層30が上になるように(図5参照)、比較例2及び比較例3で得られた隔膜11については補強材40が上になるようにして(図2参照)、仰角が約15°となるようにそれぞれ傾けた。これら隔膜11〜13の表面に水を30ml/分で供給し続けた。15時間後に質量を測定し、流水前後における質量変化を算出した。
【0100】
その結果、実施例1で得られた隔膜12は、水溶性樹脂(ポリビニルアルコール)で透湿性樹脂層30が形成されているにも拘わらず、非水溶性のポリウレタン樹脂で透湿性樹脂層30を形成した比較例2の場合と同様に、質量変化が認められず、耐結露性が著しく優れていた。よって隔膜12に結露が生じても透湿性樹脂等の流出を抑えることができる。これに対し、比較例1で得られた隔膜13については、約2%の質量変化が認められた。また比較例3で得られた隔膜11については、多孔質膜20と補強材40が測定中に剥離してしまい、流水前後における質量変化を算出できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は従来の隔膜の断面を示す概念図である。
【図2】図2は従来の他の隔膜の断面を示す概念図である。
【図3】図3は本発明の隔膜の断面を示す概念図である。
【図4】図4は本発明の隔膜を利用した熱交換器の一例を示す概略斜視図である。
【図5】図5は比較例1の隔膜の断面を示す概念図である。
【符号の説明】
【0102】
12 隔膜
20 多孔質膜
23 積層体
30 透湿性樹脂層
40 補強材
50 界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜と補強材との積層体であって、
前記補強材は、前記多孔質膜との界面側に透湿性樹脂層を内在していることを特徴とする隔膜。
【請求項2】
前記多孔質膜の平均細孔径が0.07〜10μm、前記補強材の空孔率が30〜95%である請求項1に記載の隔膜。
【請求項3】
前記透湿性樹脂が、水溶性のものである請求項1又は2に記載の隔膜。
【請求項4】
前記水溶性の透湿性樹脂が、ポリビニルアルコールである請求項3に記載の隔膜。
【請求項5】
前記補強材の臨界表面張力γc2と前記多孔質膜の臨界表面張力γc1の差(γc2−γc1)が、−5mN/m以上である請求項1〜4のいずれかに記載の隔膜。
【請求項6】
前記透湿性樹脂層が、難燃剤を含むものである請求項1〜5のいずれかに記載の隔膜。
【請求項7】
前記透湿性樹脂層が、吸湿剤を含むものである請求項1〜6のいずれかに記載の隔膜。
【請求項8】
前記補強材が、繊維状の樹脂で構成されている請求項1〜7のいずれかに記載の隔膜。
【請求項9】
前記繊維状の樹脂が、不織布である請求項8に記載の隔膜。
【請求項10】
前記繊維状の樹脂が、芯鞘構造の繊維で構成されており、鞘部を構成する樹脂の融点は、芯部を構成する樹脂の融点よりも低いものである請求項8または9に記載の隔膜。
【請求項11】
前記多孔質膜が、ポリテトラフルオロエチレンで構成されている請求項1〜10のいずれかに記載の隔膜。
【請求項12】
通気度が、3000sec以上である請求項1〜11のいずれかに記載の隔膜。
【請求項13】
透湿度が、3000g/m2/24hr以上である請求項1〜12のいずれかに記載の隔膜。
【請求項14】
多孔質膜と補強材とを積層した後、前記補強材側から、透湿性樹脂と溶剤の混合液を塗布し、次いで前記溶剤を蒸発させることを特徴とする隔膜の製法。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれかに記載の隔膜で熱交換膜が構成されていることを特徴とする熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−150323(P2006−150323A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355338(P2004−355338)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】