説明

集束イオンビーム装置

【課題】
アパーチャの寿命を長くでき、カラムバルブを閉じた際にも、コンタミの増加を防止し、また、再起動も短時間で行える集束イオンビーム装置を提供することにある。
【解決手段】
高圧電源制御器181は、カラムバルブ14の閉動作時に、引出電極17に印加する引出電圧を下げ、または、制御電極16に印加する制御電圧を下げて、エミッションを0μAにする。また、カラムバルブ14の開動作時に、引出電極17に印加する引出電圧を元に戻し、または、制御電極16に印加する制御電圧を元の電圧に戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細く絞ったイオンビームを試料に照射して試料の微細加工を行う集束イオンビーム装置に係り、特に、カラムバルブを有する集束イオンビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細く絞ったイオンビームを試料に照射して試料の微細加工を行う集束イオンビーム装置としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
このような集束イオンビーム装置では、加工精度(仕上がり形状の精度)は、イオンビームの細さ、すなわち試料上でのビームスポットの大きさで決まり、スループット(加工速度)はビームの電流量で決まる。そこで、高精度,高スループット加工を行うにはなるべく細く、かつ、大電流のビームを使用する必要がある。
【0004】
集束イオンビーム装置は、種々の大きさの電流量のビームが産み出せるように種々の大きさの細孔(アパーチャ)を有し、かつ、所望の大きさのアパーチャを光学系の中心軸上に持ち込めるように構成した絞り装置が装着されている。すなわち、より大きいアパーチャを使うことで大電流のビームが得られる。ところが、荷電粒子ビーム応用装置の特性として、大きなアパーチャを使用すること荷電粒子ビームを集束する光学系のレンズ収差のためにビームスポットが大きくなり、高精度の加工ができなくなるという問題がある。一方、収差の小さい小孔径のアパーチャを使用すると、ビームスポットは小さくできるがビーム電流が少なくスループットが低下する。
【0005】
そこで、加工を極力高精度で、かつ、高スループットで行うために、大電流ビームと微細ビームとを使い分けた複数工程の加工を行っている。すなわち、まず、加工領域全体を大きなアパーチャを使って得られる大電流ビームを用いて粗い精度で加工し(粗加工)、次に加工領域の境界付近を中程度の大きさのビームスポットと電流量を有するビームで加工し(中間加工)、さらに、小さなアパーチャを使った微細ビームで境界部の狭い領域を高精度で仕上げ加工する。
【0006】
この複数工程の加工に使用されるイオンビームの一例を挙げると、粗加工ビームとしては650μmφのアパーチャを用いて得られる電流量30nA、ビームスポット径1μmのビーム、中間加工用のビームとしては300μmφのアパーチャを用いて得られる電流量6nA、ビームスポット径0.15μm のビーム、仕上げ加工用のビームとしては40μmφのアパーチャを用いて得られる電流量0.1nA、ビームスポット径0.02μmのビームである。
【0007】
また、集束イオンビーム装置では、一般に、イオン銃と試料室の間に設けられたカラムバルブを備えている。カラムバルブは、真空を封じするバルブで、カラムバルブが閉じられている状態では、試料室が大気圧であっても、イオン銃は真空度10-6Pa程度を保持することができ、長時間装置を放置するような場合や試料交換では突発的真空リークがおきても良いように、安全のためカラムバルブは閉められる。
【0008】
【特許文献1】特開平10−162769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、アパーチャは、集束イオンビーム装置にあるイオン源のエミッションが止まらない限り常にビームの照射を受けて、アパーチャを通過するビームを制限して遮断している。イオンビームは、電子線に比べて103〜104重いためスパッタリング作用があり、アパーチャの部材はビームの照射によってスパッタされて、部材表面や細孔の側壁が削られて薄くなり細孔が拡がる。このため、アパーチャ径が大きくなり、所望のビームの電流量とビーム径が得られないので荷電粒子ビーム照射装置としての性能が悪くなる。回復するにはアパーチャの交換が必要になり、この時期までがアパーチャの寿命となる。このアパーチャの寿命は、単位面積当たりに蓄積されたビームの照射量(照射電流密度×照射時間)で略決まる。
【0010】
イオンビームを用いる微細加工において、加工の高精度性と高スループット性を評価するビーム性能の指標はビームの電流密度である。同じビームスポット径のイオンビームで比較すると、ビーム電流密度が高いほどより大きい電流のビームが照射されるので、同じ加工精度でより速い加工ができる。上記のイオンビームの例では、粗加工用ビーム、中間加工用ビーム、及び仕上げ加工用ビームのビームスポット上での電流密度は、それぞれ3.8A/cm2,34A/cm2,31.8A/cm2 であり、粗加工用ビームの電流密度は、中間加工用ビームと仕上げ加工用ビームに比べて著しく低い。
【0011】
集束イオンビームでTEM試料を作製する場合、薄膜にする仕上げ加工に時間を要し、仕上げビームの電流密度を更に高くすることが望まれる。
【0012】
今後、微細加工に利用されるビーム全範囲に亘って高い電流密度のビームを発生することのできるイオンビーム応用微小加工装置の開発が進み、ますますビームの電流密度が高くなってきている。このため、絞り機構のアパーチャに照射されるビームも狭い照射領域にビームが集中して電流密度が高くなってきているため、アパーチャ寿命の判断の目安になる単位面積当たりに蓄積されたビームの照射量(照射電流密度×照射時間)が上限に達するまでの時間(照射された領域が薄くなり開口径が変化し始める時間)が短くなってきているという問題がある。
【0013】
また、前述のようなカラムバルブを備えた集束イオンビーム装置では、カラムバルブを閉じた際に、イオン源からエミッションがでていれば、カラムバルブはビームで照射され、スパッタ粒子や2次電子が発生する。このため、カラムバルブのある真空容器の表面壁にあたり、表面壁のハイドロカーボンなどの吸着分子が分解して固化し、高抵抗または絶縁性の膜を堆積してコンタミが増加するという問題が生じる。そこで、例えば、カラムバルブを閉じた際、高圧電源を切ることでエミッションを出さなくすることはできるが、高圧電源を再度オンした際、エミッションが安定化するまで時間がかかるため、再起動に時間がかかるという問題が生じる。
【0014】
本発明の目的は、アパーチャの寿命を長くでき、カラムバルブを閉じた際にも、コンタミの増加を防止し、また、再起動も短時間で行える集束イオンビーム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、カラムバルブの開閉動作に応じて、引出電極に印加する引出電圧を制御し、または、制御電極に印加する制御電圧を制御し、または、コンデンサ電極の印加電圧を制御することに関する。
【0016】
また、本発明は、引出電極に印加する引出電圧を下げ、または、制御電極に印加する制御電圧を下げてエミッションを0μAにするか、または、コンデンサ電極の印加電圧を下げて前記イオンビームのビーム径を広げることに関する。好ましくは、引出電極に印加する引出電圧、または、コンデンサ電極の印加電圧を元の電圧に戻す。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、適宜必要なときにエミッションを出すことができる為、イオン源とアパーチャの寿命を長くでき、カラムバルブを閉じた際にも、コンタミの増加を防止し、また、再起動も短時間で行えるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、上記及びその他の新規な特徴と効果について、図面を参酌して説明する。尚、図面はもっぱら説明のために用いるものであり、権利範囲を減縮するものではない。
【実施例1】
【0019】
以下、図1〜図5を用いて、本発明の第1の実施形態による集束イオンビーム装置の構成について説明する。最初に、図1を用いて、本実施形態による集束イオンビーム装置の光学系について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態による集束イオンビーム装置の光学系の説明図である。
【0020】
最初に、イオンビーム微細加工法において、試料の加工位置決め,粗加工,中間加工,仕上げ加工のそれぞれの工程で利用するアパーチャの孔径とレンズ動作条件を選ぶことにより、より高スループットの加工が可能となる理由について説明する。すなわち、ビームの利用目的によって、それに最適なアパーチャ径とレンズ動作条件の組み合わせがある理由である。
【0021】
図1は、イオンビーム照射装置においてイオンビームが生成される様子を示している。ビーム9による試料10上のビームスポットは、イオン源1の像をコンデンサレンズ2と対物レンズ8からなる光学系を用いて試料10の上に投射する方法で作られる。光学系の結像倍率が小さいほどイオン源1は小さな像20に投影されるので、試料10上に小さなビームスポットを与える。ビームスポットの小さな細いビームは、加工位置決め工程に従うのに適している。
【0022】
一方、加工には、スループットを上げるために電流の大きいビームを使う必要がある。そこで直径の大きい絞り装置3を使用する。ところが絞り装置3の径を大きくするとレンズ収差のためにビーム径が増大し、試料10上には拡がったビームスポット21が形成される。ただし、試料10に投影されたイオン源像20の大きさは変わっていない。図1に示すようにこの状態では、収差が試料10上におけるビームスポットの大きさを決めている。
【0023】
光学系における輝度保存則の原理によれば、結像倍率が大きいほど大きいビーム電流が得られる。この原理によれば、大きいアパーチャを使用して電流量を増やしたビームは、前述のようにすでに収差によりビーム径が増大しているので、もう少し大きい結像倍率でイオン源を図1の投影像22として示した程度のサイズを有するように投影しても、ビーム径をそれほど増やすことなく、大きなビーム電流が得られるはずである。更に結像倍率を大きくすると電流量は更に増えるが、今度は、収差に比べてイオン源像が大きくなり、試料10上でのビームスポット径が大きくなりすぎる。
【0024】
ビームスポット径が比較的小さい状態で、かつ、大きな電流を含む,すなわち、細くてかつ高い電流密度を有するイオンビームは、収差によるビームの拡がりとイオン像との大きさとがバランスするような結像倍率で生成されたイオンビームである。この最適な結像倍率は、アパーチャの大きさとイオン源の大きさから計算で求めることができる。また、その最適倍率が決まれば、その倍率でイオンビームを生成するに必要なレンズ動作条件(
レンズの印加電圧あるいは励磁電流)も計算により求めることができる。
【0025】
更に大きい電流量のビームを産み出すには、更に大きなアパーチャを利用する。この場合収差も大きくなるので、このアパーチャに対する光学系の最適倍率は更に大きな倍率になる。すなわち、イオンビーム加工装置においては、加工位置決め,粗加工,中間加工,仕上げ加工のそれぞれに対して、それぞれの目的に最適なアパーチャ径と結像倍率の組み合わせがあり、その組み合わせを使ってそれぞれの作業を行うことにより、効率的に加工作業を行うことができる。すなわち、より細いビームで高精度の加工位置決めを行い、かつ、電流密度の高いビームで高スループットの加工ができる。
【0026】
なお、図1において、符号13は、イオン銃とレンズの間の隔壁を示している。
【0027】
次に、図2を用いて、本実施形態による集束イオンビーム装置の構成について説明する
。ここでは、集束イオンビーム装置をイオンビーム加工装置に適用した例を示している。
【0028】
図2は、本発明の第1の実施形態による集束イオンビーム装置の構成を示す部分断面の斜視図である。
【0029】
イオン源1より照射されたビーム9は、コンデンサレンズ2により弱い集束作用を受け、絞り装置3を照射する。絞り装置3は、たとえば、直径5μm,40μm,300μm,650μmの4個のアパーチャを有し、アパーチャ移動装置によって左右に動かされるので、任意のアパーチャを装置の中心軸上に持ち込むことができる。絞り装置3のアパーチャを通り抜けたビームは、アライナー/スティグマ4,ブランカー5,ブランキングプレート6,ビーム走査器7を経て対物レンズ8に入る。ビーム9は、対物レンズ8により細く絞られて、試料ステージ11に載せられた試料10を照射する。試料10上のイオンビーム照射位置は、ビーム走査器7により制御される。ビーム9を試料10に照射することで発した信号は、検出器12で検出され、ビーム走査器7の操作信号と同期を取って像を画面に表示する。
【0030】
絞り装置3のアパーチャで得られるビーム9は、各アパーチャで最大電流密度になるように倍率制御されており、直径5μmでは、ビーム電流1pAでビーム径6nmφ、直径40μmでは、ビーム電流0.2μAでビーム径30nmφ、直径300μmでは、ビーム電流20nAでビーム径0.25μmφで電流密度60A/cm2、直径520μmでは、ビーム電流60nAでビーム径1μmφで電流密度7.6A/cm2のビームが得られる。
【0031】
図2を用いて集束イオンビーム装置の各構成要素の位置関係を説明する。
【0032】
高電流密度のビームを作るために引出,コンデンサレンズ2は、イオン源1にできるだけ近くする必要がある。また、絞り装置3のアパーチャで制限されたビームを偏向しないと偏向収差の影響を大きく受けるので、絞り装置3のアパーチャ(対物絞り)は、偏向器の前に置く。また、対物レンズ8は、分解能を良くするためにイオン源1から離して設置し、像縮小率を高くする必要がある。ブランキングプレート(ファラディーカップ)6は、ブランカー5のブランカーの下流(以下、位置関係でよりイオン源側を上流、試料側を下流とする)に、かつ、加工ビームの電流を測る目的から絞り装置3のアパーチャの下流に設置する必要がある。これらの位置関係において、カラムバルブは、各構成要素の真空度を守る目的から絞り装置3のアパーチャと対物レンズ8の間に設置される。図2においては、ブランキングプレート(ファラディーカップ)6の直ぐ上流にカラムバルブを設置する。
【0033】
集束イオンビーム装置は、加工観察において常にビーム9が試料10に照射する必要がなく、加工中以外は適宜ビームを遮断する必要がある。遮断ができなければ常に試料10にビーム9が照射されて余分な加工をすることになる。そのため、ブランカー5によってビームを偏向し、ブランキングプレート6によって捕集する。
【0034】
次に、図3を用いて、本実施形態による集束イオンビーム装置に用いるカラムバルブの構成について説明する。
【0035】
図3は、本発明の第1の実施形態による集束イオンビーム装置に用いるカラムバルブの構成を示す要部断面図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0036】
隔壁23は、イオン銃と試料室との間に配置されている。隔壁23の近傍にカラムバルブ14が設けられている。図3(A)に示すように、カラムバルブ14が開いている状態では、ビーム9は、隔壁13に形成された開口を経て、試料室に導かれ、試料の微細加工が行われる。
【0037】
試料の加工終了後、必要に応じて、図3(B)に示すように、カラムバルブ14が閉じられる。カラムバルブ14は、真空を封じするバルブで、カラムバルブ14が閉じられている状態では、試料室が大気圧であっても、イオン銃は真空度10-6Pa程度を保持することができる。
【0038】
カラムバルブ14が閉まるとき、カラムバルブ14はビーム9通路を塞ぐ形で真空を封じるので、カラムバルブ14を閉にすることは、エミッションが出ている状態では、カラムバルブ14にビーム9が照射されてスパッタ粒子や2次電子15が発生するためカラムバルブのある真空容器の表面壁にあたり、表面壁のハイドロカーボンなどの吸着分子が分解して固化し堆積して汚すことになる。この汚れのためビームドリフトが大きくなり加工位置がずれたり、ビームを細く絞れなくなったりする。更にまた、カラムバルブ14が閉まっている状態でも絞り装置3のアパーチャにはビームが照射しているので、アパーチャはスパッタを受けて消耗して交換する周期を短くする。これを回避する方法として、カラムバルブ14の閉じ動作に連動して高圧電源を切ることも考えられるが、これでは、高圧電源の再起動に時間がかかり、使い勝手が悪いことになる。
【0039】
そこで、本実施形態では、カラムバルブ14が閉まるのに連動して高圧電源を切ることなくビーム9をOFFするように、また、カラムバルブ14が開く場合は高圧電源がONであればビーム9をONするようにした。このように、高圧電源を切ることなくビームをON/OFFして、ビームをオフすることでコンタミを低減し、また、ビームがOFFからONの場合は再現性良く元のエミッション状態に戻すことができる。
【0040】
次に、図4及び図5を用いて、本実施形態による集束イオンビーム装置のシステム構成について説明する。
【0041】
図4は、本発明の第1の実施形態による集束イオンビーム装置のシステム構成図である
。図5は、本発明の第1の実施形態による集束イオンビーム装置の制御動作の説明図である。なお、図4において、図1〜図3と同一符号は、同一部分を示している。
【0042】
図4に示すように、イオン源1には、イオン源1からエミッションを引き出す引出電極17と、エミッションを一定に制御する制御電極16と、コンデンサ電極19とが備えられている。また、イオン源1の下流には、ビームを制限する絞り装置3と、隔壁23に備えられたカラムバルブ14が設けられている。
【0043】
また、イオン源1からエミッションを引き出す引出電極17には、引出電源Veから電力が供給される。エミッションを一定に制御する制御電極16には、制御電極電源Vsから電力が供給される。その他に、エミッションを加速する電源Vaや、コンデンサ電極19の制御電源Vcを備えている。
【0044】
高圧電源制御器181は、高圧電源Vs,Ve,Va,Vcを制御する。カラムバルブ制御器182は、カラムバルブ14の開閉を制御する。主制御器18は、高圧電源制御器181やカラムバルブ制御器182などを含め、装置全体を制御する。
【0045】
カラムバルブ制御器182は、制御器18からのカラムバルブ14を閉める指令に基づいて、カラムバルブ14を閉める。また、カラムバルブ14が閉まると、制御器18は、エミッションを0μAにするように高圧電源制御器181に指令を出力する。高圧電源制御器181は、引出電源Veの電圧を下げて、高圧電源を切ることなくビームをOFFする。
【0046】
ここで、図5を用いて、液化金属イオン源(Liquid Metal Ion Source:LMIS) のエミッション特性を表す指標として、Ie/Ve特性(電圧変化に対するエミッション電流の変化特性)について説明する。
【0047】
Ga LMISでは、代表的な値として、Ie/Ve特性≒0.1μA/V である。したがって、引出電圧(約8kV)を±50V変化させるとエミッションが±5μA変化する。エミッション電流が、引出電圧Aのとき2.4μA であれば、引出電圧を50V下げると、エミッションが0μAになり、ビームをOFFする。ビームをONするときは、引出電圧50V高めると、ビームをOFFする前のエミッション電流2.4μA になる。Ga LMISは、エミッションが止まっている間にGa表面が酸化や2次電照射などで汚れがなければIe/Ve特性の変化はないものである。イオン銃の真空度は10-6Pa程度であり、エミッションが出ていない状態ではスパッタ粒子や2次電子の発生がないので、元の引出電圧にすると再現性良く元のエミッション状態になる。これによって、高圧電源をオフした後オンした場合のように、ビームが元の状態に戻る待ち時間がなく、スムーズに休止状態から実行状態に移行できる。ただし、制御電圧±50Vは、LMISとエミッションを引き出す電源の構成によって変わる。たとえば、引出電源にバイアス抵抗RとしてR=300MΩの抵抗が入っている場合を考えると、引出電圧Vext=8kVでエミッションIe=3.2μAが出ている場合、実際にLMISにかかる引出電圧Veは、Ve=Vext−R×Ie=7.04kV である。このとき、エミッションを0にするため、引出電圧を1kV下げたとしてVe=7kVであるから、実際の引出電圧の変化は40Vである。このような意味において見かけの制御電圧は装置によって異なる。
【0048】
加工終了後、ビームをONの状態のままにするかOFFの状態にするかは、制御画面から選択できるようにする。加工終了後、しばらく装置を使わない場合は、カラムバルブの閉を選択して、直ぐ使う場合は選択しない。ビームがOFFに選択された場合は、加工終了後カラムバルブが閉まり、それと連動してイオン源のエミッションを制御する。
【0049】
また、エミッション引出系(引出電極またはエミッション制御電極)に一定の電圧(例えば、+50V)を加えて、引出電圧を下げて、エミッションを0μAにすることで、アパーチャに蓄積する照射量を抑えてビームが必要な時に元の引出電圧に戻してビームを元の状態に戻すことができ、かつ、アパーチャの寿命を延ばすことができる。ここで、アパーチャの寿命に関するならば、カラムバルブとの連動を考えずにエミッションを0μAにしてもよいものである。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、カラムバルブの閉鎖に連動して、引出電源Veの電圧を下げて、高圧電源を切ることなくビームをOFFすることができるので、アパーチャに蓄積する照射量を抑えてアパーチャの寿命を延ばすことができる。
【実施例2】
【0051】
次に、図6を用いて、本発明の第2の実施形態による集束イオンビーム装置のシステム構成について説明する。なお、本実施形態による集束イオンビーム装置の光学系は、図1に示したものと同様である。また、本実施形態による集束イオンビーム装置の構成は、図2に示したものと同様である。さらに、本実施形態による集束イオンビーム装置に用いるカラムバルブの構成は、図3に示したものと同様である。
【0052】
図6は、本発明の第2の実施形態による集束イオンビーム装置のシステム構成図である。なお、図6において、図5と同一符号は、同一部分を示している。
【0053】
本実施形態では、図4に示した構成に加えて、バイアス電源VBと切替手段SWを備えている。バイアス電源VBは、例えば、−50Vの一定電圧の電源である。高圧電源制御器181Aは、切替手段SWを制御して、バイアス電源VBを引出電源Veに直列に接続したり、接続しなかったりを切り替えることができる。
【0054】
カラムバルブ制御器182が、制御器18からのカラムバルブ14を閉める指令に基づいて、カラムバルブ14を閉めると、制御器18は、エミッションを0μAにするように高圧制御器181Aに指令を出力する。高圧制御器181Aは、切替手段SWを制御して、バイアス電源VBを引出電源Veに直列に接続することで、引出電源Veの電圧を下げて、エミッションを0μAにすることで、高圧電源を切ることなくビームをOFFする。
【0055】
また、カラムバルブ14を開いたときは、高圧制御器181Aは、切替手段SWを制御して、バイアス電源VBを引出電源Veから切り離すことで、引出電極17には、元の引出電圧を印加できるため、正確に元のエミッション状態に戻すことができる。
【0056】
バイアス電源VBによるバイアス電圧は、液化金属イオン源(LMIS)のエミッション開始電圧(閾値電圧:約8kV)に対して−50V程度の電圧としている。加速電圧と引出電圧は、基本的に変えないでバイアス電源を引出電源に浮かして電圧を重畳して印加して引出電圧を制御している。
【0057】
なお、バイアス電圧を−50Vの定格としたが、可変にして制御してもよいものである。ただし、Ga LMISは、エミッションが止まっている間にGa表面が酸化や2次電照射などで汚れがなければ特性の変化はない。イオン銃の真空度は10-6Pa程度でありバイアス電圧がかかってエミッションが出ていない状態では2次電子の発生がないので、バイアス電圧を0にすると再現性良くもとのエミッション状態になるので基本的には定格のバイアス電圧でよいものである。
【0058】
本実施形態によれば、カラムバルブの閉鎖に連動して、引出電源Veの電圧にバイアス電圧を加えることで、高圧電源を切ることなくビームをOFFすることができるので、アパーチャに蓄積する照射量を抑えてアパーチャの寿命を延ばすことができる。
【0059】
また、バイアス電圧を加えないようにすることで、正確に元のエミッション状態に戻すことができる。
【実施例3】
【0060】
次に、図4を用いて、本発明の第3の実施形態による集束イオンビーム装置のシステム構成について説明する。なお、本実施形態による集束イオンビーム装置の光学系は、図1に示したものと同様である。また、本実施形態による集束イオンビーム装置の構成は、図2に示したものと同様である。さらに、本実施形態による集束イオンビーム装置に用いるカラムバルブの構成は、図3に示したものと同様である。
【0061】
図4に示した実施形態では、引出電圧Veを下げることで、エミッションを0μAにして、高圧電源を切ることなくビームをOFFしているのに対して、本実施形態では、高圧電源制御器181は、制御電圧Vsを下げることで、エミッションを0μAにして、高圧電源を切ることなくビームをOFFする。
【0062】
このとき、図6にて説明したように、制御電圧Vsにバイアス電源からバイアス電圧を重畳するようにしてもよいものである。
【0063】
本実施形態によっても、高圧電源を切ることなくビームをOFFすることができるので、アパーチャに蓄積する照射量を抑えてアパーチャの寿命を延ばすことができる。
【実施例4】
【0064】
次に、図4を用いて、本発明の第4の実施形態による集束イオンビーム装置のシステム構成について説明する。なお、本実施形態による集束イオンビーム装置の光学系は、図1に示したものと同様である。また、本実施形態による集束イオンビーム装置の構成は、図2に示したものと同様である。さらに、本実施形態による集束イオンビーム装置に用いるカラムバルブの構成は、図3に示したものと同様である。
【0065】
図4に示した実施形態では、引出電圧Veを下げることで、エミッションを0μAにして、高圧電源を切ることなくビームをOFFしているのに対して、本実施形態では、高圧電源制御器181は、コンデンサ電圧Vcを下げる。コンデンサ電圧Vcが下がることで、ビーム9のビーム径が広がり、アパーチャの単位面積当たりのビーム照射量が低下するので、アパーチャの寿命を長くすることができる。
【0066】
このとき、図6にて説明したように、コンデンサ電圧Vcにバイアス電源からバイアス電圧を重畳するようにしてもよいものである。
【0067】
本実施形態によっても、アパーチャに蓄積する照射量を抑えてアパーチャの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施形態による集束イオンビーム装置の光学系の説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による集束イオンビーム装置の構成を示す部分断面の斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による集束イオンビーム装置に用いるカラムバルブの構成を示す要部断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による集束イオンビーム装置のシステム構成図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による集束イオンビーム装置の制御動作の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態による集束イオンビーム装置のシステム構成図である。
【符号の説明】
【0069】
1 イオン源
2 コンデンサレンズ
3 絞り装置
4 アライナー/スティグマ
5 ブランカー
6 ブランキングプレート
7 ビーム走査器
8 対物レンズ
9 ビーム
10 試料
11 ステージ
12 検出器
14 カラムバルブ
16 制御電極
17 引出電極
18 制御器
19 コンデンサ電極
23 隔壁
181 高圧電源制御器
182 カラムバルブ制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源と、前記イオン源からエミッションを引き出す引出電極と、前記引出電極により前記イオン源から引き出されたイオンビームを収束するレンズと、このレンズを形成するコンデンサ電極と、前記イオンビームのビーム電流を制限するアパーチャと、真空度を保持するカラムバルブとを有する集束イオンビーム装置であって、
前記カラムバルブの開閉動作に応じて、前記引出電極に印加する引出電圧を制御し、または、前記コンデンサ電極の印加電圧を制御する制御手段を備えたことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項2】
請求項1記載の集束イオンビーム装置において、
前記制御手段は、前記カラムバルブの閉動作時に、前記引出電極に印加する引出電圧を、または、前記コンデンサ電極の印加電圧を下げるとともに、前記カラムバルブの開動作時に、前記引出電極に印加する引出電圧、または、前記コンデンサ電極の印加電圧を元の電圧に戻すことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項3】
請求項2記載の集束イオンビーム装置において、さらに、
バイアス電圧を発生するバイアス電源を備え、
前記制御手段は、前記カラムバルブの閉動作時に、前記引出電極、または、前記コンデンサ電極に前記バイアス電源を接続するとともに、前記カラムバルブの開動作時に、前記引出電極、または、前記コンデンサ電極から前記バイアス電源の接続を切り離すことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項4】
イオン源と、前記イオン源から引き出されるエミッションを一定に制御する制御電極と、前記引出電極及び前記制御電極により前記イオン源から引き出されたイオンビームを収束するレンズと、このレンズを形成するコンデンサ電極と、前記イオンビームのビーム電流を制限するアパーチャと、真空度を保持するカラムバルブとを有する集束イオンビーム装置であって、
前記カラムバルブの開閉動作に応じて、前記制御電極に印加する制御電圧を制御し、または、前記コンデンサ電極の印加電圧を制御する制御手段を備えたことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項5】
請求項3記載の集束イオンビーム装置において、
前記制御手段は、前記カラムバルブの閉動作時に、前記制御電極に印加する制御電圧を、または、前記コンデンサ電極の印加電圧を下げるとともに、前記カラムバルブの開動作時に、前記制御電極に印加する制御電圧、または、前記コンデンサ電極の印加電圧を元の電圧に戻すことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項6】
請求項5記載の集束イオンビーム装置において、さらに、
バイアス電圧を発生するバイアス電源を備え、
前記制御手段は、前記カラムバルブの閉動作時に、前記制御電極、または、前記コンデンサ電極に前記バイアス電源を接続するとともに、前記カラムバルブの開動作時に、前記制御電極、または、前記コンデンサ電極から前記バイアス電源の接続を切り離すことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項7】
イオン源と、前記イオン源からエミッションを引き出す引出電極と、前記引出電極により前記イオン源から引き出されたイオンビームを収束するレンズと、このレンズを形成するコンデンサ電極と、前記イオンビームのビーム電流を制限するアパーチャとを有する集束イオンビーム装置であって、
前記引出電極に印加する引出電圧を、または、前記コンデンサ電極の印加電圧を下げるとともに、前記引出電極に印加する引出電圧、または、前記コンデンサ電極の印加電圧を元の電圧に戻す制御手段を備えたことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項8】
請求項7記載の集束イオンビーム装置において、さらに、
バイアス電圧を発生するバイアス電源を備え、
前記制御手段は、前記引出電極、または、前記コンデンサ電極に前記バイアス電源を接続するとともに、前記引出電極、または、前記コンデンサ電極から前記バイアス電源の接続を切り離すことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項9】
イオン源と、前記イオン源から引き出されるエミッションを一定に制御する制御電極と、前記制御電極により前記イオン源から引き出されたイオンビームを収束するレンズと、このレンズを形成するコンデンサ電極と、前記イオンビームのビーム電流を制限するアパーチャとを有する集束イオンビーム装置であって、
前記制御電極に印加する制御電圧を、または、前記コンデンサ電極の印加電圧を下げるとともに、前記制御電極に印加する制御電圧、または、前記コンデンサ電極の印加電圧を元の電圧に戻す制御手段を備えたことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項10】
請求項9記載の集束イオンビーム装置において、さらに、
バイアス電圧を発生するバイアス電源を備え、
前記制御手段は、前記制御電極、または、前記コンデンサ電極に前記バイアス電源を接続するとともに、前記制御電極、または、前記コンデンサ電極から前記バイアス電源の接続を切り離すことを特徴とする集束イオンビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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