説明

集積化非担持スラリー触媒事前調整方法

真空残留物水素化処理ユニットにおいて活性を改善するためにスラリー触媒を事前調整することを伴う、スラリー水素化処理方法。スラリー触媒を事前調整することにより、その温度が上昇し、それによって触媒スラリーが水素化処理反応器に入る際に、触媒スラリーに対する衝撃が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
真空残留物水素化処理ユニットにおいて活性を改善するためにスラリー触媒を事前調整することを伴う、スラリー水素化処理方法。
【0002】
発明の背景
重い供給原料の水素化処理における、スラリー触媒組成物、その調製手段およびその使用は、精製技術分野で知られている。いくつかの例を以下で考察する。
【0003】
米国特許第4,710,486号では、分散VIB族金属硫化物炭化水素油水素化処理触媒の調製方法が開示されている。プロセスステップには、アンモニア水と酸化モリブデンまたは酸化タングステンなどのVIB族金属化合物とを反応させることによって、モリブデン酸アンモニウムまたはタングステン酸アンモニウムなどの水溶性酸素含有化合物を生成するステップが含まれる。
【0004】
米国特許第4,970,190号では、炭化水素油水素化処理で使用するための分散VIB族金属硫化物触媒の調製方法が開示されている。この触媒はVIII族金属で促進される。プロセスステップには、酸化モリブデンまたは酸化タングステンなどのVIB族金属化合物をアンモニアに溶解させることによって、水性モリブデン酸アンモニウムまたはタングステン酸アンモニウムなどの水溶性化合物を生成するステップが含まれる。
【0005】
スラリー水素化処理プロセスは、触媒を含むスラリーが合成および貯蔵される温度よりも高い温度で頻繁に操作される。例えば、米国出願第20060054533号のスラリー水素化分解法は、少なくとも800°Fの温度、約1500psiから約3500psiの水素圧で、一般に操作される。スラリー触媒は、温度約450°Fおよび約400psiの水素圧で、真空残留物水素化処理ユニットの反応器(1つを超える場合、最初の反応器)に一般に入る。この温度と圧力の差により、非常に活性なスラリー触媒は衝撃を与えられ、コークスの生成が促進される。コークス生成により、この触媒による変換効率が減少する。
【0006】
発明の概要
本願は、スラリー水素化処理、特にスラリー水素化分解に関する方法を開示し、この方法において、スラリー触媒は、真空残留スラリー水素化処理プロセスの1つまたは複数の反応器中に入る前に事前調整される。スラリー触媒を事前調整することによりその温度が上昇し、それによってスラリー触媒が水素化処理反応器に入る際に、このスラリー触媒に対する衝撃が低減される。
【0007】
本発明の方法は、以下のように要約される。少なくとも1つの反応段階を有する重油の水素化処理方法であって、以下のステップ、すなわち、
(a)真空残留スラリー水素化処理ユニット内で、スラリー水素化処理条件下の炭化水素供給原料流を、水素流およびスラリー水素化処理触媒を含む流れと接触させ、使用済みスラリー水素化処理触媒と未変換の炭化水素供給原料を含む流れとともに、生成物流を回収するステップと、
(b)使用済みスラリー水素化処理触媒と未変換の炭化水素供給原料を含む流れを脱油ユニットに送り、そこでこれが溶媒と混合され、次いで生成物およびガス、ならびに使用済みスラリー触媒を含む流れが回収されるステップと、
(c)使用済みスラリー触媒を含む流れを金属回収ユニットに送り、そこでこれがアンモニウム浸出液と接触することによって、硫酸アンモニウムならびにVIII族およびVIB族金属を含む化合物が回収されるステップと、
(d)VIII族およびVIB族金属を含む化合物を触媒合成ユニットに送り、そこでこれらがアンモニア、硫化水素ガス、炭化水素流、水素、および少量の水と接触することによって、硫酸アンモニウムを含む油中の活性スラリー触媒が作製されるステップと、
(e)ステップ(d)の流出物を事前調整ユニット中に送ることによって、温度を上昇させ、スラリー触媒に対する衝撃を低減するステップであって、この流出物は、水素と接触し、分解されて硫化水素とアンモニア、すなわち、事前調整ユニットから除去される流れになるステップと、
(f)油中の活性スラリー触媒を含むステップ(e)の流出物を、貯蔵庫または真空残留スラリー水素化処理ユニットに送るステップと
を含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】事前調整されたスラリー触媒を使用する、真空残留スラリー水素化処理についての本発明で開示される方法を例示する図である。
【0009】
発明の詳細な説明
水素を含む流れ1は、真空残留スラリー水素化処理ユニット(VRHU)10に入る。本発明で使用することができる水素化処理方法には、水素化分解、水素処理、水素化脱硫、水素化脱窒素(hydrodenitrification)、および水素化脱金属が含まれる。しかし、水素化分解が好ましい方法である。VRHU10には、供給原料流2(真空残留物が一般的な供給原料である)、水素流3およびスラリー触媒流26(これは、水を含む流れ3と混合することができる)も入る。スラリー水素化分解法は、少なくとも800°Fの温度、約1500psiから約3500psiの水素圧で、一般に操作される。スラリー触媒は、事前調整後に温度約700°Fおよび約2000psiの水素圧で、真空残留物水素化処理ユニットの反応器(1つを超える場合、最初の反応器)に一般に入る。
【0010】
生成物は、流れ55を通じてVRHU10を出る。未変換の油を含む使用済みスラリー触媒流である流れ4は、脱油ユニット20に入り、そこでこれは、トルエンまたはナフサなどの溶媒(流れ6)に接触することによって、生成物とガス(流れ5)が取り出される。脱油には固体濃縮と液体除去が伴い、これらには、十字流濾過、遠心分離、乾燥および反応停止ステップが使用される場合がある。
【0011】
流れ7は、脱油された使用済みスラリー触媒を含む。流れ7は、金属回収ユニット(MRU30)に入る。濃縮空気は、流れ8を通じてMRU30に入る。流れ9は、ケトキシムなどの、金属抽出に適した溶媒である。MRU30での一連の溶媒抽出および結晶化ステップを通じて、副生成物の硫酸アンモニウムとともに油流からの金属が回収される(流れ27)。バナジウムは、Vとして流れ11を通じて除去される。使用済み金属抽出溶媒は流れ12を通じて除去され、廃水は流れ13を通じて除去される。
【0012】
CASHプロセスで使用されるVIII族金属は、ニッケルであることが多い。ニッケルは硫酸ニッケル流(流れ14)として回収され、触媒合成ユニット(CSU40)に送られる。硫酸ニッケル流の一部(流れ16)を迂回させることによって、触媒合成ユニット(CSU40)に入るニッケル量を制御することができる。モリブデンなどの回収されたVI族金属は、流れ15でMRUを出る。金属がモリブデンである場合、これは二モリブデン酸アンモニウム流(流れ15)として回収され、触媒合成ユニット(CSU40)に送られる。軽質炭化水素またはVGO(真空ガス油)(流れ17)は、少量の水(流れ18)とともに触媒合成ユニット(CSU40)中に入る。流れ19は水素を含む。
【0013】
触媒合成ユニット(CSU40)では、条件には80°Fから200°Fの範囲、好ましくは100°Fから180°Fの範囲、最も好ましくは130°Fから160°Fの範囲の温度が含まれる。圧力は、100から3000psigの範囲、好ましくは200から1000psigの範囲、最も好ましくは300から500psigである。
【0014】
成分はCSU40内で混合されることによって、油中の活性スラリー触媒が生成される。CSU40に加えられる硫酸ニッケルとアンモニアガスから生成される、少量の硫酸アンモニウムもこの流れ中に存在する。小規模の水の流れ(流れ18)は、溶液中の少量の硫酸アンモニウムを維持するように作用する。これにより装置中での沈殿が防止される。油中の活性スラリー触媒(流れ21)は、触媒事前調整ユニット(CPU50)に入る。水素は、流れ24を通じてCPU50に入る。
【0015】
触媒事前調整ユニット(CPU50)のプロセス条件には、約400°Fから約1000°F、好ましくは約500°から約800°F、最も好ましくは約600°Fから約700°Fの温度範囲が含まれる。圧力は、約100から約3000psi、好ましくは300から約2500psi、より好ましくは約500から約2000psiの範囲である。水素の割合は、2500から7500scf/bbl、好ましくは500から6000scf/bblの範囲である。硫酸アンモニウムを事前調整して硫化水素とアンモニアにするには、約2時間必要である。油、スラリーおよび硫酸アンモニウムを含む混合物についての、触媒事前調整ユニット(CPU)中の滞留時間は、1.5から3時間、好ましくは約2時間である。
【0016】
触媒事前調整ユニット(CPU50)中で生成される硫化水素ガス1モル毎について、2モルのアンモニアが生成される。
【0017】
CPU50は、連続撹拌タンク反応器(CSTR、或いは好ましくは、混合反応器)である。このタイプの反応器は、触媒凝集を防止するために使用される。
【0018】
本発明の方法に対する残留供給原料2は一般に、概して600°Fを超える標準沸騰範囲を有し、多くの場合、供給原料のうちの少なくとも80%v/vが600°Fと1500°Fの間、または800°Fと1450°Fの間で沸騰する標準沸点を有する高沸点炭化水素質物質である。本発明で有用に処理される残留供給原料は、500ppm超のアスファルテンまたは1000ppm超のアスファルテンを含有する場合があり、10,000ppmものアスファルテンまたはそれ以上のアスファルテンを含有する場合がある。残留供給原料は、10ppm超の金属および0.1重量%超の硫黄も通常含有する。この金属は、有機金属化合物として存在すると考えられるが、本明細書で引用される金属の濃度は、100万分の1での純金属として計算される。供給原料中の混入金属には、ニッケル、バナジウムおよび鉄が一般に含まれる。硫黄は有機硫黄化合物として存在し、硫黄のwt%は、元素の硫黄に基づいて計算される。本発明にとって一般的な供給原料には、脱アスファルト残留物または未精製物、原油大気蒸留塔ボトム(常圧蒸留残油若しくは大気塔残留物)、または真空蒸留塔ボトム(真空残留物)が含まれる。
【0019】
実施例
一般的な真空残留供給原料特性を以下の表に列挙する。
60/60でのAPI重力 3.9
硫黄(wt%) 5.58
窒素(ppm) 5770
ニッケル(ppm) 93
バナジウム(ppm) 243
炭素(wt%) 83.57
水素(wt%) 10.04
MCRT(wt%) 17.2
212°Fでの粘度(cSt) 3727
ペンタンアスファルテン(wt%) 13.9
1050°F超で沸騰する画分(wt%) 81
【0020】
重油アップグレードに使用される一般的なプロセス条件を以下の通り列挙する。
全圧力(psig) 2500
Mo/油比(%) 1.5
LHSV 0.25
反応器温度(°F) 700〜725°F
H2ガスの割合(SCF/B) 7500
【0021】
上述したように得た2バッチのスラリー触媒流を、真空残留物水素化分解(VRHU)ユニットに送り、触媒として使用した。第1のバッチは、先行して事前調整することなく、触媒合成ユニットまたは貯蔵庫から直接VRHUに送った。
【0022】
第2のバッチは、図に示したように水素中で事前調整した後、VRHUに入れた。
【0023】
調整済みスラリー触媒対未調整スラリー触媒についての、VRHU性能の並列比較結果を以下の表に示す。
【表1】

【0024】
改善は、VRHUへの新鮮な触媒の投与量を30%増加させることにほぼ等価である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの反応段階を有する重油の水素化処理方法であって、以下のステップを含む方法:
(a)真空残留スラリー水素化処理ユニット内で、スラリー水素化処理条件下の炭化水素供給原料流を、水素流およびスラリー水素化分解触媒を含む流れと接触させ、使用済みスラリー水素化処理触媒と未変換の炭化水素供給原料を含む流れとともに、生成物流を回収するステップ、
(b)使用済みスラリー水素化処理触媒と未変換の炭化水素供給原料を含む流れを脱油ユニットに送り、そこでこれが溶媒と混合され、次いで生成物およびガス、ならびに使用済みスラリー触媒を含む流れが回収されるステップ、
(c)使用済みスラリー触媒を含む流れを金属回収ユニットに送り、そこでこれがアンモニウム浸出液と接触することによって、硫酸アンモニウムならびにVIII族およびVIB族金属を含む化合物が回収されるステップ、
(d)VIII族およびVIB族金属を含む化合物を触媒合成ユニットに送り、そこでこれらがアンモニア、硫化水素ガス、炭化水素流、水素、および少量の水と接触することによって、硫酸アンモニウムを含む油中の活性スラリー触媒が作製されるステップ、
(e)ステップ(d)の流出物を事前調整ユニット中に送ることによって、温度を上昇させ、スラリー触媒に対する衝撃を低減するステップであって、前記流出物は、水素と接触し、分解されて硫化水素とアンモニア、すなわち、事前調整ユニットから除去される流れになるステップ、
(f)油中の活性スラリー触媒を含むステップ(e)の流出物を、貯蔵庫または真空残留スラリー水素化処理ユニットに送るステップ。
【請求項2】
水が炭化水素供給原料流に加えられた後、この炭化水素供給原料流が真空残留スラリー水素化処理ユニット中に入る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スラリー水素化処理条件が、水素化分解、水素処理、水素化脱硫、水素化脱窒素(hydrodenitrification)、および水素化脱金属からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
スラリー水素化分解である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
スラリー水素化分解法が、少なくとも800°Fの温度、約1500psiから約3500psiの水素圧で、一般に操作される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
スラリー水素化処理によってアップグレードすることができる炭化水素供給原料が、600°F超の標準沸騰範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
脱油ユニットで使用される溶媒がトルエンである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
使用済みスラリー触媒を含む流れが、金属回収ユニット内で一連の溶媒抽出および結晶化ステップに付されることによって、硫酸アンモニウムならびにVIII族およびVIB族金属を含む化合物が回収される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
VIII族金属がニッケルであり、VIB族金属がモリブデンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
VIII族金属化合物が硫酸ニッケルであり、VIB族金属化合物が二モリブデン酸モリブデンである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(b)の炭化水素流が軽質炭化水素または真空ガス油を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
触媒合成ユニット内の条件が、80°Fから200°Fの範囲、好ましくは100°Fから180°Fの範囲、最も好ましくは130°Fから160°Fの範囲の温度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
触媒合成ユニット内の条件が、100から3000psigの範囲、好ましくは200から1000psigの範囲、最も好ましくは300から500psigの圧力を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
小規模の水の流れが触媒合成ユニットに加えられることによって、硫酸アンモニウムの凝集が防止される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
事前調整ユニット内の条件が、約400°Fから約1000°F、好ましくは約500°から約800°F、最も好ましくは約600°Fから約700°Fの範囲の温度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
事前調整ユニット内の条件が、約100から約3000psi、好ましくは300から約2500psi、より好ましくは約500から約2000psiの範囲の圧力を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
事前調整ユニット内の水素流量が、2500から7500scf/bbl、好ましくは5000から6000scf/bblの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
事前調整ユニット内の滞留時間が、1.5から3時間、好ましくは約2時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
事前調整ユニットが常時撹拌タンク反応器である、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−512432(P2010−512432A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540455(P2009−540455)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/086524
【国際公開番号】WO2008/070731
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】