説明

集電体用アルミニウム箔

【課題】電極活物質含有層の剥離が生じ難い集電体用アルミニウム箔を提供する。
【解決手段】少なくとも一方の箔表面が粗面化されており、該粗面化された箔表面のJIS B 0601:2001による算術平均高さRaが0.2〜0.8μm、最大高さRzが0.5〜5μmの範囲内にあり、上記粗面化された箔表面に着いている油分の量が50〜1000μg/mの範囲内にある集電体用アルミニウム箔とする。上記油分は圧延油であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体用アルミニウム箔に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池等の二次電池や電気二重層コンデンサなどの集電体として、アルミニウム箔が用いられている。例えば、リチウムイオン電池の場合、アルミニウム箔表面に正極活物質を固定することにより正極が構成される。
【0003】
上記正極は、具体的には例えば、以下のようにして製造される。すなわち、コバルト酸リチウム等の正極活物質粉末、ポリフッ化ビニリデン等の結着剤、カーボンブラック等の導電助剤などをN−メチルピロリドン等の有機溶媒に分散、混合して調製したペーストを、厚み15μm程度のアルミニウム箔の一方表面に塗工して塗工層を形成する。次いで、この塗工層を乾燥させることにより、塗工層中の有機溶媒を蒸発させて除去する。上記乾燥後、必要に応じて、層内密度を増大させるために圧着工程を行う。このようにして、集電体としてのアルミニウム箔の表面に正極活物質含有層を有する正極が製造される。
【0004】
上記のように、集電体表面に電極活物質を固定して電極を構成する場合、集電体と電極活物質含有層との間が十分に密着していることが重要になる。電極製造工程で集電体から電極活物質含有層が剥離すると歩留りの低下を招き、また、二次電池や電気二重層コンデンサに組み込んだ後に剥離するとこれらデバイスの寿命等の特性が劣化してしまうからである。
【0005】
集電体と電極活物質含有層との間の密着性を改善するため、アルミニウム箔の表面を粗面化することが知られている。例えば、特許文献1には、少なくとも一方の表面の粗さとしてJIS B 0601:1994による平均粗さRaが0.3μm以上1.5μm以下で最大高さRyが0.5μm以上5.0μm以下である、集電体用アルミニウム箔が開示されている。
【0006】
また、粗面化以外の方法により集電体と電極活物質含有層との間の密着性を改善する技術もある。例えば、特許文献2には、箔圧延後のアルミニウム箔表面に付着した圧延油を十分に脱脂することにより、ペーストの塗工性を向上させ、電極活物質含有層の密着性を向上させる点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−162470号公報
【特許文献2】特開2008−159297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術は、電極活物質含有層の密着が未だ十分でなく、さらなる改良が求められているのが現状である。とりわけ、粉体状の電極活物質を用いる場合には、集電体と電極活物質含有層との間の密着性が低下しやすい。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、電極活物質含有層の剥離が生じ難い集電体用アルミニウム箔を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも一方の箔表面が粗面化されており、該粗面化された箔表面のJIS B 0601:2001による算術平均高さRaが0.2〜0.8μm、最大高さRzが0.5〜5μmの範囲内にあり、上記粗面化された箔表面に着いている油分の量が50〜1000μg/mの範囲内にあることを特徴とする集電体用アルミニウム箔にある(請求項1)。なお、上記「アルミニウム」は、アルミニウムを主体とする金属および合金の総称であり、純アルミニウムおよびアルミニウム合金を含む概念である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の集電体用アルミニウム箔は、上記のように、少なくとも一方の箔表面が粗面化されており、この粗面化された箔表面の表面粗さを表すJIS B 0601:2001による算術平均高さRa、最大高さRzが上記特定の範囲内にあり、粗面化された箔表面に着いている油分の量が上記特定の範囲内にある。
【0012】
そのため、上記粗面化された箔表面に電極活物質含有層を形成した場合に、電極活物質が粉体状であっても電極活物質含有層の剥離が生じ難い。上述した特許文献2などに見られるように、これまで集電体用アルミニウム箔表面の油分は、電極活物質含有層の密着性を低下させるため積極的に除去することが一般的であった。ところが、粗面化された箔表面に油分が着いていても、その油分の量が特定の範囲内であれば、かえって電極活物質含有層の密着性に有効であるということが本発明により初めて見出されたのである。
【0013】
上記本発明によれば、電極活物質含有層の剥離が生じ難い集電体用アルミニウム箔を提供することができる。したがって、これを例えば、二次電池や電気二重層コンデンサの集電体として用いれば、電極製造工程において集電体から電極活物質含有層が剥離して歩留りが低下するのを抑制することができる。また、二次電池や電気二重層コンデンサ等に組み込んだ後の剥離も抑制できるので、これらデバイスの寿命等の特性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の集電体用アルミニウム箔は、箔表面の一方面が粗面化されていてもよいし、両面が粗面化されていてもよい。粗面化された箔表面の表面粗さを表す算術平均高さRa、最大高さRzは、JIS B 0601:2001に準拠して測定される値である。なお、両面が粗面化されている場合には、電極活物質含有層を形成する側の箔表面の表面粗さが少なくとも上記特定の範囲内にあればよい。
【0015】
上記集電体用アルミニウム箔において、上記算術平均高さRaの下限値が0.2μm未満になると、表面凹凸によるアンカー効果が十分に得られず、電極活物質含有層の密着性に劣る。上記算術平均高さRaの下限値は、好ましくは、0.30μmであるとよい。
【0016】
また、上記算術平均高さRaの上限値が0.8μmを超えると、表面凹凸の最大凸部が大きくなるため、電極活物質含有層の連続的な塗工性が低下したり、塗工形成時や塗工後の圧着時に箔が破断して亀裂が発生したりするおそれが高くなる。さらに、表面凹凸の凹部の底に電極活物質含有層が接触し難くなり、電気伝導性が低下するおそれがある。上記算術平均高さRaの上限値は、好ましくは、0.6μmであるとよい。
【0017】
上記集電体用アルミニウム箔において、上記最大高さRzの下限値が0.5μm未満になると、表面凹凸によるアンカー効果が十分に得られず、電極活物質含有層の密着性に劣る。上記最大高さRzの下限値は、好ましくは、1.5μmであるとよい。
【0018】
また、上記最大高さRzの上限値が5μmを超えると、表面凹凸の最大凸部が大きくなるため、電極活物質含有層の連続的な塗工形成性が低下したり、塗工後に圧着を行ったときに箔が破断して亀裂が発生したりするおそれが高くなる。さらに、表面凹凸の凹部の底に電極活物質含有層が接触し難くなり、電気伝導性が低下するおそれがある。上記最大高さRzの上限値は、好ましくは、4μmであるとよい。
【0019】
箔表面を上記表面粗さの範囲に粗面化する方法は、特に限定されるものではなく、各種の機械的方法、化学的方法、物理的方法を用いることができる。これら方法は、1種または2種以上併用することができる。機械的方法としては、箔表面をエメリー紙等の研磨紙で擦ったり、サンドブラスト等のブラスト加工を用いて箔表面を粗面化したり、粗面化された圧延ロールで圧延する方法などが挙げられる。また、化学的方法としては、酸等によりエッチングする方法などが挙げられる。なお、アルミニウムは、表面に酸化膜(アルマイト)を形成しやすいため、エッチャントやエッチング条件を適宜選択することが好ましい。また、物理的方法としては、スパッタリング等、イオンを衝突させて表面を粗面化する方法などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、粗面化された圧延ロールで圧延する方法である。電極活物質含有層との剥離強度に優れた集電体用アルミニウム箔が得られるからである。また、箔圧延と同時に箔表面を粗面化することができるので、箔製造工程が簡略化され、箔製造性に優れるからである。また、箔圧延時に箔表面に後述する圧延油を着けることができるからである。ロールを粗面化する方法としては、例えば、サンドブラスト、液体ホーニング、ショットピーニング、放電加工、レーザダル加工、微粉末溶射などが挙げられる。これらは1または2以上併用することができる。
【0020】
上記集電体用アルミニウム箔において、粗面化された箔表面には油分が着いている。粗面化された箔表面に着いている油分の量の下限値が50μg/m未満になると、電極活物質含有層と集電体との密着性が低下し、十分な剥離強度が得られなくなる。これは、電極活物質含有層を形成する際のペーストとの親和性が低下することが主な原因であると推察される。上記油分の量の下限値は、好ましくは、100μg/m、より好ましくは、150μg/mであるとよい。
【0021】
また、上記油分の量の上限値が1000μg/mを超えると、箔表面にペーストを塗工し乾燥した後に、電極活物質含有層と集電体との間に油分が過剰に残ってしまい、電極活物質含有層と集電体との密着性が低下し、十分な剥離強度が得られなくなる。上記油分量の上限値は、好ましくは、900μg/m、より好ましくは、800μg/mであるとよい。また、上記油分の量(μg/m)は、箔表裏面に着いている油分の合計量(μg)/箔表裏面の合計表面積(m)から求めることができる。具体的には、上記油分の量は、有機溶剤や酸などを用いて箔から採取し、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0022】
上記油分は、上記箔表面の粗面化の後、バーコート法、ロールコート法、静電塗油、圧延等の方法により着けることができる。圧延法によって箔表面を粗面化する場合には、箔圧延時に使用する圧延油やその残留分である残留圧延油を利用することができる。
【0023】
上記集電体用アルミニウム箔において、上記油分は圧延油であることが好ましい(請求項2)。この場合には、箔圧延時の圧延油を流用することができるので、箔圧延後、箔表面に、別途、油分を着ける必要がない。また、箔圧延後、箔表面に着いている圧延油を最終焼鈍工程による熱によって除去する必要もない。そのため、箔製造工程を簡略化することができ、箔製造性に優れた集電体用アルミニウム箔となる。なお、この場合、油分の量が本発明で規定される範囲内であれば、箔圧延したままの状態で使用することができる。また、例えば、箔表面をアルカリあるいは有機溶媒等の洗浄剤を用いて洗浄し、この洗浄の強弱などによって油分の量を本発明で規定される範囲内に調整することもできる。
【0024】
上記集電体用アルミニウム箔において、上記圧延油は、基油としての鉱油と、一価または多価高級アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、および、アミンから選択される1種または2種以上からなる油性剤とを含有し、上記油性剤を合計で上記圧延油全体に対して0.1〜5質量%含有することが好ましい(請求項3)。
【0025】
この場合には、箔圧延時の潤滑性に優れるとともに圧延摩耗粉の発生を抑制することができ、箔の表面品質が向上する。そのため、箔表面の表面粗さRa、Rz、油分の量が上記特定の範囲内にあることに加え、箔表面の表面品質に優れることにより、電極活物質含有層の剥離強度を向上させるのに有利となる。
【0026】
上記油性剤の含有量は、好ましくは、0.3質量%以上、より好ましくは、0.5質量%以上、さらに好ましくは、1.0質量%以上であるとよい。この場合には、箔圧延時の潤滑性に優れる。そのため、箔圧延時における潤滑不足によってシワが発生したり、摩耗粉により箔表面にコンタミネーションが発生したりするのを効果的に抑制することができ、製造性に優れる。一方、油性剤の含有量は、好ましくは、4.5質量%以下、より好ましくは、4質量%以下、さらに好ましくは、3質量%以下であるとよい。この場合には、箔の表面品質の向上効果、基油への均一溶解性、冷間加工性に優れ、また、低コスト化にも寄与できる。そのため、箔表面の表面粗さRa、Rz、油分量が上記特定の範囲内にあることに加え、箔表面の表面品質に優れることにより、電極活物質含有層の剥離強度を向上させるのに一層有利となる。
【0027】
上記圧延油を構成する基油には、ナフテン系、パラフィン系等の鉱油を用いることができる。上記一価または多価高級アルコールとしては、例えば、炭素数9〜19の一価または多価アルキルアルコールなどが挙げられる。上記脂肪酸としては、例えば、炭素数9〜19の飽和あるいは不飽和脂肪酸などが挙げられる。上記脂肪酸エステルとしては、例えば、炭素数9〜19の飽和あるいは不飽和脂肪酸エステルなどが挙げられる。上記アミンとしては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン等の芳香族アミンなどが挙げられる。これらは1種または2種以上併用することができる。とりわけ、上記高級アルコールとしてはラウリルアルコール、上記脂肪酸としてはオレイン酸、上記脂肪酸エステルとしてはオレイン酸エステル、上記アミンとしてはフェニル−α−ナフチルアミンを選択することができる。この場合には、上記効果が得られやすく、電極活物質含有層の剥離強度を向上させるのに一層有利である。
【0028】
また、上記圧延油中には、多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物などを添加することができる。この場合には、箔圧延時の潤滑性に優れ、かつ、圧延磨耗粉の発生を抑制して箔の表面品質を向上させるのに有利である。また、他にも上記圧延油中には、必要に応じて、酸化防止剤、粘度調整向上剤、防錆剤、腐食防止剤、消泡剤、乳化剤、帯電防止剤などの各種添加剤を1種または2種以上添加することができる。
【0029】
上記集電体用アルミニウム箔の厚みは、好ましくは、10〜100μm、より好ましくは、10〜50μm、さらに好ましくは、10〜30μmの範囲内にあるとよい。上記厚みが10μm以上である場合には、箔表面を粗面化する際に、箔の破断や亀裂が生じ難くなり、剥離強度の向上に寄与しやすくなる。また、上記厚みが100μm以下である場合には、箔の体積や重量が集電体として適度であるため、集電体を組み込む二次電池や電気二重層コンデンサ等の小型化、軽量化に寄与しやすく、低コスト化の面でも有利である。
【0030】
上記集電体用アルミニウム箔の組成は、箔圧延が可能であれば、特に限定されるものではない。上記集電体用アルミニウム箔の組成としては、例えば、JIS 1085、1070、1050、1N30、1100、3003、3004、8021、8079などが挙げられる。
【0031】
上記集電体用アルミニウム箔は、硬質材(H材)であることが好ましい。箔圧延後に焼鈍されないので、油分として残留圧延油を用いることができるからである。
【0032】
上記集電体用アルミニウム箔は、例えば、リチウムイオン電池、リチウムポリマ電池等の二次電池の電極の集電体、電気二重層コンデンサの電極の集電体などとして用いることができる。
【0033】
また、上記集電体用アルミニウム箔は、集電体として使用される際に、粗面化された箔表面に電極活物質含有層が形成される。上記電極活物質含有層は、電極活物質と、結着剤と、有機溶媒とを少なくとも含むペーストを塗工する工程を経て形成することが好ましい。また、上記電極活物質は粉体状のものを好適に用いることができる。本発明によれば、電極活物質が粉体状であっても優れた密着性を発揮することができるからである。
【0034】
また、上記有機溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドンなどを例示することができる。N−メチルピロリドンは、入手容易性、取扱い性、コストなどの観点から上記有機溶媒として好適である。
【0035】
なお、上記ペーストは、他にも導電助剤等を含んでいてもよい。また、ペースト塗工後、必要に応じて、上記塗工層の形成後、さらに、乾燥工程、熱処理工程、圧着工程等の工程を追加することも可能である。
【実施例】
【0036】
本発明の実施例に係る集電体用アルミニウム箔について、以下に説明する。
<集電体用アルミニウム箔の作製>
(実施例)
実施例1〜7に係る集電体用アルミニウム箔は、一方の箔表面が粗面化されており、粗面化された箔表面のJIS B 0601:2001による算術平均高さRaが0.2〜0.8μm、最大高さRzが0.5〜5μmの範囲内にあり、粗面化された箔表面に着いている油分の量が50〜1000μg/mの範囲内にある。
【0037】
実施例1〜7に係る集電体用アルミニウム箔は、以下の手順で準備した。すなわち、準備したアルミニウム箔は、JIS1085−H18材であり、厚みは20μmとした。また、最終箔圧延時における圧延ロールのロール粗度をショットブラストにより種々変更することにより、片方の箔表面の表面粗度を表1に示す算術平均高さRa、最大高さRzに調整した。上記箔圧延時には圧延油を用い、この圧延油には、表1に示すように、ナフテン系の基油に含まれる油性剤(ラウリルアルコール、オレイン酸、オレイン酸エステルを含有)の含有量を種々変更したものを用いた。また、最終圧延後にアルカリ洗浄することなく(脱脂することなく)、あるいは、最終圧延後にアルカリ洗浄の強弱を種々変更することにより、粗面化された箔表面に着いている残留圧延油の量を表1に示す値とした。なお、残留圧延油の量は、以下のようにして測定した。
【0038】
すなわち、上記箔表面に着いている残留圧延油の量を調整した各アルミニウム箔から試験片(表裏面の総表面積800cm)を採取した。採取した試験片を短冊状に切断し、得られた短冊状サンプルの全てを250mlのメスフラスコに入れた。上記メスフラスコにヘキサン70mlを加え、メスフラスコを撹拌し、70℃のホットプレート上で20分間加熱した。その後、このメスフラスコをよく撹拌した。これによる抽出液を抽出液Aという。
【0039】
次いで、ヘキサンにより抽出した後の上記短冊状サンプルの全てに蒸留水90ml、ヘキサン30mlおよび6N塩酸30mlを加え、アルミニウムの分解反応がおさまるまで放置した。その後、さらに6N塩酸10mlを加え、短冊状サンプルの表面が完全に分解するまで放置し、メスフラスコを撹拌することで、ヘキサン中に残留油を抽出した。その後、ガラス製のスポイトで表層に分離しているヘキサン抽出液を100mlビーカーに移し入れた。次いで、この抽出液が約20mlになるまで加熱蒸発させ、さらに、室温で約5mlまで蒸発させた。その後、吸引デシケーターで減圧濃縮し、ヘキサンを完全に蒸発させた。これによる抽出液を抽出液Bという。
【0040】
次いで、上記抽出液Aおよび抽出液Bをヘキサン100μlで溶解し、そのうちの4μlをガスクロマトグラフに注入して分析し、ヘキサン100μlに換算して、かつ総表面積で割ることにより、単位面積当たりの残留圧延油の量(μg/m)を測定した。
なお、上記ガスクロマトグラフ分析は、以下の通りとした。
・分析装備:(株)島津製作所製、GC−14B
・カラム:Gカラム G−205 40m
・検出器:FID
・検出器温度:320℃
・キャリヤガス:窒素ガス30ml/min
【0041】
(比較例)
比較例1〜5に係る集電体用アルミニウム箔は、一方の箔表面が粗面化されており、粗面化された箔表面の算術平均高さRa、最大高さRzが本発明で規定される範囲外にあり、粗面化された箔表面に着いている油分の量も本発明で規定される範囲外にある。この比較例1〜5に係る集電体用アルミニウム箔は、実施例1〜7に係る集電体用アルミニウム箔と同様の手順により準備した。
【0042】
<集電体用アルミニウム箔の密着性評価>
作製した各集電体用アルミニウム箔の密着性評価は、集電体用アルミニウム箔と電極活物質含有層との剥離強度を測定することにより行った。なお、ここでは、作製した集電体用アルミニウム箔をリチウムイオン電池の集電体に適用することを想定した。
【0043】
具体的には、正極活物質として汎用のLiCoO粉末:60質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック:5質量部と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン:5質量部と、有機溶媒としてのN−メチルピロリドン:30質量部とを混合し、ペーストを調製した。ロールコータを用いて、各試験片の片面(粗面化された面)に厚さ20μmで上記調製したペーストを塗布し、90℃×5分の条件で乾燥させた。これにより、各アルミニウム箔における一方の箔表面(上述したJIS B 0601:2001に準拠して測定した算術平均高さRa、最大高さRz、油分の量に調整されている)に正極活物質含有層を形成した各試料を作製した。
【0044】
次いで、得られた各試料を用いてJIS K 6854−2:1999 「第2部:180度はく離」に準拠して180度剥離強度を測定した。この際、上記規格中の剛性被着材には厚み3mmの硬質塩化ビニル板を用いた。また、上記アルミニウム板材の表面に各試料の正極活物質含有層の表面を接着するための接着剤として両面テープ(ニチバン社製、「NW−25」)を用いた。また、上記規格中のつかみによる試料の引張速度は100mm/分とした。なお、各試料の剥離強度(N/25mm)は、各試料につき5回測定を行い、得られた5回の測定値の平均値とした。剥離強度は、1.3N/25mm以上を合格とした。
【0045】
表1に、作製した各集電体用アルミニウム箔の構成と評価結果を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1を相対比較すると以下のことが分かる。すなわち、比較例1に係る集電体用アルミニウム箔は、Raの値が本発明で規定される範囲を下回っている。そのため、正極活物質含有層の剥離強度が不十分となり、アルミニウム箔との密着性に劣る。これは、表面凹凸によるアンカー効果が十分に得られなかったためである。
【0048】
比較例2に係る集電体用アルミニウム箔は、Ra、Rzの値がともに本発明で規定される範囲を上回っている。そのため、表面凹凸の最大凸部が大きくなり、正極活物質含有層の塗工形成時に箔が破断して亀裂が発生した。また、表面凹凸の凹部の底に正極活物質含有層が接触し難くなるので、リチウムイオン電池の正極に適用した場合には、電気伝導性が低下するものと推察される。
【0049】
比較例3に係る集電体用アルミニウム箔は、Rzの値が本発明で規定される範囲を下回っている。そのため、正極活物質含有層の剥離強度が不十分となり、アルミニウム箔との密着性に劣る。これは、表面凹凸によるアンカー効果が十分に得られなかったためである。
【0050】
比較例4に係る集電体用アルミニウム箔は、粗面化された箔表面に着いている油分の量が本発明で規定される範囲を下回っている。そのため、正極活物質含有層の剥離強度が不十分となり、アルミニウム箔との密着性に劣る。これは、正極活物質含有層を形成する際のペーストとの濡れ性が低下したことが主な原因であると推察される。
【0051】
比較例5に係る集電体用アルミニウム箔は、粗面化された箔表面に着いている油分の量が本発明で規定される範囲を上回っている。そのため、正極活物質含有層の剥離強度が不十分となり、アルミニウム箔との密着性に劣る。これは、箔表面にペーストを塗布し乾燥した後に、集電体としてのアルミニウム箔と正極活物質含有層との間に油分が過剰に残ってしまったためである。
【0052】
上記に対し、実施例1〜7に係る集電体用アルミニウム箔は、優れた剥離強度を有し、正極活物質含有層との間で高い密着性を発揮できている。そのため、正極活物質層の剥離が生じ難いことが確認された。
【0053】
したがって、実施例1〜7に係る集電体用アルミニウム箔を、例えばリチウムイオン電池の集電体として用いた場合には、電池の充放電サイクルにおけるリチウムのドープ、脱ドープによって生じる正極活物質の体積変化に起因する正極活物質含有層の剥離や、電極製造工程での剥離を抑制しやすくなり、電池のサイクル特性の向上に寄与することが可能となる。
【0054】
以上、実施例について説明したが、本発明は、上記実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変形を行うことができる。
【0055】
例えば、上記実施例においては、作製した集電体用アルミニウム箔にリチウムイオン電池の正極に適した材料による正極活物質含有層を形成したが、他にも、作製した集電体用アルミニウム箔に電気二重層コンデンサの電極に適した材料による電極活物質含有層を形成することが可能なものであり、この場合にも、上記と同様に剥離強度の向上効果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の箔表面が粗面化されており、該粗面化された箔表面のJIS B 0601:2001による算術平均高さRaが0.2〜0.8μm、最大高さRzが0.5〜5μmの範囲内にあり、
上記粗面化された箔表面に着いている油分の量が50〜1000μg/mの範囲内にあることを特徴とする集電体用アルミニウム箔。
【請求項2】
請求項1に記載の集電体用アルミニウム箔において、上記油分は圧延油であることを特徴とする集電体用アルミニウム箔。
【請求項3】
請求項2に記載の集電体用アルミニウム箔において、上記圧延油は、基油としての鉱油と、一価または多価高級アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、および、アミンから選択される1種または2種以上からなる油性剤とを含有し、上記油性剤を合計で上記圧延油全体に対して0.1〜5質量%含有することを特徴とする集電体用アルミニウム箔。

【公開番号】特開2012−230777(P2012−230777A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97092(P2011−97092)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】