説明

集電舟、集電装置、及び集電装置の空力音低減方法

【課題】揚力変化が小さく、且つ低騒音特性を有する集電舟を提供する。
【解決手段】架線に接触する集電装置用の集電舟であって、集電舟の移動方向から空気を取り入れる空気取入口と、空気取入口から取り入れた空気を集電舟の下部から排出する下部開口と、を有する本体部と、本体部の上部に配置され且つ架線と接触するとともに、空気取入口から取り入れた空気を上部から排出する上部開口を有する摺板と、を備え、集電舟の幅方向の断面が略矩形である、集電舟が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電舟、集電装置、及び集電装置の空力音低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架線から供給される電力を車両に伝送するパンタグラフは、車両の移動速度に伴って、空力音を発生することが知られている。空力音とは、物体が空気の流れにさらされることによって発生する音である。パンタグラフによる空力音は、パンタグラフの集電舟の風下方向で発生した空気の渦により生じている。
【0003】
そのため、集電舟を流線型とすることで、集電舟の風下方向で発生する空気の渦を少なくして、空力音を低減化する集電装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−107604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
集電舟は、車両の進行方向から受ける風以外にも、様々な方向から風を受ける。例えば、架線はレールに対してほぼ水平に張られているが、架線は、摺板が架線と接触状態を維持するように移動すると、パンタグラフの押し上げる力により架線がたわみ、そのたわみに追随しながら集電舟は上方または下方に移動する。このとき、集電舟が、架線の撓みに伴い上方に移動するとき、集電舟は上方からの向かい風を受け、集電舟が架線の撓みに伴い下方に移動するとき、集電舟は下方からの向かい風を受ける。
【0006】
このように、パンタグラフの集電舟への空気の流れは一定ではない。集電舟を流線型とすると、進行方向以外の風を受けることによって、集電舟の揚力が大きく変化する場合がある。このような揚力の大きな変化は、パンタグラフが架線を押し上げて架線にダメージを与え、逆に架線を押し上げる力が急激に低下して離線が発生するなどの問題を生じる。
【0007】
本発明の一実施形態に係る集電舟は、揚力変化を小さくすると共に、空力音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する集電舟、集電装置、及び空力音低減方法は、次の通りである。
【0009】
(1)架線に接触する集電装置用の集電舟であって、
前記集電舟の移動方向から空気を取り入れる空気取入口と、前記空気取入口から取り入れた空気を前記集電舟の下部から排出する下部開口と、を有する本体部と、
前記本体部の上部に配置され且つ前記架線と接触するとともに、前記空気取入口から取り入れた空気を上部から排出する上部開口を有する摺板と、を備え、
前記集電舟の幅方向の断面が略矩形である、ことを特徴とする集電舟。
【0010】
(2)前記上部開口は、前記架線と非並行に設けられる(1)に記載の集電舟。
【0011】
(3)前記摺板は、多数の分割摺板であり、
前記上部開口は、前記分割摺板の間の隙間に設けられる(1)又は(2)に記載の集電舟。
【0012】
(4)前記本体部は、前記空気取入口に対向配置された第2の空気取入口を有し、
前記空気取入口及び前記第2の空気取入口は、移動方向に応じて何れかが空気を取り入れることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の集電舟。
【0013】
(5)(1)〜(4)の何れか1項に記載の集電舟を有し、
前記集電舟を車両に対して絶縁して支持する絶縁支持部と、
前記集電舟で集電した電力を前記車両に供給する導電部と、
を備えることを特徴とする集電装置。
【0014】
(6)幅方向の断面が略矩形である集電舟を有する集電装置の空力音低減方法であって、
前記集電舟の移動方向から空気取入口を介して空気を取り入れ、
前記空気取入口から取り入れた空気を前記集電舟の下部の下部開口から排出し、
前記空気取入口から取り入れた空気を摺板の上部開口から排出することを特徴とする空力音低減方法。
【0015】
(7)前記摺板は、多数の分割摺板であり、
前記上部開口は、前記分割摺板の間の隙間に設けられる(6)に記載の空力音低減方法。
【0016】
(8)前記集電舟は、前記空気取入口に対向配置された第2の空気取入口を有し、
前記空気取入口及び前記第2の空気取入口は、移動方向に応じて何れかが空気を取り入れることを特徴とする(6)又は(7)に記載の空力音低減方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態に係る集電舟は、揚力変化を小さくすると共に、空力音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】集電装置の一例を示す断面図である。
【図2】集電舟の長手方向断面の一例を示す図である。
【図3】集電舟の一例を示す投影図である。
【図4】集電舟の空力音発生メカニズムの一例を示す図である。
【図5A】本体部を楕円形とした集電舟の一例を示す図である。
【図5B】図2に示す集電舟を経年使用した集電舟の一例を示す。
【図6A】多分割摺板を有する集電舟の一例を示す投影図である。
【図6B】多分割摺板を有する集電舟の一例を示す集電舟の長手方向断面図である。
【図7】2つの空気取入口を有する集電舟の一例を示す図である。
【図8A】制御弁を用いて空気取入口の開閉する一例を示す図である。
【図8B】逆止弁を用いて空気取入口の開閉する一例を示す図である。
【図9A】集電舟の空力音を検出する実験装置の一例を示す断面図である。
【図9B】集電舟の空力音を検出する実験装置の一例を示す平面図である。
【図10】集電舟の空力音を検出する実験条件を示す図である。
【図11】空力音実験結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、集電舟、集電装置、及び空力音低減方法の実施形態を説明する。
【0020】
[集電装置]
図1は、集電装置の一例を示す断面図である。集電装置10は、台枠11と、枠組13と、舟支え機構部15と、集電舟20を有する。架線1は、集電装置10の集電舟20が接触移動する電線であり、集電舟20が摺動することによって、集電装置10は、車両2に電力を供給する。車両2は、集電装置10から供給された電力により動作する車両であり、例えば、鉄道車両である。
【0021】
集電装置10は、架線1に集電舟20を押し付け、伸縮構造により、架線1の高さ変化に集電舟20を追従させる。また、集電装置10は、枠組13のく字状の使用状態、及び、枠組13を折りたたんだ不使用状態の切換操作をする昇降機能を備えており、このための昇降機構は台枠11の内部に格納されている。集電装置10は、例えば、シングルアーム式パンタグラフである。
【0022】
集電装置10は、集電舟20により集電した電力を、導体部47によって車両2内の駆動電源装置49に供給する。集電装置10は架線1に接触して架線1の電圧となる。一方、車両2はレール3に接続しているため、車両2の電圧は接地電位である。そのため、集電装置10は車両2に対して、電気絶縁のための絶縁支持部45を介して搭載されている。絶縁支持部45は、例えば、碍子である。導体部47は、例えば、絶縁支持部45の内部にある貫通孔を通って、駆動電源装置49に電気的に接続される。
【0023】
<台枠>
台枠11は、枠組13を支持して車両2の屋根上に設置されると共に、枠組13を昇降する駆動機構43、及び制御部44を有する。台枠11は、車両2と絶縁支持部45で固定されており、車体2と台枠11に導かれる電力とを絶縁した状態で、車両2の屋根上に設置される。制御部44は、駆動機構43を用いて、枠組13を上下に駆動し、且つ、舟支え機構部15から伝送される接触力を入力値に従い、集電舟20の架線1に対する接触力を一定とするよう接触力の制御を行う。制御部44は、例えば、情報処理装置であり、CPU(Central Processing Unit)、主記憶装置などを有する。
【0024】
<枠組>
枠組13は、集電舟20を支持した状態で上下方向に動作可能なリンク機構である。枠組13は、リンク機構を有して、集電舟20を車両2に対して上下方向に変位可能に支持する。枠組13は、摺板40が架線1に接した上昇状態と、集電装置10の不使用時に摺板40が架線1から離隔した下降状態をとることができる。
【0025】
<舟支え機構部>
舟支え機構部15は、ばね16、ピストンロッド17、及びシリンダ18を有する。舟支え機構部15は、摺板40が架線1に対して適切な接触力で接触するように、摺板40を支える機構部である。バネ16は、ピストンロッド17を介して集電舟20を架線1の方向(上方)に押し上げる方向に付勢する。ピストンロッド17は、シリンダ18内で昇降自在であり、集電舟20とばね16とをつなぐ。シリンダ18は、ばね16、ピストンロッド17を収納する。なお、舟支え機構部15は、図示しないセンサーを用いて、バネ16による架線1への接触力を検出し、台枠11内の制御部44に接触力を伝送する。
【0026】
<集電舟>
集電舟20は、本体部30と、摺板40とを有する。摺板40は、架線1と接触する部材である。本体部30は、細長い金属製の部材であり、架線1の長さ方向と直交して配置され、摺板40を上部に配置する。本体部30は、ピストンロッド17を介して舟支え機構部15と繋がっている。よって、本体部30は、舟支え機構部15による支持力を受けて、上部配置した摺板40を支える機能を有する。本体部30の内部は、空洞であり、後述する空気取入口、下部開口、入出力する空気は、本体部30の内部を通過する。また、摺板40が、図6A及び図6Bを用いて後述する多分割摺板である場合、本体部30の内部には、多分割摺板を支持するバネが収納される。
【0027】
摺板40は、本体部30の上部に配置され、架線1と接触するとともに、空気取入口から取り入れた空気を排出する上部開口を有する。摺板40は、架線1との接触状態を保った状態で走行するため、車両2の走行中は架線1による摩擦状態になる。したがって、摺板40は、使用しているうちに摩耗する。摺板40の材質は、例えば、カーボン(炭素)や銅系の焼結合金である。架線1は、摺板40の磨耗点を一点に集中することを防ぐため、ジグザグ状に張られている。
【0028】
図2は、集電舟の断面の一例を示す図である。図3は、集電舟の一例を示す投影図である。集電舟20は、本体部30に設けられた空気取入口22、下部開口26と、摺板40に設けられた上部開口24を有する。空気取入口22は、集電舟20の前方(車両2の進行方向)から、空気を本体部30に取り入れる取入口である。空気取入口22は、図3に示すように、集電舟20の前縁部の長さ方向(車両2の幅方向)に沿って間隔をあけて多数形成されている。
【0029】
上部開口24は、空気取入口22から取り入れた空気を集電舟20の上方に向かって排出する排出口である。上部開口24は、摺板40に設けられ、空気取入口22から取り入れた空気を排出する。上部開口24は、図3に示すように、集電舟20の上面に長さ方向に沿って多数形成されている。
【0030】
上記の上部開口24及び下部開口26は、図4を用いて後述するように、集電舟20の空力音低減に寄与する。また、図2に示すように、上部開口24は、本体部30ではなく、摺板40に設けられる。本体部30に上部開口24を設ける場合、摺板40とは別に本体部30の上部に開口部が必要となるため、本体部30の幅が摺板40の幅より長くなる。よって、集電舟20の容積の増大につながる。また、本体部30の上部に開口部を設け、さらに、当該上部開口部の上に上部開口24を有する摺板40を配置すると、集電舟の高さが高くなり、集電舟20の容積の増大につながる。したがって、本体部30が、上部開口24を有する摺板40を上部配置することで、集電舟20の体積を小型化することができる。このような小型化により、集電舟20は、空気抵抗が小さくなるので、小さい揚力変化特性を有する。
【0031】
図3に示す集電舟20Aは、架線1と非並行な上部開口24Aを有する。上部開口を架線1と平行にならないように配置することにより、上部開口を設けたことによる架線1と摺板40との接触面積の減少を少なくすることができる。
【0032】
図2及び図3に示すように、集電舟20は、集電舟20の幅は摺板40の幅と同じになる。流線型の集電舟は、摺板40より幅を長くする構造により流線型を実現していた。一方、集電体20は、摺板40の形状に合わせた最小構造を実現するために、図2及び図3に示すように、凹状の本体部30の上部に摺板40を配置することで、垂直断面が矩形となる。
【0033】
下部開口26は、空気取入口22から取り入れた空気を集電舟20の下方に向かっては排出する排出口である。下部開口26は、集電舟20の下面に長さ方向に沿って多数形成されている。
【0034】
[集電舟の矩形断面]
集電舟は、架線に沿って移動するため、集電舟の迎角が変化しても著しく揚力が変化しないという迎角による揚力変化特性、及び、磨耗によって集電舟の形が変わっても著しく揚力が変化しないという磨耗による揚力変化特性が求められる。
矩形断面を持つ物体の場合、角から流れが剥離するため、集電舟で想定される迎角変化や磨耗の範囲では上面と下面の圧力が大きく変わることは少ない。そのため、迎角や磨耗による揚力の変化は小さくなる。
【0035】
一方、滑らかな形をした流線型物体の場合は、矩形断面に比べて流れが剥離しにくく、迎度をつけることで上面と下面の圧力が大きく変わり、少しの迎角でも揚力が変化する。また、流線型物体に磨耗がある場合はその部分が角になるため流れが剥離しやすく、磨耗前と比べて圧力も変化するため、揚力が変化する。また、同じ摺板幅であっても、矩形断面より流線型の方が集電舟の幅が広くなるため空気力の作用する面が大きくなり、揚力が大きくなる。そのため、集電舟は、矩形断面の方が、流線型断面よりも、迎角や磨耗による揚力変化は小さいことがわかる。これらの理由により、集線装置の集電舟断面を矩形とすれば、迎角や磨耗による揚力変化は小さいことになる。
なお、集電舟の幅方向の断面は、上記の揚力変化特性を失わない限り略矩形であってもよい。以下においても同じである。
【0036】
[空力音の発生メカニズム]
図4は、集電舟の空力音発生メカニズムの一例を示す図である。集電舟1020は、空気取入口、上部開口、及び下部開口を有さない集電舟である。集電舟20は、図2で説明したように、空気取入口22、上部開口24、下部開口26を有する。
【0037】
集電舟1020は、集電舟20のような空気の取入部並びに排出部を有さない。また、図4に示されるように、集電舟1020は、矩形断面を有する。そのため、集電舟1020の前方からの空気1050は、集電舟20の後方で渦となり、空力音となる。一方、集電舟20は、集電舟1020同様に、矩形断面を有するものの、空気取入口22から取り入れた空気を、上部開口24と、下部開口26から放出する。放出した空気55が、集電舟20周りの空気50の流れを邪魔することで、集電舟20の前方からの空気50の流れは、集電舟の後方で渦とならない。
【0038】
つまり、上記[集電舟の矩形断面]に記載のように、迎角や磨耗による揚力変化を小さくするために、集電舟の断面を矩形にすると、集電舟1020のように、集電舟後方で渦を生成して、空力音が発生してしまう。そこで、集電舟20は、上部開口24及び下部開口26から放出した空気により、集電舟後方に渦を生成しにくいため、空力音を低減する低騒音特性を有する。このように、集電舟20は、迎角や磨耗による揚力変化が小さく、且つ、空力音を低下することができる。なお、集電舟20の一例による空力音測定の実験結果は、図9〜図11を用いて後述される。
【0039】
図5Aは、一実施形態に係る集電舟と比較するために、楕円形の集電舟の一例を示す図である。図5Aに示す集電舟1120は、本体部1130、及び摺板1140Aを有する。本体部1130は、空気取入口1122、下部開口1126を有する。摺板1140Aは、上部開口1124Aを有し、楕円形状の本体部1130の上部に配置される。摺板1140Aは、楕円形の集電体の一部を構成する。摺板1140Aは、架線1と接触するため、使用により次第に摩耗する。摺板1140Bは、使用により磨耗した後の摺板である。摺板1140Aは、楕円形の一部を構成するため、磨耗により平らになり、摺板1140Bとその上面を通過する空気との接触面積が増加し、上部開口1124B周囲の圧力が変化するため上部開口1124Bからの空気放出量が変化する。このように、楕円形の集電舟は、使用により、上部開口から放出される空気の放出量が変化する。
【0040】
図5Bは、図2に示す集電舟を経年使用した後の集電舟の一例を示す。集電舟20Bの摺板40Aは、使用により磨耗している。上部開口24Bは、本体部30の上部に配置されているため、摺板が磨り減ったとしても、上部開口24Bの開口は、全て均一な長さとなる。そのため、図5Aに示す上部開口1124Bと比して、図5Bに示す集電舟は、摺板の使用により、空気の放出量が変化しない。
【0041】
図6Aは、多分割摺板を有する集電舟の一例を示す投影図であり、図6Bは、多分割摺板を有する集電舟の一例を示す集電舟の断面図である。図6A及び図6Bに示す集電舟20Cは、多分割摺板40Bを有する。図6Bに示すように、複数の摺板40B−1、…、40B−nは、それぞれにあるばね41B−1、…、41B−nにより、架線1に対して摺板40B−1、…、40B−nによる適切な接触圧を維持する。接触圧が各々の摺板によって独立して維持されるために、多分割摺板は、架線1との接触面積が、分割されていない摺板と比して大きくなる。
【0042】
また、図6Aに示すように、複数の摺板40B−1、…、40B−nは、それぞれに隙間42B−1、…、42B−nが配置される。摺板40B−1、…、40B−nは、本体部30との間にある隙間42B−1、…、42B−nは、上部開口24として機能する。そのため、摺板そのものに、上部開口24を設ける場合と比して、多分割摺板40Bの隙間を上部開口24とする場合、摺板に貫通穴を新たに設けるプロセスが不要になるとともに、上部開口用の穴を設けることで多分割摺板40Bが架線1と接触する面積を減少させることが無い。
【0043】
図7は、2つの空気取入口を有する集電舟の一例を示す図である。図7に示される集電舟20Dの空気取入口22及び空気取入口28は、いずれかが開口した状態で使用される。空気取入口が1つしかついていない場合、レール3上を往復する車両2は、一方向のときのみ空気を取り入れることができるため、他方向に車両3が移動するときは、集電装置10を下げて、他の集電装置で電気を受け取る動作を行うことになる。しかし、空気取入口22に加えて、空気取入口28を設けることで、車両3が進行方向を変えた場合、空気取入口22を閉じて、空気取入口28を開けることで、集電舟20Dは、車両3の進行方向に関係なく、空気を本体部30に取り入れることができる。
【0044】
図8A及び図8Bは、空気取入口の開閉の一例を示す図である。図8Aは、空気取入口に制御弁を設けた集電舟を示し、図8Bは、空気取入口に逆止弁を設けた集電舟を示す。図8Aに示す集電舟の場合、制御部44が車両2の進行方向を検出し、進行方向部応じて、制御部44が、空気取入口22に取り付けられた制御弁23A、及び、空気取入口28に取り付けられた制御弁23Bを開閉する。
【0045】
図8Bに示す集電舟は、空気取入口22、28のそれぞれに、逆止弁25A、25Bを備える。逆止弁25A、25Bは、流体である空気がある方向から逆方向へ流れようとするのを止めるための弁である。例えば、図8Bにおいて、空気が左から右に流れる場合、逆止弁25Aが開いて、逆止弁25Bは閉まる。このように、逆止弁25A、25Bを設けることで、制御部44無しで空気取入口22、28の開閉を行うことができる。
【0046】
図9A及び図9Bは、集電舟の空力音を検出する実験装置を示す図である。図9Aは、実験装置200の断面図であり、図9Bは、実験装置200の平面図である。実験装置200は、ダクト210と、マイクロホン220とを有し、ダクト210内には、実験用の集電舟20Eが配置される。図9Aに示されるように、集電舟20Eは縦置きされ、集電舟20Eには、図示しないブロワによって強制的に生成された風があてられる。図9Dに示されるように、マイクロホン220は、集電舟20Eから水平方向に2000mm離れて配置される。
【0047】
空力音の検出対象は、穴の無い集電舟と、集電舟20Eについて行った。
【0048】
図10は、集電舟の空力音を検出する実験条件を示す図である。図10に示されるように、集電舟20Eの前縁部長さは、600mm、集電舟20Eの幅は、70mm、高さは、45mmである。空気取入口22の大きさは、25mm×5mmであり、50mmピッチで集電舟前縁部に設けられている。空気排出部は、直径6mmの穴が開けられており、長手方向に50mmピッチ、短手方向に15mmピッチで穴が設けられている。
【0049】
穴が開いていない集電舟は、集電舟20Eと同じ寸法である。
【0050】
図11は、測定された空力音を示す図である。
風速41.7m/sのとき、穴の無い集電舟と、集電舟20Eから発生した空力音、並びに、集電舟無しのときの空力音を、マイクロホン220で測定した。なお、集電舟が無いときの空力音は、空気の流れ自体から発生するノイズである。
【0051】
集電舟20Eは、穴の無い集電舟と比して、1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)において、63〜1kの値が、小さくなっている。なお、1/3オクターブバンド中心周波数で50Hz未満は、空気の流れ自体から発生する音である。このように、集電舟20Eは、低騒音特性を有する。
【符号の説明】
【0052】
1 架線
2 車両
10 集電装置
11 台枠
13 枠組
15 機構部
20、20A〜20E 集電舟
22、28 空気取入口
23A、23B 制御弁
24、24A 上部開口
25A 逆止弁
26 下部開口
28 空気取入口
30 本体部
40、40A 摺板
40B 多分割摺板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架線に接触する集電装置用の集電舟であって、
前記集電舟の移動方向から空気を取り入れる空気取入口と、前記空気取入口から取り入れた空気を前記集電舟の下部から排出する下部開口と、を有する本体部と、
前記本体部の上部に配置され且つ前記架線と接触するとともに、前記空気取入口から取り入れた空気を上部から排出する上部開口を有する摺板と、を備え、
前記集電舟の幅方向の断面が略矩形である、ことを特徴とする集電舟。
【請求項2】
前記上部開口は、前記架線と非並行に設けられる請求項1に記載の集電舟。
【請求項3】
前記摺板は、多数の分割摺板であり、
前記上部開口は、前記分割摺板の間の隙間に設けられる請求項1又は2に記載の集電舟。
【請求項4】
前記本体部は、前記空気取入口に対向配置された第2の空気取入口を有し、
前記空気取入口及び前記第2の空気取入口は、移動方向に応じて何れかが空気を取り入れることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の集電舟。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の集電舟を有し、
前記集電舟を車両に対して絶縁して支持する絶縁支持部と、
前記集電舟で集電した電力を前記車両に供給する導電部と、
を備えることを特徴とする集電装置。
【請求項6】
幅方向の断面が略矩形である集電舟を有する集電装置の空力音低減方法であって、
前記集電舟の移動方向から空気取入口を介して空気を取り入れ、
前記空気取入口から取り入れた空気を前記集電舟の下部の下部開口から排出し、
前記空気取入口から取り入れた空気を摺板の上部開口から排出することを特徴とする空力音低減方法。
【請求項7】
前記摺板は、多数の分割摺板であり、
前記上部開口は、前記分割摺板の間の隙間に設けられる請求項6に記載の空力音低減方法。
【請求項8】
前記集電舟は、前記空気取入口に対向配置された第2の空気取入口を有し、
前記空気取入口及び前記第2の空気取入口は、移動方向に応じて何れかが空気を取り入れることを特徴とする請求項6又は7に記載の空力音低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−182580(P2011−182580A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45600(P2010−45600)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 流体工学部門講演会 講演論文集(発行所:社団法人 日本機械学会 発行日:平成21年11月6日)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】