説明

離乳期子豚における疾病予防方法

【課題】子豚のストレスを軽減し、浮腫病等の大腸菌症による斃死を防止して育成率を高める離乳期小豚の疾病予防方法を提供することを課題とする。
【解決手段】乾燥マイタケ、乾燥マイタケ粉末及びマイタケ抽出物の一つ又はそれ以上から選択されたマイタケ由来物質を豚の離乳期に投与することで、本発明の課題を解決できることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥マイタケ、乾燥マイタケ粉末及びマイタケ抽出物の一つ又はそれ以上から選択されたマイタケ由来物質を使用した離乳期子豚における疾病予防方法を提供することに関する。
【0002】
さらに詳しくは、離乳期子豚の免疫能力の低下によって発症する浮腫病等の大腸菌症、養豚の生産性に大きく影響を与える疾病を予防し、豚の育成率を高める離乳期子豚における疾病予防方法を提供することに関する。
【背景技術】
【0003】
養豚業界では、疾病による家畜豚の生産性減少が大きな問題となっている。家畜生産の競争激化に伴い、経済的、効率的な生産を優先したために、豚にとって、適切な飼育環境が提供されておらず、飼料技術の変化や飼育環境の悪化等によるストレス下で飼育される豚は腸官感染症や呼吸器系疾病等を発生し易くなっている。特に離乳期の子豚においては、浮腫病、豚繁殖・呼吸障害症候群、離乳後多臓器発育不良症候群などの疾病が大きな問題となっている。
【0004】
これら豚の疾病多発によって、農場の生産性が低下し、養豚家にとっては大きな経済的損失となっている。子豚は、授乳期間中は母豚の免疫抗体を受け、感染等のリスクは低いが、離乳後は移行抗体が消えてしまうため、疾病を発症し易く、育成期には自己免疫力が高まり、発病のリスクは低下する。つまり、離乳期の子豚の飼育方法が、養豚の生産性に大きく関わってくる。
【0005】
そこで、従来、業界では疾病の対策を薬剤によって切り抜けてきたが、その結果、多くの薬剤耐性菌を生み出す結果となった。また、無駄な投薬を回避するため離乳期に抗生物質を用いて腸内の正常菌叢を確立する方法もとられているが、抗生物質投与により、腸内で増殖した耐性菌から毒素が放出され、事故数が急増し、意に反して薬漬けにせざるを得ない状況が生まれることもある。
【0006】
このような状況を踏まえ、最近では、飼料や添加物への機能性付加が天然物や乳酸菌類等の微生物に求められており、生産性に大きく寄与する免疫賦活に関する資材が期待をもたれている。例えば、アニス、ガーリック等特定のハーブ類を配合飼料に添加し、豚に給与して飼育する技術(特許文献1)や、ハーブ、酵母類、乳酸菌等を含有する豚用飼料添加剤について提案されている(特許文献2、3)。
【0007】
本出願人等はマイタケに含まれる成分とその利用について、研究を重ねており、多彩な作用が知られている。例として、マイタケ熱水抽出物をアルコール処理で精製して得た画分が免疫賦活作用を有し、抗腫瘍作用があること(特許文献4)やインフルエンザウイルス感染防御において有益な作用があること(特許文献5)等を見出し、特許出願している。マイタケに含まれる物質が免疫賦活作用を有するのであれば、子豚の自己免疫力を高め、大腸菌症等の感染症の発病リスクを低減する効果があると考えられる。
【0008】
加えて、本出願人等はマイタケの家畜飼育への適用に関しても研究を行い、マイタケ由来物質を配合してなる家畜用飼料添加剤(特許文献6)について特許出願している。しかし、この発明は安全性と風味にすぐれた食肉の生産を可能にする家畜用飼料添加剤に関するもので、特に離乳期子豚の浮腫病等、豚の免疫能力の低下によって発症する疾病予防については意図されていなかった。
【0009】
【特許文献1】特開2003−88302号公報
【特許文献2】特開2004−49174号公報
【特許文献3】特開2004−49175号公報
【特許文献4】特開平9−238697号公報
【特許文献5】特開2005−145934号公報
【特許文献6】特開2003−259816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、離乳後の子豚のストレスを軽減し、かつ免疫賦活能力を高めることで、離乳後子豚の浮腫病等の大腸菌症による斃死を防止して育成率を高める離乳期小豚の疾病予防方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
出願人は免疫賦活作用があることが報告されているマイタケに注目し、乾燥マイタケを離乳後の子豚に与えたところ、離乳期子豚の下痢による斃死が大きく減少したため、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は
(1)乾燥マイタケ、乾燥マイタケ粉末及びマイタケ抽出物の一つ又はそれ以上から選択されたマイタケ由来物質を豚の離乳期に投与することを特徴とする豚の疾病予防方法、
(2) 疾病が大腸菌症であることを特徴とする(1)記載の予防方法、
(3)大腸菌症が下痢であることを特徴とする(2)記載の予防方法に関する。
【0013】
本発明において、マイタケはマイタケ(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans)、チョレイマイタケ(Dendropolyporus umbellatus)、トンビマイタケ(Grifola gigantea)等いずれも用いる事が出来るが、昨今、マイタケの子実体の人工栽培が可能となり、安定した原料供給の面からもマイタケの子実体を使用することが好ましい。
【0014】
マイタケは生のもの、乾燥品、乾燥粉末何れも使用出来るが、乾燥粉末が扱いやすく好ましい。乾燥マイタケとしては、天日、熱風乾燥、或いは凍結乾燥したものいずれも用いることが出来る。
【0015】
乾燥マイタケは、マイタケを乾燥した形態そのままでも使用出来るが、適宜粉砕して小片或いは細片、更には微細片としても使用できる。しかし製粉機等で粉末にして使用するのが応用範囲が広く、より一般的である。又給餌する状況に応じて、粒度の大きいものから粒度の小さい微粉末まで、適宜選択出来る。
【0016】
乾燥マイタケ、乾燥マイタケ粉末及びマイタケ抽出物は単独でも飼料に添加出来るが、飼料に添加して満遍なく混合出来るようにするために、更に増量剤、滑沢剤を配合した粉末、或いは常法により顆粒、ペレットなどの剤形として飼料に添加することも出来る。粉末として使用する場合を例に取って説明すると、乾燥マイタケ粉末に増量剤、滑沢剤を加えて満偏なく混合する。この際、必要に応じて、マイタケ由来物質以外の物質を加えることが可能である。
【0017】
例えば増量剤としては、乳糖、澱粉、デキストリン等が使用できる。滑沢剤としては軽質流動パラフィン等が使用しうる。また特にマイタケ抽出物を使用する場合は、湿潤し易いということもあり、増量剤と配合するのが好ましい。
【0018】
また、乾燥マイタケ、乾燥マイタケ粉末及びマイタケ抽出物を疾病予防用の薬剤と併用して使用することも可能であり、薬剤としては、肺炎予防薬や消化器系の疾病予防薬を併用して給餌しても問題はなく、免疫賦活効果のある乳酸菌等を含む微生物資材と併用して使用することも可能である。
【0019】
本発明の乾燥マイタケを飼育中の豚に給餌する方法は、豚の免疫賦活能力向上の効果があると予想されるので、子豚の離乳後に限らず、飼育全ステージに渡り、供与しても全く問題ない。本発明の乾燥マイタケ粉末給餌方法は、豚に一定期間供与すると効果がある。その供与期間は、豚の種類や生育ステージによって異なるが、30日以上の給餌を目安にすることができる。また、期間中は連続的に給餌することが好ましい。
供与量は0.09〜0.14g/kg/日程度が好ましい。
【0020】
本発明において離乳期とは、離乳前期(35日程度)及び離乳後期(35日程度)の総称である。
【0021】
また、本発明において豚の疾病とは、浮腫病、PRRS(豚繁殖・呼吸障害症候群)、
PMWS(離乳後多臓器発育不良症候群)等がある。特に浮腫病は全身性疾患を引き起こす大腸菌症であり、浮腫病菌は他の病原性大腸菌と同じく小腸で定着・異常増殖することで病気を引き起こし、産生されたベロ毒素等の毒素が血液中に吸収されて全身に行き渡り、この毒素により子豚が死に至ることがある。
【0022】
PRRSは、母豚に感染すると妊娠後期の流産、死亡子豚・黒子虚弱仔の増加などの繁殖障害を起こし、子豚では間質性肺炎を起こし、いわゆるヘコヘコ病と呼ばれる腹式呼吸を特徴とする呼吸器症状を呈する。
【0023】
PMWSは、離乳から肥育前期(5〜15週齢)の豚で発育不良が増加する疾病で、体重減少や呼吸困難等を特徴とし、体表リンパ節の腫脹、皮膚炎、貧血、下痢等を伴うことがある。
【0024】
豚の下痢は、離乳子豚の消化器が母乳から人工飼料への急激な変化、離乳、環境変化等のストレスが加わることで加速される。さらに消化機能の低下や下痢を引き起こす大きな要因として病原性大腸菌がある。病原性大腸菌は子豚の腸管に付着する付着繊毛を持ち、これにより子豚の腸管に付着増殖し、毒素を産生して下痢を引き起こす。
【発明の効果】
【0025】
乾燥マイタケ、乾燥マイタケ粉末及びマイタケ抽出物の一つ又はそれ以上から選択されたマイタケ由来物質を離乳後の子豚に与えることで子豚の斃死を防止し、養豚の生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
乾燥マイタケ、乾燥マイタケ粉末、マイタケ抽出物の製造
(1)人工栽培で作った生マイタケ子実体を乾燥室の棚にならべ約60℃乃至約80℃の熱風を送り、乾燥した。最初は60℃から段階的に温度を上げ最終的には80℃でほぼ1日かけて加熱・乾燥して乾燥マイタケを得た。ついで乾燥マイタケを製粉機で粉末とした。また、マイタケ抽出物は水、アルコール等により常法により製造できる。
【0028】
(2)M養豚場において、2005年4月から8月までの間、子豚に、上記製法で得た乾燥マイタケ粉末を給餌飼料の重量に対して、0.5重量%の割合で離乳期(20日令)から50日令まで毎日給餌した。対照区としてはM養豚場における前年の同じ期間に子豚に乾燥マイタケ粉末を給餌せずに飼育した。
【0029】
次に各月において生存している子豚の下痢死亡頭数を調査した。その結果は表1、図1に示すとおりである。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果より、2005年4月より乾燥マイタケ粉末を投与したことにより、2005年3月迄と比較すると離乳後子豚の死亡率が大きく低下することが確認できる。加えて、図1の結果から、前年度の子豚の死亡頭数と比較しても、子豚の斃死率は明らかに低下し、斃死が減少したことにより、感染症を発症した1頭から飼育している舎全体への感染症の拡大を防止し、乾燥マイタケ粉末給与後のM養豚場での生産性が大きく上昇した。
【0032】
なお、本実験は乾燥マイタケ粉末を用いているが、乾燥マイタケあるいはマイタケ抽出物を用いても同様の結果が得られることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】子豚の死亡率をグラフにより示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥マイタケ、乾燥マイタケ粉末及びマイタケ抽出物の一つ又はそれ以上から選択されたマイタケ由来物質を豚の離乳期に投与することを特徴とする豚の疾病予防方法。
【請求項2】
疾病が大腸菌症であることを特徴とする請求項1記載の予防方法。
【請求項3】
大腸菌症が下痢であることを特徴とする請求項2記載の予防方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−161109(P2008−161109A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354108(P2006−354108)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(593084915)株式会社雪国まいたけ (30)
【Fターム(参考)】