説明

離脱機構、および、ノズルチップ

【課題】より簡易に、かつ、円滑にノズルチップをフィッティング部から離脱させる。
【解決手段】ノズル装置に組み込まれた離脱機構は、フィッティング部22に対して昇降自在のリムーバ20を備えている。リムーバ20の下端には、軸方向下向きに突出した突出部20aが設けられている。一方、フィッティング部22に装着されるノズルチップ60の上端面は、周方向に傾斜した傾斜面64となっている。チップ離脱時には、リムーバ20を下降させてリムーバ20の突出部20aでノズルチップ60の傾斜面64を押圧する。このとき軸方向下向きの力の一部が周方向の力に変換されてノズルチップ60に伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル装置のフィッティング部からノズルチップを離脱させる離脱技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体の吸引・吐出を行うノズル装置が広く知られている。このノズル装置の中には、処理対象の液体の汚染防止等のために、ノズルの先端部分が交換可能なものがある。かかるノズル装置は、ポンプに連通された略筒状のフィッティング部を備えており、当該フィッティング部にノズルチップと呼ばれるパイプが挿入、嵌合される。そして、このノズルチップをフィッティング部から取り外す際には、いわゆるチップリムーバが利用される場合が多かった。チップリムーバは、切り欠き等が形成された板材である。チップ離脱時には、当該切り欠きの内側にフィッティング部を移動させる。そして、切り欠きの内側にあるフィッティング部を上昇させて、装着されているノズルチップの上端面を切り欠きの周縁に衝突させ、ノズルチップを離脱させるものである。しかし、この従来の離脱技術は、単にノズル軸方向にノズルチップを引っ張っているに過ぎず、比較的、大きな離脱力が必要となる。
【0003】
特許文献1には、かかる問題を解決するために、チップ離脱時に、ノズルチップに対して水平方向の押圧力を加える技術が開示されている。すなわち、特許文献1では、水平方向の押圧力を加えるために、予め、水平方向に延びる二枚の押圧板を設けている。そして、チップ離脱時には、フィッティング部を左右に移動させて、装着されているノズルチップの側面に当該二枚の押圧板を衝突させる。この衝突によりノズルチップには水平方向の押圧力が付加されることになる。ノズルチップを水平方向に押圧した後は、従来と同様に、当該ノズルチップに軸方向下向きの力を付加して、ノズルチップをフィッティング部から離脱させる。このとき、水平方向に付加された押圧力により、ノズルチップとフィッティング部との嵌合は緩まっているため、離脱のために必要な軸方向の力は、従来に比べて、小さくなる。つまり、特許文献1に記載の技術によれば、チップ離脱に要する軸方向下向きの力を小さくすることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−248714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、チップ離脱に要するフィッティング部の移動量が大きく時間がかかり、また、その移動のための制御も複雑になるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明では、より簡易に、かつ、円滑にノズルチップをフィッティング部から離脱させることができ得る離脱機構、および、ノズルチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の離脱機構は、ノズル装置のフィッティング部からノズルチップを離脱させる離脱機構であって、フィッティング部に対して、ノズルチップ離脱方向に相対的に直線移動する移動部材と、移動部材の移動に伴いノズルチップの被当接部に当接する当接部材であって、移動に伴い生じる離脱方向の力の一部を周方向の力に変換してノズルチップに伝達する当接部材と、を備えることを特徴とする。
【0008】
好適な態様では、被当接部および当接部材のうち、一方は他方に向かって突出した形状であり、他方は周方向に傾斜した傾斜面を備える。
【0009】
他の好適な態様では、さらに、当接部材と被当接部との相対的位置関係を検出する位置検出手段を備えており、移動部材は、位置検出手段で検出された相対的位置関係が所定の基準を満たさない場合には離脱動作の実行を中止する。この場合、位置検出手段は、当接部材が被当接部に当接するまでに要した移動部材の相対移動量に基づいて、前記相対的位置関係を検出することが望ましい。
【0010】
他の好適な態様では、さらに、当接部材と被当接部との相対的位置関係を規制する位置規制手段を備える。この場合、位置規制手段は、フィッティング部に装着される前のノズルチップを保持するチップラックに設けられ、チップラックに対する当該ノズルチップの相対的位置関係を規制するべくノズルチップに部分的に係合する係合部であることが望ましい。
【0011】
他の好適な態様では、当接部材は、移動部材の下端に設けられ、略円弧状の付勢力を有する弾性体である。
【0012】
移動部材は、ノズル装置に設けられており、ノズルチップ離脱方向に絶対的に直線移動可能であってもよいし、ノズル装置とは別個に設けられた固定部材であって、フィッティング部の絶対的移動によりノズルチップ離脱方向に相対的に直線移動可能であってもよい。
【0013】
他の本発明であるノズルチップは、ノズル装置のフィッティング部に着脱自在に装着されるノズルチップであって、フィッティング部から当該ノズルチップを離脱させるべくノズルチップに当接する当接部材が当接する被当接部であって、当接部材と協働して離脱機構から付加される離脱方向の力の一部を周方向の力に変換する被当接部を備えることを特徴とする。
【0014】
この場合、前記被当接部は、ノズルチップの端面に形成され、当接部材が相対的に滑落する傾斜面であるか、または、当接部材に向かって突出した突出部であって、当接部材に設けられた傾斜面に沿って相対的に滑落する突出部であることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、離脱方向の力の一部が周方向の力に変換されてノズルチップに伝達されるため、ノズルチップは回動しつつ離脱方向に移動することになる。これにより、より簡易に、かつ、円滑にノズルチップをフィッティング部から離脱させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態であるノズル装置10の概略構成図である。このノズル装置10は、ノズルを用いて液体の吸引・吐出を行う装置である。このノズルの先端部分は、吸引・吐出対象の液体の汚染防止のために、交換可能となっている。すなわち、ノズル装置10は、ポンプ26に接続された略筒状のフィッティング部22を備えており、当該フィッティング部22にはノズルチップ60と呼ばれるパイプ部材が着脱自在に装着される。このノズル装置10で、液体の吸引・吐出処理を行う場合は、予め、新しいノズルチップ60をフィッティング部22に嵌合させて装着しておく。そして、所定の処理が終了すれば、フィッティング部22からノズルチップ60を離脱させ、廃棄する。ここで、本実施形態のノズル装置10は、ノズルチップ60のフィッティング部22からの離脱をより簡易に行うために、特殊な態様の離脱機構が組み込まれている。以下、このノズル装置10について詳説する。
【0017】
フィッティング部22などを有するノズル基部12は、XYZ駆動部32により水平方向および垂直方向の移動が可能となっている。XYZ駆動部32は、モータや、当該モータの出力をノズル基部12に伝達する伝達機構などから構成されており、制御部46により制御される。
【0018】
フィッティング部22は、その内部に管状の空間が形成された筒状の軸部材であり、ノズル基部12のフレーム14に対して固定配置された部材である。フィッティング部22の内部に形成された管状の空間は、分注ポンプ26の配管24に接続されており、分注ポンプ26からのエア圧力をフィッティング部22に装着されたノズルチップ60に伝達するポンプ配管として機能する。分注ポンプ26は、制御部46からの指示に応じてポンプ駆動部28により駆動制御される。
【0019】
フィッティング部22の下端には、ノズルチップ60が嵌合、装着される。このフィッティング部22は、ノズルチップ60の内部形状に応じた外部形状を備えており、下端に向かって僅かなテーパが形成されている。
【0020】
フィッティング部22の上側には、離脱機構を構成するリムーバ20が設けられている。リムーバ20は、フィッティング部22と同軸上に設けられた略筒状の部材で、フィッティング部22に対して昇降自在となっている。このリムーバ20は、液体の吸引・吐出処理を実行している際には、フィッティング部22に装着されたノズルチップ60に当接しない所定の初期高さに位置している。一方、当該ノズルチップ60をフィッティング部22から離脱させる際には、このリムーバ20は、当該ノズルチップ60の上端に当接する高さまで下降し、当該ノズルチップ60の上端を押圧する。つまり、このリムーバ20は、フィッティング部22に対して離脱方向に相対的に直線移動して、フィッティング部22に装着されたノズルチップ60に離脱方向の力を付加する移動部材として機能する。また、リムーバ20の下端には、当該リムーバ20の下降により生じる離脱方向の力の一部を、周方向の力に変換する変換手段として機能する突出部が設けられているが、これについては後に詳説する。
【0021】
ジャミングバネ18は、リムーバ20および移動軸16の間に設けられる圧縮コイルバネで、リムーバ20を軸方向下向きに付勢する付勢部材である。リムーバ20がノズルチップ60に当接した際、このジャミングバネ18は、当該ノズルチップ60からの反力によって圧縮変形し、ノズル基部12全体にかかる負荷の一部を吸収する。また、リムーバ20とノズルチップ60との当接関係が解除された際には、リムーバ20を軸方向下向きに付勢し、移動軸16とリムーバ20との位置関係を初期状態に戻す。移動軸16は、フィッティング部22に対して昇降自在の軸であり、モータ等を備えたリムーバ駆動部30により駆動制御される。この移動軸16の昇降に連動して、リムーバ20が昇降する。
【0022】
ジャミングセンサ34は、リムーバ20のノズルチップ60への当接を検出するセンサである。このジャミングセンサ34の具体的構成は、種々考えられるが、例えば、ジャミングバネ18と移動軸16との間に設けられた圧力センサをジャミングセンサとして用いることができる。すなわち、リムーバとノズルチップとの当接によりジャミングバネが圧縮変形した場合、その圧縮変形に応じた圧力が圧力センサで検出される。
【0023】
ジャミングセンサ34で検出された検出値は、増幅回路36で増幅された上でジャミング判定部38に送られる。ジャミング判定部38は、ジャミングセンサ34での検出値に基づいて、リムーバ20がノズルチップに当接したか否かを判定する。
【0024】
制御部46は、入力部42を介して入力されたユーザからの指示に応じてノズル装置10の各部を制御する制御手段である。すなわち、制御部46は、処理の進行状況に応じて、ノズル基部12の移動や、分注ポンプ26の駆動、移動軸16の昇降などを各部に指示する。この制御部46による制御の結果、ユーザに提示する必要のある各種情報は、表示部44に提示される。また、制御を実行するためのプログラムや、制御に必要な各種データは、予めメモリ40に記憶されている。
【0025】
次に、このノズル装置10によるノズルチップ60の離脱原理について詳説する。既述したとおり、本実施形態では、下降したリムーバ20でノズルチップ60の上端を押圧することでノズルチップ60をフィッティング部22から離脱させている。しかし、単に、ノズルチップ60を軸方向下向きに押圧しただけの場合、離脱に要する力が大きくなり、ノズル装置10にかかる負荷が大きくなるという問題がある。また、ノズルチップ60を軸方向下向きに押圧しただけの場合、離脱時における当該ノズルチップ60の内圧が急激に変化することになる。このノズルチップ60の内圧の急変は、当該ノズルチップ60に残存する液体の飛散を招き、ノズル装置10周辺を汚染する恐れがあった。
【0026】
そこで、本実施形態では、リムーバ20の下端およびノズルチップ60の上端の形状を特殊なものとし、下降により生じる軸方向下向きの力の一部を周方向の力に変換している。図2は、リムーバ20周辺の斜視図である。なお、図2においては、見易さのために、ノズルチップ60をフィッティング部22から分離して図示している。
【0027】
既述したとおり、リムーバ20は、フィッティング部22と同軸上に設けられた略筒状部材である。このリムーバ20の外径は、ノズルチップ60上端の外径とほぼ同じである。したがって、このリムーバ20がフィッティング部に対して下降した場合、リムーバ20の下端が、ノズルチップ60の上端に当接することになり、これによりノズルチップ60の離脱が図られる。
【0028】
ここで、このリムーバ20の下端は、ノズルチップ60の上端と協働して、軸方向下向きの力の一部を、周方向の力に変換でき得る形状となっている。具体的には、リムーバ20の下端からは、下向きに突出した突出部20aが延設されている。この突出部20aは、180度対称の位置にそれぞれ一つずつ、合計二つ形成されている。この突出部20aは、リムーバ20が下降した際に、ノズルチップ60の上端に当接する当接部として機能する。本実施形態では、この突出部20aの先端を略円弧状としている。
【0029】
一方、ノズルチップ60は、公知の通り、樹脂等の材料からなるパイプ部材である。このノズルチップ60は、上側から下側に向かうにつれ、徐々にその径が絞られており、全体として、細長い略円錐形状となっている。ノズルチップ60の上端における内径は、フィッティング部22の外径とほぼ同じとなっており、ここにフィッティング部22が挿入、嵌合されることで、ノズルチップ60のフィッティング部22への装着が図られる。また、ノズルチップ60の上端には、外側に張り出した鍔部62が形成されている。この鍔部62の上端面が、リムーバ20の突出部20aにより押圧されることでチップ離脱動作が図られる。
【0030】
ここで、この鍔部62の上端面、換言すれば、ノズルチップ60の上端面は、リムーバ20の突出部20aと協働して軸方向下向きの力の一部を、周方向の力に変換でき得る形状となっている。具体的には、図2に図示する通り、鍔部62の上端は、周方向に傾斜した傾斜面64となっている。本実施形態では、180度分の長さの傾斜面64が二つ、180度対称となるように形成されている。したがって、一つの傾斜面64の最高位置64aは、他の傾斜面64の最低位置64bのすぐ隣となる。
【0031】
図3は、チップ離脱の様子を示す図である。フィッティング部22にノズルチップ60が装着されている状態で、リムーバ20が下降すると、当該リムーバ20の突出部20aがノズルチップ60上端の傾斜面64に当接する。この状態で、リムーバ20が、さらに下降すると、ノズルチップ60はリムーバ20から受ける軸方向下向きの力を避けるべく徐々に移動する。すなわち、ノズルチップ60は、軸方向下向きに移動するとともに、突出部20aがより最低位置64b側と当接するべく周方向に回動する。換言すれば、相対的に、突出部20aが傾斜面64に沿って滑りながら下降するような状態となる。このとき、リムーバ20の下降により生じる軸方向下向きの力の一部は、周方向の力に変換されてノズルチップ60に伝達されることになる。この場合、ノズルチップ60に軸方向下向きの力だけを付加した場合に比べて離脱に要する力を小さくすることができる。その結果、ノズル基部12全体にかかる負荷を小さくすることができる。
【0032】
また、本実施形態の場合、ノズルチップ60が周方向に徐々に回動することにより、当該ノズルチップ60の内圧が緩やかに大気圧に近づく。その結果、ノズルチップ60の内圧の急変に起因する残留液体の飛散が防止される。さらに、本実施形態の場合、離脱機構をノズル基部12に組み込んでいるため、ノズルチップ離脱に要するノズル基部12の移動量を低減でき、結果として離脱動作に要する時間を短縮できる。すなわち、従来では、ノズル基部とは別個にチップ廃棄位置近傍に固定配置された板材に、フィッティング部に装着されたノズルチップの上端面を当接させてチップ離脱を図っていた。この場合、ノズル基部をチップ廃棄位置近傍まで移動させ、次いで、ノズルチップ上端が当該板材より下側になる位置までノズル基部を移動させる。その後、当該板材端部にノズルチップ上端を引っ掛けるべくノズル基部を上昇させるという手順が必要だった。一方、本実施形態によれば、ノズル基部12をチップ廃棄位置近傍まで移動させた後は、リムーバ20だけを駆動させればよく、ノズル基部12を新たに移動させる必要はない。そのため、離脱に要する時間を短縮できる。なお、本実施形態では、チップ離脱時には、突出部20aが相対的に傾斜面64に沿って滑落するような状態となる。この滑落をより確実に誘発するために、突出部20aおよび傾斜面64の少なくとも一方を、低摩擦係数の材料で構成、あるいは、少なくとも一方の表面に低摩擦係数の材料でコーティングを施しておくことが望ましい。
【0033】
ところで、本実施形態の離脱機構で、適切にチップ離脱を行う場合は、リムーバ20に設けられた突出部20aと、ノズルチップ60上端に設けられた傾斜面64と、の相対的位置関係が極めて重要となる。すなわち、リムーバ20の下降により突出部20aが最初に当接する位置が傾斜面64の最低位置であった場合、既述した突出部20aの滑落動作が傾斜面64同士の境界面64cで阻害され、ノズルチップ60が回動できなくなる。
【0034】
そこで、本実施形態では、突出部20aと傾斜面64との相対的位置関係を規制する規制手段を備えたチップラックを用いている。図4は、本実施形態で用いるチップラックの概略斜視図である。
【0035】
チップラック100は、使用前のノズルチップ60を保持する収容容器である。このチップラック100には、ノズルチップ60が挿通可能な貫通孔102が多数形成されている。各貫通孔102の径は、ノズルチップ60の鍔部62の外径より小さくなっている。ノズルチップ60を当該貫通孔102に挿通した場合、大径の鍔部62が貫通孔102と通過できず、チップラック100の上面で留まる。これにより、ノズルチップ60が保持される。
【0036】
このとき、当然ながら、鍔部62の底面は、チップラック100の上面に接触することになる。このチップラック100の上面には、チップラック100に対するノズルチップ60の周方向における相対的位置関係を規制するための突起104が形成されている。
【0037】
一方、ノズルチップ60の鍔部62には、当該突起104に対応する凹部66が形成されている。この凹部66は、チップラック100の突起104を収容可能な程度の大きさとなっており、180度対称の位置に一つずつ、合計二つ設けられている。
【0038】
使用前のノズルチップ60は、チップラック100に設けられた突起104と、鍔部62に設けられた凹部66と、が係合するように貫通孔102に挿入される。そして、突起104および凹部66が互いに係合することにより、チップラック100とノズルチップ60とが自動的に所定の位置関係に規制されることになる。
【0039】
チップラック100に保持されているノズルチップ60をフィッティング部22に装着する場合には、まず、ノズル基部12をチップラック100に保持されているノズルチップ60の上空まで移動させる。その後、ノズル基部12を下降させ、フィッティング部22をノズルチップ60に挿入、嵌合する。このとき、チップラック100に対するノズルチップ60の周方向における相対的位置関係は規制されており、固定配置されているチップラック100に対するフィッティング部22の周方向における相対的位置関係も規制されている。したがって、チップラック100に保持されているノズルチップ60と、フィッティング部22(ひいてはリムーバ20の突出部20a)との周方向における相対的位置関係も自動的に、所定の位置関係に規制されることになる。その結果、リムーバ20の突出部20aと、フィッティング部22に装着されたノズルチップ60の傾斜面64と、は常に適切な位置関係に保たれることになる。これにより、複雑な制御等を行わなくても、常に、好適なチップ離脱動作を図ることができる。
【0040】
また、本実施形態では、さらに、フィッティング部22に装着されたノズルチップ60と、リムーバ20と、の周方向における相対的位置関係を検出する検出機構も設けている。検出機構は、既述したジャミングセンサ34、増幅回路36、ジャミング判定部38、および、制御部46などから構成される(図1参照)。
【0041】
図5は、相対的位置関係の検出原理を示す図である。チップ離脱動作は、リムーバ20が所定の初期高さHから下降し、フィッティング部22に装着されているノズルチップ60の上端を押圧することで実現されている。このとき、初期高さHに位置しているリムーバ20が、ノズルチップ60に当接するまでの下降距離hは、ノズルチップ60と、リムーバ20との周方向における相対的位置関係に応じて変化する。すなわち、突出部20aがノズルチップ60の傾斜面64の最高位置64a側に位置している場合、当該下降距離hは短くなる。逆に、突出部20aがノズルチップ60の傾斜面64の最低位置64b側に位置している場合、当該下降距離hは長くなる。つまり、突出部20aが、ノズルチップ60の傾斜面64の最高位置64aから離れるほど、リムーバ20の下降距離hが長くなる。本実施形態では、このノズルチップ60に当接するまでに要するリムーバ20の下降距離hに基づいて、突出部20aと傾斜面64との相対的位置関係を検出している。
【0042】
具体的には、突出部20aと傾斜面64との相対的位置関係を検出する際、制御部46は、リムーバ駆動部30に指示を出力し、リムーバ20を徐々に下降させる。下降の結果、リムーバ20がノズルチップ60に当接したことがジャミングセンサ34で検出されれば、制御部46は、リムーバ20の下降を中止する。制御部46は、この時点までに、モータに入力したパルス数、または、リムーバ駆動部30に装着されたエンコーダ等からの出力パルス数に基づいて、リムーバ20の下降距離を算出する。そして、得られた下降距離に基づいて、突出部20aと傾斜面64との周方向における相対的位置関係を算出する。
【0043】
次に、このノズル装置10における分注処理の流れについて説明する。図6は、本実施形態における分注処理の流れを示すフローチャートである。分注処理を行う場合は、予め、使用前のノズルチップ60をチップラック100にセットしておく。このとき、ノズルチップ60の鍔部62に設けられた凹部66と、チップラック100の上面に設けられた突起104と、を互いに係合させる。
【0044】
続いて、チップラック100に保持されたノズルチップ60を、フィッティング部22に装着する。すなわち、ノズル基部12をチップラック100に保持されたノズルチップ60の上空まで移動させた後、下降させる(S10、S12)。そして、ノズル基部12に設けられたフィッティング部22をノズルチップ60に挿入、嵌合する。
【0045】
ノズルチップ60の装着ができれば、続いて、装着されたノズルチップ60とリムーバ20との周方向における相対的位置関係の良否を判定する。すなわち、ジャミングセンサでリムーバ20とノズルチップ60との当接が検出されるまで、リムーバ20を下降させる(S16,18)。そして、当接が検出されれば、制御部46は、その時点までのリムーバ20の下降距離が所定の基準値以下か否かを判断する(S20)。また、下降していたリムーバ20を所定の初期高さに戻す。下降距離が所定の基準値を超える場合には、リムーバ20の突出部20aは、ノズルチップ60の傾斜面64の最低位置64b近傍にあると判断できる。この場合は、適切にノズルチップ60を離脱させることができないので、ユーザにエラーが発生した旨を提示して、処理を終了する(S22)。
【0046】
一方、下降距離が所定の基準値以下の場合には、ノズルチップ60とリムーバ20との相対的位置関係は適切であると判断する。そして、ノズル基部12を上昇させて、所定の液体吸引・吐出動作を実行する(S24)。
【0047】
所定の液体吸引・吐出動作が終了すれば、続いて、装着されているノズルチップ60の廃棄動作を開始する。すなわち、まず、ノズル基部12を、チップ廃棄位置まで移動させる(S26)。ここで、チップ廃棄位置とは、使用済みノズルチップ60を収容する廃棄チップ収容容器の上空を意味する。
【0048】
ノズル基部12をチップ廃棄位置まで移動させれば、リムーバ20をフィッティング部22に対して下降させる(S28)。そして、リムーバ20の突出部20aで、ノズルチップ60の傾斜面64を押圧する。このとき、突出部20aおよび傾斜面64の当接関係により、リムーバ20からノズルチップ60に付加される軸方向下向きの力の一部は、周方向の力に変換される。そのため、ノズルチップ60は、軸方向下向きに移動するとともに、周方向にも回動することになる。そして、この周方向の回動が行われることにより、チップ離脱に要する力を低減することができる。また、ノズルチップ60の内圧変化を緩慢にすることができる。その結果、ノズル基部12全体にかかる負荷を小さくでき、また、ノズルチップ60内の残留液体の飛散等を防止することができる。
【0049】
ノズルチップ60が完全にフィッティング部22から完全に離脱した後は、ノズル基部12を所定の位置に移動させれば、分注処理は終了となる(S30)。なお、ノズルチップ60が完全離脱したか否かは、ジャミングセンサ34での検出値に基づいて判断できる。すなわち、ノズルチップ60が完全離脱しておらず、リムーバ20の突出部20aとノズルチップ60の傾斜面64とが当接関係を維持している場合、この当接関係がジャミングセンサ34で検出される。一方、ノズルチップ60がフィッティング部22から完全離脱した場合には、当該当接関係は解除されるため、ジャミングセンサ34で当接を検出することができなくなる。制御部46は、このジャミングセンサ34での検出結果に基づいて、ノズルチップ60が完全離脱したか否か判断する。
【0050】
以上の説明から明らかなように、本実施形態によれば、軸方向下向きの力の一部を、周方向の力に変換して、ノズルチップ60に伝達することができる。その結果、簡易かつ適切にノズルチップ60を離脱させることができる。また、本実施形態では、ノズルチップ60の傾斜面64とリムーバ20の突出部20aとの相対的位置関係を規制、および、検出する手段を設けているため、常に、適切な離脱動作を行うことができる。
【0051】
なお、ここで説明した構成は一例であり、チップ離脱のために発生させた軸方向下向きの力の一部を周方向の力に変換してノズルチップ60に伝達できるなら、異なる構成であってもよい。例えば、本実施形態では、突出部20aや傾斜面等64を、それぞれ二つずつ設けているが、この数に限定されるものではなく、単一、あるいは、三つ以上設けてもよい。また、ノズルチップ60の傾斜面64とリムーバ20の突出部20aとの相対的位置関係を規制する手段、および、検出する手段は、適宜、省略されてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、リムーバ20に突出部20aを、ノズルチップ60に傾斜面64を設けているが、逆であってもよい。すなわち、図7に図示するように、リムーバ20の下端面を周方向に傾斜した傾斜面20bとし、ノズルチップ60の上端面に軸方向上向きに延びる突出部68を形成してもよい。この場合であっても、リムーバ20が下降してノズルチップ60の上端面を押圧すれば、当該リムーバ20に設けられた傾斜面20bに沿ってノズルチップ60の突出部68が滑ることになる。つまり、軸方向下向きの力の一部が周方向の力に変換されてノズルチップ60に伝達されることになり、離脱に要する力を低減でき、かつ、ノズルチップ60の内圧変化を緩慢にすることができる。
【0053】
さらに、本実施形態では、リムーバ20をノズル基部12に設けているが、当該リムーバ20はノズル装置10とは別個に設けられてもよい。例えば、図8に図示するように、ノズル装置10とは別個に固定配置された板材70の底面に突出部70a、フィッティング部に装着されたノズルチップ60の上端面に傾斜面64を設けてもよい。この場合、板材70は、チップ廃棄位置に固定配置される。この板材70には、ノズルチップ60の上端内径と、ほぼ同じ幅の切り欠き70bが形成されている。そして、この切り欠き70bの両側からは下向きに伸び、先端が略円弧状となった突出部70aが設けられている。
【0054】
かかる構成においてノズルチップ60を離脱させる際には、まず、ノズルチップ60の傾斜面64が、突出部70aの下端より低くなる高さまでノズル基部を下降させる。そして、フィッティング部が切り欠き70bの幅内に収まり、かつ、ノズルチップ60の傾斜面64が突出部70aの真下になる位置までノズル基部を水平移動させる。この状態からノズル基部を上昇させれば、突出部70aは、ノズルチップ60からみて軸方向下向きに相対移動することになる。そして、この相対移動により、相対的に、突出部70aが傾斜面64に沿って滑落するような状態となり、ノズル基部の上昇により生じた軸方向下向きの力の一部が、周方向に変換されてノズルチップ60に伝達される。つまり、図8に図示するように、離脱機構の一部(突出部)をノズル装置とは別個に設けても、上述の実施形態と同様に、比較的小さな力でノズルチップを離脱させることができ、また、離脱時におけるチップの内圧変化を緩慢にできる。なお、当然ながら、図8における傾斜面64と突出部70aとの関係を逆にしてもよい。すなわち、図9に図示するように、板材70の底面に傾斜面70cを、ノズルチップ60の上端面に突出部68を設けてもよい。
【0055】
次に、第二実施形態のノズル装置10について説明する。第二実施形態におけるノズル装置10では、軸方向下向きの力の一部を周方向の力に変換する変換手段の構成が、第一実施形態と大きく異なっている。図10は、リムーバ20周辺の概略側面図である。
【0056】
このノズル装置10は、第一実施形態のノズル装置と同様に、フィッティング部22に対して昇降自在のリムーバ20を備えている。このリムーバ20の下端には、略円弧方向に付勢力を発生させる弾性体、具体的には板バネ20cが設けられている。本実施形態では、90度対称となる位置にそれぞれ一つずつ、合計四つの板バネ20cが設けられている。なお、略円弧方向に付勢力を発生させるのであれば、板バネ20cに代えて他の弾性体、例えば、ねじりバネ等を用いてもよい。一方、ノズルチップ60の上端面は、第一実施形態と異なり、平坦面である。
【0057】
このノズル装置10において、チップ離脱のためにリムーバ20を下降させると、まず、当該リムーバ20の下端に設けられた板バネ20cが、フィッティング部22に装着されたノズルチップ60の上端面に当接する。更に、リムーバ20を下降させると、板バネ20cを介して軸方向下向きの力がノズルチップ60に伝達される。また、このとき、ノズルチップ60の上端面には、弾性変形した板バネ20cの付勢力により円弧方向下向きの力も付加されることになる。つまり、リムーバ20の下降により、ノズルチップ60には、軸方向下向きの力と周方向の力とが同時に働くことになる。換言すれば、板バネ20cを介することにより、リムーバ20の下降により生じた軸方向下向きの力の一部が周方向の力に変換されてノズルチップ60に伝達される。これにより、ノズルチップ60は、軸方向下向きに移動するとともに、周方向にも回動することになる。その結果、比較的小さい力でノズルチップ60を離脱させることができ、また、ノズルチップ60の内圧変化を緩慢にすることができる。
【0058】
なお、本実施形態でも、板バネ20cとノズルチップ60の上端面との摩擦力は大きい方が望ましいため、両者のうち少なくとも一方を低摩擦材料で構成、あるいは、少なくとも一方を低摩擦材料でコーティングしておくことが望ましい。一方で、本実施形態の場合、第一実施形態と異なり、ノズルチップとリムーバとの周方向における相対的位置関係は重要とはならない。したがって、本実施形態では、第一実施形態で説明した相対的位置関係の規制手段および検出手段等を省略することができ、より簡易にチップ離脱動作を実現することができる。
【0059】
また、本実施形態でも、第一実施形態と同様に、離脱機構の一部をノズル装置とは別個のものとして構成してもよい。すなわち、予め、切り欠きが形成された板材をチップ廃棄位置に固定配置しておき、この板材の底面のうち切り欠きの周囲に板バネを設けておくようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第一実施形態であるノズル装置の概略構成図である。
【図2】リムーバ周辺の斜視図である。
【図3】チップ離脱時の様子を示す概略図である。
【図4】チップラックの概略斜視図である。
【図5】相対的位置検出の原理を示す図である。
【図6】分注処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】当接関係の他の例を示す図である。
【図8】離脱機構の他の構成例を示す図である。
【図9】離脱機構の他の構成例を示す図である。
【図10】第二実施形態におけるリムーバ周辺の概略側面図である。
【符号の説明】
【0061】
10 ノズル装置、12 ノズル基部、16 移動軸、18 ジャミングバネ、20 リムーバ、20a 突出部、20b 傾斜面、20c 板バネ、22 フィッティング部、26 分注ポンプ、30 リムーバ駆動部、32 XYZ駆動部、34 ジャミングセンサ、46 制御部、60 ノズルチップ、62 鍔部、64 傾斜面、66 凹部、68 突出部、70 板材、70a 突出部、70c 傾斜面、100 チップラック、102 貫通孔、104 突起。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル装置のフィッティング部からノズルチップを離脱させる離脱機構であって、
フィッティング部に対して、ノズルチップ離脱方向に相対的に直線移動する移動部材と、
移動部材の移動に伴いノズルチップの被当接部に当接する当接部材であって、移動に伴い生じる離脱方向の力の一部を周方向の力に変換してノズルチップに伝達する当接部材と、
を備えることを特徴とする離脱機構。
【請求項2】
請求項1に記載の離脱機構であって、
被当接部および当接部材のうち、一方は他方に向かって突出した形状であり、他方は周方向に傾斜した傾斜面を備えることを特徴とする離脱機構。
【請求項3】
請求項2に記載の離脱機構であって、さらに、
当接部材と被当接部との相対的位置関係を検出する位置検出手段を備えており、
移動部材は、位置検出手段で検出された相対的位置関係が所定の基準を満たさない場合には離脱動作の実行を中止することを特徴とする離脱機構。
【請求項4】
請求項3に記載の離脱機構であって、
位置検出手段は、当接部材が被当接部に当接するまでに要した移動部材の相対移動量に基づいて、前記相対的位置関係を検出することを特徴とする離脱機構。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項に記載の離脱機構であって、さらに、
当接部材と被当接部との相対的位置関係を規制する位置規制手段を備えていることを特徴とする離脱機構。
【請求項6】
請求項5に記載の離脱機構であって、
位置規制手段は、フィッティング部に装着される前のノズルチップを保持するチップラックに設けられ、チップラックに対する当該ノズルチップの相対的位置関係を規制するべくノズルチップに部分的に係合する係合部であることを特徴とする離脱機構。
【請求項7】
請求項1に記載の離脱機構であって、
当接部材は、移動部材の下端に設けられ、略円弧状の付勢力を有する弾性体であることを特徴とする離脱機構。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の離脱機構であって、
移動部材は、ノズル装置に設けられており、ノズルチップ離脱方向に絶対的に直線移動可能であることを特徴とする離脱機構。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載の離脱機構であって、
移動部材は、ノズル装置とは別個に設けられた固定部材であって、フィッティング部の絶対的移動によりノズルチップ離脱方向に相対的に直線移動可能であることを特徴とする離脱機構。
【請求項10】
ノズル装置のフィッティング部に着脱自在に装着されるノズルチップであって、
フィッティング部から当該ノズルチップを離脱させるべくノズルチップに当接する当接部材が当接する被当接部であって、当接部材と協働して離脱機構から付加される離脱方向の力の一部を周方向の力に変換する被当接部を備えることを特徴とするノズルチップ。
【請求項11】
請求項10に記載ノズルチップであって、
前記被当接部は、ノズルチップの端面に形成され、当接部材が相対的に滑落する傾斜面であることを特徴とするノズルチップ。
【請求項12】
請求項10に記載ノズルチップであって、
前記被当接部は、当接部材に向かって突出した突出部であって、当接部材に設けられた傾斜面に沿って相対的に滑落する突出部であることを特徴とするノズルチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−134201(P2008−134201A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322128(P2006−322128)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】