説明

難溶性薬物を含む均一なサイズの高分子ナノ粒子製造方法

本発明は、難溶性薬物を含む均一なサイズの高分子ナノ粒子の製造方法に関するもので、より詳細には、生分解性高分子を不揮発性の極性有機溶媒に溶解させる工程(工程1)、前記生分解性高分子溶液に、水に難溶性な薬物を加えて分散液を製造する工程(工程2)及び低い機械的エネルギー水準の撹拌条件の下で、前記分散液を乳化剤水溶液に一括添加する工程(工程3)とを含む、難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子に関するものである。本発明によると、生分解性高分子と難溶性物質の混合溶液の溶媒として不揮発性の極性溶媒、特に水と類似の極性を有する溶媒を用いて、乳化過程で低い機械的エネルギー条件及び分散液の一括添加の簡単な方法だけで製造することができ、高分子粒子内に含有された難溶性物質の溶出率が大きく改善され、難溶性薬物が徐々に持続的に放出され一定濃度で長期間維持され得る、小さくて均一なナノサイズの高分子ナノ粒子を提供するのに有用に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難溶性薬物を含む均一なサイズの高分子ナノ粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者を治療するためには、薬効を有した純粋な活性物質のみを投与するのではなく、治療効果を最大にして患者が用いるのに便利なように、物理化学的方法で考案されたシステムを用いる。このようなシステムを剤形といい、注射剤、カプセル剤、錠剤などの剤形が用いられる。
【0003】
多様な経路を通じて投与された薬物は、多くの生体膜と組織を通じて特定臓器に到達する。特定臓器に到達した薬物は、臓器に分布している受容体に結合して薬効を発現した後、肝臓などによって代謝されて大便や小便で排泄される。ここで、薬物を薬効が現われる部位に移行させる過程は、人為的に調節しにくく、たいてい非能率的になされる。したがって、薬物治療時に最適の効能と安全性を得るためには、薬物が特定の作用部位に選択的に到達しなければならないので、多様な方法を用いて投与部位から薬物が体外に排泄される時までの体内動態を制御することが必要である。このような制御のためのシステムを、薬物伝達システムといって多様な形態の薬物伝達システムが広範囲に研究されている(非特許文献1)。
【0004】
このような薬物伝達システムの中で、生分解性高分子を用いて高分子内部に薬物を含浸またはカプセル化して薬物を伝達することができるナノまたはマイクロサイズの粒子を用いた薬物伝達システムの製造方法が存在し、その中の一つとして乳化剤を用いる方法がある。乳化剤を用いる方法は、有機溶媒に活性物質と高分子を混合溶解させた分散液を乳化剤水溶液内部に再分散させて高分子粒子を製造する方法である。ここで、分散液内の高分子は、疎水性を有するので乳化剤の親水性−疎水性部分で疎水性部分と結合して水に分散した球形の粒子を作ることができ、強い撹拌や震動強度によって粒子のサイズが減少する傾向を示す。このような乳化方法を用いて、抗癌剤として用いられるドキソルビシンとポリ−D,L−乳酸−co−グリコール酸(PLGA)をメチレンクロライド溶液に溶解させてオイル相を作った後、3%のポリビニルアルコール水溶液内に添加させながら超音波の強い震動を用いて平均500nm以内のサイズを有するドキソルビシンが含有されたPLGAナノ粒子を製造する方法が報告されたことがある(非特許文献2)。しかし、乳化剤を用いたナノ粒子の製造方法は、超音波を使用する場合にはナノ粒子の収率は良いが、強いエネルギーを用いるのでランニングコストを増加させる短所があり、撹拌方法を用いる場合にも強い機械的エネルギーを必要とする高い回転速度を用いらなければならないし、高分子薬物の添加速度を調節しなければならないという短所がある。また、沸点が低い揮発性溶媒を用いる場合には、その危険性のために溶媒回収装置が必要であり、工程条件によっては、広範囲の粒度分布と粒子が凝集する現象のために、ナノ粒子の収率が低くなるという短所がある。このような問題を解決するために、より低い機械的エネルギーを使用しながら粒度分布が比較的均一であり、収率がより高いナノ粒子の製造方法が切実に求められている。
【0005】
一方、難溶性薬物などの難溶性物質を有効成分とする医薬で治療が可能な慢性疾患は、これを長期間服用しなければならない。そのため、投与時1回の薬の量を少し多量に投与しただけでも、長期間にわたる体内蓄積によって副作用が発生するようになる。難溶性薬物の場合、溶出率が低いために1回の投与時に多量に投与することになるので、慢性疾患に対して難溶性薬物を投与する場合、副作用防止のためにも溶出率の改善が重要な問題である。また、長期間服用しなければならないので、1日に複数回投与することは服用者にも不便であり、徐放性製剤を開発して投与回数を減らし、血中薬物濃度が長期間一定になるように維持させることが効果的である。
【0006】
例えば、ビフェニルジメチルジカルボキシレート(BDD)系薬物は、肝炎治療及び肝保護の作用があり、臨床的に血清トランスアミナーゼ、特に血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(SGPT)の活性を低下する機能がある(非特許文献3)。また、動物実験で確認した結果、四塩化炭素またはチオアセトアミド毒性による肝損傷からの保護作用があり、シトクロムP450 2B1 mRNAとベンジルオキシレゾルフィン−O−デアルキラーゼ活性を増加させて、フリーラジカル除去機能があることに提示された。
【0007】
しかし、前記化合物は、水に対して非常に難溶性(2.0〜4.0μg/ml)で、溶出率が極めて低く、錠剤形態で服用する場合、バイオアベイラビリティが20〜30%に過ぎないことが知られている(非特許文献4)。したがって、BDD系の肝疾患治療剤は、体内溶出量が少なくバイオアベイラビリティが極めて落ちるので、錠剤服用の場合、持続的に過量服用しなければならないという短所がある。
【0008】
一方、難溶性薬剤の吸収率を良くするために、物理的または化学的改質を通じて溶解度を増加させるための研究が広範囲に進められており、特に薬物の結晶をナノ化する物理的改質を通じて難溶性薬物の経口投与を可能にするための研究が進められている(非特許文献5)。また、生分解性高分子内部に薬物を担持させることで、薬物のバイオアベイラビリティを増加させる及び長期間効果を持続させる多様な実験が報告されている。
【0009】
例えば、韓国公開特許第2005−0038224号(特許文献1)は、肝疾患治療に有用な「ビフェニルジメチルジカルボキシレート及びカルドスマリアヌス抽出物またはそれから精製されたシリビンを含む経口用マイクロエマルジョン組成物」について記載され、難溶性薬物に添加剤(共界面活性剤、界面活性剤及びオイル)を添加して溶出率を増大させることにより、バイオアベイラビリティが増加し、肝疾患(慢性疾患)治療効果が高まるということが開示されている。
【0010】
また、韓国公開特許第1997−0058726号(特許文献2)には、水溶性タンパク質薬物を生分解性高分子に均一に分布させ、薬物粒子または生分解性高分子マトリクスを生体適合性疎水性物質で再び被覆することにより、水溶性薬物が最初に多量放出されることを改善した徐放性製剤が記載されている。しかし、これら製剤の溶出増大効果、持続的放出効果などは、依然として期待値に至っていない。
【0011】
そこで、本発明者らは、不揮発性の極性溶媒、特に水と親和力が高い有機溶媒に溶解した生分解性高分子溶液に難溶性物質を溶解し、これを低い機械的エネルギーの単純な撹拌条件の下で乳化剤にコーティングすることによって、粒度分布が均一な、難溶性物質を含む高分子ナノ粒子の製造方法を開発し、前記製造方法によって製造された高分子ナノ粒子製剤が、難溶性薬物の溶出率を増加させることでバイオアベイラビリティを増加させ、血液内で薬物の濃度を長期間持続的に維持することができ、その結果薬物の使用量を減少させ、従来の難溶性薬剤の過量服用を回避することができることを発見し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】韓国公開特許第2005−0038224号
【特許文献2】韓国公開特許第1997−0058726号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】韓国薬学大学協議会薬剤学分科会著、製剤学−薬剤学総書、p483、2000年
【非特許文献2】Tewes F等,European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics,2007年,第66巻,p.488-492
【非特許文献3】リー・ヒョソック等、大韓内科学会雑誌、第40巻第2号、1991年
【非特許文献4】Kim HJ等,J Kor Pharm Sci,2000年,第30巻第2号,p.119−125
【非特許文献5】Khang KS等,Polymer Science and Technology,2002年,第13(3)巻,p.342−359
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、難溶性薬物を含む、粒度分布が均一な高分子ナノ粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するため、本発明は生分解性高分子を不揮発性極性有機溶媒に溶解させる工程(工程1);前記工程1で製造された生分解性高分子溶液に、水に難溶性の薬物を加えて分散液を製造する工程(工程2);及び低い機械的エネルギー水準の撹拌条件で、前記工程2で製造された分散液を乳化剤水溶液に一括添加する工程(工程3)を含む、難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明よると、ナノサイズの粒度分布が均一な高分子ナノ粒子を低い機械的エネルギーの撹拌条件で簡単に生成することができ、このような方法によって製造される薬物を含む製剤は、その薬物溶出率が大きく改善され、バイオアベイラビリティが増加し、また薬物が徐々に放出されるので、血液内で薬物を一定濃度で長期間維持することができ、したがって薬物の使用量を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】不揮発性極性溶媒であるDMAcを用いて製造した難溶性BDDを含むナノ粒子の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示した図である。
【図2】不揮発性極性溶媒であるDMAcを用いて製造した難溶性BDDを含むナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)写真を示した図である。
【図3】不揮発性極性溶媒であるDMAcを用いて製造した難溶性BDDを含むナノ粒子の粒度分布写真を示した図である。
【図4】不揮発性極性溶媒であるDMSOを用いて製造した難溶性BDDを含むナノ粒子の粒度分布写真を示した図である。
【図5】不揮発性極性溶媒であるDMFを用いて製造した難溶性BDDを含むナノ粒子の粒度分布写真を示した図である。
【図6】四塩化炭素誘導の肝損傷に対する本発明による実施例2のBDDを含む生分解性高分子ナノ粒子の肝臓内持続的な治療効果(肝臓内のALT濃度測定)を示したグラフである。
【図7】四塩化炭素誘導の肝損傷に対する本発明による実施例2のBDDを含む生分解性高分子ナノ粒子の肝臓内持続的な治療効果(肝臓内のAST濃度測定)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0019】
本発明は、生分解性高分子を不揮発性極性有機溶媒に溶解させる工程(工程1)と、前記工程1で製造された生分解性高分子溶液に、水に難溶性の薬物を加えて分散液を製造する工程(工程2)、及び、低い機械的エネルギー水準の撹拌条件で、前記工程2で製造された分散液を乳化剤水溶液に一括添加する工程(工程3)とを含む、難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法を提供する。
【0020】
以下、本発明による製造方法を工程別に具体的に説明する。
【0021】
まず、本発明による前記工程1は、生分解性高分子を不揮発性極性有機溶媒に溶解させる工程である。
【0022】
前記工程1の生分解性高分子は、生体内で分解され得る生体適合性高分子である。具体的には、ポリ−L−乳酸(以下「PLA」)、ポリ−グリコール酸(以下「PGA」)、ポリ−D−乳酸−co−グリコール酸(以下、「PLGA」)、ポリ−L−乳酸−co−グリコール酸、ポリ−D,L−乳酸−co−グリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレートなどのポリエステル系高分子を単独でまたは混合して用いることができるが、これに制限されるものではない。特に、生分解性及び生体適合性の観点からPLGAを用いることがより好ましい。前記PLGAは、アメリカ食品医薬品安全庁で医療用に承認された高分子材料であり、毒性問題がなく、他の高分子と比較して薬物伝達体または生体材料のような医療用として直接的応用がより容易な長所がある。また、共重合時のグリコライドとラクタイドの比率または分子量の調節による高分子の分解速度を変化させて薬物の放出挙動を調節することができる特徴がある(Anderson JM等,Advanced Drug Delivery Reviews,1997年,第28巻,p.5−24)。
【0023】
前記工程1の前記有機溶媒は、不揮発性の極性有機溶媒であることが好ましい。特に極性が水と類似で水との親和力の大きい溶媒がさらに好ましい。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ピロリドン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(DMPU)、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)のような不揮発性溶媒を単独でまたは混合して用いることができるが、これに限定されるものではない。これらの中でジメチルアセトアミド(DMAc)がさらに好ましい。
【0024】
次に、本発明による前記工程2は、前記工程1で製造された生分解性高分子溶液に、水に難溶性な薬物を加えて分散液を製造する工程である。
【0025】
前記水に難溶性な薬物は、低い溶解度に起因して薬物の溶出が吸収を律速するためにバイオアベイラビリティを左右する薬物なら特別な制限なしに用いることができる。さらに、前記薬物は、オイル相または結晶相の区別なしに用いることができる。具体的には、グリセオフルビン、ジゴキシン、ジピリダモール、スピロノラクトン、シクロスポリン、アムフォテリシンB、フルオロウラシル、エトポシド、6−メルカプトプリン、デキサメタゾン、ペルフェナジン、難溶性肝疾患治療剤であるBDD(ビフェニルジメチルジカルボキシレート)、DDB(ジメチルジメトキシビフェニルジカルボキシレート)などを挙げることができる。
【0026】
前記工程2によって、前記工程1で製造された高分子溶液内にオイル相または結晶相の難溶性薬物が存在する分散液を製造することができる。
【0027】
前記難溶性薬物と前記工程1の生分解性高分子の含量比は、0.5〜5:10〜100重量部が相応しい。
【0028】
次に、本発明による工程3は、低い機械的エネルギー水準の撹拌条件で、前記工程2で製造された分散液を乳化剤水溶液に一括添加する工程である。
【0029】
前記工程3で用いられる乳化剤水溶液に用いられる乳化剤は、両親媒性(親水性及び親油性基を両方有する)溶媒であり、オイル相を水溶液中に容易に分散させることができるものであればすべて使用可能である。好ましくは、本発明の乳化剤として、プロピレングリコール(すなわち、1,2−ジヒドロキシプロパン)、ポリエチレングリコール(特に、分子量200〜600のポリエチレングリコール;以下、「PEG」)、プロピレンカーボネート(すなわち、4−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソラン)、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」)、ポリビニルピロリドン(以下、「PVP」)などを用いることができ、これらはそれぞれでまたは二つ以上の混合物として用いることができるが、これに限定されるのではない。本発明に用いられる乳化剤水溶液は、前記乳化剤を3次蒸留水に溶解させて製造し、特にPVA溶液またはPVP溶液を用いることが好ましい。
【0030】
前記工程3では、低い機械的エネルギー撹拌条件の下で、乳化剤水溶液に前記工程2で製造された分散液を一度に一括的に添加する。ここで、低い機械的エネルギー撹拌条件は、50〜5000rpmが好ましく、100〜1000rpmがさらに好ましい。その結果、難溶性薬物が含浸された生分解性高分子ナノ粒子が分散した分散液が製造される。ここで、前記分散液の溶媒は水と類似の極性を有し、水との親和力が高いので、溶媒が水層に早く拡散し、乳化剤によって安定化されて非常に均一な粒度分布を有するナノ粒子が生成され得る。前記高分子ナノ粒子溶液を分離膜ろ過装置などを用いて、乳化剤、有機溶媒、蒸留水などを除去するのと同時に難溶性薬物が含浸された高分子ナノ粒子を濃縮させることにより、本発明による難溶性薬物を含んだ生分解性高分子ナノ粒子を得ることができる。本発明の製造方法は、低い機械的エネルギー条件で撹拌することによってランニングコストを減少させ、非常に均一な粒度分布を有するナノ粒子を収得することができる。
【0031】
本発明の製造方法によって製造される難溶性薬物を含む生分解性高分子ナノ粒子は、粒子サイズの偏差が0〜30nmで、より好ましくは前記粒子サイズの偏差は5〜25nmであり、200nm以下の平均粒子サイズを有する(図1〜図5及び表1参照)。
【0032】
また、このようなナノ粒子製剤は、実験例で示されたように、薬物効果が2週以上持続的に維持される。本発明ナノ粒子を経口投与した場合の四塩化炭素誘導肝損傷に対する治療効果を有効成分のみ経口投与した場合と比較した結果、本発明のナノ粒子と有効成分のみを持続的に4週間経口投与した場合では、ナノ粒子投与群の肝保護効果が有効成分投与群より少し低かったものの類似の水準であった。しかし、前記ナノ粒子と有効成分を2週間のみ経口投与して持続的に肝損傷を誘発した場合では、前記ナノ粒子の肝保護効果は4週間持続的に維持されたが(表2及び表3参照)、有効成分の肝保護効果は徐々に減少して4週目に明確に減少することを確認することができた(図6及び図7参照)。すなわち、本発明のナノ粒子は、徐放性であることによって、有効成分の効果が2週以上持続的に維持されることを確認することができた。
【0033】
また、表2及び表3に示されたように、対照群に比べてBDD及び実施例2のBDDを含む高分子ナノ粒子投与群の四塩化炭素で誘導されたALT及びAST濃度上昇抑制効果は約2倍以上だった。実施例2のBDDを含む高分子ナノ粒子投与群の効果は、数字上ではBDD投与群より少し低いが類似の水準だった。しかし、実施例2の高分子ナノ粒子は、BDDを含んだ高分子ナノ粒子全体の投与量が25mgで、これらの薬物含量は、BDD自体を25mg投与した第2群に比べて1/10水準、すなわち2.5mgになる。したがって、実施例2に対する第3群の結果を詳しくみると、第2群の投与量の1/10の薬物を投与して、表1では第2群に比べて約56%の効果を、表2では約91%の効果を示したので、実際の薬物の溶出程度は、それぞれ5.6倍及び9.1倍改善したことになる。
【0034】
すなわち、本発明の製造方法によって製造される難溶性薬物を含む生分解性高分子ナノ粒子は、1回投与時、BDD単独投与より少ない投与量でもより長く薬効が持続する。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を次の実施例と実験例によってより詳しく説明する。しかし、これらは本発明の理解を容易にするために提供されるものであって、本発明の技術的範囲がこれらによって限定されるのではない。
【0036】
<実施例1>DMAcを用いたPLGA−BDDナノ粒子の製造
PLGA(ポリ−D−乳酸−co−グリコール酸;Boehringer Ingelheim、ドイツ)10gをジメチルアセトアミド(DMAc)300mlに溶解させた後、そこにBDD(ビフェニルジメチルジカルボキシレート)1gを添加して溶解させて分散液を製造した。前記PLGA−BDD分散液を4%PVA(Sigma−Aldrich、米国)乳化剤溶液3lに一回で一括添加しながら500rpmの低い撹拌条件で3時間撹拌した。
【0037】
以後、ポンプ型分離膜ろ過装置(LabscaleTMTFF System,Millipore,米国)を用いてナノ粒子溶液を容器内で撹拌させながら循環ポンプによって溶液が分離管を通じて循環されると、分離膜で乳化剤、有機溶媒及び蒸留水は分離膜フィルター(Pellicon XL Filter,500K;Millipore,米国)を通じて素早く除去され、ナノ粒子画分は継続して循環濃縮された。分離濃縮されたナノ粒子画分を凍結乾燥(EYELA,日本)してナノ粒子粉末を収得し、4℃で保管した。
【0038】
最終収得したナノ粒子を走査電子顕微鏡(SEM;Sirion,日本)、透過電子顕微鏡(TEM;JEOL,日本)及び粒度分析装置(OTSUKA ELECTRONICS,日本)で観察した結果、狭い範囲の粒度分布と平均粒径142nmのサイズを有する活性物質を含む均一なPLGA−BDDナノ粒子を確認した(表1、図1〜図3参照)。
【0039】
<実施例2>DMSOを用いたPLGA−BDDナノ粒子の製造
PLGA 100mgをジメチルスルホキシド(DMSO)3mlに溶解させた後、そこにBDD 10mgを添加して溶解させ、分散液を製造した。前記PLGA−BDD分散液を4%PVA乳化剤溶液30mlに一度に一括添加しながら500rpmの低い撹拌条件で3時間撹拌した。
【0040】
以後、実施例1と同一の方法で分離濃縮及び凍結乾燥してナノ粒子を収得した。最終収得したナノ粒子を粒度分析装置で観察した結果、狭い範囲の粒度分布と平均粒径152nmのサイズを有する活性物質を含む均一なPLGA−BDDナノ粒子を確認した(表1参照)。
【0041】
<実施例3>DMFを用いたPLGA−BDDナノ粒子の製造
PLGA 100mgをジメチルホルムアミド(DMF)3mlに溶解させた後、そこにBDD 10mgを添加して溶解させ、分散液を製造した。前記PLGA−BDD分散液を4%PVA乳化剤溶液30mlに一度に一括添加しながら500rpmの低い撹拌条件で3時間撹拌した。
【0042】
以後、実施例1と同一な方法で分離濃縮及び凍結乾燥してナノ粒子を収得し、最終収得したナノ粒子を粒度分析装置で観察した結果、狭い範囲の粒度分布と平均粒径161nmのサイズを有する活性物質を含む均一なPLGA−BDDナノ粒子を確認した(表1参照)。
【0043】
【表1】

【0044】
<実験例1>四塩化炭素誘導肝損傷に対する治療効果
実施例2で製造されたBDDを含む本発明の高分子ナノ粒子の四塩化炭素誘導肝損傷に対する治療効果を動物実験で確認した。
【0045】
<1−1>四塩化炭素誘導肝損傷
6週齢の雄のスプラーグドーリー(Sprague Dawley)系ラット20匹(オリエントバイオ、韓国)の体重を測定し、平均体重及び分散が均一になるように5匹ずつ分配して4群に分けた。温度23±2℃、相対湿度55±5%に設定された実験動物室で前記実験動物にトウモロコシ油と混合した肝毒性物質である四塩化炭素(CCl)50%(v/v)溶液(Sigma−Aldrich,米国)を0.75ml/kgの用量で1週間に2回(月、金)4週間の間腹腔投与した。
【0046】
<1−2>化合物処理
1.第1群(対照群)には、四塩化炭素0.75ml/kgの用量で1週間に2回(月、金)4週間の間腹腔投与した後、他の化合物を投与しなかった。
【0047】
2.第2群には、四塩化炭素0.75ml/kgの用量で1週間に2回(月、金)4週間腹腔投与とともにラットに体重1kg当りBDD25mgを1%(w/v)CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩,Sigma−Aldrich,米国)溶液に懸濁して1日1回、1週間に6回、4週間の間経口投与した。
【0048】
3.第3群には、四塩化炭素0.75ml/kgの用量で1週間に2回(月、金)4週間腹腔投与とともにラットに体重1kg当り実施例2で製造されたBDDを含む本発明の高分子ナノ粒子各25mgを1%(w/v)CMC溶液に懸濁して1日1回、1週間に6回、4週間の間経口投与した。
【0049】
4.第4群(非処理群)は、四塩化炭素及び化合物を投与しなかった。
【0050】
<1−3>治療効果確認
4週後に血清を収得した後、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ,GPT)及びAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、GOT)濃度を測定することで本発明による実施例2のPLGA−BDDナノ粒子の治療効果を確認した。
【0051】
具体的に、4週後、動物に4%抱水クロラール(BDH Laboratory Supplies,イギリス)溶液4mlを腹腔内に注射して麻酔した後、心臓から血液を抜いて1時間室温で放置した。以後、16000rpmで20分間スピンダウン(spin down)して血清を収得した後、ALT及びAST測定試薬(TA−Test Wako;WAKO Pure Chemical,日本)を用いてALT及びAST濃度を生化学自動分析装置(HITACHI7080、日立、日本)で測定した。
【0052】
その結果、表2及び表3に示されたように、対照群に比べて、BDD及び実施例2のBDDを含む高分子ナノ粒子投与群の四塩化炭素に誘導されたALT及びAST濃度上昇抑制効果が、約2倍以上だった。実施例2のBDDを含む高分子ナノ粒子投与群の効果は、数字上ではBDD投与群より少し低いものの類似の水準だった。しかし、実施例2の高分子ナノ粒子は、BDDを含んだ高分子ナノ粒子全体の投与量が25mgであり、これらの薬物含量はBDD自体を25mg投与した第2群に比べて1/10水準、すなわち2.5mgになる。したがって、実施例2の高分子ナノ粒子に対する第3群の結果を精査すると、第2群の投与量の1/10の薬物を投与して、表1では第2群に比べて約56%の効果を、表2では約91%の効果を示したので、実際の薬物の溶出程度は、それぞれ5.6倍及び9.1倍改善していることが分かった。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
<実験例2>四塩化炭素で誘導された肝損傷に対する持続的な治療効果
実施例2で製造されたBDDを含む本発明の高分子ナノ粒子の四塩化炭素誘導肝損傷に対する持続的な治療効果を動物実験により確認した。すなわち、BDD及び実施例2のBDDを含む本発明の高分子ナノ粒子をそれぞれ2週間だけ投与し、四塩化炭素を持続的に投与しながら時間変化による治療効果を確認した。
【0056】
<2−1>四塩化炭素誘導の肝損傷
実験例1−1と同一な方法で5匹ずつ8群のラットに四塩化炭素誘導肝損傷を与えた。
【0057】
<2−2>化合物処理
1.第1群(対照群)には、四塩化炭素を0.75ml/kgの用量で1週間に2回(月、金)4週間腹腔投与後、いかなる化合物も投与しなかった。
【0058】
2.第2群には、四塩化炭素を0.75ml/kgの用量で1週間に2回(月、金)2週間腹腔投与するとともに体重1kg当りBDD25mgを1%(w/v)CMC溶液に懸濁して1日1回、1週間に6回、2週間経口投与した。
【0059】
3.第3群には、四塩化炭素を0.75ml/kgの用量で1週間に2回(月、金)3週間腹腔投与するとともに体重1kg当りBDD25mgを1%(w/v)CMC溶液に懸濁して1日1回、1週間に6回、2週間経口投与した。
【0060】
4.第4群には、四塩化炭素を0.75ml/kgの用量で1週間に2回(月、金)4週間腹腔投与するとともに体重1kg当りBDD25mgを1%(w/v)CMC溶液に懸濁して1日1回、1週間に6回、2週間経口投与した。
【0061】
5.第5群には、四塩化炭素を0.75ml/kgの用量で1週間に2回(月、金)2週間腹腔投与するとともに体重1kg当り実施例2のBDDを含む高分子ナノ粒子25mgを1%(w/v)CMC溶液に懸濁して1日1回、1週間に6回、2週間経口投与した。
【0062】
6.第6群には、四塩化炭素を0.75ml/kg用量で1週間に2回(月、金)3週間腹腔投与するともに体重1kg当り実施例2のBDDを含む高分子ナノ粒子25mgを1%(w/v)CMC溶液に懸濁して1日1回、1週間に6回、2週間経口投与した。
【0063】
7.第7群には、四塩化炭素を0.75ml/kgの用量で1週間に2回(月、金)4週間腹腔投与するとともに体重1kg当り実施例2のBDDを含む高分子ナノ粒子25mgを1%(w/v)CMC溶液に懸濁して1日1回、1週間に6回、2週間経口投与した。
【0064】
8.第8群(非処理群)には、四塩化炭素及び化合物を投与しなかった。
【0065】
<2−3>治療効果の確認
2週後、1週間単位で動物を致死させて実験例1−3の方法で血清を収得した後、ALT及びAST濃度を測定することで、本発明による実施例2のPLGA−BDDナノ粒子の治療効果が持続することを確認した。
【0066】
その結果、図6及び図7に示されたように、実施例2のPLGA−BDDナノ粒子の場合、3週及び4週後にも四塩化炭素に誘導された脂肪肝から肝臓内のALT及びAST濃度の上昇を抑制する効果が非常に優秀だったが、BDDの場合、4週後に肝臓内のALT及びASTの濃度が上昇した。これにより本発明による実施例2のPLGA−BDDナノ粒子形態が持続的に薬物を徐々に放出するので、BDD直接投与よりさらに効果的に肝疾患治療に用いられ得ることが分かった。
【0067】
<実験例3>急性毒性実験
BDD及び本発明による実施例2のPLGA−BDDナノ粒子各々に対して、投与による急性毒性を調査した。
【0068】
具体的に、BDD及び実施例2のPLGA−BDDナノ粒子を体重20〜25gのICR系マウス各10匹2群に、体重1kg当り0.005g、0.1g、0.25g、0.5g、1gの量でそれぞれ経口投与した後、1週間後に死亡したマウスの数を数えて致死率を測定した。
【0069】
その結果、表4に示されたように、実施例2のPLGA−BDDナノ粒子を投与しても非常に安全で毒性がないことを確認した。
【0070】
【表4】

【0071】
以上、本発明の内容の特定部分を詳細に記載したが、当該技術分野の通常の知識を有した者には、このような具体的技術は、単に好ましい実施様態であるのみであり、これによって本発明の範囲が制限されるものではないことは明白であろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付された請求項とそれらの等価物によって定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性高分子を不揮発性極性有機溶媒に溶解させる工程(工程1)、
前記工程1で製造された生分解性高分子溶液に、水に難溶性な薬物を加えて分散液を製造する工程(工程2)、及び
低い機械的エネルギー水準の撹拌条件で、前記工程2で製造された分散液を乳化剤水溶液に一括添加する工程(工程3)を含む、難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
工程1の生分解性高分子が、ポリ−L−乳酸(以下「PLA」)、ポリ−グリコール酸(以下「PGA」)、ポリ−D−乳酸−co−グリコール酸(以下、「PLGA」)、ポリ−L−乳酸−co−グリコール酸、ポリ−D,L−乳酸−co−グリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレートからなるポリエステル系高分子群から選択される1種または2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
生分解性高分子が、ポリ−D−乳酸−co−グリコール酸であることを特徴とする、請求項2に記載の難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
工程1の有機溶媒が、不揮発性の極性有機溶媒であって水との親和力が大きい溶媒であることを特徴とする、請求項1に記載の難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ピロリドン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(DMPU)、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)からなる群から選択されるいずれか一つまたはそれらの混合溶媒であることを特徴とする、請求項4に記載の難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
工程2の難溶性薬物が、グリセオフルビン、ジゴキシン、ジピリダモール、スピロノラクトン、シクロスポリン、アムフォテリシンB、フルオロウラシル、エトポシド、6−メルカプトプリン、デキサメタゾン、ペルフェナジン、難溶性肝疾患治療剤であるBDD(ビフェニルジメチルジカルボキシレート)、DDB(ジメチルジメトキシビフェニルジカルボキシレート)からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
分散液での難溶性薬物が、オイル相または結晶相で存在することを特徴とする、請求項1に記載の難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
工程3の乳化剤が、プロピレングリコール(すなわち、1,2−ジヒドロキシプロパン)、ポリエチレングリコール(特に、分子量200〜600のポリエチレングリコール;PEG)、プロピレンカーボネート(すなわち、4−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソラン)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される1つ以上の乳化剤であることを特徴とする、請求項1に記載の難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
工程3の低い機械的エネルギー水準の撹拌条件が、50〜5000rpmの低い速度で撹拌することを特徴とする、請求項1に記載の難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
工程3の低い機械的エネルギー水準の撹拌条件が、100〜1000rpmの低い速度で撹拌することを特徴とする、請求項1に記載の難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
製造される高分子ナノ粒子が、粒子サイズの偏差が0〜30nmの均一な高分子ナノ粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の難溶性薬物を含む均一な高分子ナノ粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2011−519371(P2011−519371A)
【公表日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507352(P2011−507352)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際出願番号】PCT/KR2009/002289
【国際公開番号】WO2009/134091
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(508139457)コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー (19)
【Fターム(参考)】