説明

難燃加工薬剤および難燃性繊維の製造方法

【課題】 本発明は、高分子弾性体を含む繊維材料に難燃性を付与するために使用され、良好な難燃性が得られるとともに、高分子弾性体の脆化および高分子弾性体を含む繊維材料強度の劣化を抑制できる難燃加工薬剤および難燃性繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、高分子弾性体を含む繊維材料に難燃性を付与するために使用される難燃加工薬剤であって、化学式(1)で表されるリン化合物(A)、pH調整剤(B)および水を少なくとも含有し、25℃におけるpHが6〜8である、難燃加工薬剤である。また、本発明は、高分子弾性体を含む繊維材料に、化学式(1)で表されるリン化合物(A)およびpH調整剤(B)を処理する工程を含む、難燃性繊維の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子弾性体を含む繊維材料に難燃性を付与するために使用される難燃加工薬剤および難燃性繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリウレタンなどの高分子弾性体を含有した繊維材料に難燃性を付与するために、ヘキサブロモシクロドデカンなどのハロゲン系化合物を水に分散または乳化させた難燃剤が一般に使用されてきた。しかし、このようなハロゲン系化合物で処理された繊維材料は、難燃性は有するものの、燃焼によって有害なハロゲン化ガスが発生する危惧があり、環境面からも脱ハロゲン化の動きが高まっているので、使用を極力避ける傾向にある。
【0003】
ハロゲン系化合物の代替として、リン系化合物が使用されているが、一般に難燃剤として使用されているリン酸エステル、縮合リン酸エステルなどの疎水性有機リン系難燃剤や、リン酸グアニジン、リン酸カルバメート、ポリリン酸アンモニウムなどの水溶性無機リン系難燃剤を用いた場合、非ハロゲン化による難燃化は達成されるが、高分子弾性体が経時的に加水分解し、脆化する。その結果、高分子弾性体を含有した難燃性繊維の強度が劣化する問題が発生する。このような問題を解決するために、例えば特許文献1には、ポリウレタンを含む人工皮革に、ある特定のリン難燃剤と発泡成分や炭化成分を併用することで、難燃性を付与し、高分子弾性体の脆化を抑える方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ポリウレタンを含む人工皮革にリン難燃剤としてある特定のリン化合物を処理する難燃加工方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−2512号公報
【特許文献2】特開2006−63475号公報
【0006】
しかし、特許文献1に開示された方法では、高分子弾性体が脆化しにくいリン系化合物を使用することで、高分子弾性体の脆化抑制を達成しているが、難燃化が難しい繊維材料など難燃剤を多く付与する必要がある場合では、必然的にリン系化合物の使用量が増えるため、高分子弾性体の脆化が問題となる場合がある。また、特許文献2に開示されたリン化合物は、難燃性に優れるが、高分子弾性体の脆化が著しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高分子弾性体を含む繊維材料に難燃性を付与するために使用され、良好な難燃性が得られるとともに、高分子弾性体の脆化および高分子弾性体を含む繊維材料強度の劣化を抑制できる難燃加工薬剤を提供することを目的とする。また、本発明は、高分子弾性体を含む繊維材料に良好な難燃性が付与されるとともに、高分子弾性体の脆化および高分子弾性体を含む繊維材料強度の劣化が抑制される難燃性繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、難燃成分として特定のリン化合物を使用し、そのリン化合物の加水分解により発生すると考えられる化合物を中和するためにpH調整剤をさらに併用することで、難燃性を低下させることなく高分子弾性体の脆化および高分子弾性体を含む繊維材料の強度劣化を抑制することができ、上記問題点が解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明にかかる難燃加工薬剤は、高分子弾性体を含む繊維材料に難燃性を付与するために使用される難燃加工薬剤であって、下記化学式(1)で表されるリン化合物(A)、pH調整剤(B)および水を少なくとも含有し、25℃におけるpHが6〜8である。
【化1】


(式中、R、R、R、Rは同一または異なるアルキル基であり、xは0または1を表す。)
【0010】
また、pH調整剤(B)としては、弱塩基性および/または緩衝作用を有するものが好ましく、例えば、リン酸水素二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸グアニジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ケイ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム−リン酸水素二ナトリウム緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液(トリス緩衝液)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸および2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。また、pH調整剤(B)の含有率は、リン化合物(A)に対して3〜20重量%であることが好ましい。
【0011】
本発明の難燃性繊維の製造方法は、高分子弾性体を含む繊維材料に、上記化学式(1)で表されるリン化合物(A)およびpH調整剤(B)を処理する工程を含む。
前記処理する工程は、高分子弾性体を含む繊維材料に、前記リン化合物(A)、前記pH調整剤(B)および水を少なくとも含有し、25℃におけるpHが6〜8である難燃加工薬剤を付与する工程(1)と、工程(1)と同時またはそれより後に、高分子弾性体を含む繊維材料を熱処理する工程(2)を含むことが好ましい。
【0012】
また本発明の難燃性繊維の製造方法において、前記処理する工程により処理された繊維材料のpHが4〜8であることが好ましい。ここで、繊維材料のpHとは、ガラス栓付きの200mLフラスコに50mLの蒸留水を入れ、2分間静かに煮沸した後フラスコを熱源から遠ざけ、1cm×1cmの断片にした5gの試験片(繊維材料)をフラスコに入れ、フラスコに栓をしてときどき栓を緩めてフラスコを振とうしながら30分間放置した後、25℃において測定されたpHをいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明の難燃加工薬剤は、高分子弾性体を含む繊維材料に良好な難燃性を付与するとともに、高分子弾性体の脆化および高分子弾性体を含む繊維材料強度の劣化を抑制できる。また、本発明の難燃性繊維の製造方法は、高分子弾性体を含む繊維材料に良好な難燃性を付与できるとともに、高分子弾性体の脆化および高分子弾性体を含む繊維材料強度の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、高分子弾性体を含む繊維材料に難燃性を付与するために使用される難燃加工薬剤であって、前記化学式(1)で表されるリン化合物(A)、pH調整剤(B)および水を少なくとも含有し、25℃におけるpHが6〜8である、難燃加工薬剤である。また、本発明は、高分子弾性体を含む繊維材料に、前記化学式(1)で表されるリン化合物(A)およびpH調整剤(B)を処理する工程を含む、難燃性繊維の製造方法である。以下、詳細に説明する。
【0015】
本発明で使用される高分子弾性体について、特に限定はないが、例えば、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタンウレアエラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエチレンエラストマー、アクリロニトリル、ブタジエンラバー、天然ゴム、ポリ塩化ビニル等が挙げられ、特にポリウレタンエラストマー、ポリウレタンウレアエラストマー、ポリエーテルエステルエラストマーが好ましい。また、高分子弾性体の形態としては、特に限定はないが、繊維、綿、糸、ロープ、紐、樹脂、フィルム、シート、膜などが挙げられ、高分子弾性体が交撚、混紡、交絡、融着、接着などにより高分子弾性体以外の繊維に付与されていてもよい。
【0016】
高分子弾性体を含む繊維材料として、高分子弾性体のみからなる繊維材料であってもよく、特に限定はないが、高分子弾性体以外に結晶領域の多い繊維(たとえば、芳香族ポリエステル、カチオン可染ポリエステル、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、ジアセテート、トリアセテート、その単量体の共重合体等)を少なくとも1種以上含む繊維材料であると、難燃加工薬剤に含まれるリン化合物(A)の吸着性に優れ、耐久難燃性が向上するために好ましい。その中でも、高分子弾性体以外に芳香族ポリエステルやカチオン可染ポリエステルを少なくとも1種以上含む繊維材料では、リン化合物(A)の吸着性に優れるため、さらに好ましい。
【0017】
芳香族ポリエステルおよびカチオン可染ポリエステルとしては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/5−ソジオスルホイソフタレート等が挙げられる。
【0018】
高分子弾性体を含む繊維材料は、上記結晶領域の多い繊維と非結晶領域の多い繊維(たとえば、木綿、麻、羊毛等の天然繊維;ナイロン等)とを含む場合でもよい。
ここで、結晶領域とは、たとえば、合成繊維等の製造工程中で延伸等の物理的処理をした場合に形成されるような、繊維を構成する分子鎖が相対的に規則正しく配向した領域を意味し、非結晶領域とは、上記の説明とは逆で、繊維を構成する分子鎖が相対的に規則正しくなく、ランダムに配向した領域を意味することとする。
高分子弾性体を含む繊維材料は、通常複数種から構成されているが、1種のみから構成されていてもよい。結晶領域の多い繊維と非結晶領域の多い繊維とを含む場合、混紡、交織、交編、交撚のいずれであってもよい。
【0019】
繊維材料の形態には限定はなく、例えば、高分子弾性体が交撚、混紡、交織、交編、交絡、融着、接着、含浸などにより付与された綿、糸、ロープ、紐、織物、編物、不織布、人工皮革等が挙げられる。人工皮革としては、例えばポリウレタンエラストマーなどの高分子弾性体が含浸などにより付与された、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル、ポリオレフィンなどの極細繊維を含む織物、編物または不織布などが挙げられる。
繊維材料として、その用途には限定はなく、工業用資材、工業用および家庭用繊維製品、衣服、衣料、寝具、インテリア、スポーツ用品、日用雑貨などで、例えば、座席シート、シートカバー、建築養生シート、テント、ベッド、カーテン、布団、毛布、敷布、作業服、パジャマ、リボン、ロープ、壁紙、天井クロス、カーペット、ソファ、いす張地、電化製品などが挙げられる。
【0020】
(難燃加工薬剤)
本発明の難燃加工薬剤は、高分子弾性体を含む繊維材料に難燃性を付与するために使用される液状物をいう。本発明の難燃加工薬剤は、繊維材料に処理する際に使用する加工液と、この加工液を調製するために水等で希釈される薬剤の両方を含む。
【0021】
本発明で用いるリン化合物(A)は、繊維材料に付与させることによって難燃性を向上させる成分で耐久性に優れた難燃性能を有する。前記化学式(1)で表されるリン化合物(A)において、式中、R、R、R、Rは同一または異なるアルキル基であり、直鎖であっても分岐を有していてもよい。R、R、R、Rの炭素数は1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2がさらに好ましい。これらのなかでも、R、R、R、Rは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル基が好ましく、さらに好ましくは、R、R、Rはメチル、Rはエチルである。また、式中、xは0または1を表す。リン化合物(A)は1種または2種以上を併用してもよい。このようなリン化合物(A)としては、ビス[(5−エチル−2−メチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−5−イル)メチル]メチルホスホネート−P,P’−ジオキサイド、(5−エチル−2−メチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−5−イル)メチルジメチルホスホネート−P−オキサイドなどが挙げられ、特開昭60−99167号公報記載の方法により製造することができる。また、市販品を使用することもでき、例えば、K−19A(明成化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0022】
本発明の難燃加工薬剤中のリン化合物(A)の含有率については、特に限定はないが、難燃加工薬剤全体に対して1〜80重量%が好ましく、5〜70重量%であるとさらに好ましい。リン化合物(A)の含有率が1重量%未満では、十分な難燃性を発現することができない場合があるとともに、水やその他の成分が多すぎて、リン化合物(A)が経時的に加水分解し、難燃加工薬剤の貯蔵、安定性、性能に問題が発生することがある。一方、リン化合物(A)の含有率が80重量%超では安定な難燃加工薬剤が得られにくいことがある。
【0023】
本発明のリン化合物(A)は、加水分解しやすいため、難燃加工薬剤中やリン化合物(A)が処理された繊維材料にはリン化合物(A)のほかにリン化合物(A)の加水分解により発生すると考えられるリン化合物(C)が含まれている場合がある。リン化合物(A)の加水分解により発生すると考えられるリン化合物(C)としては、例えば、下記化学式(2)、(3)、(4)、(5)または(6)で示される化合物などが挙げられるが、これらに限るものではない。リン化合物(C)は1種または2種以上が含まれている場合がある。
【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
上記化学式(2)、(3)、(4)、(5)または(6)で表されるリン化合物(C)の式中、R、R、R、Rは同一または異なるアルキル基であり、その詳細は上記化学式(1)で表されるリン化合物(A)の部分で説明したものと同様である。
【0030】
また、本発明で用いるpH調整剤(B)は、リン化合物(A)とともに繊維材料に付与させることによって、難燃性を低下させることなく高分子弾性体の脆化及び高分子弾性体を含有した難燃性繊維の強度劣化を抑制できる成分である。高分子弾性体の脆化原因は明らかではないが、リン化合物(A)そのものではなく、リン化合物(A)の加水分解により発生すると考えられるリン化合物(C)が、高分子弾性体に浸透し、高分子弾性体に含まれるエーテル結合、エステル結合などを切断するためと考えられる。そこで、pH調整剤(B)によりリン化合物(C)を部分中和することで、リン化合物(C)の高分子弾性体への浸透を抑制、または高分子弾性体に含まれるエーテル結合、エステル結合などの切断を抑制することで、難燃性を低下させることなく高分子弾性体の脆化を抑制することができると考えられる。
【0031】
本発明で用いるpH調整剤(B)としては特に限定はないが、難燃加工薬剤の25℃におけるpHを6〜8に調整することのできる剤、および/またはリン化合物(A)とpH調整剤(B)を処理した際の繊維材料のpHを4〜8に調整することのできる剤であればよく、リン化合物(A)の加水分解により発生すると考えられるリン化合物(C)を中和することができるものが好ましい。pH調整剤(B)としては、例えば、アンモニア、1級アミン(アルカノールアミン、N−アルキル置換アミンなど)、2級アミン(ジアルカノールアミン、N−アルキル置換アルカノールアミン、N,N’−ジアルキル置換アミンなど)、3級アミン(トリアルカノールアミン、N−アルキル置換アルカノールアミン、N,N−ジアルキル置換アルカノールアミン、N,N,N−トリアルキル置換アルカノールアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミンなど)、ジアミン(N,N,N’,N’−テトラキスポリオキシアルキレン置換アルキルジアミンなど)、トリアミン(ジエチレントリアミンなど)、アルカリ金属塩(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、重炭酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、EDTA三ナトリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(水酸化カルシウムなど)、水酸化アルミニウム、アンモニウム塩(炭酸水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムなど)、グアニジン塩(炭酸グアニジン、リン酸グアニジンなど)、酸と塩基からなる緩衝剤(リン酸二水素カリウム−リン酸水素二ナトリウム緩衝液、トリス緩衝液(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液)、Good緩衝液(トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸、3−(シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸)など)などが挙げられる。これらの中でもpH調整剤(B)としては、弱塩基性および/または緩衝作用を有するものが好ましく、例えば、リン酸水素二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸グアニジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ケイ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム−リン酸水素二ナトリウム緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液(トリス緩衝液)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸などが挙げられる。これらは1種または2種以上を含有してもよい。
【0032】
本発明の難燃加工薬剤中のpH調整剤(B)の含有率については、特に限定はないが、難燃加工薬剤の25℃におけるpHが6〜8の範囲になるよう含有させればよい。好ましくはpHが7〜8である。難燃加工薬剤のpHが6未満であると、リン化合物(A)の加水分解により発生すると考えられるリン化合物(C)の中和が不十分となるので、高分子弾性体の脆化及び高分子弾性体を含有した難燃性繊維の強度劣化を抑制することができない場合がある。また、難燃加工薬剤のpHが8超であるとリン化合物(A)の加水分解が促進される場合がある。また、pH調整剤(B)の含有率は、高分子弾性体の脆化及び高分子弾性体を含有した難燃性繊維の強度劣化の抑制効果が高く、難燃性の阻害が小さいため、リン化合物(A)に対して3〜20重量%であることが好ましく、3〜15重量%であることがより好ましく、5〜15重量%であることがさらに好ましい。難燃加工薬剤において、pH調整剤(B)をこの含有率で含有し、かつ25℃におけるpHが6〜8であると、高分子弾性体の脆化及び高分子弾性体を含有した難燃性繊維の強度劣化の抑制効果が高くさらに好ましい。
【0033】
本発明の難燃加工薬剤は、リン化合物(A)およびpH調整剤(B)以外に、水を必須成分として含む。本発明に使用する水としては、水道水、軟水、イオン交換水、蒸留水等のいずれでもよい。難燃加工薬剤は、リン化合物(A)とpH調整剤(B)を除き(これ以外の他の成分を含む場合はその成分を除き)、他は水で構成される。
本発明の難燃加工薬剤は、リン化合物(A)、pH調整剤(B)および水を含むものであれば、特に限定はないが、本発明の効果を損なわない範囲でこれ以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0034】
他の成分としては、たとえば、溶剤(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルグリコール、エチルグリコール、ブチルグリコール、ベンジルアルコール、ソルフィット、ブチルカービトール、ポリアルキレングリコール等)、水溶性高分子(ポリビニルアルコ−ル、ポリアクリル酸エステル、メチルセルロ−ス、ヒドロキシメチルセルロ−ス、ヒドロキシエチルセルロ−ス、カルボキシメチルセルロ−ス、キサンタンガム、アラビアガム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリスチレンマレイン酸共重合体、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、可溶性澱粉、カチオン化澱粉、カルボキシメチル澱粉など)、リン化合物(A)を除く他の難燃剤(トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、キシレニルフェニルホスフェート、クレジルキシレニルホスフェート、フェニルオルソキセニルホスフェート、ナフチルホスフェート、アルキルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル;レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)等の縮合リン酸エステル;ホスホン酸エステル;ホスフィン酸エステル;亜リン酸エステル;次亜リン酸エステル;ホスフィンオキシド;ホスフィン;ホスホニウム塩;リン酸エステルアミド;含塩素リン酸エステル;含塩素縮合リン酸エステル;リン含有ポリエステル樹脂;ホスファゼン;ポリリン酸アンモニウム、メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム、メラミン樹脂被覆ポリリン酸アンモニウム、シリコーン被覆ポリリン酸アンモニウム、酸性リン酸エステルアンモニウム塩、酸性リン酸エステルグアニジン塩、リン酸メラミン、リン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸ジメラミン、エチレンジアミンリン酸塩、リン酸カルバメート、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素等のリン酸塩系難燃剤;デカブロモジフェニルエーテル、エチレンビス(ペンタブロモジフェニル)、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン等の臭素系難燃剤等;メラミン、ジシアンジアミド、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤;スルファミン酸アンモニウム;硫酸アンモニウム;水酸化マグネシウム;水酸化アルミニウム;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、でんぷん、ソルビトール等の水酸基含有化合物)、界面活性剤、架橋剤、平滑剤、可縫性向上剤、スリップ防止剤、消臭剤、抗菌剤、濃染化剤、柔軟剤、帯電防止剤、撥水撥油剤、硬仕上げ剤、バインダー、コーティング加工剤、紫外線吸収剤、防汚剤、親水化剤等を挙げることができる。これらは1種または2種以上を含有してもよい。
【0035】
上記他の成分の含有率については特に限定はない。溶剤は少量配合することにより、粘度の低下により作業効率、低温での安定性が向上する。しかしながら、その含有率が大きくなると、製造や貯蔵に関して問題が発生することがあるため、難燃加工薬剤全体に対して10重量%以下が好ましい。
【0036】
難燃加工薬剤の製造方法としては、特に限定なく、公知の方法を採用することができる。例えば、リン化合物(A)と水で希釈したpH調整剤(B)を配合し、場合によりさらに水で希釈して難燃加工薬剤を調製することができる。リン化合物(A)は水の存在下で経時的に加水分解する場合があるので、難燃加工薬剤は高分子弾性体を含む繊維材料に処理する直前に調製するのが好ましい。
【0037】
(難燃性繊維の製造方法および難燃性繊維)
本発明の難燃性繊維の製造方法は、高分子弾性体を含む繊維材料に、上記化学式(1)で表されるリン化合物(A)および上記のpH調整剤(B)を処理する工程(以下処理工程ということもある)を含む。
【0038】
処理工程として、上記の難燃加工薬剤を、高分子弾性体を含む繊維材料に処理する処理工程(1)や、リン化合物(A)とpH調整剤(B)を個別に、高分子弾性体を含む繊維材料に処理する処理工程(2)等が挙げられる。また、処理工程(1)としては、高分子弾性体を含む繊維材料に、上記リン化合物(A)、上記pH調整剤(B)および水を少なくとも含有し、25℃におけるpHが6〜8である難燃加工薬剤を付与する工程(1−1)と、工程(1−1)と同時またはそれより後に、高分子弾性体を含む繊維材料を熱処理する工程(1−2)を含むことが好ましい。
【0039】
例えば、処理工程(1)としては、上記の難燃加工薬剤を含む浴中に繊維材料を浸漬し、処理温度80℃以上、処理時間2〜120分間の条件下で行われる処理工程(工程(1−1)と工程(1−2)が同時に行われる。以下工程aという)や、上記の難燃加工薬剤を繊維材料に付着させた後に、90〜220℃の温度で熱処理して、リン化合物(A)とpH調整剤(B)を繊維材料内部へ吸尽させる処理工程(工程(1−1)の後に、工程(1−2)が行われる。以下工程bという)等を挙げることができる。処理工程(2)としては、リン化合物(A)を繊維材料に付着させ、100〜220℃の温度で熱処理して、リン化合物(A)を繊維材料内部へ吸尽させ、さらにpH調整剤(B)を含む浴中に繊維材料を浸漬し、処理温度20℃以上、処理時間2〜60分間の条件下で行われる処理工程(工程c)等を挙げることができる。
【0040】
工程aの方法としては、例えば以下が挙げられる。上記の難燃加工薬剤またはそれを水で希釈した加工液を含む浴中に繊維材料を浸漬することで、高分子弾性体を含む繊維材料にリン化合物(A)を付与させるとともに、繊維材料を浸漬した状態で80℃以上(100℃以上の場合は加圧状態下で)、2〜120分間熱処理を行い、耐久性を付与させる。繊維材料に処理する際の浴中のリン化合物(A)の濃度は1〜30重量%が好ましく、1〜20重量%がより好ましく、2〜20重量%であるとさらに好ましい。繊維材料を浸漬した状態での処理温度が80℃以上であると繊維材料の非晶領域が弛緩または膨潤し、リン化合物(A)及びpH調整剤(B)が付着しやすいため好ましく、90℃〜150℃であるとさらに好ましい。工程aは、例えば、液流染色機、ビーム染色機、チーズ染色機等を用いて行うことができる。
【0041】
工程bの方法としては、例えば以下が挙げられる。上記の難燃加工薬剤またはそれを水で希釈した加工液を含む浴中に繊維材料を浸漬して(または上記の難燃加工薬剤またはそれを水で希釈した加工液をスプレー等により繊維材料に噴霧して)、室温でリン化合物(A)及びpH調整剤(B)を付与させ、次いで浴中から取り出した繊維材料を90〜220℃で、10秒〜120分間熱処理し、乾燥させる。熱処理は乾熱処理および湿熱処理のいずれでもよい。繊維材料に処理する際の浴中のリン化合物(A)の濃度は、工程aの場合と同様である。また、場合により、耐久性を付与させるためにさらに繊維材料を熱処理して、リン化合物(A)及びpH調整剤(B)を繊維材料内部へ吸尽させてもよいが、高分子弾性体が熱により劣化する場合があるので、このときの温度は、90〜220℃が好ましい。温度が90℃未満であると、リン化合物(A)の繊維材料内部への吸尽が不十分であり、耐久難燃性が劣る場合がある。一方、温度が220℃超であると、繊維材料が熱劣化し強度が低下する場合がある。付着は、パディング法、スプレー法、コーティング法等によって行うことができる。また、熱処理の時間は、通常10秒〜120分であり、乾熱処理および湿熱処理のいずれでも良い。工程bは、例えば、スプレー−ドライ方式、パッド−ドライ方式、スプレー−キュア方式、パッド−キュア方式、スプレー−ドライ−キュア方式、パッド−ドライ−スチーム方式、パッド−スチーム方式、パッド−ドライ−キュア方式等が挙げられる。
【0042】
工程cの方法としては、例えば以下が挙げられる。リン化合物(A)を水で希釈した浴中に繊維材料を浸漬して、リン化合物(A)を付着させ、場合により乾燥させた後、繊維材料を熱処理して、リン化合物(A)を繊維材料内部へ吸尽させ耐久性を付与させ、さらにpH調整剤(B)を含む浴中に繊維材料を浸漬し、処理温度20℃以上、処理時間2〜60分間熱処理し、乾燥させる。このときの温度は、pH調整剤(B)が付着しやすいため40〜90℃が好ましく、さらに好ましくは80℃〜90℃である。温度が20℃未満であると、pH調整剤(B)の付着が不十分である場合がある。一方、温度が90℃超であると、リン化合物(A)が繊維材料から脱落する場合がある。繊維材料に処理する際の浴中のリン化合物(A)の濃度は、工程aの場合と同様である。また、pH調整剤(B)の浴中の濃度は、処理された繊維材料のpHが4〜8の範囲になるよう適宜設定される。
工程cは、例えば、スプレー−キュア方式、パッド−キュア方式、スプレー−ドライ−キュア方式、パッド−ドライ−スチーム方式、パッド−スチーム方式、パッド−ドライ−キュア方式等の後、液流染色機、ビーム染色機、チーズ染色機等を用いて行うことができる。
【0043】
本発明の難燃性繊維の製造方法では、たとえば、少なくとも上記工程a〜cのいずれかの処理工程を行うものであればよいが、同じ工程を複数回処理したり、工程a〜cを組み合わせて処理したりすることによって、より高い難燃性を付与することができる。これらの中でも、リン化合物(A)を効率的に繊維材料内部へ吸尽させることができるため、工程b、cが好ましく、リン化合物(A)およびpH調整剤(B)を効率的に繊維材料内部へ吸尽させることができるため、工程bがさらに好ましい。また、本発明のリン化合物(A)とは異なる別の難燃剤を用いて別の処理工程を併用してもよい。
【0044】
本発明の難燃性繊維の製造方法では、高分子弾性体を含む繊維材料に、リン化合物(A)およびpH調整剤(B)を処理することで、高分子弾性体の脆化および高分子弾性体を含有した難燃性繊維の強度劣化を抑制することができる。
【0045】
本発明の難燃性繊維の製造方法においては、本発明の効果を損なわない範囲で本発明のリン化合物(A)とpH調整剤(B)以外の他の成分を付与させても良い。他の成分としては、たとえば、リン化合物(A)を除く他の難燃剤(トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、キシレニルフェニルホスフェート、クレジルキシレニルホスフェート、フェニルオルソキセニルホスフェート、ナフチルホスフェート、アルキルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル;レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)等の縮合リン酸エステル;ホスホン酸エステル;ホスフィン酸エステル;亜リン酸エステル;次亜リン酸エステル;ホスフィンオキシド;ホスフィン;ホスホニウム塩;リン酸エステルアミド;含塩素リン酸エステル;含塩素縮合リン酸エステル;リン含有ポリエステル樹脂;ホスファゼン;ポリリン酸アンモニウム、メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム、メラミン樹脂被覆ポリリン酸アンモニウム、シリコーン被覆ポリリン酸アンモニウム、酸性リン酸エステルアンモニウム塩、酸性リン酸エステルグアニジン塩、リン酸メラミン、リン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸ジメラミン、エチレンジアミンリン酸塩、リン酸カルバメート、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素等のリン酸塩系難燃剤;デカブロモジフェニルエーテル、エチレンビス(ペンタブロモジフェニル)、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン等の臭素系難燃剤等;メラミン、ジシアンジアミド、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤;スルファミン酸アンモニウム;硫酸アンモニウム;水酸化マグネシウム;水酸化アルミニウム;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、でんぷん、ソルビトール等の水酸基含有化合物)、染料(塩基性染料、分散染料等)、キャリヤー剤(芳香族ハロゲン化合物、N−アルキルフタルイミド、芳香族カルボン酸エステル、メチルナフタレン、ジフェニル、ジフェニルエステル、ナフトールエステル、フェノールエーテル、ヒドロキシジフェニル等)、界面活性剤、水溶性溶剤、架橋剤、平滑剤、可縫性向上剤、スリップ防止剤、消臭剤、抗菌剤、濃染化剤、柔軟剤、帯電防止剤、撥水撥油剤、硬仕上げ剤、バインダー、コーティング加工剤、紫外線吸収剤、防汚剤、親水化剤等を挙げることができる。これらは1種または2種以上を付与させてよい。
【0046】
本発明の難燃性繊維の製造方法により得られる難燃性繊維は、高分子弾性体を含む繊維材料にリン化合物(A)と、pH調整剤(B)が付与されていればよい。リン化合物(A)の繊維材料への付着量は、繊維材料の種類や組織、繊維材料に付着する他の繊維加工剤の種類や付着量等の条件により異なるので特に限定はないが、繊維材料全体に対して好ましくは0.1〜20重量%であり、さらに好ましくは0.5〜15重量%である。リン化合物(A)の付着量が0.1重量%未満であると繊維材料に十分な難燃性を付与することができないことがある。一方、リン化合物(A)の付着量が20重量%より多いと、得られる難燃性繊維の風合が悪くなるとともに、難燃効果が飽和状態なることがある。また、pH調整剤(B)の繊維材料への付着量は、特に限定はなく、高分子弾性体を含む繊維材料のpHが4〜8の範囲になるように付着させればよく、繊維材料のpHが5〜7であるとより好ましく、繊維材料のpHが6〜7であるとさらに好ましい。高分子弾性体を含む繊維材料のpHが4未満であると、リン化合物(A)の加水分解により発生すると考えられるリン化合物(C)の中和が不十分で、高分子弾性体の脆化および高分子弾性体を含む繊維材料の強度劣化に問題が発生する場合がある。一方、高分子弾性体を含む繊維材料のpHが8超であると、リン化合物(A)および高分子弾性体を含む繊維材料の加水分解が促進されることがある。
【実施例】
【0047】
以下の実施例および比較例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
〔評価方法〕
(1)FMVSS−302法(JIS−D−1201)による難燃性
FMVSS−302法(JIS−D−1201)に示された自動車内装材燃焼試験に従い、燃焼速度を測定した。測定5回の平均値を算出して、80mm/分以内を合格とした。
(2)ジャングル試験後の引裂強度
温度70℃、相対湿度95%RHの環境下に4週間放置した試験片について、引裂強度の測定を行った。引裂強度はJIS−L−1018に示された引裂強さA法(ペンジュラム法)に基づき、未加工布が引き裂かれたときに示す荷重強さの値を100として、相対値を求めた。
(3)pHの測定
(a)難燃加工薬剤(加工液)
難燃加工薬剤の25℃におけるpHを、ガラス電極pH計(navihF−51株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
(b)繊維材料
ガラス栓付きの200mLフラスコに50mLの蒸留水を入れ、2分間静かに煮沸した後フラスコを熱源から遠ざけ、1cm×1cmの断片にした5gの試験片(繊維材料)をフラスコに入れ、フラスコに栓をしてときどき栓を緩めてフラスコを振とうしながら30分間放置した後、25℃におけるpHを、ガラス電極pH計(navihF−51株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
【0049】
(実施例1〜6)
各実施例の難燃加工薬剤(加工液)を調製して、以下に示す条件で難燃加工をそれぞれ行い、得られた繊維材料についてpH、難燃性、引裂強度を測定した。
<難燃加工>
表1に示す配合量(重量部)の各成分を混合して、難燃加工薬剤(加工液)を得た。各実施例の難燃加工薬剤(加工液)の25℃におけるpHを表1に示す。
調製した難燃加工薬剤(加工液)にポリエステル80%/ポリウレタン20%ニット(繊維材料)を浸漬し、マングルで絞り(絞り率90%)、乾燥を110℃で3分間行い、キュアリングを160℃で1分間行い、難燃性ポリエステル80%/ポリウレタン20%繊維を得た。得られた繊維材料について、難燃性、引裂強度およびpHを測定した。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
(比較例1〜6)
表2にそれぞれ示す難燃加工薬剤(加工液)を用いる以外は、実施例1〜6と同様にして、難燃加工をそれぞれ行った。得られた繊維材料について、pH、難燃性、引裂強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
(実施例7〜10)
各実施例の加工液を調製して、以下に示す条件で難燃加工をそれぞれ行い、得られた繊維材料についてpH、難燃性、引裂強度を測定した。
<難燃加工>
表3に示す配合量(重量部)の各成分を混合して調製した加工液にポリエステル80%/ポリウレタン20%ニットを浸漬し、マングルで絞り(絞り率90%)、乾燥を110℃で3分間行い、キュアリングを160℃で1分間行い、難燃性ポリエステル80%/ポリウレタン20%繊維を得た。次いで、ソーピング剤であるマーベリンS−1520(松本油脂製薬株式会社製)1g/Lおよび表3に示すpH調整剤2g/Lを含む浴で、浴比1:15、温度80℃の条件で、20分間熱処理を行い、水洗し、150℃で1分乾燥し、難燃性ポリエステル80%/ポリウレタン20%繊維を得た。得られた繊維材料について、pH、難燃性、引裂強度を測定した。その結果を表3に示す。
【0054】
(比較例7)
表3に示す加工液を用い、pH調整剤を用いない以外は、実施例7〜10と同様にして、難燃加工を行った。得られた繊維材料について、pH、難燃性、引裂強度を測定した。その結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
実施例1〜10では、難燃性を示し、引裂強度も優れる。それに対して、比較例1〜7では全般に難燃性および/または引裂強度が劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子弾性体を含む繊維材料に難燃性を付与するために使用される難燃加工薬剤であって、下記化学式(1)で表されるリン化合物(A)、pH調整剤(B)および水を少なくとも含有し、25℃におけるpHが6〜8である、難燃加工薬剤。
【化1】

(式中、R、R、R、Rは同一または異なるアルキル基であり、xは0または1を表す。)
【請求項2】
前記pH調整剤(B)が、リン酸水素二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸グアニジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ケイ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム−リン酸水素二ナトリウム緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液(トリス緩衝液)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸および2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の難燃加工薬剤。
【請求項3】
前記pH調整剤(B)の含有率が、前記リン化合物(A)に対して3〜20重量%である、請求項1または2に記載の難燃加工薬剤。
【請求項4】
高分子弾性体を含む繊維材料に、下記化学式(1)で表されるリン化合物(A)およびpH調整剤(B)を処理する工程を含む、難燃性繊維の製造方法。
【化2】

(式中、R、R、R、Rは同一または異なるアルキル基であり、xは0または1を表す。)
【請求項5】
前記処理する工程が、高分子弾性体を含む繊維材料に、前記リン化合物(A)、前記pH調整剤(B)および水を少なくとも含有し、25℃におけるpHが6〜8である難燃加工薬剤を付与する工程(1−1)と、工程(1−1)と同時またはそれより後に、高分子弾性体を含む繊維材料を熱処理する工程(1−2)を含む、請求項4に記載の難燃性繊維の製造方法。
【請求項6】
前記pH調整剤(B)が、リン酸水素二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸グアニジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ケイ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム−リン酸水素二ナトリウム緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液(トリス緩衝液)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸および2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項4または5に記載の難燃性繊維の製造方法。
【請求項7】
前記pH調整剤(B)の含有率が、前記リン化合物(A)に対して3〜20重量%である、請求項4〜6のいずれかに記載の難燃性繊維の製造方法。
【請求項8】
前記処理する工程により処理された繊維材料のpHが4〜8である、請求項4〜7のいずれかに記載の難燃性繊維の製造方法。

【公開番号】特開2009−256807(P2009−256807A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103553(P2008−103553)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】