説明

難燃性ギヤ油組成物

【課題】着火の可能性のある種々の用途に使用できる、難燃性及び自己消火性を有し、かつ、熱酸化安定性及び極圧性にも優れた難燃性ギヤ油組成物を提供する。
【解決手段】基油と極圧剤を含有するギヤ油組成物であって、前記基油として、下記一般式(1)で表される縮合リン酸エステルを前記基油全量に対し20質量%以上含有し、前記極圧剤として、硫黄を含有する極圧剤を前記ギヤ組成物全量に対し0.2〜10質量%含有し、 かつ、前記ギヤ油組成物の40℃における動粘度が50〜1000mm/sであることを特徴とするギヤ油組成物。一般式(1)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜22の炭化水素基、Rは炭素数1〜6の炭化水素基、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは1〜5の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ギヤ油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機械技術が益々発展する中で、機器は高速・高温・高荷重条件下で運転されるようになってきている。このような箇所に使用する潤滑油は、高温部との接触を想定しなければならない。また、火元のあるような苛酷な条件下で潤滑油の使用や充填作業が行われるような場合もある。そこで、このような箇所へ用いる潤滑油は、より難燃性であるとともに、例え着火したとしても継続燃焼しないこと、すなわち自己消火性に優れていることが望まれる。
このため、従来より潤滑油の難燃性の向上を目的に検討がなされ、例えば、油圧作動油の難燃性を向上させるため、含水系や脂肪酸エステル、リン酸エステル等の配合が試みられている(例えば、特許文献1〜3参照)。
一方、ギヤ油においても難燃性の向上が検討されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平2−214795号公報
【特許文献2】特開平3−21697号公報
【特許文献3】特開平11−269480号公報
【特許文献4】特開平6−264087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ギヤ油においては優れた潤滑性が求められるため油圧作動油よりも高い粘度が必要とされる。そのため、上記リン酸エステル等のみでは、ギヤ油で必要とされる粘度を得ることが難しい。
また、ギヤ油における難燃性の向上は検討されているものの、実用化された例は少なく、ギヤ油における難燃性及び自己消火性については更なる向上が要求されている。
【0004】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、着火の可能性のある種々の用途に使用できる、難燃性及び自己消火性を有し、かつ、熱酸化安定性及び極圧性にも優れた難燃性ギヤ油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意検討を重ねた結果、基油として特定の縮合リン酸エステルと、極圧剤として硫黄を含有する極圧剤を使用することにより、難燃性及び自己消火性に優れるとともに、熱酸化安定性及び極圧性も優れるギヤ油組成物が得られることを見出した。さらに、硫黄を含有する極圧剤として特定の極圧剤を配合することにより、極圧性をより一層向上させることを見出した。すなわち、本発明では、以下のギヤ油組成物が提供される。
【0006】
<1> 基油と極圧剤を含有するギヤ油組成物であって、
前記基油として、下記一般式(1)で表される縮合リン酸エステルを前記基油全量に対し20質量%以上含有し、
前記極圧剤として、硫黄を含有する極圧剤を前記ギヤ組成物全量に対し0.2〜10質量%含有し、
かつ、前記ギヤ油組成物の40℃における動粘度が50〜1000mm/sであることを特徴とするギヤ油組成物。
【0007】
【化1】

【0008】
一般式(1)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜22の炭化水素基、Rは炭素数1〜6の炭化水素基、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは1〜5の整数である。
<2> 前記一般式(1)中、R、R、R及びRは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、Rは炭素数3の炭化水素基、R及びRはそれぞれ水素原子を表し、nは1〜4の整数であることを特徴とする<1>に記載のギヤ油組成物。
<3> 前記硫黄を含有する極圧剤が、硫化オレフィン、及び硫黄−リン系から選ばれる少なくとも1種以上の極圧剤であることを特徴とする<1>又は<2>に記載のギヤ油組成物。
<4> 前記基油として、40℃動粘度が1〜2000mm/sであり、前記一般式(1)で表される縮合リン酸エステル以外のリン含有系潤滑油基油をさらに含有することを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載の難燃性ギヤ油組成物。
<5> 前記一般式(1)で表される縮合リン酸エステル以外のリン含有系潤滑油基油が、下記一般式(2)で表される群の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれかに記載のギヤ油組成物。
(RO)(RO)(R10O)P(O) (2)
(一般式(2)中、R、R及びR10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜24の炭化水素基を表し、aは0又は1である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、着火の可能性のある種々の用途に使用できる、難燃性及び自己消火性に優れ、かつ熱酸化安定性及び極圧性にも優れたギヤ油組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係るギヤ油組成物について具体的に説明する。
1.基油
(1)縮合リン酸エステル
本発明に係るギヤ油組成物は、基油として、下記一般式(1)で表される縮合リン酸エステル(以下、「本発明に係る縮合リン酸エステル」、あるいは単に「縮合リン酸エステル」という場合がある。)を含む。
【0011】
【化2】

【0012】
一般式(1)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数が1〜22の炭化水素基であり、好ましくは炭素数が2〜18、より好ましくは6〜15である炭化水素基である。R、R、R及びRの炭素数が多すぎると自己消火性及び難燃性が低下する傾向にあり、少なすぎると潤滑油本来の性能である流動性が低下する傾向にある。
【0013】
また、R、R、R及びRでそれぞれ表される炭化水素基の種類としては、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基が挙げられる。
熱酸化安定性の観点からは、炭素数6〜15の芳香族炭化水素基が好ましい。芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、n−ブチルフェニル基、sec−フェニルブチル基、tert−ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、ジプロピルフェニル基、ジイソプロピルフェニル基、ジブチルフェニル基、トリメチルフェニル基、トリエチルフェニル基、トリプロピルフェニル基、トリイソプロピルフェニル基、トリブチルフェニル基等が挙げられるが、熱酸化安定性の観点からフェニル基が特に好ましい。
【0014】
一般式(1)中、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、好ましくは炭素数2〜4、より好ましくは炭素数3の炭化水素基である。Rは炭素数が多すぎても少なすぎても所定の自己消火性及び難燃性を得られない傾向にある。
として、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基などが挙げられる。
【0015】
一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜15の炭化水素基であり、水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基が好ましく、特に好ましいのは水素原子の場合である。R及びRの炭素数が多すぎると所定の自己消火性及び難燃性を得られない傾向にある。
及びRで表される炭化水素基としては、芳香族炭化水素基、脂環族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基のいずれでもよく、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよい。脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基等が挙げられる。また、上記芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基等が挙げられる。
【0016】
一般式(1)中、nは1〜5の整数であり、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3である。nが多すぎても少なすぎても潤滑油本来の性能である流動性が低下する傾向にある。なお、流動性の観点からは、nが異なる縮合リン酸エステルの混合物であることが好ましい。
【0017】
また、本発明のギヤ油組成物に配合する縮合リン酸エステルは、40℃の動粘度が100〜5000mm/sであることが好ましく、より好ましくは200〜4000mm/s、特に好ましくは500〜3000mm/sである。基油として配合する縮合リン酸エステルの動粘度が小さすぎると難燃性及び自己消火性が低くなる傾向にあり、またギヤ油として必要とされる動粘度を適度に調整できない場合がある。前記縮合リン酸エステルの動粘度が大きすぎると流動性が悪くなり、ギヤ油組成物としたときの動粘度が大きくなり、撹拌抵抗が大きくなる傾向にあり、ギヤを駆動するのに必要な力が大きくなる傾向にある。
【0018】
また、本発明のギヤ油組成物に配合する縮合リン酸エステルの配合量は、基油全量に対し20質量%以上であり、好ましくは40質量%以上含有する。配合量が少なすぎると、難燃性及び自己消火性が十分ではなく、また熱酸化安定性も低下する傾向にある。一方、縮合リン酸エステルの配合量の上限値は特になく、基油全量に対し100質量%が縮合リン酸エステルであってもよい。
【0019】
(2)縮合リン酸エステル以外のリン含有系潤滑油基油
基油として一般式(1)の縮合リン酸エステルだけでは本発明のギヤ油組成物の動粘度の範囲内としづらい場合には、一般式(1)の縮合リン酸エステル以外の潤滑油基油を配合することもできる。このような潤滑油基油としては、難燃性及び自己消火性を低下させないものが望ましく、そのような観点からはリン含有系潤滑油基油を使用することが好ましい。リン含有系潤滑油基油を配合する場合、前記一般式(1)の縮合リン酸エステルの配合量は基油全量に対し20〜80質量%、好ましくは40〜80質量%とし、残りをリン含有系潤滑油基油とすることが好ましい。なお、本発明に係るギヤ油の特性に対して悪影響(例えば難燃性の低下)を与えない程度の微量であれば、リン含有系基油以外の基油を含むこともできる。
【0020】
配合し得るリン含有系潤滑油基油としては、例えば、ホスフィン、ホスフィナイト、ホスホナイト、ホスファイト、ホスフィンオキサイド、ホスフィネート、ホスホネート、ホスフェート、アシッドホスフェート、チオホスフェート等が挙げられる。
これらの中でも、本発明のギヤ油組成物において基油として配合してもよいリン含有系潤滑油基油としては、下記一般式(2)で表される群の中から選ばれる少なくとも1種のリン酸類化合物が好ましい。
(RO)(RO)(R10O)P(O) (2)
一般式(2)中、R、R及びR10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜24の炭化水素基を表し、aは0又は1である。
【0021】
一般式(2)中、R、R及びR10で表される炭化水素基の炭素数がそれぞれ24以下であると、基油の流動性がより向上する。流動性の向上の観点から、上記炭化水素基R、R及びR10の各炭素数としては、好ましくは1〜18であり、より好ましくは2〜15である。また、R、R及びR10の炭素数の合計量は、好ましくは4〜45であり、より好ましくは6〜40である。
【0022】
一般式(2)中、R、R及びR10で表される炭化水素基は、芳香族炭化水素基、脂環族炭化水素基、及び脂肪族炭化水素基のいずれであってもよいが、好ましくは脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又はこれらを組み合わせた基であり、より好ましくは芳香族炭化水素基、又は脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とを組み合わせた基であり、特に好ましくは芳香族炭化水素基である。
【0023】
一般式(2)で表されるリン含有系潤滑油基油の具体例としては、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリルホスフェート、フェニル・イソプロピルホスフェート、ブチルフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0024】
上記リン含有系潤滑油基油の動粘度は、40℃において1〜2000mm/sであり、好ましくは2〜1000mm/s、さらに好ましくは5〜600mm/sである。配合するリン含有系潤滑油基油の動粘度が低すぎると所定の難燃性及び自己消火性が得られない傾向にあり、またギヤ油として必要とされる動粘度を適度に調整できない場合がある。一方、添加するリン含有系潤滑油基油の動粘度が高すぎると、ギヤ油組成物としたときの動粘度が大きくなりすぎ、撹拌抵抗が大きくなる傾向にあり、ギヤを駆動するのに必要な力が大きくなる傾向にある。
【0025】
本発明のギヤ油組成物に配合し得るリン含有系潤滑油基油の量は、要求特性に応じて適宜選定することができるが、本発明で規定するギヤ油組成物の動粘度を適度に調整しやすいという観点からは、全基油量に対して10〜80質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
2.硫黄を含有する極圧剤
本発明のギヤ油組成物は、極圧剤として、硫黄を含有する極圧剤を含有する。
上記硫黄を含有する極圧剤としては、例えば、硫黄系極圧剤や硫黄−リン系極圧剤が挙げられる。
【0027】
(1)硫黄系極圧剤
硫黄系極圧剤としては、炭化水素硫化物、硫化油脂等が挙げられる。
上記炭化水素硫化物としては、下記一般式(3)又は一般式(4)で表される炭化水素硫化物が挙げられる。
【0028】
【化3】

【0029】
一般式(3)及び一般式(4)中、R11は、1価の炭化水素基(例えば、アルキル基やアルケニル基のような、炭素数2〜20個の直鎖もしくは分岐の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6〜26の芳香族炭化水素基)を表し、R12は、2価の炭化水素基(例えば、炭素数2〜20の直鎖もしくは分岐の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6〜26の芳香族炭化水素基)を表す。
また、一般式(3)及び一般式(4)中、bは1以上の整数で、繰り返し単位中において各々のbは同じでも異なっていてもよく、cは0又は1以上の整数を表す。
【0030】
11で表される1価の炭化水素基の具体例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、フェニル基、トリル基、へキシルフェニル基、ベンジル基などが挙げられる。
12で表される2価の炭化水素基の具体例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基などが挙げられる。
【0031】
これら炭化水素硫化物の具体的な化合物例としては、ジイソブチルジサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジ−tert−ブチルポリサルファイド、ジ−tert−ノニルポリサルファイド、ジベンジルポリサルファイドなどのポリサルファイド化合物、及びポリイソブチレン、テルペン類などのオレフィン類を、硫黄などの硫化物で硫化した硫化オレフィン類、イソブチレンと硫黄との反応生成物で、下記一般式(5)又は一般式(6)の化学式を有するものと推測される化合物などが挙げられる。
【0032】
【化4】

【0033】
一般式(5)中、b及びcは、一般式(3)におけるb及びcと同じである。
【0034】
【化5】

【0035】
一般式(6)中、b及びcは、一般式(4)におけるb及びcと同じである。
【0036】
一方、前記硫化油脂としては、油脂と硫黄の反応生成物が挙げられる。
ここで、油脂としては、ラード、牛脂、鯨油、パーム油、ヤシ油、ナタネ油などの動植物油脂が挙げられる。
本発明では、上記の硫黄化合物などを硫黄系極圧剤として用いることができるが、極圧性向上の観点からは硫化オレフィンを使用することがより好ましい。
【0037】
(2)硫黄−リン系極圧剤
硫黄−リン系極圧剤としては、上記の硫黄系極圧剤とリン系極圧剤とを組みあわせて配合したものや、硫黄−リン系化合物が挙げられる。
硫黄系極圧剤と組み合わせるリン系極圧剤としては、ホスフェート、ホスファイト、及びこれらの誘導体が挙げられる。ホスフェート、ホスファイトは、モノ、ジ、トリエステルのいずれでもよく、そのアルコール残基としては、ブチル、オクチル、ラウリル、ステアリル、オレイル基などの炭素数4〜30のアルキル基、フェニル基などの炭素数6〜30のアリール基、メチルフェニル、オクチルフェニル基などの炭素数7〜30のアルキル置換アリール基などが挙げられる。上記リン系極圧剤の具体的化合物の例としては、トリブチルホスフェート、モノオレイルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイトなどが挙げられる。これらの誘導体としては、上記モノエステルすなわちアシッドホスフェートやアシッドホスファイトのアミン塩があり、例えばステアリルアミン塩、オレイルアミン塩、ココナッツアミン塩などが挙げられる。
【0038】
硫黄−リン系化合物としては、チオホスファイト、チオホスフェート及びこれらの誘導体が挙げられる。チオホスファイトは、モノ、ジ、トリチオホスファイトのいずれでもよい。チオホスフェートは、モノ、ジ、トリ、テトラチオホスフェートのいずれでもよい。またチオホスファイト、チオホスフェートは、モノ、ジ、トリエステルのいずれでもよく、そのアルコール残基としては、ブチル、オクチル、ラウリル、ステアリル、オレイル基などの炭素数4〜30のアルキル基、フェニル基などの炭素数6〜30のアリール基、メチルフェニル、オクチルフェニル基などの炭素数7〜30のアルキル置換アリール基などが挙げられる。具体的化合物の例としては、トリブチルチオホスフェート、モノオレイルチオホスフェート、ジオクチルチオホスフェート、トリクレジルチオホスフェートなどが挙げられる。これらのアミン塩としては、ステアリルアミン塩、オレイルアミン塩、ココナッツアミン塩などが挙げられる。チオホスファイト及びチオホスフェートの誘導体としては、上記アシッドチオホスファイト及びアシッドチオホスフェートとのアミン塩、金属塩、脂肪酸との反応物等が挙げられ、下記一般式(7)で表されるジチオリン酸エステル系化合物等も用いることができる。
【0039】
【化6】



【0040】
一般式(7)中、R13、R14は、いずれも炭素数2〜20の炭化水素基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R15は、炭素数1〜17の2価の脂肪族炭化水素を表し、直鎖でも分岐鎖でもよい。Xは、水素またはカルボキシル基を示す。
【0041】
上記の硫黄を含有する極圧剤の含有量は、本発明のギヤ油組成物の全量に対し、0.2〜10質量%であることが必要である。より好ましくは0.2〜8質量%であり、特に好ましくは0.2〜5質量%であり、さらに好ましくは0.5〜3質量%であり、最も好ましくは0.8〜2質量%である。上記極圧剤の含有量が0.2質量%未満であると、ギヤ油組成物として求められる極圧性能が得られず、10質量%を超えると、難燃性や自己消火性に寄与する縮合リン酸エステルの含有量が相対的に低下して難燃性や自己消火性が低下してしまう。
上記の硫黄を含有する極圧剤は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
3.その他の添加剤
本発明のギヤ油組成物は、必要に応じて、各種添加剤を適宜配合することができる。
添加剤としては、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートなどの金属系清浄剤;アルケニルこはく酸イミド、アルケニルこはく酸イミド硼素化変性物、ベンジルアミン、アルキルポリアミンなどの分散剤;亜鉛系、リン系、硫黄系、アミン系、エステル系などの各種摩耗防止剤;ポリメタクリレート系、エチレンプロピレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体の水素化物あるいはポリイソブチレン等の各種粘度指数向上剤;2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールなどのアルキルフェノール類、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)などのビスフェノール類、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェノール)プロピオネートなどのフェノール系化合物、ナフチルアミン類やジアルキルジフェニルアミン類などの芳香族アミン化合物などの各種酸化防止剤;ステアリン酸などのカルボン酸、ジカルボン酸、金属石鹸、カルボン酸アミン塩、重質スルホン酸の金属塩、多価アルコールのカルボン酸部分エステルなどの各種錆止め剤;ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾールなどの各種腐食防止剤;シリコーン油などの各種消泡剤などが挙げられる。添加剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
4.ギヤ油組成物の動粘度
本発明のギヤ油組成物の動粘度は、JIS K2283動粘度試験方法(40℃)において、50〜1000mm/sであり、好ましくは50〜800mm/sであり、より好ましくは100〜600mm/sであり、最も好ましくは150〜500mm/sである。ギヤ油組成物の40℃動粘度が50mm/s未満であると、難燃性および自己消火性が低くなる傾向にあり、またギヤ油として求められる潤滑性が低くなる傾向にある。一方、ギヤ油組成物の40℃動粘度が1000mm/sを超えると、攪拌抵抗が大きくなる傾向にあり、ギヤを駆動するのに必要な力が大きくなる傾向にある。
【0044】
5.用途
本発明のギヤ油組成物は、着火の可能性があり難燃性を求められる種々の用途において使用することが可能である。例えば、産業機械の軸受や歯車、金属加工、特に好ましくは圧延機、搬送用ベルトコンベア、発電所のタービン、建設機械、工作機械、船舶等のギヤ部分に用いることができる。なお、本発明の組成物はギヤ油に好適に使用されるが、作動油、タービン油、コンプレッサー油等の工業用潤滑油に使用することも可能である。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
表1(実施例1〜10)及び表2(比較例1〜5)において、基油については基油全体に対する質量%、添加剤については組成物全体に対する質量%で配合し、潤滑油組成物を調製した。
各実施例、各比較例において組成物の調製に用いた基油および添加剤は次のとおりである。
【0046】
<基油>
・縮合リン酸エステル:(商品名;大八化学社製「CR−741」 前記一般式(1)中、R、R、R、Rはそれぞれ炭素数6の芳香族炭化水素基、Rは炭素数3の炭化水素基、R、Rはそれぞれ水素原子、nは1〜3の混合物である。また、この縮合リン酸エステルの40℃動粘度は、1300mm/sである。)
・リン酸エステル:トリキシリルホスフェート、40℃動粘度:46mm/s
・鉱油A:40℃動粘度:100mm/s
・鉱油B:40℃動粘度:460mm/s
【0047】
<添加剤>
(C−1) 硫化オレフィン(硫黄含有量19%)
(C−2) アシッドホスフェートのアミン塩
(C−3) β−ジチオホスホリル化プロピオン酸(一般式(7)においてR13,R14がイソブチル基、R15が炭素数2、Xがカルボキシル基)
(C−4) 硫化エステル(硫黄含有量15%)
【0048】
<その添加剤>
・酸化防止剤:オクチル化ジフェニルアミン
【0049】
なお、40℃動粘度はJIS K2283動粘度試験方法により測定した。
【0050】
−燃焼試験−
医療用ガーゼ(綿100%素材、7cm×15cm)の半分に試料を染込ませた後、試料のついていない側から着火し、燃焼継続の有無(難燃性及び自己消火性)を以下の基準で評価した。
◎:燃焼せず
○:30秒未満で燃焼が終了(自己消火性あり)
×:燃焼し、30秒以上燃焼が継続(自己消火性なし)
【0051】
−熱酸化安定性試験−
JIS K 2514.4準拠のTOSTにおける水混入無しの条件で実施した。評価は、90℃で500hr試験後の酸価増加を測定し、以下の基準で行った。
○:酸価増加が2.0mgKOH/g未満である。
×:酸価増加が2.0mgKOH/g以上である。
【0052】
−極圧性試験−
JIS K 2519準拠チムケン法で実施した。
○:OK耐荷重値60Lb以上である
△:OK耐荷重値50〜60Lb未満である
×:OK耐荷重値50Lb未満である
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と極圧剤を含有するギヤ油組成物であって、
前記基油として、下記一般式(1)で表される縮合リン酸エステルを前記基油全量に対し20質量%以上含有し、
前記極圧剤として、硫黄を含有する極圧剤を前記ギヤ組成物全量に対し0.2〜10質量%含有し、
かつ、前記ギヤ油組成物の40℃における動粘度が50〜1000mm/sであることを特徴とするギヤ油組成物。
【化1】


(一般式(1)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜22の炭化水素基、Rは炭素数1〜6の炭化水素基、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは1〜5の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(1)中、R、R、R及びRは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、Rは炭素数3の炭化水素基、R及びRはそれぞれ水素原子を表し、nは1〜4の整数であることを特徴とする請求項1に記載のギヤ油組成物。
【請求項3】
前記硫黄を含有する極圧剤が、硫化オレフィン、及び硫黄−リン系から選ばれる少なくとも1種以上の極圧剤であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のギヤ油組成物。
【請求項4】
前記基油として、40℃動粘度が1〜2000mm/sであり、前記一般式(1)で表される縮合リン酸エステル以外のリン含有系潤滑油基油をさらに含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の難燃性ギヤ油組成物。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される縮合リン酸エステル以外のリン含有系潤滑油基油が、下記一般式(2)で表される群の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のギヤ油組成物。
(RO)(RO)(R10O)P(O) (2)
(一般式(2)中、R、R及びR10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜24の炭化水素基を表し、aは0又は1である。)

【公開番号】特開2010−31180(P2010−31180A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196397(P2008−196397)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(398053147)コスモ石油ルブリカンツ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】