説明

難燃性ポリアミド樹脂組成物

【課題】 経済的で、環境汚染の惧れがなく、優れた難燃性、グローワイヤー特性、トラッキング特性、低ソリ性に優れ、吸水時の剛性の低下が少なく、極めて高度に均衡した品質を有する難燃性ポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)粘度数70〜130ml/gのポリアミド樹脂100重量部、(B)トリアジン系難燃剤0.5〜20重量部、(C)ガラス系充填剤及び(C−2)ケイ酸カルシウム系充填剤から選択される少なくとも1種の充填剤10〜120重量部、(D)シラン系カップリング剤0.01〜2重量部を含有し、且つ、該(C)充填剤が平均サイズ10〜55μmで分散されていることを特徴とする難燃性ポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリアミド樹脂組成物に関する。特に、電気的性質、機械的性質、難燃性に優れ、電気・電子機器部品や、自動車の電装部品等の材料に好適に用いられる難燃性ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、機械的強度、耐熱性などに優れ、自動車部品、機械部品、電気・電子部品などの分野で使用されている。例えば、電気・電子機器の部品である電磁開閉器は制御システムの重要な構成部品として、PLCやインバータなど電子応用装置の使用回路やコンデンサ負荷開閉など幅広い分野で使用され、また、安全ブレーカー、アンペアブレーカー及び、漏電遮断器:ELB(Earth Leakage circuit Breaker)、配線用遮断機:MCB(Miniature Circuit Breaker)、MCCB(Molded Case Circuit Breaker)、NFB(No−Fuse Breaker)、電動機保護用遮断機(モーターブレーカー)、スリムブレーカー(ワンタッチブレーカー、ワンタッチ遮断ブレーカー)などの各種ブレーカーは、指定以上の電流が流れた時、または揺れや発熱などの異常を感知した時、通電を遮断するものである。これらは電気配線に組み込まれる電気・電子部品であり、電気配線の安全保証の上で不可欠のものである。そして、これらの電気・電子部品には接点を支持するための樹脂成形品が使用されており、この成形品は、接点で発生する熱及び接点の繰返し運動による負荷に耐える必要があることから機械的強度、耐熱性、難燃性、寸法安定性等に関して高度の物性が要求される。
【0003】
従来、上記の物性を満たす成形品として、耐熱性を有するいわゆる熱可塑性エンジニアリングプラスチックが多く用いられており、また、樹脂単独では耐熱性、難燃性、絶縁特性に限界があり、添加剤として、充填剤、繊維状強化材等を併用しての物性バランスを向上することが検討され、使用されてきた。
樹脂の難燃剤としては、従来、主としてハロゲン化芳香族系化合物が使用されているが、遮断試験等を要する電気・電子部品は、遮断時のアークにより、炭化し易い芳香環を有する樹脂や炭化を促進させるハロゲン系難燃剤は、炭化導電経路が形成されやすく、絶縁特性を維持できない可能性がある。また、近年、環境上の問題からハロゲン系化合物の使用を規制する動きがある。
ハロゲン化合物に代わる難燃剤として、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水和金属化合物を添加することが広く知られているが、充分な難燃性を得るためには、上記水和金属化合物を多量に添加する必要があり、ポリアミド本来の特性が失われるという欠点を有していた。また、赤燐、有機リン系化合物等のリン系難燃剤も知られているが、難燃剤がブリードアウトし、製品の接点を腐食させる問題があった。
【0004】
特許文献1には、非ハロゲン・非リン系の難燃剤としてシアヌル酸メラミンを配合した難燃性ポリアミド樹脂組成物が提案されている。しかし特許文献1は、シアヌル酸メラミンを配合した非強化のポリアミド樹脂組成物が高度の難燃性を有することを示すのみで、かかる組成物の電気的性質については記載していない。また、充填剤その他の樹脂添加剤を配合可能との記載はあるものの、具体的に充填剤を配合した組成物は記載されておらず 、充填剤を添加した場合の電気的性質は全く不明である。
【0005】
特許文献2には、メラミンシアヌレートまたはその誘導体と無機充填材を配合してなる難燃性ポリアミド組成物が提案されている。特許文献2には、UL94試験における難燃規格V−2を満足するために、無機充填材はL/Dが4〜1/4であると述べられ、相対粘度3.1のポリアミド6にシアヌルメラミン10重量%及びL/D=1.2〜2のタルク、カオリン、ワラストナイト等の無機充填材30重量%を配合した具体例が示されているが、充填剤の表面処理に関する記述は全くなく、グローワイヤー特性や耐トラッキング特性についての記述も全くない。
【0006】
特許文献3には、メラミンおよび/またはメラミンシアヌレートと未サイジングのガラス繊維10〜40重量%を含有してなる強化ポリアミド成形材料が示されている。当該発明はガラス繊維のサイジング有無のグローワイヤー特性への影響が開示されている。しかし、未サイジングである粉砕ガラス繊維、つまり表面処理されていない粉砕ガラス繊維を使用すると、吸水時での剛性低下が著しい。また、短い粉砕ガラス繊維との記述があるが、ガラス繊維の長さがグローワイヤー特性、耐トラッキング特性に及ぼす影響については明確な記述はない。実施例では相対粘度3.0のポリアミド66および相対粘度2.9のポリアミド6を使用したとの記述があるのみで、ポリアミドの相対粘度のグローワイヤー特性への影響については記述がない。
【0007】
特許文献4は、ポリアミド、メラミンシアヌレート、算術平均繊維長70〜200μmのシラン化合物で処理された繊維状充填剤または針状無機充填剤1〜50重量%からなる防炎加工熱可塑性成形材料に関する発明で、粘度数145ml/gのポリアミド6および粘度数151のポリアミド66にメラミンシアヌレート15〜20重量%、粉砕ガラス繊維(繊維長135〜144μm)または平均粒度3.5μmでL/D(アスペクト比)=9のウォラストナイトを20重量%配合した実施例が示され、燃焼性、グローワイヤー特性ならびに機械的性質の結果が示されているが、ポリアミドの粘度数(分子量)のグローワイヤー特性への影響については記述がない。本発明者らの検討では、実施例記載の組成では、充填剤の繊維長が長く(または、アスペクト比が大きく)、かつポリマー粘度が高いために、近年要求されるグローワイヤー特性や耐トラッキング特性を満足できない。さらに、当該発明の充填剤繊維長(サイズ)とポリマー粘度では、充填剤の配合量が多い系では、近年要求されるグローワイヤー特性や耐トラッキング特性を満足できない。また、繊維長が比較的長い充填剤を使用していることから、低ソリ性も期待できない。
【0008】
特許文献5には、(A)ポリアミド樹脂100重量部、(B)メラミンシアヌレート1〜20重量部および(C)ホウ酸金属塩からなるウィスカー5〜120重量部からなる機械的強度及び耐トラッキング性に優れた難燃性ポリアミド樹脂組成物が開示されている。実施例、比較例において、相対粘度2.4のポリアミド66にメラミンシアヌレートとホウ酸ウイスカー(平均長10〜30μm)を配合した組成物が示され、ケイ酸カルシウムウイスカー(平均長1〜5μm)、ガラス繊維(平均長300μm)を用いた組成物より耐トラッキング性が優れていることを示しているが、当該特許文献においては、ポリアミドの粘度数やウイスカーの平均長の耐トラッキング特性への影響についての記述はない。ホウ酸金属塩ウイスカーは高価であり、また組成物の製造に際してコンパウンドが困難である。
【0009】
【特許文献1】特開昭53−31759号公報
【特許文献2】特開昭54−16565号公報
【特許文献3】特公平7−56008号公報
【特許文献4】特表平11−513059号公報
【特許文献5】特開平11−1613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、経済的で、環境汚染の惧れがなく、優れた難燃性、グローワイヤー特性、トラッキング特性、低ソリ性に優れ、吸水時の剛性の低下が少なく、極めて高度に均衡した品質を有する難燃性ポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者等は検討を重ね、トリアジン系難燃剤と強化剤を配合したポリアミド樹脂組成物においては、その組成、ポリアミドの粘度数、充填剤の平均サイズや表面処理との微妙な関係が、グローワイヤー特性、耐トラッキング特性、吸水性などの性能へ大きく影響することを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明の要旨は、(A)粘度数70〜130ml/gのポリアミド樹脂100重量部、(B)トリアジン系難燃剤0.5〜20重量部、(C)ガラス系充填剤及びケイ酸カルシウム系充填剤から選択される少なくとも1種の充填剤10〜120重量部、(D)シラン系カップリング剤0.01〜2重量部を含有し、且つ、該(C)充填剤が平均サイズ10〜55μmで分散されていることを特徴とする難燃性ポリアミド樹脂組成物及び、かかる組成物を成形してなる電気・電子機器部品に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、難燃性、グローワイヤー特性、耐トラッキング特性に優れた電気絶縁材料であり、吸水による剛性の低下を抑え、機械的強度、低ソリ性に優れ、成型不良の発生を抑制し、特に電気・電子機器部品用材料として利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に使用される(A)ポリアミド樹脂としては、3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸、又は、二塩基酸とジアミン等の重縮合によって得られるポリアミドを用いることができる。具体的には、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドン等の重合体、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン等のジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸等のジカルボン酸と重縮合せしめて得られる重合体又はこれらの共重合体が挙げられ、例えば、ナイロン4、6、7、8、11、12、6・6、6・9、6・10、6・11、6・12、6T、6/6・6、6/12、6/6T、6T/6I、MXD6等が挙げられ、これらは単独で或いは複数種を配合して使用することができる。本発明において特に好ましいポリアミド樹脂としては、難燃性、機械的強度、成形性の点から、ポリアミド6、共重合ポリアミド6/66または66/6及び/又はポリアミド66が挙げられる。特に好ましくは、ポリアミド6が主成分であることが、成形性を維持し得るので好ましい。本発明におけるポリアミド樹脂の末端は、分子量調節も兼ねてカルボン酸又はアミン化合物で封止されていてもよい。
【0014】
本発明に使用されるポリアミド樹脂(A)はある範囲内の重合度、すなわち96%硫酸中濃度1%、温度23℃で測定した粘度数が70〜130ml/gを有することが必要である。粘度数は、より好ましくは72〜120ml/gである。粘度数が70ml/gより低いと溶融粘度が小さいため、機械的強度が低下する。また粘度数が130ml/gより高いとグローワイヤー特性(GWFI)において接棒後の燃焼時間が長くなり、すなわち不合格となる可能性があり、各種用途向けの要求特性の満足が困難になり好ましくない。
【0015】
本発明に使用される(B)トリアジン系難燃剤としては、下記一般式(1)または(2)で表される化合物、メラミン類およびシアヌル酸メラミン等が挙げられる。
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、R〜Rは、それぞれ、水素原子またはアルキル基を示す。)。
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、シアヌル酸、トリメチルシアヌレート、トリエチルシアヌレート、トリ(n−プロピル)シアヌレート、メチルシアヌレート、ジエチルシアヌレート等が挙げられる。前記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、イソシアヌル酸、トリメチルイソシアヌレート、トリエチルイソシアヌレート、トリ(n−プロピル)イソシアヌレート、ジエチルイソシアヌレート、メチルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0018】
メラミン類としては、メラミン、メラミン誘導体、メラミンと類似の構造を有する化合物およびメラミンの縮合物等が挙げられる。メラミン類の具体例としては、例えば、メラミン、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、アリールグアナミン、メラム、メレム、メロン等が挙げられる。
【0019】
シアヌル酸メラミンとしては、シアヌル酸との等モル反応物が挙げられる。また、シアヌル酸メラミン中のアミノ基または水酸基のいくつかが、他の置換基で置換されていてもよい。シアヌル酸メラミンは、例えば、シアヌル酸の水溶液とメラミンの水溶液とを混合し、90〜100℃で攪拌下反応させ、生成した沈殿を濾過することによって得ることができる白色の固体であり、微粉末状に粉砕して使用するのが好ましい。勿論、市販品をそのまま、又はこれを粉砕して使用することもできる。
【0020】
(B)トリアジン系難燃剤としては、好ましくは、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、シアヌル酸メラミン、シアヌル酸メレム等が挙げられ、分解物が成形物の表面に浮き出してくるブルーミング等の不都合がない点より、より好ましくは、シアヌル酸メラミンに代表されるシアヌル酸類とメラミン類との等モル反応物が挙げられる。但し、シアヌル酸メラミンは260℃以上になると分解が始まるので、成形不良の発生を抑え、難燃性を確保するためには、260℃以上での成形温度を避ける必要がある。本発明組成物のように、無機充填剤を配合し、流動性が低下傾向の組成物においては、成形温度を260℃よりできるだけ低くして、難燃性を確保できるポリアミド6が主成分であることが好ましい。
【0021】
本発明組成物中のトリアジン系難燃剤(B)の配合量は、ポリアミド樹脂100重量部に対し0.5〜20重量部である。トリアジン系難燃剤の配合量が0.5重量部未満であると難燃性効果が期待されない。20重量部より多いと、成形時に分解しやすく金型汚染が問題となる。トリアジン系難燃剤の配合量は、難燃性とグローワイヤー特性、耐トラッキング特性、機械的特性のバランスの点より、好ましくは1〜15重量部であり、更に好ましくは1.5〜10重量部である。
【0022】
本発明で使用される(C)充填剤は、(C−1)ガラス系充填剤及び(C−2)ケイ酸カルシウム系充填剤から選ばれる少なくとも1種である。
(C−1)ガラス系充填剤はガラス繊維、粉砕ガラス繊維(ミルドファイバー)、ガラスフレーク、ガラスビーズなど、通常熱可塑性樹脂に使用されるものでよく、それらの二種以上を併用してもよい。通常熱可塑性樹脂に使用されるものでよいが、アルカリ分が少なく、電気的特性が良好なEガラスから作られるガラス系充填剤が好ましい。
【0023】
(C−2)ケイ酸カルシウム系充填剤の代表的なものはワラストナイトとして知られた、白色針状結晶の鉱物である。通常、SiO2を40〜60wt%、CaOを40〜55wt%含有し、その他にFe23、Al23、MgO、Na2O、K2O等の成分を含有するものである。なお、これらのワラストナイトは、天然に存在するものを粉砕、場合によっては分級したものでも、合成品でも使用できる。また、ハンター白色度が60以上で、ポリアミドへの耐候性を悪化させない意味で、高純水へ10%スラリーとした際のスラリーのpH値が6〜8のものがより好ましい。
【0024】
ガラス系およびケイ酸カルシウム系充填剤は、組成物中でサイズ10〜55μmとなるように分散されることが必要である。組成物中の充填剤のサイズは、好ましくは15〜50μmである。ここで、充填剤のサイズとは、繊維状充填剤がガラス繊維、粉砕ガラス繊維、ワラストナイト等の繊維状の場合は繊維方向の最大長さを示し、板状充填剤であるガラスフレークの場合は板の最大直径、球状のガラスビーズの場合は球の最大径を意味する。形状の異なる充填剤が併用された場合は、形状毎に数平均長径を測定し、形状毎の配合比率を掛け合わせて、平均化したものを充填剤の平均長径とする。
【0025】
なお、充填剤の平均サイズは、次の方法で求めることが出来る。樹脂組成物ペレットを電気炉で500℃、30分間加熱して完全に灰化して得られた粒子を、3%中性洗剤水溶液に適量加え、攪拌し、このようにして得られた充填剤粒子の分散液を、ピペットでガラス板に採取し、実体顕微鏡を用いて写真撮影を行なう。その写真画像に対して、デジタイザーを用いて1000個の個別粒子ごとの最大寸法と最小寸法を測定した。最大寸法は充填剤サイズ(L)であり、その合計量を個数で割ったものが充填剤の平均サイズである。最小寸法は、繊維状充填剤の場合は、繊維に垂直方向の径であり、板状物は板状厚み、球状物は球の最小径であり、その合計量を個数で割ることにより数平均径(D)を測定した。アスペクト比はL/Dにて示され、L/D=1.5〜8が、更には2〜7が好ましい。
【0026】
ペレット中に分散しているガラス系充填剤、および/またはケイ酸カルシウム系充填剤の平均サイズが65μmを越えると燃焼性、グローワイヤー特性、耐トラッキング特性が著しく低下し、10μm未満であると剛性の改善効果が小さい。また、アスペクト比が1.5以下であると強度改善効果が小さく、8より大きいと燃焼性、グローワイヤー特性および耐トラッキング特性の低下が起こる可能性が有る。
【0027】
充填剤の配合量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、10〜120重量部であり、好ましくは15〜115重量部、更に好ましくは20〜110重量部である。配合量が10重量部より少ないと、機械的特性が発揮されない。120重量部より多いと、グローワイヤー特性(GWFI)において接棒後の燃焼時間が長くなり、不合格となる。
【0028】
本発明に使用される(D)シラン系カップリング剤としては、有機シラン系化合物であり、その具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物;γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物;γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物;γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等の炭素炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。特に、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましく用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
(D)シラン系カップリング剤の量としては、(A)ポリアミド樹脂100重量部に対し、0.01〜2重量部である。(D)シラン系カップリング剤の量が多すぎる場合、耐トラキング特性、難燃性の低下が著しくなり、一方、少なすぎると、機械的強度、特に弾性率の改善効果が小さくなる。
【0030】
(D)シラン系カップリング剤の添加方法としては、(A)ポリアミド樹脂、(B)トリアジン系難燃剤、(C)の充填剤等を溶融混練する際に、同時に添加するいわゆるインテグラルブレンド法を用いても良いが、予め(C)の充填剤を表面処理しておくことが好ましい。(C)充填剤を予めカップリング剤で予備処理して使用することにより、絶乾時または吸水時に、より優れた機械的強度を得ることが出来る。特に本発明のように(C)充填剤のサイズが小さい場合は、カップリング剤が配合されないと機械的強度、特に弾性率の改善効果が小さい。充填剤の表面処理剤としては、イソシアネート系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物等も使用できる。しかし、耐トラッキング試験において、充填剤表面の低分子量の有機成分を含んでいる表面処理剤などが導電経路を形成しやすく、耐トラッキング特性を低下させる傾向にある。したがって、機械的強度、ソリ(成形表面の平滑性)などとのバランスの上で(C)充填剤の表面処理剤を選定をする必要があり、この観点から、特に好ましいのは、(D)有機シラン系カップリング剤である。
【0031】
本発明組成物は上記(A)〜(D)成分の他、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、顔料、染料、核剤、離型剤、安定剤、帯電防止剤その他の周知の添加剤を、添加することが出来る。
特に本発明組成物から射出成形により、成形体を製造する場合は、アミド系離型剤を配合することが好ましい。アミド系離型剤としては、カルボン酸アマイド系ワックス或いはビスアミド化合物が好ましい。
本発明に使用されるカルボン酸アマイド系ワックスは、高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸の混合物とジアミンとの脱水反応によって得られる。原料の高級脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸が好ましく、例えばパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。多塩基酸としては、二塩基酸以上のカルボン酸で、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。原料のジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0032】
カルボン酸アマイド系ワックスは、原料の高級脂肪族モノカルボン酸に対する多塩基酸の混合割合を変えることにより軟化点の異なるワックスを得ることが出来る。本発明に使用されるカルボン酸アマイド系ワックスとしては、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対し、多塩基酸0.18モル〜1モルの範囲が好適である。また、ジアミンは高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対し、1.5〜2モルの範囲が好適であり、使用する多塩基酸の量にしたがって変化する。
【0033】
ビスアミド化合物は、N,N’−メチレンビスステアリン酸アミド及びN,N’−エチレンビスステアリン酸アミドのようなジアミンと脂肪酸の化合物、あるいはN,N’−ジオクタデシルテレフタル酸アミドなどのジオクタデシル二塩基酸アミドを挙げることができる。(E)アマイド系ワックス或いはビスアミドの使用量は、(A)ポリアミド樹脂100重量部に対し、0.01〜0.5重量部である。この範囲の量の(E)アミド系離型剤を使用することにより、難燃性、グローワイヤー特性、耐トラッキング特性を低下させることなく本発明組成物を用い、例えば射出成形により成形品を製造する時の生産性を高めることが出来る。
【0034】
本発明組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、(A)ポリアミド樹脂、(B)トリアジン系難燃剤、(C)充填剤、(D)シラン系カップリング剤、及び必要に応じて添加される(E)アミド系離型剤その他の添加剤を所定量配合し、攪拌、混練すれば良い。配合、混練する方法としては、最終成形品を成形する直前までの任意の段階で周知の種々の手段によって行うことができる。最も簡便な方法は、ポリアミド樹脂とトリアジン系難燃剤および充填剤、シラン系カップリング剤(または、シラン系カップリング剤で、予め表面処理された充填剤)を単にドライブレンドする方法であり、得られるドライブレンド物を溶融混練押出にてペレットとする。溶融混練押出に際しては、ポリアミド樹脂とトリアジン系難燃剤、充填剤、シラン系カップリング剤を押出機のメインホッパー口から供給するのが、安定した混合ができ好ましい。または、充填剤とシラン系カップリング剤のみをサイドフィード口から供給しても良い。さらに別の方法としては、所定量より多いトリアジン系難燃剤または充填剤をポリアミド樹脂に練り込んだマスターペレットを予め調製し、これを希釈用ポリアミド樹脂とドライブレンドすることによっても、本発明におけるポリアミド樹脂組成物を得ることができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて、各種用途部品を製造するにあたっては、公知の熱可塑性樹脂の成形法を何れも適用することが出来る。好ましくは、前記ドライブレンド物やペレット等のポリアミド樹脂組成物を用い、射出成形機等の各種成形機に供給して、金型に流し込み、冷却、取り出しをするという常法に従って実施することができる。
本発明の成形体としては特に限定されるものではないが、例えばブレーカー筐体、カバー、セパレーター、ハンドル等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に制限されるものではない。なお、以下の例で使用した材料、および得られた組成物の評価試験方法は次の通りである。
【0037】
<材料>
A−1)ポリアミド6:粘度数=87ml/g、三菱エンジニアリングプラスチックス社 製、「ノバミッド 1005J」。
A−2)ポリアミド6:粘度数=99ml/g、三菱エンジニアリングプラスチックス社 製、「ノバミッド 1007J」。
A−3)ポリアミド6:粘度数=150ml/g、三菱エンジニアリングプラスチックス 社製、「ノバミッド 1015J」。
A−4)ポリアミド66:粘度数=118ml/g、東レ社製、「アミラン E−300
0」。
B)シアヌル酸メラミン:大垣化成社製、「MX44」。
【0038】
C−1−1)粉砕ガラス繊維:平均サイズ=50μm、繊維径=10μm、アミノシラン 処理品、日東紡社製、「PF50E−401」。
C−1−2)粉砕ガラス繊維:平均サイズ=70μm、繊維径=10μm、表面未処理品 、日東紡社製、「PF70E−001」。
C−1−3)粉砕ガラス繊維:平均サイズ=70μm、繊維径=10μm、アミノシラン 処理品、日本電気硝子社製、「EPG70M−10A」。
C−2−1)ワラストナイト:平均サイズ=30μm、 繊維径=8μm、アミノシラン 処理品、NYCO社製、「NYAD400−10012」。
C−2−2) ワラストナイト:平均サイズ=35μm、繊維径=9μm、表面未処理品、
NYCO社製、「NYAD325」。
なお、表面処理品は、0.05〜0.5重量%のアミノシランを含有する。
【0039】
D)シラン系カップリング剤:γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、日本ユニカー製 、「A1100」。
E−1)カルボン酸アマイド系ワックス離型剤:共栄社化学製、「WH255」。
E−2)ポリエチレンワックス系離型剤:三井化学社製、「ハイワックス110P」。
【0040】
<評価方法>
*粘度数:JIS K6933−99に従って、ポリアミド樹脂を96%濃硫酸溶媒に1%溶解し、23℃にて測定した。
*難燃性:5×1/2×1/32(インチ)の大きさの試験片を用い、試験法UL−94規格に準じて実施した。
*グローワイヤー特性(GWFI):厚さ1.6mmの試験片を用い、試験法IEC60695−2−12に準拠して測定した。960℃において基準を満足すれば合格とした。
*耐トラッキング特性(CTI):厚さ3.0mmの試験片を用い、試験法IEC60112に準拠して測定した。なお、印加電圧は50V単位で実施した。
*絶乾時の剛性:ISO527に準拠して成形した絶乾状態の引張試験片を用い、ISO527に準拠して引張弾性率を測定した。
*吸水時の剛性及び吸水率:ISO527の引張試験片を23℃で水中に2週間浸漬し、95%湿度下に1週間調湿した後、ISO527に準拠して引張弾性率を測定した。
また、浸漬調湿前後の重量差を求め、吸水率とした。
*ソリ:100φ×1.6mmtの円板を成形し、目視にてソリ量を評価した。
【0041】
[実施例1〜10および比較例1〜7]
表−1に示す割合(単位は重量部)で、ポリアミド樹脂と各種材料を配合した後、日本製鋼所製TEX30HCT型2軸押出機を用いて、シリンダー温度240〜270℃、スクリュー回転数200rpmの条件下で溶融混練してポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを用い、日本製鋼所製J75ED成形機にて、シリンダー温度を240〜270℃設定、金型温度を80℃設定で、射出成形し、燃焼性、GWFI、CTIおよび機械的剛性評価の試験片をそれぞれ作製した。燃焼性、GWFI、CTIおよび機械的剛性の評価を上記の方法に従って行った。評価結果を表−1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
実施例1〜7の組成物は、充填剤含量が全組成物中で50重量%と大量に配合され、且つトリアジン系難燃剤を3重量%と低配合量であっても、特定の粘度数範囲のポリアミドと、表面処理された特定サイズのガラス系または、ケイ酸カルシウム系充填剤を使用することにより、難燃性、グローワイヤー特性(GWFI)、耐トラッキング特性(CTI)に優れ、且つ吸水時の剛性低下が抑制され、品質バランスに極めて優れている。
実施例5に示したように、充填剤とポリアミド樹脂、難燃剤を溶融混練する際に、シラン系カップリング剤を添加する方法(インテグラルブレンド法)においても、予め表面処理した充填剤を用いる場合と同様に品質バランスに優れた組成物が得られる。
【0047】
一方、比較例1、3に示したように、表面処理されていない充填剤を使用すると、吸水時の剛性が著しく低下する。また、比較例2、4に示したように、表面処理されていても樹脂中に分散した充填剤のサイズが大きいと、耐トラッキング特性(CTI)が低下する。比較例5は、本発明の範囲から外れた粘度数(分子量)の大きいポリアミド樹脂を用いた以外は実施例1、8と同じ組成であるが、比較例5はグローワイヤー特性(GWFI)が不合格になることが分かる。比較例6の如く、充填剤の量が多すぎても、ソリが発生するのみならず、グローワイヤー特性(GWFI)が不合格となり、吸水時剛性も大幅に低下する。
比較例7は、実施例1および10と離型剤種のみが異なる組成であるが、ポリエチレンワックスを使用する比較例7は燃焼性、グローワイヤー特性(GWFI)が不合格となり、耐トラッキング特性(CTI)も低下している。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明組成物は、難燃性、グローワイヤー特性、トラッキング特性に優れたポリアミド樹脂組成物であるので、電気配線に組み込まれる安全ブレーカーや漏電遮断機用途等の電気・電子部品の材料として適している。吸湿時の剛性低下が少なく、低ソリであるため、特に機械的負荷の高い機構部品においても使用可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)粘度数70〜130ml/gのポリアミド樹脂100重量部、(B)トリアジン系難燃剤0.5〜20重量部、(C)ガラス系充填剤及びケイ酸カルシウム系充填剤から選択される少なくとも1種の充填剤10〜120重量部、(D)シラン系カップリング剤0.01〜2重量部を含有し、且つ、該(C)充填剤が平均サイズ10〜55μmで分散されていることを特徴とする難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
(D)シラン系カップリング剤で予め表面処理された(C)充填剤を用いることを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
さらに(E)カルボン酸アマイド系ワックス及びビスアミド化合物から選ばれる離型剤0.01〜0.5重量部を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
(A)ポリアミド樹脂がポリアミド6および、又はポリアミド66を主構成単位とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる電気・電子機器部品。

【公開番号】特開2006−306911(P2006−306911A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127731(P2005−127731)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】