説明

難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物、及び、絶縁電線

【課題】傷つきにくく、燃焼時にハロゲン系ガスなどの有毒ガスの発生がなく、引張特性等の機械的特性、可撓性、低温屈曲性、耐薬品性、及び、耐熱性が高く、さらに、特に耐摩耗性に優れたポリプロピレン系難燃性樹脂組成物と、傷付きにくい優れた被ハロゲン系被覆電線とを提供する。
【解決手段】ポリプロピレンが90重量部以上65重量部以下と、残部がポリエチレン系樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及び、スチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる1種以上と、からなるベース樹脂組成物100重量部に対し、無機系難燃剤が60重量部以上100重量部以下配合されてなる難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物であって、25℃における粘弾性特性値tanδが1Hz以上30Hz以下の範囲で0.1以上であり、かつ、タイプDデュロメータ硬度が68以上74以下である難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は傷付きにくい難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物に関するものであり、詳しくは、傷つきにくく、燃焼時にハロゲン系ガスなどの有毒ガスの発生が無く、引張特性等の機械的特性、可撓性、低温屈曲性、耐薬品性、及び、耐熱性等、特に耐摩耗性に優れたポリプロピレン系難燃性樹脂組成物と、これのようなポリプロピレン系難燃性樹脂組成物を絶縁体被覆層として有する傷付き性に優れた被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は一般に安価であり、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、成形加工性およびリサイクル性に優れるところから、各種工業材料、自動車部品、家電製品、包装材料等の幅広い分野に使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリプロピレン系樹脂は易燃性であり、難燃性が求められる分野に適合するために、難燃化する方法が種々提案されてきた。
【0004】
さらに、最近では、環境問題意識の高まりから、燃焼時にハロゲン系ガス等の有害ガスを発生しないことも求められている。
【0005】
このような背景から、現在用いられているノンハロゲン系難燃樹脂材料としては、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂や熱可塑性エラストマーに、非ハロゲン系難燃剤として金属水和物を配合したものが代表的である。
【0006】
しかしながら、このようなノンハロゲン系難燃樹脂材料は、ハロゲン系難燃樹脂材料と同等な難燃性を付与するためには金属水和物を多量に配合させているため、柔軟性、耐磨耗性、低温特性、引張強度や引張破断伸び等の機械的強度の低下を招く場合があり、これらの機械的強度と充分な難燃性とをバランスよく満足することが求められているが、これらの点では現在までに実用性に富んだ材料が提案されてきており、このような非ハロゲン系難燃樹脂材料は被覆電線等に応用されている(特開2003−313377号公報(特許文献1))。
【0007】
しかしながら、現状の非ハロゲン系難燃樹脂材料では、こうした難燃性、機械的特性及び耐磨耗性は満足するものの、ハロゲン系難燃樹脂材料と比べ傷つきやすいと云う問題が解決されていない。
【0008】
すなわち、こうした非ハロゲン系難燃樹脂材料の大きな用途の一つに被覆電線分野がある。
【0009】
ここで、切断した被覆電線の端に金属端子を取り付け、電線束を形成する場合、金属端子により電線の被覆部が傷つく場合がある。特にワイヤーハーネス製造などで、多種多様な長さの端子付き電線を束ねて電線束を作製する場合、同種の、端子付き電線同志でまとめておき、ここから、必要に応じて一本あるいは複数本ずつ、その一端を掴んで取ると云う作業が多く行われる。
【0010】
このとき、選択された電線の端子が他の電線の被覆層表面に当たるが、このとき、端子により被覆層表面に傷がつく場合があるが、その頻度は現状の非ハロゲン系難燃樹脂材料からなる被覆層の場合にはハロゲン系難燃樹脂材料からなる被覆層に比べ、遙かに多くなる。ここで、このような被覆層の傷は、電線束の防水性、耐久性低下、延いては、信頼性低下、あるいは、外観不良の原因となる。
【0011】
このように、非ハロゲン系難燃樹脂材料の傷つきやすさの改善が求められていた。
【特許文献1】特開2003−313377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、傷付きにくい難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物に関するものであり、詳しくは、傷つきにくく、燃焼時にハロゲン系ガスなどの有毒ガスの発生がなく、引張特性等の機械的特性、可撓性、低温屈曲性、耐薬品性、及び、耐熱性が高く、さらに、特に耐摩耗性に優れたポリプロピレン系難燃性樹脂組成物と、傷付きにくい優れた非ハロゲン系被覆電線とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、ポリプロピレンが90重量部以上65重量部以下と、残部がポリエチレン系樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及び、スチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる1種以上と、からなるベース樹脂組成物100重量部に対し、無機系難燃剤が60〜100重量部の割合で配合されてなる難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物であって、25℃における粘弾性特性値tanδが1Hz以上30Hz以下の範囲で0.1以上であり、かつ、タイプDデュロメータ硬度が68以上74以下であることを特徴とする難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物である。
【0014】
本発明の絶縁電線は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物からなる被覆層を有する自動車用絶縁電線である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物によれば、ポリプロピレンが90重量部以上65重量部以下と、残部がポリエチレン系樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及び、スチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる1種以上と、からなるベース樹脂組成物100重量部に対し、無機系難燃剤が60〜100重量部の割合で配合されてなる難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物であって、25℃における粘弾性特性値tanδが1Hz以上30Hz以下の範囲で0.1以上であり、かつ、タイプDデュロメータ硬度が68以上74以下であるので、成形品は傷つきにくく、商品価値が低下することが防止され、あるいは、本来の機能が確保される。
【0016】
本発明の自動車用電線は、上記難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物を被覆層に用いているので、端部に端子を付けた状態でワイヤーハーネス組み付け加工を行っても、端子による傷つきが防止されているので、エンジンボックス内などの確実な耐水性が求められる場所での使用であっても信頼性が高い自動車用電線である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ポリプロピレンが90重量部以上65重量部以下と、残部がポリエチレン系樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及び、スチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる1種以上と、からなるベース樹脂組成物を用いる。
【0018】
ポリプロピレンとしては、ブロックコポリマータイプのもの(例えばプライムポリマー社E−150GK、日本ポリプロ社BC8等)あるいは、ホモポリマータイプのもの(例えばサンアロマー社PL400A、日本ポリプロ社FY6C等)など一般的なポリプロピレンから用途に合うものを用いることができる。このうち、自動車用絶縁電線用途としては、ブロックコポリマータイプのものを選択すると曲げ弾性率が高く、引張破壊呼びひずみが大きく、耐摩耗性及び耐屈曲性に優れるので好ましい。
【0019】
上記ポリプロピレンに対し、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及び、スチレン系熱可塑性エラストマー等の上記ポリプロピレン成分に対して、柔軟性、耐寒性等の性質を付与し、かつ、上記ポリプロピレン成分に対して相溶性に優れた成分を配合する。
【0020】
ポリエチレン系樹脂としては、低密度のもの(例えばプライムポリマー社2015M、日本ポリケム社ノバテックLC605Yなどが挙げられ、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしてはソフトセグメントにEPR(エチレンプロピレンラバー)成分もしくはEPDM(エチレンプロピレンジエン三元重合体)成分など、また、スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレンブロックと、ポリエチレン及びポリプロピレンからなるブロックとの共重合体、もしくは、ポリスチレンブロックとエチレン及びブチレンからなるブロックとの共重合体などが挙げられる。
【0021】
ベース樹脂組成物中へのポリエチレン系樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー、あるいは、スチレン系熱可塑性エラストマーのエラストマー類の配合量はベース樹脂組成物100重量部中に10重量部以上35重量部以下となるようにする。ここでこれらエラストマー類の配合量が10重量部未満であると粘弾性特性値tanδが増加し、傷付き性が悪化しやすく、35重量部超とすると柔軟性が高すぎて耐摩耗性が低下しやすくなる。
【0022】
このようなベース樹脂組成物に対して無機系難燃剤を配合する。無機系難燃剤賭しては一般に粉末状のものを用い、絶縁電線用途としては無機系難燃剤である水酸化マグネシウムまたは、水酸化アルミニウムであることが好ましい。
【0023】
無機系難燃剤の配合量としては、上記ベース樹脂組成物100重量部に対して、60重量部以上100重量部以下配合することが必要である。配合量が60重量部未満であると充分な難燃効果が得られず、一方、100重量部超であると配合量増加に見合う配合の効果が得られず、また、成形後の強度が低くなってしまう。好ましい配合範囲は70重量部以上90重量部以下である。
【0024】
本発明の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物は上記主原料に加えて、フェノール系酸化防止剤0.1〜5重量部(上記ベース樹脂組成物100重量部に対して。以下同)、ヒドラジン誘導体銅害防止剤0.1〜5重量部、脂肪酸誘導体滑剤0.1〜3重量部などを本発明の効果を妨げない範囲において添加しても良く、その場合も本発明に含まれる。
【0025】
本発明の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物は、上記原料を、ニーダー、バンバリーミキサ、ロールミキサ等の一般的な混練手段で混合し、必要に応じて押出成形後切断してペレット化する。
【0026】
ここで、本発明の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物は、25℃における粘弾性特性値tanδが1Hz以上30Hz以下の範囲で0.1以上であり、かつ、タイプDデュロメータ硬度が68以上74以下とすることが必要である。
【0027】
すなわち、本発明は、25℃における粘弾性特性値tanδが1Hz以上30Hz以下の範囲で0.1以上にある樹脂、もしくは、このような樹脂と25℃における粘弾性特性値tanδが0.1未満であっても周波数が増加してもtanδが減少しない樹脂と組み合わせて用いる。
【0028】
ここで、粘弾性特性値tanδは損失弾性率E”を貯蔵弾性率E’で除した値である。一般に硬さが柔らかくなると損失弾性率E”が大きくなり、貯蔵弾性率E’が小さくなるのでtanδの値は大きくなる傾向にある。また、
【0029】
損失弾性率E”が大きいほど衝撃を受けたときの散逸されるエネルギーが大きい、言い換えると損失弾性率E”が大きいほど与えられたエネルギーが容易に樹脂内部にされるので、結果として表面が削れにくくなり、傷つきにくくなる。
本発明では電線耐摩耗性を維持するためにタイプDデュロメータ硬度を68以上74以下の範囲に保ちながらも、樹脂の粘弾性特性値tanδを0.1以上に調製することで、表面が傷つきにくくしている。
【0030】
従来の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物では本願発明のように、25℃における粘弾性特性値tanδを1Hz以上30Hz以下の範囲で常に0.1以上に保ちつつ、タイプDデュロメータ硬度を68以上74以下とすることにより問題解決を図ると云う着目はなかった。
【0031】
25℃における粘弾性特性値tanδが1Hz以上30Hz以下の範囲で0.1未満となる場合では得られる難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物からなる成形物が傷つきやすくなり、絶縁電線の被覆層とした場合に絶縁信頼性が低くなる。
【0032】
また、タイプDデュロメータ硬度が68未満の場合は耐磨耗性が低下し、他方、硬さが73より大きい場合は粘弾性特性値tanδが1Hz以上30Hz以下の範囲で0.1未満となる場合が生じ、上記のように傷つきやすくなってしまう。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物、及び、本発明の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物からなる被覆層を有する絶縁電線の実施例について具体的に説明する。
【0034】
<難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物>
表1に示す原料を用い、表2及び3に示す配合(数字は重量部)で原料を配合し、
45mmφのスクリュを有する二軸混練機で混練して本発明に係る実施例1〜5、比較例1〜11の計16種類の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物を調製した。なお、これら難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物は、その組成から、燃焼時にハロゲン系ガスなどの有毒ガスの発生がなく、引張特性等の機械的特性、可撓性、低温屈曲性、耐薬品性、及び、耐熱性が高いものとなっている。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
<評価用絶縁電線の作製>
上記16種類の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物を用いて、評価用の電線を作製した。具体的には電線押出し機(Φ60mm、L/D=24.5、FFスクリュ)に各試験用難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物を投入し、押出スピード600mm/分、押出温度230℃にて、導体面積0.3395mm(素線構成0.2485mm×7本撚り)の導体上に押出し、仕上がり外径1.20mmの絶縁電線を10種類作製した。
【0039】
<動的粘弾性試験>
上記10種類の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物について動的粘弾性を測定した。具体的には、試験装置として島津製作所社製トライテック2000を使用し、測定クランプは引張り治具を使用、上記各樹脂からプレス機にて厚さ0.2mmのシートを作製し、これから、長さ12mm、幅6mm、厚さ0.2mmのサンプルを得て、これらを用いて、測定温度は25℃、荷重は3.33N、振幅幅は0.05mmにて、1Hzから30Hzまでの周波数領域にて測定を行った。
【0040】
<スクレープ磨耗試験>
JASO(日本自動車工業会規格) D611−12−(2)に示すブレード往復法により、荷重7N、ブレードとしてφ0.45mmのピアノ線を使用し、このピアノ線が被覆層に食い込んで導体で達するまでの往復回数を測定した。測定は1つのサンプルにつき4箇所測定し、その最小値を測定値として、300回以上の場合は充分な耐摩耗性があるとして「○」と評価し、300回未満の場合は不充分であるとして「×」と評価した。なお、このテストは自動車の振動がある環境で、長期に亘ってこすれが生じる場合の耐摩耗性を想定した試験である。
【0041】
<電線引き抜き試験>
自動車用ワイヤーハーネス組み立て作業での取り扱いを想定した評価として電線引き抜き試験を行った。
【0042】
具体的には次のようにして行った。まず、両端に銅製の金属端子を圧着した長さ2mの電線50本を直径70mm、長さ2m丸パイプ(水平におかれている)の中に揃えて、一方の端が丸パイプから5cm程度出るようにまとめて入れる。
【0043】
次いで、この丸パイプから電線を端部を掴んで1本ずつ引き抜いていき、全ての電線を引抜いた後、最後に取り出した電線の被覆層表面についた傷の数(点状の傷の数と線状の傷の数)を目視にて調べた。傷の数が5個未満の場合は傷の発生が少なくて、傷つき防止効果が高いとして「○」と評価し、6個の場合は傷つき防止効果が低いとして「x」として評価した。これら評価結果を表2及び3に併せて示す。
【0044】
表2及び3により、本発明にかかる難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物によれば、高い摩耗性と優れた傷つき防止効果とが得られることが判る。ここで、上記表2及び表3における動的粘弾性値tanδは、いずれも1Hz〜30Hz間で単純増加あるいは単純減少した。従って、1Hzでの動的粘弾性値tanδと30Hzの動的粘弾性値tanδとの両者が0.1以上である場合、25℃における粘弾性特性値tanδは1Hz以上30Hz以下の範囲で0.1以上となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンが90重量部以上65重量部以下と、残部がポリエチレン系樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及び、スチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる1種以上と、からなるベース樹脂組成物100重量部に対し、
無機系難燃剤が60重量部以上100重量部以下配合されてなる難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物であって、25℃における粘弾性特性値tanδが1Hz以上30Hz以下の範囲で0.1以上であり、かつ、タイプDデュロメータ硬度が68以上74以下であることを特徴とする難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物からなる被覆層を有する自動車用絶縁電線。

【公開番号】特開2008−169273(P2008−169273A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2372(P2007−2372)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】