説明

難燃性化学組成物

化学組成物を物質に塗布して、難燃性を付与することができる。組成物は、人または環境に有害でない成分の混合物を含む。組成物の成分は、リン含有物質、酸性物質、保存料として作用する物質、および水性溶媒を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、難燃性を有する化学組成物に関し、より具体的には、織物(fabric)または他の物質に適用し得る組成物に関する。
関連技術の説明
【背景技術】
【0002】
消費財および他の種類の商品のための火災安全規制があるので、多くの製造業者は、難燃性を有する商品を製造してきた。これらの規制を遵守しようと、多くの製造業者は、難燃性化学組成物を彼らの商品に塗布している。不運にも、難燃性化学組成物の多くは、人や環境に毒性かもしれない成分を含んでいることが知られている。
【0003】
有害な耐火性組成物としては、ハロゲン化された組成物が挙げられ、特に、塩素や臭素といったハロゲンを有する組成物が挙げられる。臭素難燃剤(BFR)や塩素化難燃剤(CFR)は、30年超にわたって使用されており、最近の研究によると、これらの物質のレベルが、人体内で急速に増加していることが示されている。より多くの試験がBFRに対して行われているので、BFRの有害な影響についてより知られてきている。研究によると、BFRは、免疫抑制、癌、内分泌かく乱、ならびに、神経行動学的効果および発生効果と関連し得ることが示唆されている。BFRは、消費者製品、特に、電子機器用のプラスチック、発泡材および繊維製品において広く用いられている。CFRは、繊維製品、塗料および被覆剤、プラスチック、ならびに発泡断熱材において用いられており、人や環境に害を引き起こすことも疑われている。
【発明の開示】
【0004】
有効な非ハロゲン化難燃剤が、BFRおよびCFRの使用を減少させるか、または排除するために必要とされている。特に、人または環境に害のない難燃剤が必要である。
【0005】
発明の概要
幾つかの実施形態において、リン酸アンモニウムとクエン酸イオン源と安息香酸イオン源とを含む難燃性を付与するための組成物が提供される。幾つかの実施形態において、上記組成物は水性溶媒をさらに含む。好ましくは、クエン酸イオン源はクエン酸であり、かつ/または、安息香酸イオン源は安息香酸ナトリウムである。
【0006】
幾つかの実施形態において、上記組成物は、1部のクエン酸イオン源と、12.7から20部のリン酸アンモニウムと、0.8から2.2部の安息香酸イオン源とで構成されている。幾つかの実施形態において、上記組成物は液体であるが、本発明は、粒状形態または固体形態をとり得ることが企図される。
【0007】
幾つかの実施形態において、上記組成物は、約4から約6のpH値範囲を有する。好ましくは、上記クエン酸イオン源は、上記pH値範囲内のpH値を達成する量で上記組成物に添加される。幾つかの実施形態において、塩基性物質は、このpH値範囲内のpH値を達成する量で上記組成物に添加される。
【0008】
幾つかの実施形態において、上記組成物を物質(material)に塗布する工程を含む、物質に難燃性を付与する方法が提供され、その組成物は、リン酸アンモニウムとクエン酸イオン源と安息香酸イオン源とを含む。好ましくは、この方法で塗布される組成物は、1部のクエン酸イオン源と、12.7から20部のリン酸アンモニウムと、0.8から2.2部の安息香酸イオン源とを含む。幾つかの実施形態において、上記組成物は、物質上に噴霧される。他の実施形態において、上記物質は、上記組成物中に入れられる。
【0009】
幾つかの実施形態において、難燃性組成物を製造する方法が提供され、ここでは、リン酸アンモニウムとクエン酸イオン源と安息香酸イオン源とを含む組成物を水性溶媒に溶解させる。好ましくは、上記リン酸アンモニウムを上記水性溶媒に溶解させて溶液を形成し、次いで、クエン酸と安息香酸ナトリウムとを上記溶液に攪拌しながら入れる。
【0010】
幾つかの実施形態において、本質的にリン酸アンモニウムとクエン酸と安息香酸ナトリウムとからなる組成物が提供される。幾つかの実施形態において、上記組成物はさらに、水性溶媒を含む。
【0011】
好ましい実施形態の詳細な説明
以下の記載において、説明の目的のために、多数の具体的な詳細が、本発明の完全な理解を提供するために示される。しかしながら、当業者に明らかなように、例示的な実施形態は、これらの具体的な詳細なしに実施され得る。以下の実施形態は、具体的な例を参照しつつ記載されるが、当業者は、記載された実施形態における単一の要素が本発明の成功的な実施のために必要なのではなく、本発明は、記載された実施形態を超えて種々の他の組み合わせにおいて実施することができることを認識するであろう。
【0012】
本発明の幾つかの実施形態は、難燃剤として用いることができる化学組成物を提供する。好ましい実施形態において、化学組成物は、目的物に耐火性を与えるためにその物質の表面に塗布される。上記組成物が塗布される物質は何ら限定されない。幾つかの実施形態において、組成物は、皮、家具、プラスチック、絶縁体、木、被服(特に子供の寝巻)、または他のいずれの物質にも塗布され得る。織物の可燃性により、それは特に適した物質とされる。組成物は、防火および/または消火のために他の用途において使用してもよいことも企図される。例えば、組成物を用いてまた、車の火災、家の火災および森林の火災等の火災を抑えることができると考えられる。
【0013】
本発明の幾つかの実施形態は、人に有害でなく、好ましくはハロゲンを含まない成分の混合物を含む組成物を提供する。好ましくは、本発明は、食品または人体に天然に存在する成分を含む。幾つかの実施形態において、個々の成分において見られる唯一の健康上の影響は、その製品が偶然にも眼と接触した場合の眼の不快感(irritating)である。好ましくは、眼の不快感は、塩(塩化ナトリウム)、天然のレモンおよび/またはフルーツジュースによる不快感より低い。幾つかの実施形態において、本発明は、環境に有害でない成分の混合物を含む組成物を提供する。好ましくは、本発明は、ベトベトせず、物質に塗布した場合でも不快な臭いを放出しない組成物を提供する。
【0014】
幾つかの実施形態において、組成物の成分として、リン含有物質、酸性物質、および保存料として作用する物質が挙げられる。幾つかの実施形態において、組成物はさらに、水性溶媒を含み、他の組成物成分は、水性溶媒に溶解している。水性溶媒は、水を含むものであればどのような種類の溶媒でもよい。例えば、水性溶媒は、水道水でもよく、または蒸留水でもよい。水性溶媒を含む実施形態について、溶媒は、好ましくは組成物の約55%と約95%との間を占める。より好ましくは、水性溶媒は約72%から88%の水で成り立ち、最も好ましくは、溶媒は組成物の約78%から約82%を占める。
【0015】
本発明の幾つかの実施形態において、リン含有物質は、リン酸アンモニウム(CAS no.10124−31−9)等のリン酸塩化合物であるが、リン酸カリウムまたはリン酸ナトリウム等の他の種類のリン酸塩も用いることができる。したがって、いずれの種類のリン酸塩化合物が用いてもよいことが企図される。本発明の好ましい実施形態としては、第二リン酸アンモニウム(CAS no.7783−28−0)が挙げられる。しかしながら、他の形態のリン酸アンモニウム、例えば、第一リン酸アンモニウム(CAS no.7722−76−1)、ポリリン酸アンモニウム、または、幾つかの他の種類のリン酸アンモニウム化合物等を用いてもよいことが企図される。第二リン酸アンモニウムは、その化学構造により、本発明の幾つかの実施形態に特に適した成分とされる。広範囲の濃度のリン酸アンモニウムが含まれ得るが、第二リン酸アンモニウムは、好ましくは、組成物中に水性溶媒も存在する場合、組成物の約2%から約30%を占める。より好ましくは、第二リン酸アンモニウムは、組成物の約9%から約23%を占め、最も好ましくは、組成物の約14%から18%を占める。これらの範囲は、用いられるリン含有物質の種類に応じて変わり得ることが企図される。
【0016】
本発明の幾つかの実施形態において、本発明の1つの成分は、酸性物質である。好ましくは、酸性物質は、リン酸アンモニウムの難燃性が増強されるように、本発明のpHレベルを調節するために含まれる。pHは、広範囲にわたって変化し得るが、組成物のpHは、好ましくは、約5から9のpH範囲内に維持され、より好ましくは、約6.5から7.5のpH範囲内に維持される。幾つかの実施形態において、pHは約7である。酸性物質は、任意の適切な種類のものであってもよい。例えば、酢酸(CAS no.64−19−7)を用いてpHレベルを調節することができ、または、より少量のより強い酸(すなわち、塩酸(CAS no.7647−01−0))もまた有効であり得る。幾つかの実施形態において、酸性物質は、カルボン酸塩である。好ましくは、クエン酸イオン源を提供するカルボン酸塩が用いられる。pHはまた、適当なリン酸塩の使用により、または、少量の強酸(例えばHCl)もしくは強塩基(例えばNaOH)の添加により調節することができる。
【0017】
クエン酸は特に適切な物質であり得る。というのも、それは比較的穏やかな酸であり、消費者層、政府の規制機関、または、本発明の成分について検討する動機を有する他の人々に対して好感を与えるからである。酸性物質の量は、用いられる酸性物質の種類により、広範囲にわたって変化し得る。好ましくは、クエン酸は、組成物中に水性溶媒も存在する場合、組成物の約0.25%から約4%を占める。より好ましくは、クエン酸は、組成物の約0.75%から約2%を占め、最も好ましくは、組成物の約0.9%から1.1%を占める。これらの範囲は、用いられる酸性物質の種類に応じて変化し得ることが企図される。
【0018】
本発明の幾つかの実施形態において、保存料を添加して、組成物の輸送および/または貯蔵の間の細菌またはかびの増殖を防止する。任意の適切な保存料を用いて、この目的に供することができる。好ましくは、保存料は、安息香酸イオン源を提供する。幾つかの実施形態において、安息香酸イオン源は、安息香酸であり、安息香酸ナトリウムが好ましい選択である。安息香酸ナトリウムが特に適切であり得る。というのも、それは天然に存在する保存料であり、消費者層、政府の規制機関、または、本発明の成分について検討する動機を有する他の人々に対して好感を与えるからである。代替的な実施形態において、ブロノポール(CAS no.52−51−7)を保存料として用いてもよい。
【0019】
好ましくは、保存料は、組成物中の細菌やかびの増殖を所望の期間防止するのに十分な量で添加される。安息香酸ナトリウムが用いられる実施形態において、その量は、広範囲わたって変化し得るが、好ましくは、安息香酸ナトリウムは、組成物中に水性溶媒も存在する場合は、組成物の約0.25%から約7%を占める。より好ましくは、安息香酸ナトリウムは、組成物の約0.75%から約4%を占め、最も好ましくは、組成物の約0.9%から2%を占める。これらの範囲は、用いられる保存料の種類に応じて変化し得ることが企図される。有利には、約0.9%と2%との間の範囲の安息香酸ナトリウムにより、室温で密閉された容器中の組成物について少なくとも1年間全ての細菌およびかびが排除される。
【0020】
幾つかの実施形態において、組成物は、液体または固体の形態をとる。好ましい実施形態において、液体形態の組成物は水性溶媒を含む。組成物はまた、固体形態または粒状形態を有していてもよい。好ましくは、組成物は、その使用時には液体形態である。しかしながら、水性溶媒は、この組成物が消費者により購入された後を含むいずれの段階においても組成物に添加してもよい。幾つかの実施形態において、第二リン酸アンモニウムとクエン酸と安息香酸ナトリウムとの互いに対する比は、組成物の形態に影響されない。好ましくは、これらの成分間の比は、クエン酸約1部に対して第二リン酸アンモニウムが約12.7から20部、安息香酸ナトリウムが約0.8から2.2部である。試験によると、組成物は、上記成分がこれらの比の範囲内で組み合わされた場合に特に有効であることが示されている。しかしながら、これらの成分を他の比で用いても、組成物は有効に火災を抑制し得る。
【0021】
成分を任意の適切な方法で組み合わせて組成物を作製することができる。水性溶媒を含む組成物について成分を組み合わせ得る1つの方法の例を以下に説明する。およそ50%の水性溶媒を適当な大きさのパン(pan)または他の容器に注ぎ込むことができる。迅速に攪拌しながら第二リン酸アンモニウムを添加することができ、第二リン酸アンモニウムが完全に溶解するまで約10〜15分間攪拌を続けることができる。次いで、クエン酸を添加し、約5分間迅速に攪拌し続けることができる。次いで、安息香酸ナトリウムを添加し、液体が透明になるまでさらに約5分間迅速に攪拌し続けることができる。次いで、水性溶媒の残りの50%を添加し、さらにおよそ5分間溶液を攪拌し続けることができる。理想的には、組成物は透明であり、その成分は、目に見えるいかなる微量の固体物質もなく完全に溶解する。これは、成分をいかに組み合わせ得るかについての単なる一例であり、用いることができる他の多数の混合方法が存在することは当業者にとって明らかであろう。
【0022】
少なくとも初めのうちは水性溶媒を含まない組成物について成分を組み合わせ得る1つの方法の例を以下に説明する。第二リン酸アンモニウムを従来からある任意の種類の粉末混合機に注ぎ込み、全ての塊が溶解(dissolve)するまで混合することができる。次いで、クエン酸を加え、全ての塊が溶解するまで粉末混合機で混合し、成分を互いに完全に混合することができる。次に、第二安息香酸ナトリウムを添加して、全ての塊が溶解するまで粉末混合機で混合し、全ての成分を互いに完全に混合することができる。この時点で、組成物をこの粒状形態または粉末形態で販売してもよく、または、貯蔵してもよい。任意の所望のときに、粒状混合物または粉末混合物を水性溶媒に溶解させることができる。粒状粉末混合物が溶解し、塊または目に見える微量の固体物質を含まなくなり、溶液が透明になるまで、その溶液を混合することができる。
【0023】
組成物は、様々な種類の条件で用いることができるが、幾つかの条件がその組成物を特に有効なものにし得る。例えば、乾燥した物質に対してこの組成物を摂氏10度またはそれを超える温度で塗布することが有効であると分かっている。しかしながら、代替の条件下で塗布しても組成物は有効である。1つの実施形態において、組成物は乾燥した物質上に噴霧して塗布してよく、または乾燥した物質を組成物中に浸して塗布してもよい。好ましくは、組成物を染み込ませた(saturate)後、物質を乾燥させる。これは単に、組成物をいかに用いることができるかについての一例を提供しているに過ぎず、本発明に対する限定として解釈されるべきでない。
【0024】
本発明を特定の好ましい実施形態および例の文脈で開示してきたが、本発明は、具体的に開示された実施形態を超えて、他の代替の実施形態および/または本発明の使用ならびに自明な修正およびその均等物にまで及ぶことが当業者によって理解されるであろう。したがって、本明細書に開示された本発明の範囲は、上記の具体的に開示された実施形態によって限定されるべきでないことが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸アンモニウムと、
クエン酸イオン源と、
安息香酸イオン源と
を混合物中に含む、難燃性を付与するための組成物。
【請求項2】
水性溶媒をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記クエン酸イオン源は、クエン酸である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記安息香酸イオン源は、安息香酸ナトリウムである請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
1部のクエン酸イオン源と、12.7から20部のリン酸アンモニウムと、0.8から2.2部の安息香酸イオン源とが存在する請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
固体である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
粒状である請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
液体である請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
約4から約6のpH値範囲を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記クエン酸イオン源は、前記pH値範囲内のpH値を達成する量で前記組成物に添加される請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
塩基性物質をさらに含み、前記塩基性物質は、前記pH値範囲内のpH値を達成する量で、前記組成物に添加される請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
組成物を物質に塗布する工程を含み、該組成物は請求項1に記載の組成物を含む、物質に難燃性を付与する方法。
【請求項13】
1部のクエン酸イオン源と、12.7から20部のリン酸アンモニウムと、0.8から2.2部の安息香酸イオン源とが存在する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が前記物質上に噴霧される請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記物質が前記組成物中に入れられる請求項12に記載の方法。
【請求項16】
リン酸アンモニウムと安息香酸ナトリウムとクエン酸とを前記水性溶媒中で溶解させる工程を含む、請求項2に記載の難燃性組成物を製造する方法。
【請求項17】
前記リン酸アンモニウムを前記水性溶媒に溶解させて溶液を形成し、次いで、クエン酸と安息香酸ナトリウムとを前記溶液に攪拌しながら入れる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
リン酸アンモニウムと、
クエン酸と、
安息香酸ナトリウムと
から本質的になる組成物。
【請求項19】
水性溶媒をさらに含む請求項18に記載の組成物。

【公表番号】特表2009−526897(P2009−526897A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555218(P2008−555218)
【出願日】平成18年3月21日(2006.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/010125
【国際公開番号】WO2007/094800
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(508242735)
【氏名又は名称原語表記】GRIEM, JOHN
【Fターム(参考)】