説明

難燃性合成繊維、難燃繊維複合体およびそれを用いた布張り家具製品

【課題】従来の難燃性合成繊維では解決が困難であった課題、すなわち、難燃性を確保しつつ加工性や風合い、触感が良好で意匠性のある家具、寝具等に用いられる安価な繊維製品を提供する。
【解決手段】アクリロニトリル単位30〜70重量%、ハロゲン含有ビニル単位および/またはハロゲン含有ビニリデン単位70〜30重量%、ならびにこれらと共重合可能なビニル系単量体単位0〜10重量%を含む重合体(1)100重量部に対し、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(塩化ビニル−塩化ビニリデン)、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリエステルおよび塩素化ポリプロピレンから選ばれる一種以上の物質(2)を3〜50重量部、亜鉛化合物を0.3〜12重量部含む難燃性合成繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼時に極めて高い炭化性、自己消火性を発現することで、寝具や家具等に用いられる高度な難燃性を必要とする繊維製品に好適に使用できる高度な難燃性を有する難燃性合成繊維、難燃繊維複合体およびそれを用いた布張り家具製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣食住の安全性確保の要求が強まり、防炎の観点より難燃素材の必要性が高まってきている。そのような中で、特に発生時に人的被害が大きい就寝中の火災を防止するため、寝具や家具等に使用される素材への難燃性付与の必要性が高まってきている。
【0003】
これら寝具や家具等の製品においては、使用時の快適さや意匠性のために綿やポリエステル、ウレタンフォームなどの易燃性素材がその内部や表面に用いられることが多い。それらの防炎性の確保には、適当な難燃素材をこれら製品中に使用することで、その易燃性素材への着炎を長時間にわたり防止する高度な難燃性を具備することが重要である。また、その難燃素材は、これら寝具や家具等の製品の快適さや意匠性を損なわないものでなければならない。
【0004】
この難燃素材に使用される繊維製品に対し、過去様々な難燃性合成繊維や防炎薬剤が検討されてきたが、この高度な難燃性と寝具や家具等の製品に求められる快適さや意匠性といった要件を充分に兼ね合わせたものは未だ現れていない。
【0005】
例えば綿布には、防炎薬剤を塗布する、いわゆる後加工防炎という手法があるが、防炎薬剤の付着の均一化、付着による布の硬化、洗濯による脱離、安全性などの問題があった。
【0006】
また、安価な素材であるポリエステル繊維は、燃焼時に溶融するため、単独で布帛にした際には穴が空き、構造を維持することができず、前述の寝具や家具等に用いられる綿やウレタンフォームへ着炎してしまい、性能としては全く不充分であった。
【0007】
また、三酸化アンチモンや五酸化アンチモン、酸化錫、酸化マグネシウムなどを紡糸原液に添加して高難燃モダクリル繊維を得る方法があるが、難燃性を付与することはできるが、炎や熱に対しての遮蔽性を充分満足するに至らない問題があった。
【0008】
さらに、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルオキサイド、ヘキサブロモシクロドデカン、トリブロモフェノール、エチレンビステトラブロモフタルイミドなどのハロゲン原子を含有する物質を難燃剤として使用し高難燃繊維を得る方法があるが、難燃性を付与することはできるが、これら難燃剤は価格が高く、また燃焼時の有毒物質発生やそれ自体の毒性などが危惧されているという問題があった。
【0009】
これらの家具、寝具に使用される難燃繊維素材の欠点を改良し、一般的な特性として要求される優れた風合、吸湿性、触感を有し、かつ、安定した難燃性を有する素材として、難燃剤を大量に添加した高度に難燃化した含ハロゲン繊維と、難燃化していない他の繊維とを組み合わせた難燃繊維複合体が提案されている(特許文献1)。また、耐熱性繊維を少量混ぜることで、作業服用途に使用可能であり、風合いや吸湿性に優れ、高度な難燃性を有する高度難燃繊維複合体が提案されているが、耐熱性繊維は一般に着色しているため布帛の白度が不充分であった(特許文献2)。さらに、本質的に難燃性である繊維と含ハロゲン繊維から嵩高さを有する難燃性不織布が提案されているが、これらの方法では複数の繊維を複合化して用いなければ高度な難燃性が得られず、製品の製造工程が複雑になり、また、耐熱性繊維や本質的に難燃性である繊維は一般的に高価でありコスト的に不利であるという問題点があった(特許文献3)。
【0010】
【特許文献1】特開昭61−89339号公報
【特許文献2】特開平8−218259号公報
【特許文献3】国際公開第03/023108号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来の難燃性合成繊維では解決が困難であった課題、すなわち、難燃性を確保しつつ加工性や風合い、触感が良好で意匠性のある家具、寝具等に用いられる安価な繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ハロゲン含有重合体にハロゲン含有物質と亜鉛化合物を併用、含有した繊維により、加工性、風合い、触感を保持したまま、炎遮蔽性や自己消火性を発現することが可能な難燃繊維複合体が得られることを見出した。
【0013】
詳しくは、特定のハロゲン含有重合体(1)100重量部に、特定の物質(2)と亜鉛化合物を併用添加して得られた難燃性合成繊維(A)により、加工性や風合い、触感が良好で意匠性を損なうことなく、燃焼時に極めて高い炎遮蔽性や自己消火性を発現することで、燃焼後の繊維形態を維持する高度な難燃性を兼ね備えた結果、高度な難燃性を要求される家具、寝具等に用いられる繊維製品を得ることが可能な難燃性合成繊維(A)、および該難燃性合成繊維(A)と天然繊維および/または化学繊維(B)を組合わせた難燃繊維複合体が得られることを見出した。また、耐熱繊維単独で使用するときの問題であった、加工性や価格の問題も改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、アクリロニトリル単位30〜70重量%、ハロゲン含有ビニル単位および/またはハロゲン含有ビニリデン単位70〜30重量%、ならびにこれらと共重合可能なビニル系単量体単位0〜10重量%を含む重合体(1)100重量部に対し、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(塩化ビニル−塩化ビニリデン)、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリエステルおよび塩素化ポリプロピレンから選ばれる一種以上の物質(2)を3〜50重量部、亜鉛化合物を0.3〜12重量部含む難燃性合成繊維に関する。
【0015】
物質(2)が、ポリ塩化ビニルおよび/または塩素化パラフィンであることが好ましい。
【0016】
前記ポリ塩化ビニルが、塩化ビニル単位80〜100重量%およびその他の共重合可能な単量体単位0〜20重量%を含むことが好ましい。
【0017】
前記塩素化パラフィンが、平均分子量300以上、塩素含有量40重量%以上であることが好ましい。
【0018】
前記亜鉛化合物が、亜鉛、酸化亜鉛、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛および炭酸亜鉛から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0019】
また本発明は、前記難燃性合成繊維(A)10重量%以上と、天然繊維および化学繊維のうち少なくとも1種の繊維(B)90重量%以下を含む難燃繊維複合体にも関する。
【0020】
前記繊維(B)として、ポリエステル系繊維を難燃繊維複合体に対し40重量%以下含有することが好ましい。
【0021】
前記ポリエステル系繊維が低融点バインダー繊維であることが好ましい。
【0022】
前記難燃繊維複合体が不織布であることが好ましい。
【0023】
前記不織布が炎遮蔽バリア用不織布であることが好ましい。
【0024】
さらに本発明は、前記難燃繊維複合体を用いた布張り家具製品にも関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の難燃性合成繊維およびそれを用いて得られる布張り家具製品は、繊維素材自体が有する風合い、触感、視感などの意匠性や、加工性に優れ、高度な難燃性を有することを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の難燃性合成繊維は、特定の重合体(1)100重量部に対し、特定の物質(2)を3〜50重量部、亜鉛化合物を0.3〜12重量部を含んでなるものである。
【0027】
重合体(1)における好ましいハロゲン含量の下限としては17重量%、より好ましくは20重量%、さらに好ましくは26重量%、上限としては86重量%、より好ましくは73重量%、さらに好ましくは48重量%である。前記ハロゲン含有量が17重量%未満の場合、繊維を難燃化することが困難になり、好ましくない。ハロゲン含有量の上限86重量%は、臭化ビニリデン単独重合体のハロゲン含有量に相当し、この値がハロゲン含有量の上限値となる。これ以上のハロゲン含有量を得るためにはさらにモノマー中のハロゲン原子を増やす必要があり、技術的に現実的ではなくなる。
【0028】
重合体(1)としては、アクリロニトリル単位30〜70重量%、ハロゲン含有ビニル単位70〜30重量%およびそれと共重合可能なビニル単位0〜10重量%であり、好ましくはアクリロニトリル単位40〜60重量%、ハロゲン含有ビニル単位60〜40重量%およびそれらと共重合可能なビニル単位0〜10重量%を含む重合体である。この場合には、得られる繊維が所望の性能(強度、難燃性、染色性など)を有しつつアクリル繊維の風合を有するものとなる。
【0029】
ハロゲン含有ビニル単位およびハロゲン含有ビニリデン単位の両者を含む場合は、これらの重量比としては、90:10〜10:90であることが好ましく、70:30〜30:70であることがより好ましい。両者の重量比をこの範囲とすることにより、得られる繊維が所望の性能(強度、難燃性、染色性、白度など)を有し、かつアクリル繊維としての風合いも有することができる。
【0030】
前記ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデンとしては、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン含有ビニル化合物、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニリデン化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。得られる繊維の難燃性、価格、入手性、取扱いの容易さなどから、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンが好ましい。
【0031】
前記これらと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえばアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸類とそのエステル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸類とそのエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、酢酸ビニル、蟻酸ビニル等のビニルアセテート類、ビニルスルホン酸とその塩、メタリルスルホン酸とその塩、スチレンスルホン酸とその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とその塩等のスルホン酸基含有単量体からなる単位などがあげられ、それらの1種または2種以上が用いられる。また、そのうち少なくとも1種がスルホン酸基含有単量体の場合には、染色性が向上するため好ましい。
【0032】
重合体(1)の具体例としては、例えば塩化ビニル単位50重量%、アクリロニトリル単位49重量%、スチレンスルホン酸ソーダ単位1重量%よりなる共重合体、塩化ビニリデン単位47重量%、アクリロニトリル単位51.5重量%、スチレンスルホン酸ソーダ単位1.5重量%よりなる共重合体、塩化ビニリデン単位41重量%、アクリロニトリル単位56重量%、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダ単位3重量%よりなる共重合体などが挙げられる。これは、既知の重合方法で得ることができる。
【0033】
物質(2)は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(塩化ビニル−塩化ビニリデン)、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリエステル、塩素化ポリプロピレンから選ばれる少なくとも一種である。なかでも、ポリ塩化ビニル、塩素化パラフィンの場合、原料の安全性や入手性、価格、所望の難燃性が得られやすいことから好ましい。
【0034】
本発明に用いるポリ塩化ビニルは、塩化ビニル単位80〜100重量%およびその他の共重合可能な単量体単位0〜20重量%からなることが好ましく、塩化ビニル単位90〜100重量%およびその他の共重合可能な単量体単位0〜10重量%からなることがより好ましい。具体的には塩化ビニルのホモポリマー、塩化ビニルと他の共重合可能な単量体、例えば酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸メチル等との共重合体が挙げられるが、好ましくは塩化ビニルのホモポリマーおよび塩化ビニル単量体と酢酸ビニルの共重合体である。これらは、既知の方法で製造される。例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、マイクロサスペンジョン法が挙げられるが、好ましくはマイクロサスペンジョン法で製造された樹脂であり、これによれば樹脂をさらに微粉砕する等の前処理なく使用できる。
【0035】
本発明に用いる塩素化パラフィンは、平均分子量300以上、塩素含有量40重量%以上であることが好ましく、平均分子量400以上、塩素含有量50重量%以上であることがより好ましく、平均分子量500以上、塩素含有量60重量%以上であることがさらに好ましい。平均分子量300未満、塩素含有量40重量%未満の場合、難燃性のキーポイントである充分な塩素量を得ることが難しく、また塩素化パラフィンの安全性の観点から好ましくない。前記塩素化パラフィンは、パラフィンワックスやノルマルパラフィンを原料とし塩素化して製造される。
【0036】
物質(2)は、重合体(1)に添加して用いられる。具体的な添加形態としては、物質(2)を直接添加する方法、物質(2)を、予め重合体(1)の溶液に投入し作製したマスターバッチ液を用いる方法、または物質(2)を溶媒もしくは可塑剤に溶解した溶液を繊維化時の重合体(1)の紡糸原液に投入し、混合する方法などが挙げられる。このうち、マスターバッチ液を添加する方法が、紡糸原液との混合状態が良好で繊維化が容易であり好ましい。
【0037】
物質(2)の添加量としては、重合体(1)100重量部に対し3〜50重量部、好ましくは5〜20重量部である。3重量部未満だと所望の難燃性を得ることが困難となり、50重量部を超えると繊維化時に単糸切れや繊維の基本的物性(強度、伸度等)が劣る傾向があり好ましくない。
【0038】
本発明に用いる亜鉛化合物は、亜鉛、酸化亜鉛、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛、炭酸亜鉛等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。またこれらを組み合わせて使用しても何ら支障はない。その使用量は、重合体(1)100重量部に対して0.3〜12重量部、好ましくは1〜8重量部、さらに好ましくは3〜5重量部である。0.3重量部未満であると、燃焼時に重合体(1)と物質(2)を炭化させる効果(炭化効果)が少なくなる傾向があり、所望とする高度な難燃性能を得る必要な炭化効果を得ることができない。12重量部を超えても充分な炭化効果、形態保持効果は得られるが、炭化膜の柔軟性が劣るため好ましくない。
【0039】
前記亜鉛化合物の平均粒子径としては、3μm以下であることが好ましく、2μm以下がより好ましい。亜鉛化合物の平均粒子径が3μm以下であると、ハロゲン含有重合体に亜鉛化合物成分を添加してなる繊維の製造工程上におけるノズル詰りなどのトラブル回避、繊維の強度向上、繊維中での亜鉛化合物成分粒子の分散などの点から好ましい。亜鉛化合物の平均粒子径における下限は、特に限定されないが、ハンドリング性の点から0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。さらに前記亜鉛化合物成分は、ブロッキング性改善のために粒子表面に化学的修飾を施しても支障ない。このような化学的修飾としては、たとえばオルガノポリシロキサン、アルミナなどが挙げられる。
【0040】
本発明の難燃性合成繊維には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤、着色剤、難燃剤といったその他添加剤を含有せしめても良い。例えば、難燃剤としては、ヘキサブロモベンゼン、ヘキサブロモシクロドデカンなどのハロゲン系化合物、トリス(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェートなどの含ハロゲンリン化合物、ポリリン酸アンモニウム、ジブチルアミノホスフェートなどのP系化合物、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどのMg系化合物、酸化第2スズ、メタスズ酸、オキシハロゲン化第二スズ、水酸化第一スズ、四塩化スズ、ZnSnO3、ZnSn(OH)6、錫酸マグネシウム、錫酸ジルコニウム、ヒドロキシ錫酸亜鉛などのSn系化合物、酸化モリブデンなどのMo系化合物、酸化チタン、チタン酸バリウムなどのTi系化合物、硫酸メラミン、スルファミン酸グアニジンなどのN系化合物、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム系化合物、酸化ジルコニウムなどのジルコニウム系化合物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムなどのアンチモン系化合物などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0041】
本発明の難燃性合成繊維は短繊維でも長繊維でもよく、使用方法において適宜選択することが可能であり、例えば他の天然繊維および化学繊維と複合させて加工するには複合させる繊維に近似なものが好ましく、繊維製品用途に使用される他の天然繊維および化学繊維に合わせて、1.7〜12dtex程度、カット長38〜128mm程度の短繊維が好ましい。
【0042】
本発明の難燃性合成繊維が高度に優れた難燃性を示す理由は、以下のように考えられる。重合体(1)に対し、物質(2)を3〜50重量部、亜鉛化合物を0.3〜12重量部含有する難燃性合成繊維(A)を他の火炎源により燃焼させると、重合体(1)から発生する塩酸ガスの消火効果により燃焼を抑制する。さらに加えて添加している物質(2)からも同様に塩酸ガスが発生し、燃焼を抑制する。重合体(1)と物質(2)とは、物質が異なるために塩酸ガスを発生する温度が異なる。この結果、幅広い温度領域で塩酸ガスを発生することが可能となり優れた消火能力を有する。また亜鉛化合物は燃焼時に発生する塩酸ガスと反応し、ハロゲン含有繊維の架橋、炭化を効率よく、かつ効果的に促進させることにより、燃焼により炭化した繊維の形態を保持する効果を向上させる。また物質(2)は熱可塑性樹脂であり、燃焼時、特に燃焼初期には、これら樹脂は軟化、溶融し、亜鉛化合物の炭化促進効果により炭化された繊維の形状を保持する接着剤、すなわち形態保持剤的な効果を発現し、さらに繊維表面を被覆することで繊維から発生する可燃性ガスの拡散を抑制する。これら燃焼時におけるハロゲン含有重合体と亜鉛化合物の併用効果により、高度に優れた難燃性を発現する。
【0043】
また本発明は、前記難燃性合成繊維(A)10重量%以上と、天然繊維および化学繊維のうち少なくとも1種の繊維(B)90重量%以下を含む難燃繊維複合体にも関する。
【0044】
本発明の難燃繊維複合体に用いる天然繊維および/または化学繊維(B)は、本発明の難燃性布帛に優れた風合、触感、意匠性、製品強力、耐洗濯性、耐久性を与えるための、また寝具や家具に難燃性不織布を用いる際の加工性を良好にする成分である。
【0045】
前記天然繊維の具体例としては、例えば綿、麻、などの植物性繊維や、羊毛、らくだ毛、山羊毛、絹などの動物性繊維などが挙げられる。また化学繊維の具体例としては、たとえばビスコースレーヨン繊維、キュプラ繊維、アセテート繊維などの再生繊維、再生繊維に水ガラスを含有せしめた特殊再生繊維(サテリ−オイ社製 Visil 登録商標)、あるいはナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエステル系低融点バインダー繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維などの合成繊維が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら天然繊維や化学繊維は単独で難燃性合成繊維(A)と用いてもよく、2種類以上で難燃性合成繊維(A)と用いてもよい。
【0046】
本発明において、前記繊維(B)にポリエステル系繊維を含有する場合には、燃焼時に溶融物が生じ、難燃性不織布を覆うことで難燃性不織布により形成される炭化層がより強固なものとなり、激しい炎に長時間晒されても寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ炎遮蔽バリア性能を付与することができること、不織布に加工した際の嵩高性が得やすいこと、開繊機(カード)において繊維(A)の強度の問題から繊維が破損することを緩和することから、前記繊維(B)としてポリエステル系繊維を含むが好ましい。この場合のポリエステル系繊維の含有量は、難燃繊維複合体に対し40重量%以下とすることが好ましく、15〜25重量%含むことがより好ましい。
【0047】
ポリエステル系低融点バインダー繊維を用いると、不織布とする際に簡便な熱溶融接着法が採用できる。ポリエステル系低融点バインダー繊維としては、低融点ポリエステル単一型繊維でもよくポリエステル/低融点ポリプロピレン、低融点ポリエチレン、低融点ポリエステルからなる並列型もしくは芯鞘型複合型繊維でも良い。一般的に低融点ポリエステルの融点は概ね110〜200℃、低融点ポリプロピレンの融点は概ね140〜160℃、低融点ポリエチレンの融点は概ね95〜130℃であり、概ね110〜200℃程度で融解接着能力を有するものであれば特に限定はない。また低融点でないポリエステル系繊維を使用した場合、不織布とする際簡便なニードルパンチ法が採用できる。
【0048】
本発明においては難燃性合成繊維(A)10重量%以上と天然繊維および/または化学繊維(B)90重量%以下とから、本発明の難燃性布帛が製造されるが、それらの混合割合は、得られる難燃性不織布から製造される最終製品に要求される難燃性とともに、吸水性、風合、吸湿性、触感、意匠性、製品強力、耐洗濯性、耐久性などの品質に応じて決定される。一般に、難燃性合成繊維(A)90〜10重量%、好ましくは60〜20重量%、天然繊維および/または化学繊維(B)10〜90重量%、好ましくは80〜40重量%になるように複合せしめられる。不織布製造の際に熱溶融接着法を選択する場合には、天然繊維および/または化学繊維(B)として、ポリエステル系低融点バインダー繊維を少なくとも難燃繊維複合体に対し10重量%含むことが好ましい。
【0049】
難燃性合成繊維(A)の量が10重量%未満の場合、激しい炎に長時間晒されたときに寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐための炭化層形成が不充分で所望とする高度な難燃性能を得ることが難しい。一方、難燃性合成繊維(A)の量が90重量%を超える場合、すなわち、ポリエステル系低融点バインダー繊維が10重量%未満となると、熱溶融接着性が不足し、得られた不織布の強度が低下し、加工性の低下をもたらす傾向がある。
【0050】
本発明の難燃繊維複合体は、前述のごとき繊維(A)、(B)が複合したものであり、織物編物、不織布などの布帛、スライバーやウェブなどの繊維の集合体、紡績糸や合糸・撚糸などの糸状物、編み紐、組み紐などのヒモ状物のごとき形態のものである。
【0051】
前記複合したとは、繊維(A)、(B)をさまざまな方法で混ぜ合わせて所定の比率で含有する布帛などを得ることをいい、混綿、紡績、撚糸、織り、編みの段階でそれぞれの繊維や糸を組み合わせることを意味する。
【0052】
本発明の難燃繊維複合体は炎遮蔽バリア用不織布として好適に用いられる。ここでいう炎遮蔽バリアとは、難燃性不織布が炎に晒された際に難燃性不織布が繊維の形態を維持したまま炭化することで炎を遮蔽し、反対側に炎が移るのを防ぐことであり、具体的にはマットレスや布張り家具等の表面生地と内部構造体であるウレタンフォームや詰め綿等との間に本発明の難燃性不織布をはさむことで、火災の際に内部構造物への炎の着火を防ぎ、被害を最小限に食い止めることができるものである。難燃性不織布の製造方法としては一般的な熱溶融接着法、ケミカルボンド法、ウォータージェット法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法等の不織布作製方法が用いることが可能であり、複数の種類の繊維を混綿した後にカードにより開繊、ウェブ作製を行い、このウェブを不織布製造装置にかけることにより作製される。装置の簡便さからはニードルパンチ方式、ポリエステル系低融点バインダー繊維を用いれば熱溶融接着方式による製造が一般的で生産性が高いため好ましいがこれらに限定されるものではない。
【0053】
本発明の難燃繊維複合体には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤などを含有せしめてもよいし、染料や顔料などによる着色や染色を行っても何ら支障ない。
【0054】
このようにして得られる本発明の難燃繊維複合体は、所望の難燃性を有し、風合い、触感、吸湿性、意匠性などに優れた特性を有する。
【0055】
本発明の布張り家具は、前述の難燃繊維複合体によって布張りされた、ベッドマットレス等の寝具、椅子、ソファー、車両用座席等に関する。
【0056】
ベッドマットレスとしては、例えば、金属製のコイルが内部に用いられたポケットコイルマットレス、ボックスコイルマットレス、あるいはスチレンやウレタン樹脂などを発泡させたインシュレーターが内部に使用されたマットレス等がある。本発明に使用される難燃複合体による防炎性が発揮されることにより、前記マットレス内部の構造体への延焼が防止できるため、何れの構造のマットレスにおいても、難燃性と同時に優れた風合いや触感に優れたマットレスを得ることができる。
【0057】
一方、椅子としては、屋内にて使用される、ストゥール、ベンチ、サイドチェア、アームチェア、ラウンジチェア・ソファー、シートユニット(セクショナルチェア、セパレートチェア)、ロッキングチェア、フォールディングチェア、スタッキングチェア、スィーブルチェア、あるいは屋外で車両用座席等に使用される、自動車シート、船舶用座席、航空機用座席、列車用座席などが挙げられるが、これらにおいても通常の家具として要求される外観や触感と同時に内部の延焼を防止する機能を有する布張り製品を得ることができる。
【0058】
また、テンピュール素材(テンピュールワールド社製、Tempur World,Inc.登録商標)に代表される圧力分散機能を有する低反発ウレタンフォームを使用したマットレスや椅子においては通常のスチレンやウレタン樹脂を発泡させたフォーム材料を用いたマットレスや椅子に比べて極めて易燃性であるが、本発明に使用される難燃繊維複合体による防炎性が発揮されることにより、マットレスや椅子の内部構造体である低反発ウレタンフォームへの延焼が防止できる。
【0059】
布張り家具製品に対する本発明の難燃繊維複合体の用い方としては、表面の布地に織布やニットの形態で用いてもよいし、表面の布地と内部構造物、例えばウレタンフォームや詰め綿の間に織布やニット、不織布の形態で挟み込んでも良い。表面の布地に用いる場合には従来の表面の布地に替えて本発明の難燃繊維複合体よりなる布地を用いればよい。また、表面生地と内部構造物の間に織布やニットを挟む場合には、表面生地を2枚重ねる要領で挟み込んでも良いし、内部構造物を本発明の難燃繊維複合体よりなる織布やニットで覆っても良い。表面生地と内部構造物の間に炎遮蔽バリア用布織布として挟む場合には、内部構造物全体に、少なくとも表面の布地と接する部分については必ず内部構造物の外側に本発明の難燃繊維複合体よりなる不織布をかぶせ、その上から表面の布地を張ることになる。
【0060】
本発明の難燃繊維複合体を用いて布張り家具を製造すると、本発明の難燃繊維複合体が有する優れた特性、すなわち高度に優れた難燃性を有し、風合い、触感、吸湿性、意匠性などにも優れた特性を有する布張り家具製品が得られる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
製造例1
重合体(1)として、アクリロニトリル単位51%、塩化ビニリデン単位48%、p−スチレンスルホン酸ソーダ単位1%よりなる重合体(ハロゲン含有率35重量%)100部を、樹脂濃度が30%になるようアセトンに溶解させ、この溶液に物質(2)として、表1に示す所定量のポリ塩化ビニル樹脂(株式会社カネカ製 塩化ビニルペースト樹脂PSH−10)、または塩素化パラフィン(味の素ファインテクノ株式会社製 エンパラ70(平均分子量1156、塩素含有率70%))、さらに亜鉛化合物として表1に示す所定量の酸化亜鉛(堺化学株式会社製 酸化亜鉛3種)を添加し、紡糸原液とした。
【0063】
紡糸原液をノズル孔径0.10mmおよび孔数1000ホールのノズルを用い、25℃の30%アセトン水溶液中へ押し出し、水洗したのち140℃で乾燥し、ついで2.5倍に延伸してから、さらに150℃で3分間熱処理を行い、切断することでハロゲン含有繊維を得た。得られた繊維は、繊度7.8dtex、カット長64mmの短繊維であった。
【0064】
製造例2
重合体(1)として、アクリロニトリル単位49重量%、塩化ビニル単位25重量%、塩化ビニリデン単位25重量%、p−スチレンスルホン酸ソーダ単位1重量%よりなる重合体(ハロゲン含有量33重量%)100部を、樹脂濃度が30重量%になるようアセトンに溶解させ、この溶液に物質(2)として、表1に示す所定量の塩素化パラフィン(味の素ファインテクノ株式会社製 エンパラ70(平均分子量1156、塩素含有率70重量%))、さらに亜鉛化合物として表1に示す所定量の酸化亜鉛(堺化学(株)製 酸化亜鉛3種)を添加し、紡糸原液とした。以下、製造例1と同様な方法にて、繊度7.8dtex、カット長64mmのハロゲン含有繊維を得た。
【0065】
実施例1〜6および比較例1
実施例1〜6および比較例1における難燃性合成繊維の難燃性は、繊維単独を用いて下記のようにして評価した。
【0066】
<難燃性評価法1(LOI値による難燃性評価)>
上記の製造例に従って作製した難燃性合成繊維を2g取り、これを8等分して約6cmのコヨリを8本作製し酸素指数測定器(スガ試験機製ON−1型)のホルダーに直立させ、この試料が5cm燃え続けるのに必要な最小酸素濃度を測定し、これをLOI値とした。LOI値が大きいほど燃えにくく、難燃性が高いことを示す。
【0067】
前記製造例1および2にしたがい、物質(2)として塩化ビニル樹脂または塩素化パラフィン、亜鉛化合物として酸化亜鉛を表1の割合で添加した難燃性合成繊維(A)を作製し、LOI値による難燃性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1より実施例1〜6は、LOI値による難燃性評価においても数値が高く優れていることがわかる。これに対して、比較例1は物質(2)と亜鉛化合物を含まないためLOI値が低く劣ったものとなった。
【0070】
実施例7〜20および比較例2〜5
実施例における難燃繊維複合体の難燃性は、下記難燃性評価法2にて評価した。
【0071】
難燃性評価法2は、ベッドマットレス、椅子、ソファー等の布張り家具等の表面生地と内部構造体であるウレタンフォームや詰め綿等との間に本発明の難燃性不織布をはさむことで、火災の際に内部構造物への炎の着火を防ぐことをイメージした簡易評価方法である。評価結果の合否判定は以下のように実施した。
【0072】
難燃性と加工性の評価結果をもとに総合評価を行い、難燃性と加工性の両方で◎または○の場合は総合評価を合格○とし、難燃性と加工性のどちらかで×の判定がある場合は総合評価を不合格×とした。
【0073】
<難燃性評価法2>
1)難燃性評価試験用不織布の作製
所定の割合で混合した繊維をカードにより開繊した後、ニードルパンチ法により、目付け300g/m2、縦20cm×横20cmの不織布を作製し、難燃性評価試験用不織布とした。
【0074】
2)難燃性評価試験方法
縦200mm×横200mm×厚さ10mmのパーライト板の中心に直径15cmの穴をあけたものを準備し、その上に難燃性評価試験用不織布をセットし、加熱時に難燃性評価試験用不織布が収縮しないよう4辺をクリップで固定した。この試料を難燃性評価試験用不織布の面を上にして、株式会社パロマ工業製ガスコンロ(PA−10H−2)にバーナー面より40mmの所に試料の中心とバーナーの中心が合うようにセットした。燃料ガスは純度99%以上のプロパンを用い、炎の高さは25mmとし、着炎時間は180秒とし、以下の評価基準により物性を評価した。なお、◎または○が合格である。
◎:難燃性評価試験用不織布の炭化膜の厚み斑がなく全く穴やひびもない
○:炭化膜の厚み斑はあるが穴やひびがない
×:穴やひびがある
【0075】
3)加工性評価
該不織布作製時のカード通過性(加工の容易性)について、以下の評価基準により物性を評価した。なお、◎または○が合格である。
◎:良好な場合
○:可能な場合
×:落綿等が発生し困難な場合
【0076】
前記製造例1および2にしたがって作製した物質(2)として塩化ビニル樹脂または塩素化パラフィン、亜鉛化合物として酸化亜鉛を表2の割合で添加した難燃性合成繊維(A)と、天然繊維および/または化学繊維のうち少なくとも1種の繊維(B)としてレーヨン繊維(1.7dtex、カット長38mm)、ポリエステル繊維(4.4dtex、カット長51mm)を所定の割合で混合した不織布を用いて、難燃性評価方法2の難燃性評価試験用不織布を作製し難燃性評価を実施した。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
実施例7〜18の燃焼試験結果は良好であり、難燃性評価試験用不織布はガスコンロによる加熱後も亀裂や穴空きがなく、良好な炭化膜を形成した。また加工性も良好であった。これに対して比較例2〜4は、加工性は良好であるものの、酸化亜鉛の添加量が多いため炭化膜の柔軟性が失われて割れが生じた。比較例5は物質(2)の添加量が多いため、繊維の基本的物性が劣り炭化膜の強度を得ることができなかった。実施例19では、ハロゲン含有繊維の割合が100%であるために難燃性は良好であるが、天然繊維および/または化学繊維(B)を含まないために、不織布作製時にカードでの脱落などの加工性の問題が見られた。実施例20では、ハロゲン含有繊維の割合が少なく良好な炭化膜が形成されなかった。
【0079】
実施例21〜32
実施例21〜32における布張り家具製品に関しては難燃性評価法3および難燃性評価法4にて評価した。これらは、ベッドマットレス、椅子、ソファー等の布張り家具等の表面生地と内部構造体であるウレタンフォームや詰め綿等との間に本発明の難燃性不織布をはさむことで、火災の際に内部構造物への炎の着火を防ぐことをイメージした簡易評価方法である。評価結果の合否判定は以下のように実施した。
【0080】
難燃性評価法3にて◎または○、難燃性評価法4にて○または△の判定となっているものを総合評価で合格○とし、どちらか一方でも×の判定がある場合は総合判定で不合格×とした。詳細な判定方法については以下に記す。
【0081】
<難燃性評価法3>
1)簡易TB603難燃性評価試験用試料の作製および評価方法
難燃性マットレスの難燃性は簡易マットレスを以下の方法で試料を作製して評価を実施した。簡易マットレスの断面構造を図1に示す。縦30cm×横45cm×厚さ1.9cm、密度22kg/m3のポリウレタンフォーム(1)(東洋ゴム工業(株)製タイプ360S)を2枚、難燃性評価試験用不織布として所定の割合で混合した繊維をカードにより開繊した後、熱融着法にて目付け300g/cm2、縦30cm×横45cmに作製した不織布(2)を1枚、外層の表面生地(3)としてポリエステル製織布(目付け120g/cm2)を1枚、図2のように重ねた構造物をナイロン糸(4)を用いキルティングした。キルティング間隔は20cmとした。この構造物をヘムの間隔が9cmとなるようにカタン糸で縫製し、コの字構造の炎遮蔽物を作製した。炎遮蔽物は45cmの長さに切断し、ウレタンフォームに巻きつけ、難燃性評価用簡易マットレスを作製した。
【0082】
この難燃性評価試験試料を米国カリフォルニア州のベッドの燃焼試験方法Technical Bulletin 603のうち、ベッド上面試験方法に準じて難燃性評価を実施した。すなわち試料の上面から39mmの所に水平にT字型のバーナーをセットし、プロパンガスを燃焼ガスとして、ガス圧力101KPa、ガス流量12.9L/分の条件にて、70秒間接炎し、以下の評価基準により物性を評価した。なお、◎または○が合格である。
◎:不織布の炭化膜に厚み斑がなく全く穴やひびもない
○:炭化膜に厚み斑はあるが穴やひびがない
×:穴やひびがあり下部のウレタンフォームに着炎した
【0083】
<難燃性評価法4>
1)簡易16CFR part1632難燃性評価試験用試料の作製および評価方法
簡易マットレスを以下の方法で試料を作製して評価を実施した。簡易マットレスの構造を図2および図3に示す。所定の割合で混合した繊維をカードにより開繊した後、熱融着法により目付け400g/m2、縦30cm×横30cmの不織布を作製した。これを縦30cm×横30cm×厚み5cmのウレタン(5)、(6)(アキレス社 密度18kg/m3)の上に置き、さらに表面生地(8)としてコットン製織布(目付120g/cm2)で該不織布(7)、ウレタン(5)、(6)全面を包んだ後、工業用キルトミシン(株式会社ジューキ製)で表側対角線をキルトし、擬似マットレスとした。この擬似マットレスのキルト部分(9)に、着火したタバコ4本を置き、試験を開始した。試験終了後の擬似マットレスの燃焼状況を米国連邦法16CFR part1632に準じ、以下の評価基準により物性を評価した。なお、○または△を合格とした。
○:表面炭化範囲がタバコから2インチ以内でかつ裏面に炭化部分が露出していない
△:表面炭化範囲がタバコから2インチ以内で裏面に炭化部分が露出している
×:表面炭化範囲がタバコから2インチを超える
【0084】
前記製造例に従い作製した物質(2)として塩化ビニル樹脂、または塩素化パラフィンと亜鉛化合物として酸化亜鉛を表3の割合で添加した難燃性合成繊維(A)と、天然繊維および/または化学繊維のうち少なくとも1種の繊維(B)としてレーヨン繊維(1.7dtex、カット長38mm)、ポリエステル繊維(4.4dtex、カット長51mm)を所定の割合で混合した不織布を用いて、難燃性評価方法3および難燃性評価法4の難燃性評価試験用不織布を作製し、簡易評価試料を作製して、それぞれの難燃性評価法により難燃性評価を実施した。結果を表3に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
表3より実施例21〜28の難燃試験結果は良好であり、良好な炭化膜を形成し、ウレタンフォームへの着炎は見られなかった。これに対して実施例29〜30では、酸化亜鉛が多量に添加されているために炭化膜の柔軟性が失われて割れが生じ、簡易TB603難燃性評価試験ではウレタンフォームへの着炎があり不合格となったが、簡易16CFR part1632難燃性評価試験に優れた効果を発揮する物質(2)を含有しているので合格となるが総合評価では不合格となった。実施例31では、ハロゲン含有繊維の割合が100%であるために簡易16CFR part1632難燃性評価試験はハロゲン含有繊維の効果により合格となったが、簡易TB603難燃性評価試験では炭化膜の形態をより向上させるための天然繊維および/または化学繊維(B)を含まないために、バーナー炎のガス圧で炭化膜の割れが生じてウレタンフォームへの着炎により不合格となる上に、不織布作製時にカードでの脱落などの加工性の問題もあることから総合評価でも不合格となった。実施例32では、簡易16CFR part1632難燃性評価試験に優れた効果を発揮する物質(2)を含むため合格するが、その添加量が多いため繊維の基本的物性が劣り炭化膜の強度を得ることが困難なため、簡易TB603難燃性評価試験ではバーナー炎のガス圧で炭化膜の割れが生じてウレタンフォームへの着炎により不合格となり、総合評価も不合格となった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】簡易TB603難燃性評価用簡易マットレスの構造(断面図)である。
【図2】簡易16CFR part1632難燃性評価用簡易マットレスの構造(全体図)である。
【図3】簡易16CFR part1632難燃性評価用簡易マットレスの構造(断面図)である。
【符号の説明】
【0088】
1 ポリウレタンフォーム
2 不織布
3 表面生地
4 ナイロン糸
5、6 ウレタン
7 不織布
8 表面生地
9 キルト部分
10 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル単位30〜70重量%、ハロゲン含有ビニル単位および/またはハロゲン含有ビニリデン単位70〜30重量%、ならびにこれらと共重合可能なビニル系単量体単位0〜10重量%を含む重合体(1)100重量部に対し、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(塩化ビニル−塩化ビニリデン)、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリエステルおよび塩素化ポリプロピレンから選ばれる一種以上の物質(2)を3〜50重量部、亜鉛化合物を0.3〜12重量部含む難燃性合成繊維。
【請求項2】
物質(2)が、ポリ塩化ビニルおよび/または塩素化パラフィンである請求項1記載の難燃性合成繊維。
【請求項3】
前記ポリ塩化ビニルが、塩化ビニル単位80〜100重量%およびその他の共重合可能な単量体単位0〜20重量%を含む請求項2記載の難燃性合成繊維。
【請求項4】
前記塩素化パラフィンが、平均分子量300以上、塩素含有量40重量%以上である請求項2記載の難燃性合成繊維。
【請求項5】
前記亜鉛化合物が、亜鉛、酸化亜鉛、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛および炭酸亜鉛から選ばれる1種以上である請求項1、2、3または4記載の難燃性合成繊維。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の難燃性合成繊維(A)10重量%以上と、天然繊維および化学繊維のうち少なくとも1種の繊維(B)90重量%以下を含む難燃繊維複合体。
【請求項7】
前記繊維(B)として、ポリエステル系繊維を難燃繊維複合体に対し40重量%以下含有する請求項6記載の難燃繊維複合体。
【請求項8】
前記ポリエステル系繊維が低融点バインダー繊維である請求項7記載の難燃繊維複合体。
【請求項9】
前記難燃繊維複合体が不織布である請求項6、7または8記載の難燃繊維複合体。
【請求項10】
前記不織布が炎遮蔽バリア用不織布である請求項9記載の難燃繊維複合体。
【請求項11】
請求項6、7、8、9または10記載の難燃繊維複合体を用いた布張り家具製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−270411(P2007−270411A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100473(P2006−100473)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】