説明

難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物

【課題】非ハロゲン系であり、かつ、高度な燃焼性、導電性を有し、成形体が高温環境下に曝されても難燃剤のブリードアウトが抑制され、初期特性を維持できる成形体が得られる難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、下記一般式(1):


で示される有機リン系難燃剤(B)(ただし、n=2〜20である)10〜80重量部、導電性炭素化合物(C)0.1〜20重量部を含有する難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭素、塩素系難燃剤およびアンチモン化合物を含有せず、耐ブリードアウト性、難燃性、導電性に優れた、難燃性導電性熱可塑性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、その優れた特性から、電気および電子部品、自動車部品などに広く使用されている。近年、特に家電、電気およびOA関連部品では、火災に対する安全性を確保するため、高度な難燃性が要求される例が多く、このため、種々の難燃剤の配合が検討されている。
【0003】
熱可塑性樹脂に難燃性を付与する場合、一般的に、難燃剤としてハロゲン系難燃剤を使用し、必要に応じて三酸化アンチモン等の難燃助剤を併用することにより、高度な難燃効果と優れた機械的強度、耐熱性等を有する樹脂組成物が得られていた。しかしながら、今般、海外向け製品を中心として、ハロゲン系難燃剤に対する規制が発令されつつあり、難燃剤の非ハロゲン化が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、本発明と同じ構造を有する有機リン系難燃剤および熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物に関する技術が開示されており、ポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた3.2mm厚の圧縮成形品において、UL94基準にてV−1ないしV−0の難燃性が実現できることが記載されている。
【0005】
しかしながら、近年、特に家電、電気およびOA関連部品では、難燃性と導電性を要求されるとともに、製品に対する長期信頼性を重要視されている。特に高温環境下で長時間使用を余儀なくされる場合、熱によって、製品から難燃剤がブリードアウトしてしまう。それによって、初期の燃焼性が変化して低下してしまい、また導電性も低下して損なわれることが問題となっており、改善が強く望まれている。これらの要求に対して、従来技術では解決することができておらず、現状では満足するものは得られていない。
【0006】
【特許文献1】特開昭53−128195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のような現状を鑑み、高温環境下で長時間使用されても、優れた難燃性と導電性を保持できる、難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂(A)に対し、特定構造を有する有機リン系難燃剤(B)および導電性炭素化合物(C)を特定割合で含有することにより、優れた難燃性、導電性を有し、難燃剤のブリードアウト抑制によって、加熱後も初期特性の維持できる、難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、下記一般式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
で表される有機リン系難燃剤(B)10〜80重量部および導電性炭素化合物(C)0.1〜20重量部を含有する難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0012】
前記熱可塑性樹脂組成物が下記(a)および(b)の条件を満たすことが好ましい。
(a)厚み3.2mm、長さ127mm、幅12.7mmの成形品において、初期燃焼性がUL94基準にてV−0ないしV−2であり、かつ190℃、500時間の熱処理後の燃焼性が前記初期燃焼性と同じである。
(b)表面固有抵抗値の初期値(Ri)に対する190℃100時間後の値(R100)の比(R100/Ri)が100以下である。
【0013】
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂から選択される一種以上であることが好ましい。
【0014】
また本発明は、前記いずれかに記載の難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物を含む樹脂成形体に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物は、難燃剤のブリードアウト抑制を改善し、成形体が高温に曝されても、優れた燃焼性、導電性を維持できることを特徴とし、家電、電気、OA部品等の成形材料として好適に使用でき、工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、前記一般式(1)で表される有機リン系難燃剤(B)10〜80重量部および導電性炭素化合物(C)0.1〜20重量部を含有する難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0017】
本発明で使用される熱可塑性樹脂(A)としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂があげられる。
【0018】
ポリエステル樹脂とは、酸成分としてテレフタル酸などの2価の酸またはエステル形成能を持つそれらの誘導体を用い、グリコール成分として炭素数2〜10のグリコール、その他の2価のアルコールまたはエステル形成能を有するそれらの誘導体などを用いて得られる飽和ポリエステル樹脂をいう。これらの中でも、加工性、機械的特性、電気的性質、耐熱性などのバランスに優れるという点で、ポリアルキレンテレフタレート樹脂が好ましい。ポリアルキレンテレフタレート樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリヘキサメチレンテレフタレート樹脂があげられ、この中でも、耐熱性および耐薬品性が優れるという点で、特に、ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0019】
本発明において熱可塑性樹脂(A)として使用するポリエステル樹脂には、必要に応じ、ポリエステル樹脂を100重量部とした場合、好ましくは、20重量部以下、特に好ましくは10重量部以下の割合で、他の成分を共重合することができる。共重合成分としては、公知の酸成分、アルコールおよび/またはフェノール成分、あるいは、エステル形成能を持つこれらの誘導体が使用できる。
【0020】
共重合可能な酸成分としては、例えば、2価以上の炭素数8〜22の芳香族カルボン酸、2価以上の炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸、さらには、2価以上の炭素数8〜15の脂環式カルボン酸、およびエステル形成能を有するこれらの誘導体が挙げられる。共重合可能な酸成分の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボジフェニル)メタンアントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、およびエステル形成能を有するこれらの誘導体が挙げられる。これらは、単独または2種以上を併用して用いられる。これらの中でも、得られた樹脂の物性、取り扱い性および反応の容易さに優れるという理由から、テレフタル酸、イソフタル酸およびナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0021】
共重合可能なアルコールおよび/またはフェノール成分としては、例えば、2価以上の炭素数2〜15の脂肪族アルコール、2価以上の炭素数6〜20の脂環式アルコール、炭素数6〜40の2価以上の芳香族アルコール、フェノール、およびエステル形成能を有するこれらの誘導体が挙げられる。
【0022】
共重合可能なアルコールおよび/またはフェノール成分の具体例としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、デカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、ハイドロキノン、グリセリン、ペンタエリスリトール、などの化合物、およびエステル形成能を有するこれらの誘導体、ε−カプロラクトン等の環状エステルが挙げられる。これらの中でも、得られた樹脂の物性、取り扱い性、反応の容易さに優れるという理由から、エチレングリコールおよびブタンジオールが好ましい。
【0023】
さらに、ポリアルキレングリコール単位を一部共重合させてもよい。ポリアルキレングリコールの具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、および、これらのランダムまたはブロック共重合体、ビスフェノール化合物のアルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびこれらのランダムまたはブロック共重合体等)付加物等の変性ポリアルキレングリコール等が挙げられる。これらの中では、共重合時の熱安定性が良好で、かつ、本発明の樹脂組成物から得られる成形品の耐熱性があまり低下しにくい等の理由から、分子量500〜2000のビスフェノールAのポリエチレングリコール付加物が好ましい。これらポリエステル樹脂は、単独で使用してもよく、または、2種以上併用してもよい。
【0024】
本発明における熱可塑性ポリエステル樹脂の製造方法は、公知の重合方法、例えば、溶融重縮合、固相重縮合、溶液重合等によって得ることができる。また、重合時に樹脂の色調を改良するために、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、リン酸メチルジエチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル等の化合物を、1種または2種以上添加してもよい。
【0025】
さらに、得られた熱可塑性ポリエステル樹脂の結晶化度を高めるために、重合時に通常よく知られた有機または無機の各種結晶核剤を、単独で添加してもよく、または、2種以上併用してもよい。
【0026】
本発明で使用される熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度(フェノール/テトラクロロエタンが重量比で1/1の混合溶液中、25℃で測定)は、0.4〜1.2dl/gが好ましく、0.6〜1.0dl/gがより好ましい。熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度が0.4dl/g未満では、機械的強度や耐衝撃性が低下する傾向があり、1.2dl/gを超えると成形時の流動性が低下する傾向がある。
【0027】
本発明において熱可塑性樹脂(A)として使用されるポリアミド樹脂とは、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を含み加熱溶融できる重合体である。具体例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMHT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ナイロン6T/6I)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))、およびこれらの共重合ポリアミド、混合ポリアミドなどがある。中でも、好ましくはナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロンMXD6、ナイロン11、ナイロン12およびこれらの共重合ポリアミド、混合ポリアミドであり、特に、強度、弾性率、コスト等の点から、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロンMXD6が好ましく用いられる。なお芳香族ポリアミド樹脂類であってもよい。これらポリアミド樹脂の分子量は特に制限はないが、通常、25℃の濃硫酸中で測定した相対粘度が0.5〜5.0の範囲のものが好ましく用いられる。相対粘度が0.5未満であると機械的強度が低下する傾向があり、5.0を超えると成形時の流動性が低下する傾向がある。
【0028】
上記のポリアミド樹脂は単独で、または組成あるいは成分の異なるものおよび/または相対粘度の異なるものを2種以上組み合わせて使用し得る。
【0029】
本発明で熱可塑性樹脂(A)として用いられるポリカーボネート樹脂は、特に限定されるものではなく、脂肪族、脂環族、芳香族ポリカーボネートのいずれも含むものであるが、中では芳香族ポリカーボネートが好ましい。芳香族ポリカーボネートは、多価フェノール類を含むことのある1種以上のビスフェノール類と、ビスアルキルカーボネート、ビスアリールカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類との反応により製造される。ビスフェノール類としては、具体的にはビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−sec−ブチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、フェノールフタレイン等が挙げられる。この中で最も代表的なものは、ビスフェノールAである。
【0030】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂の製造方法に制限はないが、ビスフェノール類のアルカリ金属塩と求核攻撃に活性な炭酸エステル誘導体とを原科とし、生成ポリマーを溶解する有機溶剤とアルカリ水との界面にて重縮合反応させる界面重合法、ビスフェノール類と求核攻撃に活性な炭酸エステル誘導体とを原料とし、ピリジン等の有機塩基中で重縮合反応させるピリジン法、ビスフェノール類とビスアルキルカーボネートやビスアリールカーボネート等の炭酸エステルとを原料とし、エステル交換反応によってポリカーボネートを生成させるエステル交換法が一般に知られている。ここで界面重合法とピリジン法で用いられる求核攻撃に活性な炭酸エステル誘導体としては、ホスゲン、カルボジイミダゾール等が挙げられ、中でもホスゲンが入手容易性から量も一般的である。エステル交換法に用いられる炭酸エステルの具体例については、ビスアルキルカーボネートとしてジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネート等が、ビスアリールカーボネートとしてジフェニルカーボネート、ビス(2,4−ジクロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)カーボネート、ビス(2−ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2−シアノフェニル)カーボネート、ビス(4−メチルフェニル)カーボネート、ビス(3−メチルフェニル)カーボネート、ジナフチルカーボネート等が挙げられる。この中で、原料入手容易性、反応容易性から、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートが最も好ましく用いられる。
【0031】
本発明で用いられるポリカーボネート樹脂の分子量には特に制限はないが、例えば、テトラヒドロフラン(THF)溶媒によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)において、40℃で測定した重量平均分子量Mwが、単分子量分散ポリスチレン換算で、15,000〜80,000、好ましくは30,000〜70,000である。Mwが15,000未満であると得られる組成物の成形品の機械的特性や耐衝撃性が低くなる傾向があり、また80,000より大きい場合は成形時の流動性等の加工性に問題が生じる傾向がある。
【0032】
本発明において熱可塑性樹脂(A)として用いられるポリフェニレンエーテル樹脂とは、下記一般式(2):
【0033】
【化2】

【0034】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ水素、ハロゲン原子、官能基で置換されていてもよいアルキル基、官能基で置換されていて良いアラルキル基、官能基で置換されていても良いアリール基、官能基で置換されていてもよいアルコキシ基である)で表される繰り返し単位からなる単独重合体または共重合体が挙げられる。ここで、官能基としてはカルボキシル基、水酸基、アミノ基などが挙げられる。
【0035】
ポリフェニレンエーテル単独重合体の具体例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられる。
【0036】
上記のポリフェニレンエーテル樹脂は単独で、または組成あるいは成分の異なるものおよび/または分子量の異なるものを2種以上組み合わせて使用し得る。
【0037】
本発明において熱可塑性樹脂(A)として用いられるポリオレフィン樹脂とは、特に限定されず、α−オレフィンの単独重合体またはこれらα−オレフィンの共重合体あるいは、これらα−オレフィンを主成分とし、必要により他の不飽和単量体を副成分とする共重合体などである。ここで共重合体とはブロック、ランダム、グラフトあるいはこれらの組み合わせ等のいかなる共重合のタイプでも良い。
【0038】
上記α−オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチル−ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1等であり、入手の簡便さから炭素数2〜8のものが好ましい。また、上記不飽和単量体とは、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸等の不飽和有機酸等またはそのエステル、無水物や、不飽和脂肪族環状オレフィン等が挙げられる。これらポリオレフィンの具体例としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、エチレン−プロピレンランダムまたはブロック共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体等が挙げられる。中では、ポリプロピレンが好ましい。
【0039】
また、これらのオレフィン重合体は必要に応じて、塩素、スルフォニル基、カルボキシル基、エステル基、エポキシ基、酸無水物基等の官能基が導入されていてもよく、中でもカルボキシル基、エポキシ基、酸無水物基が、シラン粘土複合体の分散性、得られる成形品の物性改善の点で好ましい。上記官能基を導入する方法は特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和酸;無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;およびグリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有不飽和化合物からなる群から選択される1種以上とポリオレフィン樹脂および有機化酸化物とを充分に混合後、押出機などを用いて溶融混練することにより得られる。
【0040】
上記有機化酸化物としては1分間の半減期が100℃以上のものが好ましく、130℃以上のものがさらに好ましい。具体的には、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド;アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、ジ−i−プロピルパーオキシカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシカーボネート等のパーオキシジカーボネート;t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシラウレート等のパーオキシエステル;メチルエチルケトンパーオキシド等のケトンパーオキサイド;1,1−ビス−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ビス−t−ブチルパーオキシオクタン等のパーオキシケタール;t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;2,2−アゾ−i−ブチロニトリル等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0041】
本発明で使用される有機リン系難燃剤(B)とは、下記一般式(1):
【0042】
【化3】

【0043】
で表されるものである。繰り返し単位nの下限値はn=2であり、好ましくは、n=3、特に好ましくはn=5である。n=2未満であると、ポリエステル樹脂の結晶化を阻害したり、機械的強度が低下する傾向がある。繰り返し単位nの上限値の規定は特にないが、過度に分子量を高めると分散性等に悪影響を及ぼす傾向にある。そのため、繰り返し単位の上限値は、n=20であり、好ましくは、n=15、特に好ましくはn=13である。
【0044】
本発明に用いられる有機リン系難燃剤(B)の製造方法は、特に限定されず、一般的な重縮合反応によって得られるものであり、例えば、以下の方法で得られる。
【0045】
すなわち、下記一般式(3):
【0046】
【化4】

【0047】
で表される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシドに対し、等モル量のイタコン酸およびイタコン酸に対し2倍モル以上のエチレングリコールを混合し、チッ素ガス雰囲気下、120〜220℃の間で加熱し、攪拌することにより、リン系難燃剤溶液を得る。得られたリン系難燃剤溶液に、三酸化アンチモンおよび酢酸亜鉛を加え、1Torr(=1.33×102Pa)以下の真空減圧下にて、さらに温度を約220℃として維持し、エチレングリコールを留出しながら、重縮合反応させる。約5時間後、エチレングリコールの留出量が極端に減少した時点で、反応終了とみなす。これらの条件により、分子量4000〜12000の固体であり、リン含有量が約8重量%程度であるので有機リン系難燃剤(B)を得ることができる。
【0048】
本発明の難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物における有機リン系難燃剤(B)含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、下限値としては10重量部が好ましく、20重量部がより好ましく、30重量部がさらに好ましい。有機リン系難燃剤(B)含有量の下限値が10重量部未満では、難燃性が低下する傾向がある。有機リン系難燃剤(B)含有量の上限値としては80重量部が好ましく、70重量部がより好ましい。有機リン系難燃剤(B)含有量の上限値が80重量部を超えると、機械的強度が低下し、成形性も悪化する傾向がある。
【0049】
本発明においては、さらに導電性炭素化合物(C)を含有することにより、難燃性熱可塑性樹脂組成物に導電性を付与することができる。
【0050】
本発明における導電性炭素化合物(C)としては、特に限定されず、市販されている粒状、フィブリル状、繊維状、鱗片状のものが用いられ得る。粒状の炭素化合物としてはアセチレンブラックや各種ファーネス系の導電性カーボンブラックが例示され、市販の各種のものが使用できる。例えば、粒状の例としては、ケッチェンブラックインターナショナル社製の商品名ケッチェンブラック、日本黒鉛工業(株)製の商品名HOPなどが挙げられる。繊維状の例としては、三菱レイヨン(株)製の商品名パイロフィルが挙げられる。また微細なフィブリル状の炭素化合物の例としては、直径が約3.5nm〜75nmの微細糸状のフィブリル状炭素化合物が例示され、いわゆるカーボンナノチューブと称されるものであり、市販の各種のものが使用できる。例えば、ハイピリオンカタリシスインターナショナル社製の商品名ハイペリオンなどが挙げられる。また、繊維状のものの例としては、昭和電工(株)製の気相法炭素繊維VGCFが挙げられる。上記のように、本発明における炭素化合物の種類は、成形品の表面性を重要視する場合や成形品からの粒子脱落を防止する点から、粒状やフィブリル状、または繊維形状の中でも直径が1μm以下かつ長さが50μm以下のものが好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられる導電性炭素化合物(C)の重量比の下限値は、好ましくは0.1重量部であり、より好ましくは2重量部であり、さらに好ましくは5重量部となるように調製され、上限値は、好ましくは20重量部であり、より好ましくは15重量部であり、さらに好ましくは10重量部となるように調製される。前記炭素化合物の下限値が0.1重量部未満であると導電性が不充分となる場合があり、上限値が20重量部を超えると強度や表面性が損なわれる場合がある。
【0052】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物は、厚み3.2mm、長さ127mm、幅12.7mmの成形品において、初期燃焼性がUL94基準にてV−0ないしV−2であることが好ましく、V−0であることがより好ましい。さらに、後述する用途においては、長期間熱に晒される環境下で使用された場合でも、成形品の燃焼性の維持や表面外観の維持が特に重用視されるため、長期熱老化試験後においても難燃性が維持されていることが好ましい。すなわち、190℃、500時間の熱処理後の燃焼性が前記初期燃焼性と同じ(維持される)ことが好ましい。
【0053】
また、本発明の難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物は、射出成形法により得られた成形体を190℃にて100時間加熱熱処理した場合、初期の表面抵抗値(Ri)に対する熱処理後の表面抵抗値の値(R100)が100倍以下であることが好ましく、さらに好ましくは10倍以下であり、特に好ましくは5倍以下である。
【0054】
本発明の難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物が高温環境下に長時間曝されても優れた難燃性と導電性を保持できるのは、本発明の(B)成分である特定構造のリン系難燃剤が本発明の(C)成分である導電性炭素化合物の存在のために、高温環境下でも動きにくくなり、成形体表面にブリードしてこなくなり、そのために難燃性が維持されるからであると考えられる。成形体表面にブリードしてこなくなるので、表面導電性付与のために用いた炭素化合物の効果を損なうこともなくなる。従って当該効果は、本発明の(B)成分および(C)成分いずれが欠けても達成し得ないものであり、(B)成分と(C)成分が併用されて初めて発揮される特徴であり、同業者であっても容易に想到できるものではない。
【0055】
本発明の難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、チッ素化合物、ガラス繊維、無機充填剤、顔料、熱安定剤、滑剤等の添加剤を添加することができる。
【0056】
チッ素化合物としては、例えば、メラミン・シアヌル酸付加物、メラミン、シアヌル酸等のトリアジン系化合物やテトラゾール化合物等があげられる。あるいはメラミンの2量体および/または3量体であるメラムおよび/またはメレムがあげられる。これらのうちでは、機械的強度面の点から、メラミン・シアヌル酸付加物が好ましい。
【0057】
本発明におけるメラミン・シアヌル酸付加物とは、メラミン(2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン)とシアヌル酸(2,4,6−トリヒドロキシ−1,3,5−トリアジン)および/またはその互変異体が形成する化合物である。
【0058】
メラミン・シアヌル酸付加物は、メラミンの溶液とシアヌル酸の溶液を混合して塩を形成させる方法や一方の溶液に他方を加えて溶解させながら塩を形成させる方法等によって得ることができる。メラミンとシアヌル酸の混合比には特に限定はないが、得られる付加物が熱可塑性ポリエステル樹脂の熱安定性を損ないにくい点から、等モルに近い方がよく、特に等モルであることが好ましい。
【0059】
本発明におけるメラミン・シアヌル酸付加物の平均粒子径は、特に限定されないが、得られる組成物の強度特性、成形加工性を損なわない点から、0.01〜250μmが好ましく、0.5〜200μmが特に好ましい。
【0060】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物におけるチッ素化合物含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、下限値としては、10重量部が好ましく、20重量部がより好ましく、30重量部がさらに好ましい。チッ素化合物含有量の下限値が10重量部未満では、難燃性、耐トラッキング性が低下する傾向がある。チッ素化合物含有量の上限値としては、100重量部が好ましく、80重量部がより好ましい。チッ素化合物含有量の上限値が100重量部を超えると、押出加工性が悪化する、または、ウエルド部の強度、機械的強度および耐湿熱性が低下する傾向がある。
【0061】
ガラス繊維は、通常一般的に使用されている公知のガラス繊維を用いることができるが、作業性の観点から、集束剤にて処理されたチョップドストランドガラス繊維を用いるのが好ましい。
【0062】
本発明で使用されるガラス繊維は、樹脂とガラス繊維との密着性を高めるため、ガラス繊維の表面をカップリング剤で処理したものが好ましく、バインダーを用いたものであってもよい。前記カップリング剤としては、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物好ましく使用され、また、バインダーとしては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が好ましく使用されるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
上記ガラス繊維は、単独で使用してもよく、また、2種以上を併用してよい。ガラス繊維の繊維径は1〜20μmが好ましく、かつ、繊維長は0.01〜50mmが好ましい。繊維径が1μm未満であると、添加しても期待するような補強効果が得られない傾向があり、繊維経が20μmを超えると、成形品の表面性や流動性が低下する傾向がある。また、繊維長が0.01mm未満であると、添加しても期待するような樹脂補強効果が得られない傾向があり、繊維長が50mmを超えると、成形品の表面性、流動性が低下する傾向がある。
【0064】
本発明におけるガラス繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部とした場合、下限値は、5重量部が好ましく、10重量部がより好ましく、15重量部がさらに好ましい。含有量が5重量部未満であると充分な機械的強度や耐熱性が得られない傾向がある。上限値は、100重量部が好ましく、90重量部がより好ましく、80重量部がさらに好ましい。100重量部を超えると成形品の表面性、押出加工性が低下する傾向がある。
【0065】
本発明で使用される無機充填剤は、繊維状および/または粒状の無機充填剤であれば、特に限定されないが、無機充填剤を添加することにより、強度、剛性、耐熱性などを大幅に向上させることができる。
【0066】
本発明で使用される無機充填剤の具体例としては、例えば、金属繊維、アラミド繊維、アスベスト、チタン酸カリウムウィスカ、ワラストナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウムなどがあげられる、これらのなかでも、優れた電気的特性、特に優れた耐トラッキング性を得るには、粒子状の充填剤を、特にタルクを用いるのが好ましい。
【0067】
本発明における無機充填剤の含有量は、熱可塑性樹脂を100重量部とした場合、下限値は、1重量部好ましく、3重量部がより好ましく、5重量部がさらに好ましい。無機充填剤の含有量が1重量部未満では、電気的特性、剛性等の改善効果が得られにくい傾向がある。上限値は、60重量部が好ましく、40重量部がより好ましく、20重量部がさらに好ましい。無機充填剤の含有量が60重量部を超えると成形品の表面性、機械的特性、押出加工性、成形性時の流動性が低下する場合がある。
【0068】
熱安定剤としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ペンタエリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などがあげられる。熱安定剤の配合量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.1〜3.0重量部が好ましく、0.5〜1.5がより好ましい。熱安定剤の配合量が、0.1重量部未満であると、加工時の熱劣化による機械的特性が低下する場合があり、3.0重量部を超えると、成形加工時にガス発生や金型汚染が起こる場合がある。
【0069】
また、顔料としては、例えば、酸化チタンなどの市販の顔料があげられ、滑剤としては、例えば、エチレンジアミン、ステアリン酸、セバシン酸等の重縮合物、モンタン酸等のエステルなどがあげられる。
【0070】
本発明の難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、例えば、熱可塑性樹脂(A)、有機リン系難燃剤(B)、導電性炭素化合物(C)を、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練する方法をあげることができる。混練機の例としては、一軸押出機、二軸押出機などが挙げられ、特に、混練効率の高い二軸押出機が好ましい。
【0071】
本発明で得られる難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物は、高度な燃焼性、導電性を有し、高温環境下での使用においても、成形体表面での難燃剤のブリードアウトが抑制され、初期特性を維持することから、長期信頼性の要求される、家電、OA機器等の電気・電子部品、ハウジング等に好適に使用される。
【実施例】
【0072】
次に、実施例により本発明の組成物を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
以下に、実施例および比較例において使用した樹脂および原料類を示す。
【0074】
熱可塑性樹脂(A)
・ポリエステル樹脂:対数粘度(フェノール/テトラクロロエタンが重量比で1/1である混合溶媒中、25℃で測定、以下同様)0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET;カネボウ合繊(株)製、EFG−70)を、140℃にて3時間乾燥を行ったもの。
・ポリカーボネート樹脂:出光化学(株)製のタフロンA2200
・ポリアミド樹脂:ユニチカ(株)製のユニチカナイロンA1030BRL
・ポリフェニレンエーテル樹脂:三菱エンジニアリング(株)製のユピエースAH90
・ポリプロピレン樹脂:住友化学(株)製、ノーブレンAZ864
【0075】
有機リン系難燃剤(B)
・製造例1にて作製したもの
【0076】
導電性炭素化合物(C)
・ケッチェンブラックインターナショナル社製のケッチェンブラック、PA6にフィブリル状炭素化合物が20%濃度で分散されたマスターバッチペレット、商品名MB4020−00(ハイペリオンキャタリシスインターナショナルインク社製)を使用した。
【0077】
安定剤
・ビスフェノールAジグリシジルエーテル,ブチルグリシジルエーテル(旭電化工業(株)製、EP−22)
・ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(旭電化工業(株)製、アデカスタブPEP−36)
・ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティーケミカルズ(株)製、IRGANOX1010)
【0078】
製造例1
蒸留管、精留管、チッ素導入管および攪拌機を有する縦型重合機に、下記一般式(3):
【0079】
【化5】

【0080】
で表される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシド100重量部に対し、等モル量のイタコン酸60重量部およびイタコン酸に対し2倍モル以上のエチレングリコール160重量部を投入し、チッ素ガス雰囲気下、120〜200℃まで徐々に昇温加熱し、約10時間攪拌することによってリン系難燃剤溶液を得た。得られたリン系難燃剤溶液に対し、三酸化アンチモン0.1重量部および酢酸亜鉛0.1重量部を加え、1Torr(=1.33×102Pa)以下の真空減圧下にて、さらに温度を220℃として維持し、エチレングリコールを留出しながら重縮合反応させた。約5時間後、エチレングリコールの留出量が極端に減少したことで、反応終了とみなした。得られた有機リン系難燃剤(B)の分子量7000の固体であり、リン含有量は8.3%であった。
【0081】
なお、本明細書における評価方法は、以下に示すとおりである。
【0082】
<難燃性>
UL94基準V−0試験に準拠し、得られた厚さ3.2mmのバー形状試験片を用いて、初期燃焼性および190℃で500時間処理後の燃焼性を評価した。
【0083】
<導電性>
アドバンテスト社製の抵抗値測定器R8340Aを用いた。試験片は、120×120mmの厚み3mm平板成形品を25℃、50%RHで24時間状態調節後に測定した。
【0084】
実施例1〜9
原料(A)〜(C)を、表1に示した配合組成(単位:重量部)に従い、予めドライブレンドした。ベント式44mmφ同方向2軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)を用い、前記混合物をホッパー孔から供給し、シリンダー設定温度250〜280℃にて溶融混練を行い、ペレットを得た。
【0085】
得られたペレットを140℃にて3時間乾燥した後、射出成形機(型締め圧:80トン)を用い、シリンダー温度280℃〜250℃および金型温度90℃の条件にて射出成形を行い、直径100mmφ×厚み1.6mmの円盤状成形体および、127mm×12.7mm×厚み3.2mmのバー成形体を得た。得られた試験片を用い、上記基準に従って、そり評価および燃焼性評価を行った。
【0086】
実施例1〜9における評価結果を、表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
比較例1〜8
原料(A)〜(C)を、表2に示した配合組成(単位:重量部)に従い、実施例と同様に、ペレット化および射出成形を行い、試験片を得、同様の評価方法にて実験を行った。
【0089】
比較例1〜8における評価結果を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
実施例および比較例の結果を比較すると、本発明の難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)に対する有機リン系難燃剤(B)導電性炭素化合物(C)を配合することにより、難燃剤のブリードアウト抑制に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明で得られる難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物は、高度な燃焼性、導電性を有し、かつ成形体が高温環境下に曝されても、初期特性を維持できることで、信頼性の要求される成形体に好適に使用できる、特に、形状が複雑で高温環境下に曝される、家電、OA機器等の電気・電子部品、ハウジング等に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、下記一般式(1):
【化1】

で表される有機リン系難燃剤(B)10〜80重量部および導電性炭素化合物(C)0.1〜20重量部を含有する難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
下記(a)および(b)の条件を満たすことを特徴とする請求項1記載の難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物。
(a)厚み3.2mm、長さ127mm、幅12.7mmの成形品において、初期燃焼性がUL94基準にてV−0ないしV−2であり、かつ190℃、500時間の熱処理後の燃焼性が前記初期燃焼性と同じである。
(b)表面固有抵抗値の初期値(Ri)に対する190℃100時間後の値(R100)の比(R100/Ri)が100以下である。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(A)が、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂から選択される1種以上である請求項1または2記載の難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性導電性熱可塑性樹脂組成物を含む樹脂成形体。

【公開番号】特開2007−297495(P2007−297495A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125965(P2006−125965)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】