説明

難燃性導電糸の製造方法及びその製造方法で製造された難燃性導電糸

【課題】安定した導電性が得られるとともに、良好な難燃性を有し、さらに、生産性に優れ比較的安価に製造することのできるセルロース系繊維からなる難燃性導電糸及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ドーパント、酸化剤及びバインダー樹脂を含有してなる処理液で処理したセルロース系繊維からなる糸を気相状態の導電性ポリマー前駆体と反応させ、さらに前記処理液に難燃剤を含有させることにより、あるいは別工程でデイッピング処理にて難燃剤を付着せしめることにより、良好な難燃性をも有するセルロース系繊維からなる難燃性導電糸が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた導電性及び難燃性を兼ね備えた難燃性導電糸の製造方法及びその製造方法で製造された難燃性導電糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、導電性能の得られる導電糸としては、繊維の表面に金属をメッキした糸や、金属、金属化合物、カーボンブラック等の導電性物質をポリマー内に練り込んだ糸等が提案されている。これらの方法は、コストが比較的安く、しかも量産化にも適しているため、多くの産業分野で広く使用されている。例えば、静電複写機に用いられる帯電用、除電用ブラシとして、かかる導電糸が使われている。しかし複写機等では定着時の加熱によって、機内の温度が高温になることから、これら用途に使用される導電糸には長時間にわたって熱を受けても変形しないことが要求されている。さらに、電子機器の内部温度が非常に高くなることから、電子機器の内部部品が燃焼するおそれがあり、高い難燃性が求められるようになってきており、静電複写機に用いられる帯電用、除電用ブラシに用いる導電糸にも難燃性が要求されるようになってきた。
【0003】
これらの用途においては アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維などの大部分の汎用合成繊維は、耐熱性や高温下での形態安定性が不十分であることから用いることができず、特許文献1〜3に記載されているように、導電性のセルロース系繊維を使用したブラシが提案されている。しかしながら、求められている難燃性については、未だに対応しているものは無かった。さらに、ブラシに用いる導電糸の表面を難燃剤でコーティングすることにより、導電糸に難燃処理を施す試みが成されているが、このように従来の難燃処理が施された導電糸は、その電気抵抗値が変動してしまうことから所望の導電性能を十分に満たすことができず、その結果、導電性ブラシの品質が低下し、複写機能に不具合を生じてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開平4−289876号公報
【特許文献2】特開平4−289877号公報
【特許文献3】特公平1−29887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、安定した導電性が得られるとともに、良好な難燃性を有し、さらに、生産性に優れ比較的安価に製造することのできる難燃性導電糸の製造方法及びその製造方法で製造された難燃性導電糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、セルロース系繊維を気相状態の導電性ポリマー前駆体と反応させることにより、安定した導電性を有する導電糸とすることが可能となり、難燃剤を付与することにより、良好な難燃性を有する導電糸とすることが可能となる事を見出し本発明に到達した。前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0006】
[1]セルロース系繊維からなる難燃性導電糸の製造方法において、難燃剤、ドーパント、酸化剤、及びバインダー樹脂を含有してなる処理液を、前記セルロース系繊維の少なくとも表面に付着せしめる付着工程と、前記処理液が付着した前記セルロース系繊維を気相状態の導電性ポリマー前駆体と接触させることによって、前記セルロース系繊維の表面の少なくとも一部に導電性ポリマーを被覆せしめる工程とを含むことを特徴とする難燃性導電糸の製造方法。
【0007】
[2]セルロース系繊維からなる難燃性導電糸の製造方法において、ドーパント、酸化剤、及びバインダー樹脂を含有してなる処理液を、前記セルロース系繊維の少なくとも表面に付着せしめる付着工程と、前記処理液が付着した前記セルロース系繊維を気相状態の導電性ポリマー前駆体と接触させることによって、前記セルロース系繊維の表面の少なくとも一部に導電性ポリマーを被覆せしめる工程と、前記セルロース系繊維にデイッピング処理にて難燃剤を付着せしめる工程とを含むことを特徴とする難燃性導電糸の製造方法。
【0008】
[3]前記導電性ポリマー前駆体が、ピロール、アニリン、チオフェンから選択される1種または複数のモノマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性導電糸の製造方法。
【0009】
[4]前記処理液における、ドーパントの含有率が0.1〜10質量%、酸化剤の含有率が0.1〜10質量%、バインダー樹脂の含有率が0.01〜2.0質量%である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の難燃性導電糸の製造方法。
【0010】
[5]前記処理液をロールコーターを用いて前記セルロース系繊維の少なくとも表面に塗布することによって、前記セルロース系繊維100質量部に対して処理液の固形分を0.2〜20質量部付着せしめる請求項1乃至4のいずれか1項に記載の難燃性導電糸の製造方法。
【0011】
[6]前記処理液が付着した前記セルロース系繊維を気相状態の導電性ポリマー前駆体と接触させることによって、前記セルロース系繊維100質量部に対して導電性ポリマーを0.2〜5質量部付着せしめる請求項1乃至5のいずれか1項に記載の難燃性導電糸の製造方法。
【0012】
[7]前記ドーパントとして芳香族スルホン酸を用い、前記酸化剤として過硫酸塩を用いることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の難燃性導電糸の製造方法。
【0013】
[8]請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製造方法で製造された表面抵抗値が1010Ω/□未満である難燃性導電糸。
【発明の効果】
【0014】
[1]の発明では、ドーパント、酸化剤及びバインダー樹脂を含有してなる、前記処理液が付着した前記セルロース系繊維を気相状態の導電性ポリマー前駆体と接触させることによって、処理液と気相状態の導電性ポリマー前駆体とが反応し、前記セルロース系繊維の表面の少なくとも一部に導電性ポリマーを被覆せしめているので、導電性ポリマー前駆体の酸化重合がすすみ、確実な導電性能を得ることができる。また、ドーパント、酸化剤及びバインダー樹脂を含有してなる処理液を、糸の少なくとも表面に付着せしめた前記セルロース系繊維であれば、導電性ポリマーをしっかりと固着することができ、安定した導電性が得られる難燃性導電糸とすることができる。
【0015】
また、難燃剤を含有してなる処理液を、前記セルロース系繊維の少なくとも表面に付着せしめる付着工程を含んでいるので、難燃剤が前記セルロース系繊維に浸透し、良好な難燃性を有する難燃性導電糸とすることが可能となる。
【0016】
さらに、処理液に難燃剤が含まれ、処理液を前記セルロース系繊維の少なくとも表面に付着せしめる付着工程で、難燃処理を同時に施すので、別工程で難燃処理を施す必要がなく、生産効率の高い製造方法となる。
【0017】
[2]の発明では、ドーパント、酸化剤及びバインダー樹脂を含有してなる、前記処理液が付着した前記セルロース系繊維を気相状態の導電性ポリマー前駆体と接触させることによって、処理液と気相状態の導電性ポリマー前駆体とが反応し、前記セルロース系繊維の表面の少なくとも一部に導電性ポリマーを被覆せしめているので、導電性ポリマー前駆体の酸化重合がすすみ、確実な導電性能を得ることができる。また、ドーパント、酸化剤及びバインダー樹脂を含有してなる処理液を、糸の少なくとも表面に付着せしめた前記セルロース系繊維であれば、導電性ポリマーをしっかりと固着することができ、安定した導電性が得られる難燃性導電糸とすることができる。
【0018】
また、前記セルロース系繊維にデイッピング処理にて難燃剤を付着せしめる工程を含んでいるために、適宜、難燃剤を選択することが可能となり、前記難燃剤が前記セルロース系繊維に浸透し、良好な難燃性を有する難燃性導電糸とすることが可能となる。
【0019】
[3]の発明では、の発明では、前記気相状態の導電性ポリマー前駆体が、ピロール、アニリン、チオフェンから選択される1種または複数のモノマーであるので、どのような繊維にも導電性を付与することができる。
【0020】
[4]の発明では、前記処理液における、ドーパントの含有率が0.1〜10質量%、酸化剤の含有率が0.1〜10質量%、バインダー樹脂の含有率が0.01〜2.0質量%であるので、導電性ポリマーの生成効率を高く維持しつつ、導電性ポリマーを糸に接着せしめ確実な導電性能のある導電糸とすることができる。
【0021】
[5]の発明では、前記処理液をロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布することによって、糸100質量部に対して処理液の固形分を0.2〜20質量部付着せしめるので、柔らかな風合いを保ったままの導電糸とすることができる。
【0022】
[6]の発明では、前記処理液が
付着した糸を気相状態の導電性ポリマー前駆体と接触させることによって、糸100質量部に対して導電性ポリマーを0.2〜5質量部付着せしめるので、十分な導電性能を確保し、糸の柔らかさをもった導電糸とすることができる。
【0023】
[7]の発明では、前記ドーパントとして芳香族スルホン酸を用い、前記酸化剤として過硫酸塩を用いるので、酸性領域からアルカリ性領域までより広いpH範囲において液安定性が良好となり、導電性ポリマーをより均一に被覆せしめた難燃性導電糸とすることができる。
【0024】
[8]前項1乃至7のいずれか1項に記載の製造方法で製造されるので、良好な難燃性を有し、表面抵抗値が1010Ω/□未満であるので、十分な帯電防止性能を備えた難燃性導電糸となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係る難燃性導電糸は、優れた導電性及び難燃性を兼ね備えていることを特徴とし、前記難燃性導電糸の製造方法は、処理液をセルロース系繊維の少なくとも表面に付着せしめる付着工程と、前記処理液が付着した前記セルロース系繊維の表面の少なくとも一部に導電性ポリマーを被覆せしめる工程とを含むことを特徴とし、さらに、難燃剤を前記処理液に配合し付着工程と同時に難燃処理を行なうことができる。あるいは別工程で難燃剤による難燃処理を行なうこともできることを特徴とする。
【0026】
本発明に係るセルロース系繊維とは、ビスコースレーヨンである普通レーヨン繊維、ポリノジックレーヨン、銅アンモニアレーヨンであるキュプラ繊維、溶剤紡糸セルロース繊維であるリヨセル繊維などの再生セルロース系繊維、あるいは綿、麻などの天然繊維などが含まれる。好ましくは、ビスコースレーヨン、ポリノッジックレーヨンなどの再生セルロース系繊維である。これらの繊維だけで構成することにより、廃棄しても生分解性を有するため、環境汚染の問題を少なくすることができる。
【0027】
繊維の繊度は、0.5〜20dtexであり、好ましくは1〜8dtexである。繊度が低くなると導電性能が上がるが、生産性が低下するので、コスト面で不利になり、0.5dtex以上が好ましく、20dtexを超えると、導電性能が不充分になる。繊維長さは特に限定されない。用途に応じた太さに紡績にて糸の形状とする。
【0028】
本発明に係る前記処理液としては、ドーパントと酸化剤を含有してなる処理液、または、ドーパント、酸化剤及びバインダー樹脂を含有してなる処理液が好ましく、ドーパント及び酸化剤が溶媒に溶解し、バインダー樹脂(分散質)が分散媒とエマルジョンを形成してなるエマルジョン液が用いられ、好ましい溶媒としては水が挙げられる。
【0029】
前記ドーパントは、導電性ポリマー前駆体の導電性を向上させるための物質であり、特に限定されるものではないが、例えばパラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、スルホン化ポリスチレン等の芳香族スルホン酸等を挙げることができる。
【0030】
前記酸化剤は、導電性ポリマー前駆体を酸化重合させるための物質であり、特に限定されるものではないが、例えば過硫酸アンモニウム、塩化鉄(3価)、硫酸鉄(3価)、過酸化水素、過ホウ酸アンモニウム、塩化銅(2価)等を挙げることができる。また、ドーパントとして使用されるスルホン酸の第2鉄塩(例えばパラトルエンスルホン酸の第2鉄塩)も酸化剤として使用できる。
【0031】
前記バインダー樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニリデン等のホモポリマー又はコポリマーに代表されるビニル系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、あるいはこれらの変性樹脂等が挙げられる。
【0032】
前記処理液において、ドーパントの含有率は0.1〜10質量%、酸化剤の含有率は0.1〜10質量%、バインダー樹脂の含有率は0.01〜2.0質量%に設定するのが好ましい。このような含有率範囲に設定することにより、後の重合工程において、導電性ポリマーの生成効率を高く維持しつつ、導電性ポリマーを前記セルロース系繊維に十分接着せしめ確実な導電性能のある導電糸とすることができる。
【0033】
本発明における第一の発明では、前記処理液に難燃剤を含有していることを特徴とする。前記難燃剤を前記処理液に含有させることにより、難燃剤が前記セルロース系繊維に浸透し、良好な難燃性を有する難燃性導電糸とすることができる。また、別工程で難燃処理を施す必要がなく、生産効率の高い製造方法となる。
【0034】
前記難燃剤は、有機高分子材料の難燃化が図れるものであれば、リン系難燃剤(赤リン、反応性リン化合物等)、ハロゲン系難燃剤(三酸化アンチモンの併用を含む)、水和金属系難燃剤(水酸化アルミニウム粒子、水酸化マグネシウム等)等を用いることができる。前記セルロース系繊維は、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維などの汎用合成繊維と比べ、難燃剤が繊維内部に含浸し易く、良好な難燃性を有する糸とすることができる。
【0035】
特にリン系難燃剤はセルロースの炭素と、水素と、酸素とで構成される有機高分子材料の難燃化に有効な難燃化剤である。例えば、反応性リン化合物を主成分とする難燃剤は、接炎時にセルロース材料等から酸素と水素とを引抜く脱水炭化分解作用を有し、更にポリリン酸を生じて材料表面を被覆して難燃化させ、材料に難燃性を付与する。通常、15質量%程度の添加量で、セルロースに難燃性が付与されると言われている。
【0036】
本発明における第二の発明では、前記難燃剤による難燃処理を別工程で行なうことを特徴とする。別工程で行なうことにより、適宜、難燃剤の種類等を選択することができる。工程順としては、処理液を前記セルロース系繊維の少なくとも表面に付着せしめる付着工程の前でも、後でも可能である。難燃剤とバインダー樹脂とをデイッピング等で付与し、乾燥、熱処理により固着させることができる。用いる難燃剤としては、第一の発明と同様に、有機高分子材料の難燃化が図れるものであれば、リン系難燃剤(赤リン、反応性リン化合物等)、ハロゲン系難燃剤(三酸化アンチモンの併用を含む)、水和金属系難燃剤(水酸化アルミニウム粒子、水酸化マグネシウム等)等を用いることができ、特にリン系難燃剤が好ましい。
【0037】
前記処理液を前記セルロース系繊維の少なくとも表面に付着せしめる方法として、特に限定されるものではないが、例えばロールコーターやスプレーによる塗布等が挙げられる。中でも、ロールコーターを用いて前記セルロース系繊維の少なくとも表面に塗布することによって、前記セルロース系繊維100質量部に対して処理液の固形分を0.2〜20質量部付着せしめるのが好ましい。ロールコーターを用いることで、より少量の固形分を均一に且つ前記セルロース系繊維の表面領域に選択的に付着せしめることができるので、導電糸の柔らかさを確保しつつ、十分な導電性を得ることができる。
【0038】
次に、前記セルロース系繊維の表面の少なくとも一部に導電性ポリマーを被覆せしめる方法として、例えば、処理液で処理した糸をチーズボビンに巻きつけてチーズを形成する。チーズボビンは、チーズ染色を行うときに使用する公知のものでよく、チーズボビンの内側から、巻かれた糸層内を気相状態の導電性ポリマー前駆体が通過し、あるいはチーズボビンに巻かれた糸層の外側からチーズボビンの内側に気相状態の導電性ポリマー前駆体が通過する構造のものがよい。また、処理液で処理した糸を直ちに連続的にチーズボビンに巻きつけてチーズを形成するのが効率的であるが、このとき余分な処理液が糸に残らないように絞りながら風乾しながらチーズボビンに巻き取るのが望ましい。
【0039】
次に、このようにして処理液で処理した糸をチーズボビンに巻きつけたチーズ状の糸に、気相状態の導電性ポリマー前駆体を循環させて接触させる。この装置としては、例えば、図1のように、反応室1と、チーズ台4と、循環ポンプ7と、循環パイプ5(吸引側、吐出側)と、気相状態の導電性ポリマー前駆体の添加装置6とからなる装置が挙げられる。チーズボビン2に巻きつけられたチーズ状の糸3をチーズ台4にセットし、反応室1を気密状態にして、添加装置6から気相状態の導電性ポリマー前駆体を発生させ、循環ポンプ7を回して、反応室1と循環パイプ5内の空気を循環させる。こうすることにより、図に示す矢印のように、気相状態の導電性ポリマー前駆体がチーズの中側から糸層を通過して循環する。このときに、糸の表面領域に付着した処理液と導電性ポリマー前駆体が接触し重合することによって、糸の表面の少なくとも一部が導電性ポリマーで被覆されてなる導電糸を得ることができる。また、より均一に導電性ポリマーで被覆されるには、循環する気流方向を正逆方向に繰り返し方向を変えて気流を循環させて処理することがより好ましい。
【0040】
前記導電性ポリマー前駆体としては、5員環芳香族複素環構造またはアニリン構造を有する化合物であることが好ましい。5員環芳香族複素環構造を部分又は全体に有する化合物としては、ピロール、チオフェンが挙げられる。また、アニリン構造を部分又は全体に有する化合物としては、アニリンが挙げられる。中でもピロールがより好ましい。
【0041】
また、気相状態の導電性ポリマー前駆体の添加装置では、導電性ポリマー前駆体を10〜40℃に設定し気化させるのが好ましい。例えばピロールモノマーの大気圧における沸点は130℃であるが、130℃以下の温度においても飽和蒸気圧に達するまで空気中で気化する。そのため、添加装置内に液体ピロールの容器を置いて自然に気化させてもよいし、窒素等の不活性キャリアーガスでバブリングして、気化したピロールを反応室と循環パイプ内の空気に供給し循環させるようにしてもよい。導電性ポリマー前駆体の気相重合反応は前記処理液の付着した糸において酸化剤が消費されてしまうまでおこなわれ自然に停止する。この気相重合反応は、チーズにまかれた処理液で処理した糸量にもよるが、およそ1〜30分かかる。
【0042】
前記重合工程では、前記処理液の付着した糸を気相状態の導電性ポリマー前駆体と接触させることによって前記セルロース系繊維100質量部に対して導電性ポリマーを0.2〜5質量部の割合で付着せしめるのが好ましい。0.2質量部以上とすることで表面抵抗値が1010Ω/□未満である、十分な帯電防止性能を備えた導電糸を得ることができるとともに5質量部以下とすることにより糸の柔らかさを確保することができる。中でも、前記セルロース系繊維100質量部に対して導電性ポリマーを0.5〜3質量部の割合で付着せしめるのが特に好ましい。
【0043】
次に、このようにして得られたチーズ状の導電糸をチーズ台から取り出し、チーズ形状のまま乾燥した後、水洗して残存するフリーのドーパント等を除去し、さらに乾燥処理することによって、チーズ形状のままの導電糸を得ることができ、一度に大量の難燃性導電糸を製造することができる。
【実施例】
【0044】
次に、この発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。なお、各種性能評価は以下のように行なった。<表面抵抗値>表面抵抗測定器(四探針法;JIS K7194)を用いて導電糸の表面抵抗率のレベルを評価した。<難燃性>垂直燃焼試験(UL VW-1 燃焼試験)に準拠して難燃性を評価した。判定基準は以下の3基準を満足するものを合格とした。1、残炎による燃焼が60秒を超えないこと。2、表示旗が25%以上焼損しないこと。3、落下物によって底部の綿が燃焼しないこと
【0045】
<実施例1>165デシテックス/48fビスコースレーヨン糸の表面に水性の処理液をロールコーターを用いて塗布した。前記水性処理液としては、リン酸エステルアミド(難燃剤)を1質量%、過硫酸アンモニウム(酸化剤)を1質量%、パラトルエンスルホン酸(ドーパント)を1質量%、ポリエステル樹脂(バインダー樹脂)を1質量%含有した水系溶液を用いた。なお、この水性処理液では、過硫酸アンモニウム
及びパラトルエンスルホン酸は水に溶解する一方、ポリエステル樹脂は、分散質であり、分散媒である水とエマルジョンを形成している。前記ロールコーターによる塗布でポリエステルマルチフィラメント糸(原着)の100質量部当り水性処理液を10質量部付着せしめたので、ビスコースレーヨン糸の100質量部当りの水性処理液の固形分(過硫酸アンモニウム、パラトルエンスルホン酸、ポリエステル樹脂)の付着量は0.3質量部であった。
【0046】
次に、処理液の付着したビスコースレーヨン糸をマングルで絞りながら、チーズボビンに巻き取って2kgのチーズとした。次に、このチーズを図1の装置のチーズ台に設置し、蓋をして密封状態にし、添加装置においてピロール液を気相化し、循環ポンプを回して、反応室と循環パイプ内の空気を循環させた。30秒ごとに循環方向を変えて、10分間循環させてピロールの気相重合を行い、ビスコースレーヨン糸の表面の少なくとも一部にポリピロールを被覆せしめた。しかる後に、ポリピロールの付着したチーズ形状のビスコースレーヨン糸をチーズ台から取り出し、チーズ形状のまま120℃で5分間乾燥した後、水洗して残存するフリーのドーパント等を除去し、さらに乾燥処理(120℃で5分間)することによって、チーズ形状の難燃性導電糸を得た。
【0047】
次に、このチーズから糸を引き出して、チーズの巻径が5mm減少するごとに、糸を採取し表面抵抗値を測定した。チーズの外層、中層、内層において、内外層に較べて中層の表面抵抗値はやや大きくなる傾向にはあるが、その差は10Ω/□未満で、10〜10Ω/□であった。難燃性については合格であった。
【0048】
<実施例2>165デシテックス/48fビスコースレーヨン糸の表面に、デイッピング処理にて反応性リン化合物(難燃剤)を1質量%付着させた糸の表面に、水性の処理液をロールコーターを用いて塗布した。前記水性処理液としては、過硫酸アンモニウム(酸化剤)を1質量%、パラトルエンスルホン酸(ドーパント)を1質量%、ポリエステル樹脂(バインダー樹脂)を1質量%含有した水系溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして難燃性導電糸を得た。表面抵抗値は、10〜10Ω/□であった。また、難燃性についても合格であった。
【0049】
<実施例3>165デシテックス/48fビスコースレーヨン糸の表面に水性の処理液をロールコーターを用いて塗布した。前記水性処理液としては、過硫酸アンモニウム(酸化剤)を1質量%、パラトルエンスルホン酸(ドーパント)を1質量%、ポリエステル樹脂(バインダー樹脂)を1質量%含有した水系溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして導電糸を作成し、さらに前記導電糸の表面に、デイッピング処理にて反応性リン化合物(難燃剤)を1質量%付着させ難燃性導電糸を得た。表面抵抗値は、10〜10Ω/□であった。また、難燃性についても合格であった。
【0050】
<実施例4>ロールコーターによる塗布でビスコースレーヨン糸の100質量部当り水性処理液を50質量部付着せしめた以外は、実施例1と同様にして難燃性導電糸を得た。表面抵抗値は、10〜10Ω/□であった。また、難燃性についても合格であった。
【0051】
<実施例5>ロールコーターによる塗布でビスコースレーヨン糸の100質量部当り水性処理液を100質量部付着せしめた以外は、実施例1と同様にして難燃性導電糸を得た。表面抵抗値は、10〜10Ω/□であった。また、難燃性についても合格であった。
【0052】
<実施例6>ロールコーターによる塗布でビスコースレーヨン糸の100質量部当り水性処理液を5質量部付着せしめた以外は、実施例1と同様にして難燃性導電糸を得た。表面抵抗値は、10〜10Ω/□であった。また、難燃性についても合格であった。
【0053】
<実施例7>ロールコーターによる塗布でビスコースレーヨン糸の100質量部当り水性処理液を150質量部付着せしめた以外は、実施例1と同様にして難燃性導電糸を得た。表面抵抗値は、10〜10Ω/□であった。また、難燃性についても合格であった。
【0054】
<比較例1>実施例1において、水性処理液として、過硫酸アンモニウム(酸化剤)を1質量%、パラトルエンスルホン酸(ドーパント)を1質量%、ポリエステル樹脂(バインダー樹脂)を1質量%含有した水系溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして導電糸を得た。表面抵抗値は、10〜10Ω/□であった。また、難燃性についても不合格であった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る導電糸の製造工程の一実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・反応室 2・・・チーズボビン 3・・・チーズ(糸層) 4・・・チーズ台 5・・・循環パイプ 6・・・添加装置 7・・・循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維からなる難燃性導電糸の製造方法において、難燃剤、ドーパント、酸化剤、及びバインダー樹脂を含有してなる処理液を、前記セルロース系繊維の少なくとも表面に付着せしめる付着工程と、前記処理液が付着した前記セルロース系繊維を気相状態の導電性ポリマー前駆体と接触させることによって、前記セルロース系繊維の表面の少なくとも一部に導電性ポリマーを被覆せしめる工程とを含むことを特徴とする難燃性導電糸の製造方法。
【請求項2】
セルロース系繊維からなる難燃性導電糸の製造方法において、ドーパント、酸化剤、及びバインダー樹脂を含有してなる処理液を、前記セルロース系繊維の少なくとも表面に付着せしめる付着工程と、前記処理液が付着した前記セルロース系繊維を気相状態の導電性ポリマー前駆体と接触させることによって、前記セルロース系繊維の表面の少なくとも一部に導電性ポリマーを被覆せしめる工程と、前記セルロース系繊維にデイッピング処理にて難燃剤を付着せしめる工程とを含むことを特徴とする難燃性導電糸の製造方法。
【請求項3】
前記導電性ポリマー前駆体が、ピロール、アニリン、チオフェンから選択される1種または複数のモノマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性導電糸の製造方法。
【請求項4】
前記処理液における、ドーパントの含有率が0.1〜10質量%、酸化剤の含有率が0.1〜10質量%、バインダー樹脂の含有率が0.01〜2.0質量%である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の難燃性導電糸の製造方法。
【請求項5】
前記処理液をロールコーターを用いて前記セルロース系繊維の少なくとも表面に塗布することによって、前記セルロース系繊維100質量部に対して処理液の固形分を0.2〜20質量部付着せしめる請求項1乃至4のいずれか1項に記載の難燃性導電糸の製造方法。
【請求項6】
前記処理液が付着した前記セルロース系繊維を気相状態の導電性ポリマー前駆体と接触させることによって、前記セルロース系繊維100質量部に対して導電性ポリマーを0.2〜5質量部付着せしめる請求項1乃至5のいずれか1項に記載の難燃性導電糸の製造方法。
【請求項7】
前記ドーパントとして芳香族スルホン酸を用い、前記酸化剤として過硫酸塩を用いることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の難燃性導電糸の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製造方法で製造された表面抵抗値が1010Ω/□未満である難燃性導電糸。

【図1】
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【公開番号】特開2010−280997(P2010−280997A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133121(P2009−133121)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】