説明

難燃性樹脂塗料組成物及び該樹脂塗料組成物の製造方法

【課題】 火災が発生した際に有毒ガスが生じず、延焼する危険性がない難燃性に優れた皮膜を形成するための難燃剤が均一に分散された水性エマルジョン樹脂塗料とその製造方法を提供する。
【解決手段】 水性エマルジョンを樹脂固形分として100重量部と、非ハロゲン系難燃剤5〜100重量部と、層状珪酸塩0.1〜100重量部とを含有する難燃性樹脂組成物、及び上記水性エマルジョン100重量部に対し、先ず非ハロゲン系難燃剤5〜100重量部を分散させ、次に、層状珪酸塩0.1〜100重量部を分散させる難燃性樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災が発生した際に有毒ガスが生じ難く、延焼の危険性が少ない、難燃性に優れた皮膜を形成することを可能とする難燃性樹脂塗料組成物及び該樹脂塗料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用膜材、テント倉庫用膜材、ファザード、フレコン等に用いられる膜材(ターポリン)では、耐光性、耐水性、耐摩耗性、柔軟性、及び抗張力等の力学物性に優れているだけでなく、火災時における延焼を防ぐために難燃性が必要とされている。このため、通常、膜材としては、ポリエステル繊維やガラス繊維などをシート状繊維とし、これに難燃性の樹脂を被覆したものが用いられている。従来より、この被覆用の樹脂としては、軟質ポリ塩化ビニル系樹脂やポリテトラフルオロエチレン系樹脂が用いられてきた。
【0003】
しかし、被覆用樹脂として軟質ポリ塩化ビニル系樹脂を用いた場合、軟質ポリ塩化ビニル系樹脂に含有されている可塑剤や難燃剤等が経時により表層に滲み出すことにより、表面の粘着性が増し、大気中の汚れが付着したり、柔軟性、耐候性及び難燃性が低下したりするという問題があった。
【0004】
一方、工業用に用いられる高分子材料では、近年、廃プラスチックの処理や環境ホルモンの問題から、環境に負荷をかけない材料、すなわち、環境適応型材料への転換が望まれている。具体的には、燃焼時のダイオキシンの発生防止や可塑剤の毒性による問題を生じさせないため等の理由により、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂からポリオレフィン系への転換が検討されている。
【0005】
このように、近年では、膜材においても、環境適応型材料へ転換するために基材としてのシート状繊維を被覆するための樹脂にポリオレフィン樹脂を用いた、いわゆるエコ材料に対する要求が高まっている。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は、最も燃焼性の高い樹脂の1つであるので、難燃性を発現させることが非常に困難であった。
【0006】
そのために、大量の難燃剤をポリオレフィン系樹脂に練り込んで使用することが多かった。難燃剤のなかでも、含ハロゲン難燃剤は、難燃化効果が高く、成形性の低下や成形品の力学物性の低下等も比較的引き起し難いことから多用されている。しかし、含ハロゲン難燃剤を用いた場合、成形加工時や燃焼時に多量のハロゲン系ガスが発生して、機器が腐食したり、人体に悪影響を及ぼすおそれがあった。従って、安全性の面から、ハロゲン含有化合物を使用しない、いわゆる非ハロゲン難燃化処理方法が強く望まれている。
【0007】
このため、例えば、下記の特許文献1,2には、ポリオレフィン系樹脂の非ハロゲン難燃化処理方法の1つとして、燃焼時に有毒なガスを発生しない、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムまたは塩基性炭酸マグネシウムなどの金属化合物を難燃剤として添加する方法が開示されている。
【0008】
しかし、易燃性のポリオレフィン系樹脂に充分な難燃性を付与するには、大量の無機系難燃剤を添加する必要があった。その結果、得られる組成物やこの組成物からなる成形体の力学強度が著しく低下するという問題があった。特に大量の無機系難燃剤を添加した場合、膜材に必要な柔軟性や伸び等の物性を確保することが困難であった。
【0009】
また、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物のみをポリオレフィ
ン系樹脂に添加した場合は、燃焼時に皮膜層を形成することができず、脆い灰分が露出し、燃焼残渣が脱落していくので、断熱層としての機能を早期に失いがちであった。さらに、材料が変形するために延焼をくい止めることができないという問題もあった。
【0010】
一方、リン系難燃剤をポリオレフィン系樹脂に添加し、燃焼時に表面に皮膜を形成して、これによる酸素遮断効果を利用することにより、難燃性を発現させる方法が提案されている。しかし、易燃性のポリオレフィン系樹脂に充分な難燃性を付与するには、やはり大量のリン系難燃剤を添加する必要があり、その結果、得られる成形対の力学物性が著しく低下するという問題があった。
【0011】
また、リン系難燃剤をポリオレフィン系樹脂に添加した場合、局所的には皮膜が形成されるものの、強固な皮膜層を連続層として形成することが困難であった。このような局所的な皮膜の機械的強度は非常に弱く、燃焼時において脆い灰分が露出し、燃焼残渣が脱落していくために、断熱層としての機能を早期に失いがちであった。さらに、材料が変質するために延焼をくい止めることができないという問題もあった。さらに、屋外で使用される場合には、リン系難燃剤が水により抽出され、経時により難燃性が低下するという問題点もあった。
【0012】
ポリオレフィン系樹脂に、リン系難燃剤を添加した組成物として、例えば、ポリオレフィン系樹脂100重量部、赤リン1〜20重量部及び特定の加熱膨張性黒鉛1〜30重量部を含有する難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物や、ポリオレフィン系樹脂100重量部、特定の加熱膨張性黒鉛1〜30重量部及びリン化合物を含有するリン化合物を含有する難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物が開示されている(特許文献3)。
【0013】
しかし、この難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物は、酸素指数から見た場合には充分な難燃性を有するものの、実際には局所的にしか皮膜層が形成されず、強固な皮膜層が連続層としては形成され得なかった。このような局所的な皮膜層の力学的強度は非常に弱く、燃焼時において脆い灰分が露出し、燃焼残渣が脱落していくために、断熱層としての機能を早期に失う。さらに、材料が変形する為に延焼をくい止めることができないという問題もあった。
【0014】
また、近年、ハロゲンやリンを含有せず、広範囲なプラスチックに配合することができ、安全性が高い難燃剤としてシリコーン系難燃剤が注目されてきている。シリコーン系難燃剤は燃焼時に樹脂表面に移行し、不燃皮膜層を形成することによる酸素遮断効果を利用して燃焼性を発現することが知られている。しかし、ポリオレフィン系樹脂にシリコーン系難燃剤を添加した場合、酸素指数は大幅に向上するが、実際の燃焼時に強固な不燃皮膜層を形成することができなかった。その結果、不燃皮膜層の裂け目から可燃性ガスが流出するので、延焼をくい止めることができないという問題があった。
【0015】
上記シート状繊維を被覆するためのポリオレフィン樹脂としては、ペレット状樹脂や水性エマルジョンなどが知られている。難燃剤をこれらの樹脂中に分散させるには、ペレット状樹脂の場合では前記樹脂を溶融状態とし混練するのに対し、水性エマルジョン樹脂の場合には常温において攪拌することにより行うことができる。
【0016】
しかし、水性エマルジョン樹脂中に難燃剤を分散させる場合には分散時の溶液粘度が低いと、剪断力がかかりにくく、分散不良を起こし易くなるという問題があった。また、分散時の溶液粘度が高過ぎると、難燃剤同士もしくは難燃剤とエマルジョン粒子とが凝集し、分散不良や経時でゲル化などを起こし易くなるという問題があった。
【特許文献1】特開昭57−165437号公報
【特許文献2】特開昭61−36343号公報
【特許文献3】特開平6−25476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、優れた難燃性及び塗工性を有する樹脂塗料組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る難燃性樹脂塗料組成物は、水性エマルジョンを樹脂固形分として100重量部と、非ハロゲン系難燃剤5〜100重量部と、層状珪酸塩0.1〜100重量部とを含有し、固形分濃度が30〜60重量%であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る難燃性樹脂塗料組成物では、好ましくは、25℃における粘度が1000〜30000mPa・sの範囲とされる。
【0020】
本発明に係る難燃性樹脂塗料組成物において、好ましくは、上記水性エマルジョンは、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル系樹脂及びエチレン−アクリル系樹脂から選択された少なくとも1種のエマルジョン樹脂を有し、樹脂固形分が30〜70重量%とされている。
【0021】
本発明に係る難燃性樹脂塗料組成物においては、好ましくは、上記非ハロゲン系難燃剤として、金属水和物、メラミン誘導体及び金属酸化物からなる群から選択された少なくとも1種が用いられる。
【0022】
本発明に係る難燃性樹脂塗料組成物では、好ましくは、上記層状珪酸塩として、炭素数6以上のアルキル鎖を1個以上有する4級アンモニウム塩を含有するモンモリロナイト及び/または膨潤性マイカが用いられる。
【0023】
本発明に係る難燃性樹脂塗料組成物の製造方法は、難燃性樹脂塗料組成物を製造する方法であって、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル系樹脂及びエチレン−アクリル系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種のエマルジョン樹脂を含み、樹脂固形分が30〜70重量%である水性エマルジョン中に先ず金属水和物、メラミン誘導体及び金属酸化物からなる群より選択された少なくとも1種である非ハロゲン系難燃剤を分散させ、次に、層状珪酸塩を分散させることを特徴とする。
【0024】
本発明に係る難燃性樹脂塗料組成物の製造方法では、好ましくは、溶液粘度を常温(25℃)で10000〜100000mPa・sに保ちながら、前記非ハロゲン系難燃材及び層状珪酸塩を分散される。
【0025】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0026】
本発明の難燃性樹脂塗料組成物に含有される上記水性エマルジョンを構成するエマルジョン樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル系樹脂、エチレン−アクリル系樹脂が挙げられ、なかでも、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好適に用いられる。これらのエマルジョン樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。なお、エマルジョン樹脂とは、エマルジョンの分散質を構成する樹脂をいうものとする。
【0027】
また、上記水性エマルジョンは、上記エマルジョン樹脂が分散質として分散された分散系をいうが、分散媒としては水または水性媒体とを用いることができる。そして、水性エ
マルジョンでは、好ましくは、上記エマルジョン樹脂からなる樹脂固形分は30〜70重量%の範囲が望ましい。30重量%未満では、充填剤を分散させる際に剪断力がかからず分散不良の原因となり、70重量%を超えると、充填剤同士が凝集を引き起こすようになる。
【0028】
また、難燃性樹脂塗料組成物全体では、固形分濃度は30〜60重量%の範囲であることが必要である。30重量%未満では、フィルムや繊維に塗工を行う際にタレ及びハジキなどを起こす原因となり、60重量%を超えると、塗工スジ及び膜厚ムラの原因となる。好ましくは、固形分濃度は45〜55重量%の範囲とされる。
【0029】
また、本発明において上記層状珪酸塩は、ハロゲン系難燃剤とともに難燃性を高めるために配合されているが、層状珪酸塩としては、下記の関係式で定義される形状異方性が大きい層状珪酸塩を用いることが好ましい。このような形状異方性が大きい層状珪酸塩としては、モンモリロナイトや膨潤性マイカが挙げられ、本発明においては、好ましくは、膨潤性マイカ及び/またはモンモリロナイトが層状珪酸塩として好ましく用いられる。形状異方性の大きい層状珪酸塩を用いた場合、本発明の難燃性樹脂塗料組成物によりフィルムを構成した場合、フィルムの力学的物性が良好となる。
【0030】
形状異方性=層状珪酸塩の薄片状結晶の結晶表面の面積/結晶側面の面積
上記層状珪酸塩の寸法は特に限定されないが、平均長さが0.01〜3μm、厚みが0.001〜1μm、アスペクト比が20〜500であることが好ましく、より好ましくは、平均長さが0.05〜2μm、厚みが0.01〜0.50μm、アスペクト比が50〜200である。
【0031】
上記層状珪酸塩の結晶層間に存在する交換性金属カチオンとは、層状珪酸塩の結晶表面状に存在するナトリウムイオンやカルシウムイオンなどの金属イオンのことであり、これらの金属イオンは、他のカチオン性物質とのカチオン交換性を有するため、カチオン性を有する種々の物質を層状珪酸塩の結晶層間に挿入(インターカレート)もしくは補足することができる。
【0032】
上記層状珪酸塩のカチオン交換容量は、特に限定されるものではないが、50〜200ミリ等量/100gであることが好ましい。層状珪酸塩のカチオン交換容量が50ミリ等量/100g未満であると、カチオン交換により層状珪酸塩の結晶層間に挿入もしくは補足されるカチオン性物質の量が少なくなるために、結晶層間が十分に非極性化(疎水化)されないことがあり、逆に層状珪酸塩のカチオン交換容量が200ミリ等量/100gを超えると、層状珪酸塩の結晶層間の結合力が強固になり過ぎて、結晶薄片が剥離しにくくなることがある。
【0033】
本発明の難燃性樹脂塗料組成物においては、水性エマルジョンの樹脂固形分100重量部に対して、上述した層状珪酸塩が0.01〜100重量部配合されていることが必要であり、好ましくは1〜20重量部である。
【0034】
水性エマルジョン100重量部(樹脂固形分)に対する層状珪酸塩の配合量が0.1重量部未満であると、燃焼時に焼結体を形成しにくくなるので、塗膜の難燃性が不十分となり、逆に水性エマルジョン100重量部に対する層状珪酸塩の配合量が50重量部を超えると、塗膜の密度(比重)が高くなって、重量増加及び柔軟性が低下により加工性や施工性が低下する。
【0035】
本発明の難燃性樹脂塗料組成物に含有される非ハロゲン系難燃剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属水酸化物、メラミン誘導体、金属酸化物、リン系難燃
剤、シリコーン系難燃剤などの非ハロゲン系難燃剤が挙げられ、なかでも、金属水酸化物、メラミン誘導体、金属酸化物が好適に用いられる。これらの難燃剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0036】
上記金属水酸化物としては、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ドーソナイト、アルミン酸化カルシウム、2水和石こう、水酸化カルシウム等が挙げられ、なかでも、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムが好適に用いられる。これらの金属水酸化物は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0037】
上記金属水酸化物としては、各種の表面処理剤により表面処理が施されているものであってもよい。上記表面処理剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ポリビニルアルコール系表面処理剤、エポキシ系表面処理剤等が挙げられる。これらの表面処理剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0038】
上記金属水酸化物(表面処理金属水酸化物も含む)は、燃焼時の高熱下で吸熱脱水反応を起こすので、吸熱し、かつ、水分子を放出することにより、燃焼場の温度を低下させ、消火する効果を発揮する。本発明の難燃性樹脂塗料組成物は、前記層状珪酸塩を含有しているので、上記金属水酸化物による難燃化効果が増大される。これは、層状珪酸塩の燃焼時の皮膜形成による難燃化効果と金属水酸化物の吸熱脱水反応による難燃化効果とが協奏的に起こり、それぞれの難燃化効果が助長されることによるものと考えられる。
【0039】
上記メラミン誘導体としては、特に限定されるものではないが、例えば、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンイソシアヌレート等や、これらに表面処理が施されたものが挙げられ、なかでも、メラミンシアヌレートが好適に用いられる。これらのメラミン誘導体は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0040】
上記メラミン誘導体は、燃焼時の高熱下で重合反応を起こすことにより、焼結体を形成する。この焼結体は燃焼しの早い段階で形成されるので、外界からの酸素の供給を遮断するのみならず、燃焼により発生する可燃性ガスも遮断することができる。
【0041】
本発明の難燃性樹脂塗料組成物においては、水性エマルジョン100重量部(樹脂固形分)に対して、上記非ハロゲン系難燃剤5〜100重量部配合されていることが必要であり、好ましくは20〜60重量部である。
【0042】
水性エマルジョン100重量部(樹脂固形分)に対する非ハロゲン系難燃剤の配合量が5重量部未満であると、十分な難燃化効果を得られず、逆に水性エマルジョン100重量部に対する非ハロゲン系難燃剤の配合量が100重量部を超えると、難燃化効果は十分に得られるものの、塗工性が低下したり、得られる塗工品の膜密度が高くなって、重量増加及び柔軟性低下により施工性が低下する。
【0043】
本発明に係る難燃性樹脂塗料組成物には、上記必須成分としての水性エマルジョン、層状珪酸塩及び非ハロゲン系難燃剤以外に、本発明の課題達成を阻害しない範囲において、必要に応じて、様々な添加剤や顔料もしくは染料などを添加することができる。
【0044】
上記添加剤としては、好ましくは、水性エマルジョンの安定性を阻害しない添加剤として水系添加剤が挙げられる。このような水系添加剤としては、界面活性剤、沈降防止剤、消包剤またはレベリング剤などが挙げられ、これらは少なくとも1種を適宜添加することができる。水系添加剤を添加する場合、その配合割合は、水性エマルジョン100重量部
に対し、0.001〜5重量部程度とすることが望ましい。
【0045】
さらに、本発明に係る難燃性樹脂塗料組成物は、難燃性に優れた塗膜を形成するのに好適に用いられる。従って、難燃性樹脂塗料組成物は、難燃性樹脂塗料組成物として好適に用いられるが、その場合には、塗膜における色を発現するために、顔料、染料等が配合されていることが望ましい。このような顔料や染料についても特に限定されず、また、顔料や染料を添加する場合、顔料や染料の分散性を高めるために、分散剤をさらに配合してもよい。
【0046】
本発明の難燃性樹脂塗料組成物は、常温(20℃)における溶液粘度が1000〜30000Pa・sであることを特徴とする。
【0047】
難燃性樹脂塗料組成物の溶液粘度が、1000mPa・sであると、ガラスクロスなどの基材に塗工した場合、ハジキを発生し外観不良になることかがあり、30000mPa・sを超えると、同様に塗工した場合、ムラを発生し均一な厚みの塗膜を得ることが困難となる。
【0048】
本発明の難燃性樹脂塗料組成物を製造する方法は、上記水性エマルジョン中に先ず非ハロゲン系難燃剤を分散させ、次に、層状珪酸塩を分散させることを特徴とする。
【0049】
また、上記難燃性樹脂塗料組成物の製造方法においては、上記層状珪酸塩を溶液粘度10000〜100000mPa・sに保った状態で分散を行う必要があり、好ましくは10000〜50000mPa・sとされる。
【0050】
上述の分散時の溶液粘度が10000mPa・s未満であると、剪断力がかかりにくく分散不良を起こし易くなるという問題点がある。逆に分散時の溶液粘度が100000mPa・sを超えると、難燃剤同士もしくは難燃剤とエマルジョン粒子とが凝集し、分散不良や経時でゲル化などを起こし易くなる。
【0051】
水性エマルジョン中に層状珪酸塩を分散させるための装置としては、特に限定されるものではないが、例えば、水性エマルジョンと層状珪酸塩とを、ディスパー、ホモジナイザー、遊星式攪拌装置、三本ロールミルが挙げられ、いずれの装置を用いて分散させてもよい。
【発明の効果】
【0052】
本発明に係る難燃性樹脂塗料組成物では、上記水性エマルジョンの樹脂固形分100重量部に対し、非ハロゲン系難燃剤5〜100重量部と、層状珪酸塩0.1〜100重量部とが配合されており、固形分濃度が30〜60重量%の範囲とされているため、塗工が容易であり、塗工された難燃性樹脂塗料組成物からなる膜の表面性状が良好であり、さらに難燃性に優れた膜を形成することが可能となる。しかも、非ハロゲン系難燃剤及び層状珪酸塩を配合して難燃性を高めているため、環境汚染が生じ難い。さらに、非ハロゲン系難燃剤に対し、さらに層状珪酸塩を配合することにより、非ハロゲン系難燃剤の配合割合を少なくすることが可能とされている。従って、難燃性樹脂塗料組成物からなる皮膜を有するシートや膜材を作製した場合、火災発生時に有毒なガスが生じ難く、さらに該皮膜が連続的に良好な表面性状を有するように形成されるため、延焼の危険性を著しく低減することが可能となる。
【0053】
本発明に係る難燃性樹脂塗料組成物の25℃における粘度が1000〜30000mPa・sである場合には、様々な基材に塗工した際に良好な外観性状を有する均一な厚みの塗膜を確実に形成することができる。
【0054】
水性エマルジョンが、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アルリル系樹脂、及びエチレン−アクリル系樹脂から選択された少なくとも1種の樹脂をエマルジョン樹脂として含み、樹脂固形分が30〜70重量%とされている場合には、塗工が容易であり、かつ外観性状が良好であり、均一な塗膜をより一層確実に形成することができる。
【0055】
非ハロゲン系難燃剤は、金属水酸化物、メラミン誘導体及び金属酸化物からなる群から選択された少なくとも1種である場合には、環境汚染を引き起こすことなく良好な難燃化効果を得ることができる。
【0056】
層状珪酸塩が、モンモリロナイト及び/または膨潤性マイカである場合には、形状異方性が大きいため、得られた塗膜の力学的強度を高めることができる。また、炭素数6以上のアルキル鎖を1個以上有する4級アンモニウム塩を含有するモンモリロナイト及び/または膨潤性マイカである場合には、過剰に層間が剥離せず上述の塗料組成物を塗工する際に適した粘度に保つことが可能となる。
【0057】
本発明に係る製造方法では、水性エマルジョン中に先ず非ハロゲン系難燃剤を分散し、次に層状珪酸塩を分散させるため、難燃剤が先ず均一に分散され、難燃性浮揚効果を効果的に高めることができる。
【0058】
溶液粘度を25℃で10000〜100000mPa・sに保ちつつ、上記非ハロゲン系難燃剤及び層状珪酸塩を分散させた場合には、非ハロゲン系難燃剤及び層状珪酸塩をより一層均一に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、本発明の具体的な実施例を説明することにより本発明の効果を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
<難燃性樹脂塗料組成物の作製方法>
(実施例1)
倉敷紡績社製の遊星式攪拌装置「マゼルスター」を用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合体(電気化学工業社製、商品名「デンカEVAテックス54」)を樹脂固形分として100重量部に、先ずメラミンシアヌレート(日産化学工業社製、商品名「MC−610」)30重量部及び水酸化マグネシウム(堺化学工業社製、商品名「MgZ−1」)40重量部を攪拌することにより分散させ、次に、ジステアリルジメチル4級アンモニウム塩で有機化処理を施した膨潤性フッ素マイカ(コープケミカル社製、商品名「ソマシフMAE−100」)10重量部を分散させ、最後に沈降防止剤1重量部、消包材0.5重量部、及び水20重量部を加えて希釈することにより、難燃性樹脂塗料組成物を作製した。
【0061】
<粘度測定方法>
JIS K5400(回転粘度計法)に従い、粘度を測定した。すなわち、500mlのビーカーに深さ100mmになるまで難燃性樹脂塗料組成物を入れ、温度を20℃に保った状態で東機械産業社製のSA型粘度計「B8H型粘度計」にSA3号ローターを取り付け、回転数5rpmで粘度を測定した。
【0062】
<成膜方法>
上述の難燃性樹脂塗料組成物を用いて、ガラスクロス基材(カネボウ社製、商品名「KS2500」)上に、アプリケーターを用いて100℃、3分間乾燥後の膜厚が300μmになるように塗工した。
【0063】
<難燃性樹脂塗料組成物の分散性及び塗工性の評価方法>
上述の液状組成物の分散性については、JIS−5600−2−5に従い、粒ゲージ(溝の最大深さ100μm)を用いることにより、粒度として評価した。また、ガラスクロス基材上に塗工された皮膜の表面に存在するハジキ,膜厚ムラについては、目視にて以下の尺度で行った。
【0064】
評価尺度
〇:見られない
△:少し見られる
×:かなり見られる
【0065】
<難燃性評価>
燃焼試験ASTM E 1354(建築材料の燃焼試験方法)に準拠して、上述のガラスクロスに塗工した試験片(99mm×99mm×300μm厚)にコーンカロリーメーターによって50kW/m2の熱線を照射し燃焼させた。加熱開始後から試験片に着火す
るまでの時間を測定して総発熱量及び200kW/m2超過時間を求めた。
【0066】
(実施例2)
倉敷紡績社製の遊星式攪拌装置「マゼルスター」を用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合体(電気化学工業社製、商品名「デンカEVAテックス54」)を樹脂固形分として100重量部に、先ずメラミンシアヌレート(日産化学工業社製、商品名「MC−610」)30重量部、水酸化マグネシウム(堺化学工業社製、商品名「MgZ−1」)40重量部及び酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「R−24」)5重量部を攪拌することにより分散させ、次に、ジステアリルジメチル4級アンモニウム塩で有機化処理を施した膨潤性フッ素マイカ(コープケミカル社製、商品名「ソマシフMAE−100」)10重量部を分散させ、最後に沈降防止剤1重量部、消包材0.5重量部、及び水20重量部を加えて希釈することにより、難燃性樹脂塗料組成物を作製した。
【0067】
(実施例3)
ジステアリルジメチル4級アンモニウム塩で有機化処理を施した膨潤性フッ素マイカ(コープケミカル社製、商品名「ソマシフMAE−100」)10重量部の代わりに、ジステアリルジメチル4級アンモニウム塩で有機化処理を施した(豊順鉱業社製、商品名「ニューエスベンD」)10重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして難燃性樹脂塗料組成物を作製した。
【0068】
(比較例1)
ジステアリルジメチル4級アンモニウム塩で有機化処理を施した膨潤性フッ素マイカ(コープケミカル社製、商品名「ソマシフMAE−100」)10重量部を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして難燃性樹脂塗料組成物を作製した。
【0069】
(比較例2)
メラミンシアヌレート(日産化学工業社製、商品名「MC−610」)30重量部及び水酸化マグネシウム(堺化学工業社製、商品名「MgZ−1」)40重量部を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして難燃性樹脂塗料組成物を作製した。
【0070】
(比較例3)
希釈用に加える水を100重量部にしたこと以外は実施例1と同様にして難燃性樹脂塗料組成物を作製した。
【0071】
(比較例4)
ジステアリルジメチル4級アンモニウム塩で有機化処理が施されていない膨潤製フッ素マイカ(コープケミカル社製、商品名「ソマシフME−100」)10重量部に代えたこと以外は実施例1と同様にして難燃性樹脂塗料組成物を作製した。
【0072】
(比較例5)
メラミンシアヌレート(日産化学工業社製、商品名「MC−610」)30重量部に代えてシリコーン・アクリル複合ゴム(三菱レイヨン社製、商品名「メタブレンSX−005」)5重量部を加えたこと以外は実施例1と同様にして難燃性樹脂塗料組成物を作製した。
【0073】
(比較例6)
倉敷紡績社製の遊星式攪拌装置「マゼルスター」を用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合体(電気化学工業社製、商品名「デンカEVAテックス54」)を樹脂固形分として100重量部に、ジステアリルジメチル4級アンモニウム塩で有機化処理を施した膨潤性フッ素マイカ(コープケミカル社製、商品名「ソマシフMAE−100」)30重量部、水酸化マグネシウム(堺化学工業社製、商品名「MgZ−1」)40重量部、沈降防止剤1重量部、消包剤0.5重量部、及び水20重量部を一括して加え難燃性樹脂塗料組成物を作製した。
【0074】
(比較例7)
倉敷紡績社製の遊星式攪拌装置「マゼルスター」を用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合体(電気化学工業社製、商品名「デンカEVAテックス54」)を樹脂固形分として100重量部に、先ずメラミンシアヌレート(日産化学工業社製、商品名「MC−610」)30重量部及び水酸化マグネシウム(堺化学工業社製、商品名「MgZ−1」)40重量部を攪拌することにより分散させ、次に水20重量部を加えてから、ジステアリルジメチル4級アンモニウム塩で有機化処理を施した膨潤性フッ素マイカ(コープケミカル社製、商品名「ソマシフMAE−100」)10重量部を分散させ、最後に沈降防止剤1重量部及び消包材0.5重量部を加えることにより、難燃性樹脂塗料組成物を作製した。
【0075】
上記実施例2,3及び比較例1〜7で得た難燃性樹脂塗料組成物についても、実施例1と同様にして評価した。結果を下記の表1に示す。
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性エマルジョンを樹脂固形分として100重量部と、非ハロゲン系難燃剤5〜100重量部と、層状珪酸塩0.1〜100重量部とを含有し、固形分濃度が30〜60重量%であることを特徴とする難燃性樹脂塗料組成物。
【請求項2】
25℃における粘度が1000〜30000mPa・sである請求項1に記載の難燃性樹脂塗料組成物。
【請求項3】
水性エマルジョンが、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル系樹脂及びエチレン−アクリル系樹脂から選択された少なくとも1種のエマルジョン樹脂を有し、樹脂固形分が30〜70重量%とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性樹脂塗料組成物。
【請求項4】
非ハロゲン系難燃剤が、金属水和物、メラミン誘導体及び金属酸化物からなる群より選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性樹脂塗料組成物。
【請求項5】
層状珪酸塩が、炭素数6以上のアルキル鎖を1個以上有する4級アンモニウム塩を含有するモンモリロナイト及び/または膨潤性マイカであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性樹脂塗料組成物。
【請求項6】
難燃性樹脂塗料組成物を製造する方法であって、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル系樹脂及びエチレン−アクリル系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種のエマルジョン樹脂を含み、樹脂固形分が30〜70重量%である水性エマルジョン中に先ず金属水和物、メラミン誘導体及び金属酸化物からなる群より選択された少なくとも1種である非ハロゲン系難燃剤を分散させ、次に、層状珪酸塩を分散させることを特徴とする難燃性樹脂塗料組成物の製造方法。
【請求項7】
溶液粘度を常温(25℃)で10000〜100000mPa・sに保ちながら、前記非ハロゲン系難燃剤及び層状珪酸塩を分散させること特徴とする請求項6に記載の難燃性樹脂塗料組成物の製造方法。


【公開番号】特開2006−28305(P2006−28305A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207549(P2004−207549)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】