説明

難燃性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】互いに非相容性のセルロース系樹脂とポリカーボネート樹脂との樹脂材料と、難燃剤とを混練して成る難燃性樹脂組成物において、セルロース系樹脂中に、難燃剤を添加量全体の25%以上含有させることができる。
【解決手段】互いに非相容性のセルロース系樹脂とポリカーボネート樹脂との樹脂材料と、難燃剤とを混練して成る難燃性樹脂組成物の製造方法において、セルロース系樹脂に難燃剤を混合分散させたマスターバッチを製造するマスターバッチ製造工程と、製造したマスターバッチとポリカーボネート樹脂とを混練機10で混練して、セルロース系樹脂中の難燃剤をポリカーボネート樹脂が移行するようにすると共に、その移行量を制御する難燃剤移行工程と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物及びその製造方法に係り、特に、互いに非相溶性のセルロース系樹脂とポリカーボネート樹脂とに難燃剤を溶融混練する際に、難燃剤に対して相溶性の低いセルロース系樹脂に高濃度で難燃剤を含有させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形原料や押出成形原料等の溶融成形する原料としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル、ポリアミド、ポリスチレン樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等の石油系の合成樹脂が広く使用されている。
【0003】
かかる石油系の合成樹脂で製造された容器やフィルム等の生活必需品や工業製品の廃棄物は、一部はリサイクルされるものの、多くが焼却や埋め立て等によって処分されることで、地球温暖化の原因物質として考えられているCOを多く排出することにつながっている。このような背景から、これ以上COを大気中に増やさないカーボンニュートラルという考え方が重要視され始めており、樹脂材料を石油原料から天然原料に変えて合成された材料への代替が進みつつある。特に、とうもろこしやサトウキビを原料として、発酵・合成されたポリ乳酸樹脂は優れた力学物性を有しており、最も利用が進んでいる。その他にもとうもろこしの発酵によって、得られるエタノールをガソリンの代替として燃料の一部として利用されたりしている。
【0004】
しかし、原料のとうもろこしは農業用飼料として家畜を育てたり、人が食用として利用したりすることから、今後利用量が増加した場合、食料不足を生じる原因となる可能性がある。但し、厳密には食用のとうもろこしと、樹脂原料用のとうもろこしとは異なるため問題にはならないという意見もある。しかし、米国やオーストラリアなどの穀倉地帯での生産量は温暖化による影響と考えられる気候変動の影響と考えられる渇水によるとうもろこし生産量の大幅な減少が発生したり、投機的な取引の影響を受けたりすることで流通量が不足するという問題が発生する可能性も考えられる。
【0005】
このような背景から、非可食性原料を使った天然原料由来の樹脂が求められている。その中でも、セルロース系材料は古くから利用されており、供給に問題がない。また、既にディスプレイ用材料としても多量に利用されており、通常の高分子材料としての利用実績も十分である上、ポリ乳酸がもつ耐熱性の不足や、使用環境化における加水分解などの課題をセルロース系樹脂は解決できる可能性がある。したがって、いままでポリ乳酸樹脂が利用できなかった分野へも用途が広げられる可能性がある。
【0006】
しかし、セルロース系樹脂は溶融粘度が大きく流動性が低いために成形材料として単独使用しにくいと共に、衝撃強度も石油系樹脂に比べると弱い。したがって、セルロース系樹脂にはない特性を有する石油系樹脂を加えることでセルロース系樹脂の物性を用途に合わせて変えることも重要になる。また、溶融成形による成形品は各種の難燃性用途に使用されており、セルロース系樹脂を成形材料として用いる場合にも難燃性が要求される。
【0007】
このような背景から、セルロース系樹脂(天然原料)とポリカーボネート樹脂(石油原料)と難燃剤とを混練機で溶融混練することで、セルロース系樹脂にポリカーボネート樹脂の特性を加えた難燃性樹脂組成物が製造されている。
【0008】
しかし、セルロース系樹脂は難燃剤との相溶性が低いために、溶融混練する際にポリカーボネート樹脂側に多く含有され、セルロース系樹脂側に十分に含有されないという問題がある。これにより、難燃性樹脂組成物として十分な難燃性を発揮できないという問題がある。
【0009】
難燃剤を樹脂に含有させる技術としては、例えば特許文献1及び特許文献2がある。特許文献1は、熱可塑性樹脂を加熱溶融した後に難燃剤を配合し、次いで溶融混練することにより、難燃剤の分散性が良くなるとされている。また、特許文献2は、ポリエステル樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)、ポリエステルエラストマー樹脂(C)及びホスファゼン化合物(D)の組成物構成にすることで、組成物中にホスファゼン化合物(D)を均一に分散することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−109269号公報
【特許文献2】特開2006−307178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、互いに非相溶性のセルロース系樹脂とポリカーボネート樹脂との樹脂材料と、難燃剤とを溶融混練して難燃性樹脂組成物を製造する際、特許文献1や特許文献2の方法を適用しても、難燃剤とセルロース系樹脂との相溶性が低い場合には、セルロース系樹脂に含有される難燃剤の割合が少なくなる。セルロース系樹脂を含有する難燃性樹脂組成物に十分な難燃性を発揮させるには、難燃性樹脂組成物のうちのセルロース系樹脂中に、難燃剤が添加量全体の25%以上含有されることが望ましい。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、互いに非相溶性のセルロース系樹脂とポリカーボネート樹脂との樹脂材料と、難燃剤とが溶融混練されて成る難燃性樹脂組成物において、セルロース系樹脂中に、難燃剤を添加量全体の25%以上含有させることができるので、特に難燃性において従来達成できなかった顕著な品質向上を図ることができる難燃性樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願請求項1の難燃性樹脂組成物は前記目的を達成するために、互いに非相溶性のセルロース系樹脂とポリカーボネート樹脂との樹脂材料と、難燃剤とが溶融混練されて成る難燃性樹脂組成物において、前記難燃性樹脂組成物がポリカーボネート樹脂100質量部に対して、セルロース系樹脂60〜80質量部、難燃剤10〜50質量部の組成比率であると共に、前記難燃性樹脂組成物のうちの前記セルロース系樹脂中に、前記難燃剤が添加量全体の25%以上含有されていることを特徴とする。
【0014】
ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、セルロース系樹脂60〜80質量部配合することで、セルロース系樹脂が含有された難燃性樹脂組成物の成形時の流動性や寸法精度等を改良することができる。また、難燃剤のトータルな配合量としては10〜50質量部であれば問題ないが、難燃剤と相溶性の低いセルロース系樹脂中への含有率を高めることが難燃性樹脂組成物の難燃性向上にとって重要になる。
【0015】
本発明によれば、難燃性樹脂組成物のうちのセルロース系樹脂中に、難燃剤が添加量全体の25%以上含有されるようにしたので、特に難燃性において従来達成できなかった顕著な品質向上を図ることができる。
【0016】
セルロース系樹脂中における更に好ましい難燃剤の含有量は、添加量全体の30質量%以上であり、添加量全体の34質量%以上であることが特に好ましい。
【0017】
本発明の組成物においては、前記難燃剤はリン酸エステルもしくは縮合リン酸エステルであることが好ましい。
【0018】
リン酸エステルもしくは縮合リン酸エステルはセルロース系樹脂に対して可塑化機能を有するので、難燃剤がセルロース系樹脂に相溶され易くなると共に、流動性の向上や未溶融物の低減を図ることができる。リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェートを、もしくは縮合リン酸エステルとしては、例えば1、3フェニレンビス(PX−200)を好適に使用できる。
【0019】
本願請求項3の難燃性樹脂組成物の製造方法は、前記目的を達成するために、セルロース系樹脂に難燃剤を混合分散させたマスターバッチを製造するマスターバッチ製造工程と、 前記製造したマスターバッチと前記ポリカーボネート樹脂とを混練機で溶融混練して、前記セルロース系樹脂中の難燃剤が前記ポリカーボネート樹脂に移行するようにすると共に、その移行量を制御する難燃剤移行制御工程と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明者は、セルロース系樹脂にのみ難燃剤を混合分散させたマスターバッチとポリカーボネート樹脂とを溶融混練し、溶融混練中にマスターバッチの難燃剤をポリカーボネート樹脂に移行させ難くすることで、セルロース系樹脂中に、難燃剤が添加量全体の25%以上含有された難燃性樹脂組成物を製造できるとの知見を得た。この場合、セルロース系樹脂とポリカーボネート樹脂とは互いに非相溶系の樹脂であり、難燃剤がセルロース系樹脂とポリカーボネート樹脂に相溶するため、セルロース系樹脂から分離した難燃剤がポリカーボネート樹脂に相溶することで移行するものと考察される。
【0021】
本発明は係る知見に基づいてなされたものであり、マスターバッチ製造工程では、セルロース系樹脂にのみ難燃剤を混合分散させたマスターバッチを製造し、このマスターバッチとポリカーボネート樹脂を溶融混練する際に、難燃剤がセルロース系樹脂からポリカーボネート樹脂に移行し難くした。そして、難燃剤移行制御工程では、セルロース系樹脂から分離した難燃剤がポリカーボネート樹脂に相溶することで移行するようにした。
【0022】
この難燃剤移行制御工程では、前記混練機のバレル温度を前記組成成分のうちの最も軟化温度の高い成分の軟化温度以上270℃以下、剪断速度を30sec−1以上436sec−1以下、滞留時間を10秒以上180秒以下に制御することが好ましい。但し、セルロース系樹脂の軟化温度は、難燃剤が含有された組成での軟化温度とする。
【0023】
これにより、溶融混練を十分に行った上で、難燃剤がセルロース系樹脂からポリカーボネート樹脂に移行し過ぎないようにして、難燃性樹脂組成物のうちのセルロース系樹脂中に難燃剤が添加量全体の25%以上含有されるようにすることができるので、難燃性において従来達成できなかった顕著な品質向上を図ることができる。なお、難燃剤の移行量は、混練機のバレル温度、混練速度、バレル内の滞留時間の3つの条件と移行量との関係を、予備試験等により予め求めておくとよい。
【0024】
また、本発明の製造方法において、前記マスターバッチ製造工程では、前記セルロース系樹脂と前記難燃剤を溶融混合させ、混合分散することが好ましい。
【0025】
これにより、難燃剤が高濃度に混合分散されたセルロース系樹脂のマスターバッチを製造できる。
【0026】
また、本発明の製造方法において、前記難燃剤はリン酸エステル、もしくは縮合リン酸エステルであることが好ましい。
【0027】
リン酸エステルはセルロース系樹脂に対して可塑化機能を有するので、難燃剤がセルロース系樹脂に相溶され易くなると共に、未溶融物の低減を図ることができる。リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェートを好適に使用できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、互いに非相溶性のセルロース系樹脂とポリカーボネート樹脂との樹脂材料と、難燃剤とが溶融混練されて成る難燃性樹脂組成物において、セルロース系樹脂中に、難燃剤を添加量全体の25%以上含有させることができるので、特に難燃性において従来達成できなかった顕著な品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のセルロース系樹脂組成物の製造装置に用いる混練機である二軸混練機の構成を説明する説明図
【図2】混練部のスクリューセグメント構造を説明する説明図
【図3】実施例と比較例を対比した表図
【図4】ポリカーボネート樹脂中のトリフェニルホスフェートの含有率と、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面に従って難燃性樹脂組成物及びその製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0031】
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法は、主として、セルロース系樹脂に難燃剤を混合分散させたマスターバッチを製造するマスターバッチ製造工程と、製造したマスターバッチとポリカーボネート樹脂とを混練機で溶融混練して、セルロース系樹脂中の難燃剤がポリカーボネート樹脂に移行するようにすると共に、その移行量を制御する難燃剤移行制御工程と、で構成される。
【0032】
これにより、難燃性樹脂組成物のうちのセルロース系樹脂中に、難燃剤を添加量全体の25%以上含有させることができる。したがって、特に難燃性において従来達成できなかった顕著な品質向上を図ることができる。より好ましいセルロース系樹脂中の難燃剤含有量としては30質量%以上であり、34質量%以上であることが特に好ましい。
【0033】
本実施の形態におけるセルロース系樹脂としては特に限定されないが、ジアセチルセルロース(DAC)やトリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を好ましく使用できる。
【0034】
また、難燃剤としては、リン酸エステル、例えばトリフェニルホスフェートを好適に使用することができる。リン酸エステルはセルロース系樹脂に対して可塑化機能を有しており、難燃剤がセルロース系樹脂に相溶され易くなると共に、流動性の向上や未溶融物の低減を図ることができる。
【0035】
マスターバッチ製造工程では、一軸混練機、二軸混練機、ニーダー、ミキサー等を使用することができるが、二軸混練機を使用することが特に好ましい。二軸混練機で製造されたマスターバッチはダイからストランド状に吐出した後、カッティングしてマスターバッチペレットにすることが好ましい。
【0036】
難燃剤移行制御工程では、マスターバッチとポリカーボネート樹脂を混練機で溶融混練するが、混練機としては一軸混練機、二軸混練機を使用することができるが二軸混練機が特に好ましい。
【0037】
図1は、二軸混練機の構成を示した概略図である。図1の(A)は側面図、(B)が二軸スクリューを示す上面図である。
【0038】
図1に示すように、二軸混練機10のバレル12内部には2本のスクリュー14、14が並列され、各スクリュー14、14は図示しないモータにより回転される。2本のスクリュー14、14は同方向回転でも異方向回転でもよいが、同方向回転がより好ましい。
【0039】
二軸混練機10のバレル長手方向の一端側上面には、原料供給口16が開口されると共に、原料供給口16に原料投入用のホッパー18が設けられる。バレル12内部は、ホッパー18側から順に、搬送ゾーン20、混練ゾーン26、昇圧・排出ゾーン28に分かれる。なお、図1(B)では、混練ゾーン26を四角で示してある。
【0040】
上記各ゾーン20、26、28を構成するバレル12外部には、各ゾーン20、26、28の温度調整を行う温度調整手段(図示せず)がそれぞれ設けられ、各ゾーン20、26、28の温度を個別に調整できるようになっている。温度調整手段としては、電気ヒータ、あるいは温水及び冷水が流れるジャケットを好適に使用することができる。
【0041】
搬送ゾーン20及び昇圧・排出ゾーン28には、スクリュー軸に2条ネジ又は1条ネジと呼ばれるスクリューエレメントが設けられる。
【0042】
一方、混練ゾーン26のスクリュー14には、図2(A)、(B)に示すように、楕円状のニーディングディスク14Bと呼ばれるスクリューエレメントが等間隔で複数設定されている。そして、2本のスクリュー14、14に設けられたニーディングディスク14Bの回転方位位相が連続的に、又は周期的に異なるように設定されている。連続的に位相差がずらされており、且つその位相のずれ方が樹脂の排出方向に対して順方向になっているものを図2(B)に示すように順ニーディングという。ニーディングディスク14Bは回転方向と同方向に捻じる捻じれ角を有して順次ずらして配設され、捻じれ角は例えば45°程度に設定される。そして、対応するニーディングディスク14B同士が図2(A)に示すように、回転周期を90°ずらした位置関係を保持する状態で回転駆動される。
【0043】
また、位相差のずれ方が樹脂の排出方向と逆方向になっているものを逆ニーディング(図示せず)といい、周期的にずらされているだけで搬送能力のないものをニュートラルニーディング(図示せず)という。これらにより、ニーディングディスク14Bの面相互間での剪断作用と、不連続なニーディングディスク14Bによる切返し効果による分散作用が発生し、原料の分散・混合を行う。なお、図2(A)の矢印は原料の動きを示す。
【0044】
また、上記構造の二軸混練機10において、バレル温度を組成材料のうちの最も軟化温度の高い成分の軟化温度以上270℃以下、剪断速度を30sec−1以上436sec−1以下とすることが好ましい。但し、セルロース系樹脂の軟化温度は難燃剤を含有した組成での軟化温度とする。なお、通常は二軸混練機10においてバレル温度及び剪断速度が最も高くなるのは混練ゾーン26であるので、混練ゾーン26のバレル温度及び剪断速度と言い換えることもできる。また、二軸混練機10内での滞留時間を10秒以上180秒以下に制御する。
【0045】
混練ゾーン26でのバレル温度が270℃を超えると、セルロース系樹脂に難燃剤を混合分散させたマスターバッチ中の難燃剤がポリカーボネート樹脂に移行し易くなる。また、セルロース系樹脂は熱に弱いので黄色く着色し易くなる。より好ましい温度は240℃以下である。一方、バレル温度が組成材料のうちの最も軟化温度の高い成分の軟化温度未満であると、溶融混練を十分に行うことができず、難燃性樹脂組成物自体の品質を確保できない。但し、セルロース系樹脂の軟化温度は難燃剤を含有した組成での軟化温度とする。
【0046】
また、混練ゾーン26の剪断速度が436sec−1を超えると、マスターバッチ中の難燃剤がポリカーボネート樹脂に移行し易くなる。また、セルロース系樹脂は熱に弱いので剪断発熱によって黄色く着色し易くなる。一方、剪断速度が30sec−1未満では、溶融混練を十分に行うことができず、難燃性樹脂組成物自体の品質を確保できない。ここでの剪断速度は、図2(A)におけるニーディングディスク14BのクリアランスDを元に計算した。
【0047】
また、二軸混練機10での滞留時間が180秒を超えると、マスターバッチ中の難燃剤がポリカーボネート樹脂に移行し易くなる。より好ましい滞留時間は120秒以下であり、60秒以下であることが特に好ましい。一方、滞留時間が10秒未満では、溶融混練を十分に行うことができず、難燃性樹脂組成物自体の品質を確保できない。
【0048】
なお、二軸混練機10の滞留時間の測定は、二軸混練機10の運転中に、ホッパー18からスクリュー14の真上に、例えば青色に着色した青色樹脂を投入し、投入時刻を0秒とする。そして、二軸混練機10の先端に取り付けられたダイから押し出されるストランドを10秒ごとにサンプリングして青味を測定し、最も青いストランドのサンプリング時間を二軸混練機10内での滞留時間とする。
【0049】
したがって、上記3つの移行量制御条件の範囲内で、予備試験等により、難燃性樹脂組成物のうちのセルロース系樹脂中に、難燃剤を添加量全体の25%以上含有させることができる移行量制御条件を求めるとよい。
【実施例1】
【0050】
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法を満足する実施例と、満足しない比較例とで、製造された難燃性樹脂組成物のうちのセルロース系樹脂中に含有される難燃剤の含有率が添加量全体の何パーセントになるかを調べた。合わせて、製造された難燃性樹脂組成物の品質を調べた。品質としては、難燃性、未溶融物、着色の3項目について評価した。
【0051】
[原料]
ポリカーボネート樹脂(PC)と、セルロース系樹脂である酢酸セルロース(AC)と、可塑化機能を有する難燃剤であるトリフェニルホスフェート(TPP)とを、実施例及び比較例ともに、次の組成比率になるように原料調整を行った。
・ポリカーボネート樹脂(PC) …50質量部
・酢酸セルロース(AC) …35質量部
・トリフェニルホスフェート(TPP)…15質量部
[試験]
実施例は、二軸混練機を用いて、酢酸セルロースとトリフェニルホスフェートを溶融混練し、ダイからストランド状に吐出した後、カッティングすることにより、酢酸セルロース中にトリフェニルホスフェートが混合分散されたマスターバッチペレットを製造した。そして、このマスターバッチペレットと、ポリカーボネート樹脂とを図1に示した二軸混練機10で溶融混練した。
【0052】
比較例は、マスターバッチ化の工程は行わずに、ポリカーボネート樹脂、酢酸セルロース、及びトリフェニルホスフェートを、図1に示した二軸混練機10で直接溶融混練した。
【0053】
実施例、比較例ともに、二軸混練機10の条件は、バレル温度220℃、剪断速度260sec−1、滞留時間40秒で行った。
【0054】
[難燃性樹脂組成物の評価項目]
〈難燃性試験:UL94−V〉
実施例記載の難燃性樹脂組成物を射出成形することにより長さ127mm、幅12.7mm、厚さ1.6mmの難燃性樹脂組成物のテストピースを成形し、このテストピースを難燃性試験の試験片として用いた。UL94−Vはプラスチック部品などの燃焼性試験のうちでも最も基本的なもので、規定された寸法の試験片にガスバーナーの炎を当てて試験片の燃焼の程度を調べる。その等級は、難燃性が高い方から順に5VA,5VB,V−0,V−1,V−2,そしてHBがあり、V−1以上の難燃性を合格(○)とし、V−2以下の難燃性を不合格(×)とした。
【0055】
〈未溶融物試験〉
ストランドダイから吐出されるストランド(冷却後のもの)中の未溶融物の数が、ストランド10cm当たり2個以下であれば合格(○)、2個を超えて多ければ不合格(×)とした。未溶融物は組成物を手で触った際に表面に突起する突起物として確認することができる。なお、評価において×〜○の場合は、複数回の繰り返しテストで合格する場合と不合格の場合とがあることを示す。
【0056】
〈着色試験〉
実施例記載の難燃性樹脂組成物のイエローインデックス(YI値)が50以下であれば○、50を超えていれば×とした。
【0057】
[試験結果]
試験結果を図3の表に示す。
【0058】
〈セルロース系樹脂中の難燃剤含有率〉
図3の表から分かるように、実施例は、製造された難燃性樹脂組成物のうちのセルロース系樹脂中に含有されるトリフェニルホスフェートの含有率が添加量全体の34.2%となった。この実施例の含有率34.2%は、セルロース系樹脂を含有する難燃性樹脂組成物に十分な難燃性を発揮させるための要望値である25%以上を十分に満足している。
【0059】
これに対して、比較例は、セルロース系樹脂中に含有されるトリフェニルホスフェートの含有率が添加量全体の22.7%であり、要望値である25%を達成しなかった。
【0060】
上記実施例と比較例との対比から分かるように、本発明は、互いに非相溶性のセルロース系樹脂とポリカーボネート樹脂とに難燃剤を溶融混練して成る難燃性樹脂組成物において、難燃剤に対する相溶性の低いセルロース系樹脂中に、難燃剤を添加量全体の25%以上含有させることができる。
【0061】
これにより、特に難燃性において従来達成できなかった顕著な品質向上を図ることができた。
【0062】
なお、セルロース系樹脂中のトリフェニルホスフェートの含有率は、ポリカーボネート樹脂由来のガラス転移温度(Tg)を用いて以下のように算出した。以下、実施例の場合で算出方法を説明する。
【0063】
算出する上で、次の3点が前提条件になる。即ち、
I)ポリカーボネート樹脂と酢酸セルロースとは互いに非相溶系の樹脂であることから、ポリカーボネート樹脂由来のTg、及び酢酸セルロース由来のTgは、溶融混練することにより影響を受けない。
【0064】
II)図4は、ポリカーボネート樹脂中のトリフェニルホスフェートの配合量を変えたときのトリフェニルホスフェート配合分率とポリカーボネート樹脂のTgとの関係を示したものであり、直線関係がある。
【0065】
III)添加したトリフェニルホスフェートの全量は、最終組成物である難燃性樹脂組成物に残留する。
【0066】
そして、上記前提に基づいて以下のように算出した。即ち、
A)示差走査熱量測定(DSC測定)により、製造された難燃性樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂由来のTgを求めた。この測定結果が図3の表に示すように77.0℃であった。
【0067】
B)次に、図4記載の換算式、Y=−0.2169X+33.192より、ポリカーボネート樹脂中に含有されるトリフェニルホスフェートの質量%を求めた。この結果が図3の表に示すように16.5質量%になった。
【0068】
C)次に、酢酸セルロース中に含有されるトリフェニルホスフェートの質量%を以下のようにして算出した。
【0069】
即ち、上記16.5質量%は、ポリカーボネート樹脂の質量部とトリフェニルホスフェートの質量部の合計値に対するトリフェニルホスフェートの質量部の比率であるので、16.5質量%の残りである83.5質量%が図3の表の組成の欄に示したポリカーボネート樹脂の50質量部になる。したがって、ポリカーボネート樹脂とその中に含有されるトリフェニルホスフェートとの合計質量部は(式1)から59.9質量部になる。
【0070】
50/(1−0.165)…式1
また、上記の59.9質量部のうち50質量部がポリカーボネート樹脂なので、ポリカーボネート樹脂中に含有されるトリフェニルホスフェートは9.9質量部になる。
【0071】
D)次に、図3の表の組成の欄から添加したトリフェニルホスフェートの全体量は15質量部であるので、15質量部から9.9質量部を引いた値である5.1質量部が、酢酸セルロース中に含有したトリフェニルホスフェートの質量部になる。
【0072】
E)次に、この5.1質量部を、式2から、酢酸セルロース中に含有されるトリフェニルホスフェートの質量部と酢酸セルロースの質量部との合計値に対する酢酸セルロース中に含有されるトリフェニルホスフェートの質量%に換算すると、図3の表の12.8質量%になる。
【0073】
[5.1/(35+5.1)]×100…式2
また、式3により、この5.1質量部を、酢酸セルロース中に含有するトリフェニルホスフェートの比率に換算すると、図3の表の34.2%になる。そして、この数値は製造された難燃性樹脂組成物のうちのセルロース系樹脂中に含有される難燃剤の含有率が添加量全体の34.2%になることを意味する。
(5.1/15)×100…式3
なお、比較例についても、上記実施例と同様に算出することで、酢酸セルロース中に含有されるトリフェニルホスフェートの比率が図4の表の22.7%になる。
【0074】
〈製造された難燃性樹脂組成物の品質評価〉
図3の表から分かるように、実施例は、難燃性がV−0の評価、未溶融物が○の評価、着色が○の評価であり、全ての項目が合格であった。
【0075】
これに対して、比較例は、難燃性がV−2の評価、未溶融物が×〜○の評価、着色が○の評価であり、特に難燃性において、実施例よりもかなり劣る結果となった。この理由は、上記説明のように、比較例は実施例よりもセルロース系樹脂中のトリフェニルホスフェート含有率がかなり低いことによると考察される。
【符号の説明】
【0076】
10…混練機(二軸混練機)、12…バレル、14…スクリュー、14A…スクリュー軸、14B…ニーディングディスク、16…原料供給口、18…ホッパー、20…搬送ゾーン、26…混練ゾーン、28…昇圧・排出ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに非相溶性のセルロース系樹脂とポリカーボネート樹脂との樹脂材料と、難燃剤とが溶融混練されて成る難燃性樹脂組成物において、
前記難燃性樹脂組成物がポリカーボネート樹脂100質量部に対して、セルロース系樹脂60〜80質量部、難燃剤10〜50質量部の組成比率であると共に、
前記難燃性樹脂組成物のうちの前記セルロース系樹脂中に、前記難燃剤が添加量全体の25%以上含有されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記難燃剤はリン酸エステルであることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
セルロース系樹脂に難燃剤を混合分散させたマスターバッチを製造するマスターバッチ製造工程と、
前記製造したマスターバッチと前記ポリカーボネート樹脂とを混練機で溶融混練して、前記セルロース系樹脂中の難燃剤が前記ポリカーボネート樹脂に移行するようにすると共に、その移行量を制御する難燃剤移行制御工程と、を備えたことを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記難燃剤移行制御工程では、前記混練機のバレル温度を前記組成成分のうちの最も軟化温度の高い成分の軟化温度(但しセルロース系樹脂の軟化温度は難燃剤が含有された組成での軟化温度とする)以上270℃以下、剪断速度を30sec−1以上436sec−1以下、滞留時間を10秒以上180秒以下に制御することを特徴とする請求項3に記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記マスターバッチ製造工程では、前記セルロース系樹脂を溶融し、該溶融したセルロース系樹脂に前記難燃剤を混合分散することを特徴とする請求項3又は4に記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記難燃剤はリン酸エステルであることを特徴とする請求項3又は4に記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−202094(P2011−202094A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72514(P2010−72514)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】