説明

難燃性樹脂組成物及び成形物品

【課題】難燃性、機械特性、耐油性及び耐磨耗性に優れ、さらに高温下における熱変形に優れた難燃性樹脂組成物及び成形物品を提供する。
【解決手段】(a)密度900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体30〜80質量%、(b)ポリプロピレン樹脂20〜70質量%、(c)密度900kg/m未満のエチレン−α−オレフィン共重合体3〜35質量%、(d)不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系エラストマー0〜30質量%からなる樹脂成分(A)100質量部に対し、水酸化マグネシウム(B)100〜280質量部を含有する難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、難燃性、耐磨耗性及び機械特性に優れた難燃性樹脂組成物に関する。また、本発明は、これを用いた耐熱性、難燃性、耐磨耗性及び機械特性に優れた成形物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線・ケーブル・コードや光ファイバ心線、光ファイバコードなどには、難燃性や機械特性のほかに、柔軟性や耐熱性など種々の特性が要求されている。またシートやチューブなどにも同様に、難燃性や機械特性のほかに、柔軟性や耐熱性などが要求されている。
【0003】
電気・電子機器の配線材に求められる難燃性や機械特性(例えば引張特性)などの規格は、UL、JISなどで要求水準に応じて定められている。特に、難燃性に関しては、さらに用途に応じてその試験方法が定められている。例えば、UL1581(電線、ケーブルおよびフレキシブルコードのための関連規格(Reference Standard for Electrical Wires,Cables and Flexible Cords))に規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)(VW−1)や、JIS C 3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)に規定される水平試験や傾斜試験などがそれぞれ挙げられる。
【0004】
これまで、VW−1や傾斜試験に合格するような高度のノンハロゲンの難燃性樹脂組成物を得ようとすると、樹脂成分100質量部に対して、難燃剤である金属水和物を高充填、例えば100質量部以上配合する必要があった(例えば、特許文献1参照)。しかし、当該難燃性樹脂組成物を配線材の被覆材料として使用した場合には、引張特性などの機械特性や耐摩耗性が著しく低下する。
そこで、特定のポリプロピレン樹脂を含有する樹脂成分に対して、水酸化マグネシウムを配合した難燃性樹脂組成物により、高度の難燃性を維持しながら耐摩耗性を向上させた難燃性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、特許文献2に記載された難燃性樹脂組成物では、熱老化特性が十分でないことがあり、比較的高温で使用することが困難な場合があった(例えば特許文献2参照)。
【0005】
電線をはじめとする成形物品には、耐熱性として、高温下での耐加熱変形性が要求される。従来のPVC材料は耐加熱変形性は120℃以上は十分保持できたが、難燃ポリオレフィン材料は耐熱性に乏しく、前述のような耐加熱変形性を維持出来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−135142号公報
【特許文献2】特開2007−146054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決し、難燃性、機械特性、耐油性及び耐磨耗性に優れ、さらに高温下における耐熱変形性に優れた難燃性樹脂組成物及び成形物品を提供することを課題とする。
さらにくわしくは、本発明は、高度の難燃性および耐摩耗性を損なうことなく、十分な熱老化特性を有し、折り曲げても白化することなく、また傷つきにくく、耐油性に優れた難燃性樹脂組成物を提供することを課題とする。また本発明は、高度の難燃性および耐摩耗性を有するとともに、十分な耐熱性を有し、機械特性及び耐油性に優れた配線材、シート、チューブ等の成形物品を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、特定の値以上の密度を有する変性されていないエチレン−α−オレフィン共重合体と不飽和カルボン酸で変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体を必須成分として含む樹脂成分に対し、ノンハロゲン難燃剤として水酸化マグネシウムを含む樹脂組成物が、難燃性、機械特性、耐油性及び耐磨耗性に優れ、さらに高温下における熱変形に優れることを見出した。本発明はこの知見に基づきなされたものである。
【0009】
すなわち本発明は、
<1>(a)密度900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体30〜80質量%、(b)ポリプロピレン樹脂20〜70質量%、(c)密度900kg/m未満のエチレン−α−オレフィン共重合体3〜35質量%、(d)不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系エラストマー0〜30質量%からなる樹脂成分(A)100質量部に対し、水酸化マグネシウム(B)100〜280質量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物、
<2>前記(a)密度900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体が、不飽和カルボン酸で変性されているエチレン−α−オレフィン共重合体(a1)を含むことを特徴とする<1>記載の難燃性樹脂組成物、
<3>前記不飽和カルボン酸で変性されているエチレン−α−オレフィン共重合体(a1)を樹脂成分(A)中、30〜80質量%含むことを特徴とする<2>記載の難燃性樹脂組成物、
<4>前記(b)ポリプロピレン樹脂が、不飽和カルボン酸で変性されているエチレン−α−オレフィン共重合体(b1)を含むことを特徴とする<1>〜<3>のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物、
<5>前記(c)密度900kg/m未満のエチレン−α−オレフィン共重合体が、不飽和カルボン酸で変性されているエチレン−α−オレフィン共重合体(c1)を含むことを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物、
<6>前記(d)不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系エラストマーが樹脂成分(A)中に5〜20質量%であることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物、
<7>前記水酸化マグネシウム(B)が、無処理の水酸化マグネシウム及びシランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする<1>〜<6>のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物、
<8>導体の外周に被覆層として<1>〜<7>のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物を用いてなることを特徴とする成形物品、及び
<9><1>〜<7>のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物を用いて成形されていることを特徴とする成形物品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、難燃性、機械特性、耐油性及び耐磨耗性に優れ、さらに高温下における熱変形に優れた難燃性樹脂組成物及び成形物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の難燃性樹脂組成物は、(a)密度900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体30〜80質量%、(b)ポリプロピレン樹脂20〜70質量%、(c)密度900kg/m未満のエチレン−α−オレフィン共重合体3〜35質量%、(d)不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系エラストマー0〜30質量%からなる樹脂成分(A)100質量部に対し、水酸化マグネシウム(B)100〜280質量部を含有する。
まず、本発明の難燃性樹脂組成物のうち、その樹脂成分(A)を構成する各成分について説明する。
【0012】
(a)密度900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体
本発明の難燃性樹脂組成物は、必須成分として、密度が900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体を含有する。(a)成分のエチレン−α−オレフィン共重合体としては、例えばエチレンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体を挙げることができる。α−オレフィンの具体例としては、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどが挙げられる。(a)成分には、エチレンとプロピレンの共重合体は含まれない。
エチレン−α−オレフィン共重合体として具体的には、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、VLDPE(超低密度ポリエチレン)、EPR(エチレンプロピレンゴム)、EBR(エチレン−1‐ブテンゴム)、及びメタロセン触媒存在下に合成されたエチレン−αオレフィン共重合体等が挙げられる。このなかでも、メタロセン触媒存在下に合成されたエチレン−α−オレフィン共重合体が好ましい。
【0013】
(a)成分には、以下のように、(a1)不飽和カルボン酸で変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体を含むことが好ましい。
(a1)不飽和カルボン酸で変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体
(a1)成分は、不飽和カルボン酸で変性された、密度が900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体である。不飽和カルボン酸による変性量は、通常エチレン−α−オレフィン共重合体に対して0.2〜6質量%である。好ましい変性量は0.5〜2質量%である。不飽和カルボンで変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(JIS K 6922)は、十分な耐熱老化性と耐低温性を確保するため、0.3〜15g/1分のものが好ましい。さらに好ましくは、0.5〜10g/10分、さらに好ましくは0.5〜8g/10分である。
【0014】
エチレン−α−オレフィン共重合体の変性は、例えば、エチレン−α−オレフィン共重合体と不飽和カルボン酸を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸などを挙げることができる。この中でも、アクリル酸、メタクリル酸及び無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。さらに好ましくは、無水マレイン酸である。(a1)成分としては、密度が900kg/m以上のものを使用する。(a1)成分の密度は、好ましくは密度908kg/m以上であり、さらに好ましくは912kg/m以上である。(a1)成分の密度は945kg/m以下が好ましい。
この
【0015】
(a1)成分として、無水マレイン酸で変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体で、密度が900kg/m以上の結晶性の高いものを使用すると、非常に強度が高く、耐外傷、耐摩耗性及び耐油性が優れるだけでなく、難燃性と耐油性が飛躍的に向上し、特に圧接用電線に使用される場合、圧接刃での割れやストレインリリーフの盛り上がりがほとんどなく、優れた圧接加工用の電線を得ることができることを見出した。この機構はまだ定かではないが、無水マレイン酸で変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体中の変性部分が水酸化マグネシウムとイオン的に強固に結合することにより、水酸化マグネシウムとの界面近傍の強度が非常に高くなるものと思われる。
【0016】
(a)成分は、樹脂成分(A)中、30〜80質量%であることが必要である。(a)成分は、好ましくは35〜75質量%、さらに好ましくは45〜70質量%である。(a)成分の配合量をこの範囲とすることにより、耐摩耗性、耐油性、圧接性やさらには被覆材料の耐熱老化性が大幅に向上する。(a)成分が多すぎると耐熱性や耐摩耗性が低下し、外観が悪くなる。(a)成分の量が少なすぎると、機械特性が大幅に低下する。
前記不飽和カルボン酸で変性されているエチレン−α−オレフィン共重合体(a1)を樹脂成分(A)中、20〜80質量%含むことが好ましい。(a1)成分はさらに好ましくは、樹脂成分(A)中、30〜80質量%、特に好ましくは35〜75質量%、さらに好ましくは40〜65質量%である。(a1)成分を用いることで、耐摩耗性や圧接性、耐油性、また熱老化特性が著しく向上する。特に(a1)成分を25質量%以上加えることで強度が向上し、30質量%以上、さらに35質量%以上加えることで耐摩耗性が大幅に向上し、30質量%使用することで、圧接性が著しく向上する。また35質量%加えることで圧接性、耐摩耗性、熱老化特性が特に著しく向上する。
【0017】
(a1)成分の、密度が900kg/m以上の不飽和カルボン酸で変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体としては、具体的には、例えば、フサボンドMB265D、フサボンドE226Y(いずれも商品名、デュポン社製)、アドテックスL−6100M(商品名、日本ポリエチレン社製)、アドテックスL6101M(商品名、日本ポリエチレン社製)、アドマーAT2490(商品名、三井化学社製)、ポリボンドP1009、ポリボンドP3009(いずれも商品名、ケムチュラ社製)等が挙げられる。
【0018】
(b)ポリプロピレン樹脂
(b)成分のポリプロピレン樹脂として、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)や、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体などを使用することができる。後述の(b1)成分の無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン樹脂として、結晶性の高いホモポリプロピレンを使用した場合には、耐外傷性や耐摩耗性、機械強度を向上させることができるが、同時に(b)成分として、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体などを併用することにより、さらに成形性を向上させることができる。本発明において、(b)成分のポリプロピレン樹脂には、無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン樹脂のほか、その他の不飽和カルボン酸で変性されたポリプロピレン樹脂を含むことが好ましい。(b)成分に使用されるエチレン−プロピレンランダム共重合体はエチレン成分含量が1〜5質量%程度のものをいい、エチレン−プロピレンブロック共重合体はエチレン成分含量が5〜15質量%程度のものをいう。ポリプロピレン樹脂のMFR(ASTM‐D‐1238、L条件、230℃)は、好ましくは0.1〜60g/10分、より好ましくは0.1〜25g/10分、さらに好ましくは0.3〜15g/10分である。(b)ポリプロピレン樹脂を配合することにより、外観と強度を維持することができる。ポリプロピレン樹脂の含有量は樹脂成分(A)中、20〜70質量%であり、好ましくは25〜60質量%、さらに好ましくは25〜55質量%である。ポリプロピレン樹脂の含有量が多すぎると伸びが著しく低下し、また耐熱老化特性も著しく低下する。ポリプロピレン樹脂の含有量が少なすぎると耐外傷性、耐油性、加熱変形特性が低下し、圧接性が低下する。
【0019】
(b)成分には、以下のように、(b1)不飽和カルボン酸で変性されたポリプロピレン樹脂を含むことが好ましい。
(b1)不飽和カルボン酸で変性されたポリプロピレン樹脂
(b1)成分は、不飽和カルボン酸で変性されたポリプロピレン樹脂である。不飽和カルボン酸による変性量は、通常ポリプロピレン樹脂に対して0.2〜6質量%である。好ましい変性量は0.5〜2質量%である。
【0020】
ポリプロピレン樹脂の変性は、例えば、ポリプロピレン樹脂と不飽和カルボン酸を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸などを挙げることができる。この中でも、アクリル酸、メタクリル酸及び無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。さらに好ましくは、無水マレイン酸である。
【0021】
(b1)成分として、無水マレイン酸で変性されたポリプロピレンを使用すると、力学的強度や耐摩耗性が著しく向上し、圧接性、耐油性も向上することができる。(b1)成分を樹脂成分(A)中、好ましくは、10〜55質量%、さらに好ましくは、10〜40質量%、さらに好ましくは15〜35質量%使用することで、耐摩耗性、圧接性が著しく向上する。(b1)成分の、不飽和カルボン酸で変性されたポリプロピレン樹脂としては、具体的には、例えば、アドマーQE800、アドマーQE810(三井化学)、ポリボンドP3002、ポリボンド1002(ケムチュラ)が挙げられる。
【0022】
(c)密度900kg/m未満のエチレン−α−オレフィン共重合体
(c)成分に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体の密度は、900kg/m未満である。(c)成分の密度は、好ましくは、890kg/m未満である。(c)成分の密度は、865以上kg/m以上、さらに好ましくは0.870kg/m以上、さらに好ましくは0.875kg/m以上のものが好ましい。(c)成分を加えることにより、伸び、難燃性、耐熱老化特性を高めることができる。(c)成分が多すぎると、耐摩耗性や耐油性が著しく低下する。
【0023】
(c)成分のうち、(c1)密度900kg/m未満の不飽和カルボン酸で変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体を含むことが好ましい。(c1)成分は、密度が900kg/m未満であって、不飽和カルボン酸がグラフトした、エチレン−α−オレフィン共重合体である。不飽和カルボン酸による変性量は、通常エチレン−α−オレフィン共重合体に対して0.2〜6質量%である。好ましい変性量は0.5〜2質量%である。
(c1)成分は、十分な耐熱老化特性と耐低温性を確保するため、メルトフローレート(JIS K 6922)は、0.3〜15g/1分のものが好ましい。さらに好ましくは、0.5〜10g/10分、さらに好ましくは0.5〜8g/10分である。
【0024】
エチレン−α−オレフィン共重合体の変性は、例えば、エチレン−α−オレフィン共重合体と不飽和カルボン酸を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。不飽和カルボン酸のなかでも無水マレイン酸が好ましい。変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体は、密度が865kg/m以上のものが好ましい。(c)成分を配合することにより、伸び特性や、耐低温性、耐衝撃性、耐ストレスクラック性を大幅に改善することができる。
密度が900kg/m未満の不飽和カルボン酸で変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体としては、具体的には例えば、アドマーXE070、タフマーMH7050、タフマーMH7030(いずれも商品名、三井化学)などがある。
【0025】
(c)成分としては、樹脂成分(A)中、3〜35質量%配合する。(c)成分を加えることにより、伸び、耐ストレスクラック性、耐低温性を高めることができる。(c)成分が多すぎると耐摩耗性や耐油性が著しく低下する
(c1)成分を樹脂成分(A)中、好ましくは、5〜35質量%、さらに好ましくは、10〜30質量%使用することで、耐摩耗性が著しく向上する。(c1)成分の、密度900kg/m未満の不飽和カルボン酸で変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体としては、具体的には、例えば、アドマーXE070(三井化学)、タフマーMH7020、タフマーMH5040、タフマーMH7020(三井化学)が挙げられる。
【0026】
(d)不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系エラストマー
(d)成分の、不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系共重合体は、不飽和カルボン酸で変性することにより、不飽和カルボン酸がスチレン系共重合体にグラフトされたスチレン系エラストマーである。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸などを挙げることができる。この中でも、アクリル酸、メタクリル酸及び無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。さらに好ましくは、無水マレイン酸である。
【0027】
スチレン系エラストマーとは、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック及びランダム構造を主体とする共重合体およびその水素添加物である。芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレンなどが挙げられる。また共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンなどを挙げることができる。
【0028】
スチレン系エラストマーの変性は、例えば、スチレン系エラストマーと不飽和カルボン酸を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。不飽和カルボン酸による変性量は、通常0.5〜15質量%である。不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系エラストマーとしては、たとえば、クレイトン1901FG(商品名、クレイトンポリマージャパン(株)製)、タフテック(商品名、旭化成(株)製)等をあげることができる。
この不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系エラストマーは樹脂成分(A)中、0〜30質量%加える。好ましくは3〜25質量%、さらに好ましくは5〜20質量%である。(d)成分の不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系エラストマーを加えることにより、樹脂の相溶性が良くなり、ストレスクラック特性や耐熱性、圧接性を向上させることができる。(d)成分が多くなりすぎると、耐油性や耐摩耗性が著しく低下する。
【0029】
(B)水酸化マグネシウム
本発明の難燃性樹脂組成物は樹脂成分(A)と水酸化マグネシウム(B)とを含有するものである。
一般に、樹脂成分に対して水酸化マグネシウムなどの金属水和物を配合して得られた難燃性樹脂組成物は、耐摩耗性が著しく低下する。しかし、本発明においては、金属水和物である水酸化マグネシウムを特定量含有しても耐摩耗性が低下することはなく、むしろ耐摩耗性、耐油性が向上し、難燃性と耐摩耗性、耐油性を両立させることができる。
【0030】
特定の成分を含む樹脂成分に水酸化マグネシウムを加えても、摩耗性が低下せず、むしろ向上するメカニズムについては、定かではないが、以下のように考えられる。
水酸化マグネシウムと(b)成分が強いイオン性結合を有し、水酸化マグネシウムとポリマー全体がナノ−ミクロ状態で微細にしかも強固に結合する。水酸化マグネシウムと樹脂成分と一体化することで、水酸化マグネシウムが本来有している硬質性、強度、補強性が発揮され、樹脂組成物の耐摩耗性が格段に向上するものと思われる。この作用により、本発明の難燃性樹脂組成物の成形体表面をこすっても白化現象は生じず、非常に高強度の成形体を得ることができる。
また水酸化マグネシウムの界面近傍に結晶性の高い(a)成分を存在させることにより、強度、耐摩耗性、耐外傷性、圧接性に優れた難燃性樹脂組成物を得ることができると考えられる。さらに(a)成分と相溶する形で(b)成分を存在させることにより、安価で摩耗性、耐油性の高い材料を得ることが出来る。さらに(c)成分をこれらと相溶する形で混合することにより、比較的柔軟性を確保しつつ、伸び特性を高く維持し、また電子線架橋や化学架橋した際には高度のホットセット特性を維持出来ることが可能となる。
【0031】
(B)水酸化マグネシウムとして使用することができるものとしては、通常市販されている水酸化マグネシウムを使用することができる。本発明において、水酸化マグネシウムは、無処理のままでも、表面処理を施されていてもよい。両者を併用してもよい。表面処理としてはたとえば、脂肪酸処理、リン酸処理、チタネート処理、シランカップリング剤による処理などがあげられる。樹脂成分(A)との作用の点から、本発明においては、無処理のものか、シランカップリング剤又は両者を併用したものを使用するのが好ましい。さらに、異なる表面処理を行った水酸化マグネシウムを併用することも可能である。
【0032】
本発明におけるシランカップリング剤は末端にビニル基、メタクリロキシ基、グリシジル基、アミノ基を有するものが好ましい。具体的にはたとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。中でもビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が好ましい。
水酸化マグネシウムをシランカップリング剤で処理をする場合には、いずれか1種のシランカップリング剤のみでも、2種以上を併用してもよい。
【0033】
シランカップリング剤による表面処理の方法としては、通常使用される方法で処理を行うことが可能であるが、たとえば、表面処理をしていない水酸化マグネシウムをあらかじめドライブレンドしたり、湿式処理を行ったり、混練時にシランカップリング剤をブレンドすることなどにより得ることが可能である。使用するシランカップリング剤の含有量は、表面処理をするのに十分な量が適宜加えられるが、具体的には水酸化マグネシウムに対し0.1〜2.5質量%、好ましくは0.2〜1.8質量%、さらに好ましくは0.3〜1.0質量%である。
【0034】
すでにシランカップリング剤処理をおこなった水酸化マグネシウムを入手することも可能である。シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムとしては、具体的には、キスマ5L、キスマ5N、キスマ5P(いずれも商品名、協和化学社製)や、マグシーズS4(商品名、神島化学社製)などが挙げられる。
また、無処理の水酸化マグネシウムとしては、たとえばキスマ5(商品名、協和化学社製)、マグニフィンH5(商品名、アルベマール社製)などが挙げられる。
【0035】
本発明の難燃性樹脂組成物では、水酸化マグネシウムの含有量は、樹脂成分(A)100質量部に対し100〜280質量部であり、好ましくは120〜280質量部である。含有量が少なすぎると、難燃性に問題が生じたり、耐摩耗性が著しく低下する。多すぎると機械特性が著しく低下したり、耐低温性が悪化する問題がある。
特に水酸化マグマグネシウムを樹脂成分(A)100質量部に対して120質量部以上加えると、耐摩耗性を向上させることができる。
【0036】
その他難燃性を向上させるためにメラミンシアヌレート化合物を加えることもできる。メラミンシアヌレートは、粒径が細かい物が好ましい。本発明で用いるメラミンシアヌレート化合物の平均粒径は好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。粒径が小さすぎると2次凝集が生じるため、0.7μm以上が好ましい。分散性の面から表面処理されたメラミンシアヌレート化合物が好ましく用いられる。本発明で用いることのできるメラミンシアヌレート化合物としては、MC6000(商品名、日産化学社製)、メラプアMF15(商品名、チバ社製)、スタビエースMC15(商品名、堺化学社製)などがある。
【0037】
本発明で用いることのできるメラミンシアヌレート化合物として、例えば以下のような構造のメラミンシアヌレートがある。
【0038】
【化1】

【0039】
本発明の難燃性樹脂組成物には、必要に応じスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種を含有することができ、さらに難燃性を向上させることができる。これらの化合物を用いることにより、燃焼時の殻形成の速度が増大し、殻形成がより強固になる。従って、燃焼時に内部よりガスを発生するメラミンシアヌレート化合物とともに、難燃性を飛躍的に向上させることができる。
本発明で用いるホウ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛は平均粒子径が5μm以下が好ましく、3μm以下がさらに好ましい。粒径が小さすぎると2次凝集が生じるため、0.7μm以上が好ましい。
本発明で用いることのできるホウ酸亜鉛として、具体的には例えば、アルカネックスFRC−500(2ZnO/3B
・3.5HO)、アルカネックスFRC−600(いずれも商品名、水澤化学社製)などがある。また、スズ酸亜鉛(ZnSnO)、ヒドロキシスズ酸亜鉛(ZnSn(OH))として、アルカネックスZS、アルカネックスZHS(いずれも商品名、水澤化学社製)などがある。
【0040】
本発明の難燃性樹脂組成物には、成形物品において、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜、配合することができる。
【0041】
酸化防止剤としては、4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンゾイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤などがあげられる。
【0042】
金属不活性剤としては、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2’−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などがあげられる。
難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボンなどがあげられる。
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系、シリコーン系などがあげられ、なかでも、炭化水素系やシリコーン系が好ましい。
【0043】
本発明の難燃性樹脂組成物は、上記の各成分を、一軸混練押出機、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど通常用いられる混練装置で、好ましくは150℃〜240℃で溶融混練して得ることができる。
【0044】
次に本発明の難燃性樹脂組成物を用いてなる成形物品について説明する。
本発明の成形物品としては例えば、導体や光ファイバやその他成形体の外周に上記の本発明の難燃性樹脂組成物が被覆された絶縁電線やケーブルなどがある。この絶縁電線やケーブルは、本発明の難燃性樹脂組成物を従来の押出成形機を用いて導体、光ファイバ、集合絶縁電線やその他成形体の周囲に押出被覆することにより製造することができる。またチューブについても同様な方式で製造することができる。
例えば、絶縁電線に使用される場合、導体の外周に形成される絶縁樹脂組成物の被覆層の肉厚については、特に制限はないが、0.15〜3mmが好ましい。また、絶縁層が多層構造であってもよく、本発明の難燃性の絶縁樹脂組成物で形成した被覆層のほかに中間層などを有していてもよい。
また、本発明の成形物品を配線材に使用する場合には、本発明の樹脂組成物を押出被覆してそのまま被覆層を形成して使用することも可能であるが、耐熱性を向上させることを目的として、押出後の被覆層を架橋させることが好ましい。
【0045】
架橋を行う場合の方法として、従来の電子線照射架橋法や化学架橋法が採用できる。この中でも電子線架橋が好ましい。
電子線架橋法の場合は、樹脂組成物を押出成形して被覆層とした後に常法により電子線を照射することにより架橋をおこなう。電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、被覆層を構成する樹脂組成物に、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として含有してもよい。
化学架橋法の場合は、樹脂組成物に有機パーオキサイドを架橋剤として含有し、押出成形して被覆層とした後に常法により加熱処理により架橋をおこなう。
【0046】
本発明の成形物品としては、その大きさや形状については特に制限されるものではなく、例えば、電源プラグ、コネクタ、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、等を挙げることができる。本発明の成形物品は、通常の射出成形等の成形方法により、本発明の難燃性樹脂組成物から成形される。また、シートやチューブ等についても電線被覆と同様な方式で製造することができ、必要であれば、配線材と同様架橋を行うこともできる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例、比較例
表1に実施例1〜14および表2に比較例1〜9の樹脂組成物の各成分の含有量(表中の数値は質量部である)を示す。表に示された各成分を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて195〜205℃で溶融混練して、各難燃性樹脂組成物を製造した。
【0049】
各成分材料としては、下記のものを使用した。
(a)成分 密度900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体
(a−1)商品名:エボリューSP0540(プライムポリマー社製)(密度903kg/m
(a−2)商品名:エボリューSP1540(プライムポリマー社製)(密度913kg/m
(a−3)商品名:エボリューSP2320(プライムポリマー社製)(密度920kg/m
(a−4)商品名:ユメリット4040F(宇部丸善石油化学社製)(密度 937kg/m
【0050】
(a1)成分 無水マレイン酸で変性された密度900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体
(a1−1)商品名:フサボンドE226Y(デュポン社製)(密度930kg/m
(a1−2)商品名:アドテックスL−6100M(日本ポリエチレン社製)(密度920kg/m
【0051】
(b)成分 ポリプロピレン樹脂
(b−1)ホモポリプロピレン
商品名:V200S(サンアロマー社製)
(b−2)ランダムポリプロピレン
商品名:PB−222A(サンアロマー社製)
(b−3)ブロックポリプロピレン
商品名:BC8A(日本ポリプロ社製)
【0052】
(b1)成分 不飽和カルボン酸で変性されているポリプロピレン樹脂
(b1−1)マレイン酸変性されたポリプロピレン共重合体
商品名:アドマーQE800(三井化学社製)
【0053】
(c)成分 密度900kg/m未満のエチレン−α−オレフィン共重合体
(c−1)商品名:カーネルKS240T(日本ポリエチレン社製)(密度880kg/m
【0054】
(c1)成分 不飽和カルボン酸で変性されている密度900kg/m未満のエチレン−α−オレフィン共重合体
(c1−1)商品名:アドマーXE070(三井化学社製)(密度893kg/m
【0055】
(d)成分 無水マレイン酸で変性されたスチレン系共重合体(MAH−SBC)
商品名:クレイトン1901FG(クレイトンポリマー社製)
【0056】
(B)酸化マグネシウム
(B−1)水酸化マグネシウム
シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウム
商品名:キスマ5L(協和化学社製)
【0057】
(X)その他
(X−1)滑剤
ポリエチレンワックス
商品名:PE−WAX(ハネウェル社製)
(X−2)銅害防止剤
商品名:CDA−1(ADECA製)
(X−3)ヒンダートフェノール系酸化防止剤
イルガノックス1010(BASF社製)
【0058】
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径0.8mmφの錫メッキ軟銅線)上に、予め溶融混練した上記各実施例1〜14および比較例1〜9の難燃性樹脂組成物を押し出し法により被覆して、各々、絶縁電線を製造した。外径は1.3mm、絶縁層の肉厚0.25mmとした。
得られた各々の絶縁電線に対して、以下の(1)〜(7)の評価を行い、得られた結果をそれぞれ表1および表2に示した。
また、押出機を用いて、実施例1の難燃性樹脂組成物のチューブを製造した。チューブの外径は2.0mm、内径は1.5mmとした。得られたチューブに対して、以下の(1)、(2)、および(4)の評価を行った。いずれの評価においても、チューブをそのまま用いた以外は、絶縁電線の評価と同様に行った。
【0059】
(1)引張試験
電線より管状片を作成し引張試験を行った。標線間25mm、引張速度50mm/分で試験を行い、引張り強さおよび伸びを測定した。伸び100%以上、引張り強さ18MPa以上が必要である。また、耐熱老化特性として、管状片を136℃で168時間 恒温槽内で熱処理を行い、取り出した後上記の条件で引っ張り試験を行った。その管状片の引っ張り残率が70%以上、伸び残率が50%以上を合格とした。
【0060】
(2)耐摩耗性試験
R=0.225のブレードを用い、JASO D608に基づきブレード往復法により試験を行った。加重は7Nとした。
回数800回以上で合格であるが、1000回以上がより好ましい。表中、「−」は、回数が300に満たず、数値を求めなかった。
【0061】
(3)難燃性
JASO D608に基づき、水平燃焼試験を行った。60秒以上延焼したものを不合格とした。
(4)耐外傷性
JASO D 608に基づく耐摩耗試験のブレード往復法の試験方法で、R=0.125mmのブレードを使用し、荷重5Nで4往復摩耗を行った。その後のサンプルを観察した。外傷がない又は白化が無いものを「○」、チューブのごく表層のみが白化しているだけで問題がないものを「△」、外傷がある又は白化が著しいものを「×」で示した。耐外傷性が「○」と「△」のものを合格とした。
(5)外観
外観は、絶縁電線の外径の変動の有無や表面の状態を目視で調査し、これらが良好であったものを「○」、外径が変動しており不安定なもの、表面に肌荒れが発生したもの、ブリードが発生したものを「×」で示した。
【0062】
(6)耐油性1
管状片を作成し、70℃に加熱されたJIS2号試験油に浸せきし、4時間後に取り出した。油をすぐに拭きたった後、16時間放置した後に(1)の条件で引っ張り試験を行った。引っ張り強さ残率が70%以上、伸び残率が65%以上で合格である。好ましくは引っ張り強さ残率が80%以上、伸び残率80%以上が好ましい。
【0063】
(7)耐油性2
管状片を作成し、85℃に加熱されたJIS2号試験油に浸せきし、4時間後に取り出した。油をすぐに拭きたった後、16時間放置した後に(1)の条件で引っ張り試験を行った。引っ張り強さ残率が70%以上、伸び残率が65%以上で合格であるが、耐油性2は厳しい条件下での試験であるため、合格することが好ましいが、上記の耐油性1が合格であればよい。より好ましくは、引っ張り強さ残率が80%以上、伸び残率80%以上である。
【0064】
(8)耐加熱変形性
耐加熱変形性として、シース部位のホットセット試験を行い、その性能を評価した。ホットセット試験は200℃15分間20N/cmの力の荷重で管状片を引張り、管状片の伸び、及び荷重を取り除いたときの伸びを測定した。伸びが100%以下、荷重を取り除いた際伸びが25%以下で合格である。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1、2から以下のことがわかる。(a)密度900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体が少なすぎる場合は、加熱老化後の伸び残率が低下するなど、機械特性に問題を生じた(比較例4)。逆に(a)成分が多すぎると、加熱老化後の伸び残率が大きく低下し、耐磨耗性が低下した(比較例9)。(b)ポリプロピレン樹脂が少なすぎると、耐油性試験後の伸び残率が低下し、圧接性が大幅に低下し、耐摩耗性も低下した(比較例1、2)。(b)成分が多すぎると、加熱老化後の伸び残率が低下した(比較例4)。(c)密度900kg/m未満のエチレン−α−オレフィン共重合体を含まない場合は、耐磨耗性が不合格となった(比較例8、9)。水酸化マグネシウム(B)が少なすぎる場合は、難燃性が不合格となり、水酸化マグネシウム(B)が多すぎると、耐外傷性、外観及び圧接性が不合格となった(比較例6、7)。
これに対して、実施例1〜14の難燃性樹脂組成物は、難燃性、機械特性、耐油性及び耐磨耗性に優れ、さらに高温下における熱変形に優れていることがわかった。特に(a1)成分の不飽和カルボン酸で変性されているエチレン−α−オレフィン共重合体を用いることで、特に耐磨耗性を向上させることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)密度900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体30〜80質量%、(b)ポリプロピレン樹脂20〜70質量%、(c)密度900kg/m未満のエチレン−α−オレフィン共重合体3〜35質量%、(d)不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系エラストマー0〜30質量%からなる樹脂成分(A)100質量部に対し、水酸化マグネシウム(B)100〜280質量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(a)密度900kg/m以上のエチレン−α−オレフィン共重合体が、不飽和カルボン酸で変性されているエチレン−α−オレフィン共重合体(a1)を含むことを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記不飽和カルボン酸で変性されているエチレン−α−オレフィン共重合体(a1)を樹脂成分(A)中、30〜80質量%含むことを特徴とする請求項2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(b)ポリプロピレン樹脂が、不飽和カルボン酸で変性されているエチレン−α−オレフィン共重合体(b1)を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(c)密度900kg/m未満のエチレン−α−オレフィン共重合体が、不飽和カルボン酸で変性されているエチレン−α−オレフィン共重合体(c1)を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(d)不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系エラストマーが樹脂成分(A)中に5〜20質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
前記水酸化マグネシウム(B)が、無処理の水酸化マグネシウム及びシランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物、
【請求項8】
導体の外周に被覆層として請求項1〜7のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物を用いてなることを特徴とする成形物品。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物を用いて成形されていることを特徴とする成形物品。

【公開番号】特開2013−6995(P2013−6995A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141871(P2011−141871)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】