説明

難燃性樹脂組成物

【課題】リン化合物、メラミン化合物及びハロゲン化合物を使用せずに、耐衝撃性及び高難燃性を有するポリエステル系樹脂を主体とする難燃性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)融点又は軟化点が220℃以下のポリエステル系樹脂30〜95質量%(B)エチレンとCH2=C(R1)−R2[R1は、H又はメチル基であり、R2は、−COOR3又は−OCOR3であり、ここで、R3は、H又は、直鎖若しくは分枝の炭素数1〜10個のアルキル基である]との共重合体5〜70質量%からなる樹脂100質量部に対して、(C)金属水和物60〜200質量部及び(D)有機過酸化物0.01〜3.0質量部を添加したことを特徴とする難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融点又は軟化点が220℃以下のポリエステル系樹脂に対して、リン化合物、メラミン化合物及びハロゲン化合物等の環境負荷物質となる可能性のある物質を使用せずに、難燃性を有すると共に耐衝撃性に優れた難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル系樹脂に、(A)共役ジエン系ゴムと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、(B)共役ジエン系ゴムと(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニル化合物との共重合体、(C)アクリル系ゴムと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、(D)アクリル系ゴムと(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物との共重合体、(E)アクリル系ゴムと(メタ)アクリル酸エステル及びシアン化ビニル系化合物との共重合体及び(F)熱可塑性ポリエステル系エラストマーから選ばれた1種類以上からなる樹脂組成物と難燃剤とからなる耐衝撃強度を有した難燃性樹脂組成物が開示されている(特許文献1、公開特許公報 6頁、9段、段落[0029]参照、特許文献2、公開特許公報6頁、9段、段落[0012]参照)。
【0003】
これらの難燃性樹脂組成物は、耐衝撃性改良剤としてMBS等のゴム成分を使用し、難燃性を付与するためにリン化合物、メラミン化合物、ハロゲン化合物及び水酸化マグネシウム等を使用した硬質部材であった。
しかしながら、こうしたリン化合物、メラミン化合物及びハロゲン化合物は燃焼時に有害なガスを発生する可能性が指摘されたことから、こういった難燃剤を使用しない部材を開発する必要があった。又、MBS等のゴム成分では添加量に限界があり、耐衝撃性と高難燃性を共に維持することができなかった。
更に、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、ビカット軟化点が150℃以下のポリエステル及び金属水和物からなるノンハロゲン難燃性組成物が開示されている(特許文献3参照)。しかし、この組成物は、軟質系の熱可塑性エラストマーに属するため、硬質系の樹脂への使用は難しい。
【0004】
【特許文献1】特開2000−319489公報
【特許文献2】特開2001−247753公報
【特許文献3】特開平06−128428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のごとき従来技術の問題点を解決し、リン化合物、メラミン化合物及びハロゲン化合物を使用せずに、耐衝撃性と共に高難燃性を有するポリエステル系樹脂を主体とする難燃性樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、耐衝撃性を有し、且つ、リン化合物、メラミン化合物及びハロゲン化合物を使用することなく高難燃性を有する難燃性樹脂組成物を見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
即ち、本発明は下記の構成からなる。
(1)(A)融点又は軟化点が220℃以下のポリエステル系樹脂30〜95質量%、
(B)エチレンと次式(I)で示される単量体
CH2=C(R1)−R2 (I)
[上記式中、R1は、H又はメチル基であり、R2は、−COOR3又は−OCOR3であり、ここで、R3は、H又は、直鎖若しくは分枝の炭素数1〜10個のアルキル基である]との共重合体5〜70質量%
からなる樹脂100質量部に対して、
(C)金属水和物60〜200質量部及び
(D)有機過酸化物0.01〜3.0質量部
を添加したことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
(2)更に、(E)カップリング剤0.1〜4質量部を添加した上記(1)に記載の難燃性樹脂組成物。
(3)更に、(F)無機充填剤5〜200質量部を添加した上記(1)又は(2)に記載の難燃性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、極性のある柔軟な樹脂をゴム成分として使用することによって、無機化合物と上記ゴム成分との間に化学結合を生じさせ、更にそのゴム成分を架橋させることによって本発明の樹脂組成物の機械的強度を向上させることができる。又、無機難燃剤の添加により、燃焼時の有害なガスの発生を抑えることができるポリエステル系樹脂を主体とする難燃性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における、難燃性樹脂組成物について以下に詳細に説明する。
(A)成分 ポリエステル系樹脂
(融点又は軟化点が220℃以下のポリエステル系樹脂)
融点又は軟化点が220℃以下のポリエステル系樹脂について詳細に説明する。
融点が220℃以下のポリエステル系樹脂は、結晶性のポリエステル系樹脂であり、具体的にはポリブチレンテレフタレート系樹脂を挙げることができる。
軟化点が220℃以下のポリエステル系樹脂は、樹脂の軟化温度が220℃以下の、非晶性又は低結晶性のポリエステル系樹脂である。
【0010】
(ポリブチレンテレフタレート系樹脂)
本発明に使用するポリブチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸(ジカルボン酸成分)と1,4−ブタンジオール(グリコール成分)を主たる出発原料として得られるポリエステル系樹脂を指すが、他の第三成分を含有しても構わない。この場合、ジカルボン酸成分として、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸及びセバシン酸等の一種又は二種以上を用いることが可能である。グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及びネオペンチルグリコール等の一種又は二種以上を用いることができる。この他に同一分子内に水酸基とカルボキシル基を有するオキシカルボン酸も用いることができる。例えば、p−オキシエトキシ安息香酸等である。本発明に使用する上記樹脂は繰り返し構造単位の80モル%以上がブチレンテレフタレート単位を有するポリエステル系樹脂であることが好ましい。
更に、ポリテトラメチレングリコールをソフトセグメントに有しているポリエステルエラストマーも使用することができる。
【0011】
(非晶性又は低結晶性のポリエステル系樹脂)
本発明に使用する非晶性又は低結晶性のポリエステル系樹脂は、再度加熱処理を行っても再結晶化による物性低下を起こさず、結晶性成分を全く持たないか、結晶性の成分の含有量が低いものである。尚、本発明でいう結晶性とは、DSC法によって測定された結晶性を意味する(JIS K7121)。
非晶性又は低結晶性のポリエステル系樹脂は、例えば、テレフタル酸又はテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを主成分としてエステル化反応を経て重縮合反応によって製造されたものが好適に使用される。
本発明に使用する非晶性又は低結晶性のポリエステル系樹脂は、上記のジカルボン酸及びグリコール成分の他に、第3成分を共重合させた共重合体タイプのものも包含し、本発明においてはこのタイプが好ましい。
【0012】
本発明の好ましい態様において、第3成分としては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸等が好適であり、更に好ましくは、グリコール成分が2種類以上のものから構成されるものであり、最適には、そのジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、且つジオール成分100モル%に対して、エチレングリコール50〜99モル%及び1,4−シクロヘキサンジメタノール1〜50モル%であるものがよい。特に、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、且つエチレングリコール60〜80モル%及び1,4−シクロヘキサンジメタノール20〜40モル%のものがよい。
【0013】
又、(A)成分のポリエステル系樹脂の粘度はIV値(溶液中の固有粘度)として0.65〜1.20が好ましい。
非晶性又は低結晶性のポリエステル系樹脂の製造方法は、すでに当業界において広く知られており、例えば、米国特許第5,340,907号明細書に開示されている。
【0014】
非晶性又は低結晶性のポリエステル系樹脂とは、溶融状態からの結晶化半時間が5分以上のポリエステル系樹脂であり、より好ましくは12分以上のポリエステル系樹脂である。非晶性ポリエステル系樹脂は無限の結晶化半時間を有するので、非晶性ポリエステル系樹脂を使用するのがより好ましい。
更には、非晶性又は低結晶性のポリエステル系樹脂と結晶性のポリエステル系樹脂とを混合して使用してもよい。
本発明において定義する結晶化半時間とは、パーキン・エルマー(Perkin−Elmer)モデルDSC−2示差走査熱量計を使用して測定する。具体的には、15.0mgの各サンプルをアルミパンの中に密封し約320℃/分の速度で昇温し、290℃の温度に達したらその温度で2分間保持する。次いで、サンプルを、所定の等温結晶化温度まで約320℃/分の速度で、ヘリウムガスの存在下、直ちに冷却する。結晶化半時間は、等温結晶化温度に達してからDSC曲線上の結晶化ピークの点までの時間間隔として決定される。
【0015】
ポリエステル系樹脂(A)の使用量は、(A)ポリエステル系樹脂と(B)エチレンと式(I)で表される単量体との共重合体合わせて100質量%に対して30〜95質量%である。ポリエステル系樹脂(A)の使用量が上限値を超えるか、又は、下限値未満では、成形品の十分な機械的特性(衝撃強度等)が得られない。
【0016】
(B)成分
(B)成分はエチレンと次式(I)で示される単量体との共重合体を主成分とするものが使用される。
CH2=C(R1)−R2 (I)
【0017】
上記式中、R1は、H又はメチル基であり、R2は、−COOR3又は−OCOR3である。ここで、R3は、H又は、直鎖若しくは分枝の炭素数1〜10個のアルキル基、好ましくは炭素数1〜4個のアルキル基である。
【0018】
式(I)で示される単量体の好ましい例としては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、酢酸イソプロペニル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらを単独で、又は2種以上組み合わせて使用できる。特に好ましい単量体は、酢酸ビニル及びエチル(メタ)アクリレートである。
【0019】
上記の共重合体におけるエチレンと式(I)で示される単量体との割合は特に限定されない。好ましくはエチレンと式(I)で示される単量体合わせて100質量部に対して、エチレン92〜40質量部、式(I)で示される単量体8〜60質量部、より好ましくはエチレン70〜50質量部、式(I)で示される単量体30〜50質量部の割合である。
【0020】
エチレンと式(I)で示される単量体との共重合体としては、例えば、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−エチルメタクリレート共重合体(EEMA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、部分鹸化エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0021】
エチレンと式(I)で示される単量体との共重合体は更に、極性基等で変性されたオレフィン系ポリマーを併用することができる。変性オレフィン系ポリマーとしては、カルボン酸変性したプロピレン系樹脂、エチレン系樹脂及びエチレン−プロピレン共重合体等が挙げられる。具体的には、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及び無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体を挙げることができる。これらの変性オレフィン系ポリマーの使用量は、好ましくは上記の共重合体全体の50質量%以下である。
【0022】
上記の変性オレフィン系ポリマーを併用することにより、難燃性樹脂組成物中の無機化合物(特に金属水和物)と上記変性オレフィン系ポリマーとの相互作用によって、無機化合物を均一に分散せしめることができ、成形品の機械的強度の向上を図ることができる。
エチレンと式(I)で示される単量体との共重合体(B)の使用量は、(A)ポリエステル系樹脂と(B)エチレンと式(I)で表される単量体との共重合体合わせて100質量%に対して5〜70質量%であるが、上限値を超えると、成形品の十分な難燃性が得られず、下限値未満では、十分な機械特性(衝撃強度等)が得られない。
【0023】
(C)成分 金属水和物
本発明で使用する(C)成分の金属水和物は、水和金属酸化物(結晶水を含む)、金属水酸化物(結晶水を含む)、水和金属塩(結晶水を含む)の全てを包含している。使用する金属水和物については特に限定しないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和けい酸アルミニウム、水和けい酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸基或いは結晶水を有する化合物を単独若しくは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの金属水和物のうち、難燃性の発現及び使い勝手の良さの点から水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを使用するのが好ましい。金属水和物は少なくとも一部がシランカップリング剤で処理されているものの使用が好ましいが、表面処理されていない無処理の金属水和物や脂肪酸等他の表面処理剤で処理された金属水和物も使用することができる。
金属水和物の配合量は、成分(A)、成分(B)の合計量100質量部に対し60〜200質量部である。
金属水和物の配合量が上限値を超えると成形品の十分な機械特性(衝撃強度等)が得られず、下限値未満では、十分な難燃性が得られない。
【0024】
(D)成分 有機過酸化物
本発明で使用する(D)成分の有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド等を挙げることができる。これらのうち、臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3が最も好ましい。有機過酸化物(D)の配合量は、成分(A)、成分(B)の合計量100質量部に対して、0.01〜3.0質量部の範囲であり、好ましくは0.1〜0.6質量部である。有機過酸化物をこの範囲内に選定することにより、架橋が進みすぎることがないので、分子切断が起きず、成形品の機械的強度を有した樹脂混合物が得られる。
【0025】
(E)成分 カップリング剤
本発明で使用する(E)成分のカップリング剤としては、シランカップリング剤の使用が好ましい。その具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及びメタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の不飽和基又はエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤、メルカプトプロピルトリメトキシシラン及びメルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基を末端に有するシランカップリング剤、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルトリメトキシシラン及びN−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤等を挙げることができる。又、これらのシランカップリング剤は2種以上併用してもよい。これらの中でも架橋性を有するシランカップリング剤、例えば、末端にエポキシ基及び/又は不飽和基を有するシランカップリング剤の使用はより好ましく、1種単独でも、2種以上併用して使用してもよい。
【0026】
カップリング剤の配合量は、成分(A)、成分(B)の合計量100質量部に対して、0.1〜4質量部である。カップリング剤の使用は、無機化合物(金属水和物及び無機充填剤)と(A)成分及び/又は(B)成分との親和性を向上させる効果があるので好ましい。
更に、シラン処理等の表面処理された無機化合物を使用する場合であっても、カップリング剤を併用することで成形品の更なる機械物性向上効果が期待できるのでより好ましい。
カップリング剤の配合量は、上限値を超えると成形品の機械物性向上効果に顕著な差が見られず、下限値未満では成形品の機械物性向上効果が十分ではない。
【0027】
(F)成分 無機充填剤
必要に応じて(F)成分として、無機充填剤を配合することができる。この充填剤は成形品の圧縮永久歪み等一部の物性を改良する効果の他に、増量による経済上の利点を有する。既存の無機充填剤を用いることができるが、例えば、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、クレー、硫酸バリウム、天然けい酸、合成けい酸(ホワイトカーボン)、酸化チタン、硼酸亜鉛、カーボンブラック等がある。これらのうち、硼酸亜鉛及び/又はタルクが特に好ましい。又、シランカップリング処理したタルクの使用は、本発明の樹脂組成物の機械強度の更なる向上が図れるのでより好ましい。
【0028】
無機充填剤の配合量は、成分(A)、成分(B)の合計量100質量部に対して5〜200質量部であり、好ましくは、10〜100質量部である。無機充填剤の配合量は、本発明の樹脂組成物の難燃効果の向上及び成形性の向上のために上記範囲が好ましい。
【0029】
本発明の難燃性樹脂組成物は、建築用部品、電気部品、電子部品、生活雑貨用部品、運輸機器部品、自動車部品、OA機器部品、産業機械部品等に使用される。好ましくは建築用部品、産業機械部品である。
【実施例】
【0030】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(1)シャルピー衝撃強度
厚み3mm、ノッチ付きの試験片を使用して、JIS K 7111に準じて測定した。下記表中の単位は、kJ/m2である。
3kJ/m2以上を合格とした。好ましくは、4kJ/m2以上、より好ましくは6kJ/m2以上である。
【0031】
(2)難燃性試験
厚み1/8インチ(3.2mm)のテストピースを用い、難燃性の評価方法として米国UL規格のUL−94に規定されている垂直難燃試験に準じて評価を行った。接炎は2回行った。
V−0:2回の接炎時の各有炎時間が10秒以下。
V−2:2回の接炎時の各有炎時間が30秒以下。
NG:2回の接炎時の各有炎時間が30秒を越えた。
【0032】
(3)加工性
40mm押出機(アイ・ケー・ジー株式会社製PMS40−22)を用いて、シリンダー温度160〜180℃、ダイヘッド温度及びクロスヘッド温度180℃、フルフライトスクリューを使用し回転速度20rpm、断面が凸型の金型を用いて凸型に押出し成形し、ドローダウン性、表面外観や形状を観察し、次の基準で評価した。
良好:外観がよく(表面の荒れがない)メヤニ、ドローダウンのない成形品が得られる。
可能:多少のメヤニ、ドローダウンがあるものの外観良好。
不良:表面が荒れたり、成形ができない場合もある。
【0033】
実施例1〜7の配合組成とその評価結果を表1に示し、比較例1〜8の配合組成とその評価結果を表2に示す。ただし、表中、各樹脂成分は、下記の略号により表わす。
【0034】
成分(A)
(A−1)
PET−G:シクロヘキサンジメタノール共重合非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂(非晶性ポリエステル樹脂)、イーストマン・ケミカル社、PET−G 6763(軟化点:81℃)。
(A−2)
PBT:ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリプラスチックス社、ジュラネックス600KP(融点:185℃)。
(A−3)
PET:ポリエチレンテレフタレート系樹脂、三菱レイヨン社、製品番号PA−500(融点:255℃)。
【0035】
成分(B)
(B−1)
EVA:エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、三井デュポンケミカル社製、エバフレックス40LX、酢酸ビニル含有量:40質量%。
(B−2)
EEA:エチレン−アクリル酸エチル系樹脂、三井デュポンケミカル社製、エバフレックスEAA A709、アクリル酸エチル含有量:35質量%。
(B−3)
MBS:メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、カネカ社製、カネエースB−56、〔メチルメタクリレート/スチレン/ブタジエン=20/20/60〕。
【0036】
成分(C)
(C−1)
キスマ5L:末端にビニル基を有するシランカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウム、協和化学工業社製。表面処理量0.2%。
(C−2)
キスマ5A:脂肪酸で表面処理した水酸化マグネシウム、協和化学工業社製。
【0037】
成分(D)
パーヘキサ25B:有機過酸化物、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン。
【0038】
成分(E)
シランカップリング剤:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、SZ6030。
【0039】
成分(F)
(F−1)
タルク:竹原化学株式会社製、TTタルク。
(F−2)
ホウ酸亜鉛:水澤化学工業社製、アルカネックス FRC−500。
【0040】
実施例1
非晶性ポリエステル樹脂(PET−G 6763)90質量%、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA 40LX)10質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム80質量部、有機パーオキサイド0.2質量部、シランカップリング剤2質量部、タルク20質量部、ホウ酸亜鉛10質量部を配合し、加圧ニーダーにて180℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を180℃にてプレス成形して評価した。
【0041】
実施例2
非晶性ポリエステル樹脂(PET−G 6763)90質量%、エチレン−アクリル酸エチル系共重合体(EEA A709)10質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム80質量部、有機パーオキサイド0.2質量部、シランカップリング剤2質量部、タルク20質量部、ホウ酸亜鉛10質量部を配合し、加圧ニーダーにて180℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を180℃にてプレス成形して評価した。
【0042】
実施例3
非晶性ポリエステル樹脂(PET−G 6763)80質量%、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA 40LX)20質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム100質量部、有機パーオキサイド0.2質量部、シランカップリング剤2質量部、タルク50質量部を配合し、加圧ニーダーにて180℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を180℃にてプレス成形して評価した。
【0043】
実施例4
非晶性ポリエステル樹脂(PET−G 6763)50質量%、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA 40LX)50質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム100質量部、有機パーオキサイド0.2質量部、シランカップリング剤2質量部、タルク50質量部を配合し、加圧ニーダーにて180℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を180℃にてプレス成形して評価した。
【0044】
実施例5
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(PBT 600KP)90質量%、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA 40LX)10質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム80質量部、有機パーオキサイド0.2質量部、シランカップリング剤2質量部、タルク20質量部、ホウ酸亜鉛10質量部を配合し、加圧ニーダーにて190℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を220℃にてプレス成形して評価した。
【0045】
実施例6
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(PBT 600KP)80質量%、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA 40LX)20質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム100質量部、有機パーオキサイド0.2質量部、シランカップリング剤2質量部、タルク50質量部を配合し、加圧ニーダーにて190℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を220℃にてプレス成形して評価した。
【0046】
実施例7
非晶性ポリエステル樹脂(PET−G 6763)90質量%、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA 40LX)10質量%よりなる樹脂100質量部に対して、脂肪酸処理された水酸化マグネシウム80質量部、有機パーオキサイド0.2質量部、タルク20質量部、ホウ酸亜鉛10質量部を配合し、加圧ニーダーにて180℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を180℃にてプレス成形して評価した。
【0047】
比較例1
非晶性ポリエステル樹脂(PET−G 6763)100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム100質量部を配合し、加圧ニーダーにて180℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を180℃にてプレス成形して評価した。
難燃性は優れるものの、衝撃強度、加工性が劣る樹脂組成物であった。
【0048】
比較例2
非晶性ポリエステル樹脂(PET−G 6763)90質量%、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA 40LX)10質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム80質量部、シランカップリング剤2質量部、タルク20質量部、ホウ酸亜鉛10質量部を配合し、加圧ニーダーにて180℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を180℃にてプレス成形して評価した。
難燃性、及び加工性は優れるものの、衝撃強度が劣る樹脂組成物であった。
【0049】
比較例3
非晶性ポリエステル樹脂(PET−G 6763)80質量%、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA 40LX)20質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム100質量部、シランカップリング剤2質量部、タルク50質量部を配合し、加圧ニーダーにて180℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を180℃にてプレス成形して評価した。
難燃性、及び加工性は優れるものの、衝撃強度が劣る樹脂組成物であった。
【0050】
比較例4
非晶性ポリエステル樹脂(PET−G 6763)80質量%、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS B−56)20質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム100質量部、有機パーオキサイド0.2質量部、タルク50質量部を配合し、加圧ニーダーにて180℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を180℃にてプレス成形して評価した。
衝撃強度、難燃性、加工性のいずれも劣る樹脂組成物であった。
【0051】
比較例5
非晶性ポリエステル樹脂(PET−G 6763)80質量%、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS B−56)20質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム100質量部、タルク50質量部を配合し、加圧ニーダーにて180℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を180℃にてプレス成形して評価した。
衝撃強度、難燃性、加工性のいずれも劣る樹脂組成物であった。
【0052】
比較例6
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(PBT 600KP)90質量%、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA 40LX)10質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム80質量部、シランカップリング剤2質量部、タルク20質量部、ホウ酸亜鉛10質量部を配合し、加圧ニーダーにて190℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を220℃にてプレス成形して評価した。
難燃性は優れるものの、衝撃強度及び加工性が劣る樹脂組成物であった。
【0053】
比較例7
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(PBT 600KP)80質量%、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA 40LX)20質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム100質量部、シランカップリング剤2質量部、タルク50質量部を配合し、加圧ニーダーにて190℃、20分間溶融混練した。
得られた難燃性樹脂組成物を220℃にてプレス成形して評価した。
難燃性及び加工性は優れるものの、衝撃強度が劣る樹脂組成物であった。
【0054】
比較例8
ポリエチレンテレフタレート系樹脂(PET PA−500、融点255℃)90質量%、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA 40LX)10質量%よりなる樹脂100質量部に対して、シランカップリング処理された水酸化マグネシウム80質量部、有機パーオキサイド0.2質量部、シランカップリング剤2質量部、タルク20質量部、ホウ酸亜鉛10質量部を配合し、異方向2軸の押出し機にて260℃、3分混練した。
しかし、混練中に発泡し製造できなかった。
【0055】

【0056】

【0057】

【0058】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤及びリン系化合物等の環境負荷物質となる可能性のある物質を使用しないで、耐衝撃性、加工性に優れた難燃性を有する樹脂組成物を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)融点又は軟化点が220℃以下のポリエステル系樹脂30〜95質量%、
(B)エチレンと次式(I)で示される単量体
CH2=C(R1)−R2 (I)
[上記式中、R1は、H又はメチル基であり、R2は、−COOR3又は−OCOR3であり、ここで、R3は、H又は、直鎖若しくは分枝の炭素数1〜10個のアルキル基である]との共重合体5〜70質量%
からなる樹脂100質量部に対して、
(C)金属水和物60〜200質量部及び
(D)有機過酸化物0.01〜3.0質量部
を添加したことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
更に、(E)カップリング剤0.1〜4質量部を添加した請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
更に、(F)無機充填剤5〜200質量部を添加した請求項1又は請求項2に記載の難燃性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−152123(P2006−152123A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344835(P2004−344835)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】