説明

難燃性樹脂組成物

【課題】低融点ガラスを含む難燃剤を含有し、且つ高い難燃性と高い機械特性とを共に発揮する成形体が形成され得る難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る難燃性樹脂組成物は、マトリクス樹脂、低融点ガラス、及び前記低融点ガラス以外の無機充填材を含有する。前記マトリクス樹脂100質量部に対する前記低融点ガラスの割合が1〜40質量部の範囲である。前記マトリクス樹脂100質量部に対する前記無機充填材の割合が1〜40質量部の範囲である。前記低融点ガラスと前記無機充填材との前者対後者の質量比が1:4〜1:1の範囲である。前記無機充填材の平均粒径が100nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル樹脂やポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂とする樹脂組成物には、火災時等の安全のために、臭素等のハロゲン原子を含む難燃剤が配合されることがあった。しかし、近年、環境に負荷をかけないために、ハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物が求められている。
【0003】
そこで、樹脂組成物中に配合される難燃剤として、融解時の吸熱ピークの温度が低い低融点ガラスを使用することが検討されてきている。例えば、特許文献1には融解時の吸熱ピークが401〜700℃の範囲にあるガラス等の無機物を樹脂組成物の難燃剤として使用することが開示されている。
【0004】
このような低融点ガラスを含有する樹脂組成物から形成された成形体が高温に曝されると、内部の低融点ガラスが融解して成形体の表面に達することで被膜が形成される。この被膜によって外部から成形体内部への酸素の供給が遮断されると共に成形体中の樹脂成分が分解してガスが発生してもこのガスの外部への流出が被膜によって遮断される。これにより成形体が難燃性を発揮する。
【0005】
しかし、低融点ガラスのみによる難燃化作用は充分ではない場合があり、成形体の難燃性が充分に向上するためには多量の低融点ガラスが必要とされる場合がある。これは、成形体の表面に達した低融点ガラスがかなりの割合で成形体から脱落してしまうためであると考えられる。しかし、樹脂組成物中に多量の低融点ガラスが配合されると、成形体の靱性等の機械的強度が低下するなどの弊害が生じてしまうという問題がある。
【0006】
樹脂組成物中に低融点ガラスとそれ以外の難燃剤とを配合することで成形体の難燃性を更に向上することも試みられている。例えば特許文献2では、エポキシ樹脂組成物中に平均粒径1〜5μmの水酸化マグネシウムを5〜15重量%、非鉛系低融点ガラス0.5〜5重量%配合し、更に前記水酸化マグネシウムを含む無機充填材を50〜80重量%配合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−234168号公報
【特許文献2】特開2002−241587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2に記載されている技術においても、充分な難燃化のためには、樹脂組成物における低融点ガラスと無機充填材との合計量の割合が樹脂100質量部に対して100質量部以上となってしまう。このため、樹脂本来が有する機械的強度等の特性が損なわれてしまうという問題があった。
【0009】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低融点ガラスを含む難燃剤を含有し、且つ高い難燃性と高い機械特性とを共に発揮する成形体が形成され得る難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、マトリクス樹脂、低融点ガラス、及び前記低融点ガラス以外の無機充填材を含有し、前記マトリクス樹脂100質量部に対する前記低融点ガラスの割合が1〜40質量部の範囲、前記マトリクス樹脂100質量部に対する前記無機充填材の割合が1〜40質量部の範囲であり、前記低融点ガラスと前記無機充填材との前者対後者の質量比が1:4〜1:1の範囲であり、前記無機充填材の平均粒径が100nm以下である。
【0011】
本発明において、前記無機充填材の表面がシランカップリング剤で被覆されていることが好ましい。
【0012】
本発明において、前記無機充填材が、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低融点ガラスを含む難燃剤を含有し、且つ高い難燃性と高い機械特性とを共に発揮する成形体が形成され得る難燃性樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物は、マトリクス樹脂、低融点ガラス、及び低融点ガラス以外の無機充填材を含有する。この難燃性樹脂組成物がその組成に応じた適宜の手法で成形されることで成形体が形成される。
【0016】
難燃性樹脂組成物中のマトリクス樹脂100質量部に対する低融点ガラスの割合は1〜40質量部の範囲であり、且つマトリクス樹脂100質量部に対する無機充填材の割合は1〜40質量部の範囲である。更に、難燃性樹脂組成物中の低融点ガラスと無機充填材との前者対後者の質量比は1:4〜1:1の範囲である。更に、無機充填材の平均粒径は100nm以下である。
【0017】
このような組成を有する難燃性樹脂組成物から形成される成形体は、難燃性樹脂組成物中のマトリクス樹脂に対する低融点ガラスと無機充填材との合計量の割合が低いため、マトリクス樹脂が本来有する高い機械的強度等の特性が充分に維持される。しかも、低融点ガラスと無機微粒子とが複合的に作用することで、成形体は高い難燃性を有することになる。これは、次のような複合的な要因による難燃化作用が働くためであると考えられる。
【0018】
成形体が加熱されると、成形体内の低融点ガラスが融解して成形体の表面に達して被膜が形成される現象(ネッキング現象)が生じる。この被膜によって、外部から成形体への酸素の供給が遮断されると共に、成形体を構成する樹脂成分が分解して生じるガスの外部への流出が遮断される。これにより成形体の燃焼が継続的に起こる温度(発熱ピーク温度)が上昇し、成形体が難燃性を発揮する。
【0019】
但し、ネッキング現象により形成される被膜だけでは、外部へのガスの流出は充分には阻害されない。成形体を構成する樹脂成分が分解して生じるガスは、成形体の表面上だけでなくその内側でも発生し、成形体の内部ではガスは気泡となる。直径100μm以下程度の小さな気泡であれば、ネッキング現象により形成される被膜は気泡の移動を充分に阻害する。しかし、より大きい気泡が被膜に達すると被膜にクラックが発生しやすくなり、このクラックを通じて成形体からガスが流出することがある。
【0020】
しかしながら、本実施形態では成形体内に低融点ガラスだけでなく平均粒径100nm以下という小粒径の無機充填材も分散し、このため成形体の表層で樹脂成分が分解してもこの表層に無機充填材から構成される層が残存する。この無機充填材から構成される層が、大きな気泡の移動を阻害することで、大きな気泡が被膜に達しにくくなり、このため被膜にクラックが発生しにくくなる。このような無機充填材から構成される層が気泡の移動を阻害する作用は、無機充填材の粒径が100nm以下であることで発揮され、或いはこれにより大きく高められていると考えられる。
【0021】
このようにネッキング現象により形成される被膜が小さい気泡の移動を阻害すると共に無機充填材から構成される層が大きい気泡の移動を阻害することで、成形体内からのガスの流出が著しく抑制され、これにより成形体の難燃性が大きく向上すると考えられる。
【0022】
更に、成形体中の無機充填材の粒径が小さいこと、すなわち無機充填材の比表面積が大きいことにより、成形体が加熱された際のドリップ現象(溶融した樹脂が滴下する現象)が著しく抑制されると共に、成形体内のチャー(炭化層)の形成が促進される。これによっても成形体の難燃性が大きく向上する。
【0023】
難燃性樹脂組成物中の成分について、更に詳しく説明する。
【0024】
マトリクス樹脂としては、一般に成形用の樹脂組成物のマトリクス樹脂として使用され得るならば、適宜の樹脂が使用され得る。難燃性樹脂組成物のハロゲン含有量を抑制するという観点からは、マトリクス樹脂がハロゲンを含まないことが好ましい。
【0025】
マトリクス樹脂が特に熱可塑性樹脂であると、成形体の難燃性が特に高くなる。これは、成形体が高温に曝されると熱可塑性樹脂が速やかに軟化することで、成形体内で融解した低融点ガラスが成形体の表面へ移動しやすくなるためであると考えられる。
【0026】
熱可塑性樹脂の特に好ましい例として、ポリエステル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂が挙げられる。ポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂のうち、いずれか一方のみが使用されても、双方が併用されてもよい。
【0027】
ポリエステル系樹脂の具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサジメチレンテレフタレート、ポリアリレート等が挙げられる。特に好ましいポリエステル系樹脂として、ポリブチレンテレフタレート及びポリカーボネートが挙げられる。これらのポリエステル系樹脂のうち、一種のみが使用されても、複数種が併用されてもよい。
【0028】
ポリオレフィン系樹脂の具体例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリメチルペンテン等の単独重合体;エチレン/α−オレフィン共重合体;ビニルアルコールエステル単独重合体;ビニルアルコールエステルを完全加水分解又は部分加水分解して得られるポリオレフィン;エチレンとプロピレンとの少なくとも一方とビニルアルコールエステルとの共重合体を完全加水分解又は部分加水分解して得られるポリオレフィン;エチレンとプロピレンとの少なくとも一方と不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸エステルとの少なくとも一方との共重合体;エチレンとプロピレンの少なくとも一方と不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸エステルとの共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化して得られるポリオレフィン;共役ジエンとビニル芳香族炭化水素とのブロック共重合体及びその水素化物などが挙げられる。特に好ましいポリオレフィン系として、ポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂のうち、一種のみが使用されても、複数種が併用されてもよい。
【0029】
低融点ガラスは、軟化点が150℃〜800℃の範囲にある有機又は無機のガラス化合物から構成されることが好ましい。この低融点ガラスの軟化点は融解時に吸熱ピークが現れる温度であり、示差走査型熱量測定法によって測定される。ガラス化合物の具体例として、SiO、B、P、PbO、TiO、CdO、TlO、Bi、CuO、V、Al、Ga、ZnO、Y、ZrO、Fe、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物などを含有する有機又は無機ガラス化合物が挙げられる。低融点ガラスを構成するガラス化合物の種類及び構成比率は、低融点ガラスが所望の軟化点を有するように適宜調整される。低融点ガラスは粒子状であることが好ましい。低融点ガラスの粒径に制限はないが、特に低融点ガラスの平均粒径は0.5μm〜10μmの範囲であることが好ましい。この平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)によって観察される粒径から導かれる値である。この平均粒径が0.5μm以上であれば、熱硬化性樹脂組成物中での低融点ガラスの粒子の凝集が抑制されてこの粒子の分散性が向上し、この平均粒径が10μm以下であれば難燃性樹脂組成物中での低融点ガラスの分散性が非常に高くなる。
【0030】
無機充填材の平均粒径は上記のとおり100nm以下である。この平均粒径は、レーザー回折・光散乱法により測定される数平均粒径であり、例えば島津製作所株式会社製の型番SALD3000を用い、分散液としてイソプロピルアルコールを使用して測定される。無機充填材の平均粒径の下限は制限されないが、入手の容易さや難燃性樹脂組成物中の無機充填材の分散性などを考慮すると、無機充填材の平均粒径は10nm以上であることが好ましい。特にこの無機充填材の平均粒径は50nm〜90nmの範囲であることが好ましく、或いはこの無機充填材が、粒径50nm〜90nmの粒子数が総粒子数の68%以上となる粒度分布を有することが好ましい。この粒度分布は、平均粒径の場合と同様に例えば島津製作所株式会社製の型番SALD3000を用いて測定される。
【0031】
無機充填材の種類は制限されないが、特に水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウムのうちから選択される一種以上であることが好ましい。これらの無機充填材は塩基性酸化物或いは水酸化物であることから、成形体が加熱される場合にチャーの形成が無機充填材によって特に促進され、これにより成形体の難燃性が更に向上する。
【0032】
無機充填材はマトリクス樹脂が燃焼する温度より低い温度域では実質的に溶融現象を起こさないことが好ましく、特に800℃以下の温度域で実質的に溶融現象を起こさないことが好ましい。実質的に溶融現象を起こさない温度とは、無機充填材の融点以下の温度、並びに無機充填材の融点より高い温度であってもその温度において無機充填材が脱水などの化学反応などにより熱的により安定した物質に変化している温度のことをいう。例えば酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムは安定で耐熱性が高く、800℃以下の温度では溶融しない。更に水酸化マグネシウムの融点は350℃であり、酸化アルミニウムの融点は300℃であるが、これらが加熱されると融点以下の温度で脱水反応により水酸化マグネシウムは酸化マグネシウムに、水酸化アルミニウムは酸化アルミニウムにそれぞれ変化するため、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムは800℃以下の温度域では実質的に溶融現象を引き起こさない。マトリクス樹脂が燃焼する温度は通常は400℃以上であるが、そのような温度では水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムは酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムに変化しているので、マトリクス樹脂が燃焼する温度より低い温度域で溶融することはない。
【0033】
無機充填材にはシランカップリング剤による表面処理が施されていることが好ましい。この場合、成形体の燃焼時にドリップの発生が更に抑制される。これは、難燃性樹脂組成物中及び成形体中における無機充填材の分散性が向上することで無機充填材の凝集が抑制され、これにより無機充填材の実効的な表面積の減少が抑制されるためであると考えられる。
【0034】
シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラ等のメルカプトシラン;p−スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン;その他エポキシ系、アミノ系、ビニル系等の高分子タイプのシランなどが挙げられる。
【0035】
上記のとおり難燃性樹脂組成物中におけるマトリクス樹脂100質量部に対して、低融点ガラスの割合は1〜40質量部の範囲、無機充填材の割合は1〜40質量部の範囲である。このような範囲において、成形体が高い難燃性を有すると共に、この成形体の機械的特性が充分に高く維持される。成形体の難燃性が特に高くなるためには、低融点ガラスの割合は特に5質量部以上であることが好ましく、無機充填材の割合は特に20質量部以上であることが好ましい。更に、成形体の難燃性が特に高くなるためには、マトリクス樹脂100質量部に対する低融点ガラスと無機充填材の合計量の割合は20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であれば更に好ましい。
【0036】
上記の通り難燃性樹脂組成物中の低融点ガラスと無機充填材との前者対後者の質量比は、1:4〜1:1の範囲であり、これにより成形体の難燃性が非常に高くなる。これは、低融点ガラスと無機充填材との割合が前記のような範囲であることで、成形体内の小さい気泡の移動と大きい気泡の移動とがバランス良く阻害されるためであると考えられる。無機充填材に対する低融点ガラスの割合が前記範囲よりも小さいと成形体の難燃性が低下してしまう。これはドリップ現象により形成される被膜が小さい気泡の移動を充分に阻害しなくなるためと考えられる。一方、低融点ガラスに対する無機充填材の割合が前記範囲よりも小さい場合も成形体の難燃性が低下してしまう。これは無機充填材から構成される層によって大きい気泡の移動が充分に阻害されなくなると共にドリップ現象も充分に抑制されなくなるためと考えられる。
【0037】
難燃性樹脂組成物は上記成分以外にも、成形用の樹脂組成物などに採用されている適宜の添加剤を含有してもよい。添加剤の種類及び含有量は、低融点ガラス及び無機充填材による難燃化作用を阻害しないように適宜設定されることが望ましい。
【0038】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物は、上記のような成分が適宜の手法で配合され、混合されることにより製造される。難燃性樹脂組成物は必要に応じてタブレット状などの適宜の形状に調製されてもよい。
【0039】
難燃性樹脂組成物から形成される成形体の用途は特に限定されないが、特に機械的強度と難燃性とが求められる用途に好適に用いられ得る。難燃性樹脂組成物の用途の具体例として、給電部品、光反射板カバー、電源端子部品等が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。尚、本発明はもとより下記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0041】
[実施例1〜4,6,7、比較例1〜5]
下記表1に示されているマトリクス樹脂、低融点ガラス、及び無機充填材を下記表1に示す割合で配合し、これにより得られた混合物を二軸押し出し機(東洋精機株式会社製)で混練溶融してから空冷し、これにより得られた生成物をペレタイザーで切断することで、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0042】
[実施例5]
実施例1において、混合物中に配合される前の無機充填材に予めシランカップリング剤処理を施した。このシランカップリング剤処理において、シランカップリング剤としてビニルトリクロルシラン(信越化学工業株式会社製)を用い、その無機充填材への付着量を無機充填材に対して5質量%とした。それ以外の条件は実施例1の場合と同じにした。これにより、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0043】
[評価試験]
・難燃性
各実施例及び比較例による樹脂組成物を成形して試験片(寸法1.2mm×130mm×13mm)を作製し、この試験片についてUL94規格による燃焼試験をおこなった。その結果は表1に示される通りである。
【0044】
・引張強度
実施例1〜7並びに比較例1〜5において、無機充填材の割合をマトリクス樹脂に対して100質量%に変更すると共に低融点ガラスを使用せず、それ以外の条件は実施例1〜7並びに比較例1〜5と同じにすることで、各実施例及び比較例に対応する標準試料を作製した。
【0045】
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物、並びに各実施例及び比較例に対応する標準試料を成形して試験片を作製し、この試験片に対して、JIS K7113に準拠する方法で引張試験をおこない、引張破断伸びを計測した。試験条件は、試験間距離115mm、引張速度1mm/minとした。
【0046】
各実施例及び比較例による樹脂組成物から形成された試験片の引張破断伸びが、標準試料から形成された試験片の引張破断伸びの150%以上である場合を「○」、150%未満である場合を「×」と評価した。その結果は表1に示される通りである。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示されている成分の詳細は以下の通りである。
・マトリクス樹脂1:ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA樹脂)、和光純薬工業株式会社製。
・マトリクス樹脂2:ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、プライムポリマー社製、商品名ハイゼックス。
・低融点ガラス:PbO−B系ガラス、平均粒径3.5μm、軟化点430℃、日本電気硝子株式会社製、品番GA−2v。
・ 無機フィラー1:水酸化マグネシウム粒子、平均粒径70nm、総粒子数に対する粒径50nm〜90nmの範囲の粒子数の割合68%、和光純薬工業株式会社製。
・無機フィラー2:水酸化マグネシウム粒子、平均粒径600nm、和光純薬工業株式会社製。
【0049】
表1に示されている結果によると、実施例1〜7による樹脂組成物から形成された試験片の引張強度の評価はいずれも「○」であり、これにより、これらの試験片はマトリクス樹脂による高い機械的強度が充分に維持されていることが確認された。
【0050】
更に、実施例1〜7による樹脂組成物から形成された試験片は、UL94規格による燃焼試験の結果、いずれも燃焼性クラスV−0を達成した。これに対して、比較例1〜4による樹脂組成物から形成された試験片は、いずれも燃焼性クラスV−2までしか達成せず、比較例5では引張強度の評価が「×」であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス樹脂、低融点ガラス、及び前記低融点ガラス以外の無機充填材を含有し、前記マトリクス樹脂100質量部に対する前記低融点ガラスの割合が1〜40質量部の範囲、前記マトリクス樹脂100質量部に対する前記無機充填材の割合が1〜40質量部の範囲であり、前記低融点ガラスと前記無機充填材との前者対後者の質量比が1:4〜1:1の範囲であり、前記無機充填材の平均粒径が100nm以下である難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機充填材の表面がシランカップリング剤で被覆されている請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機充填材が、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−126849(P2012−126849A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280831(P2010−280831)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】