説明

難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物

【課題】
非ハロゲン系難燃剤により高度に難燃化されており、且つ電気絶縁性及び成形性に優れた難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、成形に際しての金型汚染が無く、ウエルド強度保持率、靭性、耐トラッキング性に優れた成形体を与える樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)アニオン部分が特定構造のホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩であるホスフィン酸塩類5〜40重量部、(C)珪素原子に直接又は酸素原子を介して結合している有機基の40モル%以上がアリール基であるオルガノシロキサン化合物1.5〜10重量部、(D)繊維状強化材5〜80重量部、及び(E)ホウ酸金属塩0〜20重量部を配合した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン系難燃剤を含有しなくても優れた難燃性を有し、同時に優れた機械的物性を有する難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物及びそれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた特性から電気及び電子機器部品、並びに自動車部品などに広く用いられている。従来からこの樹脂に関しては、要求特性を満足させるべく様々な処方が開発され、それにより高機能化と高性能化を実現してきた。
【0003】
しかし近年、要求物性は益々高度化してきており、従来の処方では対応が困難になってきている。例えば、最近はコネクターなどの電子部品の軽量小型化が進み、成形品の肉厚が薄くなってきている。従って成形に用いる樹脂組成物にも、これに対応すべく、従来以上に機械的特性と難燃性に優れていることが要求されている。
【0004】
従来、樹脂の難燃剤としては主にハロゲン系難燃剤が用いられていた。しかしハロゲン系難燃剤を含有する樹脂は、使用済み成形品を焼却処分する際にダイオキシンを発生する場合があり、非ハロゲン系難燃剤を用いることが求められている。この要求に応える方法の一つとして、リン系の化合物、中でもアニオン部分が下記式(1)又は(2)で表されるホスフィン酸のカルシウム塩又はアルミニウム塩を難燃剤として用いることが検討されている。
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、R及びRは各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、R同士は同一であることも異なっていることもある。Rは炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基、又はこれらの混合基を表す。nは0〜4の整数を表す。)
【0007】
特許文献1には、難燃剤として、このホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩を用いることが記載されている。しかしこの方法では、良好な難燃性を得る為にこれらの塩が多量に必要となり、得られる樹脂組成物の成形性及び機械的特性が低下するという問題があった。
【0008】
特許文献2には、難燃剤としてホスフィン酸のカルシウムまたはアルミニウム塩にメラミンシアヌレートなどの有機窒素化合物を併用することが記載されている。この方法によれば難燃性はかなり改善されるが、成形時のガス発生が著しく多い為に金型汚染が酷く、更に成形品のウエルド強度が低く、靭性に乏しいという問題があった。
【0009】
尚、樹脂組成物に靭性を付与する方法としては、例えば特許文献3に記載されている様にエラストマー等の低弾性率の重合体を配合することが一般的である。しかしエラストマーの配合は樹脂組成物の難燃性を低下させるので、この方法では靭性と難燃性を両立させることは困難である。
【0010】
特許文献4には、難燃剤として特殊な有機リン化合物を用い、これに難燃助剤を配合することが記載されている。難燃助剤としては多種類のものが挙げられており、そのなかにはそれ自体で難燃剤として知られているものも含まれている。この文献に記載されている難燃助剤は、有機物から無機物まで広範囲にわたっているので、その全てが同じような効果を奏するか否かは疑問である。
【0011】
また成形品の剛性を高めるため、樹脂組成物にガラス繊維などの繊維状強化材を配合することが行われているが、繊維状強化材を配合した樹脂組成物で成形した製品は、燃焼時に繊維状強化材が蝋燭の芯のように作用するので、燃焼し易いという問題があった。
【0012】
従って繊維状強化材を配合した樹脂組成物を、ホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩で難燃化するには、格別の工夫が必要である。
【0013】
【特許文献1】特開平8−73720号公報
【特許文献2】特開平11−60924号公報
【特許文献3】特開平7−150022号公報
【特許文献4】WO2004/061008号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は熱可塑性ポリエステル樹脂に繊維状強化材とホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩を配合してなり、且つ優れた機械的特性及び難燃性を有する難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供しようとするものである。
【0015】
本発明者は、繊維状強化材及び難燃剤としてホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩を配合した熱可塑性ポリエステル樹脂に、アリール基を含有するオルガノシロキサン化合物及び更にはホウ酸金属塩を配合することにより、難燃性及び機械的特性に優れた、物性バランスの良い樹脂組成物となることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
即ち本発明の要旨は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)アニオン部分が式(1)又は(2)で表されるホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩であるホスフィン酸塩5〜40重量部、(C)珪素原子に直接又は酸素原子を介して結合している有機基の40モル%以上がアリール基であるオルガノシロキサン化合物1.5〜10重量部、(D)繊維状強化材5〜80重量部、及びホウ酸金属塩0〜20重量部を配合したことを特徴とする難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に存する。また本発明の他の要旨は、この樹脂組成物を射出成形して成る成形品に存する。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R及びRは各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、R1同士は同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基、又はこれらの混合基を表す.nは0〜4の整数を表す。)
【発明の効果】
【0019】
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、次のような特徴を有する。
(1)厚さ1mm以下の成形品とした場合でも優れた難燃性と機械的特性を有する。
(2)ハロゲン系難燃剤不含故、焼却時にダイオキシンを発生せず、環境汚染が少ない。
(3)離型性に優れているので、成形に際し変形などの恐れが少ない。
(4)モールドデポジットが極めて少ないので成形に際しての生産性がよい。
(5)射出成形品のウエルド部の強度が大きい。
(6)耐トラッキング性に優れ、広範囲の電気電子分野の用途に利用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳しく説明する。
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂:
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の主成分である熱可塑性ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合、又はこれらの化合物の混合物の重縮合などによって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルのいずれであってもよい。熱可塑性ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0021】
これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステルなどのエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。オキシカルボン酸としてはパラオキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ジフェニレンオキシカルボン酸などが挙げられる。これらは単独で重縮合させることもできるが、ジカルボン酸化合物に少量併用することが多い。
【0022】
ジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリオキシアルキレングリコールなどの脂肪族ジオールが主として用いられるが、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどの芳香族ジオールやシクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオールも用いることができる。
【0023】
またこのようなニ官能性化合物以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなどの三官能以上の多官能化合物や、分子量調節のための脂肪酸などの単官能化合物を少量併用することもできる。
【0024】
本発明では、熱可塑性ポリエステル樹脂としては、通常は主としてジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物とから成る重縮合物、即ち計算上、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物のエステルである構造単位が、樹脂全体の70重量%以上、好ましくは90重量%以上を占めるものを用いる。ジカルボン酸化合物としては芳香族ジカルボン酸が好ましく、ジヒドロキシ化合物としては脂肪族ジオールが好ましい。
【0025】
なかでも好ましいのは、酸性分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95モル%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレートである。その代表的なものはポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートである。これらはホモエステルに近いもの、即ち樹脂全体の95重量%以上がテレフタル酸成分及び1,4−ブタンジオール又はエチレングリコール成分から成るものであるのが好ましい。
【0026】
熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は適宜選択して決定すればよいが、通常0.5〜2dl/gであることが好ましく、中でも樹脂組成物の成形性及び機械的特性の観点から0.6〜1.5dl/gであることが好ましい。固有粘度が0.5dl/g未満のものを用いると、樹脂組成物から得られる成形品の機械的強度が低くなる傾向にあり、逆に2dl/gより大きいと樹脂組成物の流動性が低下し、成形性が低下する場合がある。
【0027】
尚、本明細書においてポリエステル樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(重量比)の混合溶媒中、30℃で測定した値である。
【0028】
(B)ホスフィン酸塩:
本発明で用いるホスフィン酸塩は、アニオン部分が下記式(1)又は(2)で表され、カチオン部分がカルシウム又はアルミニウムであるものである。
【0029】
【化3】

【0030】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、R同士は同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基、又はこれらの混合基を表す。nは0〜4の整数を表す。)
【0031】
及びRが表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソブチル基、ペンチル基などが挙げられるが、炭素数1〜4のアルキル基、特にメチル基又はエチル基が好ましい。アリール基としては、フェニル基やナフチル基が挙げられ、これらに結合する置換基としてはメチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基などの炭素数1〜4のアルキル基やアルコキシ基が挙げられる。
【0032】
置換基の結合数は通常1〜2個である。アリール基はフェニル基又はこれに炭素数1〜2のアルキル基が1〜2個結合したものであるのが好ましい。
【0033】
が表すアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基など直鎖状のもの、及び2−エチルヘキシレン基など分岐鎖状のものなどが挙げられる。これらのなかでも好ましいのは炭素数1〜4のアルキレン基、とくにメチレン基又はエチレン基である。
【0034】
アリーレン基としてはフェニレン基、ナフチレン基などが挙げられ、これに結合する置換基としては、上述のものと同様のものが挙げられる。置換基の結合数は通常は一個である。アリーレン基としてはフェニレン基又はこれに炭素数1〜2のアルキル基が結合したものが好ましい。混合基としてはメチレン基とフェニレン基が結合したもの、メチレン基に2個のフェニレン基が結合したもの、フェニレン基に2個のメチレン基が結合したものなどが挙げられる。
【0035】
中でも本発明においては、上述したホスフィン酸塩として、アニオン部分が以下の式(1’)又は(2’)で表されるホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩を用いることが好ましい。
【0036】
【化4】

(式中、R及びRは各々独立して、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R同士は同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数1〜4のアルキレン基又はフェニレン基を表す。nは0〜4の整数を表す。)
【0037】
ホスフィン酸塩は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、5〜40重量部配合する。配合量が5重量部未満では樹脂組成物の難燃性を十分に高くすることが困難であり、逆に40重量部を超えると樹脂組成物の機械的特性が低下する。難燃性と機械的特性を両立させる点からして、配合量は10〜35重量部、特に20〜35重量部が好ましい
【0038】
本発明で用いるのに好ましいホスフィン酸塩としては、アニオン部分が式(1’)で表されるものとして、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n―プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n―プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジイソブチルホスフィン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0039】
また、アニオン部分が式(2’)で表されるものとして、メチレンビス(メチルホスフィン酸)カルシウム、メチレンビス(メチルホスフィン酸)アルミニウム、フェニレン−1、4−ビス(メチルホスフィン酸)カルシウム、フェニレン−1,4―ビス(メチルホスフィン酸)アルミニウム等の、式(2’)においてn=0のものが好ましい。
【0040】
本発明に用いるホスフィン酸塩は、単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。具体的には例えば、難燃性及び電気特性の観点から、上述したなかでもジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩や、カルシウム塩が好ましい。また本発明の樹脂組成物から得られる成形品の機械的強度や外観の観点から、本発明に用いるホスフィン酸塩は、その90重量%以上が粒径100μm以下、特に50μm以下である粉末を用いるのが好ましい。中でも90重量%以上が粒径0.5〜20μmの粉末を用いることで、高い難燃性を発現し、且つ成形品の靭性が著しく高くなるので特に好ましい。尚、ここでの粒径とは、レーザー回折法により得られる値である。
【0041】
(C)オルガノシロキサン化合物:
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、アリール基を有するオルガノシロキサン化合物を含有することが必要である。このオルガノシロキサン化合物は、前述したホスフィン酸塩と組み合わせて用いることにより、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に高度な難燃性を付与する難燃剤として作用する。
【0042】
その作用機序の一つは、樹脂組成物の燃焼に際し、オルガノシロキサン化合物が気化して樹脂組成物中に微小な気泡が多数生じ、この気泡の断熱作用により樹脂組成物がそれ以上燃焼するのが阻害されるものと推察される。
【0043】
本発明で用いるオルガノシロキサン化合物は、有機シラノールないしはその重合体であって、珪素原子に直接または酸素原子を介して結合している有機基、即ちSi―C又はSi―O―C結合を形成している有機基の40モル%以上、好ましくは50モル%以上がアリール基であるものである。アリール基としてはフェニル基やナフチル基が挙げられ、これらの基にはメチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基など炭素数1〜4のアルキル基やアルコキシ基が1〜2個置換していてもよい。このアリール基としては、中でもフェニル基が好ましい。
【0044】
オルガノシロキサン化合物を含有するポリエステル樹脂組成物は、一般に燃焼時に滴下を起こし易いが、有機基の40モル%以上がアリール基であるオルガノシロキサン化合物を含有する樹脂組成物は燃焼時に滴下し難く、かつ燃焼が大幅に抑制される。オルガノシロキサン化合物のこれらの作用は、一般に有機基に占めるアリール基の割合が高いほど大きい。従ってオルガノシロキサン化合物としては有機基の80モル%以上、さらには全て(100%)がアリール基、特にフェニル基であるものを用いるのが、特に好ましい。
【0045】
オルガノシロキサン化合物としては、トリフェニルシラノールの様なモノマー、その環状4量体であるオクタフェニルテトラシクロシロキサンの様なオリゴマー、さらにはポリジフェニルシロキサンの様なポリマーの、いずれをも用いることができる。またこれらのフェニル基の一部は、メチル基やその他のアルキル基、メトキシ基やその他のアルコキシ基、フェノキシ基やその他のアリールオキシ基等に置換されていてもよい。
【0046】
更にフェニル基としては、その一部が水酸基に置換されていてもよいが、オルガノシロキサン化合物における水酸基の含有量が多過ぎると、高温多湿下において加水分解し易いので、水酸基の含有量は1〜10重量%であることが好ましい。
【0047】
尚、上述した様にオルガノシロキサン化合物としてはモノマーやオリゴマーも用いうるが、低分子量のものはモールドデポジットを起こし易いので、重量平均分子量が800以上、特に1000以上のポリマーを用いるのが好ましい。逆に分子量が大きすぎてもポリエステル樹脂との相溶性が低下するので、均一な樹脂組成物の調製が困難となる場合がある。よってオルガンシロキサン化合物の重量平均分子量としては10000以下、中でも5000以下が好ましい。ここで重量平均分子量とは、ゲル・パーメーション・クロマトグラフィー法(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0048】
オルガノシロキサン化合物の中でも、特に好ましいのは、所謂シリコーンレジンである。シリコーンレジンは通常は下記のD単位、T単位、Q単位などからなる重合体であり、末端はM単位で封止されていることもある。
【0049】
【化5】

【0050】
【化6】

【0051】
【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
本発明に用いるシリコーンレジンとしては、中でもRSiO1.5で示されるT単位を含有するものが好ましく、特にT単位を多く含有するもの、具体的には50モル%以上、中でも80モル%以上含有するものが好ましく、特に末端封止基を除き全てがT単位から成るものが好ましい。
【0054】
一般的に、T単位の含有量が少ないシリコーンレジンは、それ自体の耐熱性が低く、かつ樹脂組成物中での分散性も低い。ここでT単位の含有率は、29Si−NMRで測定した値、即ちこの測定でT単位に帰属するピーク面積比からその含有率を算出した値である。
【0055】
式(3)〜(6)において、Rは、炭素数1〜12の一価の炭化水素基を表す。なお、各Rは同じでも異なっていてもよく、通常は、炭素数が1〜12のアルキル基、炭素数が2〜12のアルケニル基又は、炭素数が6〜12のアリール基のいずれかである。
【0056】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。アルケニル基としては、ビニル基、ブテニル基、アリール基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基等が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。尚、アリール基にはメチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基などの炭素数1〜4のアルキル基やアルコキシ基が1〜2個結合していてもよい。
【0057】
また上記式において、Si−O―の酸素原子は、水素原子や炭化水素基と結合して水酸基や炭化水素オキシ基を形成するか、または2個のSi−O―が結合してSi−O―Si結合を形成している。酸素原子に結合する炭化水素基としては、上記式にRとして示したものと同様のものが挙げられる。
【0058】
本発明では上述したシリコーンレジンのうち、珪素原子に直接または酸素原子を介して結合している有機基、即ちSi―C又はSi−O−C結合を形成している有機基のうち40モル%以上、好ましくは50モル%以上が、置換されていてもよいアリール基、好ましくはフェニル基であるものを用いる。
【0059】
アリール基の含有量が40モル%に満たなシリコーンレジンは、熱可塑性ポリエステル樹脂への相溶性が低く、得られる樹脂組成物が所望の高い難燃性を示さない場合がある。よってアリール基の含有量は該有機基の80モル%以上、中でも100%であることが好ましい。尚、アリール基の含有率も29Si−NMRによって測定可能であり、アリール−Si及びSi―O―アリールに帰属するピーク面積比から含有率を算出できる。
【0060】
またシリコーンレジンは、水酸基を少量含有することで難燃性が向上する場合がある。水酸基の含有量はシリコーンレジンの1〜10重量%、中でも2〜8重量%であることが好ましい。尚、シリコーンレジンは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0061】
オルガノシロキサン化合物は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、1.5〜10重量部、好ましくは2〜7重量部配合する。配合量が少ないと所望の難燃性を示さない。逆に配合量が多すぎても難燃性が低下する。これは樹脂組成物中のオルガノシロキサン化合物の量が多くなると、樹脂組成物の燃焼に際し気化したオルガノシロキサン化合物自体が燃焼し、かえって難燃性を低下させるためと考えられる。
【0062】
(D)繊維状強化材:
繊維状強化材としては、熱可塑性樹脂に配合して剛性その他の機械的物性改良に用いられているガラス繊維、炭素繊維の他、玄武岩繊維、チタン酸カリウム繊維等の従来公知の任意のウイスカーを用いることができる。中でもガラス繊維又は炭素繊維が好ましい。
【0063】
繊維状強化材は、その直径が太過ぎると柔軟性が低下し、また1μm未満の様に細すぎるものは大量入手が難しく、化学産業レベルでの使用は困難である。よってその直径は1〜100μm、中でも2〜50μmであることが好ましい。入手が容易で且つ強化材としての効果も大きい点で、平均直径が3〜30μm、特に5〜20μmのものが、特に好ましい。尚、繊維状強化材は通常は円形断面であるが、まゆ型や扁平形状などの異型断面形状のものであってもよい。
【0064】
繊維状強化材の長さは、補強効果の観点から0.1mm以上であることが好ましい。一般に長い方が補強効果が大きい反面、長い繊維状強化材は溶融混練により樹脂組成物を調製する際、折損して短くなる。よって20mm以上の長さのものを用いても、その効果は一般的に低いので、通常は平均長さ0.3〜5mmのものを用いればよい。繊維状強化材は、通常はこれらの繊維を多数本集束したものを、所定の長さに切断したチョップドストランドとして樹脂組成物の調製に供する。なお炭素繊維の配合は樹脂組成物に導電性を付与するので、高電気抵抗の樹脂組成物を所望の場合にはガラス繊維を用いる。
【0065】
繊維状強化材は、ポリエステル樹脂100重量部に対して5〜80重量部配合する。配合量が5重量部未満では補強効果が小さく、逆に80重量部を超えると樹脂組成物の耐衝撃性などの機械的物性が低下するようになる。繊維状強化材の好ましい配合量は20〜70重量部である。
【0066】
(E)ホウ酸金属塩:
本発明においては、上述した(A)〜(D)に加えて更に、ホウ酸金属塩を用いてもよい。ホウ酸金属塩を形成するホウ酸としては、オルトホウ酸、メタホウ酸等の非縮合ホウ酸、ピロホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸及び八ホウ酸等の縮合ホウ酸、並びに塩基性ホウ酸等が好ましい。これらと塩を形成する金属はアルカリ金属でもよいが、中でもアルカリ土類金属、遷移金属、周期律表2B族金属等の多価金属が好ましい。またホウ酸金属塩は水和物であってもよい。
【0067】
ホウ酸金属塩としては、非縮合ホウ酸金属塩と、縮合ホウ酸金属塩とがある。非縮合ホウ酸金属塩としては、オルトホウ酸カルシウム、メタホウ酸カルシウム等のアルカリ土類金属ホウ酸塩;オルトホウ酸マンガン、メタホウ酸銅等の遷移金属ホウ酸塩;メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸カドミウム等の周期律表2B族金属のホウ酸塩などが挙げられる。これらのなかではメタホウ酸塩が好ましい。
【0068】
縮合ホウ酸塩としては、四ホウ酸三マグネシウム、ピロホウ酸カルシウム等のアルカリ土類金属ホウ酸塩;四ホウ酸マンガン、二ホウ酸ニッケル等の遷移金属ホウ酸塩;四ホウ酸亜鉛、四ホウ酸カドミウム等の周期律表2B族金属のホウ酸塩等が挙げられる。塩基性ホウ酸塩としては塩基性ホウ酸亜鉛、塩基性ホウ酸カドミウム等の周期律表2B族金属の塩基性ホウ酸塩等が挙げられる。またこれらのホウ酸塩に対応するホウ酸水素塩(例えばオルトホウ酸水素マンガン等)も使用できる。
【0069】
本発明に用いるホウ酸金属塩としては、アルカリ土類金属又は周期律表2B族金属塩、例えばホウ酸亜鉛類やホウ酸カルシウム類を用いるのが好ましい。ホウ酸亜鉛類には、ホウ酸亜鉛(2ZnO・3B)やホウ酸亜鉛・3.5水和物(2ZnO・3B・3.5HO)等が含まれ、ホウ酸カルシウム類にはホウ酸カルシウム(2CaO・3B)やホウ酸カルシウム・5水和物(2CaO・3B・5HO)等が含まれる。これらホウ酸亜鉛類やホウ酸カルシウム類の中でも特に水和物が好ましい。
【0070】
ホウ酸金属塩の配合により、樹脂組成物の燃焼阻止作用が向上する。現象的には、燃焼に際し発泡して未燃焼部分を炎から遮断する。ホウ酸金属塩の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して0〜20重量部であるが、配合効果を発現させるためには1重量部以上配合することが好ましいが、過剰に配合しても添加量増加に見合う効果の向上は頭打ちとなるので、ホウ酸金属塩の配合量は熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して1〜10重量部、中でも1〜5重量部であることが好ましい。
【0071】
更に本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂組成物に常用されている種々の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、耐加水分解抑制剤(エポキシ化合物、カルボジイミド化合物など)、帯電防止剤、滑剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤などが挙げられる。特に酸化防止剤及び離型剤の添加は効果的である。
【0072】
また、乳化重合法で得られたポリテトラフルオロエチレンやヒュームドコロイダルシリカなどを添加して、燃焼時の滴下防止をより確実にすることもできる。
【0073】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物は、更に他の熱可塑性樹脂を補助的に用いてもよく、高温において安定な樹脂であれば使用可能であり、具体的には例えばポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイドエチレン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0074】
本発明の樹脂組成物の調製は、樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。通常は(A)〜(E)の各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸又は二軸押出機で溶融混練する。また各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フイーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本発明の樹脂組成物を調製することもできる。さらには、ポリエステル樹脂の一部に他の成分の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りのポリエステル樹脂や他の成分を配合して溶融混練してもよい。
【0075】
そして本発明の樹脂組成物を用いた樹脂成形品は、従来公知の任意の熱可塑性樹脂の成形方法に、上述してきた本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂を適用して、得ることが出来る。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。尚、樹脂組成物の評価は、以下の方法により行った。
【0077】
曲げ強度:
厚さ1.6mmのUL94(アンダーライターズラボラトリーズのサブジェクト94)燃焼試験片を射出成形し、これを用いてスパン間40mm、試験速度2mm/minの条件にて曲げ試験を実施した。
【0078】
ウエルド曲げ強度:
上述の曲げ強度試験で用いたのと同じ金型に、試験片の両側長手方向からの2点ゲートで樹脂を射出して、試験片中央部にウエルドラインが形成された厚さ1.6mmのUL94燃焼試験片を射出成形し、これを用いて上述の曲げ強度試験の際と同じ条件にてウエルド曲げ試験を実施した。
ウエルド保持率は、(ウエルド有りの試験片の曲げ強度/ウエルド無しの試験片の曲げ強度)x100%で算出した。
【0079】
難燃性テスト:
UL94の方法に準じ、5本の試験片(厚さ0.8mm)を用いて難燃性テストを行い、UL94記載の評価方法に従い、V−0、V−1、V−2、HBに分類した(V−0が最も難燃性が高いことを示す)。Total燃焼時間は、5本の合計燃焼時間(第一接炎時、第二接炎時の燃焼時間を含む)である。
【0080】
比較トラッキング指数試験(略称:CTI試験):
試験片(厚さ3mmの平板)について、国際規格IEC60112に定める試験法によりCTIを決定した。CTIは固体電気絶縁材料の表面に電界が加わった状態で湿潤汚染されたとき、100Vから600Vの間の25V刻みの電圧におけるトラッキングに対する対抗性を示すものであり、数値が高いほど良好であることを意味する。CTIは500V以上であるのが好ましい。
【0081】
モールドデポジット:
射出成形機として住友重機械(株)製SE50を用い、射出圧力50MPa射出速度80mm/sec、シリンダー温度260℃、射出時間3sec、冷却8sec、金型温度80℃、ザックバック3mmの条件で、長さ35mm、幅14mm、厚さ2mmの樹脂成形品をピンゲート金型を用いて製造した。
【0082】
この条件で連続的に射出成形し、1000ショット実施後、金型に付着しているモールドデポジットの状態(金型汚染性)を肉眼で観察し、次の判定基準に従って評価した。
◎;モールドデポジットがほとんど認められない。
○;モールドデポジットがうっすらと認められる。
△;モールドデポジットがはっきりと認められる。
×;モールドデポジットが金型全面に厚く付着している。
【0083】
離型性:
樹脂温度270℃、金型温度80℃、サイクル25秒の条件で、ファナック製射出成形機(α−100iA)を用いて、浅いコップ形状(肉厚3mm、外径100mm、深さ20mm)の成形品を連続射出成形し、突き出しピンの痕の有無を目視観察することにより離型性を測定した。ピンの痕がはっきりと認められるものを×、かすかに認められるものを○、認められないものを◎とした。
【0084】
実施例で使用した原料は、以下の通りである。
【0085】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂:
(A―1)PBT:5020三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ノバデュラン(登録商標)5020、固有粘度1.20dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂
【0086】
(A―2)PBT:5008三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ノバデュラン(登録商標)5008、固有粘度0.85dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂
【0087】
(B)ホスフィン酸塩:
ジエチルホスフィン酸アルミニウム:クラリアント社製 OP1240(商品名)
【0088】
(C)オルガノシロキサン化合物:
(C−1)シリコーン化合物−1:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 217Flake(商品名)、重量平均分子量(Mw):2000、水酸基含有量:7重量(wt)%フェニル基含有量:100モル%、平均分子式:(PhSiO3/21.0(HO1/2)0.57
【0089】
(C−2)シリコーン化合物−2:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 TMS217(商品名)、Mw:2000、水酸基含有量:2wt%フェニル基含有量:100モル%、C−1のシリコーン化合物にトリメチルシリル基で末端封止処理を施したシリコーンレジン
【0090】
(C−3)シリコーン化合物−3:小西化学工業製 SR−21(商品名)、Mw:3800、水酸基含有量:6wt%フェニル基含有量:100モル%、平均分子式:(PhSiO3/21.0(HO1/20.48
【0091】
(C−4)シリコーン化合物−4:小西化学工業製 SR−20(商品名)、Mw:6700、水酸基含有量:3wt%フェニル基含有量:100モル%、平均分子式:(PhSiO3/21.0(HO1/20.24
【0092】
(C−5)シリコーン化合物−5:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 SH6018(商品名)、Mw:2000、水酸基含有量:6wt%フェニル基含有量:70モル%、プロピル基30モル%、平均分子式:(PhSiO3/20.7(ProSiO3/20.3(HO1/20.48
【0093】
(C−6)シリコーン化合物−6:信越化学工業社製 X40−9805(商品名)、メチルフェニル系オルガノシロキサン(フェニル基含有量50モル%前後)
【0094】
(C−7)シリコーン化合物−7:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 Z6800(商品名)、トリフェニルシラノール(フェニル基含有量100モル%)
【0095】
(C−8)シリコーン化合物−8:信越化学工業社製、オクタフェニルテトラシクロシロキサン(フェニル基含有量100モル%)
【0096】
(C−9)シリコーン化合物−9:信越化学工業社製 KR−511(商品名)、メチルフェニル系シリコーンオリゴマー(フェニル基含有量50モル%前後)
【0097】
(C−10)シリコーン化合物−10:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製 TSR165(商品名)、ポリメチルフェニルメトキシシロキサン(フェニル基含有量50モル%前後)
【0098】
(C−11)シリコーン化合物−11:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 SH200(商品名)、ポリジメチルシロキサン(水酸基含有量0wt%、フェニル基含有量0モル%、粘度60000センチストークス)
【0099】
(D)ガラス繊維:オーエンス・コーニング社製 03JA−FT592(商品名)、直径10.5μm
【0100】
(E)ホウ酸亜鉛:BORAX社製 Firebrake500(商品名)、B56.2wt%、ZnO43.8wt%、粒径10μm
【0101】
(F)その他の添加剤
(F−1)シアヌル酸メラミン:日本合成化学社製 MX44(商品名)
【0102】
(F−2)フッ素系樹脂:住友3M社製 TF1750(商品名)
【0103】
(F−3)酸化防止剤:チバ・スペシャリティーケミカルズ社製 フェノール系酸化防止剤 イルガノックス1010(商品名)
【0104】
(F−4)リン系安定剤:旭電化社製 アデカスタブPEP36(商品名)
【0105】
(F−5)離型剤:日本精鑞社製 パラフィンワックス FT100(商品名)
【0106】
[実施例1〜16及び比較例1〜9]
表1に示す重量比で、ガラス繊維以外の成分を一括してスーパーミキサー(新栄機械社製SK−350型)で混合し、混合物をL/D=42の2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30HSST)のホッパーに投入し、ガラス繊維をサイドフィードして、吐出量20kg/h、スクリュー回転数250rpm、バレル温度260℃の条件下で押出して、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。
【0107】
この樹脂組成物ペレットから、射出成形機(住友重機械工業社製 型式SE50)を用い、樹脂温度260℃、金型温度80℃で、厚さ1.6mmのUL94規格の燃焼試験片とウエルドラインを有する燃焼試験片(曲げ試験片として使用)、厚さ0.8mmのUL94規格の燃焼試験片、及び比較トラッキング指数用試験片(縦横それぞれ10cm、厚さ3mmの平板試験片)を製造し、同時にこの成形条件でのモールドデポジット評価及び離型性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
表1より以下のことが明白となる。即ち、比較例の樹脂組成物は、難燃性、ウエルド保持率、CTIそしてモールドデポジット、離型性の何れかが劣っており、物性バランスがよくない。これに対し本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、何れの物性も良好である。
【0111】
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体は、優れた難燃性、ウエルド強度保持率、CTI、離型性を有している。モールドデポジットの発生も殆ど無く、生産性に優れている。したがって本発明の樹脂組成物は、電気電子部品、例えばコネクター、ターミナルなどの広範囲の部品に特に好適に適用できる。また自動車部品や建材部品などにも好適に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)アニオン部分が式(1)又は式(2)で表されるホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩であるホスフィン酸塩5〜40重量部、(C)珪素原子に直接又は酸素原子を介して結合している有機基の40モル%以上がアリール基であるオルガノシロキサン化合物1.5〜10重量部、(D)繊維状強化材5〜80重量部及び(E)ホウ酸金属塩0〜20重量部を配合したことを特徴とする難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式中、R及びRは、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、R同士は同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基、又はこれらの混合基を表す。nは0〜4の整数を表す。)
【請求項2】
(B)ホスフィン酸塩の配合量が、20〜35重量部であることを特徴とする請求項1記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
(C)オルガノシロキサン化合物が、有機基の50モル%以上がアリール基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
(C)オルガノシロキサン化合物が重量平均分子量800〜10000のものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
(C)オルガノシロキサン化合物が、RSiO1.5(Rは有機基を示す。)で表される構造単位を含んでおり、かつ水酸基の含有量が1〜10重量%のものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
(C)オルガノシロキサン化合物の配合量が、2〜7重量部であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
(D)繊維状強化材の配合量が20〜70重量部であり、且つ(E)ホウ酸金属塩の配合量が1〜5重量部であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)アニオン部分が式(1’)又は(2’)で表されるホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩であるホスフィン酸塩20〜35重量部(C)珪素原子に直接又は酸素原子を介して結合している有機基の50モル%以上がフェニル基であるオルガノシロキサン化合物2〜7重量部(D)繊維状強化材20〜70重量部及び(E)ホウ酸金属塩1〜5重量部を配合したことを特徴とする難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【化2】

(式中、R及びRは各々独立して、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R同士は同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数1〜4のアルキレン基又はフェニレン基を表す。nは0〜4の整数を表す。)
【請求項9】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形して成る成形品

【公開番号】特開2010−106078(P2010−106078A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277459(P2008−277459)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】