説明

難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物

【課題】難燃性に加えて、衝撃強度、外観および溶着性に優れた難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、(B)少なくともブタジエンを重合してなるゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートとスチレンをグラフト重合させたグラフト重合体を1質量部〜30質量部、(C)ハロゲン系難燃剤を7質量部〜40質量部、(D)無機系難燃助剤を3質量部〜20質量部および(E)無機系強化材を1質量部〜90質量部を含み、(B)グラフト重合体以外のエラストマーの含量が(A)熱可塑性ポリエステル樹脂に対して1質量%以下である難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。特に、ハロゲン系難燃剤を必須とし、難燃性に加えて、衝撃強度、外観および溶着性に優れた難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた特性から電気及び電子機器部品並びに自動車部品等に広く用いられている。特に、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(以下、「PBT」と略記することがある。)は、要求特性に応じて様々な処方により高機能化と高性能化を実現してきた。
【0003】
しかし、近年では部品の軽量小型化の為に、樹脂成形体の薄肉化が進められている。これに伴い、薄肉でも、難燃性に優れ、衝撃強度が高い樹脂成形体を提供できる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が求められている。さらに、外観に優れることや高い溶着性も重要な課題となっている。
【0004】
ここで、特許文献1には、ハロゲン系難燃剤を必須とする難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の組成物では、衝撃強度、外観および溶着性のいずれかが劣ってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−111376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを目的としたものであって、難燃性に加えて、衝撃強度、外観および溶着性にも優れた難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる状況のもと、本発明者が鋭意検討を行った結果、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物において、エラストマー成分として、少なくともブタジエンを重合してなるゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートとスチレンをグラフト重合させたグラフト重合体を配合し、かつ、ハロゲン系難燃剤を配合することにより、高い難燃性に加えて、優れた衝撃強度、外観および溶着性を達成可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。一般的に、エラストマー成分を添加すると、難燃性が低下することが知られているが、本発明では、エラストマー成分として、特定の組成を有するものを採用し、かつ、ハロゲン系難燃剤を添加することにより、高い難燃性を達成したものである。具体的には、以下の手段により、本発明の課題は達成された。
(1)(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、
(B)少なくともブタジエンを重合してなるゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートとスチレンをグラフト重合させたグラフト重合体を1質量部〜30質量部、
(C)ハロゲン系難燃剤を7質量部〜40質量部、
(D)無機系難燃助剤を3質量部〜20質量部および
(E)無機系強化材を1質量部〜90質量部
を含み、(B)グラフト重合体以外のエラストマーの含量が(A)熱可塑性ポリエステル樹脂に対して3質量%以下である難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(2)前記(B)グラフト重合体中のスチレン含有量が、3質量%以上である、(1)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(3)前記(B)グラフト重合体が、少なくともスチレンとブタジエンを共重合してなるゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートとスチレンをグラフト重合させたグラフト重合体である、(1)または(2)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(4)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(5)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂を含む、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(6)(C)ハロゲン系難燃剤が、臭素化エポキシ化合物、下記式(1)で表される化合物および下記式(2)で表される重合体の少なくとも1種を含む、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、R1は2価の有機基を示し、R2およびR3は、それぞれ、2価の有機基であり、R2およびR3の少なくとも一方が1つ以上のハロゲン原子を有する。)
【化2】

(式(2)中、R1 は水素原子またはメチル基を示し、R2 はアルキレン基を示し、Xはハロゲン原子を示す。mは1〜5の整数である。)
(7)(C)ハロゲン系難燃剤が臭素系難燃剤である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(8)(D)無機系難燃助剤が五酸化アンチモンである、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(9)ハロゲン系難燃剤以外の難燃剤を実質的に含まない、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(10)(1)〜(9)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、難燃性に加えて、衝撃強度、外観および溶着性に優れた難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供可能になった。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形品は、自動車分野、特に難燃性が必要な電気自動車用コネクター、電気・電子部品用コネクターとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、一次成形品(試験片A)と二次成形材料との溶着強度を測定するためのポリブチレンテレフタレート樹脂製一体成形品試料(試験片B)の形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。本明細書において、アルキル基等の「基」は、特に述べない限り、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。さらに、炭素数が限定されている基の場合、該炭素数は、置換基が有する炭素数を含めた数を意味している。
【0011】
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、(B)少なくともブタジエンを重合してなるゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートとスチレンをグラフト重合させたグラフト重合体を1質量部〜30質量部、(C)ハロゲン系難燃剤を7質量部〜40質量部、(D)無機系難燃助剤を3質量部〜20質量部および(E)無機系強化材を1質量部〜90質量部を含み、(B)グラフト重合体以外のエラストマーの含量が(A)熱可塑性ポリエステル樹脂に対して3質量%以下であることを特徴とする。以下、本発明の組成物について詳細に説明する。
【0012】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂
本発明の樹脂組成物(A)の主成分である熱可塑性ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合、又はこれらの化合物の混合物の重縮合などによって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルのいずれであってもよい。熱可塑性ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0013】
これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステルなどのエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。オキシカルボン酸としてはパラオキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ジフェニレンオキシカルボン酸などが挙げられる。これらは単独で重縮合させることもできるが、ジカルボン酸化合物に少量併用することが多い。
【0014】
ジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリオキシアルキレングリコールなどの脂肪族ジオールが主として用いられるが、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどの芳香族ジオールやシクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオールも用いることができる。
【0015】
またこのような二官能性化合物以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなどの三官能以上の多官能化合物や、分子量調節のための脂肪酸などの単官能化合物を少量併用することもできる。
【0016】
本発明では、熱可塑性ポリエステル樹脂としては、通常は主としてジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物とから成る重縮合物、即ち計算上、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物のエステルである構造単位が、樹脂全体の好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上を占めるものを用いる。ジカルボン酸化合物としては芳香族ジカルボン酸が好ましく、ジヒドロキシ化合物としては脂肪族ジオールが好ましい。
【0017】
なかでも好ましいのは、酸性分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95モル%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレート樹脂である。その代表的なものはポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂であり、本発明では、少なくとも、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことが好ましく、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の両方を含むことがより好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の両方を含むにより、得られる成形品の外観がより良好となる傾向にある。ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の配合比(質量比)は、100:0〜50:50であることが好ましい。
【0018】
熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は適宜選択して決定すればよいが、通常0.5〜2dl/gであることが好ましく、中でも樹脂組成物の成形性及び機械的特性の観点から0.6〜1.5dl/gであることが好ましい。固有粘度が0.5dl/g未満のものを用いると、樹脂組成物から得られる成形品の機械的強度が低くなる傾向にあり、逆に2dl/gより大きいと樹脂組成物の流動性が低下し、成形性が低下する場合がある。
【0019】
尚、本明細書においてポリエステル樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定した値である。
【0020】
(B)少なくともブタジエンを重合してなるゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートとスチレンをグラフト重合させたグラフト重合体
本発明の樹脂組成物は、少なくともブタジエンを重合してなるゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートとスチレンをグラフト重合させたグラフト重合体を含む。本発明で用いるグラフト重合体は、通常、コア−シェル構造体と称されるものであるが、コア−シェル構造を有していることを必須とするものではない。
少なくともブタジエンを重合してなるゴム質重合体は、ブタジエンのみからなっていてもよいし、ブタジエンと他の単量体を共重合させたゴム質重合体であってもよい。他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物等の各種ビニル系単量体を共重合成分として含んで良い。中でもスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
本発明におけるグラフト重合体は、スチレン含有量が3質量%以上であることが好ましく、また、10質量%以下であることが好ましい。
本発明におけるゴム質重合体は、その40質量%以上がブタジエン由来であることが好ましく、より好ましくは、45質量%以上である。他の単量体成分は、40質量%以下であることが好ましく、30〜0.05質量%であることがより好ましい。他の単量体成分としてスチレン由来の成分を含む場合、その配合量は25〜0.05質量%であることが好ましい。スチレンの配合量を、前記範囲とすることにより、難燃性と耐衝撃性が向上する。
本発明で用いるゴム質重合体の体積平均粒子径は特に限定されないが、好ましくは、0.08〜1.5μmである。
本発明で用いるグラフト重合体は、上記ゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートとスチレンをグラフト重合させて得られるものである。グラフト重合させる単量体は、メチルメタクリレート成分が40質量%以下、スチレン成分が30〜0.005質量%、他の成分が5質量%以下であることが好ましく、メチルメタクリレート成分が35質量%以下、スチレン成分が25〜0.005質量%、他の成分が4質量%以下であることがより好ましい。このような組成比とすることにより、難燃性と耐衝撃性が向上する。
【0021】
本発明で用いるグラフト重合体の体積平均粒子径は特に限定されないが、好ましくは、0.1〜2.0μmである。
【0022】
本発明で用いるグラフト重合体は、特開2005−112907号公報に記載の方法等公知の方法に従って製造できる。また、市販品を用いることもできる。市販品としては、後述する実施例で採用するもののほか、三菱レイヨン製メタブレンC−215A、C―930A、C−223Aが例示される。
【0023】
本発明で用いるグラフト重合体の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して、1質量部〜30質量部であり、1質量部〜20質量部が好ましく、1質量部〜15質量部がより好ましい。
【0024】
そして本発明では、上記グラフト重合体(B)以外のエラストマー成分を実質的に含んでいないことをも特徴とする。実質的に含まないとは、通常、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂成分に対し、3質量%以下である。
グラフト重合体(B)以外のエラストマー成分含有用が多すぎると、難燃性や外観の低下が生ずる場合があるので、出来る限り含有量を低くすることが好ましい。ここで(B)以外のエラストマー成分とは、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下の、従来公知の任意のエラストマーを示す。
【0025】
(C)ハロゲン系難燃剤
本発明の樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤を含む。ハロゲン原子としては、好ましくは、フッ素、塩素、臭素が好ましく、臭素がより好ましい。
ハロゲン系難燃剤としては、臭素化エポキシ化合物、ビスイミド構造化合物、またはポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレート化合物が好ましい。これらの化合物における臭素原子含有量は任意だが、十分な難燃性を付与する上で、通常、10質量%以上であり、中でも20質量%以上、特に30質量%以上であることが好ましく、その上限は80質量%、中でも70質量%以下であることが好ましい。
【0026】
臭素化エポキシ化合物
本発明に用いる(C)ハロゲン系難燃剤としての臭素化エポキシ化合物としては、具体的には例えば、テトラブロモビスフェノールAエポキシに代表されるビスフェノールA型臭素化エポキシ化合物が挙げられる。
【0027】
臭素化エポキシ化合物の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常、質量平均分子量(Mw)で10000〜100000であり、中でも分子量が高い方が好ましく、具体的にはMwとして15000〜80000、中でも18000〜78000(Mw)、更には20000〜75000(Mw)、特に22000〜70000であることが好ましく、この範囲内に於いても分子量の高いものが好ましい。
本発明で用いる臭素化エポキシ化合物のエポキシ当量が4000〜40000g/eqであることが好ましく、中でも4500〜35000g/eqがこのましく、特に10000〜30000g/eqであることが好ましい。
【0028】
また、臭素化エポキシ化合物としてオリゴマーを併用することもできる。この際、例えばMwが5000以下のオリゴマーを0〜50質量%程度用いることで、難燃性、離型性および流動性を適宜調整することができる。臭素化エポキシ化合物における臭素原子含有量は任意だが、十分な難燃性を付与する上で、通常10質量%以上であり、中でも20質量%以上、特に30質量%以上であることが好ましく、その上限は60質量%、中でも55質量%以下であることが好ましい。
【0029】
ビスイミド構造化合物について
本発明に用いる(C)ハロゲン系難燃剤としてのビスイミド構造化合物は、以下の一般式(1)で表されるものが好ましい。
【0030】
【化3】

(式(1)中、R1は2価の有機基を示し、R2およびR3は、それぞれ、2価の有機基であり、R2およびR3の少なくとも一方が1つ以上のハロゲン原子を有する。)
【0031】
式(1)中、R1は2価の有機基を示し、具体的には、メチレン、エチレン、1,4−ブチレン、1,6−ヘキサメチレン、フェニレン、4,4′−メチレンジフェニレン、4,4′−オキシジフェニレン、キシリレン、テトラクロロキシリレン、テトラブロモキシリレン等の、アルキレン基、アリレン基が挙げられる。中でも、エチレン、ブチレン、ヘキサメチレン基等の低級アルキレン基が好ましい。
【0032】
式(1)中、R2およびR3は、2価の有機基であり、少なくとも一方が1つ以上のハロゲン原子を有する二価の有機基である。中でもR2及びR3の両方が、1つ以上のハロゲン原子を有する二価の有機基であることが好ましい。この二価の有機基としては芳香環を含む構造であることが好ましく、中でも1〜4個のハロゲン原子を有するフェニレン基であることが好ましい。ハロゲン原子としては臭素が好ましく、特にR2及びR3としては、テトラブロモフェニレン基であることが好ましい。
【0033】
一般式(1)で示されるビスイミド構造の化合物としては、具体的には、N,N′−(p−及びm−フェニレン)−ビス〔3・4・5・6−テトラ−クロロフタルイミド〕、N,N′−(p−及びm−フェニレン)−ビス〔3・4・5・6−テトラ−ブロモフタルイミド〕、N,N′−(メチレン−ジ−p−フェニレン)−ビス〔3・4・5・6−テトラクロロフタルイミド〕、N,N′−(メチレン−ジ−p−フェニレン)ビス〔3・4・5・6−テトラブロモフタルイミド〕、N,N′−(オキシ−ジ−p−フェニレン)−ビス〔3・4・5・6−テトラクロロフタルイミド〕、N,N′−(オキシ−ジ−p−フェニレン)−ビス〔3・4・5・6−テトラブロモフタルイミド〕、
N,N′−(p−及びm−テトラクロロキシリレン)−ビス〔3・4・5・6−テトラクロロフタルイミド〕、N,N′−(p−及びm−テトラクロロキシリレン)−ビス〔3・4・5・6−テトラブロモフタルイミド〕、N,N′−(p−及びm−テトラクロロキシリレン)−ビスクロルエンドイミド、N,N′−(1・2−エチレン)−ビスクロルエンドイミド、N,N′−(1・2−エチレン)−ビス〔3・4・5・6−テトラブロモフタルイミド〕、N,N′−ビス(1・2・3・4・5−ペンタブロモベンジル)−ピロメリットイミド、N,N′−ビス(2・4・6−トリブロモフェニル)ピロメリットイミド、N,N′−(p−及びm−フェニレン)−ビスクロルエンドイミド等が挙げられる。尚、これらのうちテトラハロキシリレン基は、1・2・4・5−テトラハロキシリレン及び/又は1・3・4・5−テトラロキシリレン基である。
【0034】
これらの中でも、低級アルキレンビステトラブロモフタルイミドが好ましく、特にN,N′エチレンビステトラブロモフタルイミドが好ましい。
【0035】
ビスイミド構造化合物における臭素原子含有量は任意だが、十分な難燃性を付与する上で、通常10質量%以上であり、中でも20質量%以上、特に50質量%以上であることが好ましく、その上限は80質量%、中でも70質量%以下であることが好ましい。
【0036】
ポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレート化合物について
本発明に用いる(C)ハロゲン系難燃剤としてのポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレート化合物は、以下の一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0037】
【化4】

(式(2)中、R1 は水素原子またはメチル基を示し、R2 はアルキレン基を示し、Xはハロゲン原子を示す。mは1〜5の整数である。)
【0038】
式(2)中、R1は水素原子またはメチル基を示し、水素原子が好ましい。R2は、アルキレン基を示し、炭素数1〜5のアルキレン基が好ましく、中でも炭素数1〜3のアルキレン基が好ましい。mは、2以上、中でも4〜5であることが好ましい。式(2)で表される重合体の分子量は100000以下が好ましい。100000を超えると、樹脂組成物の溶融粘度が高くなり成形性が低下する場合がある。
【0039】
本発明で用いられるポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレートとしては、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートを単独で重合、または2種以上を共重合、もしくは他のビニル系モノマーと共重合させることによって得られる重合体であることが好ましい。
【0040】
該臭素原子を含有するベンジルアクリレートとしては、具体的には例えばペンタブロムベンジルアクリレート、テトラブロムベンジルアクリレート、トリブロムベンジルアクリレートまたはこれらの混合物等が挙げられる。また、臭素原子を含有するベンジルメタクリレートとしては、上記したアクリレートに対応するメタクリレートが挙げられる。
【0041】
臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートと共重合させるために使用される他のビニル系モノマーとしては、具体的には例えば、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレートのようなアクリル酸エステル類;メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル類;スチレン、アクリロニトリル、フマル酸、マレイン酸の様な不飽和カルボン酸またはその無水物;酢酸ビニル、塩化ビニル、などが挙げられる。これらは通常、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートに対して等モル量以下、中でも0.5倍モル量以下が用いることが好ましい。
【0042】
また、ビニル系モノマーとしては、キシレンジアクリレート、キシレンジメタクリレート、テトラブロムキシレンジアクリレート、テトラブロムキシレンジメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼンなどを使用することもでき、これらは通常、臭素原子を含有するベンジルアクリレートまたはベンジルメタクリレートに対し、0.5倍モル量以下が使用できる。
【0043】
ポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレート化合物における臭素原子含有量は任意だが、十分な難燃性を付与する上で、通常30質量%以上であり、中でも40質量%以上、特に50質量%以上であることが好ましく、その上限は80質量%、中でも70質量%以下であることが好ましい。
【0044】
該ポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレートとしては、ポリペンタブロモベンジルアクリレートが、高臭素含有量であることから難燃効果が高い観点で好ましい。
【0045】
本発明で用いる(C)ハロゲン系難燃剤は、公知の方法に従って合成してもよいし、市販品を用いることもできる。
【0046】
ハロゲン系難燃剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して、7〜40質量部であり、10質量部〜30質量部が好ましく、12質量部〜28質量部がより好ましい。7質量部未満であると難燃性の発現が不十分となり、逆に40質量部を越えると機械的特性が低下しやすくなる。
【0047】
本発明に用いる(C)ハロゲン系難燃剤としては、本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における諸特性、具体的には難燃性、強度、外観そして溶着性等の諸物性バランスに優れることから、中でも臭素化エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0048】
(D)無機系難燃助剤
本発明の樹脂成物においては、無機系難燃助剤を含む。無機系難燃助剤としては、アンチモン化合物等が挙げられ、アンチモン化合物が好ましい。アンチモン化合物としては酸化アンチモンまたは酸化アンチモンと他の金属の複塩を使用することができる。具体的には例えば、三酸化アンチモン(Sb23)、四酸化アンチモン(Sb24)、五酸化アンチモン(Sb25)、アンチモン酸ナトリウム等のアンチモン酸塩や、これらの複塩が挙げられる。
【0049】
中でも五酸化アンチモンまたは五酸化アンチモンと他の金属酸化物との複塩が好ましい。これは五酸化アンチモンが、他のアンチモン化合物に比べてポリエステル樹脂への影響が小さいので、樹脂の分解が他の抑えられる為である。よって樹脂の結晶化温度(Tc)が維持できるので、射出成形においても離型抵抗力が増加し難く、例えばエジェクターピン痕等の発生を抑制した、表面外観を良好な樹脂成形体が提供できるという効果が得られる。
【0050】
また五酸化アンチモン、または五酸化アンチモンと他の金属酸化物との複塩は、GWIT性能が優れている点でも、用いることが好ましい。五酸化アンチモンと他の金属酸化物との複塩としては、具体的には例えば下記一般式(3)又は(4)で示される複塩が好ましい。尚、これらは任意の割合で併用して用いてもよい。
【0051】
n(X2O)・Sb25・m(H2O) (3)
【0052】
n(YO)・Sb25・m(H2O) (4)
(これらの式中、Xは1価のアルカリ金属元素、Yは2価のアルカリ土類金属元素、nは0〜1.5、mは0〜4を示す。mおよびnは化学式(3)及び化学式(4)においてそれぞれ独立して決定される)
【0053】
更に好ましくは、下記一般式(5)で示される複塩を使用することができる。
n(Na2O)・Sb25 ・・・・・(5)
(式中、nは0.65〜1.5を示す。)
【0054】
上述の式(3)〜(5)において、Xとしてはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどが挙げられ、Yとしてはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどが挙げられる。nは、0より大きく、通常0.3以上、特に0.65〜1.5が好ましい。nが小さすぎると吸着水の脱離速度が小さいために、溶融粘度が変化しやすい傾向にあり、逆にnが大きすぎると相対的にアンチモンの量が低下することにより難燃助剤としての効果が低減する。
【0055】
mは0〜4であり、好ましくは0〜2である。mが大きすぎるとPBT系樹脂の加水分解が著しくなるので好ましくない。本発明においては特に、耐加水分解性の点からNa2O・Sb25(n=1)で表される、酸化ナトリウムと五酸化アンチモンの1対1の複塩が好ましく、これは具体的には例えば、日産化学社よりNA−1070L等の商品名で市販されているものが挙げられる。
【0056】
無機系難燃助剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して、3質量部〜20質量部であり、5質量部〜15質量部が好ましく、6質量部〜14質量部がより好ましい。
【0057】
(E)無機系強化材
また本発明の樹脂組成物には、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、そり)、電気的性質等の性能に優れた樹脂成形体を得るために、繊維状、粉粒状、板状等の、各種の(E)無機系強化材を配合する。
【0058】
繊維状無機系強化材としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等が挙げられる。特に代表的な繊維状無機系強化材はガラス繊維、カーボン繊維である。
【0059】
粉粒状無機系強化材としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、ウォラストナイト等の硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
板状無機系強化材としては、例えば、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
これらの無機系強化材は単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0060】
これらの無機系強化材の使用にあたっては、必要ならば収束剤や表面処理剤を使用することができる。例えば、エポキシ系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物が用いられる。無機系強化材は、予めこれらの化合物によって処理しておいてもよく、または樹脂組成物の製造時に同時に、または個別に添加してもよい。
【0061】
(E)無機系強化材の配合量は、成分(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して、1〜90質量部、好ましくは10〜80質量部であり、さらに好ましくは12〜77質量部、特に好ましくは14〜75質量部である。90質量部を超えて配合すると、樹脂組成物の靭性を確保することが困難となる。
【0062】
さらに本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂組成物に常用されている種々の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、耐加水分解抑制剤(エポキシ化合物、カルボジイミド化合物など)、帯電防止剤、滑剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤、耐候性改良剤などが挙げられる。特に、安定剤及び離型剤の添加は効果的である。これらの添加剤の添加量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、通常、10質量部以下であり、好ましくは5質量部以下である。
【0063】
中でも本発明においては、耐候性を向上させる目的においては、先述のカーボンブラックを少量含有させることが好ましく、特に(C)ハロゲン系難燃剤として臭素化エポキシ化合物を用いる場合に効果が顕著となる。耐候性改良剤として用いるカーボンブラックの量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して0.1〜1質量部、中でも0.1〜0.5質量部とすることが好ましい。
【0064】
また、懸濁重合法で得られたポリテトラフルオロエチレンやヒュームドコロイダルシリカなどの滴下防止剤を添加して、燃焼時の滴下防止を行うこともできる。しかしながら、本発明ではこのような滴下防止剤を実質的に含まなくても、高い難燃性を達成できる。実質的に含まないとは、滴下防止剤として機能する添加量で添加されていないことをいい、通常樹脂成分に対し、0.1質量%以下である。
【0065】
本発明の樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤以外の難燃剤を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、難燃剤として機能する添加量で添加されていないことをいい、通常樹脂成分に対し、0.1質量%以下である。ハロゲン系以外の難燃剤としては、リン酸エステル、ポリリン酸塩、赤燐等のリン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤、その他シリコン系難燃剤、トリアジン系難燃剤等が挙げられる。
【0066】
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、更に他の熱可塑性樹脂を補助的に用いてもよく、高温において安定な樹脂であれば使用可能であり、具体的には例えばポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイドエチレン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0067】
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の調製は、樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。通常は各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸又は二軸押出機で溶融混練する。また各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フイーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本発明の樹脂組成物を調製することもできる。さらには、ポリエステル樹脂の一部に他の成分の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りのポリエステル樹脂や他の成分を配合して溶融混練してもよい。
【0068】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述した様な溶融状態とした樹脂組成物を、従来公知の任意の製造方法により樹脂成形体とすることが出来る。具体的には例えば、射出成形、押出成形、プレス成形等種々の熱可塑性樹脂成形法により、樹脂成形体に成形することが可能である。中でも、成形サイクルが短く生産性が安定していることから、射出成形法により成形された成形体が、その特徴が顕著となるので好ましい。
【0069】
本発明の樹脂成形体は、上述した射出成形によるものの他、樹脂フィルム、樹脂シートの様な樹脂成形体等の様々な形態で、電子材料、構造体材料、自動車材料、建築材料等の各種工業製品、部品部材用途に幅広く用いることが可能である。本発明の樹脂成形体は、現在広く用いられている一般的なプラスチック用成形機での使用が可能であるので、複雑な形状を有する成形体とすることも可能である。
【0070】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、難燃性に加えて衝撃強度、外観、及び溶着性に優れた特性を有するので、各種工業製品・部品用部材として、好適に用いることが出来る。特に自動車分野における電器・電子部品、具体的には例えばコネクター等の部材部品を構成する樹脂成形体として、好適に用いることが出来る。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0072】
<樹脂組成物の評価方法>
表1に示す質量比で、ガラス繊維以外の成分を一括してスーパーミキサー(新栄機械社製SK−350型)で混合し、混合物をL/D=42の2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30HSST)のホッパーに投入し、ガラス繊維をサイドフィードして、吐出量20kg/h、スクリュー回転数250rpm、バレル温度260℃の条件下で押出して、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを上記評価方法に応じた試験片に成形した。
【0073】
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(一次成形材料と二次成形材料は同じ)を用いて、射出成形機(日精株式会社製NEX80−9E)により、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で、図1に示す試験片A(一次成形品)を成形し、熱風オーブン(120℃)中で30分間保持して取り出した後、直ちに二次成形金型内に装着し、上記の得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(二次成形材料)を用いて試験片を射出成形し、試験片Aと二次成形材料からなる試験片とを金型内で溶着させ射出溶着一体成形品Bを得た。得られた射出溶着一体成形品について射出溶着強度を測定した。
【0074】
難燃性テスト:
UL−94の方法に準じ、5本の試験片(厚さ0.75mm)を用いて難燃性テストを行い、UL94記載の評価方法に従い、V−0、V−1、V−2、HBに分類した(V−0が最も難燃性が高いことを示す)。合計燃焼時間は、5本の合計燃焼時間(第一接炎時、第二接炎時の燃焼時間を含む)であり、単位は、秒で示した。
【0075】
ノッチ付きシャルピー衝撃強度
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを用いて、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製NEX80−9E型)にて、ISO試験片を成形した。ISO179−2に準拠してノッチ付シャルピー衝撃強さを測定した。
【0076】
成形品表面外観
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを用いて、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製NEX80−9E型)にて、樹脂温度270℃、金型温度80℃で、100mm径×2mm厚みの円盤状成形品を成形した。その円盤の表面外観を目視にて観察し、蛍光灯の像がくっきりと写るものを◎、少し揺らいで写るものを○、揺らいで写るものを×として評価した。○以上が実用上問題ないと判断される。
【0077】
溶着強度の測定:
一体成形品(図1に示す試験片B)を、曲げ速度2mm/min、スパン間距離64mmの条件で引っ張り、破断時の荷重を測定し、その大きさをkgfで表しこれを溶着強度とした。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

表2中、PS含有量とは、グラフト重合体中におけるスチレンの総量を意味する。
【0080】
上記表から明らかなとおり、グラフト重合体を用いても、スチレンを含まないグラフト重合体を用いた場合(比較例1〜3)、ハロゲン系難燃剤を含んでいても、実施例1〜3に比べて、難燃性が劣ることが分かった。また、スチレンを含む重合体を用いても、グラフト重合体でない場合(比較例4、5)、ハロゲン系難燃剤を含んでいても、実施例1〜3に比べて、難燃性が劣ることが分かる。また、グラフト重合体を含まない場合(比較例6)や、グラフト重合体を含んでいてもその含量が多い場合(比較例7)では、実施例1、4〜7と比べて、難燃性が劣ることが分かった。
【0081】
また、実施例1と実施例11で作成したISO樹脂片(4mm厚)におけるエジェクターピン痕を観察した。両者は、難燃助剤であるアンチモン化合物のみを変更したものである。観察の結果、難燃助剤として五酸化アンチモンを用いた実施例1の樹脂成形体では、殆どエジェクターピン痕は見受けられなかったが、実施例8では深さ約0.3mmの痕が見られたことから、実施例8の樹脂組成物の方が離型抵抗力が高くなっており、難燃助剤であるアンチモン化合物として、五酸化アンチモンが優れていることが判った。
【0082】
また実施例1と実施例13、14、そして比較例9〜11との対比によって、(B)グラフト重合体以外のエラストマー含有量が多すぎてしまうと、本願発明の効果である難燃性が低下することが分かった。
【0083】
さらに、実施例1と実施例10の比較により、樹脂成分としてPBTのみを用いた場合よりも、PBTとPETの混合系の方が、燃焼時間と溶着性について、より優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、電気電子部品、例えばコネクター、ターミナルなどの広範囲の部品への適用が期待できる。そしてさらには、自動車部品や建材部品などにも適用が考えられる。
【符号の説明】
【0085】
1 試験片Bにおける試験片Aの部分
2 試験片Bにおける二次成形材料からなる成形品部分
3 218mm
4 12.82mm
5 25mm
6 121.5mm
7 28mm
8 3.0mm
9 3.0mm
10 45度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対し、
(B)少なくともブタジエンを重合してなるゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートとスチレンをグラフト重合させたグラフト重合体を1質量部〜30質量部、
(C)ハロゲン系難燃剤を7質量部〜40質量部、
(D)無機系難燃助剤を3質量部〜20質量部および
(E)無機系強化材を1質量部〜90質量部
を含み、(B)グラフト重合体以外のエラストマーの含量が(A)熱可塑性ポリエステル樹脂に対して3質量%以下である難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)グラフト重合体中のスチレン含有量が、3質量%以上である、請求項1に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)グラフト重合体が、少なくともスチレンとブタジエンを共重合してなるゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートとスチレンをグラフト重合させたグラフト重合体である、請求項1または2に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
(C)ハロゲン系難燃剤が、臭素化エポキシ化合物、下記式(1)で表される化合物および下記式(2)で表される重合体の少なくとも1種を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、R1は2価の有機基を示し、R2およびR3は、それぞれ、2価の有機基であり、R2およびR3の少なくとも一方が1つ以上のハロゲン原子を有する。)
【化2】

(式(2)中、R1 は水素原子またはメチル基を示し、R2 はアルキレン基を示し、Xはハロゲン原子を示す。mは1〜5の整数である。)
【請求項7】
(C)ハロゲン系難燃剤が臭素系難燃剤である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
(D)無機系難燃助剤が五酸化アンチモンである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
ハロゲン系難燃剤以外の難燃剤を実質的に含まない、請求項1〜8のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−107126(P2012−107126A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257098(P2010−257098)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】