説明

難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物

【課題】難燃性および溶着性に優れた樹脂組成物の提供。
【解決手段】(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)ホスフィン酸塩5〜60重量部、および(D)少なくともブタジエンを重合してなり、かつ、実質的にスチレン由来の成分を含まないゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体であって、グラフト重合体中のスチレン由来の成分の含量が5重量%以下であるグラフト重合体を0.5重量部〜30重量部を配合してなる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。特に、ハロゲン系難燃剤を含まない熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、難燃性に加えて、溶着性に優れた難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた特性から、電気・電子機器や自動車部品などに広く用いられている。これらの用途にポリエステル樹脂を用いる際には、一般的に難燃剤を配合した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物として用いられている。
【0003】
熱可塑性ポリエステル樹脂に配合する難燃剤としては、従来は主としてハロゲン系難燃剤が用いられていた(例えば、特許文献1、2)。しかしハロゲン系難燃剤には種々の問題があるので、これに代わる難燃剤を用いることが求められている。また最近の電子・電気機器の小型化と高機能化に伴い、難燃化に対する要求が益々高度化してきており、これを満足させることが困難となってきている。さらに、強度や溶着性といった要求も高くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−117722号公報
【特許文献2】特開2010−174223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、ハロゲン系難燃剤を使わなくても、難燃性に加えて、溶着性に優れた難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本願発明者が検討を行った結果、ハロゲン系難燃剤を実質的に使わない熱可塑性ポリエステル樹脂組成物において、ゴム質重合体にスチレン由来の成分を含まないグラフト重合体を添加することにより、難燃性が向上し、さらに、溶着性も向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。一般的に、エラストマー成分を添加すると、難燃性が低下することが知られているが、本発明では、エラストマー成分として、特定の組成を有するものを採用することによって、高い難燃性を達成したものである。具体的には、以下の手段により、本発明の課題は達成された。
【0007】
(1)(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)下記一般式(1)または(2)で表されるホスフィン酸塩5〜60重量部、および(D)少なくともブタジエンを重合してなり、かつ、実質的にスチレン由来の成分を含まないゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体であって、グラフト重合体中のスチレン由来の成分の含量が5重量%以下であるグラフト重合体を0.5重量部〜30重量部、を配合してなる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1およびR2は、ぞれぞれ、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜6のアルキル基、または、フェニル基を表し、R3は、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、炭素数7〜10のアルキルアリーレン基、または、炭素数7〜10のアリールアルキレン基を表し、Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンまたはマグネシウムイオンを表し、mは2または3であり、nは1または3であり、そしてXは1または2である。)
(2)前記(D)グラフト重合体が、少なくともブタジエンを重合してなるゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体である、(1)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(3)前記(D)グラフト重合体が実質的にスチレン由来の成分を含まない、(1)または(2)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(4)前記ゴム質重合体が実質的にブタジエンのみを重合してなるゴム質重合体である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(5)(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(6)前記(D)グラフト重合体を、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.5〜10重量部の割合で含む、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(7)さらに、(C)難燃助剤として、(C−1)アミノ基含有化合物、(C−2)ケイ素含有化合物および(C−3)ホウ素含有化合物の少なくとも1種を、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、35重量部以下の割合で含む、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(8)さらに、(C)難燃助剤として、シアヌル酸メラミン、ポリ燐酸メラミン、燐酸メラミン、シリコーンレジン、ホウ酸亜鉛およびコレマナイト鉱物の少なくとも1種を、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、35重量部以下の割合で含む、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(9)さらに、(E)強化充填剤を含む、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(10)ハロゲン系難燃剤を実質的に含まない、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(11)(1)〜(10)のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、難燃性および溶着性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供可能になった。特に、エラストマーを含有し、そして実質的にハロゲン系難燃剤を含まなくても、高い難燃性を維持でき、しかも優れた溶着性をも奏する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、一次成形品(試験片A)と二次成形材料との溶着強度を測定するためのポリブチレンテレフタレート樹脂製一体成形品試料(試験片B)の形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。本明細書において、アルキル基等の「基」は、特に述べない限り、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。さらに、炭素数が限定されている基の場合、該炭素数は、置換基が有する炭素数を含めた数を意味している。
【0011】
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)上記一般式(1)または(2)で表されるホスフィン酸塩5〜60重量部、および(D)少なくともブタジエンを重合してなり、かつ、実質的にスチレン由来の成分を含まないゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体であって、グラフト重合体中のスチレン由来の成分の含量が5重量%以下であるグラフト重合体を0.5重量部〜30重量部、少なくとも、を配合してなる。以下、これらの詳細について説明する。
【0012】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂
本発明の樹脂組成物(A)の主成分である熱可塑性ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合、またはこれらの化合物の混合物の重縮合などによって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルのいずれであってもよい。熱可塑性ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0013】
これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステルなどのエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。オキシカルボン酸としてはパラオキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ジフェニレンオキシカルボン酸などが挙げられる。これらは単独で重縮合させることもできるが、ジカルボン酸化合物に少量併用することが多い。
【0014】
ジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリオキシアルキレングリコールなどの脂肪族ジオールが主として用いられるが、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどの芳香族ジオールやシクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオールも用いることができる。
【0015】
またこのような二官能性化合物以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなどの三官能以上の多官能化合物や、分子量調節のための脂肪酸などの単官能化合物を少量併用することもできる。
【0016】
本発明では、熱可塑性ポリエステル樹脂としては、通常は主としてジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物とから成る重縮合物、即ち計算上、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物のエステルである構造単位が、樹脂全体の好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上を占めるものを用いる。ジカルボン酸化合物としては芳香族ジカルボン酸が好ましく、ジヒドロキシ化合物としては脂肪族ジオールが好ましい。
【0017】
中でも好ましいのは、酸性分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95モル%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレート樹脂である。その代表的なものはポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂であり、本発明では、少なくとも、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことが好ましい。
【0018】
熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は適宜選択して決定すればよいが、通常0.5〜2dl/gであることが好ましく、中でも樹脂組成物の成形性及び機械的特性の観点から0.6〜1.5dl/gであることが好ましい。固有粘度が0.5dl/g未満のものを用いると、樹脂組成物から得られる成形品の機械的強度が低くなる傾向にあり、逆に2dl/gより大きいと樹脂組成物の流動性が低下し、成形性が低下する場合がある。
【0019】
尚、本明細書においてポリエステル樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(重量比)の混合溶媒中、30℃で測定した値である。
【0020】
(B)一般式(1)または(2)で表されるホスフィン酸塩
【化2】

(式中、R1およびR2は、ぞれぞれ、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜6のアルキル基、または、フェニル基を表し、R3は、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、炭素数7〜10のアルキルアリーレン基、または、炭素数7〜10のアリールアルキレン基を表し、Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンまたはマグネシウムイオンを表し、mは2または3であり、nは1または3であり、そしてXは1または2である。)
【0021】
上記式(1)および式(2)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基など炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基が好ましい。フェニル基は、置換基を有していても良い。置換基としては、メチル基が挙げられる。R1及びR2は、より好ましくは、メチル基又はエチル基である。
【0022】
3はメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、2−エチルヘキシレン基等の炭素数1〜10のアルキレン基またはフェニレン基が好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基またはフェニレン基であることが好ましい。
【0023】
ホスフィン酸塩の具体例としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n―プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n―プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、メタンビス(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、メタンビス(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−ビス(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−ビス(ジメチルホスフィン酸)アルミニウムなどが挙げられる。中でも難燃性及び電気特性等の観点から、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが好ましい。
【0024】
さらに本発明においては、本発明の樹脂組成物から得られる樹脂成形体の外観や機械的強度の観点から、ホスフィン酸塩を、レーザー回折法による測定で粒径が100μm以下のもの、特に平均粒径が50μm以下のものを用いることが好ましい。平均粒径の下限は特に制限はないが、通常、0.5μmを下回るまで粉砕等により小粒子化する必要は無く、通常の下限は、粉砕等によって平均粒径が1μmとすれば十分である。このような微細な粉末は、高い難燃性を発現するばかりでなく、成形品の強度が著しく高くなるので、特に好ましい。
【0025】
(A)熱可塑性樹脂成分100重量部に対する(B)ホスフィン酸塩の配合量は、5〜60重量部である。この配合量が5重量部未満では樹脂組成物に所望の難燃性が発現しない。逆に60重量部を超えるような量では、樹脂組成物の成形性が悪化し、かつ機械的強度も低下する。中でもホスフィン酸塩の好適な配合量は、(A)熱可塑性樹脂成分100重量部に対して5〜50重量部、特に5〜40重量部である。
【0026】
(C)難燃助剤
本発明の樹脂組成物は、難燃助剤を含んでいても良い。ここでの難燃助剤は、後述する(D)グラフト重合体を除く趣旨である。
難燃助剤としては、(C−1)アミノ基含有化合物、(C−2)ケイ素含有化合物および(C−3)ホウ素含有化合物が例示され、中でもシアヌル酸メラミン、ポリリン酸メラミン、燐酸メラミン、シリコーンレジン、ホウ酸亜鉛およびコレマナイト鉱物が好ましい。
【0027】
(C−1)アミノ基含有化合物
本発明にて(C)難燃助剤として用いる(C−1)アミノ基含有化合物としては、アミノ基含有トリアジン類の塩が特に好ましい。アミノ基含有トリアジン類(アミノ基を有するトリアジン類)としては、通常、アミノ基含有1,3,5−トリアジン類が使用される。具体的には例えば、メラミン、置換メラミン(2−メチルメラミン、グアニルメラミンなど)、メラミン縮合物(メラム、メレム、メロンなど)、メラミンの共縮合樹脂(メラミン−ホルムアルデヒド樹脂など)、シアヌル酸アミド類(アンメリン、アンメリドなど)、グアナミン又はその誘導体(グアナミン、メチルグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、サクシノグアナミン、アジポグアナミン、フタログアナミン、CTU−グアナミンなど)などが挙げられる。
【0028】
そしてこれらトリアジン類の塩としては、前記トリアジン類と、無機酸や有機酸との塩とが例示できる。具体的には例えば無機酸としては、硝酸、塩素酸(塩素酸、次亜塩素酸など)、リン酸(リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸など)、硫酸(硫酸や亜硫酸などの非縮合硫酸、ペルオクソ二硫酸やピロ硫酸などの縮合硫酸など)、ホウ酸、クロム酸、アンチモン酸、モリブデン酸、タングステン酸などが挙げられる。中でも酸としては、リン酸やポリリン酸、硫酸が好ましい。これらの化合物としては、具体的には例えば、ポリ燐酸メラミン(BASF社製 melapure 200/70、200)などが挙げられる。
【0029】
一方、有機酸としては、有機スルホン酸(メタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸、トルエンスルホン酸やベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸など)、環状尿素類(尿酸、バルビツル酸、シアヌル酸、アセチレン尿素など)などが挙げられる。これらの中でもメタンスルホン酸などのC1-4アルカンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのC1-3アルキルC6-12アレーンスルホン酸、シアヌル酸が好ましい。
【0030】
またアミノ基含有トリアジン類の塩としては、例えばシアヌル酸メラミン・メラム・メレム複塩、リン酸メラミン類(ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩など)、硫酸メラミン類(硫酸メラミン、硫酸ジメラミン、ピロ硫酸ジメラムなど)、スルホン酸メラミン類(メタンスルホン酸メラミン、メタンスルホン酸メラム、メタンスルホン酸メレム、メタンスルホン酸メラミン・メラム・メレム複塩、トルエンスルホン酸メラミン、トルエンスルホン酸メラム、トルエンスルホン酸メラミン・メラム・メレム複塩など)なども挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0031】
本発明に用いる(C−1)アミノ基含有化合物としては、中でもシアヌル酸またはイソシアヌル酸とトリアジン系化合物との付加物が好ましく、通常は酸部分と塩基部分とが1対1(モル比)、場合により1対2(モル比)の組成を有する付加物であることが好ましい。具体的には例えば、シアヌル酸メラミン、シアヌル酸ベンゾグアミン、シアヌル酸アセトグアナミン等が挙げられ、中でもシアヌル酸メラミンが好ましい。これらの化合物としては、具体的には例えば、シアヌル酸メラミン(日本合成化学社製 MX44、日産化学社製 MC−4000)等が挙げられる。
【0032】
これら、シアヌル酸またはイソシアヌル酸とトリアジン系化合物との付加物(以下、単に付加物ということがある。)の製造方法は任意であり、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、トリアジン系化合物とシアヌル酸またはイソシアヌル酸の混合物を水スラリーとし、良く混合して両者の塩を微粒子状に形成させた後、このスラリーを濾過、乾燥後に一般には粉末状で得られる。そしてこの付加物は、完全に純粋である必要は無く、多少未反応のトリアジン系化合物、又はシアヌル酸やイソシアヌル酸が残存していてもよい。
【0033】
更にこの付加物の平均粒径は、樹脂成形品の難燃性、機械的強度や耐湿熱特性、滞留安定性、表面性の点から0.01〜100μmであることが好ましく、更には1〜80μmであることが好ましい。また、付加物の分散性が低い場合には、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの分散剤や公知の表面処理剤などを併用してもよい。
【0034】
本発明に用いる(C−1)アミノ基含有化合物の量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して0〜30重量部であり、中でも5〜30重量部、更には10〜25重量部、特に15〜25重量部であることが好ましい。この配合量が多すぎると機械的物性が低下しやすい。
【0035】
(C−2)ケイ素含有化合物
本発明において(C)難燃助剤として用いるケイ素含有化合物としては、中でもオルガノシロキサン重合体が好ましい。ここでオルガノシロキサン重合体は、25℃で固体状態で、オルガノシロキサン化合物の重合体、又はオルガノシロキサン化合物と、これ反応性を有する化合物、具体的には例えばビニル化合物、カーボネート化合物等との共重合体である。また、25℃で固体状態にあるとは、25℃において流動せず、固体として取り扱い得る状態にあることを示す。
【0036】
発明に用いる(C−2)としてのオルガノシロキサン重合体としては、具体的には例えば、以下の(C−2−1)〜(C−2−4)が挙げられる。
【0037】
(C−2−1)無機微粒子に担持させたオルガノシロキサン重合体
本発明において、オルガノシロキサン重合体を無機微粒子に担持させたもの(以下、単に、担持重合体ということがある。)として用いる際、無機微粒子としては従来公知の任意のものを、適宜選択し、決定して使用できる。具体的には例えば、シリカ粉末、酸化チタン粉末、マイカ粉末、クレー粉末、カオリン粉末、水酸化マグネシウム粉末、水酸化アルミニウム粉末などが挙げられる。中でもシリカ粉末が好ましい。シリカ粉末としては、気相法で得られる乾式法シリカと、湿式法で得られる湿式法シリカがあるが、いずれも用いることができる。
【0038】
無機微粒子の粒径は任意であり、適宜選択して決定すればよい。通常、レーザー回折法で測定して、90重量%以上が0.01〜100μmのものが好ましく、特に0.1〜30μmであることが好ましい。これらの中でも、比表面積が50m2/g以上のものが好ましく、特に100m2/g以上のものが好ましい。また無機微粒子は、シランカップリング剤などの表面処理剤で処理しておくことにより、オルガノシロキサン重合体との結合をより強固にすることができるので好ましい。オルガノシロキサン重合体が、エポキシ基やメタクリル基などの官能基を有する場合には、結合は更に強固となるので好ましい。
【0039】
ここで用いるオルガノシロキサン重合体は、オルガノシロキサン化合物の重合体や、分子鎖中に共重合成分である炭素鎖を有するものでもよい。共重合成分としては、例えば炭素数が1〜20の、鎖状の飽和又は不飽和の炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0040】
更に、オルガノシロキサン重合体は官能基を有していてもよい。官能基としてはメタクリル基又はエポキシ基が好ましく、これらの官能基を有する重合体は熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性が良好なため分散性が良く、靭性向上効果が高い。更に燃焼時にポリエステル樹脂との架橋反応を起させることが出来るので、難燃性の低下が抑制される。オルガノシロキサン重合体は、直鎖状でも分岐鎖状でもよいが、直鎖状のものが好ましい。オルガノシロキサン重合体中の官能基の量は、通常、0.01〜1モル%程度であり、中でも0.03〜0.5モル%、特に0.05〜0.3モル%であることが好ましい。
【0041】
オルガノシロキサン重合体を無機微粒子に担持させる方法は任意であり、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、オルガノシロキサン重合体を溶媒に溶解して無機微粒子に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。担持量は無機微粒子1gに対して、通常、0.1〜10gであり、中でも0.4〜4gであることが好ましい。
【0042】
担持に際しては、エポキシ基などの官能基を有するアルコキシシランなどを接着促進剤として用いると、無機微粒子と重合体との結合をより強固にすることができるので好ましい。無機微粒子と重合体との結合は吸着や吸収のような単なる物理的結合でも、化学反応によるものでもよい。無機微粒子に担持された重合体は、無機微粒子との相乗作用により、熱可塑性ポリエステル樹脂と軽度の架橋構造を形成し、それにより靭性向上と同時に難燃性の向上にも寄与すると考えられる。
【0043】
本発明に用いる担持重合体としては、シリカにオルガノシロキサン重合体を担持させたものが好ましく、具体的には例えば、市販品として東レ・ダウコーニング社の「Siパウダー」や「トレフィルF」などが挙げられる。
【0044】
(C−2−2)軟化点が25℃を越えるオルガノシロキサン重合体
本発明に用いる、軟化点が25℃を超えるオルガノシロキサン重合体とは、一般的にシリコーンレジンと称されるものであり、下記式(3)で示されるものである。
(R1'SiO3/2a(R2'2SiO2/2b(R3'3SiO1/2c(SiO4/2d(XO1/2e (3)
【0045】
式(3)において、Xは水素原子又はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基などのアルキル基である。R1'、R2'及びR3'は相互に異なっていてもよく、炭化水素基もしくはエポキシ基含有有機基である。
【0046】
炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ノナフルオロブチルエチル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられる。
【0047】
また、エポキシ含有有機基としては、2,3−エポキシプロピル基、3,4−エポキシブチル基、4,5−エポキシペンチル基等のエポキシアルキル基;2−グリシドキシエチル基、3−グリシドキシプロピル基、4−グリシドキシブチル基等のグリシドキシアルキル基;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピル基等のエポキシシクロヘキシルアルキル基が挙げられる。エポキシ基含有有機基は必須ではないが、式(3)におけるR1'〜R3'の合計に占めるエポキシ基含有有機基の割合は、0.1〜40モル%であるのが好ましい。
【0048】
含有量が0.1モル%未満であると、これを配合して得られる樹脂組成物の成形時にブリードが発生しやすくなる傾向がある。また40モル%を超えると、成形物の機械的特性が低下する傾向がある。
【0049】
また、フェニル基が存在すると熱可塑性ポリエステル樹脂に対する親和性に優れるので、式(3)におけるR1'〜R3'の合計のうち10モル%以上がフェニル基であることが好ましく、中でもR1'の10モル%以上、特に30モル%以上がフェニル基であるものが好ましい。
【0050】
更に、嵩高いフェニル基を含有するオルガノポリシロキサン分子の立体障害を緩和して空間的な自由度を向上させ、フェニル基同士の重なりを容易にして難燃化効果を高めるため、式(2)におけるR1'としては、メチル基やビニル基を有するのが好ましいので、R1'に占めるフェニル基の割合は好ましくは10〜95モル%であり、さらに好ましくは30〜90モル%である。
【0051】
式(3)におけるaは正数であり、b、c、d、eはそれぞれ0又は正数である。b/aは0〜10の数であり、c/aは0〜0.5の数であり、d/(a+b+c+d)は0〜0.3の数であり、e/(a+b+c+d)は0〜0.4の数である。b/aが10を超えるシリコーンレジンは、その軟化点が25℃以下となり、また、樹脂との親和性が低くなる。また、d/(a+b+c+d)が0.3を超えるシリコーンレジンは樹脂に対する分散性が低下する傾向がある。
【0052】
軟化点が25℃を越えるオルガノシロキサン重合体の重量平均分子量は、通常、500〜50000であり、中でも500〜10000であることが好ましい。軟化点は25℃を超えていればよいが、中でも40〜250℃、特に40〜150℃であることが好ましい。軟化点が25℃以下のものは、これを配合して得られる樹脂組成物の成形時にブリードが発生して金型を汚染したり、成形物の機械的特性を低下させたり、成形品を長期間使用中に成形品表面に滲みだす傾向がある。
【0053】
また軟化点が高すぎると、樹脂組成物の調製に際し均一に分散させるのが困難となる傾向がある。なお軟化点は、融点測定機(株式会社柳本製作所製のmicro melting point apparatus)を用いて、昇温速度1℃/分で加熱したときに、オルガノシロキサン重合体が融解し液滴に変化した時の温度を軟化点とする。
【0054】
上記の式(3)で表されるシリコーンレジンは、例えば、
(i)式:R4SiO3/2(式中、R4は一価炭化水素基である。)で示される単位、
(ii)式:R52SiO2/2(式中、R5は同じか、または相異なる一価炭化水素基である。)で示される単位、
(iii)式:R63SiO1/2(式中、R6は同じか、または相異なる一価炭化水素基である。)で示される単位、及び
(iv)式:SiO4/2で示される単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位を有するシランもしくはシロキサンの1種または2種以上の混合物と、一般式:R78fSi(OR9(3-f)(式中、R7はエポキシ基含有有機基であり、R8は一価炭化水素基であり、R9はアルキル基であり、fは0、1、または2である。)で示されるエポキシ基含有アルコキシシランもしくはその部分加水分解物を、塩基性触媒により反応させることにより製造することができる。
【0055】
上記の製造方法において、主成分は上記(i)〜(iv)で示される単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位を有するシランもしくはシロキサンの1種または2種以上の混合物である。これらのシランもしくはシロキサンとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、これらの加水分解縮合物などが挙げられる。
【0056】
また、これらのシランやシロキサンと共重合させる一般式:R78fSi(OR9(3-f)で示されるエポキシ基含有アルコキシシランもしくはその部分加水分解物は、シリコーンレジンにエポキシ基を導入する成分である。式中のR7はエポキシ基含有有機基であり、前記R1'、R2'、またはR3'と同様のエポキシ基含有有機基が挙げられる。
【0057】
また、式中のR8は一価炭化水素基であり、前記R1'、R2'、またはR3'と同様の一価炭化水素基が挙げられる。また、式中のR9はアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基が挙げられる。また、式中のfは0、1、または2であり、好ましくは0である。
【0058】
このようなエポキシ基含有アルコキシシランとしては、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジブトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(フェニル)ジエトキシシラン、2,3−エポキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、2,3−エポキシプロピル(フェニル)ジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2,3−エポキシプロピルトリメトキシシラン、2,3−エポキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0059】
塩基性触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物;ナトリウム−tert−ブトキシド、カリウム−tert−ブトキシド、セシウム−tert−ブトキシド等のアルカリ金属のアルコキシド;ナトリウムシラノレート化合物、カリウムシラノレート化合物、セシウムシラノレート化合物等のアルカリ金属のシラノール化合物が挙げられる。好ましくは、カリウム系あるいはセシウム系の塩基性触媒を用いる。反応に際しては必要に応じて水を添加してもよい。
【0060】
反応に際しては、平衡化反応により、シロキサン結合の切断および再結合がランダムに起こり、その結果、得られたエポキシ基含有シリコーンレジンは平衡状態となる。この反応温度は、反応温度が低いと平衡化反応が十分に進行せず、また反応温度が高すぎるとケイ素原子結合有機基が熱分解することから、80℃〜200℃であることが好ましく、特に100℃〜150℃であることが好ましい。
【0061】
また、80〜200℃の沸点を有する有機溶剤を選択することにより、還流温度で容易に平衡化反応を行うことができる。なお、平衡化反応は、塩基性触媒を中和することにより停止することができる。この中和のため、炭酸ガス、カルボン酸等の弱酸を添加することが好ましい。中和により生成した塩は、濾過または水洗することにより除去することができる。
【0062】
(C−2−3)架橋されたオルガノシロキサン重合体
本発明に用いる、架橋されたオルガノシロキサン重合体とは、いわゆるシリコーンエラストマーであり、付加反応硬化、縮合反応硬化、有機過酸化物によるラジカル反応硬化、及び紫外線照射硬化によって合成されるものである。中でも本発明に用いるシリコーンエラストマーとしては、付加反応硬化又は縮合反応硬化させたものが好ましい。最も好ましいのは付加反応硬化型シリコーンエラストマー組成物である。
【0063】
付加反応硬化型シリコーンエラストマー組成物とは、2種類のオルガノポリシロキサン中の官能基が付加反応により結合して架橋し、エラストマー化する組成物をいう。その代表例としては、ビニル基やヘキセニル基のような脂肪族不飽和基を含有するオルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンおよび白金族化合物系触媒からなるシリコーンエラストマー組成物が挙げられる。
【0064】
脂肪族不飽和基含有オルガノポリシロキサンとしては、両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端ビニルメチルフェニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体が挙げられる。
【0065】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン等が挙げられる。
【0066】
白金族化合物系触媒としては、微粒子状白金、塩化白金酸、白金とオレフィンの錯体、白金とビニルシロキサンの錯体、白金とジケトンの錯体、パラジウム化合物触媒、ロジウム化合物触媒が挙げられる。これらの中でも、触媒活性の点から白金化合物系触媒が好ましい。この付加反応硬化型シリコーンエラストマー組成物は、硬化性および生産性の点から、通常、加熱して硬化させる。この他にも付加反応硬化型シリコーンエラストマー組成物として、ビニル基のような脂肪族不飽和基を含有するオルガノポリシロキサンとメルカプトアルキル基を含有するオルガノポリシロキサンからなり、紫外線照射もしくは電子線照射により硬化する組成物が挙げられる。
【0067】
縮合反応硬化型シリコーンエラストマー組成物とは、2種類のオルガノポリシロキサン中の官能基、またはオルガノポリシロキサンとシリカやシラン等のケイ素化合物中の官能基が縮合反応により結合して架橋し、エラストマー化する組成物をいう。この縮合反応硬化型シリコーンエラストマー組成物としては、具体的には例えば、脱水素縮合型、脱水縮合型、酢酸縮合型、脱オキシム縮合型、脱アルコール縮合型、脱アミド縮合型、脱ヒドロキシルアミン縮合型、脱アセトン縮合型等の組成物が挙げられる。
【0068】
脱水素縮合反応硬化型シリコーンエラストマー組成物の代表例としては、両末端シラノール基封鎖ジオルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンおよび有機酸の重金属塩等の縮合反応触媒からなる組成物が挙げられる。両末端シラノール基封鎖ジオルガノポリシロキサンとしては、両末端シラノール基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端シラノール基封鎖メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ポリシロキサン等が挙げられる。このジオルガノポリシロキサンは縮合反応を抑制する作用を有するため、末端シラノール基の一部をアルコキシ化しておいてもよい。
【0069】
架橋剤であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン等が挙げられる。縮合反応触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクテン酸錫、ジブチル錫ジオクテート、ラウリン酸錫、スタノオクテン酸第二鉄、オクテン酸鉛、ラウリン酸鉛、オクテン酸亜鉛が挙げられる。
【0070】
上記脱水素縮合反応硬化型シリコーンエラストマー組成物は、硬化性および生産性の点から加熱して硬化させる必要があるが、脱水縮合型、脱酢酸縮合型、脱オキシム縮合型、脱アルコール縮合型、脱アミド縮合型、脱ヒドロキシルアミン縮合型、脱アセトン縮合型のシリコーンエラストマー組成物は、湿気存在下であれば常温でも硬化してエラストマーになり得る。湿気硬化型シリコーンエラストマー組成物の中でも、特に、水の除去によってエラストマーを形成し得るシリコーンウォーターベースドエラストマーは有用である。
【0071】
このシリコーンウォーターベースドエラストマーとしては、通常、(a)1分子中にシラノール基を少なくとも2個有する実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサン、(b)コロイド状シリカ、アルカリ金属ケイ酸塩、加水分解可能なシランおよびその部分加水分解縮合物からなる群から選択される架橋剤、(c)硬化触媒、(d)乳化剤および(e)水からなる水性オルガノポリシロキサンエマルジョン組成物が使用される。
【0072】
ここで(a)成分のオルガノポリシロキサンは、(b)成分の作用により架橋してゴム状弾性体となるものであり、1分子中にシラノール基を少なくとも2個有するポリマーである。このシラノール基の位置に特に制限はないが、両末端に存在することが好ましい。シラノール基以外のケイ素原子に結合する有機基としては、非置換もしくは置換の一価炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基;ビニル基、アリール基などのアルケニル基;フェニル基などのアリール基;ベンジル基などのアラルキル基;スチリル基、トリル基などのアルカリル基;シクロヘキシル基、シクロペンチル基などのシクロアルキル基が挙げられる。
【0073】
またこれらの基の水素原子の一部もしくは全部がフッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子で置換された基、例えば、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基なども挙げられる。これらの中でもメチル基、ビニル基、フェニル基が好ましく、特にメチル基がより好ましいが、全て同一である必要はなく異種の一価炭化水素基の組み合わせであってもよい。また実質的に直鎖状とは、一部に分岐鎖を有する、主鎖が直鎖状のものをも含むことを示す。
【0074】
このオルガノポリシロキサンの分子量は特に制限されないが、5000以上であることが好ましい。これは、合理的な抗張力と伸びは分子量が3000以上であれば得られるが、最も好ましい抗張力と伸びは分子量が5000以上でないと得られないためである。ただし、エマルジョンへの乳化の可能性の点から、1000000以下であることが好ましい。
【0075】
このようなオルガノポリシロキサンの具体例としては、分子鎖両末端がシラノールで封鎖されたジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、メチルビニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体が挙げられる。このようなオルガノポリシロキサンは、例えば、環状もしくは分岐状のオルガノポリシロキサンを加水分解縮合する方法、ジオルガノジハロゲノシランの一種もしくは二種以上を加水分解する方法により合成することができる。
【0076】
(b)成分の架橋剤は(a)成分の架橋成分として作用するものであり、コロイド状シリカ、アルカリ金属ケイ酸塩、加水分解可能なシランもしくはその部分加水分解縮合物が挙げられる。コロイド状シリカとしては、煙霧状コロイドシリカ、沈殿コロイドシリカ、またはナトリウム、アンモニアもしくはアルミニウムイオンで安定化した粒径0.0001〜0.1μmのコロイドシリカが挙げられる。コロイド状シリカの配合量は、(a)成分のオルガノポリシロキサン100重量部に対して1〜150重量部が好ましく、1〜70重量部がより好ましい。
【0077】
またアルカリ金属ケイ酸塩としては、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ルビジウムが挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩の配合量は、(a)成分のオルガノポリシロキサン100重量部に対して0.3〜30重量部が好ましく、0.3〜20重量部がより好ましい。加水分解可能なシランとしては、ケイ素原子に結合している加水分解性基を1分子中に少なくとも3個有するシランが使用される。これは3個未満であるとエラストマーが得られないためである。
【0078】
加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基;アセトキシ基などのアシロキシ基;アセトアミド基、N−メチルアセトアミド基などの置換もしくは非置換のアセトアミド基;プロぺノキシ基などのアルケニルオキシ基;N,N−ジエチルアミノ基などの置換アミノ基;メチルエチルケトオキシム基などのケトオキシム基が挙げられる。
【0079】
具体的には、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ノルマルプロピルオルソシリケート、エチルポリシリケート、プロピルポリシリケート、メチルトリ(プロパノキシ)シラン、メチルトリ(メチルエチルケトオキシム)シランが挙げられる。このようなシランを2種もしくはそれ以上混合して使用することもできる。この加水分解可能なシランまたはその部分加水分解縮合物の配合量は、(a)成分のオルガノポリシロキサン100重量部に対して1〜150重量部が好ましい。
【0080】
(c)成分の硬化触媒は、(a)成分のオルガノポリシロキサンと(b)成分の架橋剤との縮合反応を促進する成分であり、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクテン酸錫、ジブチル錫ジオクテート、ラウリン酸錫、スタノオクテン酸第二鉄、オクテン酸鉛、ラウリン酸鉛、オクテン酸亜鉛などの有機酸金属塩;テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、ジブトキシチタンビス(エチルアセトアセテート)などのチタン酸エステル;n−ヘキシルアミン、グアニジンなどのアミン化合物またはこれらの塩酸類が挙げられる。
【0081】
尚、これらの硬化触媒はあらかじめ乳化剤と水を使用して、通常の方法によりエマルジョンの形態にしておくことが好ましい。この硬化触媒の添加量は、(a)成分のオルガノポリシロキサン100重量部に対して0.01〜1.5重量部が好ましく、0.05〜1重量部がより好ましい。
【0082】
(d)成分の乳化剤は、主として(a)成分のオルガノポリシロキサンを乳化する成分であり、アニオン系乳化剤、非イオン系乳化剤、カチオン系乳化剤が挙げられる。アニオン系乳化剤としては、例えば、高級脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルホフスホン酸塩類、ポリエチレングリコール硫酸エステル塩類が挙げられる。
【0083】
非イオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、
ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオ
キシアルキレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン類、脂肪酸
モノグリセライド類が挙げられる。
【0084】
カチオン系乳化剤としては、例えば、脂肪族アミン塩類、第4級アンモニウム塩類、アルキルピリジニウム塩類が挙げられる。これらの乳化剤は1種類のみで使用してもよく、また2種類以上混合したものを使用してもよい。この乳化剤の配合量は、(a)成分のオルガノポリシロキサン100重量部に対して2〜30重量部が好ましい。
【0085】
(e)成分の水の配合量は、(a)成分のオルガノポリシロキサンと(b)成分の架橋剤と(c)成分の硬化触媒とを、(d)成分の乳化剤の作用により乳化させて水性エマルジョンを調製するのに十分な量であればよく、特に限定されない。
【0086】
このシリコーンウォーターベースドエラストマーのエマルジョンは、上記(a)〜(e)成分を均一に混合することにより調製することができる。例えば、両末端シラノール基を有するジメチルポリシロキサンを乳化剤の存在下、ホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミルなどの乳化機を用いて水に乳化させた後、コロイド状シリカなどの架橋剤や硬化触媒を添加して混合する方法や、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどの環状ジオルガノポリシロキサンを乳化剤として用いて水に乳化させ、次いで開環重合触媒を添加して加熱下で重合させることにより両末端がシラノール基で封鎖されたジメチルポリシロキサンのエマルジョンを調製し、これにコロイド状シリカなどの架橋剤や硬化触媒を添加して混合する方法が挙げられる。
【0087】
また、(a)〜(e)成分からなるベースエマルジョンを調製した後そのpHを9〜12に調節することにより、保存安定性に極めて優れたエマルジョンを得ることができる。pH調節剤としては、例えば、ジメチルアミン、エチレンジアミンなどのアミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物を用いることができる。これらの中でも有機アミンが好ましく、上記以外の有機アミンとして、さらにモノエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールが挙げられる。このようにしてpHを調節した後、一定温度で一定期間熟成することが好ましい。
【0088】
熟成温度はエマルジョンが破壊されない温度、即ち、10〜60℃の範囲が好ましく、特に15〜50℃の範囲がより好ましい。熟成期間は熟成温度に応じて設定され、例えば、25℃の温度条件下では1週間以上、40℃の温度条件下では4日以上が好ましい。
【0089】
このようにして得られたオルガノポリシロキサンエマルジョンは室温下での保存安定性に優れ、水分の除去により室温で容易に硬化してエラストマー状になり得る。一方、室温下での保存安定性が必要でない場合には、ベースエマルジョンのpHは9未満であってもよい。またこのオルガノポリシロキサンエマルジョンには、上記以外の成分、例えば、充填剤、増粘剤、顔料、染料、耐熱剤、防腐剤、アンモニア水などの浸透助剤などを適宜添加配合することができる。
【0090】
特に、上記(b)成分の架橋剤としてコロイド状シリカを使用しない場合には、オルガノポリシロキサンエマルジョンの粘稠性が乏しくなり厚肉のエラストマーが得られにくくなるので、充填剤として微粉末の石英、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、二酸化亜鉛、二酸化チタン粉末、カーボンブラックなどを添加配合することが好ましい。
【0091】
さらにこれらの充填剤は、コロイド状であると水分の除去によって生成するエラストマーの抗張力と伸びが大きくなることから、コロイド状であることが好ましい。また増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などを使用することができる。
【0092】
この他にも湿気硬化型シリコーンエラストマー組成物として、前記したような両末端シラノール基封鎖ジオルガノポリシロキサン(好ましくは、25℃における粘度が1000〜60000センチストークスであるもの)を主成分とし、架橋剤として例えばビニルトリアセトキシシラン、触媒として例えばジブチル錫ジアセテートやジブチル錫ジラウレートを配合し、さらにアエロジルなどの補強用フィラー類を加えて均一に混練することにより得られる脱酢酸縮合型シリコーンエラストマー組成物、この脱酢酸縮合型の組成物において、ビニルトリアセトキシシランをビニルトリオキシムシランに代替してなる脱オキシム縮合型シリコーンエラストマー組成物、同様にビニルトリアセトキシシランをテトラエトキシシラン等に代替してなる脱アルコール縮合型シリコーンエラストマー組成物が挙げられる。尚、使用される架橋剤は上記シラノール基封鎖ジオルガノポリシロキサンをエラストマー化できるものであればよく、上記したような架橋システムに限定されない。
【0093】
ラジカル反応硬化型シリコーンエラストマー組成物としては、オルガノポリシロキサン、補強性充填剤および有機過酸化物からなる組成物が挙げられ、付加的成分として増量充填剤、耐熱剤、難燃剤、顔料、有機溶剤などを含有することができる。オルガノポリシロキサンとしては、両末端がトリメチルシロキシ基、ジメチルビニルシロキシ基、メチルフェニルビニルシロキシ基またはシラノール基で封鎖され、主鎖がジメチルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)・メチルビニルシロキサン共重合体である生ゴム状のポリマーが挙げられる。
【0094】
補強性充填剤としてはヒュームドシリカが挙げられる。有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキセンなどが挙げられる。このラジカル反応硬化型シリコーンエラストマー組成物は、硬化性および生産性の点から、通常、加熱して硬化させる。
【0095】
この他にもラジカル反応硬化型シリコーンエラストマー組成物として、オルガノポリシロキサン生ゴムと補強性充填剤を主剤とし、付加的成分として増量充填剤、耐熱剤、難燃剤、顔料、有機溶剤などを含有してなり、β線やγ線照射により硬化する組成物や、ケイ素原子結合アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、増感剤および補強性充填剤からなり紫外線照射により硬化する組成物が挙げられる。
【0096】
シリコーンエラストマーの平均1次粒子径は、好ましくは0.1〜100μmであり、さらに好ましくは2〜15μmである。市販品としては、東レ・ダウコーニング株式会社製のトレフィルEシリーズがあり、具体的にはトレフィルE−500、E−505C、トレフィルE−506S、トレフィルE−507、トレフィルE−508、E−600、E−601、E−606などが挙げられる。
【0097】
(C−2−4)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体
ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体とは、ポリオルガノシロキサン粒子の存在下に、多官能性単量体およびその他の共重合可能な単量体からなるビニル系単量体を重合して、ポリオルガノシロキサン成分とビニル系重合体成分が相互に絡み合った架橋構造を核(コア)として形成し、さらにビニル系単量体を重合して殻(シェル)を形成した複合ゴム系多層構造重合体である。
【0098】
ポリオルガノシロキサン粒子は、ポリオルガノシロキサンのみからなる粒子だけでなく、他の(共)重合体を含んだ変性ポリオルガノシロキサンであってもよい。すなわち、ポリオルガノシロキサン粒子は、粒子中に、例えばポリアクリル酸ブチル、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体などを5重量%以下含有してもよいが、実質的にポリオルガノシロキサンのみからなる粒子が難燃性の点から好ましい。
【0099】
ポリオルガノシロキサン粒子は、電子顕微鏡観察から求められる数平均粒子径が、0.008〜0.6μmであるのが好ましい。数平均粒子径が0.01〜0.2μm、特に0.01〜0.15μmであれば更に好ましい。該平均粒子径が0.008μm未満のものは入手が困難であり、0.6μmを超えるものは、これを用いた樹脂組成物の難燃性が悪くなる傾向にある。
【0100】
ポリオルガノシロキサン粒子は、トルエン不溶分量(該粒子0.5gをトルエン80mlに室温で24時間浸漬した場合のトルエン不溶分量)が95%以下、さらには50%以下、とくには20%以下であるものが難燃性・耐衝撃性の点から好ましい。
【0101】
ポリオルガノシロキサン粒子の具体例としては、ジメチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、ジフェニルシロキサンなどから選ばれたシロキサンを単独あるいは2種以上を組み合わせたものと、2官能シラン化合物及びビニル系重合性基含有シラン化合物等とを共重合するか、あるいはこれらに更に3官能以上のシラン化合物を加えて共重合することによりうることができる。
【0102】
ビニル系単量体の一つである多官能性単量体は分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む化合物であり、その具体例としては、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、フタル酸ジアリル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、経済性および効果の点で特にメタクリル酸アリルの使用が好ましい。
【0103】
もう一つのビニル系単量体である共重合可能な単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、パラブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有ビニル系単量体などが挙げられる。これらも単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。反応性や安定性の点からして、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を用いるのが好ましい。
【0104】
シェル層を形成するビニル系単量体は、グラフト共重合体を熱可塑性ポリエステル樹脂に配合するに際し、グラフト共重合体と樹脂との相溶性を確保して、樹脂にグラフト共重合体を均一に分散させる作用を奏する成分でもある。このため、シェル層を形成するビニル系単量体には、上記の(メタ)アクリル酸エステル系単量体を主に用いるのが好ましい。
【0105】
ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体としては、先の段階の重合体を後の段階の重合体が順次被覆するような連続した多段階シード重合によって製造される重合体が好ましい。基本的な重合体構造としては、ガラス転移温度の低い架橋成分であるポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分が相互に絡み合った構造からなる内核層と、樹脂組成物のマトリックス成分との接着性を改善するアルキル(メタ)アクリレート系重合体物からなる最外殻層とを有する多層構造重合体である。更には、最内核層を芳香族ビニル単量体からなる重合体で形成し、中間層をポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレート成分が相互に絡み合った構造の重合体で形成し、さらに最外殻層をアルキル(メタ)アクリレート系重合体で形成した三層構造の重合体とすることもできる。
【0106】
アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は1〜8程度である。この様なアルキル基としては、例えば、エチル、ブチル、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレート系重合体は、エチレン性不飽和単量体等の架橋剤で架橋されていてもよく、架橋剤としては、例えば、アルキレンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル等が挙げられる。
【0107】
ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、ポリオルガノシロキサン粒子40〜90重量部、好ましくは60〜80重量部、さらに好ましくは60〜75部重量の存在下に、コア層用ビニル系単量体0.5〜10重量部、好ましくは1〜5重量部、さらに好ましくは2〜4重量部を重合し、さらにシェル層用ビニル系単量体5〜50重量部、好ましくは10〜39重量部、さらに好ましくは15〜38重量部を、合計量が100重量部になるように重合して得られたものが好ましい。
【0108】
ポリオルガノシロキサン粒子が少なすぎても、多すぎても、いずれもこれを用いて得られる樹脂組成物の難燃化効果が低くなる傾向にある。また、コア用ビニル系単量体が少なすぎると、難燃化効果及び靭性改良効果が低くなる傾向にあり、多すぎると靭性改良効果が低くなる傾向にある。またシェル層用ビニル系単量体は少なすぎても多すぎても、いずれも難燃化効果が低くなる傾向にある。この様なポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体としては、三菱レイヨン社製メタブレンS−2001、S−2200又はSRK−200等の市販品を使用することもできる。
【0109】
本発明に用いる(C−2)ケイ素含有化合物の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して0〜30重量部であり、中でも0.01〜10重量部であることが好ましい。0.01重量部未満の配合では、添加量見合いの靭性向上効果が発揮されず、逆に10重量部を超えると、難燃性が低下する場合がある。よって中でも0.1〜8重量部、特に0.5〜6重量部であることが好ましい。
【0110】
これら(C−2)ケイ素含有化合物としては、具体的には例えば、以下のものが挙げられる。
【0111】
東レ・ダウコーニング社製、商品名:217Flake(フェニルシリコーンレジン 軟化点86℃)、25℃で固体状態を示す。
【0112】
東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 217Flake(商品名)、重量平均分子量(Mw):2000、水酸基含有量:7重量%、珪素原子に直接または酸素原子を介して結合しているフェニル基の含有量:100モル%、平均分子式:(PhSiO3/21.0(HO1/20.57。25℃で固体状態を示す
【0113】
東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 TMS217(商品名)、Mw:2000、水酸基含有量:2重量%、フェニル基含有量:100モル%、上述の217Flakeにトリメチルシリル基で末端封止処理を施したシリコーンレジン。25℃で固体状態を示す
【0114】
小西化学工業製 SR−21(商品名)、Mw:3800、水酸基含有量:6重量%、フェニル基含有量:100モル%、平均分子式:(PhSiO3/21.0(HO1/20.48、25℃で固体状態を示す。
【0115】
小西化学工業製 SR−20(商品名)、Mw:6700、水酸基含有量:3重量%、フェニル基含有量:100モル%、平均分子式:(PhSiO3/21.0(HO1/20.24、25℃で固体状態を示す。
【0116】
東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 SH6018(商品名)、Mw:2000、水酸基含有量:6重量%、フェニル基含有量:70モル%、プロピル基30モル%、平均分子式:(PhSiO3/20.7(ProSiO3/20.3(HO1/20.48、25℃で固体状態を示す。
【0117】
信越化学工業社製 X40−9805(商品名)、メチルフェニル系オルガノシロキサン、フェニル基含有量:50モル%、25℃で固体状態を示す。
【0118】
東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 Z6800(商品名)、トリフェニルシラノール、フェニル基含有量:100モル%、平均分子式:Ph3SiOH、25℃で固体状態を示す。
【0119】
信越化学工業社製、オクタフェニルテトラシクロシロキサン、Mw:793、水酸基含有量:0重量%、フェニル基含有量100モル%、平均分子式:以下の一般式(5)。
【0120】
【化3】

【0121】
東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 DC4 7081 シリカ担持シリコンパウダ−メタクリル基を有するポリジメチルシロキサン60重量%を、シリカ40重量%に担持させて粉末化したもの、水酸基含有量:0重量%、フェニル基含有量0モル%、25℃で固体状態を示す。
【0122】
東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 SH200(商品名)、ポリジメチルシロキサン、Mw:4×104、水酸基含有量0重量%、フェニル基含有量重量0モル%、粘度60000センチストークス、25℃で固体状態にない。
【0123】
(C−3)ホウ素含有化合物
本発明に用いるホウ素含有化合物としては、中でもホウ酸金属塩が好ましい。ホウ酸金属塩を形成するホウ酸としては、オルトホウ酸、メタホウ酸等の非縮合ホウ酸、ピロホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸及び八ホウ酸等の縮合ホウ酸、並びに塩基性ホウ酸等が好ましい。これらと塩を形成する金属はアルカリ金属でもよいが、中でもアルカリ土類金属、遷移金属、周期律表2B族金属等の多価金属が好ましい。またホウ酸金属塩は水和物であってもよい。
【0124】
ホウ酸金属塩としては、非縮合ホウ酸金属塩と、縮合ホウ酸金属塩とがある。非縮合ホウ酸金属塩としては、オルトホウ酸カルシウム、メタホウ酸カルシウム等のアルカリ土類金属ホウ酸塩;オルトホウ酸マンガン、メタホウ酸銅等の遷移金属ホウ酸塩;メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸カドミウム等の周期律表2B族金属のホウ酸塩などが挙げられるが、中でもメタホウ酸塩が好ましい。
【0125】
縮合ホウ酸塩としては、四ホウ酸三マグネシウム、ピロホウ酸カルシウム等のアルカリ土類金属ホウ酸塩;四ホウ酸マンガン、二ホウ酸ニッケル等の遷移金属ホウ酸塩;四ホウ酸亜鉛、四ホウ酸カドミウム等の周期律表2B族金属のホウ酸塩等が挙げられる。塩基性ホウ酸塩としては塩基性ホウ酸亜鉛、塩基性ホウ酸カドミウム等の周期律表2B族金属の塩基性ホウ酸塩等が挙げられる。またこれらのホウ酸塩に対応するホウ酸水素塩(例えばオルトホウ酸水素マンガン等)も使用できる。
【0126】
本発明に用いるホウ酸金属塩としては、アルカリ土類金属又は周期律表2B族金属塩、例えばホウ酸亜鉛類やホウ酸カルシウム類を用いるのが好ましい。ホウ酸亜鉛類には、ホウ酸亜鉛(2ZnO・3B23)やホウ酸亜鉛・3.5水和物(2ZnO・3B23・3.5H2O)等が含まれ、ホウ酸カルシウム類にはホウ酸カルシウム(2CaO・3B23)やホウ酸カルシウム・5水和物(2CaO・3B23・5H2O)等が含まれる。これらホウ酸亜鉛類やホウ酸カルシウム類の中でも特に水和物が好ましい。
【0127】
これらホウ素含有化合物としては、具体的には例えば、ホウ酸亜鉛(ボラックス・ジャパン社製、ファイヤーブレイク500、415、ZB)、ホウ酸カルシウム鉱:キセイマテック社製 UBP、UBP5M等が挙げられる。
【0128】
ホウ酸金属塩の配合により、樹脂組成物の燃焼阻止作用が向上する。現象的には、燃焼に際し発泡して未燃焼部分を炎から遮断する。ホウ酸金属塩の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して0〜30重量部であるが、配合効果を発現させるためには1重量部以上配合することが好ましい。しかし過剰に配合しても、配合量増加に見合う効果の向上は頭打ちとなるので、ホウ酸金属塩の配合量は(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して1〜20重量部、中でも1〜10重量部、特に3〜5重量部であることが好ましい。
【0129】
本発明で用いる難燃助剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、35重量部以下であり、1〜30重量部が好ましく、1.5〜25重量部がより好ましい。
【0130】
(D)グラフト重合体
本発明の樹脂組成物は、少なくともブタジエンを重合してなり、かつ、実質的にスチレン由来の成分を含まないゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体であって、グラフト重合体中のスチレン由来の成分の含量が5重量%以下であるグラフト重合体を含む。
本発明で用いるグラフト重合体は、通常、コア−シェル構造体と称されるものであるが、コア−シェル構造を有していることを必須とするものではない。
本発明に用いるグラフト重合体におけるゴム質重合体は、実質的にスチレン由来の成分を含まないことを特徴とする。このような構成とすることにより、高い難燃性を達成できる。ここで、実質的にスチレン由来の成分を含まないとは、本発明の効果に影響を与える範囲で含まないことをいい、通常、ゴム質重合体の0.1重量%以下である。
少なくともブタジエンを重合してなるゴム質重合体は、ブタジエンのみからなっていてもよいし、ブタジエンと他の単量体を共重合させたゴム質重合体であってもよいが、実質的にブタジエンのみからなることが好ましい。
本発明に用いるグラフト重合体は、ゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートをグラフト重合させた重合体である。本発明では、メチルメタクリレートのみを重合させてもよいし、メチルメタクリレート以外のモノマーを併用して重合させてもよい。メチルメタクリレート以外のモノマーとしては、スチレンが挙げられる。
本発明に用いるグラフト重合体は、スチレン由来の成分を5重量%以下の割合で含むが、3質量%以下であることが好ましく、実質的にスチレン由来の成分を含まないことがさらに好ましい。
【0131】
本発明で用いるグラフト重合体の体積平均粒子径は特に限定されないが、好ましくは、30〜1000μmである。
【0132】
本発明で用いるグラフト重合体は、例えば特開2005−112907号公報に記載の方法等公知の方法に従って製造できる。また、市販品を用いることもできる。市販品としては、後述する実施例で採用するものが例示される。
【0133】
本発明で用いるグラフト重合体の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.5重量部〜30重量部であり、0.5〜10重量部が好ましく、2〜8重量部がより好ましい。
【0134】
本発明では、上記グラフト重合体(D)以外のエラストマー成分を実質的に含んでいないことが好ましい。実質的に含まないとは、通常、樹脂成分に対し、1質量%以下である。
【0135】
(E)強化充填剤
また本発明の樹脂組成物には、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、そり)、電気的性質等の性能に優れた樹脂成形体を得るために、繊維状、粉粒状、板状等の、各種の(E)強化充填剤を配合してもよい。
【0136】
繊維状強化充填剤としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等が挙げられる。特に代表的な繊維状強化充填剤はガラス繊維、カーボン繊維である。
【0137】
粉粒状強化充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、ウォラストナイト等の硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
板状強化充填剤としては、例えば、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
これらの強化充填剤は単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0138】
これらの強化充填剤の使用にあたっては、必要ならば収束剤や表面処理剤を使用することができる。例えば、エポキシ系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物が用いられる。強化充填剤は、予めこれらの化合物によって処理しておいてもよく、または樹脂組成物の製造時に同時に、または個別に添加してもよい。
【0139】
(E)強化充填剤の配合量は、成分(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、90重量部以下であり、好ましくは5〜85重量部であり、さらに好ましくは8〜80重量部、特に好ましくは10〜70重量部である。90重量部を超えて配合すると、樹脂組成物の靭性を確保することが困難となる。
【0140】
さらに本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂組成物に常用されている種々の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、耐加水分解抑制剤(エポキシ化合物、カルボジイミド化合物など)、帯電防止剤、滑剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤などが挙げられる。特に、安定剤及び離型剤の添加は効果的である。これらの添加剤の添加量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、通常、10重量部以下であり、好ましくは5重量部以下である。
【0141】
本発明の樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤の難燃剤を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、難燃剤として機能する添加量で添加されていないことをいい、通常樹脂成分に対し、0.1質量%以下である。
また、本発明の樹脂組成物は、懸濁重合法で得られたポリテトラフルオロエチレンやヒュームドコロイダルシリカなどの滴下防止剤を添加して、燃焼時の滴下防止を行うこともできる。しかしながら、本発明ではこのような滴下防止剤を実質的に含まなくても、高い難燃性を達成できる。実質的に含まないとは、滴下防止剤として機能する添加量で添加されていないことをいい、通常樹脂成分に対し、0.1質量%以下である。
【0142】
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、更に他の熱可塑性樹脂を補助的に用いてもよく、高温において安定な樹脂であれば使用可能であり、具体的には例えばポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイドエチレン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0143】
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の調製は、樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。通常は各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸又は二軸押出機で溶融混練する。また各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フイーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本発明の樹脂組成物を調製することもできる。さらには、ポリエステル樹脂の一部に他の成分の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りのポリエステル樹脂や他の成分を配合して溶融混練してもよい。
【0144】
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、上述した様な溶融状態とした樹脂組成物を、従来公知の任意の製造方法により樹脂成形体とすることが出来る。具体的には例えば、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、等種々の熱可塑性樹脂成形法により、樹脂成形体に成形することが可能である。中でも、成形サイクルが短く生産性が安定していることから、射出成形法により成形された成形体が、その特徴が顕著となるので好ましい。
【0145】
本発明の樹脂成形体は、上述した射出成形によるものの他、樹脂フィルム、樹脂シートの様な樹脂成形体等の様々な形態で、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料、等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。本発明の樹脂成形体は、現在広く用いられている一般的なプラスチック用成形機での使用が可能であるので、複雑な形状を有する成形体とすることも可能である。
【0146】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、難燃性に加えて衝撃強度、外観、及び溶着性に優れた特性を有するので、各種工業製品・部品用部材として、好適に用いることが出来る。特に自動車分野における電器・電子部品、具体的には例えばコネクター等の部材部品を構成する樹脂成形体として、好適に用いることが出来る。
【実施例】
【0147】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0148】
<樹脂組成物の評価方法>
表1に示す重量比で、後述の表3に示した実施例、比較例で用いる原料のうちガラス繊維以外の成分を一括してスーパーミキサー(新栄機械社製SK−350型)で混合し、混合物をL/D=42の2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30HSST)のホッパーに投入し、ガラス繊維をサイドフィードして、吐出量20kg/h、スクリュー回転数250rpm、バレル温度260℃の条件下で押出して、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを下記評価方法に応じた試験片に成形した。
【0149】
難燃性テスト:
UL−94の方法に準じ、5本の試験片(厚さ0.75mm)を用いて難燃性テストを行い、UL94記載の評価方法に従い、V−0、V−1、V−2、HBに分類した(V−0が最も難燃性が高いことを示す)。合計燃焼時間は、5本の合計燃焼時間(第一接炎時、第二接炎時の燃焼時間を含む)であり、単位は、秒で示した。
【0150】
ノッチ付きシャルピー衝撃強度
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを用いて、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製NEX80−9E型)にて、ISO試験片を成形した。ISO179−2に準拠してノッチ付シャルピー衝撃強さを測定した。
【0151】
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(一次成形材料と二次成形材料は同じ)を用いて、射出成形機(日精株式会社製NEX80−9E)により、図1に示す試験片A(一次成形品)を成形し、熱風オーブン(120℃)中で30分間保持して取り出した後、直ちに二次成形金型内に装着し、上記の得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(二次成形材料)を用いて試験片を射出成形し、試験片Aと二次成形材料からなる試験片とを金型内で溶着させ射出溶着一体成形品Bを得た。得られた射出溶着一体成形品について射出溶着強度を測定した。
【0152】
溶着強度の測定:
一体成形品(図1に示す試験片B)を、曲げ速度2mm/min、スパン間距離64mmの条件で引っ張り、破断時の荷重を測定し、その大きさをkgfで表しこれを溶着強度とした。
【0153】
【表1】

【表2】

【0154】
上記表中における各成分の含量比は以下のとおりである。
【表3】

【0155】
上記表から明らかなとおり、スチレンの含量が少ないグラフト重合体を用いることにより、難燃性および溶着性に優れた樹脂組成物が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、電気電子部品、例えばコネクター、ターミナルなどの広範囲の部品への適用が期待できる。そしてさらには、自動車部品や建材部品などにも適用が考えられる。
【符号の説明】
【0157】
1 試験片Bにおける試験片Aの部分
2 試験片Bにおける二次成形材料からなる成形品部分
3 218mm
4 12.82mm
5 25mm
6 121.5mm
7 28mm
8 3.0mm
9 3.0mm
10 45度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、
(B)下記一般式(1)または(2)で表されるホスフィン酸塩5〜60重量部、および
(D)少なくともブタジエンを重合してなり、かつ、実質的にスチレン由来の成分を含まないゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体であって、グラフト重合体中のスチレン由来の成分の含量が5重量%以下であるグラフト重合体を0.5重量部〜30重量部、
を配合してなる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1およびR2は、ぞれぞれ、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜6のアルキル基、または、フェニル基を表し、R3は、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、炭素数7〜10のアルキルアリーレン基、または、炭素数7〜10のアリールアルキレン基を表し、Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンまたはマグネシウムイオンを表し、mは2または3であり、nは1または3であり、そしてXは1または2である。)
【請求項2】
前記(D)グラフト重合体が、少なくともブタジエンを重合してなるゴム質重合体に、少なくともメチルメタクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体である、請求項1に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記(D)グラフト重合体が実質的にスチレン由来の成分を含まない、請求項1または2に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記ゴム質重合体が実質的にブタジエンのみを重合してなるゴム質重合体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記(D)グラフト重合体を、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.5〜10重量部の割合で含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、(C)難燃助剤として、(C−1)アミノ基含有化合物、(C−2)ケイ素含有化合物および(C−3)ホウ素含有化合物の少なくとも1種を、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、35重量部以下の割合で含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、(C)難燃助剤として、シアヌル酸メラミン、ポリ燐酸メラミン、燐酸メラミン、シリコーンレジン、ホウ酸亜鉛およびコレマナイト鉱物の少なくとも1種を、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、35重量部以下の割合で含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、(E)強化充填剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
ハロゲン系難燃剤を実質的に含まない、請求項1〜9のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる成形品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−122013(P2012−122013A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274602(P2010−274602)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】