説明

難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物

【課題】高い成型加工性と優れた難燃性、耐熱性、リサイクル性を有する難燃性樹脂組成物を提供。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1成分)100〜70重量%、スチレン系樹脂(A−2成分)30〜0重量%からなる樹脂成分(A成分)100重量部に対して、(i)一般式(1)で示される芳香族基を有し、かつ実質的に分子構造中にSi−H結合を含有しないシリコーン化合物(B成分)0.01〜5重量部、(ii)有機金属塩系難燃剤(C成分)0.001〜0.3重量部および(iii)含フッ素滴下防止剤(D成分)0.01〜5重量部、を含有する難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する組成物に関する。更に詳しくは、芳香族ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、特定の化学構造を有するシリコーン化合物、有機金属塩系難燃剤、無機充填材、含フッ素滴下防止剤を含有する、難燃性および成形加工性に優れた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、耐衝撃性等に優れていることから種々の用途に用いられてきているが、成型加工温度が高いこと、流動性が悪いこと等の欠点を有している。そこで、ポリカーボネート系樹脂にABS系樹脂をブレンドし、これらの問題点を解決しようとする試みがなされている(特許文献1〜4)。
ところで、PC/ABS系アロイは、成形加工性、耐衝撃性、寸法精度などに優れているが難燃性が不足しているので、難燃性向上の為に種々の試みがなされている(特許文献5、6)。このような、PC/ABS系アロイは、射出成形などの簡便で生産性に優れた加工法により種々の成形品に形成され、幅広い産業分野で利用されている。また、芳香族ポリカーボネート系樹脂にハロゲン系化合物やリン系化合物を添加した難燃性樹脂組成物は、難燃化の要望の強いパソコン・ノートパソコン・レーザービームプリンター・インクジェットプリンター・コピー・FAX等のOA機器、家電製品など外装部材や内部部品に利用されている。しかし、一方でこれらの難燃剤に代わる難燃剤を用いた樹脂組成物が開発され、上記に挙げた製品などに使用されつつある。かかる難燃剤変更の目的としては、成形時における腐蝕ガスの発生の抑制、または製品のリサイクル性の向上などが挙げられる。
上記に挙げた難燃剤に代わる難燃剤としては例えばシリコーン化合物を挙げることができる。シリコーン化合物を芳香族ポリカーボネート樹脂に配合した難燃性樹脂組成物は近年精力的に検討され、種々の提案がされている。
【0003】
また、各種機器のハウジング用途においては、コストダウンや軽量化の要請に伴い、薄肉化指向が強まりつつある。これに応えるべく、ポリオルガノシロキサンを配合したポリカーボネート系樹脂組成物が報告されている(特許文献7)。また、ポリカーボネート樹脂にパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩とアルコキシ基、ビニル基およびフェニル基を有する有機シロキサンを配合する方法が提案されている(特許文献8)。また、ポリカーボネート樹脂にパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩と二価炭化水素基を介してケイ素原子に結合のオルガノキシシリル基を含有するオルガノポリシロキサンを配合する方法が提案されている(特許文献9)。また、ポリカーボネート樹脂にスチレン系樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、特定構造を有するシリコーン化合物、および有機アルカリ金属塩等を配合する方法が提案されている(特許文献10)。
【0004】
また、樹脂成分に特定の石油系重質油類またはピッチ類とシリコーン化合物を配合する方法が提案されている(特許文献11)。また、芳香環を有する非シリコーン樹脂に式RSiO1.0で示される単位とRSiO1.5で示される単位を持ち、重量平均分子量が10,000以上270,000以下であるシリコーン樹脂を配合する方法が提案されている(特許文献12)。
しかしながら、上記提案のポリカーボネート樹脂組成物は難燃性が十分とはいえないものであった。例えば薄肉の場合にドリップを生じUL規格94のV−0ランクを達成できないなどである。
【0005】
一方、材料においても、薄肉化を達成するため、例えばポリカーボネートの分子量を低くすることや、ABSやASの比率を高めること等の流動性の改良を行う試みがなされている。しかしながら、この方法は、難燃性が低下したり、望ましい耐熱性、耐衝撃性を得ることは困難であるなどの問題点を有している。また、成形温度を高くして、より高い流動性を得ることは容易であるが、組成物中の難燃剤の揮発、変性による難燃性の低下、高温で成形されることによる、樹脂組成物の劣化、不十分な耐衝撃性という問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭38−15225号公報
【特許文献2】特公昭48−12170号公報
【特許文献3】特公昭57−21530号公報
【特許文献4】特公昭58−46269号公報
【特許文献5】特公昭54−30417号公報
【特許文献6】特開昭61−62556号公報
【特許文献7】特開平4−298554号公報
【特許文献8】特開平6−306265号公報
【特許文献9】特開平6−336547号公報
【特許文献10】特開2003−147188号公報
【特許文献11】特開平9−169914号公報
【特許文献12】特開平10−139964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に鑑み本発明の目的は、芳香族ポリカーボネート樹脂にスチレン系樹脂、特定構造を有するシリコーン化合物、有機金属塩系難燃剤、含フッ素滴下防止剤を含み、改良された薄肉成形品での難燃性、耐熱性、および成形加工性を有する樹脂組成物を提供することにある。また、該樹脂組成物から形成された成形品および透明シートを提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。芳香族ポリカーボネート樹脂およびスチレン系樹脂に、分子中に芳香族基を含有する特定構造のシリコーン化合物を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記課題は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1成分)100〜70重量%およびスチレン系樹脂(A−2成分)30〜0重量%からなる樹脂成分(A成分)100重量部に対して、
(i)下記式(1)で示される芳香族基の含有率が20〜60重量%、平均重合度が3〜20、かつ実質的に分子構造中にSi−H結合を含有しないシリコーン化合物(B成分)0.01〜5重量部、
(ii)有機金属塩系難燃剤(C成分)0.001〜0.3重量部、および
(iii)含フッ素滴下防止剤(D成分)0.01〜5重量部、
を含有する難燃性樹脂組成物により達成される。
なお、平均重合度は下記一般式(2)で表されるシロキサン単位の繰り返し数(n)で表される。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Xはそれぞれ独立にOH基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、および炭素数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる基を示す。mは0〜5の整数を表わす。更にmが2以上の場合はそれぞれ互いに異なる種類のXを取ることができる。)
【0011】
【化2】

【0012】
(式(2)中、R〜Rはそれぞれ独立して、脂肪族基、芳香族基または脂環式基であり、nは3〜20の整数で平均重合度を表す。)
本発明の好適な態様の1つは、(2)更に、A、B、CおよびD成分からなる樹脂組成物に、無機充填材、好ましくはマイカ、タルク、ワラストナイト(E成分)をA成分100重量部に対し、0.5〜50重量部を含有する樹脂組成物である。
【0013】
本発明の好適な態様の1つは、(3)上記構成(1)、(2)の樹脂組成物より形成された成形品および透明シートである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の難燃性樹脂組成物は、薄肉領域での難燃性、耐熱性、リサイクル性および成形加工性に優れる。また本発明の成形品および透明シートは、難燃性および耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の詳細について説明する。
(A−1成分:芳香族ポリカーボネート樹脂)
本発明のA−1成分である芳香族ポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂である。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0016】
二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも耐衝撃性の点から、A−1成分がビスフェノールA由来の芳香族ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0017】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0018】
二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によってポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本発明のポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0019】
三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンなどが使用できる。
分岐ポリカーボネートを生ずる多官能性化合物を含む場合、かかる割合は、芳香族ポリカーボネート全量中、好ましくは0.001〜1モル%、より好ましくは0.005〜0.9モル%、特に好ましくは0.01〜0.8モル%である。また特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造が生ずる場合がある。かかる分岐構造量の量は、芳香族ポリカーボネート全量中、好ましくは0.001〜1モル%、より好ましくは0.005〜0.9モル%、特に好ましくは0.01〜0.8モル%である。尚、かかる割合についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールおよびトリシクロデカンジメタノールなどが例示される。
さらにポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0020】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、上述した各種二価フェノールの異なるポリカーボネート、分岐成分を含有するポリカーボネート、各種のポリエステルカーボネート、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体など各種の芳香族ポリカーボネートの2種以上を混合したものであってもよい。さらに下記に示す製造法の異なるポリカーボネート、末端停止剤の異なるポリカーボネートなど各種についても2種以上を混合したものが使用できる。
【0021】
ポリカーボネート樹脂の製造方法である界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などの反応形式は、各種の文献および特許公報などで良く知られている方法である。
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は特定されないが、分子量が1×10未満であると成形品として十分な強度が得られ難く、5×10を超えると成形加工性が低下する。したがって、粘度平均分子量で表して1×10〜5×10のものが好ましく、1.4×10〜3×10のものがより好ましく、更に好ましくは1.4×10〜2.4×10である。また、芳香族ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合しても差し支えない。この場合、粘度平均分子量が上記範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合することも当然に可能である。
【0022】
特に粘度平均分子量が5×10を超える芳香族ポリカーボネート樹脂との混合物はエントロピー弾性が高く、ジェッティングなどに代表されるレオロジー挙動による成形品の外観不良が生じくい特徴がある。かかる外観不良が生ずる場合には、適切な態様である。更にガスインジェクション成形などにおいてもガス注入量が安定し、また発泡成形においては発泡セルが安定し、微細かつ均質なセルが形成されやすいことから有利である。
より好ましくは粘度平均分子量が8×10以上のポリカーボネート樹脂との混合物であり、更に好ましくは1×10以上の粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂との混合物である。すなわちGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)などの測定法において2ピーク以上の分子量分布を観察できるものが好ましく使用できる。
【0023】
本発明でいう粘度平均分子量はまず次式にて算出される比粘度を塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度を次式にて挿入して粘度平均分子量Mを求める。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0024】
(A−2成分:スチレン系樹脂)
本発明のA−2成分であるスチレン系樹脂は、芳香族ビニル化合物の重合体または共重合体からなる樹脂、または芳香族ビニル化合物と他のビニル単量体およびゴム質重合体より選ばれる1種以上とを共重合して得られる共重合体からなる樹脂をいう。芳香族ビニル化合物は樹脂100重量%中10重量%以上含有するものが好ましい。
【0025】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレンなどが挙げられ、特にスチレンが好ましい。
芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、シアン化ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル化合物を好ましく挙げることができる。シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。尚(メタ)アクリレートの表記はメタクリレートおよびアクリレートのいずれをも含むことを示し、(メタ)アクリル酸エステルの表記はメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルのいずれをも含むことを示す。特に好適な(メタ)アクリル酸エステル化合物としてはメチルメタクリレートを挙げることができる。
【0027】
シアン化ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル化合物以外の芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸などのα,β−不飽和カルボン酸およびその無水物が挙げられる。
【0028】
上記ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ジエン系共重合体(例えば、スチレン・ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、並びに(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびブタジエンの共重合体など)、エチレンとα−オレフィンとの共重合体(例えば、エチレン・プロピレンランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン・ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体など)、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体(例えばエチレン・メタクリレート共重合体、およびエチレン・ブチルアクリレート共重合体など)、エチレンと脂肪族ビニルとの共重合体(例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体など)、エチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー(例えば、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体など)、アクリル系ゴム(例えば、ポリブチルアクリレート、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、およびブチルアクリレートと2−エチルヘキシルアクリレートとの共重合体など)、並びにシリコーン系ゴム(例えば、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とからなるIPN型ゴム;すなわち2つのゴム成分が分離できないように相互に絡み合った構造を有しているゴム、およびポリオルガノシロキサンゴム成分とポリイソブチレンゴム成分からなるIPN型ゴムなど)が挙げられる。中でもより好適であるのは、その効果がより発現しやすいポリブタジエン、ポリイソプレン、またはジエン系共重合体であり、特にポリブタジエンが好ましい。これらゴム質重合体はスチレン系樹脂100重量%中90重量%以下であることが好ましく、より好ましくは80重量%以下である。
【0029】
スチレン系樹脂として具体的には、例えば、ポリスチレン樹脂、HIPS樹脂、MS樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂、およびSMA樹脂などのスチレン系重合体からなる樹脂、並びにスチレン系熱可塑性エラストマー(例えば(水添)スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、(水添)スチレン−イソプレン−スチレン共重合体などが挙げられる。尚、(水添)の表記は水添していない共重合体および水添した共重合体のいずれをも含むことを意味する。これらは容易に入手可能である。中でもより好適であるのはHIPS樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂、およびスチレン系熱可塑性エラストマーなどのゴム強化スチレン系樹脂である。
【0030】
これらの中でも特にHIPS樹脂、ABS樹脂、AS樹脂が好ましい。ABS樹脂は薄肉成形品に対する優れた成形加工性を有し、良好な耐衝撃性も有する。殊に芳香族ポリカーボネート樹脂との組合せにおいて好ましい特性が発現される。尚、ここでMS樹脂はメチルメタクリートとスチレンから主としてなる共重合体樹脂、AES樹脂はアクリロニトリル、エチレン−プロピレンゴムおよびスチレンから主としてなる共重合体樹脂、ASA樹脂はアクリロニトリル、スチレンおよびアクリルゴムから主としてなる共重合体樹脂、MABS樹脂はメチルメタクリレート、アクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレンから主としてなる共重合体樹脂、MAS樹脂はメチルメタクリレート、アクリルゴムおよびスチレンから主としてなる共重合体樹脂、SMA樹脂はスチレンと無水マレイン酸(MA)から主としてなる共重合体樹脂を示す。
【0031】
スチレン系樹脂は単独で使用することも2種以上を併用することも可能である。例えばABS樹脂においてはAS重合体(アクリロニトリルとスチレンとの共重合体)およびABS共重合体(ポリブタジエンゴムにアクリロニトリルとスチレンがグラフト共重合した共重合体)との混合物が一般的であり、かかる混合物は本発明においても好適に使用される。
更にスチレン系樹脂はその製造時にメタロセン触媒等の触媒使用により、シンジオタクチックポリスチレン等の高い立体規則性を有するものであってもよい。更に場合によっては、アニオンリビング重合、ラジカルリビング重合等の方法により得られる、分子量分布の狭い重合体および共重合体、ブロック共重合体、および立体規則性の高い重合体、共重合体であってもよい。
【0032】
本発明で使用するABS樹脂においては、ABS樹脂成分100重量%中(すなわちABS重合体とAS重合体の合計100重量%中)ジエンゴム成分の割合が5〜80重量%であるのが好ましく、より好ましくは8〜50重量%、特に好ましくは10〜30重量%である。
【0033】
ABS樹脂に使用されるシアン化ビニル化合物としては、前記のものを挙げることができ、特にアクリロニトリルが好ましい。また芳香族ビニル化合物としては、同様に前記のものを使用できるが、特にスチレンおよびα−メチルスチレンが好ましい。かかるジエン系ゴム成分にグラフトされる成分の割合は、ABS樹脂成分100重量%中95〜20重量%が好ましく、より好ましくは92〜50重量%である。更にかかるシアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物の合計量100重量%に対して、シアン化ビニル化合物が5〜50重量%、芳香族ビニル化合物が95〜50重量%であることが好ましい。更に上記のジエン系ゴム成分にグラフトされる成分の一部についてメチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、無水マレイン酸、N置換マレイミド等を混合使用することもでき、これらの含有割合はABS樹脂成分中15重量%以下であるものが好ましい。更に反応で使用される開始剤、連鎖移動剤、乳化剤等は必要に応じて、従来公知の各種のものが使用可能である。
ABS樹脂においては、ゴム粒子径は0.1〜5.0μmが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0μm、特に好ましくは0.3〜1.5μmである。かかるゴム粒子径の分布は単一の分布であるものおよび2山以上の複数の山を有するもののいずれもが使用可能であり、更にそのモルフォロジーにおいてもゴム粒子が単一の相をなすものであっても、ゴム粒子の周りにオクルード相を含有することによりサラミ構造を有するものであってもよい。
【0034】
またABS樹脂がジエン系ゴム成分にグラフトされないシアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物の共重合体を含有することは従来からよく知られているところである。本発明においてABS樹脂は、上記のとおりかかる重合の際に発生するフリーの重合体成分を含有してよく、また芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを別途共重合して得られるビニル化合物重合体をブレンドしたものでもよい。かかるフリーのシアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物からなる共重合体(AS共重合体)の還元粘度は、下記に記載の方法で求めた還元粘度(30℃)が好ましくは0.2〜1.0dl/g、より好ましくは0.3〜0.7dl/gである。
【0035】
還元粘度は、AS共重合体0.25gを精秤し、ジメチルホルムアミド50mlに2時間かけて溶解させた溶液を、ウベローデ粘度計を用いて30℃の環境で測定したものである。なお、粘度計は溶媒の流下時間が20〜100秒のものを用いる。還元粘度は溶媒の流下秒数(t)と溶液の流下秒数(t)から次式によって求める。
還元粘度(ηsp/C)={(t/t)−1}/0.5
尚、かかるフリーのAS共重合体の割合は、アセトンなどのかかるAS共重合体の良溶媒にABS樹脂を溶解し、その可溶分から採取することが可能である。一方その不溶分(ゲル)が正味のABS共重合体となる。
【0036】
ABS共重合体においてジエン系ゴム成分にグラフトされたシアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物の割合(ジエン系ゴム成分の重量に対するかかるグラフト成分の重量の割合)、すなわちグラフト率(重量%)は20〜200%が好ましく、より好ましくは20〜80%である。
かかるABS樹脂は塊状重合、溶液重合、懸濁重合、および乳化重合などのいずれの方法で製造されたものでもよい。耐加水分解性の点でより好ましいのは塊状重合法および懸濁塊状重合法により製造されたABS樹脂である。また共重合の方法も一段で共重合しても、多段で共重合してもよい。
【0037】
本発明においてAS樹脂とは、シアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体である。かかるシアン化ビニル化合物としては、前記のものを挙げることができ、特にアクリロニトリルが好ましく使用できる。また芳香族ビニル化合物としては、同様に前記のものが挙げられるが、スチレンおよびα−メチルスチレンが好ましい。AS樹脂中における各成分の割合としては、全体を100重量%とした場合、シアン化ビニル化合物が好ましくは5〜50重量%、より好ましくは15〜35重量%、芳香族ビニル化合物が好ましくは95〜50重量%、より好ましくは85〜65重量%である。更にこれらのビニル化合物に、前記の共重合可能な他のビニル系化合物が共重合されたものでもよい。これらの含有割合は、AS樹脂成分中15重量%以下であるものが好ましい。また反応で使用する開始剤、連鎖移動剤等は必要に応じて、従来公知の各種のものが使用可能である。
かかるAS樹脂は塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの方法で製造されたものでもよいが、好ましくは塊状重合によるものである。また共重合の方法も一段での共重合、または多段での共重合のいずれであってもよい。またかかるAS樹脂の還元粘度は、好ましくは0.2〜1.0dl/g、より好ましくは0.4〜0.7dl/gである(還元粘度の測定方法は上記に準ずる)。
かかるAS樹脂は、AS樹脂全体100重量%中、アクリロニトリルが15〜35重量%、スチレンが85〜65重量%の範囲であり、塊状重合により製造され、その還元粘度が0.4〜0.7dl/gであるものを好ましく使用できる。またABS樹脂において、ABS共重合体とAS共重合体とをブレンドする場合それぞれ共重合体における芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物との割合は同一であっても、異なっていてもよいがより好ましくはほぼ同一であることが好ましい。
【0038】
A−2成分は、ABS樹脂およびAS樹脂からなる群より選択される少なくとも一種のスチレン系樹脂であることが好ましい。
スチレン系樹脂(A−2成分)の配合量は、A−1成分とA−2成分の合計100重量%を基準として0〜30重量%、好ましくは1〜30重量%である。したがって、A成分が芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1成分)99〜70重量%およびスチレン系樹脂(A−2成分)30〜1重量%からなることが好ましい。
スチレン系樹脂(A−2成分)の配合量は、より好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは3〜15重量%、最も好ましくは5〜15重量%である。かかる好ましい範囲であるほどスチレン系樹脂の配合により期待される効果(例えば成型加工性)が発揮される。逆に上記範囲より多い場合は、難燃性が損なわれる。
【0039】
(B成分:シリコーン化合物)
本発明に使用されるシリコーン化合物(B成分)は、芳香族基の含有率が20〜60重量%、平均重合度が3〜20、かつ実質的に分子構造中にSi−H結合を含有しないシリコーン化合物である。
シリコーン化合物(B成分)は、燃焼時の化学反応によって難燃性を向上させるものである。シリコーン化合物(B成分)はその燃焼時にそれ自体が結合してまたは樹脂に由来する成分と結合してストラクチャーを形成することにより、または該ストラクチャー形成時の還元反応により、ポリカーボネート樹脂に難燃効果を付与するものと考えられている。
【0040】
一般的にシリコーン化合物の構造は、以下に示す4種類のシロキサン単位を任意に組み合わせることによって構成される。すなわち、
M単位:(CHSiO1/2、H(CHSiO1/2、H(CH)SiO1/2、(CH(CH=CH)SiO1/2、(CH(C)SiO1/2、(CH)(C)(CH=CH)SiO1/2等の1官能性シロキサン単位、
D単位:(CHSiO、H(CH)SiO、HSiO、H(C)SiO、(CH)(CH=CH)SiO、(CSiO等の2官能性シロキサン単位、
T単位:(CH)SiO3/2、(C)SiO3/2、HSiO3/2、(CH=CH)SiO3/2、(C)SiO3/2等の3官能性シロキサン単位、
Q単位:SiOで示される4官能性シロキサン単位である。
【0041】
ここで、本発明に使用されるシリコーン化合物(B成分)とは、上述のシロキサン単位中、分子構造中にSi−H結合を含有しないシリコーン化合物、すなわち、
M単位:(CHSiO1/2、(CH(CH=CH)SiO1/2、(CH(C)SiO1/2、(CH)(C)(CH=CH)SiO1/2等の1官能性シロキサン単位、
D単位:(CHSiO、(CH)(CH=CH)SiO、(CSiO等の2官能性シロキサン単位、
T単位:(CH)SiO3/2、(C)SiO3/2、(CH=CH)SiO3/2、(C)SiO3/2等の3官能性シロキサン単位、
Q単位:SiOで示される4官能性シロキサン単位を任意に組合せることによって構成される下記式(2)で表されるシリコーン化合物である。
【0042】
【化3】

【0043】
(式(2)中、R〜Rはそれぞれ独立して、脂肪族基、芳香族基または、脂環式基であり、nは3〜20の整数で平均重合度を表す。)
本発明に使用されるシリコーン化合物の構造は、具体的には、示性式としてD、T、M、M、M、M、M、M、M、D、D、Dが挙げられる。この中で好ましいシリコーン化合物の構造は、M、M、M、Mであり、さらに好ましい構造は、MまたはMである。
【0044】
上記示性式中の係数m、n、p、qは各シロキサン単位の重合度を表す1以上の整数であり、各示性式における係数の合計がシリコーン化合物の平均重合度となる。この平均重合度は3〜20の範囲であり、好ましくは4〜17の範囲、更に好ましくは4〜15の範囲である。かかる好適な範囲であるほど難燃性において優れるようになる。更に後述するように芳香族基を所定量含むシリコーン化合物においては透明性や色相にも優れる。
【0045】
シリコーン化合物は、直鎖状であっても分岐構造を持つものであってもよい。またシリコン原子に結合する有機残基は炭素数1〜30、より好ましくは1〜20の有機残基であることが好ましい。かかる有機残基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、およびデシル基などのアルキル基、シクロヘキシル基の如きシクロアルキル基、フェニル基の如きアリール基、並びにトリル基の如きアラルキル基を挙げることがでる。さらに好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基またはアリール基である。アルキル基としては、特にはメチル基、エチル基、およびプロピル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0046】
さらに本発明に使用されるシリコーン化合物は、下記一般式(1)で示される芳香族基が含まれており、その含有率は20〜60重量%、好ましくは30〜55重量%、より好ましくは35〜50重量%である。芳香族基の含有量がこの範囲にある場合には、組成物中に存在するシリコーン化合物の分散性が向上するため、難燃化性能が改善され好適な結果となる。
【0047】
【化4】

【0048】
(式中、Xはそれぞれ独立に、OH基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基および炭素数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる基を示す。mは0〜5の整数を表わす。更にmが2以上の場合はそれぞれ互いに異なる種類のXを取ることができる。)
本発明にて配合するシリコーン化合物は、Si−H基を除くその他の反応基を含有していてもよく、かかる反応基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基、およびメタクリロキシ基などが例示される。
シリコーン化合物の配合量は、樹脂成分(A成分)100重量部を基準として0.01〜5重量部、好ましくは0.01〜4重量部であり、より好ましくは0.05〜3.5重量部、更に好ましくは0.1〜3重量部である。
【0049】
(C成分:有機金属塩系難燃剤)
本発明のC成分である有機金属塩系難燃剤は、含フッ素有機金属塩化合物であることが好ましい。本発明の含フッ素有機金属塩化合物とは、フッ素置換された炭化水素基を有する有機酸からなるアニオン成分と金属イオンからなるカチオン成分からなる金属塩化合物をいう。より好適な具体例としては、フッ素置換有機スルホン酸の金属塩およびフッ素置換有機硫酸エステルの金属塩が例示される。含フッ素有機金属塩化合物は1種もしくは2種以上を混合して使用することができる。その中でも好ましいのはフッ素置換有機スルホン酸の金属塩であり、特に好ましいのはパーフルオロアルキル基を有するスルホン酸の金属塩である。ここでパーフルオロアルキル基の炭素数は、1〜18の範囲が好ましく、1〜10の範囲がより好ましく、更に好ましくは1〜8の範囲である。
【0050】
有機金属塩系難燃剤(C成分)の金属イオンを構成する金属は、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属であることが好ましい。これらをアルカリ(土類)金属と呼ぶことがある。アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムが挙げられる。より好適にはアルカリ金属である。したがって好適な有機金属塩系難燃剤(C成分)は、パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩である。かかるアルカリ金属の中でも、透明性の要求がより高い場合にはルビジウムおよびセシウムが好適である一方、これらは汎用的でなくまた精製もし難いことから、結果的にコストの点で不利となる場合がある。一方、コストや難燃性の点で有利であるがリチウムおよびナトリウムは逆に透明性の点で不利な場合がある。これらを勘案してパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩中のアルカリ金属を使い分けることができるが、いずれの点においても特性のバランスに優れたパーフルオロアルキルスルホン酸カリウム塩が最も好適である。かかるカリウム塩と他のアルカリ金属からなるパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩とを併用することもできる。
【0051】
かかるパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩としては、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロヘプタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム、パーフルオロオクタンスルホン酸セシウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸ルビジウム、およびパーフルオロヘキサンスルホン酸ルビジウム等が挙げられる。これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。これらの中で特にパーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。
【0052】
上記の含フッ素有機金属塩はイオンクロマトグラフィー法により測定した弗化物イオンの含有量が好ましくは50ppm以下、より好ましくは20ppm以下、更に好ましくは10ppm以下である。弗化物イオンの含有量が低いほど、難燃性や耐光性が良好となる。弗化物イオンの含有量の下限は実質的に0とすることも可能であるが、精製工数と効果との兼ね合いから実用的には0.2ppm程度が好ましい。
【0053】
かかる弗化物イオンの含有量のパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩は例えば次のように精製される。パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩を、該金属塩の2〜10重量倍のイオン交換水に、40〜90℃(より好適には60〜85℃)の範囲において溶解させる。該パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩は、パーフルオロアルキルスルホン酸をアルカリ金属の炭酸塩または水酸化物で中和する方法、もしくはパーフルオロアルキルスルホニルフルオライドをアルカリ金属の炭酸塩または水酸化物で中和する方法により(より好適には後者の方法により)生成される。また該イオン交換水は、特に好適には電気抵抗値が18MΩ・cm以上である水である。金属塩を溶解した液を上記温度下で0.1〜3時間、より好適には0.5〜2.5時間撹拌する。その後該液を0〜40℃、より好適に10〜35℃の範囲に冷却する。冷却により結晶が析出する。析出した結晶をろ過によって取り出す。これにより好適な精製されたパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩が製造される。
【0054】
含フッ素有機金属塩化合物の配合量は、A成分100重量部を基準として0.001〜0.3重量部、好ましくは0.005〜0.3重量部、より好ましくは0.005〜0.2重量部、更に好ましくは0.008〜0.15重量部である。かかる好ましい範囲であるほど含フッ素有機金属塩の配合により期待される効果(例えば難燃性)が発揮される。
【0055】
その他上記含フッ素有機金属塩化合物以外の有機金属塩系難燃剤(C成分)としては、フッ素原子を含有しない有機スルホン酸の金属塩が好適である。該金属塩としては、例えば脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、脂肪族スルホン酸のアルカリ土類金属塩、芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩、および芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩等(いずれもフッ素原子を含有しない)が挙げられる。
【0056】
脂肪族スルホン酸金属塩の好ましい例としては、アルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる(ここで、アルカリ(土類)金属塩の表記は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩のいずれも含む意味で使用する)。かかるアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩に使用するアルカンスルホン酸の好ましい例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、メチルブタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、へプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0057】
芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩に使用する芳香族スルホン酸としては、モノマー状またはポリマー状の芳香族サルファイドのスルホン酸、芳香族カルボン酸およびエステルのスルホン酸、モノマー状またはポリマー状の芳香族エーテルのスルホン酸、芳香族スルホネートのスルホン酸、モノマー状またはポリマー状の芳香族スルホン酸、モノマー状またはポリマー状の芳香族スルホンスルホン酸、芳香族ケトンのスルホン酸、複素環式スルホン酸、芳香族スルホキサイドのスルホン酸、芳香族スルホン酸のメチレン型結合による縮合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の酸を挙げることができ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0058】
芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の具体例としては、例えばジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジナトリウム、ジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジカリウム、5−スルホイソフタル酸カリウム、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、ポリエチレンテレフタル酸ポリスルホン酸ポリナトリウム、1−メトキシナフタレン−4−スルホン酸カルシウム、4−ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,3−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,4−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(2,6−ジフェニルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリカリウム、ポリ(2−フルオロ−6−ブチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸リチウム、ベンゼンスルホネートのスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ストロンチウム、ベンゼンスルホン酸マグネシウム、p−ベンゼンジスルホン酸ジカリウム、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸ジカリウム、ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸カルシウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3,4’−ジスルホン酸ジカリウム、α,α,α−トリフルオロアセトフェノン−4−スルホン酸ナトリウム、ベンゾフェノン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸ジナトリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸カルシウム、ベンゾチオフェンスルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホキサイド−4−スルホン酸カリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、およびアントラセンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物などを挙げることができる。
【0059】
一方、硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩としては、特に一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、かかる一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルとしては、メチル硫酸エステル、エチル硫酸エステル、ラウリル硫酸エステル、ヘキサデシル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリ、テトラ硫酸エステル、ラウリン酸モノグリセライドの硫酸エステル、パルミチン酸モノグリセライドの硫酸エステル、およびステアリン酸モノグリセライドの硫酸エステルなどを挙げることができる。これらの硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩として好ましくはラウリル硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができる。
【0060】
また他のアルカリ(土類)金属塩としては、芳香族スルホンアミドのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、例えばサッカリン、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミド、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミド、およびN−(フェニルカルボキシル)スルファニルイミドのアルカリ(土類)金属塩などが挙げられる。
上記の中でも好ましいフッ素原子を含有しない有機スルホン酸の金属塩は、芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩であり、特にカリウム塩が好適である。
【0061】
かかる芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩を配合する場合、その含有量は、A成分100重量部を基準として0.001〜0.3重量部であり、好ましくは0.005〜0.2重量部、更に好ましくは0.008〜0.15重量部である。
【0062】
(D成分:含フッ素滴下防止剤)
本発明のD成分である含フッ素滴下防止剤とは、燃焼時の溶融滴下を防止し難燃性を更に向上させるためのもので、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好ましく使用される。尚、以下ポリテトラフルオロエチレンを単にPTFEと称することがある。フィブリル形成能を有するPTFEの分子量は極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において100万〜1000万、より好ましく200万〜900万である。かかるPTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。またかかるフィブリル形成能を有するPTFEは樹脂中での分散性を向上させ、更に良好な難燃性および機械的特性を得るために他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。
かかるフィブリル形成能を有するPTFEの市販品としては例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)のテフロン(登録商標)6J、ダイキン化学工業(株)のポリフロンMPA FA500、およびF−201Lなどを挙げることができる。PTFEの水性分散液の市販品としては、旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製のフルオンAD−1、AD−936、ダイキン工業(株)製のフルオンD−1、D−2、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン(登録商標)30Jなどを代表として挙げることができる。
【0063】
混合形態のPTFEとしては、(1)PTFEの水性分散液と有機重合体の水性分散液または溶液とを混合し共沈殿を行い共凝集混合物を得る方法(特開昭60−258263号公報、特開昭63−154744号公報などに記載された方法)、(2)PTFEの水性分散液と乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法(特開平4−272957号公報に記載された方法)、(3)PTFEの水性分散液と有機重合体粒子溶液を均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06−220210号公報、特開平08−188653号公報などに記載された方法)、(4)PTFEの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法(特開平9−95583号公報に記載された方法)、および(5)PTFEの水性分散液と有機重合体分散液を均一に混合後、更に該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11−29679号などに記載された方法)により得られたものが使用できる。これらの混合形態のPTFEの市販品としては、三菱レイヨン(株)の「メタブレン A3800」(商品名)、およびGEスペシャリティーケミカルズ社製 「BLENDEX B449」(商品名)などを挙げることができる。
【0064】
混合形態におけるPTFEの割合としては、PTFE混合物100重量%中、PTFEが1〜60重量%が好ましく、より好ましくは5〜55重量%である。PTFEの割合がかかる範囲にある場合は、PTFEの良好な分散性を達成することができる。
含フッ素滴下防止剤(D成分)の含有量は、A成分100重量部を基準として0.01〜5重量部、好ましくは0.01〜3重量部、より好ましくは0.05〜1重量部、更に好ましくは0.1〜0.6重量部である。
【0065】
(E成分:無機充填材)
本発明の樹脂組成物は、無機充填材(E成分)を含有していても良い。本発明のE成分である無機充填材は、例えば、タルク、ワラストナイト、マイカ、クレー、モンモンリロナイト、スメクタイト、カオリン、炭酸カルシウム、炭素繊維、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、セラミック粒子、セラミック繊維、セラミックバルーン、アラミド粒子、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、グラファイト、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、塩基性硫酸マグネシウムなどの各種ウイスカーなどが挙げられる。なかでも、タルク、ワラストナイト、マイカ、などの珪酸塩系の充填材が好ましく使用される。これらの無機充填材は、1種もしくは2種以上を併用して含むものであってもよい。
E成分は、マイカ(E−1成分)、タルク(E−2成分)およびワラストナイト(E−3成分)から選択される少なくとも1種の無機充填材であることが好ましい。
無機充填剤(E成分)の含有量は、A成分100重量部を基準として0.5〜50重量部、好ましくは0.5〜40重量部、より好ましくは1〜30重量部である。
【0066】
(E−1成分:マイカ)
本発明において使用するマイカ(E−1成分)とは、平均粒径が1〜80μmの粉末状のものを挙げることができる。更に好ましくは平均粒径が2〜50μmのものを挙げることができる。かかる平均粒径はレーザー回折・散乱法により測定される値である。平均粒径が1〜80μmの場合には、より難燃性に良好な作用を与えるとともに、樹脂中の微分散の条件も満足するため、耐湿熱性も良好に維持できる。マイカの厚みとしては、電子顕微鏡の観察により実測した厚みが0.01〜1μmのものを使用できる。好ましくは厚みが0.03〜3μmである。更にかかるマイカには、シランカップリング剤等で表面処理されていてもよく、更にエポキシ系、ウレタン系、アクリル系等の結合剤で造粒し、顆粒状とされていても良い。
【0067】
(E−2成分:タルク)
本発明において使用するタルク(E−2成分)とは、平均粒径が5μm以下のものを挙げることができる。更に好ましくは平均粒径が3μm以下であり、特に好ましくは2μm以下のものを挙げることができる。下限としては0.05μmを挙げることができる。ここでタルクの平均粒径は、液相沈降法の1つであるX線透過法で測定されたD50(粒子径分布のメジアン径)をいう。かかる測定を行う装置の具体例としてはマイクロメリティックス社製Sedigraph5100などを挙げることができる。
タルクは造粒された形態で使用されることが好ましい。造粒方法としては、バインダーを使用する場合と、実質的に使用しない場合がある。バインダーを使用しないものがより好適である。バインダーを使用しない場合の造粒方法としては、脱気圧縮の方法(例えば真空状態で脱気しながらブリケッティングマシーンなどでローラー圧縮する方法など)、および転動造粒や凝集造粒の方法などが挙げられる。
【0068】
(E−3成分:ワラストナイト)
本発明において使用するワラストナイト(E−3成分)とは、数平均繊維径が0.5〜5μmのものが好ましい。かかる数平均繊維径は、電子顕微鏡写真などにて観察した画像から、無作為に抽出した合計1000個分の繊維径を測定してその数平均値を算出して求められるものである。またアスペクト比L/D(L:数平均繊維長、D:数平均繊維径)が5以上であるものが好ましく、6以上であるものがより好ましい。尚、数平均繊維長は、ワラストナイトを光学顕微鏡または電子顕微鏡などにより、ワラストナイトの全体像がほぼ完全に観察可能な倍率で観察し、かかる像を画像解析装置に入力し、算出することができる。画像解析装置のとしては例えばピアス製 PIAS−IIIシステムなどを挙げることができる。本発明で使用するワラストナイトとしては、1000℃における強熱減量が2重量%以下が好ましく、1.5重量%以下がより好ましく、1重量%以下が更に好ましい。
【0069】
本発明の難燃性樹脂組成物には、強化フィラーの折れを抑制するための折れ抑制剤を含むことができる。折れ抑制剤はマトリックス樹脂と強化フィラーとの間の密着性を阻害し、溶融混練時に強化フィラーに作用する応力を低減して強化フィラーの折れを抑制する。折れ抑制剤の効果としては剛性向上(強化フィラーのアスペクト比が大きくなる)、靭性向上(マトリックス樹脂の靭性を発揮しやすい、特に靭性の良好な芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とする場合に有効)、導電性の向上(導電性フィラーの場合)などを挙げることができる。折れ抑制剤は具体的には、(i)樹脂と親和性の低い化合物をフィラーの表面に直接被覆した場合の該化合物、および(ii)樹脂と親和性の低い構造を有し、かつ強化フィラーの表面と反応可能な官能基を有する化合物である。
【0070】
樹脂と親和性の低い化合物としては各種の滑剤を代表的に挙げることができる。滑剤としては例えば、鉱物油、合成油、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、ポリオルガノシロキサン(シリコーンオイル、シリコーンゴムなど)、オレフィン系ワックス(パラフィンワックス、ポリオレフィンワックスなど)、ポリアルキレングリコール、フッ素化脂肪酸エステル、トリフルオロクロロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレングリコールなどのフッ素オイルなどが挙げられる。
樹脂と親和性の低い化合物を強化フィラーの表面に直接被覆する方法としては、(1)該化合物を直接、または該化合物の溶液や乳化液を強化フィラーに浸漬する方法、(2)該化合物の蒸気中または粉体中に強化フィラーを通過させる方法、(3)該化合物の粉体などを強化フィラーに高速で照射する方法、(4)強化フィラーと該化合物を擦り付けるメカノケミカル的方法などを挙げることができる。
樹脂と親和性の低い構造を有し、かつ強化フィラーの表面と反応可能な官能基を有する化合物としては、各種の官能基で修飾された上記の滑剤を挙げることができる。かかる官能基としては例えばカルボキシル基、カルボン酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、エステル基、アミノ基、アルコキシシリル基などを挙げることができる。
【0071】
折れ抑制剤としてより好ましいのは、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選択された少なくとも1種の官能基を有するポリオレフィンワックスである。分子量としては重量平均分子量で500〜20,000が好ましく、より好ましくは1,000〜15,000である。かかるポリオレフィンワックスにおいて、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基の量としては、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有する滑剤1g当り0.05〜10meq/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜6meq/gであり、更に好ましくは0.5〜4meq/gである。他の官能基の場合もカルボキシル基と同程度含まれていることが好ましい。
折れ抑制剤として特に好ましいものとしてα−オレフィンと無水マレイン酸との共重合体を挙げることができる。かかる共重合体は、常法に従いラジカル触媒の存在下に、溶融重合あるいはバルク重合法で製造することができる。ここでα−オレフィンとしてはその炭素数が平均値として10〜60のものを好ましく挙げることができる。α−オレフィンとしてより好ましくはその炭素数が平均値として16〜60、更に好ましくは25〜55のものを挙げることができる。折れ抑制剤は本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物100重量%中、0.01〜2重量%が好ましく、0.05〜1.5重量%がより好ましく、0.1〜0.8重量%が更に好ましい。
【0072】
(各成分の含有量について)
本発明の難燃性樹脂組成物は、A−1成分とA−2成分の合計100重量%に対し、A−2成分は0〜30重量%、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは3〜15重量%、最も好ましくは5〜15重量%である。1重量%未満であると成形性加工性の改良が不十分であり、また20重量%より多いと難燃性、耐熱性が低下し不適である。
B成分の含有量は、A成分100重量部に対し、0.01〜5重量部で、好ましくは0.01〜4重量部、より好ましくは0.05〜3.5重量部、更に好ましくは、0.1〜3重量部である。0.01重量部未満であると難燃性が不十分であり、また10重量部より多いと難燃性が低下し不適である。
C成分の含有量は、A成分100重量部に対し、0.001〜0.3重量部で、好ましくは0.005〜0.3重量部、より好ましくは0.005〜0.2重量部、更に好ましくは、0.008〜0.15重量部である。0.001重量部未満であると難燃性が不十分であり、また0.3重量部より多いと難燃性が低下し不適である。
D成分の含有量は、A成分100重量部に対し、0.01〜5重量部で、好ましくは0.01〜3重量部、より好ましくは0.05〜1重量部、更に好ましくは、0.1〜0.6重量部である。D成分の含有量が5重量部を超えると衝撃強度が低下するため好ましくない。
E成分の含有量は、A成分100重量部に対し、0.5〜50重量部で、好ましくは0.5〜40重量部、更に好ましくは1〜30重量部である。E成分の量が50重量部を超えると、流動性の低下や衝撃強度の著しい低下が発生することから不適である。
【0073】
(その他の添加剤について)
本発明の樹脂組成物には、成形加工時の分子量や色相を安定化させるために各種安定剤や色材を使用することができる。かかる安定剤としては、リン系安定剤、ヒンダードフェノール系安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料および光安定剤などが挙げられる。
(i)リン系安定剤
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル、並びに第3級ホスフィンなどが例示される。
具体的にはホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0074】
更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、および2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイトなどが例示される。
【0075】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0076】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等があげられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0077】
ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0078】
第3級ホスフィンとしては、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリアミルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリナフチルホスフィン、およびジフェニルベンジルホスフィンなどが例示される。特に好ましい第3級ホスフィンは、トリフェニルホスフィンである。
【0079】
上記リン系安定剤は、1種のみならず2種以上を混合して用いることができる。上記リン系安定剤の中でも、ホスホナイト化合物もしくは下記式(3)で表されるホスファイト化合物が好ましい。
【0080】
【化5】

【0081】
(式(3)中、RおよびR’は炭素数6〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0082】
上記の如く、ホスホナイト化合物としてはテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイトが好ましく、該ホスホナイトを主成分とする安定剤は、Sandostab P−EPQ(商標、Clariant社製)およびIrgafos P−EPQ(商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)として市販されておりいずれも利用できる。
【0083】
また上記式(3)の中でもより好適なホスファイト化合物は、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイトである。
【0084】
ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトは、アデカスタブPEP−8(商標、旭電化工業(株)製)、JPP681S(商標、城北化学工業(株)製)として市販されておりいずれも利用できる。ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトは、アデカスタブPEP−24G(商標、旭電化工業(株)製)、Alkanox P−24(商標、Great Lakes社製)、Ultranox P626(商標、GE Specialty Chemicals社製)、Doverphos S−9432(商標、Dover Chemical社製)、並びにIrgaofos126および126FF(商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)などとして市販されておりいずれも利用できる。ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトはアデカスタブPEP−36(商標、旭電化工業(株)製)として市販されており容易に利用できる。またビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイトは、アデカスタブPEP−45(商標、旭電化工業(株)製)、およびDoverphos S−9228(商標、Dover Chemical社製)として市販されておりいずれも利用できる。
【0085】
(ii)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
ヒンダードフェノール化合物としては、通常、樹脂に配合される各種の化合物が使用できる。かかるヒンダードフェノール化合物としては、例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)アセテート、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)アセチルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、テトラキス[メチレン−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)ベンゼン、およびトリス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)イソシアヌレートなどが例示される。
【0086】
上記化合物の中でも、本発明においてはテトラキス[メチレン−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、および3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンが好ましく利用される。特に3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンが好ましい。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
リン系安定剤およびヒンダードフェノール系酸化防止剤はいずれかが配合されることが好ましく、これらの併用は更に好ましい。100重量部のA成分を基準として、0.01〜0.3重量部のリン系安定剤および0.01〜0.3重量部のヒンダードフェノール系酸化防止剤が配合されることがより好ましい。
【0087】
(iii)離型剤
本発明の樹脂組成物には、その成形時の生産性向上や成形品の歪みの低減を目的として、更に離型剤を配合することが好ましい。かかる離型剤としては公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス、1−アルケン重合体など。酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができる。かかる離型剤は100重量部のA成分を基準として0.005〜2重量部が好ましい。
中でも好ましい離型剤として脂肪酸エステルが挙げられる。かかる脂肪酸エステルは、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステルである。かかる脂肪族アルコールは1価アルコールであっても2価以上の多価アルコールであってもよい。また該アルコールの炭素数としては、3〜32の範囲、より好適には5〜30の範囲である。
かかる一価アルコールとしては、例えばドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、エイコサノール、テトラコサノール、セリルアルコール、およびトリアコンタノールなどが例示される。かかる多価アルコールとしては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリグリセロール(トリグリセロール〜ヘキサグリセロール)、ジトリメチロールプロパン、キシリトール、ソルビトール、およびマンニトールなどが挙げられる。脂肪酸エステルにおいては多価アルコールがより好ましい。
【0088】
一方、脂肪族カルボン酸は炭素数3〜32であることが好ましく、特に炭素数10〜22の脂肪族カルボン酸が好ましい。該脂肪族カルボン酸としては、例えばデカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸、ベヘン酸、イコサン酸、およびドコサン酸などの飽和脂肪族カルボン酸、並びにパルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エイコサペンタエン酸、およびセトレイン酸などの不飽和脂肪族カルボン酸を挙げることができる。上記の中でも脂肪族カルボン酸は、炭素原子数14〜20であるものが好ましい。なかでも飽和脂肪族カルボン酸が好ましい。特にステアリン酸およびパルミチン酸が好ましい。
【0089】
ステアリン酸やパルミチン酸など上記の脂肪族カルボン酸は通常、牛脂や豚脂などに代表される動物性油脂およびパーム油やサンフラワー油に代表される植物性油脂などの天然油脂類から製造されるため、これらの脂肪族カルボン酸は、通常炭素原子数の異なる他のカルボン酸成分を含む混合物である。したがって本発明の脂肪酸エステルの製造においてもかかる天然油脂類から製造され、他のカルボン酸成分を含む混合物の形態からなる脂肪族カルボン酸、殊にステアリン酸やパルミチン酸が好ましく使用される。
【0090】
本発明において脂肪酸エステルは、部分エステルおよび全エステル(フルエステル)のいずれであってもよい。しかしながら部分エステルでは通常水酸基価が高くなり高温時の樹脂の分解などを誘発しやすいことから、より好適にはフルエステルである。脂肪酸エステルの酸価は、熱安定性の点から好ましく20以下、より好ましくは4〜20の範囲、更に好ましくは4〜12の範囲である。尚、酸価は実質的に0を取り得る。また脂肪酸エステルの水酸基価は、0.1〜30の範囲がより好ましい。更にヨウ素価は、10以下が好ましい。尚、ヨウ素価は実質的に0を取り得る。これらの特性はJIS K 0070に規定された方法により求めることができる。
【0091】
離型剤の含有量は、100重量部のA成分を基準として好ましくは0.005〜2重量部、より好ましくは0.01〜1重量部、更に好ましくは0.05〜0.5重量部である。かかる範囲においては、樹脂組成物は良好な離型性および離ロール性を有する。特にかかる量の脂肪酸エステルは良好な色相を損なうことなく良好な離型性および離ロール性を有する樹脂組成物を提供する。
【0092】
(iv)紫外線吸収剤
本発明の樹脂組成物は紫外線吸収剤を含有することができる。本発明の樹脂組成物は透明性に優れることから光を透過させる用途において極めて好適である。
本発明の紫外線吸収剤としては、具体的にはベンゾフェノン系では、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシトリハイドライドレイトベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンソフェノン、および2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノンなどが例示される。
【0093】
紫外線吸収剤としては、具体的に、ベンゾトリアゾール系では、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)、および2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾ−ル、並びに2−(2’−ヒドロキシ−5−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体や2−(2’―ヒドロキシ−5−アクリロキシエチルフェニル)―2H―ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体などの2−ヒドロキシフェニル−2H−ベンゾトリアゾール骨格を有する重合体などが例示される。
【0094】
紫外線吸収剤としては、具体的に、ヒドロキシフェニルトリアジン系では、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−メチルオキシフェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−エチルオキシフェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−プロピルオキシフェノール、および2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ブチルオキシフェノールなどが例示される。さらに2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノールなど、上記例示化合物のフェニル基が2,4−ジメチルフェニル基となった化合物が例示される。
紫外線吸収剤としては、具体的に環状イミノエステル系では、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、および2,2’−(2,6−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などが例示される。
また紫外線吸収剤としては、具体的にシアノアクリレート系では、1,3−ビス−[(2’−シアノ−3’,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパン、および1,3−ビス−[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]ベンゼンなどが例示される。
【0095】
さらに紫外線吸収剤は、ラジカル重合が可能な単量体化合物の構造をとることにより、かかる紫外線吸収性単量体および/またはヒンダードアミン構造を有する光安定性単量体と、アルキル(メタ)アクリレートなどの単量体とを共重合したポリマー型の紫外線吸収剤であってもよい。上記紫外線吸収性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルのエステル置換基中にベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格、トリアジン骨格、環状イミノエステル骨格、およびシアノアクリレート骨格を含有する化合物が好適に例示される。
上記の中でも紫外線吸収能の点においてはベンゾトリアゾール系およびヒドロキシフェニルトリアジン系が好ましく、耐熱性や色相(透明性)の点では、環状イミノエステル系およびシアノアクリレート系が好ましい。紫外線吸収剤は単独であるいは2種以上の混合物で用いてもよい。
紫外線吸収剤の含有量は、100重量部のA成分を基準として0.01〜2重量部、好ましくは0.03〜2重量部、より好ましくは0.02〜1重量部、更に好ましくは0.05〜0.5重量部である。
【0096】
(v)染顔料
本発明の樹脂組成物は更に各種の染顔料を含有し多様な意匠性を発現する成形品を提供できる。本発明の樹脂組成物は透明性に優れることから光を透過させる用途において極めて好適である。したがって例えば蛍光増白剤を配合することにより、本発明の樹脂組成物に更に高い光透過性や自然な透明感を付与すること、並びに蛍光増白剤やそれ以外の発光をする蛍光染料を配合することにより、発光色を生かした更に良好な意匠効果を付与することができる。また極微量の染顔料による微妙な着色のなされ、かつ高い透明性を有する樹脂組成物もまた提供可能である。
【0097】
本発明で使用する蛍光染料(蛍光増白剤を含む)としては、例えば、クマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、ペリレン系蛍光染料、アンスラキノン系蛍光染料、チオインジゴ系蛍光染料、キサンテン系蛍光染料、キサントン系蛍光染料、チオキサンテン系蛍光染料、チオキサントン系蛍光染料、チアジン系蛍光染料、およびジアミノスチルベン系蛍光染料などを挙げることができる。これらの中でも耐熱性が良好でポリカーボネート樹脂の成形加工時における劣化が少ないクマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、およびペリレン系蛍光染料が好適である。
【0098】
上記ブルーイング剤および蛍光染料以外の染料としては、ペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、アンスラキノン系染料、チオキサントン系染料、紺青等のフェロシアン化物、ペリノン系染料、キノリン系染料、キナクリドン系染料、ジオキサジン系染料、イソインドリノン系染料、およびフタロシアニン系染料などを挙げることができる。更に本発明の樹脂組成物はメタリック顔料を配合してより良好なメタリック色彩を得ることもできる。メタリック顔料としては、各種板状フィラーに金属被膜または金属酸化物被膜を有するものが好適である。
上記の染顔料の含有量は、100重量部のA成分を基準として、0.00001〜1重量部が好ましく、0.00005〜0.5重量部がより好ましい。
【0099】
(vi)その他の熱安定剤
本発明の樹脂組成物には、上記のリン系安定剤およびヒンダードフェノール系酸化防止剤以外の他の熱安定剤を配合することもできる。かかるその他の熱安定剤は、これらの安定剤および酸化防止剤のいずれかと併用されることが好ましく、特に両者と併用されることが好ましい。かかる他の熱安定剤としては、例えば3−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンとの反応生成物に代表されるラクトン系安定剤(かかる安定剤の詳細は特開平7−233160号公報に記載されている)が好適に例示される。かかる化合物はIrganox HP−136(商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)として市販され、該化合物を利用できる。更に該化合物と各種のホスファイト化合物およびヒンダードフェノール化合物を混合した安定剤が市販されている。例えば上記社製のIrganox HP−2921が好適に例示される。本発明においてもかかる予め混合された安定剤を利用することもできる。ラクトン系安定剤の配合量は、100重量部のA成分を基準として、好ましくは0.0005〜0.05重量部、より好ましくは0.001〜0.03重量部である。
【0100】
またその他の安定剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、およびグリセロール−3−ステアリルチオプロピオネートなどのイオウ含有安定剤が例示される。かかる安定剤は、樹脂組成物が回転成形に適用される場合に特に有効である。かかるイオウ含有安定剤の配合量は、100重量部のA成分を基準として好ましくは0.001〜0.1重量部、より好ましくは0.01〜0.08重量部である。
【0101】
(vii)光高反射用白色顔料
本発明の樹脂組成物には、光高反射用白色顔料を配合して光反射効果を付与することができる。かかる白色顔料としては二酸化チタン(特にシリコーンなど有機表面処理剤により処理された二酸化チタン)顔料が特に好ましい。かかる光高反射用白色顔料の含有量は、100重量部のA成分を基準として3〜30重量部が好ましく、8〜25重量部がより好ましい。尚、光高反射用白色顔料は2種以上を併用することができる。
【0102】
(viii)その他の添加剤
本発明の樹脂組成物には、A成分およびB成分以外の熱可塑性樹脂、その他の流動改質剤、抗菌剤、流動パラフィンの如き分散剤、光触媒系防汚剤、熱線吸収剤およびフォトクロミック剤などを配合することができる。
【0103】
A成分およびB成分以外の熱可塑性樹脂としては、芳香族ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(いわゆるPET−G樹脂)、ポリエチレンナフタレート樹脂、およびポリブチレンナフタレート樹脂など)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂)、環状ポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、熱可塑性フッ素樹脂(例えばポリフッ化ビニリデン樹脂に代表される)、並びにポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂など)が例示される。
【0104】
(樹脂組成物の製造)
本発明の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えばA成分〜E成分および任意に他の添加剤を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどによりかかる予備混合物の造粒を行い、その後ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練し、その後ペレタイザーによりペレット化する方法が挙げられる。
【0105】
他に、各成分をそれぞれ独立にベント式二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法や、各成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法なども挙げられる。各成分の一部を予備混合する方法としては例えば、A−1成分以外の成分を予め予備混合した後、A−1成分のポリカーボネート樹脂に混合または押出機に直接供給する方法が挙げられる。
予備混合する方法としては例えば、A−1成分としてパウダーの形態を有するものを含む場合、かかるパウダーの一部と配合する添加剤とをブレンドしてパウダーで希釈した添加剤のマスターバッチを製造し、かかるマスターバッチを利用する方法が挙げられる。更に一成分を独立に溶融押出機の途中から供給する方法なども挙げられる。尚、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融押出機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。
【0106】
押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
溶融混練機としては二軸押出機の他にバンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、3軸以上の多軸押出機などを挙げることができる。
【0107】
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にかかるペレットの製造においては、光学ディスク用ポリカーボネート樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の低減、運送または輸送時に発生する微小粉の低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を適宜行うことができる。これらの処方により成形のハイサイクル化、およびシルバーの如き不良発生割合の低減を行うことができる。
【0108】
またペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0109】
また、あらかじめ本発明の高濃度のD成分を含有するようA−1成分とD成分とを溶融混練機で溶融混練しペレット化したマスターペレットを製造し、かかるマスターペレットを残りのA−1成分およびその他の添加剤と混合し溶融混練機でペレット化する方法が挙げられる。
本発明の樹脂組成物は、厚さ1.4mmの成形品において、UL94規格の難燃レベルV−0を達成する。
【0110】
(成形品)
本発明は、上記樹脂組成物より形成された成形品を包含する。本発明における樹脂組成物は、通常上述の方法で得られたペレットを射出成形して成形品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0111】
また本発明の樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物を回転成形やブロー成形などにより成形品とすることも可能である
本発明の樹脂組成物が利用される成形品の具体例としては、OA機器や家電製品の内部部品やハウジングなどへの応用に好適なものである。これらの製品としては例えば、パソコン、ノートパソコン、CRTディスプレー、プリンター、携帯端末、携帯電話、コピー機、ファックス、記録媒体(CD、CD−ROM、DVD、PD、FDDなど)ドライブ、パラボラアンテナ、電動工具、VTR、テレビ、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器、電子レンジ、音響機器、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器、照明機器、冷蔵庫、エアコン、タイプライター、ワードプロセッサーなどを挙げることができ、これらの筐体などの各種部品に本発明の難燃性樹脂組成物から形成された樹脂製品を使用することができる。またその他の樹脂製品としては、ディフレクター部品、カーナビゲーション部品、カーステレオ部品などの車両用部品を挙げることができる。
【0112】
(難燃剤)
本発明は、下記式(1)で示される芳香族基の含有率が20〜60重量%、平均重合度が3〜20、かつ実質的に分子構造中にSi−H結合を含有しないシリコーン化合物(B成分)および有機金属塩系難燃剤(C成分)よりなり、混合重量比がB成分:C成分=95:50〜5:50である難燃剤を包含する。
【0113】
【化6】

【0114】
(式中、Xはそれぞれ独立に、OH基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基および炭素数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる基を示す。mは0〜5の整数を表わす。更にmが2以上の場合はそれぞれ互いに異なる種類のXを取ることができる。)
【実施例】
【0115】
以下に実施例をあげて本発明を更に説明する。なお、特に説明が無い限り実施例中の部は重量部、%は重量%である。なお、評価は下記の方法によって実施した。
(樹脂組成物の評価)
(i)難燃性
アンダーライターラボラトリーズインコーポレーションのブレチン94“材料分類のための燃焼試験”(UL94)に示される試験方法に従って測定した。厚み1.4mmの5個の試験片を用いて試験した。1個の試験片について、10秒の接炎の後に燃焼時間(消火までの時間)を測定する操作を2回繰り返した。難燃性をV−0、V−1、V−2に分類した。UL94についての各Vの分類基準は、概略以下の通りである。
(1)V−0:10秒接炎後の燃焼時間が10秒以下であり、5本の合計燃焼時間が50秒以下、かつ、全試験片とも脱脂綿に着火するような微粒炎を落下しない。
(2)V−1:10秒接炎後の燃焼時間が30秒以下であり、5本の合計燃焼時間が250秒以下、かつ、全試験片とも脱脂綿に着火するような微粒炎を落下しない。
(3)V−2:10秒接炎後の燃焼時間が30秒以下であり、5本の合計燃焼時間が250秒以下、かつ、これらの試験片から落下した微粒炎から脱脂綿に着火する。
(4)NG:上記いずれの燃焼時間にも該当せず、燃焼が継続した場合。
なお、難燃性のランクは、V−0クラスが好ましい。
(ii)耐熱性
ISO 75−1および75−2に従い、荷重たわみ温度を測定した。なお、測定荷重は1.80MPaで実施した。
(iii)成型加工性
流路厚2mm、流路幅8mmのアルキメデス型スパイラルフローの金型を使用して、射出成形した場合のスパイラルフロー長を測定し成形加工性の評価を実施した。なお、評価条件は、シリンダー温度280℃、金型温度70℃、射出圧力98.1MPaで、射出成形機は住友重機械工業(株)製SG150Uを使用した。
【0116】
[実施例1〜16、比較例1〜10]
表1に示す組成で、その他成分(FR−2のリン酸エステルの場合のみ)を除く成分からなる混合物を押出機の第1供給口から供給した。かかる混合物は次の(i)の予備混合物と他の成分とをV型ブレンダーで混合して得た。
すなわち、(i)D成分(含フッ素滴下防止剤)とA−1成分の芳香族ポリカーボネートとの混合物であってE成分がその2.5重量%となるようポリエチレン袋中で該袋全体を振り動かすことで均一に混合された混合物である。更にその他の成分のFR−2は、80℃に加熱した状態で液注装置(富士テクノ工業(株)製HYM−JS−08)を用いてシリンダー途中の第2供給口(第1供給口とベント排気口との間に位置)から、各々所定の割合になるよう押出機に供給した。液注装置は一定量を供給する設定とし、その他の原料の供給量は計量器[(株)クボタ製CWF]により精密に計測された。押出は径30mmφのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所TEX30α−38.5BW−3V)を使用し、スクリュー回転数180rpm、吐出量20kg/h、ベントの真空度3kPaで溶融混練しペレットを得た。なお、押出温度については、第1供給口からダイス部分まで280℃で実施した。
得られたペレットの一部は、100〜110℃で6時間熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機を用いて、各規定(UL94、ISO75−1および75−2)に準拠した評価用の試験片を成形した。
【0117】
表1中記号表記の各成分は下記の通りである。
(A−1成分)
A−1:芳香族ポリカーボネート樹脂[ビスフェノールAとホスゲンから常法によって作られた粘度平均分子量19,700のポリカーボネート樹脂粉末、帝人化成(株)製 パンライトL−1225WX]
(A−2成分)
A−2:スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体(日本エイアンドエル(株)製 クララスチック GA−704(商品名))
A−3:スチレン−アクリロニトリル共重合体(第一毛織製 HF5670(商品名) Mw=95,000)
(B成分)
B−1:メチル基および芳香族基のみを含有する、芳香族基量が43重量%、平均重合度nが14のシリコーン化合物。
B−2:メチル基および芳香族基のみを含有する、芳香族基量が32重量%、平均重合度nが5のシリコーン化合物。
B−3:メチル基および芳香族基のみを含有する、芳香族基量が43重量%、平均重合度nが22のシリコーン化合物。
B−4:メチル基および芳香族基のみを含有する、芳香族基量が17重量%、平均重合度nが9のシリコーン化合物。
B−5:メチル基および芳香族基のみを含有する、芳香族基量が62重量%、平均重合度nが30のシリコーン化合物。
(C成分)
C:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(大日本インキ化学工業(株)製 メガファックF−114P(商品名))
(D成分)
D−1:ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)製 ポリフロンMP FA500(商品名))
D−2:PMMAとポリテトラフルオロエチレンの混合物(三菱レイヨン(株)製 メタブレン A3800(商品名)、ポリテトラフルオロエチレン量70重量%含有)
(E成分)
E−1:マスコバイト((株)山口雲母工業所製;A−41(商品名))
E−2:タルク(林化成(株)製;HST0.8(商品名))
E−3:ワラストナイト(清水工業(株)製;H−1250F(商品名))
(その他の成分)
FR−1:Si−H基とメチル基およびフェニル基を含有する有機シロキサン系難燃剤(信越化学工業(株)製 X−40−2600J(商品名))
FR−2:ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル(大八化学工業(株)製:CR−741(商品名))
DC30M:α−オレフィンと無水マレイン酸との共重合によるオレフィン系ワックス(三菱化学(株)製;ダイヤカルナ30M(商品名))
SL900:脂肪酸エステル系離型剤(理研ビタミン(株)製;リケマールSL900(商品名))
TMP:ホスフェート系熱安定剤(大八化学工業(株)製;TMP(商品名))
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
上記表から本発明の特定構造を有するシリコーン化合物を特定量添加することにより、耐熱性、難燃性を低下させずに優れた成型加工性を得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の難燃性樹脂組成物は、薄肉領域での難燃性、耐熱性、リサイクル性および成形加工性に優れ、OA用途、その他の各種分野において幅広く有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1成分)100〜70重量%およびスチレン系樹脂(A−2成分)30〜0重量%からなる樹脂成分(A成分)100重量部に対して、
(i)下記式(1)で示される芳香族基の含有率が20〜60重量%、平均重合度が3〜20、かつ実質的に分子構造中にSi−H結合を含有しないシリコーン化合物(B成分)0.01〜5重量部、
(ii)有機金属塩系難燃剤(C成分)0.001〜0.3重量部、および
(iii)含フッ素滴下防止剤(D成分)0.01〜5重量部、
を含有する難燃性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Xはそれぞれ独立に、OH基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基および炭素数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる基を示す。mは0〜5の整数を表わす。更にmが2以上の場合はそれぞれ互いに異なる種類のXを取ることができる。)
【請求項2】
A−1成分がビスフェノールA由来の芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
A成分が芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1成分)99〜70重量%およびスチレン系樹脂(A−2成分)30〜1重量%からなる請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
A−2成分が、ABS樹脂およびAS樹脂からなる群より選択される少なくとも一種のスチレン系樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
C成分が、含フッ素有機金属塩化合物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
C成分が、パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩である請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
D成分が、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
無機充填材(E成分)をA成分100重量部に対し0.5〜50重量部含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
E成分が、マイカ(E−1成分)、タルク(E−2成分)およびワラストナイト(E−3成分)から選択される少なくとも1種の無機充填材である請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
厚さ1.4mmの成形品において、UL94規格の難燃レベルV−0を達成する請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物より形成された成形品。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物より形成されたシート。
【請求項13】
下記式(1)で示される芳香族基の含有率が20〜60重量%、平均重合度が3〜20、かつ実質的に分子構造中にSi−H結合を含有しないシリコーン化合物(B成分)および有機金属塩系難燃剤(C成分)よりなり、混合重量比がB成分:C成分=95:50〜5:50である難燃剤。
【化2】

(式中、Xはそれぞれ独立に、OH基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基および炭素数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる基を示す。mは0〜5の整数を表わす。更にmが2以上の場合はそれぞれ互いに異なる種類のXを取ることができる。)

【公開番号】特開2010−174121(P2010−174121A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17590(P2009−17590)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】