説明

難燃電線・ケーブル

【課題】PVCに匹敵する難燃性を有し、かつ、機械的特性も良好なノンハロゲンの難燃被覆材料を用いた環境保全性の高い難燃電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】導体外周に、エチレン系ポリマー、例えばエチレン・酢酸ビニル共重合体を主体とするノンハロゲン難燃性被覆を備えた難燃電線・ケーブルであって、前記ノンハロゲン難燃性被覆は、エチレン系ポリマー100重量部に対し、加熱膨張性黒鉛3〜30重量部を含有するノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃層を有する難燃電線・ケーブルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン難燃材料を被覆した環境保全性の高い難燃電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル(PVC)は、絶縁特性が比較的良好なうえ、分子中にハロゲン(Cl)を含むため難燃性に優れており、さらに、耐油性、耐オゾン性、耐薬品性、耐水性なども良好であることから、電線・ケーブルの絶縁体やシース材料として広く用いられている。
【0003】
一方、近年、地球環境保護に対する意識が高まるなか、環境負荷の大きい材料の使用を規制しようとする動きが強まっており、上記PVCについても、火災時や焼却処理の際にハロゲンに起因する有害なハロゲンガスやダイオキシンを発生することから、その使用が制限されつつある。
【0004】
このため、PVCに代わる環境保全性の高い電線・ケーブル被覆用難燃材料、すなわち、ハロゲンを含有せず、燃焼時にハロゲンガスやダイオキシンなどの有害な物質が発生するおそれのないノンハロゲン難燃材料が強く求められている。
【0005】
このような電線・ケーブル被覆用ノンハロゲン難燃材料としては、可燃性のエチレン系ポリマー、例えばポリエチレンに、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物を多量に添加して難燃化したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、この組成物は、金属水酸化物の多量の添加によって、エチレン系ポリマー本来の優れた特性、特に機械的特性(例えば、引張強さ、伸びなど)が損なわれ、これを用いた電線・ケーブルは十分な要求特性を具備することができないという問題があった。
【特許文献1】特開2000−11765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、PVCに代わる環境保全性の高いノンハロゲンの電線・ケーブル被覆用難燃材料が求められているが、従来の可燃性のエチレン系ポリマーに、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物を添加して難燃化したものは、特に機械的特性が低下するという問題があった。
【0008】
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、PVCに匹敵する難燃性を有し、かつ、機械的特性も良好なノンハロゲンの難燃被覆材料を用いた環境保全性の高い難燃電線・ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、エチレン系ポリマーに対し、急速な加熱によってC軸方向(黒鉛のへき開面に直角な方向)に大きく膨張する加熱膨張性黒鉛を特定量配合したノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃層を有する被覆を設けることにより、従来のハロゲン系材料を用いた電線・ケーブルに匹敵する難燃性と機械的特性を備えたノンハロゲンの難燃電線・ケーブルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本願の請求項1に記載の発明の難燃電線・ケーブルは、導体外周に、エチレン系ポリマーを主体とするノンハロゲン難燃性被覆を備えた難燃電線・ケーブルであって、前記ノンハロゲン難燃性被覆は、エチレン系ポリマー100重量部に対し、加熱膨張性黒鉛3〜30重量部を含有するノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃層を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の難燃電線・ケーブルにおいて、前記ノンハロゲン難燃性被覆は、エチレン系ポリマー100重量部に対し、加熱膨張性黒鉛3〜30重量部とともに、赤燐系難燃剤3〜30重量部を含有するノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃層を有することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の難燃電線・ケーブルにおいて、エチレン系ポリマーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体およびエチレン・プロピレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の難燃電線・ケーブルにおいて、エチレン系ポリマーが、エチレン・酢酸ビニル共重合体を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の難燃電線・ケーブルにおいて、前記ノンハロゲン難燃性被覆は、前記難燃層と、その外周に設けられた加熱膨張性黒鉛を実質的に含有しない表面保護層とを有することを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の難燃電線・ケーブルにおいて、前記表面保護層は、引張強さが10MPa以上で、伸びが350%であることを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項2乃至4のいずれか1項記載の難燃電線・ケーブルにおいて、前記ノンハロゲン難燃性被覆は、前記難燃層と、その外周に設けられた加熱膨張性黒鉛および赤燐系難燃剤を実質的に含有しない表面保護層とを有することを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の難燃電線・ケーブルにおいて、前記表面保護層は、引張強さが10MPa以上で、伸びが350%であることを特徴とする。
【0018】
なお、上記引張強さおよび伸びは、JIS C 3005に準拠して測定された値である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の難燃電線・ケーブルによれば、従来のハロゲン系材料を用いた難燃電線・ケーブルに匹敵する良好な難燃性を具備することができ、かつ、機械的特性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明の難燃電線の一実施形態を示す横断面図、図2は、本発明の難燃ケーブルの一実施形態を示す横断面図である。
【0022】
図1に示す難燃電線10は、銅やアルミなどからなる導体1上に、ノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃絶縁層2を被覆した構成となっている。また、図2に示す難燃ケーブル20は、銅やアルミなどからなる導体1上に、ポリエチレンや架橋ポリエチレンなどの通常のノンハロゲンの絶縁性材料からなる絶縁層2Aを設け、さらに、その上に、ノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃シース3を被覆した構成となっている。
【0023】
難燃電線10の難燃絶縁層2および難燃ケーブル20の難燃シース3を構成するノンハロゲン難燃性組成物は、エチレン系ポリマー100重量部に対し、加熱膨張性黒鉛3〜30重量部を含有するものであり、好ましくは、さらに、赤燐系難燃剤3〜30重量部を含有するものである。
【0024】
エチレン系ポリマーとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・プロピレン共重合体(EP)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、ポリイソプチレンなどが例示される。また、メタロセン触媒によりエチレンにプロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィンや環状オレフィンなどを共重合させたものなども使用することができる。これらは単独または混合して使用される。本発明においては、なかでも、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体およびエチレン・プロピレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の使用が好ましく、特に、エチレン・酢酸ビニル共重合体の使用が、良好な機械的特性を得るうえで好ましい。
【0025】
加熱膨張性黒鉛は、鱗片状黒鉛を酸化処理することによって得られる黒色のフレーク状の物質で、急速に加熱したときにC軸方向(黒鉛のへき開面に直角な方向)に大きく膨張する性質を有するものである。具体的には、例えば、1000℃でC軸方向に100〜300倍に膨張するフレームカットGREP−EG(東ソー社製 商品名)などが使用される。
【0026】
この加熱膨張性黒鉛は、膨張時に個々の粒子が多孔質の炭化物を形成し、その炭化物が酸素の侵入および熱の伝導を遮断することにより難燃効果を発揮するものであるが、赤燐系難燃剤と併用することにより、それぞれの効果が相乗され、優れた難燃効果、延焼防止効果を発揮する。
【0027】
併用する赤燐系難燃剤としては、例えば、ノーバレッド120、ノーバエクセル140、ノーバクエルST100、ノーバクエルFST100(以上、燐化学工業社製 商品名)、ヒシガードCP−A15、ヒシガードTP−10、ヒシガードセーフPM−24、ヒシガードセーフPM−31(以上、日本化学工業社製 商品名)、Exolit RP 602、Exolit RP 605、Exolit RP 614(以上、Clariant社製 商品名)などが使用される。
【0028】
前述したように、これらの加熱膨張性黒鉛および赤燐系難燃剤は、エチレン系ポリマー100重量部に対し、いずれも3〜30重量部配合される。配合量が3重量部未満では自己消火性が得られず、また、逆に30重量部を超えると、引張強さや伸びなどの機械的特性が低下する。加熱膨張性黒鉛および赤燐系難燃剤の好ましい配合量は、エチレン系ポリマー100重量部に対し、いずれも5〜15重量部の範囲である。
【0029】
なお、難燃電線10の難燃絶縁層2および難燃ケーブル20の難燃シース3を構成するノンハロゲン難燃性組成物には、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱老化防止剤、加工助剤、滑剤、安定剤などの添加剤が配合されていてもよい。
【0030】
このように構成される難燃電線10、難燃ケーブル20においては、ハロゲンを含まないため、火災時や焼却処理の際にハロゲンガスやダイオキシンなどの有害物質を発生することがなく、しかも、従来のハロゲン系材料を用いたものに匹敵する優れた難燃性を有している。また、従来の金属水酸化物を添加して難燃化した材料を用いた場合のような機械的特性の低下もなく、電線・ケーブルに要求される十分な特性を有している。
【0031】
なお、本発明においては、図3および図4にそれぞれ示すように、図1に示す難燃電線10の最外層を構成する難燃絶縁層2、あるいは、図2に示す難燃ケーブル20の最外層を構成する難燃シース3の表面に、加熱膨張性黒鉛、あるいは、加熱膨張性黒鉛と赤燐系難燃剤を実質的に含有しないノンハロゲンの組成物により表面保護層4を形成するようにしてもよい。すなわち、図3に示す難燃電線30は、図1に示す難燃電線10において、ノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃絶縁層2上に、さらに表面保護層4を設けた例である。また、図4に示す難燃ケーブル40は、図2に示す難燃ケーブル20において、ノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃シース3上に、さらに表面保護層4を設けた例である。
【0032】
表面保護層4を形成するノンハロゲン組成物としては、前述したノンハロゲン難燃性組成物から加熱膨張性黒鉛、あるいは、加熱膨張性黒鉛と赤燐系難燃剤を除いたものが使用される。絶縁層10あるいはシース20を構成する組成物と、表面保護層4を構成とする組成物は、同種のものであっても異種のものであってもよいが、親和性や押出作業性の点から同種の材料を使用することが好ましい。
【0033】
このように表面保護層4を設けることより、難燃電線、難燃ケーブルの外観を向上させることができるとともに、引張強さ、伸びなどの機械的特性もさらに向上させることができる。すなわち、加熱膨張性黒鉛、あるいは、加熱膨張性黒鉛と赤燐系難燃剤を含有するノンハロゲンの組成物からなる難燃絶縁層2および難燃シース3は、ラメ入り様の黒乃至黒暗色を呈し外観が不良であるが、表面保護層4を設けることにより、そのような外観不良を解消することができる。また、加熱膨張性黒鉛、あるいは、加熱膨張性黒鉛と赤燐系難燃剤を含有しない層を設けることにより、加熱膨張性黒鉛、あるいは、加熱膨張性黒鉛と赤燐系難燃剤を含有する難燃絶縁層2あるいは難燃シース3を設けることによる機械的特性の低下を抑制することができる。
【0034】
なお、表面保護層4は、引張強さが10MPa以上で、伸びが350%であることが好ましく、また、その厚さは0.1〜0.5mm程度とすることが好ましい。表面保護層4の厚さが0.1mm未満では、外観および機械的特性の改善効果が小さく、また、0.5mmを超えると、難燃性、自己消火性が低下する。
【実施例】
【0035】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
実施例1〜4、比較例1〜4
エチレン・酢酸ビニル共重合体(三井デュポンポリケミカル社製 商品名 エバフレックスEY180)、膨張性黒鉛(東ソー社製 商品名 フレームカットGREP−EG;1000℃での膨張性180倍)、赤燐(燐化学工業社製 商品名 ノーバレッド120)および水酸化マグネシウム(協和化学工業社製 商品名 キスマ5A)を用い、表1に示す配合で各成分を均一に混練して難燃性樹脂組成物を得た。
【0037】
次いで、得られた難燃性樹脂組成物を、汎用の電線製造用押出成形機を用いて、1.8mmφの軟銅撚線導体(7本/0.6mmφ)上に0.8mm厚のポリエチレン絶縁層を設けた絶縁線心上に押出被覆して1.5mm厚のシースを形成し、外径6,4mmの難燃ケーブルを製造した。
【0038】
上記各実施例および各比較例で得られた難燃性樹脂組成物をプレス機にて180℃×
5分間、圧力20MPaの条件で加熱加圧成型して試験用シートを作製し、JIS C 3005に準拠して引張強さおよび伸びを測定した。また、JIS K 7201に基づき酸素指数を測定した。さらに、同様にして作製した試験用シート(6.5mm×150mm×1mm)について垂直燃焼試験を行い、着火(チリルバーナ(炎高さ19mm)を5秒間接炎)後の燃焼状況を評価した。これらの結果を表1下欄に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から明らかなように、実施例におけるシースは、自己消火性を有し、機械的特性(引張強さおよび伸び)も良好であった。これに対し、比較例では、自己消火性と良好な機械的特性をともに具備するものはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の難燃電線の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の難燃ケーブルの一実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の難燃電線の他の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の難燃ケーブルの他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1…導体、2…難燃絶縁層、3…難燃シース、4…表面保護層、10,30…難燃電線、20,40…難燃ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体外周に、エチレン系ポリマーを主体とするノンハロゲン難燃性被覆を備えた難燃電線・ケーブルであって、
前記ノンハロゲン難燃性被覆は、エチレン系ポリマー100重量部に対し、加熱膨張性黒鉛3〜30重量部を含有するノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃層を有することを特徴とする難燃電線・ケーブル。
【請求項2】
前記ノンハロゲン難燃性被覆は、エチレン系ポリマー100重量部に対し、加熱膨張性黒鉛3〜30重量部とともに、赤燐系難燃剤3〜30重量部を含有するノンハロゲン難燃性組成物からなる難燃層を有することを特徴とする請求項1記載の難燃電線・ケーブル。
【請求項3】
エチレン系ポリマーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体およびエチレン・プロピレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載の難燃電線・ケーブル。
【請求項4】
エチレン系ポリマーが、エチレン・酢酸ビニル共重合体を含むことを特徴とする請求項3記載の難燃電線・ケーブル。
【請求項5】
前記ノンハロゲン難燃性被覆は、前記難燃層と、その外周に設けられた加熱膨張性黒鉛を実質的に含有しない表面保護層とを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の難燃電線・ケーブル。
【請求項6】
前記表面保護層は、引張強さが10MPa以上で、伸びが350%であることを特徴とする請求項5記載の難燃電線・ケーブル。
【請求項7】
前記ノンハロゲン難燃性被覆は、前記難燃層と、その外周に設けられた加熱膨張性黒鉛および赤燐系難燃剤を実質的に含有しない表面保護層とを有することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項記載の難燃電線・ケーブル。
【請求項8】
前記表面保護層は、引張強さが10MPa以上で、伸びが350%であることを特徴とする請求項7記載の難燃電線・ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−59336(P2007−59336A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246393(P2005−246393)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】