説明

難着雪電線

【課題】難着雪リングを取り付けた電線や、電線の表面に撥水性塗料を塗布した電線といった従来の難着雪電線の課題であった、降雪により電線自体が回転して電線上に筒状に着雪してしまうという問題や、長期間の使用により電線表面が汚れてしまい、難着雪効果が低下してしまうという課題を解決し、難着雪効果に優れる電線を提供する。
【解決手段】無機コロイド分散液を塗布、乾燥して形成される無機物層を最外層に有することを特徴とする難着雪電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空電線の着雪軽減を図った難着雪電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から架空電線への着雪防止対策として、種々の方法が提案されている。例えば難着雪リングを取り付けた電線や、電線表面の着雪を円周方向に滑らせるようにヒレを取り付けた電線が開示されている(特許文献1、2参照)。また、電線の表面に撥水性塗料を塗布した難着雪電線も知られている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平5−120919号公報
【特許文献2】特開平9−274813号公報
【特許文献3】特開2004−362988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記技術は、いずれもある程度の着雪防止効果はあるものの、未だ問題点を有している。例えば特許文献1や2に開示された電線では、雪質によっては電線自体が回転して電線上に筒状に着雪してしまうことがあった。また特許文献3に記載されている電線では、撥水性塗料の機能が汚れの蓄積などによって低下し、逆に着雪を促進してしまう場合すらあった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、かかる問題点を解決し、きわめて難着雪性に優れる難着雪電線を提供するものである。
すなわち本発明は、無機コロイド分散液を塗布、乾燥して形成される無機物層を最外層に有することを特徴とする難着雪電線である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の難着雪電線は、きわめて難着雪性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明における電線とは、硬銅より線、硬アルミより線、鋼心アルミより線系電線、アルミ覆鋼より線などの標準電線や、鋼心耐熱アルミ合金より線、鋼心アルミ合金より線形電線などの増容量・弛度抑制電線を包含する。
【0007】
本発明において無機物層を形成するための無機コロイド分散液中の無機コロイドとしては、公知の無機コロイドを用いることができ、例えば金属コロイド、金属酸化物コロイド、金属水酸化物コロイド、金属炭酸塩コロイド、金属硫酸塩コロイドなどが挙げられる。金属コロイドの金属元素としては、金、パラジウム、白金、銀などが例示される。金属酸化物コロイド、金属水酸化物コロイド、金属炭酸塩コロイド、金属硫酸塩コロイドに含まれる金属元素としては、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、鉄、セリウム、ニッケル、スズなどが例示される。本発明では、無機コロイドを1種類で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。とりわけ金属酸化物コロイドまたは金属水酸化物コロイドを用いること好ましく、特に、酸化ケイ素コロイド、水酸化ケイ素コロイド、酸化アルミニウムコロイド、水酸化アルミニウムコロイドから選択して用いることが好ましい。
【0008】
本発明で用いる無機コロイド分散液中の無機コロイドの平均粒径は、1〜300nmの範囲にあることが好ましく、3〜200nmであることがより好ましく、5〜100nmであることがさらに好ましい。このような粒径の無機コロイドを用いて形成される無機物層は、膜強度に優れるものとなる。なお、前記無機コロイドの平均粒径とは、JIS R 1626(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)またはJIS Z 8830(気体吸着による粉体の比表面積測定方法)に記載の方法により測定されたBET比表面積から、球相当法の換算により求められる値である。また、該無機コロイドのTEM観察によって求めることもできる。
【0009】
本発明で用いる無機コロイド分散液は、樹脂バインダーなどの塗膜形成成分を含まない。通常塗膜形成成分として用いられる、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂などを含む塗料を使用すると、難着雪性効果が低減してしまう。
【0010】
無機コロイド分散液を塗布し、乾燥することにより形成される無機物層の厚みは、100〜1000nmの範囲であることが好ましく、150〜500nmであることが特に好ましい。このような厚みの無機物層を形成することにより、膜強度に優れ、かつ難着雪性にも優れる難着雪電線とすることができる。
【0011】
本発明における無機コロイド分散液において、無機コロイドが分散されてなる分散媒としては特に制限は無く、通常のコロイド分散媒として用いられる水、有機溶媒など各種の分散媒を用いることができる。なお、環境負荷低減の観点から、分散媒としては水が特に好ましい。
【0012】
本発明の難着雪電線の製造方法としては、導電素線を撚り合わせた送電線本体の最外層の導体素線間に下地材を充填して電線外周を凹凸のない円筒面とした上に、無機コロイドを含む塗料を塗布、乾燥して無機物層を形成する方法や、外層を合成樹脂によって被覆された電線の表面に無機コロイドを含む塗料を塗布し乾燥する方法、合成樹脂製フィルムの一方の表面に無機コロイドを含む塗料を塗布、乾燥して無機物層を形成した後、該合成樹脂製フィルムを無機物層が最外層となるようにして電線を被覆する方法によって得ることができる。
【0013】
電線の表面に無機コロイド分散液を塗布する方法としては、スプレー法や、刷毛塗りする方法、塗料中に電線を浸漬する方法等が挙げられる。前記塗料を塗布した後の乾燥方法および乾燥条件は、無機コロイドを含む塗料の分散媒の蒸気圧や電線の表面積、表面凹凸などに応じて適宜選択することができる。
【0014】
本発明の難着雪電線は、最外層に無機コロイド由来の無機物層を有する。このような無機物層は親水性や防汚性に優れるため、難着雪性が発現する。さらに、無機コロイド由来の無機物層であるため耐候性や耐熱性に優れ、長期間に渡って難着雪性が持続するといった効果を奏する。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例にもとづき説明する。なお本実施例では、無機コロイド由来の無機物層を最外層に有する電線の着雪を再現するために、以下のモデルを用いた。着雪効果は、電線の最表面の性質に因るものであるため、以下のようにモデル化しても、その効果の良否判断は可能である。
【0016】
<架空電線の着雪性評価モデル>
架空電線:熱可塑性樹脂フィルムをもって架空電線のモデルとする。
着雪性:降雪地域の降雪時期において、架空電線のモデルとした熱可塑性樹脂フィルムを屋外暴露試験に供して、熱可塑性フィルム表面における着雪の状況を評価した。実施例では、無機コロイド由来の無機物層を最外層に有する熱可塑性樹脂フィルムを用い、比較例では、ポリエチレン樹脂層を最外層に有する熱可塑性樹脂フィルムを用いた。
【0017】
<フィルム前処理用組成物の調整>
水100重量部に対し、コロイダルアルミナ1.84重量部(商品名:アルミナゾル520、固形分濃度20重量%;日産化学工業社性を使用)、コロイダルシリカ0.49重量部(商品名:スノーテックス20、固形分濃度20重量%;日産化学工業社製を使用)、カプリル酸ナトリウム(試薬;東京化成社製)0.013重量部、p−トルエンスルホン酸ナトリウム(試薬;ナカライテスク社製)0.002重量部および無機層状化合物(商品名:スメクトンSA;クニミネ工業社製)を0.09重量部となるように調整して、フィルム前処理用組成物とした。
【0018】
<無機コロイド分散液の調整>
コロイダルシリカ水分散液A(商品名:スノーテックス−ZL、平均粒子径70nm、固形分濃度40重量%;日産化学工業社製)25重要%と、コロイダルシリカ水分散液B(商品名:スノーテックス−XS、平均粒子径5nm、固形分濃度20重量%;日産化学工業社製)15重量%と、水60重量%とを調合し、スノーテックス−ZL由来の固形分が10重量%、スノーテックス−XS由来の固形分が3重量%となるようにして無機コロイド分散液を調整した。
【0019】
<熱可塑性樹脂フィルムの製造>
以下の組成のA層、B層、C層が積層された、厚み比が2(A層)/6(B層)/2(C層)、総厚みが約90μmのフィルムを、加工温度150℃にて、C層が内層となるようにして共押出インフレーション成形法により作製し、ダイスから押出された筒状物を、C層面同士をロールで熱圧着させて、A層を両面に有する厚み180μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た(3種6層の形態を有する。熱圧着したC層は2層と数える。)。
A層:エチレン/ヘキセン−1共重合体A(商品名:スミカセンE SP2020、組成分布変動係数Cx=0.35、Mw/Mn=3.4、メルトフローレート1.5g/10分、密度0.919g/cm3;住友化学株式会社製)75重量%、ポリエチレン樹脂(商品名:スミカセンF208−0、メルトフローレート1.5g/10分、密度0.922g/cm3;住友化学株式会社製)24.3重量%、光安定剤としてヒンダードアミン系化合物(商品名:キマソーブ944−LD;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.4重量%とヒンダードアミン系化合物(商品名:チヌビン622−LD;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.2重量%および酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%
B層:エチレン/ヘキセン−1共重合体B(商品名:エクセレンFX CX2001、組成分布変動係数Cx=0.25、Mw/Mn=1.8、メルトフローレート2g/10分、密度0.898g/cm3;住友化学株式会社製)86.8重量%、界面活性剤としてジグリセリンセスキオレート(室温で液状かつ水溶性)0.7重量%、無機フィラーとしてリチウムアルミニウム複合水酸化物(商品名:フジレイン;富士化学工業社製)12重量%、光安定剤としてヒンダードアミン系化合物(商品名:チヌビンNOR371;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.4重量%および酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%
C層:エチレン/ヘキセン−1共重合体C(商品名:エクセレンFX CX3005、組成分布変動係数Cx=0.25、Mw/Mn=1.8、メルトフローレート4g/10分、密度0.887g/cm3;住友化学株式会社製)99.5重量%、光安定剤としてヒンダードアミン系化合物(商品名:チヌビンNOR371;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.4重量%および酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%
【0020】
<無機物層の形成>
熱可塑性樹脂フィルムの製造と一貫した工程において、上記熱可塑性樹脂フィルムの両面に、コロナ処理を施した後、前記フィルム前処理用組成物を、マイヤーバーを用いて熱可塑性樹脂フィルムの両面に塗布して乾燥し、フィルムの前処理として塗膜を形成した。マイヤーバーとしては、線径0.2mmφのワイヤー巻き、バー長さ4500mm、バー径16mmφのものを用いた。また、前記塗膜の厚みは、乾燥重量厚みが0.2g/m2となるように調整して塗布した。乾燥条件は、ドライヤーの風温60℃、風速18m/秒であった。
さらに、上記前処理工程と連続した工程において、無機コロイド分散液を、プレーンバーを用いて塗布し、乾燥して、無機コロイド由来の無機物層を最外層に有する熱可塑性樹脂フィルムを得た。
プレーンバーとしては、表面粗さ(最大径と最小径の差)6μm以下、バー長さ4500mm、バー径16mmφのものを用いた。また、無機コロイド由来の無機物層の厚みは、乾燥重量厚みが、0.2g/m2となるように調整して塗布した。乾燥条件は、ドライヤーの風温60℃、風速18m/秒であった。
【0021】
<熱可塑性樹脂フィルムの暴露試験>
前記熱可塑性樹脂フィルムを、札幌市清田区農業研究センター構内の試験ハウス(東西方向の長辺が24m、間口が7.2mの農業用ハウスを、独立棟として南北に配置)を用い、実施例(無機物層を積層したフィルム)を北棟に、比較例(無機物層のないフィルム)を南棟に各々展張して暴露試験を開始した。(暴露開始日:平成17年11月18日)
<着雪の評価>
着雪の状況を目視で観察した。観察日時は、平成18年1月25日12時であった。
比較例のフィルムを展張した南棟ハウスでは、南側斜面において一部積雪層に割れが発生しているものの、屋根全体の面積の内90%以上が雪で覆われたままであった。一方、実施例のフィルムを展張した北棟ハウスでは、南側斜面だけでなく屋根全体において積雪層に割れが生じた結果、全面的に滑雪が始まっており、屋根全体の面積の内、雪で覆われた部分は50%未満であった。
参考までに、暴露開始から、観察日までの試験地域(札幌市)における積雪量の気象庁記録を表1に示す。
上記の結果から、実施例と比較例との難着雪効果の差異は明らかであり、実施例である無機コロイド由来の無機物層を最外層に有する熱可塑性樹脂フィルム(架空電線モデル)では、優れた難着雪効果があった。
【0022】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機コロイド分散液を塗布、乾燥して形成される無機物層を最外層に有することを特徴とする難着雪電線。