説明

雪崩荷重抵抗堤体の設計方法

【課題】様々な荷重や衝撃パターンを持つ雪崩に対応可能な、堤体の設計方法を提供する。
【解決手段】堤体1の内部には、上下に適宜間隔をおいて、網状補強材2をほぼ水平方向に複数枚配置する。堤体1の山側斜面には、その全面を覆う例えばコンクリート製の硬質受撃版3を形成する。雪崩4の衝撃力や作用力を求め、堤体1の構造諸元を仮定し、堤体1の構造を仮定し、硬質受撃版3の最下端から一定角度φ1のすべり面を仮定する。堤体1のすべり面に沿って滑ようとするすべり力を求め、堤体1の荷重と補強材2によって生ずる抵抗力を求め、抵抗力とすべり面の比から安全率を求め、その安全率が所定値以上となるように堤体1を設計する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雪崩によって作用する荷重に抵抗する雪崩荷重抵抗用の堤体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雪崩の保有する荷重や運動エネルギーに抵抗する技術として、斜面下に堤体を形成し、この堤体の山側斜面全面を例えばコンクリート製の硬質の受撃体で覆い、この堤体でもって、斜面を落下してくる雪崩の荷重を受け止める方法が提案されている。
【0003】
斜面を落下してきた雪崩の荷重や衝撃力が、これを堰き止める堤体に作用する力としては、様々なパターンが存在する。図4に示すのは、斜面から押しつける積雪荷重(斜面雪圧)が、堤体によってせき留められ、長期的に荷重として作用している場合である。図5に示すのは、全層雪崩が発生し、斜面雪圧と全層雪崩の衝撃力が堤体に作用した状態を示している。図6に示すのは、表層雪崩が発生した場合を示し、このときは、斜面雪圧と表層雪崩の衝撃力が堤体に作用している。図7は地震時の作用力を示すもので、斜面雪圧と地震によって発生する慣性力が堤体に作用している。
【0004】
これら様々なパターンが示すように、雪崩を堰き止める堤体に作用する荷重や衝撃力は一様ではない。この様々なパターンの荷重や衝撃力が作用しても、破壊されることなく、安定した構造を維持することができる堤体を設計するのは極めて困難であった。特に、堤体として、様々な荷重や衝撃に耐え得る構造を一様に設計するための方法は、これまで創案されていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の問題点を解決するためになされたもので、雪崩によって発生する様々な荷重や衝撃力に対応して、これら荷重や衝撃にも耐え得る堤体を設計できる雪崩荷重抵抗堤体の設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる雪崩荷重抵抗堤体の設計方法は、
堤体内部に上下に適宜間隔をおいて、網状補強材をほぼ水平方向に複数枚配置し、堤体の山側斜面には、その全面を覆うコンクリート製などの硬質受撃版を形成した雪崩荷重抵抗堤体の設計方法において、
雪崩の衝撃力や作用力を求め、
堤体の構造諸元を仮定し、
硬質受撃版の最下端から一定角度のすべり面を仮定し、
すべり面上の堤体一部が、すべり面に沿って滑動しようとするすべり力を求め、
すべり面上の堤体の荷重と補強材によって生ずる抵抗力を求め、
抵抗力とすべり力の比から安全率を求め、
安全率が所定値以上となるように堤体の構造を決定するものである。
【0007】
また、前記した方法の他に、
堤体の構造諸元を仮定した後に、
先に、堤体の転倒及び滑動の安全率と、支持地盤の支持力を照査し、
不十分であるときは、すべり面の仮定を行うプロセスに進まず、再度構造諸元の仮定を行うことも方法の一手段とするものである。
【0008】
また、前記した方法の中で、
硬質受撃版は、鉄筋コンクリート製とし、雪崩衝撃を受けた場合のコンクリート厚さと鉄筋量を、弾性床上の梁として算出することも方法の一手段とするものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明にかかる雪崩荷重抵抗堤体によれば、雪崩によって発生する様々な荷重や衝撃力が作用しても破壊されることなく、その荷重や衝撃力に抵抗して、安定した性能を保つようその安全率を求めることができ、予め雪崩の荷重・衝撃を想定して、その安全な構造を設計することができる。
【0010】
雪崩によって発生する荷重や衝撃力の様々なパターン(図4〜図7)に対応して、それに耐え得る構造をひとつの方法で設計でき、その設計方法が極めて簡易化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明に係る雪崩荷重吸収堤体の設計方法は、雪崩によるすべり力と、すべり抵抗力の比を安全率として求め、その許容値以上で、堤体を設計するものである。
【実施例】
【0012】
<イ>堤体の構造
図1に本発明に係る雪崩荷重吸収堤体1の例を示す。堤体1は、その断面形状が台形であって、斜面の山側には、落下物などの衝撃物を受け止める受撃版3を有している。堤体1の内部には、ほぼ水平面の方向に補強材2を上下に適宜間隔離して積層して配置してある。以下各部について詳述する。
【0013】
<ロ>堤体
堤体1は最終的に落下物などの衝撃物の運動エネルギーを支持する構造体で、盛土によって形成してある。堤体1の内部には、縦横に交差させて編んだ鋼線の芯材の周囲にアラミド繊維などの合成樹脂を被覆した網状構造材である補強材2を、階層的に埋設する等して形状の安定を図っておく。補強材2は、ほぼ水平面に敷くもので、複数枚を上下に適宜間隔をあけて配置する。間隔は、等間隔にするとより設計が容易になる。
【0014】
<ハ>受撃体
受撃版3は、雪崩の衝撃力に抵抗する板体であり、堤体1の山側斜面の全面を覆うように構築する。構築は、堤体1の山側斜面に沿って格子状の鉄筋を配筋し、その上にコンクリートを打設して行う。
【0015】
<ニ>設計フロー
図2に示すのは、雪崩荷重吸収堤体の設計手順のフロー図である。先ず、雪崩が堤体に及ぼす衝撃力や作用力を計算する。次に、堤体1の構造諸元を仮定する。この仮定の構造に基づいて、堤体1の外的安定照査を行う。外的安定照査条件が決定した後、内的安定照査条件を決定する。この条件に基づき、内的安定を照査し、安定すれば、設計を終了する。安全率を満たさなければ、再度、構造諸元を仮定しなおし、外的安定照査、内的安定照査をやり直し、安全率を満たすまで行う。
【0016】
<ホ>雪崩衝撃力・作用力の計算
堤体1に作用する雪崩4の衝撃力・作用力は、次の数式1によって求める。ここでγは雪崩の単位体積重量、Vは雪崩4の速度、hは雪崩の層厚、gは重力加速度を表わす。
【0017】
【数1】

【0018】
<ヘ>受撃体の設計
堤体1の雪崩4を受ける山側の面には、その全面にコンクリートの受撃体3を構築して覆う。受撃体3は、雪崩衝撃荷重を受けた場合に、弾性床上の梁として、コンクリート厚及び鉄筋量を算出する。コンクリートの設計基準強度は、σck=24N/mm2を標準とする。
【0019】
<ト>構造諸元の仮定
上で求めた雪崩4の衝撃力に基づいて、堤体1の構造諸元を仮定する。図2において、堤体1の天端幅B1、堤体の底盤幅B2、堤体を構成する土塊の単位体積重量γd、堤体1の高さH、堤体1の受働崩壊角φ1、受撃版3の勾配θ1、受撃裏面勾配θ2、外的作用力高さHs、補強材2の強度RTを決定する。次の表1に、堤体1高さ(擁壁高)H=4.0m、堤体天端幅B=1.5mとした時の、参考例を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
<チ>外的安定照査
上記のように構造諸元を仮定した堤体1につき、外的安定照査を行う。外的安定とは、堤体1全体の構造としての転倒・滑動・支持力について計算によって求めるもので、道路土工、擁壁工指針に基づいて行う。この外的安定計算は、堤体1及び受撃体3を含めた全体の形状で行う。転倒に対する安全率は、次の数式2及び数式3に基づいて行う。転倒に対する安全条件として、偏心距離eは、常時│e│≦B/6(m)、地震時│e│≦B/3(m)を満足するようにする。
【0022】
【数2】

【0023】
【数3】

【0024】
滑動に対する安全率は次の数式4によって求める。滑動に対する安全率Fsは、常時で1.5、地震時には1.2を下回らないようにする。
【0025】
【数4】

【0026】
支持地盤の支持力に対する安定も、道路土工、擁壁工指針に基づいて計算するもので、盛土部の地盤反力については、通常盛土荷重が均等に分布するものとし、盛土自重と同程度の地盤反力に対して支持地盤の支持力が安定であればよいものとする。地盤の支持力に対する安全率は、長期荷重に対する地盤の極限支持力がFs=2.0を満足するようにする。
【0027】
<リ>内的安定照査
内的安定とは、堤体1の局部的な安定を意味するもので、雪崩4による衝撃作用力と堤体1の自重による簡易すべり解析によって行う。内的安定は、堤体1のすべり面上の土塊重量と作用力の比から、すべり安全率を求めて照査する。すべり安全率の許容値は、Fs≧1.0とする。簡易すべり解析は、堤体1下端から発生するすべり面上の土塊重量と、作用力の比からすべり安全率を求めて照査を行う。この時の堤体1のすべり面角度φ1(受働崩壊角)は20度〜40度が好適である。次に示す数式5は、堤体1の有効断面の計算方法である。
【0028】
【数5】

【0029】
前記した数式5によって求めた有効断面から、堤体1の有効重量を導く。この式を次の数式6として記述する。
【0030】
【数6】

【0031】
上記で求めた堤体1の有効重量から、すべり抵抗力を求める。この式を次の数式7として記載する。
【0032】
【数7】

【0033】
雪崩によるすべり力は、次に記載する数式8によって求める。
【0034】
【数8】

【0035】
有効幅当りのすべり抵抗力は、次の数式9によって求める。
【0036】
【数9】

【0037】
このようにして導き出したすべり力とすべり抵抗力の比によって、堤体1の安全率を求める。この式を次の数式10に表わす。
【0038】
【数10】

【0039】
以上の計算によって、すべり安全率が1.0以上でなければ、再び構造諸元の仮定に戻り、堤体1の構造を仮定して、外的安定照査、内的安定照査を行い、安全率が1.0以上となるまで繰り返す。このような計算によって、堤体1が雪崩の荷重や衝撃力に対して安定を保つかどうかを照査して、その設計を行う。このようにして、雪崩の様々な荷重や衝撃パターンに対応可能な堤体1とする。
【0040】
内的安定照査の前に、外的安定照査を行って、転倒や滑動に対する安全率が満足できなければ、その段階で構造諸元の再仮定に戻って、再度計算し直すこともある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】堤体の断面図である。
【図2】堤体の設計フロー図である。
【図3】堤体のすべり面における作用力と抵抗力を示す概念図である。
【図4】堤体に作用する雪崩荷重を示す断面図である。
【図5】堤体に作用する雪崩荷重を示す断面図である。
【図6】堤体に作用する雪崩荷重を示す断面図である。
【図7】堤体に作用する雪崩荷重を示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1:堤体
2:補強材
3:受撃版
4:雪崩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤体内部に上下に適宜間隔をおいて、網状補強材をほぼ水平方向に複数枚配置し、堤体の山側斜面には、その全面を覆うコンクリート製などの硬質受撃版を形成した雪崩荷重抵抗堤体の設計方法において、
雪崩の衝撃力や作用力を求め、
堤体の構造諸元を仮定し、
硬質受撃版の最下端から一定角度のすべり面を仮定し、
当該すべり面上の堤体一部が、すべり面に沿って滑動しようとするすべり力を求め、
すべり面上の堤体の荷重と補強材によって生ずる抵抗力を求め、
抵抗力とすべり力の比から安全率を求め、
安全率が所定値以上となるように堤体の構造を決定することを特徴とする、
雪崩荷重抵抗堤体の設計方法。
【請求項2】
堤体の構造諸元を仮定した後に、堤体の転倒及び滑動の安全率と、支持地盤の支持力を照査し、不十分であるときは、再度構造諸元の仮定を行うことを特徴とする請求項1に記載の雪崩荷重抵抗堤体の設計方法。
【請求項3】
硬質受撃版は、鉄筋コンクリート製であって、雪崩衝撃を受けた場合のコンクリート厚さと鉄筋量を弾性床上の梁として算出した請求項1に記載の雪崩荷重抵抗堤体の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−88762(P2008−88762A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273328(P2006−273328)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(398054845)株式会社プロテックエンジニアリング (42)
【出願人】(000201490)前田工繊株式会社 (118)
【Fターム(参考)】