説明

雪崩防止装置及び方法

【課題】簡易な手法で雪崩防止機能を発揮できる雪崩防止装置及び雪崩防止方法を提供する。
【解決手段】積雪中に配置して雪崩を防止する技術であって、発熱する蓄熱体1と、積雪中に前記蓄熱体1を、地面に放置又は地面から隔離させ移動自由に配置するための支持手段2とにより構成した、雪崩防止装置を使用し、蓄熱体1により発生した熱が蓄熱体1の周囲を融雪して融雪部を形成することで、雪層3にシワを形成し、雪層3を乱す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雪崩を防止する装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の雪崩防止装置としては、剛性壁、ネット等の部材で物理的に抑止するという方式と、地熱と雪圧摩擦力を組み合わせた摩擦方式(特許文献1)が提案されている。
後者の方式を図7を参照して詳しく説明すると、斜面c上に有孔構造のパイプ杭aを設置し、このパイプ杭aの下端を地中に埋設して立設する。
熱源に地熱を利用してパイプ杭aの周囲の積雪bを溶かして空洞化させると共に、パイプ杭aの周辺雪層を溶かし雪圧方向を斜面cの接地方向に屈曲させることにより、積雪bと斜面cとの間の摩擦抵抗の増大を図って、雪崩の発生を防止しようとするものである。
【特許文献1】特開昭55−52408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記した従来の雪崩防止装置においては、次のような問題点がある。
<1> 物理的に抑止する方式にあっては、剛性の壁体やネット設置に鋼材やコンクリートなどの資材を大量に使用すると共に、設置コストがかさむという問題がある。また、急斜面や岩盤上に構築する場合はコスト面に加えて、土工事および基礎工事が技術的に難しい場合が多くある。
<2> 雪圧摩擦力を利用した方式において、設置コストがかかるのはもちろんのこと、実際には地熱の効果が予想より低く、パイプ杭a周辺にも雪が積ってしまうことが多く見られる。
<3> 雪圧摩擦力を利用した方式にあっては、図7(B)に示すように、斜面cに固定したパイプ杭aは雪圧を受けて、曲げ変形してしまったり、あるいは完全に抜け出てしまい、結果として十分な融雪効果を発揮できないものであった。
<4> 雪圧摩擦力を利用した方式において、地下に地熱を持った地域・範囲でしか使用できないという点が挙げられる。
【0004】
本発明は以上の点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、簡易な手法で以って雪崩防止機能を発揮できる雪崩防止装置及び雪崩防止方法を提供することにある。
さらに設置容易性と経済性に優れると共に、積雪の変位に追従して雪崩防止作用を維持可能な雪崩防止装置及び雪崩防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本願の第1発明に係る雪崩防止装置は、発熱する蓄熱体と、積雪中に前記蓄熱体を、地面に放置又は地面から隔離させ移動自由に配置するための支持手段とにより構成したものである。
本願の第2発明に係る雪崩防止装置は、前記した第1発明において、前記支持手段を、蓄熱体を移動自由に支持する支持柱で構成することを特徴とするものである。
本願の第3発明に係る雪崩防止装置は、前記した第1発明において、前記支持手段を、支柱と前記支柱に架け渡したロープとにより構成することを特徴とするものである。
本願の第4発明に係る雪崩防止方法は、雪崩を防止する方法であって、前記した第1発明乃至第3発明の何れに記載の雪崩防止装置を使用し、積雪中に配置し、蓄熱体の周囲を融雪して融雪部を形成し、前記融雪部により整った雪層にシワを形成して雪層を乱すことを特徴とするものである。
本願の第5発明に係る雪崩防止方法は、雪崩を防止する方法であって、地面に発熱する蓄熱体を載置し、前記蓄熱体により発生した熱が蓄熱体の周囲を融雪して融雪部を形成することを特徴とするものである。
本願の第6発明に係る雪崩防止方法は、前記した第4発明又は第5発明において、蓄熱体を積雪中に点在して配置したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
(i)積雪中の各雪層は、表面層や下部層など複数の層が積雪の時間的ずれにより形成され、これらの層同士の摩擦が低下、あるいは特定の層が重くなりすぎた場合に、雪崩が発生することになる。
本発明にあっては蓄熱体の熱により、蓄熱体の周囲に空洞や氷まじりのザラメ雪で構成される融雪部を形成して、雪層に強制的にシワを形成することで整った雪層を乱すことが可能となる。これにより層同士が複雑にからみあい、弱層が滑り出すことを防ぎ、雪崩の発生を効果的に抑えることができる。
(ii)蓄熱体は、地面に載置あるいは、支持手段により地表から離れて移動自由に設置したものである。このためグライドといわれる雪の移動により押し動かされたとしても、それゆえに蓄熱体自体が変形、あるいは破壊されるということはない。
(iii)一般に雪崩は表面層に亀裂が入り、その亀裂がある一定の長さに達したときに、その亀裂を境にして、表面層が滑り落ちることで発生するものである。
本発明は蓄熱体を点在して配置することで、仮に積雪の一部に亀裂が発生しても、亀裂が、融雪部に達して、亀裂の進行を強制的に阻止するので融雪部を越えて亀裂が進行しない。
そのため亀裂を要因とした雪崩も効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0008】
<1> 蓄熱体
蓄熱体1の熱源は電気式、化石燃料式、化学反応式など、熱を生じ得るものであれば公知の発熱手段を利用可能である。その他にも、例えば地熱や温水などで構成する事もできる。
例えば蓄熱体1を電気ヒータで構成する場合には、防水機能を持った幕・ケースなどの内部に蓄熱体1を設置するなど、雪や雪が溶けて生じた水が蓄熱体1の機能を害さないような構成が必要となる。
また、蓄熱体1や蓄熱体1上面を黒い幕で覆う、黒い粉をまくなどする事で集熱効果をより上げる事ができる。
形状については、図面上では球体を例示するが、形状の制約はない。大きさも適宜の大きさのものを利用可能である。
【0009】
<2> 支持手段
図1に示すように、支持手段として支持柱2上に蓄熱体1を設置する場合を説明する。
図1は蓄熱体1を支持する支持柱2を錐体状に構成した例であるが、直方立方体状、筒体状や柱体状などで構成することも可能である。
この際、断面形状は、蓄熱体1を上部に支持できる面積を持つものであれば、どのような形状でも可能である。設置の際には蓄熱体1と支持柱2とを本固定しない。
支持柱2は内部を空洞状に構成し、上面部を閉塞せずに柵や格子体などにより構成することで熱が空洞内部に伝わる構成にすると共に、支持柱2側部に複数の放熱孔を設ける。
これにより支持柱2の上面に設置した蓄熱体1から発生した熱が支持柱2内部を通過し放熱孔から熱を放出することで、支持柱2周囲の雪に対しても融雪効果を上げることができる。
支持体2は上記のような構造以外、例えば内部が空洞状でない、あるいは上面部を閉塞して構成すること等も可能である。
【0010】
<3>蓄熱体設置高さ
蓄熱体1を設置する高さである蓄熱体設置高さhは、蓄熱体1が積雪4中に位置するものであれば効果を発揮するものである。
ただし、より高い効果を発揮する設置位置としては、蓄熱体1により形成される融雪部5が積雪中に位置することや、雪崩のリスクが大きい地表からの高さ1m以上に設置することが挙げられる。
蓄熱体1は支持柱2に本固定していないため、蓄熱体1が雪の圧力等で支持柱2上から滑り出す場合も生ずる。この場合は、蓄熱体の設置高さは一定しない事になるが、図2に示すように蓄熱体1が積雪4の中に位置すれば、雪崩防止機能は作用する。
また、支持柱2自体が折れ曲がる、あるいは倒れることがあっても、蓄熱体1が支持柱2から滑り落ちた場合と同じく、蓄熱体1が積雪4の中に位置すれば、雪崩防止効果については問題が生じない。
【0011】
<4>作用
以下に図1を参照して本願の雪崩防止装置の設置工程を説明する。
まず、支持手段である支持柱2を雪崩を防止する斜面11に設置する。
蓄熱体を雪中に設置する際には、蓄熱体を位置させる地表からの高さである蓄熱体設置高さhは蓄熱体1が積雪4中に位置する高さに設定する必要がある。
具体的には、雪崩リスクが大きい地表からの高さ1m以上に設置すること等が考えられる。
高さを1m以上にして設置するものであっても、積雪4が3mあるとすれば、蓄熱体1の設置高さは3m以下で蓄熱体1が積雪4中に位置する高さに設置する必要がある。
次に蓄熱体1を設置する。蓄熱体1は支持手段である支持柱に固定して設置するものではなく、移動自由に設置するものであり、雪圧作用時に支持柱2から移動可能に構成する。
太陽電池を電源部とした電気式のヒータで熱を発生させる場合には、蓄熱体1に電気ケーブルを付け、その電気ケーブルの反対の端には電源部として太陽電池パネルを設置する。
ここで、電気ケーブルを十分に長く取ることで、蓄熱体1は太陽電池パネルをどのような場所にも設置しうると共に、蓄熱体1の移動範囲を広く取りうる。
【0012】
蓄熱体1を支持手段に固定後、積雪により雪中に埋まった状態で蓄熱体1を発熱させる。
蓄熱体1の熱により、蓄熱体1周囲の雪を溶かし、空洞部9、氷まじりのザラメ雪部10からなる融雪部5を作り出す。
融雪部5が積雪4内部に形成される事により、層面31を境とした平行な雪層3が熱に向かって乱れを起こし、シワ状に変形成されることになる。
平行で滑りやすい雪層3がシワ状になることで雪層3が滑りにくくなり、積雪4に弱層が発生しても雪崩が起きにくいものとなる。
図3に示すように、降雪時層面311が点線で示すように各層が平行で滑りやすい状態から、蓄熱体の発熱後は、実線で示す効果発現後層面312のように平行な雪層3が熱に向かって乱れを起こし、シワ状になることで雪層3が滑りにくくなり、積雪4に弱層が発生しても雪崩が起きにくいものとなる。
【実施例2】
【0013】
図4に示すように、支持手段は雪崩を防止する斜面上に設置したポールよりなる支柱6とその支柱にある程度の高さを持って張り巡らせたロープ7により構成することも可能である。
そして、そのロープ7から蓄熱体1を吊り下げる事で蓄熱体1を支持することになる。
まず、ある程度の高さを持った複数の支柱をロープ7で結び付ける。
そのロープ7から蓄熱体1を吊り下げ、蓄熱体1により形成される空洞部9、氷まじりのザラメ雪部10により形成された融雪部5が積雪4中に位置するように調整して吊り下げる。
この際、電気式のヒータを蓄熱体1とするものであれば、ロープ7の代わりに、蓄熱体1を吊り下げるのに十分な強度を持った電気ケーブルを用いることも可能である。また、その電気ケーブルをくくり付けた木などに太陽電池などの電源部を設置することも可能である。
十分な高さを持ったポールを設置し得ないような斜面では、十分な高さを持った複数の木々を支柱とし、その木々と張り巡らせたロープを支持手段とする事もできる。
本例にあっては、
(i)支柱を設置できない急斜面でも蓄熱体1を配置できる。
(ii)景観を損わないで蓄熱体1を配置することができる。
(iii)設置コストを低く抑えることができる。
等の効果を得ることができる。
【0014】
本願の雪崩防止装置の設置形態としては、以上のような2つの例の他にも多種多様に構成可能であり上記実施例に限定されない。
雪崩防止装置技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において各種の変更例または修正例に想達し得ることは明らかであり、それらについても当然に本願の技術的範囲に属するものである。
【実施例3】
【0015】
蓄熱体は単一の使用でも各雪層を乱すことで雪崩防止効果が生じるが、最も大きな雪崩防止効果を発揮するのは、雪崩を防止する、雪が積もった斜面である積雪斜面に、蓄熱体1をある程度の間隔をおいて配置し、積雪4に生じた亀裂8が、雪崩を起こす長さに至る前に蓄熱体1により形成された、融雪部5に達する事である。
積雪の亀裂8を起こす力は亀裂8を拡大させる力より大きな力が必要となる。一旦発生した亀裂8は発生時より小さな力で拡大を続けるが、その亀裂8が、融雪部5に達することで、亀裂8の進行がいったん止まる事になる。その融雪部5内の空洞などから再度、亀裂8が拡大するためには、亀裂発生時と同程度の力が必要となるため、結果として亀裂8の一層の拡大を防ぐことができる。
このため、蓄熱体1の設置方法は、積雪4にできた亀裂が雪崩を発生する大きさの亀裂に至る前に、設置した複数個の蓄熱体1のうち何れかの蓄熱体1が作り出した融雪部5に達することで、それ以上の亀裂の拡大を防ぐように配置するのが望ましい。
設置する蓄熱体1はある一点に集中的に配置しても、蓄熱体1同士が離れすぎても効果が低下する。つまり、複数の蓄熱体1が作り出す融雪部5相互の間隔と同長の亀裂が生じた場合でも、雪崩が起き得ないような程度の適度な間隔に、広い面積にわたって配置する事が重要となる。
また、この配置方法は、本発明の蓄熱体1を使用しないことでも利用可能である。
【実施例4】
【0016】
上記の方法において、蓄熱体1は積雪4中に配置しても、地面に蓄熱体1を載置することでも効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1に係る雪崩防止装置の説明図
【図2】本発明の実施例1に係る雪崩防止装置の説明図
【図3】本発明の実施例1に係る雪崩防止装置の説明図
【図4】本発明の実施例2に係る雪崩防止装置の説明図
【図5】本発明の実施例2に係る雪崩防止装置の説明図
【図6】本発明の実施例3に係る雪崩防止方法の説明図
【図7】従来の雪崩防止装置の説明図
【符号の説明】
【0018】
1・・・蓄熱体
2・・・支持柱
3・・・雪層
31・・・層面
311・・・降雪時層面
312・・・効果発現後層面
4・・・積雪
5・・・融雪部
6・・・支柱
7・・・ロープ
8・・・亀裂
9・・・空洞部
10・・・氷まじりのザラメ雪部
11・・・斜面
a・・・パイプ杭
b・・・積雪
c・・・斜面
h・・・蓄熱体設置高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積雪中に配置して雪崩を防止する装置であって、
発熱する蓄熱体と、
積雪中に前記蓄熱体を、地面に放置又は地面から隔離させ移動自由に配置するための支持手段とにより構成した、
雪崩防止装置。
【請求項2】
請求項1において、前記支持手段を、蓄熱体を移動自由に支持する支持柱で構成することを特徴とする、
雪崩防止装置。
【請求項3】
請求項1において、前記支持手段を、支柱と前記支柱に架け渡したロープとにより構成することを特徴とする、
雪崩防止装置。
【請求項4】
雪崩を防止する方法であって、
請求項1乃至3の何れに記載の雪崩防止装置を使用し、
積雪中に配置し、
蓄熱体の周囲を融雪して融雪部を形成し、
前記融雪部により整った雪層にシワを形成して雪層を乱すことを特徴とする、
雪崩防止方法。

【請求項5】
雪崩を防止する方法であって、
地面に発熱する蓄熱体を載置し、
前記蓄熱体により発生した熱が蓄熱体の周囲を融雪して融雪部を形成することを特徴とする、
雪崩防止方法。
【請求項6】
請求項4又は5において、蓄熱体を積雪中に点在して配置したことを特徴とする、
雪崩防止方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−161409(P2006−161409A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354370(P2004−354370)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000229128)日本ゼニスパイプ株式会社 (31)
【出願人】(504450327)
【Fターム(参考)】