説明

雪庇防止装置

【課題】 降雪量が多く、外気温が低く、風が強いときでも、雪庇の発生を防止出来るようにする
【解決手段】 建築物の笠木Kの上面に固定する取付台10と、この取付台に配した垂直板20および水平板30を備え、水平板は、その内部に電気的発熱体24を備えるとともに、基端の回動軸部(31、32)を中心として回動可能であって、降雪量に応じて先端を下降回動させる重量バランス部37を備える(請求項1)。垂直板によって、屋根と笠木とを分断して雪庇の形成を防止し、水平板に積もる雪を電気的発熱体によって融かしつつ、降雪量が重量バランス部の重みを超えて増えたときには、水平板を下降回動させて雪氷を建物外に落下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降雪地の建築物において発生する雪庇を防止する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
北海道のような降雪寒冷地では、厳冬期に、建物の屋上に雪庇と呼ばれる氷雪の団塊が生ずることがある。図4は、建物1の最上部の笠木(パラペット)2に発生する雪庇3を例示するものである。雪庇3は、外気温が低く、風が強く、降雪量が多いときに発生するもので、大量の降雪があったときは一昼夜で形成されることもあるし、降雪量が多くない場合でも外気温が低い日が続き断続的な降雪があると、二日または三日といった長時間をかけて形成されることもある。
【0003】
雪庇3は、降雪地に特有のいわゆる無落雪住宅等、主として、建物1の最上部に笠木(パラペット)2を備える建物1に発生する。建物1の屋根に積もる雪が、風で流されて笠木2の部分で吹きだまりを形成し、時間とともに氷雪が成長して笠木2を超えて外部に大きく張り出してゆくからである。人が自由に出入りできる建物屋上であって、転落防止用の壁(フェンス)を備えている建築物では、高さ1m前後の壁(フェンス)が境界となって氷雪の成長を遮断するので雪庇3は発生しない。笠木2をもたない傾斜屋根でも雪庇3は発生しない。
【0004】
雪庇3は、2〜3階建ての小規模な無落雪住宅や、10階を超えるようなマンションにおいても発生する。雪庇3の問題は、成長した氷雪が自身の荷重や暖気で一気に崩落し、大量の氷雪塊が隣接家屋を直撃したり、歩道を歩いている通行人を直撃する点にある。住宅密度が高くなった都市部では、このような問題が発生しやすくなっている。
【0005】
もちろん、従来から、雪庇3を防止するための技術は提案されている。例えば、特許文献1、特許文献2のように、笠木(パラペット)2に電気的発熱体を配するもの等である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】

【特許文献1】特開平11−159088号
【特許文献2】特開2005−016144号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
問題は、笠木(パラペット)2に電気的発熱体を配しても、厳冬期には雪庇3を防止することが難しい点にある。
【0008】
雪庇3は、建物1の屋根に積もる雪が笠木2の部分で吹きだまりを形成し、それが成長して笠木2の外部に張り出すものであるため、笠木2の表面に電気的発熱体を設けても、外気温が低く、降雪量が多く、風が強いときには、笠木2の発熱体による融雪効果よりも雪庇3の成長速度の方が速いからである。笠木2の上面を温めても、それを上回るスピードで雪庇3が成長する。建物1の屋根に積もる雪が風によって絶えず笠木2を覆うようにかぶってくるので、笠木2の上面の発熱体は、笠木2の上面にかぶってきた氷雪を融かすことに終始し、外気温が低いときには雪庇3の成長を止めることが出来ない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、降雪量が多く、外気温が低く、風が強いときでも、確実に雪庇3の発生を防止出来るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成して、課題を解決するため、本発明に係る雪庇防止装置は、建築物の笠木の上面に固定する取付台と、この取付台に配した垂直板および水平板を備え、水平板は、その内部に電気的発熱体を備えるとともに、基端の回動軸部を中心として回動可能であって、降雪量に応じて先端を下降回動させる重量バランス部を備える(請求項1)。
【0011】
この雪庇防止装置は、垂直板によって、屋根と笠木(2)とを空間的に分断(分離、遮断)することで雪庇(3)の形成を防止するとともに、笠木(2)の上に水平板を位置させることによって、水平板に積もる雪を電気的発熱体によって融かしつつ、降雪量が重量バランス部の重みを超えて増えたときには、水平板の先端が降雪重量によって下降回動し、降雪(雪氷)を建物の外に落下させる。
【0012】
水平板の上に積もる雪の量は、雪庇(3)のように巨大化することはないので、水平板に積もった雪を建物(1)の外に落としても、通行人や隣接家屋に大きなダメージを与えることはない。
【0013】
垂直板の内部に、電気的発熱体を設ける場合がある(請求項2)。垂直板は、屋根と笠木(2)とを空間的に分離することによって雪庇(3)の形成を防止する機能を営むものであり、この部分には必ずしも電気的発熱体を設ける必要はない。しかしながら、外気温が低く、風が強いときは、水平板に積もった雪と垂直板の外側(笠木の外側)に付着した雪が結合して、水平板の回動を阻害するケースが考えられる。垂直板の外側に付着した雪が水平板の雪と結合して、水平板に作用する回動モーメントを軽減化させる虞れがあるからである。
【0014】
垂直板にも電気的発熱体を設けておけば、雪氷は垂直板に付着することがなくなり、水平板は雪氷重量に応じて確実に回動することが出来る。
【0015】
水平板または垂直板の内部に設ける電気的発熱体は、面状発熱体である場合がある(請求項3)。
【0016】
水平板または垂直板の内部に設ける電気的発熱体は、その種類を問わないが、面状発熱体を用いると、水平板または垂直板の成形が容易となり製造コストを低減させることが出来る。また面状発熱体は、均一に板を加熱できるので、外気温が低い場合でも水平板または垂直板に付着した雪をむらなく融解し、水平板または垂直板の一部(温度が低い部分)に雪氷が融けずに残ってしまうという事態を確実に防止することが出来る。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る雪庇防止装置によれば、降雪量が多く、外気温が低く、風が強いときでも、雪庇の発生を防止することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係る雪庇防止装置を正面から例示する図である。
【図2】実施形態に係る雪庇防止装置を側面から例示する図である。
【図3】実施形態に係る雪庇防止装置の電源供給例を示す図である。
【図4】一般的な雪庇の発生状態を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1、図2は、本発明に係る雪庇防止装置の一実施形態を示すものである。この雪庇防止装置は、建築物の笠木Kの上面に固定する取付台10と、この取付台10に配した垂直板20および水平板30を備え、水平板30は、その内部に電気的発熱体、例えば面状発熱体34を備えている。水平板30は、基端の固定軸31を中心として、笠木Kから突出させて設ける先端部分が少なくとも下方に向かって回動可能であって、降雪量に応じて先端を下降回動させるためのバランサ(重量バランス部)37を備える。固定軸31は、ベアリング32によって軸支させてある。固定軸31とベアリング32とが、本発明の回動軸部を構成する。水平板30は、回動部材(31、32)を回動中心として回動する。以下、各部を説明する。
【0020】
取付台10は、笠木Kの上に固定金具、例えばネジ(ボルト等)11を用いて固定する。この実施形態で示す取付台10は、所定間隔をもって離隔させた二つの略L字状の部材を用いる。固定金具であるネジ11は、例えば、取付台10の水平板12の上面から笠木Kに打ち込む。また取付台10の垂直板14の内側面(対となる二つの取付台10の位置関係で内側となる面)には、ベアリング32を配して、左右のベアリング32に一本の固定軸31を回動可能な状態で掛け渡す。
【0021】
取付台10の水平板12と垂直板14は、板の剛性を高めるために端部を折曲させ、それぞれ断面略L字状を呈するようにしておくことが望ましい。
【0022】
垂直板20は、例えば、取付台10の垂直板14の外側面(対となる二つの取付台10の位置関係で外側となる面)に設けた、適宜形状の取付ブランケット22を介して固定支持する。取付ブランケット22は、垂直板20の背面(笠木Kの内周側)に位置させる。取付ブランケット22と取付台10の固定、および取付ブランケット22と垂直板20との固定には、例えばネジ(ビス等)を使用することが出来る。
【0023】
この実施形態では、取付ブランケット22は、断面略L字状の直線的な左右二つの部材を用いているが、基端部の固定強度を高く保証する場合は、取付ブランケット22は分離して設けず、幅方向の全体が略L字形状を呈する一個の板状体を用いても良い。取付台10との接触面積を増大させ、固定用のネジの配設点数を増加させるためである。
【0024】
垂直板20は、例えば、二枚の金属板の間に電気的発熱体24、例えば面状発熱体(波線で示す)を鋏んで構成することが望ましい。電気的発熱体24を設けることにより、降雪時には雪氷を融かし、低温外気によって雪氷が垂直板20に付着することを防止することが出来る。金属板を使用するのは、熱伝導の良好な素材を用いることによって電気的発熱体24が発生する熱を効率よく拡散させるためである。金属板としては、例えばアルミ板またはステンレス板を用いることが出来る。
【0025】
垂直板20の左右端部は、取付台10の離隔寸法と略同一させることが望ましい。つまり、垂直板20の左右端部は、取付台10の垂直板14より大きく外側に突出させないことが望ましい。これは水平板30も同様である。外気温が厳しく低下する地域では、取付台10の垂直板14より外側に突出させた水平板30の下に雪が入り込んで、笠木Kの上で凍結し、水平板30の下方回動を阻害する可能性があるからである。なお、垂直板20と水平板30の左右寸法は同一としておくことが望ましい。隣接する本雪庇防止装置の間に可能な限り無用な隙間が生じないようにするためである。
【0026】
水平板30は、その基端部を、取付台10の垂直板14の内側面に配したベアリング32によって軸支した固定軸31に固定し、これを回動中心として、笠木Kから外方に突出させた先端部が降雪の重みによって下方へ回動できるようにしておく。降雪量に応じた回動を実現するため、水平板30の適宜箇所、例えば基端部(笠木Kの内周側)にバランサ(重量バランス部;ウェイト)37を設ける。38は、ベアリング32を支持するためのブランケットである。
【0027】
バランサ37は、例えば、水平板30の基端部の下面に固定する。形状や材質は問わない。水平板30に略均一に降り積もった雪の重量が、バランサ37との釣り合いを超えて増大したときに、水平板30の先端部を下方回動させる適当な重量と形状とを備えていればよいからである。この実施形態では、笠木Kと平行にバランサ37を設けてある。
【0028】
水平板30は、例えば、二枚の金属板の間に電気的発熱体34、例えば面状発熱体(波線で示す)を鋏んで構成する。電気的発熱体34を設けることにより、降雪時に雪氷を融かし、水平板30が下方回動したときに雪氷を笠木Kの外へ落下させるためである。金属板を使用するのは、熱伝導の良好な金属を用いることによって電気的発熱体34が発生する熱を効率よく拡散させるためである。金属板としては、例えばアルミ板またはステンレス板を用いることが出来る。
【0029】
水平板30は、先端部を下降回動することで降雪を笠木Kの外側に落下させるためのものであるから、先端部は笠木Kの外側に突出させて配設する。また、下降回動の傾斜を大きくさせるため、水平板30の回動中心となる基端部は、できるだけ笠木Kの外周端縁に近い位置に設けることが望ましい。
【0030】
このように構成した雪庇防止装置は、笠木Kの上(上面左右方向)に隣接させて複数配設することが望ましい。一個の雪庇防止装置を長手方向に長尺形成するよりも、適当な左右寸法として、複数個を隣接させながら配置する方が、水平板30の下降回動の信頼性を担保しやすいからである。また笠木Kの設計寸法の相異に柔軟に対応できる。垂直板20、水平板30の長手方向の寸法は、例えば、概ね100cm程度とすることが望ましい。
【0031】
図3は、垂直板20、水平板30に設けた電気的発熱体24、34に対する電源供給を例示する図である。電気的発熱体24、34に対する電源供給は、降雪センサ41と外気温センサ42を介して行うことが望ましい。外気温が低く、かつ降雪がある場合に行えば良いので、電気的発熱体24、34に対する電源供給は、給電制御部44の適宜回路、例えば、降雪センサ41と外気温センサ42の出力をアンド回路の入力とし、アンド回路の出力に基づいて行うことが出来る。降雪センサ41がオンしても、外気温が高い場合(摂氏プラス温度条件)であれば、電気的発熱体24、34を発熱させるための給電は必要がなく、外気温センサがオンしても(摂氏マイナス温度条件)、降雪がない場合は電気的発熱体24、34を発熱させるための給電は必要がないからである。
【0032】
従って、かかる雪庇防止装置によれば、笠木Kの上に積もる雪を垂直板20によって分断するとともに、水平板30の下降回動によって笠木Kの外側へ落下(排除)できるため、降雪量が多く、外気温が低く、風が強いときでも、雪庇の発生を確実に防止することが可能となる。
【0033】
垂直板20と水平板30の内部には電気的発熱体24、34を配してあり、これに対する給電を、降雪センサ41、外気温センサ42、給電制御部44を用いた回路によってオンオフ制御するので、電力消費も少なく、不必要な発熱に起因する垂直板20や水平板30の劣化も防止することが出来る。電気的発熱体24、34による融雪作用により、水平板30の上に積もった雪は、当該水平板30の下降回動により笠木Kの外方にすべて排除できる。垂直板20や水平板30に付着して残る雪もなくなる。
【0034】
なお、本願発明に係る雪庇防止装置は以上説明した構成のものに限定されない。例えば、取付台10は、所定間隔をもって離隔させた二つの略L字状の部材に限定されない。左右両側に回動軸部を固定できる縦板部があれば良いから、分離していないひとつの板状部材を用いても水平板30を回動可能に軸支し、垂直板20を固定しつつ、笠木Kに留め置くことが出来る。
【0035】
垂直板20は、取付台10の垂直板14の外側面に設けた取付ブランケット22を介して固定支持すると説明したが、取付ブランケット22は、垂直板20の背面を確実に支持できればよいので、取付位置は限定されない。例えば、取付ブランケット22の両方が取付台10の垂直板14の内側面に固定しても構わないし、片方のみが取付台10の垂直板14の内側面に固定され、他方が取付台10の垂直板14の外側面に固定されても良い。
【0036】
垂直板20は、例えば、二枚の金属板の間に電気的発熱体、例えば面状発熱体を鋏んで構成する旨説明したが、電気的発熱体は面状発熱体でなくても良いし、また垂直板20には電気的発熱体を設けなくても良い。
【0037】
垂直板20および水平板30は金属板を使用することは望ましい。例えば、アルミ板、防錆処理を施した鉄板等である。
【0038】
垂直板20および水平板30のの左右端部は、取付台10の左右寸法(離隔幅)と略同一とすることが望ましい旨説明したが、外気温が厳しく低下しない地域では、垂直板20および水平板30の左右端部を、取付台10より外側に突出させても結氷による作動不良を生じない。
【0039】
バランサ37は、水平板30の基端部の下面に固定する旨説明したが、水平板30の上面に配しても構わない。また水平板30の基端部に限らず、基端から中央部にかけて設けても良い。必ずしも笠木Kと平行である必要はないから、笠木Kに対して直角にバランサ37を設けても構わない。
【0040】
垂直板20、水平板30は、二枚の金属板の間に電気的発熱体34を鋏んで構成する旨説明したが、構成要素となる金属板の枚数は二枚に限定されない。二枚以上の金属板を使用しても内部に電気的発熱体34を設ければ、同一の作用効果を奏することが出来るからである。
【符号の説明】
【0041】
10 取付台
11 ネジ
12 (取付台10の)水平板
14 (取付台10の)垂直板
20 垂直板
22 取付ブランケット
24、34 電気的発熱体
30 水平板
31 固定軸
37 バランサ(重量バランス部)
32 ベアリング
38 ブランケット
41 降雪センサ
42 外気温センサ
44 給電制御部
K 笠木

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の笠木の上面に固定する取付台と、
この取付台に配した垂直板および水平板を備え、
水平板は、
その内部に電気的発熱体を備えるとともに、
基端の回動軸部を中心として回動可能であって、
降雪量に応じて先端を下降回動させる重量バランス部を備えることを特徴とする雪庇防止装置。
【請求項2】
垂直板の内部に、電気的発熱体を設けることを特徴とする請求項1記載の雪庇防止装置。
【請求項3】
水平板または垂直板の内部に設ける電気的発熱体は、面状発熱体であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の雪庇防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−1778(P2011−1778A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146644(P2009−146644)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(310010575)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (51)
【出願人】(595070844)株式会社白石ゴム製作所 (2)
【出願人】(000106564)サンライズ工業株式会社 (4)
【上記2名の代理人】
【識別番号】100099014
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 滿茂
【Fターム(参考)】