説明

電力ケーブルの絶縁劣化診断方法及び絶縁劣化診断装置

【課題】送配電用機器が接続された電力ケーブルに対しても、容易に確実に絶縁劣化診断を行うこと。
【解決手段】絶縁劣化診断の測定対象となる測定対象ケーブル20に交流電源111及び整流器113を接続して、交流電源111からの交流電圧を半波整流して課電する。次いで、半波整流交流電圧が課電された測定対象ケーブル20を接地する。次いで、接地後の測定対象ケーブル20に交流電源111を接続して、交流電源111から交流電圧を課電する。この交流電圧課電された測定対象ケーブル20の残留電荷を検出器120により測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルの絶縁劣化診断方法に関し、特に、水トリーによる電力ケーブルの絶縁劣化を診断する絶縁劣化診断方法及び絶縁劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブル(以下、CV(Cross-linked polyethylene insulated polyvinyl-chloride sheathed cable)ケーブルという)等のゴム・プラスチック電力ケーブルの耐電圧寿命特性を決定する主要な絶縁劣化現象の一つとして、水トリー劣化がある。
【0003】
この水トリー劣化は、ゴム・プラスチック電力ケーブルに対して、水が存在する環境下で長期間に亘って交流電圧を課電していると、絶縁体中のボイド、異物、突起等の電界集中部に微小な水ボイド集団が形成されて、これが電界方向に進展して発生する現象である。
【0004】
この水トリーは、その成長とともに絶縁破壊電圧を低下させ、最終的には運転中における電力ケーブルの絶縁破壊事故の原因となる。このため、CVケーブル等の電力ケーブルの絶縁劣化診断においては、水トリー劣化を信頼性高く検出することが重要な課題になっている。
【0005】
そこで、CVケーブル等の電力ケーブルの水トリー劣化を検出する有効な手法として残留電荷法が開発されている。この残留電荷法の手順について、図4を参照して説明する。残留電荷法は、まず、図4(a)に示すようにケーブルの絶縁体に直流電圧を課電し、次いで、同図4(b)に示すように絶縁体の電極間を短絡・接地し、そして、同図4(c)に示すように絶縁体に交流電圧等を課電して、この時に現れる直流成分を水トリーによる劣化信号として検出する。
【0006】
この残留電荷法では、電力ケーブルに直流電圧等の課電によって絶縁体中に空間電荷が蓄積される。次いで、絶縁体の電極間を短絡・接地することにより、直流課電電圧による導体及び遮蔽上電荷(図示省略)が取り除かれる。この間、劣化部の空間電荷、つまり、絶縁体内に拘束された電荷(水トリー中の空間電荷等)が完全に消滅することなく一部残留する。その後、交流電圧等の課電によって、絶縁体内に拘束された電荷(水トリー中の空間電荷等)の移動・減衰が速まって放出され、電荷、または電荷の移動に伴う直流電流が劣化信号として検出器により検出される。
【0007】
例えば、特許文献1に記載された電力ケーブルの絶縁劣化診断方法では、電力ケーブルに直流電圧を課電後に接地し、その後に交流電圧を課電した状態で残留電荷の時間特性を測定して、残留電荷の時間変化割合を劣化診断の判定信号に用いることにより、少数の極度劣化も検出可能としている。
【特許文献1】特許第3184712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、GIS(Gas Insulated Switchgear:ガス絶縁開閉装置)などの縮小機器が、電力ケーブル線路に適用されており、その適用範囲は、年々増加することが予想される。
【0009】
これら機器を線路に有する電力ケーブルに対して絶縁劣化診断を行う場合、直流電圧を用いる従来の残留電荷法では、課電する直流電圧と送配電用機器の直流設計電圧との関係を十分に検討する必要が生じ、場合によっては、機器を外す等して絶縁劣化診断を行うこととなり、その作業に手間が掛かるという問題が生じる。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、送配電用機器が接続された電力ケーブルに対しても、容易に確実に絶縁劣化診断を行うことができる電力ケーブルの劣化診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電力ケーブルの絶縁劣化診断方法は、絶縁劣化診断の測定対象である電力ケーブルに交流電源からの交流電圧を半波整流して課電する半波整流電圧課電工程と、半波整流交流電圧を課電した後、前記電力ケーブルを接地する接地工程と、接地後の前記電力ケーブルに前記交流電源から交流電圧を課電して、前記電力ケーブルの残留電荷を測定する測定工程とを有するようにした。
【0012】
この方法によれば、絶縁劣化診断の対象となる電力ケーブルに対して、半波整流交流電圧を課電し、半波整流交流電圧を課電した後の接地後、交流電圧を課電して電力ケーブルの残留電荷を測定する。つまり、電力ケーブルの絶縁劣化診断を行う際に、直流電圧を課電(印加)する従来方法と比較して、測定対象ケーブルに印加される直流電界が大幅に低減された状態で電力ケーブルの残留電荷を測定する。したがって、電力ケーブルに対して直流電源を用いて直流電圧を課電することなく、電力ケーブルの水トリー劣化による残留電荷を測定できるため、電力ケーブル線路内にGIS等のような小型機器(送配電用機器)が接続された電力ケーブルに対しても、容易に確実に絶縁劣化診断を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、直流電源からの直流電圧を課電することなく電力ケーブルの残留電荷を測定でき、GIS等のような小型化された機器が接続される電力ケーブルに対しても、容易に確実に絶縁劣化診断を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電力ケーブルの絶縁劣化診断方法に用いられる絶縁劣化診断装置と、絶縁劣化診断の測定対象となる電力ケーブル(以下、「測定対象ケーブル」という)の構成を示す図である。
【0016】
図1において、絶縁劣化診断装置100は、交流電源111と、整流器113と、検出器(検出コンデンサなど)120と、スイッチSW1〜SW3と、低負荷器150とを備える。
【0017】
測定対象ケーブル20は、ここでは、CVケーブルであり、導体21と、導体21の周囲を覆う絶縁体22と、絶縁体22の周囲を覆う金属遮蔽層23等とを備える。なお、図1に示す測定対象ケーブル20では、導体21と金属遮蔽層23の間に、静電容量が形成される。また、測定対象ケーブル20では、金属遮蔽層23は接地線25により接地しており、終端部24は、整流器113及びスイッチSW1からのリード線に接続されている。
【0018】
交流電源111は、低圧部(図示せず)が検出器120及びスイッチSW2に接続され、高圧部(図示せず)が整流器113及びスイッチSW1に接続され、整流器113及びスイッチSW1に交流電圧を出力する。
【0019】
整流器113は、交流電源111から入力される交流電圧を半波整流して測定対処ケーブル20に出力して印加する。整流器113により出力される半波整流電圧は、正極性を有してもよいし、負極性を有しても良い。整流器113により整流されて測定対象ケーブル20に印加される半波整流電圧は、例えば、測定対象ケーブルが22kV級のものである場合、線間電圧として12.7kV程度とする。
【0020】
スイッチSW1は、一端部が交流電源111に接続され、他端部が測定対象ケーブル20の終端部24に接続されている。スイッチSW1は、その接点を閉じることによって整流器113を短絡する。
【0021】
検出器120は、測定対象ケーブル20の絶縁体22の蓄積電荷を検出するものであり、一端部が接地され、他端部が、交流電源111に接続されている。
【0022】
スイッチSW2は、一端部が接地され、他端部が交流電源111の低圧部に接続されている。スイッチSW2は、その接点を閉じることによって検出器120を短絡する。
【0023】
スイッチSW3は、一端部はスイッチSW1及び整流器113と、測定対象ケーブル20との間の線路に接続され、他端部は、低負荷器150に接続されている。スイッチSW3は、その接点を閉じることによってスイッチSW1及び整流器113と測定対象ケーブルとの間の線路に、低負荷器150を接続する。
【0024】
低負荷器150は、抵抗、コイルなどにより構成され、整流器113から測定対象ケーブル20に出力される半波整流交流波形を、リップルを有する状態で出力させるものであり、整流器113に対して、測定対象ケーブル20と並列に接続されている。測定対象ケーブル20は容量性負荷のため、整流器113によって整流された波形をそのまま印加すると、平滑化されてしまう。これを最小限に低減するために、低負荷器150は、整流器113から測定対象ケーブル20に出力される半波整流交流波形に、測定対象ケーブル20の容量性負荷に比べて十分に低いインピーダンスの負荷を加える。
【0025】
なお、測定対象ケーブル20における水トリーでは、いずれか一方の極性を有する電圧を印加すれば、その内部に、直流電圧以外であっても電荷が蓄積される性質を有することが判った。この性質を利用し、本実施の形態では、極性を有する直流以外の電圧として半波整流交流電圧を用いることにより、直流電圧が制限されるケーブル線路においても、残留電荷の測定を可能とする。
【0026】
このように本実施の形態に係る絶縁劣化診断装置100は、絶縁劣化診断の対象となる測定対象ケーブル20に接続され、交流電圧を半波整流して課電する半波整流電圧課電手段(交流電源111及び整流器113)と、測定対象ケーブル20に接続され、測定対象ケーブル20を接地する接地手段と、測定対象ケーブル20に接続され、測定対象ケーブル20に交流電圧を課電する交流電圧課電手段(交流電源111)と、測定対象ケーブル20に接続され、交流電圧が課電された測定対象ケーブル20の残留電荷を測定する測定手段(検出器120)とを有する。
【0027】
次に、図1の絶縁劣化診断装置100における測定対象ケーブル20の測定手順について説明する。
【0028】
まず、スイッチSW1を開放、スイッチSW2及びスイッチSW3を閉じた状態にして、交流電源111から測定対象ケーブルに対して交流電圧を課電する。
【0029】
この交流電源111から出力される交流電圧は、交流電源111と測定対象ケーブル20とを接続する線路に配置された整流器113によって半波整流されて測定対象ケーブル20に出力される。測定対象ケーブル20には、交流が半波整流された状態で印加される。これにより、測定対象ケーブル20に電荷が蓄積される。
【0030】
次いで、スイッチSW3を閉じた状態を維持しつつ、交流電源111から出力される交流電圧を0にする。これにより、測定対象ケーブル20では、導体21と金属遮蔽層23の間が抵抗接地状態となり、両電極上の電荷は直ちに再結合して消滅するが、絶縁体22内部の電荷は完全には消滅せず一部が残留する。
【0031】
次いで、スイッチSW1を閉じて整流器113を短絡するとともに、スイッチSW2及びスイッチSW3を開放状態にして、交流電源111を用いて測定対象ケーブル20に交流電圧を印加する。
【0032】
これにより、測定対象ケーブル20の絶縁体22内電荷の緩和・消滅が促進され、絶縁体22から電荷が放電される。放電された電荷は、検出器120において、直流成分(または直流成分に伴う回復電荷)として検出される。これを測定対象ケーブルにおける水トリー劣化を示す劣化信号とみなす。
【0033】
ここでは、半波整流電圧課電後において、交流電圧課電を複数回繰り返して行い複数回繰り返す交流電圧課電により測定対象ケーブル20に残留した電荷は放電されて検出器120で測定される。検出器120で測定された残留電荷を用いて測定対象ケーブル20の劣化を測定する。
【0034】
なお、上述したように本実施の形態の絶縁劣化診断装置100における整流器113の方向を逆にしてもよい。この場合、上記手順によって、測定対象ケーブル20に逆極性の電荷が蓄積され、この電荷を検出器120で検出することによって、劣化診断を行う。
【0035】
図2は、本実施の形態に係る絶縁劣化診断装置100を用いた絶縁劣化診断方法における印加電圧と測定対象ケーブルに残留する電荷の関係を時系列的に示した一例を示す図である。図3は、測定対象ケーブルに直流電圧を印加して絶縁劣化診断する従来方法における印加電圧と測定対象ケーブルに残留する電荷の関係を時系列的に示した一例を示す図である。
【0036】
図2では、本実施の形態に係る絶縁劣化診断方法は、水トリー劣化した測定対象ケーブル20に対して、交流電源111及び整流器113を用いて半波整流電圧を課電している。その半波整流課電の後で接地し、次いで、接地後の測定対象ケーブル20に、交流電源111から交流電圧を短時間で繰り返して課電することにより測定対象ケーブル20内の電荷は全て放電している。
【0037】
この図2に示すように、本実施の形態の絶縁劣化診断方法によれば、図3に示す直流電圧を印加した場合と同様の電荷が検出できる。なお、図3の従来方法では、測定対象ケーブルに対して、まず、直流電源を用いて直流電圧を課電し、直流電圧課電後に接地し、接地後、測定対象ケーブルに、交流電源から交流電圧を短時間で繰り返して課電することにより測定対象ケーブル内の電荷を全て放電させている。
【0038】
本実施の形態の絶縁劣化診断方法(図2参照)によれば、従来方法(図3参照)と比べて、測定対象ケーブルを含む線路全体に印加される直流電界が大幅に低減される。これにより測定対象ケーブルとともに線路を構成するGISなどの小型機器を測定対象ケーブルに接続した状態で測定対象ケーブルの水トリー劣化診断を行うことができる。また、本実施の形態によれば、測定対象ケーブルの絶縁劣化診断を行う際に、直流電圧を印加する従来方法と比較して、測定対象ケーブルに印加される直流電界が大幅に低減されるため、電力ケーブル線路内のGIS等の小型機器に対するダメージの緩和を図ることができる。
【0039】
さらに、本実施の形態では、測定対象ケーブルの絶縁劣化診断を行う際に、従来と異なり、測定対象ケーブル20に対して直流電圧を課電することなく、半波整流交流電圧を課電し、測定対象ケーブルの水トリー劣化を絶縁劣化として診断している。
【0040】
すなわち、本実施の形態の絶縁劣化診断装置100では、従来の残留電荷方法を行う場合と異なり、直流電圧を課電するための直流電源を必要としない。
【0041】
本実施の形態の絶縁劣化診断方法に必要な半波整流交流電圧を発生させる構成は、測定回路内の交流電源に、整流器を接続するだけで容易に実現できる。このため、従来の絶縁劣化診断方法を実現する装置と比較して、直流電源(直流発生器)を省略することができ、最小限の測定回路によって構成して装置自体をコンパクトにできる。これにより、絶縁劣化診断装置100自体を、容易に、絶縁劣化診断を行う現場に移動させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る電力ケーブルの絶縁劣化診断方法及び絶縁劣化診断装置は、送配電用機器が接続される電力ケーブルに対しても、容易に確実に絶縁劣化診断を行うことができる効果を有し、CVケーブルの絶縁劣化診断に用いるものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電力ケーブルの絶縁劣化診断方法に用いられる絶縁劣化診断装置と、絶縁劣化診断の測定対象となる電力ケーブルの構成を示す図
【図2】本実施の形態に係る絶縁劣化診断装置を用いた絶縁劣化診断方法における印加電圧と測定対象ケーブルに残留する電荷の関係を時系列的に示した一例を示す図
【図3】測定対象ケーブルに直流電圧を印加して絶縁劣化診断する従来方法における印加電圧と測定対象ケーブルに残留する電荷の関係を時系列的に示した一例を示す図
【図4】従来の残留電荷法の手順を示し、(a)は直流電圧の課電状態を示す図、(b)は接地状態を示す図、(c)は交流電圧の課電状態を示す図
【符号の説明】
【0044】
20 測定対象ケーブル
100 絶縁劣化診断装置
111 交流電源
113 整流器
120 検出器
150 低負荷器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁劣化診断の測定対象である電力ケーブルに交流電源からの交流電圧を半波整流して課電する半波整流電圧課電工程と、
半波整流交流電圧を課電した後、前記電力ケーブルを接地する接地工程と、
接地後の前記電力ケーブルに前記交流電源から交流電圧を課電して、前記電力ケーブルの残留電荷を測定する測定工程と、
を有することを特徴とする電力ケーブルの絶縁劣化診断方法。
【請求項2】
絶縁劣化診断の対象となる電力ケーブルに接続され、交流電圧を半波整流して課電する半波整流電圧課電手段と、
前記電力ケーブルに接続され、前記電力ケーブルを接地する接地手段と、
前記電力ケーブルに接続され、前記電力ケーブルに交流電圧を課電する交流電圧課電手段と、
前記電力ケーブルに接続され、前記交流電圧が課電された前記電力ケーブルの残留電荷を測定する測定手段と、
を有することを特徴とする絶縁劣化診断装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−271542(P2007−271542A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99843(P2006−99843)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(502122521)株式会社エクシム (25)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】