説明

電力ケーブルの絶縁劣化診断方法及び絶縁劣化診断装置

【課題】電力ケーブルの長さに依存することなく、水トリーによる電力ケーブルの絶縁劣化が最も進行した箇所の状態を診断することができる絶縁劣化診断方法及び絶縁劣化診断装置を提供すること。
【解決手段】第2の課電としての交流電圧の課電電圧と、課電により放出される残留電荷量を並行して測定する測定工程と、交流課電開始時の残留電荷を基準とし、交流電圧の昇圧による残留電荷の増加量を計測する増加量計測工程と、残留電荷の増加量が所定の値となった立上がり時間を計測する立上時間計測工程と、立上がり時間における課電中の交流電圧値を計測する交流電圧値計測工程と、計測した交流電圧値に基づいて、残留電荷の増加量が所定の値となった時の交流電界を、立上がり電界として算出する立上電界算出工程と、算出した立上がり電界に基づいて、電力ケーブルの最大絶縁劣化部の状態を診断する診断工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルの絶縁劣化診断方法に関し、特に、水トリーによる電力ケーブルの絶縁劣化を診断する電力ケーブルの絶縁劣化診断方法及び絶縁劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブル(以下、CV(Cross-linked polyethylene insulated polyvinyl-chloride sheathed cable)ケーブルという)等のゴム・プラスチック電力ケーブルの耐電圧寿命特性を決定する主要な絶縁劣化現象の一つとして、水トリー劣化がある。
【0003】
この水トリー劣化は、ゴム・プラスチック電力ケーブルに対して、水が存在する環境下で長期間に亘って交流電圧を課電していると、絶縁体中のボイド、異物、突起等の電界集中部に微小な水ボイド集団が形成されて、これが電界方向に進展して発生する現象である。
【0004】
この水トリーは、その成長とともに絶縁破壊電圧を低下させ、最終的には運転中における電力ケーブルの絶縁破壊事故の原因となる。このため、CVケーブル等の電力ケーブルの絶縁劣化診断においては、水トリー劣化を信頼性高く検出することが重要な課題になっている。
【0005】
そこで、CVケーブル等の電力ケーブルの水トリー劣化を検出する有効な手法として、例えば、特許文献1に示すような残留電荷法が開発されている。この残留電荷法の手順について、図1を参照して説明する。残留電荷法は、まず、図1(a)に示すようにケーブルの絶縁体に直流電圧を課電し、次いで、同図1(b)に示すように絶縁体の電極間を短絡・接地し、そして、同図1(c)に示すように絶縁体に交流電圧等を課電して、この時に現れる直流成分を水トリーによる劣化信号として検出する。
【0006】
この残留電荷法では、電力ケーブルに直流電圧等の課電によって絶縁体中に空間電荷が蓄積される。次いで、絶縁体の電極間を短絡・接地することにより、直流課電電圧による導体及び遮蔽上電荷(図示省略)が取り除かれる。この間、劣化部の空間電荷、つまり、絶縁体内に拘束された電荷(水トリー中の空間電荷等)が完全に消滅することなく一部残留する。その後、交流電圧等の課電によって、絶縁体内に拘束された電荷(水トリー中の空間電荷等)の移動・減衰が速まって放出され、電荷、または電荷の移動に伴う直流電流が劣化信号として検出器により検出される。
【0007】
このような従来の残留電荷法は、電力ケーブル全体から検出された総電荷量を用いて評価する。
【0008】
このため、従来の方法では、微小な劣化が電力ケーブルの長手方向に均一に存在する場合と、局所的に大きな劣化が存在する場合の残留電荷法による評価が同程度の電荷量として検出される可能性があり、厳密に判定することはできない。
【0009】
残留電荷測定は、絶縁破壊に直接繋がるような有害な水トリーを検出することが目的である。このため、劣化に無関係な箇所、例えば接続部の異種絶縁体界面や、絶縁破壊に直接結び付かないような微小な水トリーから発生する信号は、誤差成分として除去する必要がある。
【0010】
特許文献2及び特許文献3には、直流課電接地後の交流課電時に現れる残留電荷の時間特性、具体的には有害な水トリーから発生する信号は交流課電に対する応答が速いという特性に着目した絶縁劣化診断方法が記載されている。
【0011】
特許文献2記載の絶縁劣化診断方法は、交流課電を零から所定の値まで昇圧する間に現れる残留電荷の大きさと、昇圧後、所定の電圧を保持している間の残留電荷の変化分とを比較することによって電力ケーブルの劣化状態を診断する。
【0012】
特許文献3記載の絶縁劣化診断方法は、後述する図10(a)に示すように、交流課電による残留電荷の増加分を測定する操作を3回繰り返して行い、1回目の交流課電による残留電荷の増加分から2回目及び3回目の交流課電による残留電荷の増加分を差し引いた電荷を劣化判定量に用いた診断方法である。
【0013】
また、特許文献4には、電力ケーブルの水トリー部に電荷を蓄積させる課電方法として、直流電圧の代わりに交流電圧の半波波形により電荷を蓄積し、交流電圧を課電して電荷を放出させ、残留電荷を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公平5−28350号公報
【特許文献2】特開平8−62280号公報
【特許文献3】特開平11−148959号公報
【特許文献4】特開2007−40861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献2及び特許文献3記載の絶縁劣化診断方法より、劣化に無関係な箇所、例えば接続部の異種絶縁体界面や、絶縁破壊に直接結び付かないような微小な水トリーから発生する信号を誤差成分として除去し、交流課電に対する応答の速い劣化部を抽出して劣化程度を診断することが可能となった。
【0016】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3記載の測定法にあっては、抽出された交流課電に対する応答の速い残留電荷に、測定ケーブル中に存在するすべての交流課電に対する応答の速い水トリー劣化部が含まれてしまう。
【0017】
例えば、特許文献3においては、交流電圧を零から所定の値まで短時間で昇圧した後に直ちに零まで降下させて、交流短課電による残留電荷の増加分ΔQを測定しているものの、交流課電に対する応答の速い残留電荷は第1回目の交流課電時に出尽くし、第2回目の交流課電によって得られた残留電荷の増加分には劣化と無関係な残留電荷のみしか存在しない(特許文献3の段落0026−0028参照)。
【0018】
測定するケーブル長が10m程度の短尺ケーブルであれば、ケーブル全長にわたってほぼ均一な劣化状態とみなせる。しかし、ケーブル長が長くなると劣化程度の異なる局所的な劣化部の存在確率は増える。実際に布設されているケーブルは数十mから数kmオーダーであり、測定した残留電荷には複数の局所的な劣化部位が存在していると推定される。
【0019】
一方、電力ケーブルの絶縁破壊は、劣化部の数ではなく、電力ケーブルの最も劣化が進行した単一の水トリー劣化部により決定される。特許文献2及び特許文献3記載の測定法においては、例えば絶縁破壊直前まで著しく水トリー劣化が進行した部位がケーブル中に1箇所の存在する場合と、すぐには絶縁破壊に至らないが中程度の絶縁劣化部が複数存在する場合の残留電荷量が同じ値として検出される可能性がある。この傾向はケーブル長が長くなるほど、局所的な劣化部の存在確率が増えて高くなる。
【0020】
つまり、劣化に無関係な箇所を誤差成分として除去しても、水トリー劣化による残留電荷の総電荷量を抽出して評価する手法には変わりなく、ケーブル全長における個々の水トリー劣化の程度が同じであっても、測定するケーブル長が長い場合は、水トリー劣化部の存在個数の影響を受け、存在個数によって電荷量は変化してしまう。
【0021】
また、総電荷量をケーブルの長さで除算して単位長さあたりの劣化程度として評価すると、絶縁破壊直前まで著しく水トリー劣化が進行した部位がケーブル中に1箇所存在する場合、ケーブルの長さで除算して平均化すると、特にケーブル長が長い線路においては、単位当たりでは小さな数値と評価され、重大な劣化部であることを見逃す虞がある。従い、ケーブルの長さ、具体的にはケーブル全長における水トリー劣化部の存在個数に影響せず、ケーブルにおける最も劣化した単一の水トリー劣化部のみを診断する絶縁劣化の判定手法が求められている。
【0022】
なお、直流電圧の代わりに交流電圧の半波波形により電荷を蓄積し、交流電圧を課電して電荷を放出させ、残留電荷を測定する特許文献4に記載された方法で実施しても、検出された残留電荷量がケーブルの長さ、具体的にはケーブル全長における水トリー劣化部の存在個数に影響する課題は解決できない。
【0023】
本発明の目的は、電力ケーブルの長さに依存することなく、水トリーによる電力ケーブルの絶縁劣化が最も進行した箇所の状態を診断することができる絶縁劣化診断方法及び絶縁劣化診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の電力ケーブルの絶縁劣化診断方法は、電力ケーブルに第1の課電を行い、水トリー部に電荷を蓄積させた後、第2の課電として、交流電圧を電力ケーブルに課電し、前記水トリー部に蓄積した電荷を検出する電力ケーブルの絶縁劣化診断方法において、前記第2の課電としての交流電圧の課電電圧と、この課電により放出される残留電荷量を並行して測定する測定工程と、交流課電開始時の残留電荷を基準とし、交流電圧の昇圧による残留電荷の増加量を計測する増加量計測工程と、前記残留電荷の増加量が所定の値となった立上がり時間を計測する立上時間計測工程と、前記立上がり時間における課電中の交流電圧値を計測する交流電圧値計測工程と、前記交流電圧値に基づいて、前記残留電荷の増加量が所定の値となった時の交流電界を、立上がり電界として算出する立上電界算出工程と、算出した前記立上がり電界に基づいて、電力ケーブルの最大絶縁劣化部の状態を診断する診断工程と、を有する。
【0025】
本発明の絶縁劣化診断装置は、絶縁劣化診断の対象である電力ケーブルに課電する第1の課電手段と、前記電力ケーブルに交流電圧を課電する第2の課電手段と、前記第2の課電としての交流電圧の課電電圧と、この課電により放出される残留電荷量を並行して測定する測定手段と、交流課電開始時の残留電荷を基準とし、交流電圧の昇圧による残留電荷の増加量を計測する増加量計測手段と、前記残留電荷の増加量が所定の値となった立上がり時間を計測する立上時間計測手段と、前記立上がり時間における課電中の交流電圧値を計測する交流電圧値計測手段と、前記交流電圧値に基づいて、前記残留電荷の増加量が所定の値となった時の交流電界を、立上がり電界として算出する立上電界算出手段と、算出した前記立上がり電界に基づいて、電力ケーブルの最大絶縁劣化部の状態を診断する診断手段と、を備える構成を採る。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、電力ケーブルの長さに依存することなく、水トリーによる電力ケーブルの絶縁劣化が最も進行した箇所の状態を診断することができる。また、交流電圧の課電のばらつき等による残留電荷の応答ばらつきの影響を受けず、かつ測定ケーブルの長さにも依存することなく、確実にケーブル内の単一の最大劣化部を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来の残留電荷法の手順を示す図であり、(a)は直流電圧の課電状態を示す図、(b)は接地状態を示す図、(c)は交流電圧の課電状態を示す図
【図2】原理説明の電力ケーブルに第1の課電を行い、水トリー部に電荷を蓄積させた状態で、第2の課電としての交流課電下における残留電荷−時間特性を示す図
【図3】図2の結果を水トリー劣化の程度別に模式化した図
【図4】原理説明の重度と中度と軽度で水トリー劣化程度が混在する場合を模式化した図
【図5】原理説明の実際の測定データ例を模式的に示した図
【図6】原理説明の電力ケーブル撤去品において、本願発明の測定方法にて立上がり電界を算出した後、当該電力ケーブルの破壊試験を実施し、立上がり電界と交流破壊電界の相関を示した図
【図7】本発明の一実施の形態に係る絶縁劣化診断装置の構成を示す図
【図8】本実施の形態に係る絶縁劣化診断装置の他の構成を示す図
【図9】本実施の形態に係る絶縁劣化診断装置の他の構成を示す図
【図10】本実施の形態による残留電荷測定方法と従来の残留電荷測定方法との測定パターンを比較して示す図
【図11】本実施の形態に係る電力ケーブルの絶縁劣化診断方法の残留電荷の立上がり電界と残留電荷の総電荷量Qを組み合わせた判定を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
(原理説明)
まず、本発明の電力ケーブルの絶縁劣化診断方法において水トリーの長さと残留電荷応答について説明する。
【0030】
<水トリーの長さと残留電荷応答>
図2は、電力ケーブルに第1の課電を行い、水トリー部に電荷を蓄積させた状態で、第2の課電としての交流課電下における残留電荷−時間特性を示す図である。図2(a)は、1000μm程度の長い水トリー劣化が存在する試料による残留電荷である。図2(b)は100μm程度のボウタイ状水トリーが多発しているものの、長い水トリーはほとんど存在しない試料による残留電荷である。図2(a)と図2(b)を比較すると、水トリー長が長いほど、交流課電に対する応答挙動が速くなることが確認できる。
【0031】
図3は、図2の結果を水トリー劣化の程度別に模式化した図である。
【0032】
図3(a)に示すように、電力ケーブル絶縁体部の水トリーの長さが大きい、すなわち重度の劣化の場合は、交流課電に対する残留電荷の応答は速く、立上がり時間tは短くなる。逆に、図3(c)に示すように、電力ケーブル絶縁体部の水トリーの長さが小さい、すなわち軽度の劣化の場合は、交流課電に対する残留電荷の応答は遅く、立上がり時間tは長くなる。
【0033】
この立上がり時間は、電力ケーブルの局部的な劣化の程度に依存するため、電力ケーブルの長さの影響は受けない。交流課電が所定の電圧まで昇圧する時間は数秒程度であるが、交流課電に対する有害な水トリー劣化の残留電荷の応答は、交流課電の昇圧の間に出尽くしてしまう。
【0034】
このため、立上がり時間はかならず交流電圧の昇圧中の時間となる。この立上がり時間の定義は、交流課電開始時の残留電荷量を基準にして残留電荷の増加量を計測し、例えば増加量が1nCとなった時等、交流課電開始から、予め定めた増加量となった時の時間とする。
【0035】
図4は、重度と中度と軽度で水トリー劣化程度が混在する場合を模式化した図である。
【0036】
図4に示すように、実際に布設されているケーブル線路においては、重度の劣化部や中度、軽度の劣化部が複数存在している場合が多く、その場合はそれぞれの残留電荷の応答の合成値となる。
【0037】
図5は、実際の測定データ例を模式的に示した図である。
【0038】
図5に示すように、立上がり時間は電力ケーブル全長において最も劣化の程度が大きい区間で決定されるため、電力ケーブルの長手方向で最も大きな単一の劣化部位の判別が可能になる。
【0039】
ところで、この残留電荷の応答時間を劣化診断に応用する場合、同一ケーブルであっても、残留電荷の応答は交流電圧の課電ばらつきによって変化してしまう。交流課電に対する有害な水トリー劣化の残留電荷の応答は、課電開始後数秒間で出尽くすため、この交流課電のばらつきは無視できない。また、劣化診断は現地の布設ケーブルにて測定することから、電圧値や勾配を統一しても、課電ばらつきやケーブルへの接続状況によって一概に同一とは言えず、単に現地にて測定した交流課電に対する残留電荷の応答時間を同じ判定基準から一律に劣化状態を診断することは危険である。
【0040】
本発明は、交流課電に対する残留電荷の応答時間、具体的には残留電荷の増加量が所定の値(閾値)となった時間と課電中の交流電界値との関係に着目した。
【0041】
本発明の電力ケーブルの絶縁劣化診断方法は、以下(1)〜(6)を順次実行する。
(1)第2の課電としての交流電圧の課電電圧と、課電により放出される残留電荷量を同期させて並行して測定する。ここで、「並行して測定」とは、交流電圧を課電しつつ、この課電により放出される残留電荷量を測定すること、すなわち、交流電圧の課電中に残留電荷量を測定することをいう。また、時間(例えば時刻)を共通データとして、交流電圧の立上がり電圧及び残留電荷を算出している。時間を共通データとして、立上がり電圧及び残留電荷を算出することを「同期させる」と呼称している。
(2)交流課電開始時の残留電荷を基準とし、交流電圧の昇圧による残留電荷の増加量を計測する。
(3)残留電荷の増加量が所定の値となった立上がり時間を計測する。
(4)前記立上がり時間における課電中の交流電圧値を計測する。
(5)前記交流電圧値に基づいて、残留電荷の増加量が所定の値となった時の交流電界を、立上がり電界として算出する。
(6)算出した前記立上がり電界に基づいて、電力ケーブルの最大絶縁劣化部の状態を診断する。
【0042】
このように、交流課電に対する残留電荷の立上がり電界を診断することで、電力ケーブルの長さや交流課電のばらつきに依存せず、かつ単一の最も絶縁劣化が進行している水トリー劣化部の程度を診断することができる。なお、第1の課電は、直流電圧、インパルス電圧あるいは交流電圧のいずれでもよく、電力ケーブルの水トリー部に電荷を蓄積させる課電方法は特に問わない。
【0043】
図6は、電力ケーブル撤去品(長さ数十〜数百m)において、本願発明の測定方法にて立上がり電界を算出した後、当該電力ケーブルの破壊試験を実施し、立上がり電界と交流破壊電界の相関を示した図である。図6(a)は、立上がり電界と交流破壊電界の相関図、図6(b)は、図6(a)の立上がり電界を示す図である。
【0044】
図6(a)に示すように、交流破壊電界の数値が大きいほど耐電圧が大きいことを示し、ケーブルは健全な状態となる。立上がり電界とは、図6(b)に示すように、電力ケーブルに第1の課電を行い、水トリー部に電荷を蓄積させた状態で、第2の課電として電力ケーブルに交流電圧を課電して残留電荷の応答が検出された立上がりの時間における交流課電の電界値のことである。
【0045】
図6(a)に示すように、立上がり電界と交流破壊電界との間には、測定ケーブルの長さに関係なく、正の相関関係がある。すなわち、電力ケーブル全体において軽度の劣化のみ存在する場合は交流課電に対する個々の残留電荷の応答は遅く、所定の増加量となる立上がり時間は長くなる。その間、交流課電は昇圧しているため、残留電荷が立ち上がった際の立上がり電界は大きくなる。
【0046】
一方、電力ケーブル全体に一箇所でも重度の劣化が存在する場合は、交流課電に対する他の劣化部の残留電荷より早く応答し、所定の増加量となる立上がり時間は短くなり、立上がり電界も小さくなる。したがって、要求される耐電圧より劣化判断基準となる立上がり電界を決定することにより、布設電力ケーブルの診断が可能になり、電力ケーブルの交換等適切な処置を行うことができる。
【0047】
<絶縁劣化診断装置の構成>
[第1の課電が直流電圧の場合]
図7は、本発明の一実施の形態に係る絶縁劣化診断装置の構成を示す図であり、第1の課電が直流電圧の場合の測定回路のブロック図である。
【0048】
図7に示すように、絶縁劣化診断装置100は、直流電源101と、接地抵抗102と、交流電源103と、残留電荷検出器104と、切替スイッチ105と、測定部110と、劣化診断部120と、課電制御部130とを備える。この絶縁劣化診断装置100によって、測定対象である電力ケーブル20の絶縁劣化診断を行う。
【0049】
測定対象である電力ケーブル(以下、「測定対象ケーブル」とも称することもある)20は、CVケーブルであり、導体(図示略)と、この導体の周囲を覆う絶縁体(図示略)及び絶縁体の周囲を覆う金属遮蔽層21から構成される。また、測定対象ケーブル20の終端部22には、切替スイッチ105からのリード線が接続されている。なお、金属遮蔽層21は接地されている。測定対象ケーブル20の終端部22を以下では、便宜上、課電する端部として課電端部22と称し、測定対象ケーブル20において課電端部22から離間する端部を、遠端部23と称する。
【0050】
直流電源101は、直流電圧発生装置であり、絶縁劣化診断の対象である電力ケーブル20に課電する第1の課電手段に対応する。直流電源101は、正極側が接地され、負極側が切替スイッチ105の接点105aに接続されており、直流電圧Vdcを出力する。この場合、直流電源101の直流電圧Vdcは負極性としたが、正極性であっても何等問題ない。
【0051】
接地抵抗102は、一端部が接地され、他端部が切替スイッチ105の接点105bに接続されている。
【0052】
交流電源103は、交流電圧発生装置であり、電力ケーブル20に交流電圧を課電する第2の課電手段に対応する。交流電源103は、低圧部(図示せず)が残留電荷検出器104に接続され、高圧部(図示せず)が切替スイッチ105の接点105cに接続され、交流電圧Vacを出力する。
【0053】
残留電荷検出器104は、測定対象ケーブル20に対して交流課電を行う際に、測定対象ケーブル20に残留している電荷を検出し、その電荷を示す検出信号を測定部110に出力する。
【0054】
具体的には、残留電荷検出器104は、図示しない検出用コンデンサに生ずる直流電圧あるいは衝撃電圧を検出する。なお、検出用コンデンサは、一端部が交流電源103の低圧部に接続され、他端部が接地されている。また、検出用コンデンサと交流電源103の低圧部との接続部には、一端部が接地された短絡スイッチの他端部が接続されている。この短絡スイッチは、接点を閉じることによって検出用コンデンサを短絡する。
【0055】
このように残留電荷検出器104は、検出した直流電圧あるいは衝撃電圧を用いて、測定対象ケーブル20に対して交流課電を行う際の残留電荷値を測定して、検出信号として測定部110に出力する。
【0056】
切替スイッチ105は、3つの接点105a〜105cと、課電制御部130によって切り替えられる可動切片105dから構成される。可動切片105dの下流側は測定対象ケーブル20の課電端部22に接続されている。
【0057】
切替スイッチ105は、測定対象ケーブル20に直流電圧Vdcを課電する際は可動切片105dを接点105aに接続し、測定対象ケーブル20を接地する際は可動切片105dを接点105bに接続する。また、切替スイッチ105は、測定対象ケーブル20に交流電圧Vacを課電する際は可動切片105dを接点105cに接続する。
【0058】
測定部110は、第2の課電としての交流電圧の課電電圧と、課電により放出される残留電荷量を同期させて並行して測定する。測定部110は、交流課電開始時の残留電荷を基準とし、交流電圧の昇圧による残留電荷の増加量を計測する。また、測定部110は、残留電荷の増加量が所定の値となった立上がり時間を計測する。さらに、測定部110は、立上がり時間における課電中の交流電圧値を計測する。
【0059】
劣化診断部120は、測定部110により計測された交流電圧値に基づいて、残留電荷の増加量が所定の値となった時の交流電界を、立上がり電界として算出し、算出した前記立上がり電界に基づいて、電力ケーブル20の最大絶縁劣化部の状態を診断する。特に、劣化診断部120は、電力ケーブル20内の単一の最大劣化部を診断する。なお、上記立上がり電界の算出は、測定部110において行う態様でもよい。
【0060】
課電制御部130は、第1の課電として切替スイッチ105、直流電源101を制御して、測定対象ケーブル20に課電する直流電圧の電圧値を自在に変更できる。また、課電制御部130は、第2の課電として切替スイッチ105、交流電源103を制御して、交流電源103から測定対象ケーブル20に交流電圧を課電する。
【0061】
次に、図7の絶縁劣化診断装置100における測定対象ケーブル20の測定動作について説明する。各測定パターンにおける測定対象ケーブル20への課電は、課電制御部130によって直流電源101、及び交流電源103を介して行われる。
【0062】
絶縁劣化診断装置100は、電力ケーブル20に第1の課電を行い、水トリー部(図示省略)に電荷を蓄積させた後、第2の課電として、交流電圧を電力ケーブル20に課電し、前記水トリー部に蓄積した電荷を検出する電力ケーブル20の絶縁劣化診断方法を実行する。
(1)測定対象ケーブル20の課電端部22に接続された絶縁劣化診断装置100において、第1の課電が直流電圧の場合、まず、切替スイッチ105の可動切片105dを接点105aに接続する。つまり、直流電源101を測定対象ケーブル20に接続して、測定対象ケーブル20の課電端部22に第1課電として直流電圧を印加する。
(2)次いで、切替スイッチ105の可動切片105dを接点105bに接続する。つまり、切替スイッチ105の接点を接地抵抗102に接続して、電力ケーブル20の導体と金属遮蔽層21を短絡し、電力ケーブル20の導体を接地する。
(3)次いで、切替スイッチ105の可動切片105dを接点105cに接続する。つまり、切替スイッチ105の接点を交流電源103に接続し、電力ケーブル20に第2課電として交流電圧を印加する。この時、電力ケーブル20に残留している電荷を、残留電荷検出器104を用いて検出する。この時に検出された電荷は、水トリー劣化部に残留した電荷となる。
(4)測定部110は、残留電荷検出器104により検出された電荷と、課電中の交流電圧を、電圧計を用いて同期させて並行して測定する。第2の課電としての交流電圧の課電電圧と、課電により放出される残留電荷量を並行して測定する<測定工程>に対応する。
(5)劣化診断部120は、検出した残留電荷の増加量が所定の値に到達したときの立上がり時間を測定し、該時間における印加中の交流電圧値から立上がり交流電界を算出し、該交流電界より劣化判断を行う。交流課電開始時の残留電荷を基準とし、交流電圧の昇圧による残留電荷の増加量を計測する<増加量計測工程>と、残留電荷の増加量が所定の値となった立上がり時間を計測する<立上時間計測工程>と、立上がり時間における課電中の交流電圧値を計測する<交流電圧値計測工程>と、交流電圧値に基づいて、残留電荷の増加量が所定の値となった時の交流電界を、立上がり電界として算出する<立上電界算出工程>と、算出した立上がり電界に基づいて、電力ケーブルの最大絶縁劣化部の状態を診断する<診断工程>と、に対応する。
【0063】
[第1の課電がインパルス電圧の場合]
図8は、本発明の実施の形態に係る絶縁劣化診断装置の他の構成を示す図であり、第1の課電がインパルス電圧の場合の測定回路のブロック図である。図7と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0064】
図8に示すように、絶縁劣化診断装置100Aは、図7の直流電源101に代えて、インパルス電圧発生装置101Aを備える。
【0065】
インパルス電圧発生装置101Aは、測定対象ケーブル20に、インパルス電圧を課電する。インパルス電圧発生装置101Aは、課電制御部130によって、測定対象ケーブル20に課電するインパルス電圧の周波数成分及びピーク電圧値は可変自在に制御される。
【0066】
インパルス電圧発生装置101Aは、インタラクタの直並列によって構成され、また、インパルス電圧発生装置101Aにおける周波数の切り替えは、複数設けたインタラクタを適宜切り替えることによって実現できる。なお、インパルス電圧発生装置101Aは、インタラクタに替えて、MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ回路で構成してもよい。
【0067】
インパルス電圧発生装置101Aは、切替スイッチ105を介して、測定対象ケーブル20の一端部(課電端部22という)に接続され、課電端部22側から測定対象ケーブル20にインパルス電圧を課電する。
【0068】
課電制御部130は、切替スイッチ105、第1の課電としてインパルス電圧発生装置101Aを制御して、インパルス電圧発生装置101Aから測定対象ケーブル20に所定の周波数成分、あるいは、ピーク電圧値のインパルス電圧を課電する。また、課電制御部130は、第2の課電として切替スイッチ105、交流電源103を制御して、交流電源103から測定対象ケーブル20に交流電圧を課電する。
【0069】
次に、図8の絶縁劣化診断装置100Aにおける測定対象ケーブル20の測定動作について説明する。各測定パターンにおける測定対象ケーブル20への課電は、課電制御部130によってインパルス電圧発生装置101A、及び交流電源103を介して行われる。
(1)測定対象ケーブル20の課電端部22に接続された絶縁劣化診断装置100において、第1の課電がインパルス電圧の場合、まず、切替スイッチ105の可動切片105dを接点105aに接続する。つまり、インパルス電圧を測定対象ケーブル20に接続して、測定対象ケーブル20の課電端部22に第1課電としてインパルス電圧を印加する。
(2)次いで、切替スイッチ105の可動切片105dを接点105bに接続する。つまり、切替スイッチ105の接点を接地抵抗102に接続して、電力ケーブル20の導体と金属遮蔽層21を短絡し、電力ケーブル20の導体を接地する。
(3)次いで、切替スイッチ105の可動切片105dを接点105cに接続する。つまり、切替スイッチ105の接点を交流電源103に接続し、電力ケーブル20に第2課電として交流電圧を印加する。この時、電力ケーブル20に残留している電荷を、残留電荷検出器104を用いて検出する。この時に検出された電荷は、水トリー劣化部に残留した電荷となる。
(4)測定部110は、残留電荷検出器104により検出された電荷と、課電中の交流電圧を、電圧計を用いて同期させて並行して測定する。
(5)劣化診断部120は、検出した残留電荷の増加量が所定の値に到達したときの立上がり時間を測定し、該時間における印加中の交流電圧値から立上がり交流電界を算出し、該交流電界より劣化判断を行う。
【0070】
[第1の課電が交流電圧の場合]
図9は、本発明の実施の形態に係る絶縁劣化診断装置の他の構成を示す図であり、第1の課電が交流電圧の場合の測定回路のブロック図である。図7と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0071】
図9に示すように、絶縁劣化診断装置100Bは、第1の課電が交流電圧であり、交流電源103が、第1の課電の交流電圧発生を兼用する。
【0072】
課電制御部130は、切替スイッチ105、交流電源103を制御して、交流電源103から、測定対象ケーブル20に第1課電の交流電圧、及び第2課電の交流電圧を課電する。
【0073】
次に、図9の絶縁劣化診断装置100Bにおける測定対象ケーブル20の測定動作について説明する。各測定パターンにおける測定対象ケーブル20への課電は、課電制御部130によって交流電源103を介して行われる。
(1)測定対象ケーブル20の課電端部22に接続された絶縁劣化診断装置100において、第1の課電が交流電圧の場合、まず、切替スイッチ105の可動切片105dを接点105cに接続する。つまり、交流電圧を測定対象ケーブル20に接続して、測定対象ケーブル20の課電端部22に第1課電として交流電圧を印加する。
(2)次いで、切替スイッチ105の可動切片105dと接点105cとを非接続にし、電力ケーブル20への第1課電を遮断する。
(3)次いで、切替スイッチ105の可動切片105dを接点105cに接続する。つまり、切替スイッチ105の接点を交流電源103に接続し、交流電源103から電力ケーブル20に第2課電として、遮断時の第1課電と逆極性の交流電圧を印加する。この時、電力ケーブル20に残留している電荷を、残留電荷検出器104を用いて検出する。この時に検出された電荷は、水トリー劣化部に残留した電荷となる。
(4)測定部110は、残留電荷検出器104により検出された電荷と、印加中の交流電圧を、電圧計を用いて同期させて並行して測定する。第2の課電としての交流電圧の課電電圧と、課電により放出される残留電荷量を並行して測定する<測定工程>に対応する。
(5)劣化診断部120は、検出した残留電荷の増加量が所定の値に到達したときの立上がり時間を測定し、該時間における印加中の交流電圧値から立上がり交流電界を算出し、該交流電界より劣化判断を行う。交流課電開始時の残留電荷を基準とし、交流電圧の昇圧による残留電荷の増加量を計測する<増加量計測工程>と、残留電荷の増加量が所定の値となった立上がり時間を計測する<立上時間計測工程>と、立上がり時間における課電中の交流電圧値を計測する<交流電圧値計測工程>と、交流電圧値に基づいて、残留電荷の増加量が所定の値となった時の交流電界を、立上がり電界として算出する<立上電界算出工程>と、算出した立上電界に基づいて、電力ケーブルの最大絶縁劣化部の状態を診断する<診断工程>と、に対応する。
(6)測定終了後、切替スイッチ105の可動切片105dを接点105bに接続して接地する。
【0074】
図10は、本実施の形態による残留電荷測定方法と従来(特許文献3)の残留電荷測定方法との測定パターンを比較して示す図である。図10は、第1の課電にてCVケーブルの水トリー部に電荷を蓄積させた後、第2の課電により残留電荷測定している。
【0075】
図10(a)に示すように、従来の方法では、各課電における電荷の変化分ΔQ1〜ΔQ3を劣化信号の算出に用いる関係上、交流課電時の残留電荷検出には約10分程度を要していた。
【0076】
これに対して、本実施の形態による残留電荷測定方法では、図10(b)に示すように、劣化程度の評価は、1回の課電における残留電荷応答の立上がり時間及び立上がり電界が得られればよく、3分から5分で測定は終了し、時間の短縮も可能となっている。
【0077】
ここで、接続部の異種絶縁体界面や絶縁破壊に結びつかないような微小な水トリー等の劣化による電荷は、交流課電に対する応答が遅く、劣化診断の立上がり時間領域には重ならないため、本実施の形態による残留電荷測定方法に影響することがない。
【0078】
本実施の形態による残留電荷測定方法は、既存の残留電荷測定データにも適用できる。つまり、既存のデータにおいても交流課電から残留電荷の立上がり時間における立上がり電界を評価することで、ケーブル中も最も大きな単一の絶縁劣化部を診断することができる。
【0079】
さらに、本実施の形態による残留電荷測定方法は、残留電荷の総電荷量Qと残留電荷の立上がり電界を組み合わせた判定も可能となる。
【0080】
図11は、残留電荷の立上がり電界と残留電荷の総電荷量Qを組み合わせた判定を説明する図である。
【0081】
例えば、立上がり電界が小さい場合は、局所的に重度の水トリー劣化部分が存在していることを示し、残留電荷の総電荷量Qが小さくても要注意となる。また、立上がり電界が大きく、局所的に重度の劣化部分が存在していなくても、残留電荷の総電荷量Qが大きい場合は電力ケーブル全長にわたって水トリー劣化部分が存在していることを示すため要注意となる。このように、残留電荷の総電荷量Qと残留電荷応答の立上がり電界を組み合わせた判定では、水トリー劣化が電力ケーブルの長手方向に均一に存在する場合も、局所的に存在する場合も、どちらのケースにおいてもより適切に劣化診断を行うことができる。
【0082】
以上詳細に説明したように、本実施の形態では、電力ケーブル20に第1の課電を行い、水トリー部に電荷を蓄積させた後、第2の課電として、交流電圧を電力ケーブル20に課電し、前記水トリー部に蓄積した電荷を検出する電力ケーブル20の絶縁劣化診断方法において、第2の課電としての交流電圧の課電電圧と、課電により放出される残留電荷量を並行して測定する測定工程と、交流課電開始時の残留電荷を基準とし、交流電圧の昇圧による残留電荷の増加量を計測する増加量計測工程と、残留電荷の増加量が所定の値となった立上がり時間を計測する立上時間計測工程と、立上がり時間における課電中の交流電圧値を計測する交流電圧値計測工程と、計測した交流電圧値に基づいて、残留電荷の増加量が所定の値となった時の交流電界を、立上がり電界として算出する立上がり電界算出工程と、算出した立上がり電界に基づいて、電力ケーブルの最大絶縁劣化部の状態を診断する診断工程と、を有する。
【0083】
本絶縁劣化診断方法によれば、交流電圧の課電のばらつき等による残留電荷の応答ばらつきの影響を受けず、かつ測定ケーブルの長さにも依存しないで、確実にケーブル内の単一の最大劣化部を診断することができる。従来例の残留電荷の応答時間と残留電荷量の関係からノイズ成分を除去したのみでは判断できなかったケーブル中の単一最大絶縁劣化部の状態を診断することができる。特に、電力ケーブルの長さに依存しないので、水トリーによる電力ケーブルの絶縁劣化が最も進行した箇所の状態を診断することができる。また、本絶縁劣化診断方法は、交流電界値による診断であるので、交流課電のばらつきによる残留電荷の応答時間の変化を考慮する必要がない。
【0084】
このように、交流課電に対する残留電荷の立上がり電界を診断することで、電力ケーブルの長さや交流課電のばらつきに依存せず、かつ単一の最も絶縁劣化が進行している水トリー劣化部の程度を診断することができる。なお、第1の課電は、直流電圧、インパルス電圧あるいは交流電圧のいずれでもよく、電力ケーブルの水トリー部に電荷を蓄積させる課電方法は特に問わない。
【0085】
また、本実施の形態では、実際は交流課電と残留電荷を並行して測定している。この場合、全て測定が終了した後の演算処理の段階で、交流が課電されている時間を算出し、電荷の挙動を計算している。なお、交流電圧の印加開始段階でトリガをかける等の操作をして測定することも可能である。
【0086】
本発明に係る絶縁劣化診断装置による絶縁劣化診断方法は、上記各実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。
【0087】
なお、上記各実施の形態では、第1の課電、接地、及び交流電圧の第2の課電の課電を課電端部22側から行っているが、測定対象ケーブル20の遠端部23から課電することも可能である。
【0088】
また、上記実施の形態では、電力ケーブルの絶縁劣化診断方法及び絶縁劣化診断装置という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、装置は水トリー劣化診断装置、方法はケーブルの劣化診断方法等であってもよい。
【0089】
さらに、上記絶縁劣化診断装置を構成する各部、例えば課電制御部等の種類、数及び接続方法などは前述した実施の形態に限られない。
【0090】
以上説明した電力ケーブルの絶縁劣化診断方法は、この絶縁劣化診断方法を機能させるためのプログラムでも実現される。このプログラムはコンピュータで読み取り可能な記録媒体に格納されている。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る電力ケーブルの絶縁劣化診断方法及び絶縁劣化診断装置は、水トリーによる電力ケーブルの絶縁劣化を診断することができる効果を有し、電力ケーブルの長さに依存しないで、水トリーによる電力ケーブルの絶縁劣化が最も進行した箇所の状態を診断する絶縁劣化診断方法として有用である。
【符号の説明】
【0092】
20 電力ケーブル
100,100A,100B 絶縁劣化診断装置
101 直流電源
101A インパルス電圧発生装置
102 接地抵抗
103 交流電源
104 残留電荷検出器
105 切替スイッチ
110 測定部
120 劣化診断部
130 課電制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ケーブルに第1の課電を行い、水トリー部に電荷を蓄積させた後、第2の課電として、交流電圧を電力ケーブルに課電し、前記水トリー部に蓄積した電荷を検出する電力ケーブルの絶縁劣化診断方法において、
前記第2の課電としての交流電圧の課電電圧と、この課電により放出される残留電荷量を並行して測定する測定工程と、
交流課電開始時の残留電荷を基準とし、交流電圧の昇圧による残留電荷の増加量を計測する増加量計測工程と、
前記残留電荷の増加量が所定の値となった立上がり時間を計測する立上時間計測工程と、
前記立上がり時間における課電中の交流電圧値を計測する交流電圧値計測工程と、
前記交流電圧値に基づいて、前記残留電荷の増加量が所定の値となった時の交流電界を、立上がり電界として算出する立上電界算出工程と、
算出した前記立上がり電界に基づいて、電力ケーブルの最大絶縁劣化部の状態を診断する診断工程と、
を有する電力ケーブルの絶縁劣化診断方法。
【請求項2】
前記第1の課電は、直流電圧、インパルス電圧、又は交流電圧のいずれかにより印加する請求項1記載の電力ケーブルの絶縁劣化診断方法。
【請求項3】
前記診断工程では、前記電力ケーブル内の単一の最大劣化部を診断する請求項1記載の電力ケーブルの絶縁劣化診断方法。
【請求項4】
絶縁劣化診断の対象である電力ケーブルに課電する第1の課電手段と、
前記電力ケーブルに交流電圧を課電する第2の課電手段と、
前記第2の課電としての交流電圧の課電電圧と、この課電により放出される残留電荷量を並行して測定する測定手段と、
交流課電開始時の残留電荷を基準とし、交流電圧の昇圧による残留電荷の増加量を計測する増加量計測手段と、
前記残留電荷の増加量が所定の値となった立上がり時間を計測する立上時間計測手段と、
前記立上がり時間における課電中の交流電圧値を計測する交流電圧値計測手段と、
前記交流電圧値に基づいて、前記残留電荷の増加量が所定の値となった時の交流電界を、立上がり電界として算出する立上電界算出手段と、
算出した前記立上がり電界に基づいて、電力ケーブルの最大絶縁劣化部の状態を診断する診断手段と、
を備える絶縁劣化診断装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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